仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

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どうも皆様、長らく更新が遅れてすみませんでした。
理由は今回は単純に、ゲームをやりこんでいたからです。

そう、『バトライド・ウォー創生』を‼
そして今作をある程度プレイしてみて分かったことがありました。

私、今まで仮面ライダードライブを馬鹿にしすぎてました。
この件は前に感想で忠告されていたんですけれども、
このゲームでドライブを操作してその言葉が染みました。
その影響ですぐさまドライブを見直してブレンの最期に号泣。
さらにチェイスの最期を乗り越えたマッハの言葉に大号泣。

長文失礼いたしました、これ以上書くとブレン思い出して涙が。


それでは、どうぞ!


Ep,18『THE SPEED ~最速を追う者~』

 

 

 

「…………………それが、俺とアゲハの出会いだ」

 

 

荒れ果ててしまった洋食店の椅子に腰かけ、天道が動かしていた口を閉ざし

今まで多くの人間がいながら活気づいてはいなかったこの場に、静寂が訪れる。

ある者は俯いて肩を震わせ、ある者は彼の話を一片の疑いも無く聞き入れ。

天道の話を聞いた誰もがそれぞれ異なる反応を見せたが、思いは全く同じだった。

先程まで髪が逆立ちそうになるほど怒り狂っていた加賀美は全身から力を抜かし、

全てを語り終えて黙っている天道に顔向けできないと言いたげに視線を逸らす。

またひよりは、同じネイティブでありながら世界に絶望して自ら命を絶とうとした

美しき女性の過去を知り、自分がこの世界にどれだけ生かされているのかを改めて痛感した。

 

 

「ねぇ、天道君」

 

「…………何だ、弓子さん」

 

そんな誰しもが口を閉ざす中、この店を切り盛りする女主人の弓子が静寂を裂いて

過去を語った天道に優しく語り掛ける。

 

 

「私、今でも何が起こってるのかよく分かってないんだけど

それでも私は、あの怪物からこの世界を守った天道君や加賀美君。

そして、その二人が守ったひよりちゃんも信じられるし、信じてる」

 

「弓子さん…………ありがとう」

 

「いいのよひよりちゃん。それに、ひよりちゃんはウチの稼ぎ頭なんだから!」

 

「………………そうだね、ボクはこの世界に必要なんだよね」

 

「そうよ!」

 

「…………天道、ボクなら大丈夫だ。

だから、お前はアゲハさんと優美恵ちゃんを助けろ」

 

「ひより……………」

 

「加賀美もだぞ。お前が落ち込んでるのを見るとウザくて仕方ない」

 

「な、何だよそれ…………もっと言い方ってあるだろ」

 

「これくらいが、お前にはちょうどいい」

 

肩を落としてうなだれていた加賀美を多少荒くもひよりが励まし、

彼女の言葉を聞いたその場の誰もが、気を強く引き締めた。

それに応じて静観を貫いていた士らが話し合いに混ざって口を出す。

 

 

「さて、とにかく俺らは詳しい現状が知りたい。

それについては話してくれるんだよな、この世界のカブトさんよ?」

 

「…………ああ、話してやる。

だがその前にディケイド、だったか。

お前のことについても詳しく話してもらうぞ」

 

「いいぜ、好きなだけこの俺様の魅力を語ってやるよ」

 

「士…………お前はまたそうやって「そうか、楽しみだ」…………え?」

 

「天道お前、今なんて?」

 

「加賀美、お前は風間を見てやれ。

ディケイド、話は奥のほうでするとしよう」

 

「そうだな。夏ミカン、ユウスケ、大人しく待ってろ」

 

 

士の言葉に突っかからずに頷いた天道は彼を店の厨房の奥へと連れ出し、

彼の態度の急変ぶりに驚いた一同を無視してそのまま話を切り出す。

 

 

「それで、まずはどこから話せばいい?」

 

「まずはディケイド。お前の持つ力のことから話せ」

 

「仕方ないな、そうだな………………」

 

 

私のお店なのに、と軽く憤慨する弓子を差し置いて厨房の奥の部屋で語り始めた

二人の男を除いたこの場の全員は、これからどうすればいいのかについてを

誰からというわけでもなく数秒後には話し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『止めて……………放して……………!』

 

「…………それは無理な相談だ」

 

『ならせめてその子は! 優美恵だけは返してあげて‼』

 

「…………ネイティブの言葉を聞く義理は無い」

 

 

士と天道が互いを認め合った頃、緑色のライダーことマディカは数分前に

突入作戦を決行した洋食店から数十km離れたビルの内部で深緑の異形を見下ろしていた。

二体いるうちの一体、身体の大きな方のネイティブがマディカに必死に訴えかけるが

彼の耳にも心にも、人ならざる者の言葉は届かない。

それでも諦めずにネイティブは自身の隣で動かない小さな同族を庇い立てる。

 

 

『お願いします…………この子だけは‼』

 

「…………何度も言わせるな、俺にお前らを救う理由も道理も無いと」

 

『私はどうなってもいい、でもこの子だけは助けてください!』

 

「…………分からんな。ネイティブの癖に何故そこまでする?」

 

人の気配が感じられない寂れたビルの一室に久しく静寂が訪れた。

誰もいなかったこの部屋に連れてきてからも彼女はマディカに対して説得や懇願することを

全く止めず、それどころか自身よりも動かない娘の事を心配している。

助けが来るどころか場所の特定すら難しいと思わせる無人の要塞と化した廃墟ビルに

連れ去られた天道の妻アゲハとその娘の優美恵が囚われていたのだった。

そんな身でありながらも自分以外を気にかける眼前の人外のことがマディカには理解出来ず

思わず質問を投げかけてしまった。

そして彼女は、彼の質問に真摯に受け答える。

 

 

『この子が、この子が私とあの人の娘だから!』

 

「…………くだらない、何が娘だ。所詮は幼児のコピー品だろう」

 

『違う! この子は擬態で産まれたんじゃない、本物の命なの‼』

 

「…………それ以上口を開くな。そろそろ時間になる」

 

 

マディカの発した言葉にネイティブが何をと尋ねるよりも早く、

彼らのいる部屋の扉が音を立てて開き、その向こう側から一人の男が顔をのぞかせる。

眼鏡をかけ、スーツを着こなし、知的な雰囲気を漂わせているその男は自身の命令通り

二体のネイティブが捕獲されていることを確認して、その鉄仮面の如き顔に笑みを浮かべた。

 

 

「上出来だ矢車、ご苦労だったな」

 

「…………ああ。三島、お前何体減らされた(・・・・・・・)?」

 

「三体ほどやられた。カブトと、未知のライダーディケイドに」

「…………未知のライダー?」

 

「ゼクターを用いずに変身する厄介な相手だ。分身や他の姿にも変身出来るようでな」

 

「…………俺がやるか?」

 

「後でいい。それよりも今はコイツらだ!」

 

 

扉の向こうから姿を現したのは、カブトとディケイドによって倒されたはずの三島。

彼は話の途中で変身を解いたマディカ__________矢車との会話を切り上げて歩き出し

弱々しい声で懇願し続けているネイティブの角を掴んで乱暴に振り回す。

当然痛みを感じたネイティブが逃れようともがくが、彼は構わず手を休めない。

 

 

「世話を焼かせてくれたなネイティブが!」

 

『この子は…………この子に手を出さないで』

 

「ハッ、ネイティブの分際で感傷にでも浸っているつもりか?

所詮貴様らの姿や記憶など人間から奪い取った模造品に過ぎないのだ。

何も憐れむことも落ち込むことも無い、全て忘れて俺の計画の駒になれ」

 

『一体、何をさせるの……………?』

 

「すぐに分かる。矢車、俺は装置の作動準備を進めておく。

コイツらの監視と邪魔者が出てきたらそいつらの排除を命じる、いいな?」

 

「…………ああ」

 

「ぬかるなよ矢車」

 

「…………お前こそ、約束を忘れるな」

 

三島はネイティブに対しての暴力に飽きたのか、矢車に対して上から目線で命令を

下し、自身は立ち上がってそのまま入ってきた扉を押し開けて部屋から出て行った。

彼の後ろ姿を見送った矢車は命じられたとおりに眼前にいる捕らえた二体のネイティブの

監視を始めるが、その必要性も感じられないほどに彼女らは弱りきっていた。

だからだろうか、彼はほんの少しだが気を緩めて彼女と言葉を交えた。

 

 

『約束、その為に私とこの子をどうする気なの?』

 

「…………俺は別にお前に恨みがあるわけじゃないが、お前が嫌いだ。

そして、お前と共にいるあの男、天道 総司もな」

 

『総司さんを知ってるんですか⁉』

 

「…………俺もその昔、ZECTの精鋭部隊のリーダーだったからな」

 

『総司さんの知り合いなら、何故あの男と手を組んで⁉』

 

「…………言ったはずだ。俺はアイツが憎い、そしてお前も」

 

『…………聞かせてもらえませんか。総司さんを、私を憎む理由を』

 

「…………いいだろう、どうせ時間まですることも無いしな」

 

 

矢車と言葉を交えたネイティブは心情が穏やかになったのか、それとも警戒を解いたから

なのか、人間の姿に、アゲハの姿に戻って大人しく彼の言葉に耳を傾ける。

彼女の行動を見ても動じることなく、矢車は昔を懐かしむように語りだした。

 

 

「…………俺はかつて渋谷で起こった『渋谷隕石』の事件によってそれまでの暮らしの

全てを失い、路頭に迷い、それでも何とかして生きようとひたすら上を見上げていた。

大学の頃の友人や高校時代の恩師を頼ったりしながら俺は事件から二年で再び自立する

まで自身を復興することが出来た」

 

「…………並ならぬ努力をしたんですね」

 

「…………ああ。だが、それでも現実は悲惨なものだった。

ちょうどその頃に出会った女性と俺は付き合い始めて、婚約までした。

だが婚約指輪を買いに行ったその日の夜に、その人はワームに擬態されて殺された」

 

「……………………」

 

「…………当時は目の前で起こったことが現実だと信じられなかった。

だが彼女の死が本当の出来事だと知り、俺は見知らぬ怪物に復讐を誓ったんだ。

そしてその怪物と人知れず戦う秘密組織の存在を知り、入隊を強く希望し、合格した」

 

「それがあなたの、原点ですか」

 

「…………月日が流れて俺はワームとの戦い方を学び、そして力を手に入れた。

組織が開発した対ワーム用兵器の二号機である『ザビーゼクター』の資格者として俺は

選ばれ、精鋭部隊シャドウの指揮官として任命されたことでより力の大きさが実感出来た」

 

「マスクドライダーザビー。個を束ねる統率者、ですか」

 

「…………そうだ。当時の俺は『完全調和(パーフェクトハーモニー)』を信条として掲げ、何よりも集団での規律ある

戦闘と行動を心掛けてワームとの日々激化する戦闘を隊の仲間と乗り越えていった。

だが唐突に現れたあの男、天道によって俺の光輝く道は閉ざされた」

 

「総司さんがあなたの道を閉ざした?」

 

「…………天道は組織に加わらずにゼクターを所持し、単独でワームと戦っていた。

当時の俺は組織からの命令と個人的なスタンドプレーへの嫌悪でアイツと何度も戦い、

その度に俺の中にあった大切な信条が汚され、冒され、打ちのめされていった」

 

「まさか、それでザビーゼクターに見限られて…………」

 

「…………その後、ザビーの力は俺の目の前で新入りの加賀美に移った。

だがそれだけなら俺も納得出来たのに、今度は俺が隊にいた頃から目をかけていた

部下の一人に資格者としての権利が譲渡されていた」

 

「それが、『影山』さんですか」

 

「知っているのか、アイツを⁉」

 

「総司さんから大体のことは聞かされています。

あなた方は『自ら光の照らす道を外れて日陰に居場所を探す迷い人だ』と」

 

「…………分かったようなことを」

 

 

アゲハが語った天道の言葉を聞いて矢車が一度口を閉ざし、話を切ってしまう。

当初は無口に思えた彼が意外にもよく話をしてくれることにアゲハは少し戸惑ったが、

それでもまだ彼女には矢車から聞きたいことがあったので、再び話を促した。

 

 

「それで、総司さんはまだしも何故私まで恨むのかについては、何故です?」

 

「…………今お前が言った影山だが、アイツは心に闇を抱えていてな。

俺と同じかそれ以上に黒く冷たく底が深い、ハマったら抜け出せない沼のような。

そんな闇を感じた俺は、アイツが落ちるところまで落ちてから手を差し伸べた」

 

「……………………」

 

「…………アイツは調子が良くてな、それまで散々全てを失った俺をバカにしていた

癖に自分が同じように捨てられてからは、俺に取り入ろうと必死になってな。

俺の世を捨てた言葉にも賛同して、『兄貴とならどこまでも』とまで言ってくれた」

 

「それでもあなたは彼を、憎めなかった」

 

「…………同じ闇の底へと叩き落された者同士だ、手を取り合って何が悪い。

なんて、あの時の俺はそう考えて天道や加賀美達に影山と一緒に突っかかった。

俺と影山を地獄に落としたこの男には、復讐する権利が俺達にはあるってな」

 

「……………逆恨みじゃないですか」

 

「…………否定はしない。だがそれでも良かったんだ、あの時はな。

俺達は日陰の道を歩くしかなくなったのに、どうして奴らは光の照らす道を

自由に、当たり前のように歩いているんだ。俺達のことなど知りもしないだろうに。

そう言っては俺達二人で一緒に目的も無くただ何かと戦っていた」

 

「それで今、影山さんは?」

 

「…………相棒は、弟は、死んだ」

 

 

そう一言呟いた矢車は再び口を閉ざして目を閉じる。

彼のまぶたの裏にある暗闇には、今もなお刻み付けられた地獄が映っている。

自らが闇の道に引きずり込んだ相棒を、自らの蹴りで命を奪うという光景が。

目の前の闇に映る光景をかき消すように目を見開き、懐にしまいこんでいる一枚の

古ぼけた写真の切り抜きを手に取って、アゲハにも見えるように眺める。

 

自身が名乗っている、『白夜』をあらわすかつての相棒との約束を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽が大地を燦然と照らす昼間ですら肌を刺すように寒い季節のその中で、

タンカーが積み荷を運ぶための運河沿いの防波堤に男が一人立っていた。

真冬の夜だというのに、男は寒さも常識も関係ないと主張するかの如く奇抜な

服装の上に黒い革のコートを一枚羽織っただけの状態で運河の寒風に耐えていた。

目の前のフェンス越しに夜でも眩しく光る運河の対岸を忌々しげな視線で見つめる男は

ふと背後から誰かが近づいてくる気配と足音を感じた。

そしてその感覚は間違いではなく、男の背後からもう一人の男がやってきた。

 

「遅かったなぁ、兄弟」

 

 

運河を渡るタンカーの野太い汽笛の直後に立っていた男が小さく呟くが、

呼ばれた男はその呼び声に答えず、そのまま足をもつれさせてフェンスにぶつかった。

勢い余ったにしては随分弱々しいぶつかり方だと男は訝しんだのだが、

やってきた男の様子がいつもよりもおかしいことに気付いて黙っていることにした。

 

その判断が、二人の運命を別った。

 

 

「俺は……………兄貴も知らない暗闇を知ってしまった」

 

 

弱り切って息も荒くなっている男は、フェンスを掴みながらさらに苦しみだす。

そして彼の姿は徐々に揺らぎ始め、ほんの一瞬だが人とかけ離れた深緑の怪物となって

再び立っている男と同じような奇抜な世捨て人ファッションの男に戻った。

 

今もなお苦しみもがいている男が、『影山 瞬』

 

いまだに対岸の明かりを睨んでいる男__________矢車のかつての部下であり、

彼がザビーの資格を剥奪されてから紆余曲折を経てゼクターに選ばれた経歴を持ち、

自らを信じてくれた矢車を道具として利用した挙句、ZECTにもワームにも人間にも

見限られて今の矢車と同じ無限の暗闇地獄に落とされた、日陰の住人である。

 

影山は一度裏切った自分を救い上げてくれた矢車を"兄貴"と呼び慕い、

以後の行動を共にしてきたのだったが、自分が所属していた組織が開発して世間に

無料で交付し始めた『ワーム探知機能付きネックレス』を矢車の分も貰って行こうと

欲を出して幾つも入手し、その全てを自分の身に着けてしまっていた。

 

だがこのネックレスには人間社会の裏に潜むネイティブの狡猾な罠が仕組まれていて

身に着けた者を徐々に人間からネイティブへと変貌させてしまう効果があった。

それを知らずに大量に身に着けた影山はものの数日で肉体が急変し、

今まで自分が散々打ち倒してきた深緑の怪物へと成り果てかけていた。

 

 

「連れて行ってほしかった……………けどさ」

 

 

呼吸すらも辛そうに息を荒げる影山が言葉を無理矢理口から放り出すけれど、

傍らで自らの肉体の変貌を目の当たりにした兄と慕う矢車は何も語らない。

自分を闇に引き込んだ彼ですら、知りえない闇の奥底に自分は落ちてしまった。

もう二度と、この暗闇から這い上がることは出来ない。

無言の彼の姿を横目で見た影山は最後の力を振り絞ってフェンスから離れて言葉を紡ぐ。

 

 

「俺はもう、一生この暗闇から出れないよ……………」

 

 

フェンスを支えにしがみついていた影山は力の抜けていく身体を気力でなんとか

持ちこたえさせ、何度も転んで倒れそうになりながらも矢車から遠ざかる。

距離にして十数m離れた地点まで離れた影山は残された意地で兄から貰った大切な宝物である

『ホッパーゼクター』を自分の元へと呼び出して、腰のバックルに装填して変身した。

今にも変身が強制的に解除されそうなほどふらつく身体で、目の前の暗闇を見据える。

 

自分の背後にいる兄は今、夜であっても対岸で光輝く大地を眺めている。

そんな彼を自分の見てしまった闇には引き込んでしまいたくは無い。

せめて誰も見向きもしなかった自分を見てくれた彼だけは、光の道を見せてやりたい。

これがかつて彼を裏切った報いだというのなら、怖くても寂しくても受け入れよう。

ほんのわずかな一時(ひととき)の間でも、自分を"義弟(あいぼう)"と呼んでくれた"義兄(あいぼう)"の為に。

最期くらい、こんな暗い夜空でも、上を向いて逝きたいと願ってもいいよね。

月の無い真っ暗な夜空を、影山はたった独り見上げて立ち尽くす。

 

 

「……………………………」

 

 

そんな影山の背後で、矢車はただ真っ直ぐに目の前の運河と、対岸の光を見つめていた。

 

本当は連れて行ってやりたかった。彼と共に『約束の場所』へ行きたかった。

でもそれを本人が望んでいない。今の現実を受け止めるのに必死だから。

 

だったらもう、最期くらい"相棒(おとうと)"のわがままくらい聞いてやるのが"相棒(あにき)"の務めだ。

これが今まで散々自分のエゴに付き合わせた報いならば、辛くても悲しくても受け入れよう。

最期くらい、こんな暗い夜空でも、上を向いて逝かせてやってもいいだろう。

 

光溢れる運河に背を向け、矢車は唇を噛み締めながら肩を震わせて変身する。

 

 

「……………………………」

 

 

お互いが変身を完了し、影山は背を向け、矢車はその背を見つめる。

服装もライダーの姿も瓜二つな彼らが、今初めて別々の方向を向いて立った。

距離を置いて立ち尽くす二人の間に、もはや余計な言葉など必要無い。

ただ一言、たった一言許されるのなら、矢車は影山に伝えたかった。

 

 

_______________済まない、と。

 

 

矢車が噛み締めて閉ざした口を開いてその言葉を伝えようとした矢先、

先に覚悟を決めていた影山が背を向けたまま自分を見つめる矢車に告げる。

今にも泣きだしそうになるのを堪え、命乞いしそうになるのを抑え、

それまで生きてきた中で彼は初めて、他人を思いやって人としての別れを告げた。

 

 

「_________さよならだ、兄貴」

 

 

影山の言葉を聞いてから、矢車はもう迷わなかった。

腰に装填したゼクターのレバーを右側に倒し、即座に左に押し戻す。

 

 

「_________相棒ぉぉお‼‼」

 

その動作でタキオン粒子がチャージされた左足を飛び蹴りのように突き出して、

空気を裂く雷鳴の如く火花を散らす【ライダーキック】が直撃した。

 

 

矢車の一撃によって完全にネイティブとなる前に死ぬことが出来た影山は

ダメージの負荷により変身が解除され、そのままホッパーゼクターは姿を消した。

どこかへ跳び去っていく影山のゼクターを見送ろうともせずに矢車は死んだ彼の身体を

優しく抱き上げ、元から目を付けていた貨物船に密航目的で乗り込んだ。

 

寒空と波風で温度を奪われた無機質の貨物がうず高く積まれた貨物船の上で、

周りの貨物と同じく冷たく動かなくなった影山を片手で抱き寄せた矢車は、

自らが吐く息が白く温かいことを確認し、微笑みながら独り呟く。

 

 

「相棒……………俺達は永遠に一緒だ」

 

 

時折船体を揺らす波と風の音以外に何も聞こえなくなった夜空の下、

矢車は隣に座らせた影山を優しい目で見つめ、やがて視線を空へ移した。

積まれた貨物に遮られ、点々としか見えない星空を見上げて矢車は笑い、

左手で冷たくなった影山の頭に手を置いて彼と同じように目をつぶって言った。

 

 

「行こう、俺達だけの居場所(ひかり)を掴みに………………」

 

 

真冬の寒さと張り詰めた緊張の糸が解れた影響か、矢車はそのまま意識を手放した。

その最期の瞬間まで、彼は隣にいる相棒と深く強く結ばれた繋がりを感じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗がりの中、廃墟と化した古いビルの展望フロアで三島が笑う。

彼の目の前には巨大なテレビとパラボラアンテナが合体したような不可思議な装置と

それに繋がれた三体の角の生えたワーム__________ネイティブがいる。

ネイティブの身体に付けられた管が装置に繋がっていて、見た限りでは明らかに

実験台か道具の一部としか彼らを見ることが出来ない有り様になっていた。

それでもなお三島は眼前の装置を見ながら笑っている。

そして彼の背後には、全く同じ姿の三島が四人立っている。

事情を知らぬ人が見れば卒倒しそうな光景の中で、中心にいる三島が語る。

 

 

「もうすぐだ、もうすぐ完成する‼」

 

 

まるで指揮をするかの如く両手を高く掲げた三島を残りの四人が見つめるが、

そんな事を気にすることも無く三島は狂ったかのように手を振って高笑いを上げる。

「あと二体、あと二体だ。それで俺の計画は完成する‼」

 

 

誰に言って聞かせるわけでもなく三島は声を荒げて語るが、

この場にいるのは四人の自分と物言わぬ部品となったネイティブと装置のみ。

それすら構わず三島は息を荒げ手の指揮を止め、眼鏡の奥の瞳に野望の炎を灯す。

 

 

「今日ここに、完成する!

ネイティブの卓越した頭脳と演算能力をパーツとしてライダーのタキオン粒子を

原動力に発動する、【クロックアウト・システム】がついに完成するのだ‼」

 

 

計五人の三島はそろってその姿を人間のものからかけ離れた異形へと変える。

それら全てが全く同じで些細な違いすら見受けられない、完全なる同一個体。

群体、故にこそ彼らは単一であり同一であり唯一である。

大勢であるが故に、彼らの意思は確固として統一された『個』の意識。

 

全員が全く同じローカストワームへ成り変わり、装置を見つめる。

 

「さぁ行くぞ、この装置を使って、四年前の過去へ‼」

 

 

 

 

 








いかがだったでしょうか?

キックホッパーとパンチホッパーは思い入れが強かったので
今回の描写は絶対に入れたかったんです。
上手く書けているといいんですが、どうでしょう?

小説版のカブトでも、地獄兄弟のその後は描かれてはいないんです。
それがやっぱり不満でもあり、寂しくもあったんですが、
自分の作品でそれを二次創作と言えども世に出すとなるとなかなか
勇気やら何やらが必要になってきますね、頑張ります!


そろそろこのカブトの世界も終わりが近づいてきました。
次なる世界を、新たな旅路の果てを、信じて掴め。


それでは次回、Ep,19『EVERYONE`s SUN ~天の道~』

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