仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

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最近何かと忙しくなってきました。
そのせいか、投稿する頻度と日にちがまばらになってきてしまいました。
何とか軌道を修正せねば…………………出来るかな。

そして今回は、天道が妻であるアゲハと出会った経緯から娘である
優美恵の誕生までを書かせていただきます。
この原案は友人との合作なんですが、まぁ二人して泣きました。
私達二人ともカブト大好きだったので、ハイ。

それと皆さん、「レスキューファイヤー」という特撮ヒーロー
知っていますか?
私が子供の頃にアナログ放映していたヒーロー物だったんですが、
この間ゲオでDVDを偶然見つけて思わず衝動買いしてしまったんです。


といった個人的な事情はさておいて。
それでは、どうぞ!


Ep,17『LOAD OF ~先を往く者~』

 

どこにでもありそうな、陽だまりがよく似合う洋食店のすぐ目の前。

そこで繰り広げられているのは、見る者を圧倒させる『激戦』だった。

 

全体的に赤い色の目立つ装甲をまとった仮面の戦士カブトと、

緑色と黒色を混ぜ合わせたような不気味な色合いのワームの二人が、

己の身体一つのみを武器にして、勢いを殺すことなく争っていた。

 

カブトが右拳を突き出せば三島___________ローカストワームが即座に反応して

左手で薙ぎ払い、逆に体の軸回転を利用したカウンターキックを浴びせる。

だがカブトはキックが直撃する瞬間にわずかに体を逸らしてダメージを軽減し、

体勢が不安定になったローカストワームに意趣返しのように拳の連打を叩き込む。

 

 

『ぐうぅ‼』

 

「どうした、蘇ってもその程度なのか?」

 

『減らず口を………………まぁいい、時間稼ぎはこれくらいで十分だろう』

 

「時間稼ぎ、だと?」

 

『そうだ、今の私ならお前程度相手に手こずるわけが無い。

だが、本来の任務の邪魔をされてはかなわないからなぁ』

 

「……………そうか、狙いはやはりアゲハと優美恵か」

 

『正解だカブト。だが残念、どうやら時間切れのようだな』

 

 

構えを解いて自分の計画を隠す素振りも無く話し始めたローカストワームの言葉に

彼らの本当の目的を悟ったカブトだったが、敵の言うとおりにまさしく手遅れだった。

唐突にカブトの背後にある『Bistro la Salle』から、轟音と断末魔が聞こえてきた。

それらに振り返ったカブトが見たのは、脱力しきった二体のネイティブを引きずりながら

店内から出てきた緑色のライダー【マスクドライダー マディカ】の姿だった。

マディカはカブトを視認すると見せつけるようにして脱力したネイティブの腕を掴む。

そのまま戦闘中のカブトとローカストワームに構うことなく歩き去ろうとする。

 

 

「それは………………待て、矢車‼」

 

「…………三島、足止めは任せた」

 

『私に命令するな。言われなくとも足どころか息の根を止めてやる』

 

「…………ああ、分かった」

 

 

ネイティブを見て態度が豹変したカブトを尻目にマディカはそのまま歩き出す。

引きずられゆくネイティブに手を伸ばしたカブトは直後に大きく吹き飛んだ。

アスファルトの大地を三回転ほどした後でようやく止まった彼は、なぜ自分が急に

吹き飛んだのかという疑問の答えを目の当たりにした。

 

『お前の相手は、この私だァ‼』

 

「………お前の相手をしてる暇は無い、邪魔をするな‼」

 

 

自分が先程までいた位置に、膝を折り曲げて屈伸したローカストワームがいた。

おそらく背後から飛び蹴りを不意打ちのように食らって吹き飛ばされたのだろうとカブトは

即座に予想を立てるが、そんな時間すら惜しむように立ち上がって駆け出す。

疾走してくるカブトを迎え撃つようにして、ローカストワームもまた同じように駆け出した。

カブトは走りながらバックルの上部分にある三つのフルスロットルを全て押し込んでオンにして、

ゼクターの角状のレバーを一度マスクドフォーム時と同じ位置に押し戻して一呼吸置いた。

 

【ONE, TWO, THREE】

 

 

低い電子音声がフルスロットルをカウントし、エネルギーの供給開始を告げる。

腰のカブトゼクターから青白い稲妻のような力の奔流が迸り、上半身の装甲の隙間を

縫うようにして頭部の天を貫くカブトホーンへと到達した。

そして頭頂部で折り返したエネルギーはそのまま体を駆け下り、雷光となって右足に充填された。

それら全てを数歩の内に行ったカブトはローカストワームめがけ跳躍しながら叫んだ。

 

 

「ライダーキック‼」

 

【RIDER KICK!】

 

 

跳躍し終えると同時に戻したレバーを再び真逆に押し戻して全タキオン粒子を解放した。

ゼクター内で超圧縮されていた粒子が爆発的に噴出され、キックの威力と速度が文字通りに

神をも超える速度、即ち神速の飛び蹴りで眼前のローカストワームへと突き刺さった。

 

 

「はぁッ‼」

『ガアァァアァァアアッ‼‼』

 

 

カブトのライダーキックがローカストワームに炸裂し、辺りに漂う粒子が衝撃で爆裂した。

日差しが差し込む通路の真ん中で一際異彩を放つ緑色の炎が怨嗟と断末魔と共に燃え上がる。

粉微塵も残らないほどに爆散した敵を見据える余裕も無く振り返ったカブトは辺りを見回す。

だが既にマディカの姿はどこにもなく、二体のネイティブもまた連れ去られていた。

その事実に歯噛みしながらもカブトはマディカが去っていった方向へと歩を進めようとした。

しかしカブトが一歩目を踏み出した直後から、次の一歩が踏み出されることは無かった。

 

 

『……………どうした、もう終わりか?』

 

「馬鹿な…………何故だ、お前は今…………」

 

カブトの見つめる先には、先程倒したはずのローカストワームが無傷のままで立っていた。

自らが仕留めたはずの敵が再び姿を現した事に驚愕を隠せないカブトだったが、

居場所が分からない二体のネイティブの事を最優先に考え、その場を去ろうとした。

 

「…………何でもいい。もうお前には付き合えん、クロックアップ!」

 

『二度も貴様に先手は取らせん‼ 喰らえカブトォォッ‼』

 

しかし、またしてもそこにローカストワームの邪魔が入る。

腰のクロックアップ起動装置となるボタンをカブトが押し込む直前に、

ローカストワームは自身の右足に紫色の毒々しい色合いの粒子をまとわりつかせて

空中に飛び上がり、先程のカブトと同じような姿勢になって飛び蹴りを繰り出した。

 

それはまさしく、【ライダーキック返し】

かつてカブトが戦ったワームの中に、その特殊能力(コピー&ペースト)を持ったワームがいた。

隕石に紛れて地球に侵攻してきたワーム達の統率者とも言える存在として、

幾度もカブトやガタック、その他のマスクドライダー達と死闘を繰り広げた。

そのワームの名は、カッシスワーム。

 

カッシスワームはワームの中でも規格外の再生能力と適応能力を誇り、

過去に二度、ライダーの手によって倒されても蘇り自身の肉体をより戦闘に特化させ

複数のライダーによる同時攻撃でしか打倒することが出来なくなるほどにまで成長した。

しかしそれは四年前の話で、今目の前にいるローカストワームはその事実を知らない。

仮に知っていたとしても、固有の能力である彼らの能力を得ることは不可能のはず。

天才的な頭脳でローカストワームの蹴りが直撃するまでの数瞬でそこまで分析を終えた

カブトだったが、あまりに不可解な要素が多かった為か、避けきれずダメージを受ける。

 

 

「がはぁっ‼」

 

『フッ…………哀れだなぁ、総てを司るが聞いて呆れるぞカブトォ!』

 

 

大きく吹き飛ばされたカブトを見て、着地したローカストワームが嘲笑う。

自身の放った必殺の蹴りが自分に向けられるとは思っていなかったカブトは想像以上の

激痛とダメージでもだえ苦しみながら余裕の態度を見せるローカストワームを睨む。

だが、丁度大きく吹き飛ばされたおかげで周囲の状況をよく把握出来る位置に来た。

そしてカブトは見た。ローカストワームの背後に迫るマゼンタカラーの仮面の戦士の姿を。

 

「はぁッ‼」

 

『ぐおッ⁉』

 

マゼンタカラーのライダーが背後からローカストワームに飛び掛かる。

背後からの突然の奇襲に驚いたローカストワームはもつれ合ってアスファルトに転がった。

そのまま起き上がろうとした彼を、マゼンタカラーのライダーの蹴りが追撃した。

起き上がりざまに腹部にかまされた蹴りで体勢を崩し、更なる追撃を許してしまう。

右拳で殴られ、左手で肩を強打され、懐に潜りこまれて腹部を右フックに集中砲火される。

アッパーカットで怯まされて、止めに突き出された鳩尾へのキックで大きく飛ばされた。

攻撃を終えたマゼンタの戦士は両手に付いた埃を払うように数回パンパンと打ち鳴らす。

余裕綽々(しゃくしゃく)といった態度の乱入者をアスファルトに(あご)を擦らせながら睨みつける。

しかし当の本人はその視線に気付くことなく倒れたカブトを助け起こしていた。

 

 

「よぉコッチの世界のカブト(・・・・・・・・・・)、随分待たせたみたいだな」

 

「…………その声、岬に連れていかれた内のやけに態度のデカい男だな?」

 

「助けてやったのに辛辣な奴だな、向こうの世界のお前は礼くらい言えたぞ?」

 

「…………………お前は、何者だ?」

 

「オイオイ、いきなりそれ言わせるのかよ」

 

 

眼前におぞましい異形がいるにも関わらず日常的な会話をし始める二人。

だが突然現れた挙句に背後から不意打ちされて放置されたローカストワームは堪らない。

苛立ちを隠そうともせずに声を荒げてカブトと並び立つ謎の戦士を問い詰める。

 

 

『貴様、いきなり何のつもりだ⁉』

 

「とりあえずワームとライダーが戦ってたからライダーに加勢した、じゃダメか?

それがダメなら……………そうだな、全ての世界を破壊するつもり、ってのはどうだ?」

 

『貴様、誰だか知らんが私を怒らせるのは感心出来んなぁ‼』

 

「俺を知らない、か。いいぜ、だったら俺が何者なのか教えてやる」

 

 

ローカストワームの激昂すらも受け流す謎のライダーは偉ぶって語り出す。

自身の名前、世界の破壊者と呼ばれる誰からも疎まれる存在の証明を告げる。

 

 

「通りすがりの仮面ライダー、ディケイドだ。覚えておけ‼」

 

『仮面ライダーディケイドだと?』

 

「ディケイド………………か」

 

「ああ、覚えとけよ。まぁでもすぐに変わるけどな」

 

腰にマウントしていたライドブッカーを開いて一枚カードを抜き取って、

手のひらで包み込むようにしてそれを持ち、自身の仮面のそばまで持ってきて反転させる。

そのカードの裏に刻まれていた紋章は、超古代の文明で使用された『戦士』の記号。

ディケイドはそれを機構を動かしたバックルに装填して、再度機構をミッションさせた。

途端に装填したカードがバックルの中心で輝く宝玉に読み取られ、自身の身体に反映する。

読み込まれた力がディケイドの身体を包み込む瞬間、バックルから電子音声が発せられた。

 

【KAMEN RIDE KUUGA】

 

 

読み込まれたカードは【カメンライド クウガ】のカード。

ディケイドが旅した九つの世界の一つで出会った超古代の戦士の力を発動するカードを

使用し、マゼンタだったディケイドの姿は瞬く間に赤く輝く金色の二本角の戦士となった。

唐突に姿をガラリと変えたディケイドに驚愕するローカストワームとカブトだったが、

一早く冷静さを取り戻したローカストワームが再び紫色の粒子を右足に溜め始める。

 

 

『そうか、貴様か! 貴様がサソードヤイバー回収の邪魔をしたライダーか‼』

 

「あン? ああ、あのお屋敷で戦ったのはお前の仲間か。情報が早いんだな」

 

『未知の力を使うらしいが……………この私の前では全て無意味と化す‼』

 

「面白い。このディケイドの力もコピー出来るんならやってみろ」

 

自分の能力を知りながらも毅然とした態度で言い放つディケイドに苛立ち、

カブトに見舞った時と同じように駆け出して空中へ飛び上がり、飛び蹴りを繰り出す。

しかし、この技を繰り出す前にローカストワームは気付くべきだった。

ディケイドが何故、カブトですら知らない(・・・・・・・・・・)自分の能力を知っていたのか。

空中で火花のように弾けるタキオン粒子をまとった蹴りが放たれる中、

ディケイドはライドブッカーから新たに金色のカードを取り出してカブトに小声で話しかけた。

 

 

「アイツは複数の同時攻撃、しかも同程度の威力の技を上手く合わせて当てなきゃ倒せない」

 

「……………俺は天道 総司、世界の中心である俺が知らないことは無い」

 

「随分大きく出たな。だったら世界の中心さんよ、上手く俺に合わせろよ?」

 

「ふっ、今お前も言ったろ、俺が世界の中心だと」

 

「それがどうした?」

 

「俺が世界の中心。なら、その世界の一部であるお前が中心(おれ)に合わせろ」

 

「……………これだから自意識過剰な奴は嫌いなんだ」

 

「自信過剰な奴よりマシだろう」

 

「言ってろ………………チャンスは一瞬、タイミングを逃すな」

 

「分かっている、行くぞ」

 

 

皮肉を言い合いながらも共闘の意思を交わした二人は迫り来る攻撃に備える。

空気に悲鳴を上げさせながら突貫してくるローカストワームの飛び蹴りを見据え、

タイミングを計った二人は同時に異なる段階を踏んで必殺の一撃を発動させる。

 

クウガとなったディケイドは手の中の金色のカードをバックルに装填し、

カブトはバックルのフルスロットルを再び三つとも全てオンにしてレバーを戻す。

それぞれの機構を動かして二人同時に右足へ力を流し込む。

 

『死ねぇぇ‼』

 

 

怒号ともとれる雄叫びと共に放たれたローカストワームの攻撃を前に、

二人の紅色のライダーは全く同時に必殺の一撃への工程を済ませていた。

 

【FINAL ATTACK RIDE】

 

【ONE,TWO,THREE】

 

「「ライダーキック‼」」

 

【KU KU KU KUUGA!】

【RIDER KICK!】

 

 

二つの電子音声が二重奏(デュエット)を奏でた瞬間、二人はその場で跳躍。

同じタイミングで右足での蹴りを突き出してローカストワームを迎え撃った。

バチバチと空中で火花を散らし合う二人と一体だったが、すぐに均衡は破られる。

ライダー二人分のエネルギーを受け止めきれなかったローカストワームが徐々に

押され始め、とうとう耐え切れずに空中で粒子が膨張して内側から爆裂した。

 

『そんな____________馬鹿なぁぁああぁぁあぁ‼⁉』

 

 

壮絶な断末魔を上げながら空中で塵となったローカストワームはそのまま

爆風と炎熱によって残った塵すらもこの世に一片たりとも残らずに消えていった。

着地した二人のライダーが同時に立ち上がり、互いを正面から見つめる。

そしてそのまま同時に変身を解除して互いの素顔を晒し合って呟く。

 

 

「やはりさっき店にいた奴か」

 

「ああ、そういうお前こそ」

 

「……………礼を言う」

 

「分かればいい。それより、何ださっきのワームは」

 

「……………奴を知っているんじゃないのか?」

 

「俺は能力を知ってるだけで、奴自体に関しては何も知らん」

 

「そうか………………」

 

「どうかしたのか?」

 

 

仮面を拭い去った二人が言葉を交わし、天道は表情に陰りを生み出す。

少し下を見て俯いた天道の様子の変化に戸惑いながら士は周囲を見回した。

やがて背後から自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた気がして振り返る。

そちらを見てみると、愛用のバイク『ビートチェイサー』を駆った顔見知りが

こちらに向かってやって来ていた。

 

 

「おーーい! 士ぁーー‼」

 

「士くーーん!」

 

「ユウスケと夏ミカンか」

 

 

先程士がライドしたクウガに変身するユウスケと夏海の二人が、

自分が飛び出したあの屋敷から自分を探してきてくれたのか。

そう思い返しながら二人に対して士は軽く手を振った。

二人もそれに気付いて士の前まで来てバイクを降りる。

再会を喜び合おうとした三人だったが、背後から聞こえてきた怒号によって中断された。

 

 

「どういう事だ天道‼」

 

「加賀美……………」

 

 

傷だらけになった加賀美がボロボロの体を引きずるようにしながらも

天道の胸ぐらを掴んで激しく揺さぶりながら問い詰めていた。

状況が理解出来ていない若干二名を置き去りに、事態はどんどん進行する。

荒々しく詰め寄る加賀美の言動の総てを無抵抗で受け入れていた天道だったが、

次に発せられた加賀美の一言が引き金になった。

 

 

「なんで、どうしてアゲハさんと優美恵ちゃんがネイティブになるんだよ‼」

 

「えっ⁉」

 

「ネイティブ……………あの人の奥さんと娘さんでしたよね、士君!」

 

「夏ミカン、ユウスケも少し黙ってろ」

 

「天道‼ お前が秘密主義者だってのは知ってた、知ってたつもりだった‼

でも今回だけは絶対に話してもらうぞ‼ オイ、黙ってないで何とか言えよ‼」

 

「………………………………」

 

 

加賀美が必死に訴えかけているのに天道は答えようとしない。

頑なに拒み続ける天道に対して、決して譲らぬと加賀美も言及を止めない。

路上での二人の雰囲気が険悪になりかけたその時、店から一人の少女が出てきた。

 

 

「ひより………………」

「………天道、僕も教えてほしい。何であの二人が僕と同じ(ネイティブ)なのか知りたい」

 

「天道、ひよりの頼みも聞けないってのか?」

 

「…………………分かった」

 

 

世界を敵に回してでも守り通そうとした妹の懇願までは拒否出来なかった天道は

俯いていた顔を上げて正面にいる加賀美と人の姿に戻ったひよりを見つめる。

この状況についていけていないユウスケと夏海はただただ首をかしげていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、なんであの二人がネイティブになったんだ。

そして何故お前がそれを(かくま)っていたのか、それを先に話してもらうぞ」

 

「……………いいだろう、話してやる」

 

 

ひよりの頼みを聞き入れた天道は自分の窮地に割り入った士にも一応義理立てをして

話を聞くことを許可して内装も何もかも荒れ果ててしまった店の中へ入った。

店には意識を失った見知らぬ男性を必死に介抱する女子中学生と弓子さんの姿があった。

ユウスケが何があったのかと尋ねたが、二人は口をそろえて「分からない」と答える。

そんな二人を無視して士は加賀美と同じように天道の座った席の近くで話を聞いた。

 

 

「アレは三年前、俺がパリに料理の極意を会得し、帰国した年だった」

 

 

荒れた店内に残っていた木製の椅子に座って話し始めた天道。

彼が口を開いた瞬間に、その場にいた誰もが彼の言葉を黙って聞き入れていた。

 

そして、彼の口から真実が明かされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四年前、人間社会の裏で暗躍していたワームの亜種『ネイティブ』が本性を表し、

警察機構や対ワーム秘密組織『ZECT』のコネクションを巧みに利用して長年の人体実験の

末に完成したネイティブ化装置を使用し、一挙に全人類をネイティブに変えてしまおうと

いうおぞましい計画をすんでのところで阻止した加賀美と天道。

二人のライダーがその使命を終えた数カ月後に天道はパリへと出国した。

理由は当人の言っていた通り、料理の極意を会得するため。

天道 総司という男は、幼少の頃に無数の悲劇を経験してきた。

実の両親を宇宙から飛来したワーム(本当はネイティブ)の手にかかり殺害された上に、

母親のお腹の中に宿っていた小さな命もろとも全てを完璧に擬態されてしまった。

その事実を知った彼は未来から過去を変えるためにやってきた自分自身にベルトを手渡され、

わずか十三歳にして自分に課せられた使命を知り、力を手にするために自らを鍛えてきた。

血反吐を吐くような訓練の日々。その一環として自炊もまた特訓の一部だった。

 

彼はその類稀なる明晰ぶりでパリの料理学校をわずか数か月で飛び級卒業し、

三ツ星レストランを渡り歩いてその店の料理長を自身の腕試しの相手にしていた。

その後、彼の挑戦を受けられるほどの腕の職人が見当たらなくなってしまったので

ネイティブにコピーされた命である妹のひよりの様子を見るために一度帰国したのだ。

 

 

「日本に戻るのは一年ぶりか。ひよりも樹花も元気にしているだろうか」

 

 

手荷物程度の荷を持って一度帰国した天道は、引き取り手である実の祖母の家の

一人娘(天道の義理の妹)の樹花と共に実の妹であるひよりを気に掛けていたので

空港を出た天道はその足でまず樹花が合格したという全寮制の大学へと向かった。

当の樹花はとても明るく、元気快調であることを天道に告げていった。

天道も彼女の安全を確認して安堵し、次なる目的地に向かおうとした。

しかしその目的地である『Bistro la Salle』へと向かう途中でかつての被災地、

隕石が落下して甚大な被害の爪痕が今も残っている渋谷へと足を運んでしまった。

見渡す限りの瓦礫の世界と化した渋谷跡地に踏み入った天道は過去を思い返す。

自分はここで両親の(かたき)である二体のネイティブに復讐しようとして

当時の自分より少し年下の、ひよりと名を呼ばれていた少女と出会ってしまった。

彼女の正体が生まれる前に死んでしまった自分の妹であることを悟った彼は、

復讐を果たせずに隕石の落下に巻き込まれて命を落としかけたのだった。

 

 

「俺はひよりを、ひよりの生きる世界を守れたのか………………」

 

 

晴れ晴れとした青空を見上げながら心地良さそうに天道は呟いた。

子供の頃から、やがて来る闘いの日々に向けて己の全てを鍛え上げてきた。

その努力が報われた成果が、今のこの世界なのだと天道は胸を張る。

思い出にふけることで満足した彼はそのまま本来の目的地である洋食店へと

足を向ける。だが、その時彼の耳に微かな嗚咽とすすり泣く声が聞こえてきた。

 

 

「……………泣いている、のか? こんなところで?」

 

 

研ぎ澄まされた彼の聴覚が拾った泣くような声に対して思ったのは、疑問。

ここは普通の世界で行き場所を失くした浮浪者がいるような場所だ。

世を捨てた彼らは泣く暇があったら今日を生きるための食い扶持(ぶち)を探すはずだと

考え、それら以外の誰かが涙を流しているのだろうと推察した。

もしかしたら自分と同じ被災者、もしくはここに来ざるを得なくなった子供かもしれないと

思い至った天道は、掠れるような泣き声を鋭敏な聴覚に従って辿っていった。

そして瓦礫に埋もれたかつてのビル敷地内に入り、声の主を目視した。

 

 

「あれは女だな。だがここで何をしているんだ?」

 

 

天道が物陰から見つめる先にいたのは、全身の身なりが貧しい女性だった。

遠くから見ているだけなのに髪の状態も悪く、肌も荒れていることが知れるほどに

みすぼらしい姿の女性は、どうやら眼下の水たまりを見て泣いているらしい。

事情は知らないが手を差し伸べるべきだと考えた天道はしばらく物陰で息を潜め、

彼女が落ち着いたら話しかけてようとしていた。

しかしそんな彼の目の前で、女性の姿が徐々に醜くおぞましく変化していった。

 

 

「何⁉」

 

 

驚愕のあまり物陰から飛び出してしまった天道に気付いたソレは驚いて振り返る。

その姿は天道にとって愛する妹と同種であり、憎き両親の仇の同種でもあった。

 

皮膚を剥がした髑髏(どくろ)状の顔を手で覆い隠したような人ならざる形状の頭部。

背中から頭頂部に掛けて丸方に膨らむ蛹に近いフォルムの背部に、そこから生えた角。

全身が人を不快にさせる重々しい緑色の外骨格で覆われた人外、ワームの亜種族。

 

泣き腫らしていた女性の正体は、もうこの世にいないはずのネイティブだった。

彼女の深緑の身体を凝視した天道は一瞬で様々な疑問を頭に浮かべては一蹴する。

お互いに固まっていたが、やがて天道もネイティブも警戒を解き始めた。

天道を見つめていたネイティブは力なく振り返り、再び水たまりに視線を落とす。

そして自分の姿を確認してはまた掠れるような声で泣き始める。

 

 

「………お前、泣いているのか」

 

『…………………………』

 

天道の問いかけに泣いていたネイティブが小さくうなずくように頭部を上下に揺らす。

その行動を見て、彼の頭の中にこの状況を説明する二つの仮説が浮かび上がった。

自分の立てた仮説を立証するために、天道は意思の疎通が可能なネイティブに問いかける。

 

 

「お前の名前は?」

 

『………………名前なんて、もうどうでもいい』

 

「いいわけあるか。名前は自分を生んだ親がくれる最初の誕生日プレゼントだ」

 

『誕生日…………それこそもう関係無いわ』

 

自分の言葉に耳を傾けるネイティブを見て、天道は一つの確信を得た。

何故彼女が泣いているのか、何故いないはずのネイティブがいるのか。

答え合わせだというように天道はさらに突き詰めた質問を投げかける。

 

 

「誕生日は自分の生まれた、つまり自分という世界が誕生した日だ。

その日、その時、その場所は、自分こそが世界の中心だと泣き叫んで産まれる。

それこそが人間だ」

 

『うるさい‼ アンタに何が分かるのよ⁉』

 

「全てが。俺は世界の中心だ、だからこそ俺は世界を救った」

 

『何言ってんの……………世界を救った? じゃあ私は何なの⁉』

人間のものとはかけ離れた腕を振るって自分自身の身体を指す。

悲しみの感情が振り切れて怒りに転換した彼女を、天道は冷静に見つめていた。

その様子が彼女の琴線に触れたのか、半狂乱になったネイティブは天道を睨む。

 

 

『突然現れて偉ぶって、私の事なんて何も知らないくせに‼』

 

「お前の事は知らない。だが、俺が中心たるこの世界はお前を知っている」

 

『訳の分からないことを‼ アンタに私の何が分かるって言うのよ‼』

 

「言ったはずだ、全てが、とな。お前がそうなった原因は見当がついている」

 

『えっ⁉』

 

 

天道の放った一言にネイティブが明らかな動揺を見せる。

今までのやり取りを振り返って、天道は自分の仮説が正しかったと考察し、

それが最悪の答えであるということを認めざるを得なかった。

次の言葉を待ちわびるネイティブに、天道は残酷な事実を告げる。

 

 

「お前がネイティブになった原因は、一年前のペンダントだ」

 

『ペンダント……………何のこと?』

 

「一年前、ワーム検知器と謳ってZECTが無料で配布した緑色の石が加工された

ペンダントの事だ。お前はおそらく一年前にそれを貰って身に着けていたな」

 

『…………そう言えば、そんなのを貰ったような』

 

「それは今のお前と同じネイティブが人類を一度にネイティブ化させる為に

作った、言ってしまえば人体改造装置のような物だったんだ」

 

『そんな、馬鹿げてるわ!』

 

「それ以外にどう説明がつく? それに、俺はZECTをよく知っている」

 

『………………本当なの?』

 

「俺は人を不幸にする嘘はつかない。だからこそお前には残酷な答えだがな」

 

『そんな、そんな事って……………』

 

 

力なく膝から崩れ落ちて嗚咽を漏らし始めるネイティブを天道はただ見つめる。

自分が言ったように彼女にとっては残酷な事実だが、それでも彼は伝えたかった。

それで彼女が満足するのなら、自分はどれほど憎まれても構わない。

例え世界を敵に回しても、守りたいと思ったものは必ず守り通す。

天道 総司とは、そういう男だった。

 

しばらく顔を伏せて泣いていたネイティブが急に泣き止んで立ち上がる。

様子の変化に警戒心を露わにした天道だったが、彼女からの言葉に戸惑った。

 

 

『アンタ、ZECTを知ってるんでしょ?

だったら私をどうにかする方法を知ってる人を知らない?』

 

「……………残念だが、一度ネイティブ化した人間の戻し方は研究されていない」

 

『…………………そう、分かったわ』

 

「どうするつもりだ?」

 

『……………人間に戻れずにこんな体で生きるくらいなら、死んでやる』

 

「よせ、命は簡単に捨てていいものじゃない」

 

『私の人生よ、アンタには関係無いわ。

それに、アンタに分かる? 突然自分が化け物になるって気持ちが‼』

 

「………………ああ、よく分かる」

 

『ふざけるな‼』

 

吠えるように怒ったネイティブは天道に危害を加えようとする。

短い距離を詰めて人外の腕を振るって、彼女は天道を殴ろうとした。

しかし殴られる直前、天道はハッキリとした口調で心に響くように語った。

 

 

「俺の妹も、お前と同じネイティブだ‼」

 

『…………え?』

 

「俺は八年前、実の両親をネイティブの手によって殺され、擬態された。

その時に母の中に宿っていた命も、完璧にコピーされたんだ」

 

『…………………………』

 

「俺はその事実を知った時、怒りよりも喜びが先に沸き上がった。

死んだと思っていた俺の妹が、この世に生を受けられたんだからな」

 

『でも、でもその子は人間じゃないんでしょ?』

 

「関係無い。俺はさっきも言った通り、世界の中心たる男だ。

俺が世界の中心である以上、人間であろうとなかろうと妹は妹だ」

 

『……………その子は、今どうしてるの?』

 

「長く日本を空けていたから詳しくは知らないが、俺の行きつけの洋食店で

シェフを務めているはずだ。俺の妹だからな、料理の腕は天才的なんだ」

 

 

天道は愛する妹を思う浮かべながら眼前のネイティブに語る。

彼の真摯なまなざしと言葉を受けて真実だと悟った彼女は腕をゆっくりと下げる。

攻撃の意志が消えたことを確認した天道は、改めて告げた。

 

 

「だから、俺の妹の作るサバ味噌を食べてみろ」

 

『えっ?』

 

「世界最高峰の俺が太鼓判を押す逸品だ。アレを超える事は絶対に出来ない」

『サバ味噌なのに?』

 

「サバ味噌だからこそだ。それに、お前も味わったほうが良い。

同じネイティブが作り出す感動と笑顔を、生きていることの素晴らしさをな」

 

『‼』

 

「ネイティブである俺の妹が生きられる世界だ、お前も生きられるさ。

アメンボから人間まで、地球上の生きとし生ける全生命を守るのが俺だ」

 

『……………誇張し過ぎじゃない?』

 

「事実だ。それに、何度も言ったはずだ。俺は世界の中心だとな」

 

『聞き飽きたわよ、世界の中心さん』

 

「天道だ、天道 総司」

『天道……………かっこいい名前ね』

 

「"天の道を往き、総てを司る"、それこそが俺という人間だ」

 

『壮大な名前。でも不思議とピッタリな気がする』

 

「ああ。世界の中心たる男にふさわしい名前だろう?」

 

天道が右手の人差し指を天にかざしながら自分の名をネイティブに告げる。

ちょうど太陽と指の頂点が重なって、眩い後光を携えた輝ける男がそこに現れた。

彼の自信溢れる言葉に揺り動かされたのか、ネイティブの姿が元に戻っていく。

先程のみすぼらしい女性の姿に戻った彼女は、改めて自身の姿の貧相さに気付く。

 

 

「あっ……………」

 

「酷い有り様だな、こんな格好じゃひよりの店には行けない」

 

「………………そうね」

 

「仕方ない、今回は諦めて出直そう。

俺はパリに戻るが、お前はどうする? いや、どうしたい?」

 

「私は……………」

 

「…………おばあちゃんが言っていた。

『人生で一番大事なのは、どの道を歩くかを決める決断。あとは必要無い』ってな」

 

「おばあちゃん?」

 

女性が天道の言葉に悩んでいると、おもむろに天道が自慢の格言を言い放つ。

唐突に始まった加賀美曰くの『天道節』を初体験した女性は微妙な表情になる。

天道はそんな女性を気にすることも無く、ただ淡々と言葉を続けた。

 

 

「お前がするのは決める事だけ、それだけでいい。

後は世界の中心である俺が、お前の歩む道を切り開いてやる」

 

「……………私の、歩む道?」

 

「そうだ。それで、どうする?

ここでずっと泣いているのか? それとも、俺と共に世界を見るか?」

 

「……………私は、アンタと一緒に行きたい!」

 

「決まりだ。なら、お前とアンタじゃ呼びにくい。名前を教えろ」

 

「……………日比野(ひびの)、日比野 アゲハ」

 

「アゲハか、良いだろう。俺と一緒に来い、世界を見せてやる」

 

「ハイ‼」

 

 

人生を変える決断を下した彼女に天道が手を差し伸べ、アゲハがその手を取る。

手を繋ぎ合った二人は、そのまま太陽が照らす瓦礫の世界から飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






いかがだったでしょうか?

三島が変化したワーム、ローカストワームですが、
もちろん本編には登場していないオリジナルワームです。
ローカスト(日本名:イナゴ、あるいは飛蝗)から取りました。


次回、Ep,18『THE SPEED ~最速を追う者~』

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