仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

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読者の皆様、お久しぶりです。

早速ですが、前回の次回予告でお詫びと訂正が。
前回の次回予告でのタイトルの『NIGHT』が小文字の表記に
なってたことをつい先ほどになってようやく気付きました。

堅苦しいのはここまで。
実は何人かは気付いていたようですが、このカブトの世界での一連の流れは
原作での流れを色濃く再現している(つもりな)のです。

Ep,12での士の『俺に聞くな!』や
前回からのVSザビー戦なども、その流れです。

原作を重視するという傾向を改めて主張したところで、
さっさと本編に行くとしましょう。

それでは、どうぞ!



Ep,15『WHITE NIGHT ~果たせぬ誓い~』

 

ディスカビル家の食堂に、周囲の厳かな雰囲気に似合わぬ電子音声が響き渡る。

バックルにカードを装填した男の腰から発せられる音声が、その場の誰もを震撼させた。

特に驚愕で表情を大きく変えたのは、執事服の老人とスーツ姿の女性、そしてザビーだった。

見たことも無い仮面の紋章(ライダークレスト)が空中に九つ投影され、そこに灰色の人影が現れる。

全ての影がハッキリと形作った直後、それらは奇妙な動きで中心にいた男の元へと集まり始めた。

ほんの数秒で全ての人影が合わさり、黒と灰色の装甲を身にまとった戦士が呆然と佇む。

しかし戦士の仮面からまたしても九つの、今度は大小様々な長方形のプレートが射出された。

回転しながら仮面へ戻って来たプレートはまるで初めからそこにあったかのように仮面に収まる。

最後に仮面の眼ともいうべき双眸が、濁りながらも輝く緑色の光を放った。

 

 

【仮面ライダーディケイド】

 

 

彼の後ろに居る夏海とユウスケ以外は知らない、この世界において全く未知の戦士。

様々なライダーを見てきた岬やじいや、そしてザビーをしても知りえない謎の戦士。

全身を色褪せた返り血の如きマゼンタに染めたディケイドは眼前のザビーに悠々と告げる。

 

 

前の世界じゃ随分世話になったが(・・・・・・・・・・・・・・・)、今回はそうはいかないぜ」

 

「………………何の話だ」

 

「俺の話だ。とにかく、今からお前を捻り潰すって事に変わりはねぇ‼」

 

「誰だか知らんが、寝言は寝てほざけ‼」

 

 

傍若無人たる態度で告げたディケイドに、ザビーは激昂し罵声を浴びせる。

怒りをそのままに突っ込んでいたザビーをディケイドはぼやくようにしていなす。

 

 

(ザビーに手持武器(エモノ)は無い。あるのは左手のブレスから伸びるニードルだけ、か)

 

 

右手を大振りに掲げて突進してきたザビーを躱しながらディケイドは冷静に相手を観察する。

手に持って自らの範囲(リーチ)を広げられるような武器など、ザビーには装備されていない。

そもそもザビーの戦闘スタイルは多数の部下を引き連れ戦況を見極めて彼らを効果的に操り、

集団という一つの『個』となることで強大な敵に打つ勝つというスタンスが基本となっている。

なのに眼前のザビーはそのセオリーに反するように、単独で自分に接近戦を挑もうとしている。

 

(コイツ、ザビーの戦闘力を過信してるのか? いや、もしかして使い慣れてない(・・・・・・・)のか?)

 

 

蹴りを織り交ぜた近接戦闘を繰り広げているザビーの攻撃を躱しながらそう結論付ける。

今ディケイドの頭の中にあるのは、この『カブトの世界』における【ライダーの定義】だった。

 

この世界でライダーになるためには、まず『ゼクター』と呼ばれる意志を持ったシステムに

選ばれなくてはならない。彼らに選ばれて初めて、人はライダーになる権利を与えられるのだ。

しかし、ゼクターに選ばれたからと言って死ぬまでその権利があり続けるわけではない。

ゼクターが資格者と戦っていくうちに、その資格者を見限って変身を拒否することもある。

そうするとまたゼクターはより良い資格者を選び、資格者を替えていくのだ。

 

それらを踏まえた上で、ディケイドの脳内ではある仮説が浮かんでいた。

眼前のザビーは戦闘のセンスこそ見事だが、まだ選ばれて日が浅いのではないか。

だからこうして単騎で相手に挑んでくるという愚行を犯せるのではないのか、と。

そう判断したディケイドは観察のための手抜きを終え、本気で戦闘に意識を向けた。

 

 

「大口を叩くだけで、逃げ腰か!」

 

「いや、もう準備運動は飽きちまったから本番行くわ」

 

「何⁉」

 

相手を煽ろうとして出されたザビーの発言を上塗りするディケイド。

そしてその宣言の通りに、今度はディケイドの方からザビーに向かっていた。

 

ディケイドが軽く拳を打ち出し、ザビーがそれを弾く。

弾かれる勢いに任せて身体を回転させて繰り出した裏拳がザビーの右手に掴まれる。

動きを止めて右腕を押さえたザビーは左手で右肩を掴み、食堂のテーブルに叩き付けた。

磁器が床に落ちて砕ける音を聞きながら右腕をギリギリと締め上げるザビー。

だが右側を押さえられたディケイドはその場で体を回転させ、床に二人もつれこむ。

転がった拍子に拘束を解かれたディケイドは立ち上がろうとするザビーを一蹴。

大きくよろめいた相手を逃がさぬように、苛烈な猛攻を開始した。

 

右手で殴る、顔に直撃。左手でブロー、肩を強打。

右足で蹴る、左腕でガードされる。左手を突き出す、ガードを破る。

流れで左足を振り上げる、ギリギリで躱される。

一回転して右足を後ろから蹴り出す、体勢の崩れたザビーに突き刺さる。

ディケイドの蹴りを受けて吹き飛ぶかと思われたザビーだったが、

両腕を鳩尾(みぞおち)の辺りに置いていたおかげか、彼の蹴りを止めていた。

ガッチリと足を掴まれたディケイドは片足で拘束を解こうともがく。

だが一度拘束して解かれたザビーは二度と逃がさんとばかりに力いっぱい掴んでいた。

 

「もう逃げられまい。このまま脚を折って、その後で貴様をゆっくりいたぶってやる」

 

「そうかい。まあそれならそれでいいけどな」

 

「まだ余裕があるのか。今度は逃がさんぞ」

 

「それでいい。しっかりと掴んで、放すなよ(・・・・)?」

 

何だと、とザビーが尋ねる間もなく、ディケイドが一枚のカードをバックルに装填する。

バックルの機構がカードを読み込んで内容を反映させる中、ディケイドが宙に跳び上がる。

左足一本ではそこまで跳ぶことは出来ないが、この場に限ってはそれで良かった。

唸るようにしならせた左足を体の回転と共に空中を滑らせ、そのまま右足にぶつける。

無論、今彼の右足の先にはザビーがいるために、その蹴りは彼にあてたものである。

空中で体を半回転させながら放った蹴りは、ザビーが脚を押さえていた右肘に直撃した。

 

「ぐうっ、あっ!」

 

予想だにしなかった攻撃で腕を負傷したザビーは苦痛の声を上げるが、

まだディケイドは攻撃を止めてなどいなかった。

腰にマウントされていたライドブッカーをガンモードに切り替えて照準を合わせる。

回転衰えぬまま滞空する中、右手のみでライドブッカーガンと共にカードの効果を発動させた。

 

【ATTACK RIDE___________BLAST】

 

 

ディケイドのバックルから高らかに告げられた電子音声に従って、銃口がブレる。

その銃口のブレはやがて複数の銃口を形成し、それらが一斉に火を噴いた。

"下手な鉄砲数打ちゃ当たる"という言葉があるが、この至近距離で踏んできた場数の量。

それらが合わさりさながらショットガンのようにばら撒かれた銃弾がザビーを襲った。

 

 

「がああっ‼」

 

「まだまだ、こんなモンじゃ無いぜ」

 

滑らかに着地したディケイドは無数の銃撃に地に伏したザビーに余裕を見せる。

上からの目線と威圧に負けじとザビーはよろめきつつも立ち上がる。

その間にもディケイドはライドブッカーをソードモードへと切り替えていた。

そしてそこから新たに取り出したカードをバックルに装填し、効果を反映させる。

 

 

【ATTACK RIDE___________SLASH】

 

 

今度は先ほどの【アタックライド・ブラスト】の剣バージョンとも言える効果の

【アタックライド・スラッシュ】を発動させ、複数の剣を形成して振りかざす。

右手に持ったライドブッカーソードと共に、よろめくザビーに突貫する。

右上段からの袈裟斬り、複数の剣が残像のようにザビーの胸部装甲に直撃。

返す刀での左下段斬り上げ、初撃以外はかするのみでダメージは与えられず。

深く踏み込んだ一歩と共に左上段袈裟斬り、複数の剣がザビーの装甲を刻む。

最後に一際大きな一歩で詰め寄り突き出し、胸部装甲に大穴を穿った。

 

銃撃で既にダメージを負っていたザビーに容赦無い連撃を浴びせるディケイド。

その甲斐あってか、ザビーのメタルイエローの装甲のあちこちにヒビが入っていた。

ボロボロになりながらも立ち上がろうとするザビーをディケイドはただ見つめる。

現時点では彼が圧倒的に勝ってはいるが、それはいとも簡単に覆る。

戦いの中で戦局の有利不利は容易く裏返るが、この世界においてはまさにその通りだ。

 

「く、そ…………ぐぅ!」

 

「どうした、もう遊びは終わりか?」

 

「あ、遊びだと……………⁉」

 

「ああ。何てことは無い生温いガキのお遊びだ」

 

 

憮然と言い放つディケイドを信じられないものを見るような目で見つめるザビー。

お互いに仮面をしているものの、ザビーの奥にある感情はディケイドにすぐ伝わった。

 

 

______________何なんだ、コイツは‼

 

 

驚愕と畏怖。その二つが入り混じった感情の視線をディケイドは感じた。

だがそれでも油断しない。一片たりとも慢心など許されない。

何故ならザビーにはまだ、【クロックアップ】が残されているから。

内心でこの世界のライダーの使う奥の手に対して警戒していると、ザビーがふと呟いた。

 

 

「こんな、こんな奴がいたとは…………………計算外だった!」

 

「俺を計算で測ろうとした、お前の最大の敗因はそこだ」

 

「ふざけるな‼ だが、貴様は俺には決して勝てん」

 

「ほぉ? 随分デカく出たもんだな」

 

「笑っていられるのも今のうちだ…………………行くぞ‼」

 

 

ディケイドに相対したザビーは腰のベルトに備わっているレバーを一気に引いた。

途端に彼のベルトから重厚な電子音声が流れ、瞬く間に全ての流れが変わった(・・・・・・・・・・)

 

 

【Clock Up!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂中に電子音声が流れると同時に、ベルトから放出されたタキオン粒子がその場の

全てを包み込み、一秒前とは全く異なる時間軸の世界へと変貌させた。

誰もが静止したように思えるほど鈍くなってしまった世界で独り、ザビーはほくそ笑む。

 

 

誰よりも速く動ける(クロックアップの)世界なら、私が負ける訳が無い」

 

 

冷静に考えれば、何てことは無かった。

クロックアップを使ってしまえば、相手がいくら強かろうが関係ないのだ。

誰よりも速く動けるのであれば、そもそも戦闘のセンスなど関係ないのだ。

相手よりも先に拳を当て、相手よりも先に蹴りを浴びせ、相手より先に勝負を決する。

自分が見下している人間の子供ですら理解出来る、絶対無敵にして最強無敗の条件。

 

 

「全く、私よりも速く動け(クロックアップ出来)ないくせに、随分デカく出たものだ」

 

 

先程まで一方的に押されていたザビーが悪態を吐くほどの余裕をかます。

しかしのんびりもしていられないと、ザビーは眼前で突っ立っているマゼンタの戦士を睨む。

ゆっくりと歩み寄り、左手のザビーゼクターの胴体部のボタンをしっかり押し込む。

 

 

【Rider Sting!】

 

 

歩みはやがて速度を増し、ついには疾走とも呼べる速度に到達する。

眼前の敵との距離はとうとう己の拳の届く距離にまで縮まった。

容赦はしない。ほんの一片の慈悲すらも与えない。

ザビーの仮面の複眼状になっているサイバーブラックな双眸のその奥で。

使い慣れていない力を無理やり制御している資格者_______________三島が怪しく笑う。

 

 

「喰らえ‼」

 

 

ザビーゼクターが保有するエネルギーをまとって電雷迸る左手を突き出す。

左拳よりも先に伸びているザビーゼクターの針がマゼンタカラーの胴体に突き刺さり、

およそ人体を殴るときには聞こえないはずの重低音が音も到達しない速度の世界に響く。

針の中から相手に直接注入されていくエネルギーを見届けたザビーはくるりと振り返る。

そのままゆっくりと、堂々とした足取りで立ち去っていく。

体感時間であと二秒ほどすれば、この食堂に爆発音と爆裂音が調和(ハーモニー)を奏でるだろう。

全身を粉々にされた男の表情も見てみたいが、今はそれよりも大事な任務がある。

そう考え、驚愕に目を向いたまま固まって人形のように静止している岬の方へと歩いていく。

心の内で二秒を数えた直後、粒子の効果が切れて世界が再び元の時間軸へと戻っていった。

 

 

【Clock Over!】

 

重厚な電子音声と共に、ザビーの背後から盛大な爆発音が聞こえてくる。

テーブルの近くに居た女と男は何が起きたか理解していないようだがどうでもいい。

今の自分の目的は目の前に居る初老の男性と、後生大事に無用の長物を抱えた女の二人のみ。

誰もが動けるのに言葉を発せない中、ザビーは手を伸ばして岬に迫る。

 

 

「さあ、早くその『サソードヤイバー』を私に返せ」

 

「……………あなたに、お前にだけは渡さない!」

 

「そうか、なら死ね」

 

 

両眼に涙を浮かべながら後ずさる岬に強者の余裕からかザビーは歩み寄る。

だが今度は手を伸ばすのではなく、左手の針を突き刺すために振りかぶる。

とうとう食堂の壁際まで追い詰められた岬に対して、言葉をかけずに左手を振り下ろす。

 

 

「___________俺を前に余所見とは、随分デカく出たもんだ」

 

「なっ⁉」

 

 

しかし岬に対して下ろされた拳は空中で止まり、腕を掴まれて身動きが取れない。

ザビーが横目で見たのは、自分の左手を掴んでいるマゼンタカラーの左手(・・・・・・・・・・)

それを目視した瞬間、先程の爆発音の違和感を今更ながらに感じた。

 

何かが爆ぜる"爆発音"はした。

ならば何かがバラバラになって吹き飛ぶ"爆裂音"はしたか。

 

その問いに対する答えは、断じて否だと言わんばかりに視界の端に映るマゼンタカラー。

もはやザビーの頭の中はこの状況の打開よりも、何故この男が生きているのかという

不可思議極まりない疑問で埋め尽くされてしまっていた。

故にロクに考えもしないまま左手を掴む相手の手を離そうと右手を動かした。

だが今度は左手だけでなく、右手までも動かなくなってしまった。

 

 

「おいおい、俺を前に余所見とはイイ度胸してんな」

 

「それさっきも言ったばっかりなんだがな」

 

「な⁉ 何だ、お前は、何故二人いる⁉」

 

 

左手を掴む相手と、右手を掴んでいる相手を交互に見やって声高に叫ぶ。

視界を180°回転させても、自分の両の腕を掴んでいるのはどちらも同じ相手。

何が起きているのか理解出来ない。理解できるはずも無い。

 

 

「お前がクロックアップを発動する直前、俺はそれに対する策を講じたわけだ」

 

「ああ。【アタックライド・イリュージョン】つってな、要するに分身だ」

 

「ば、バカな! クロックアップを貴様が何故⁉」

 

「知ってるのかって? なら先に応えといてやる」

 

 

ザビーの両手を掴んでいる二人のディケイドが腕を高く上げた。

当然腕を掴まれているザビーもまた腕を無理やりあげさせられてしまう。

何とか拘束を逃れようともがくが、二人のディケイドは一切力を緩めない。

そのままの姿勢で最初に左手を掴んだディケイドが口を開く。

 

 

「俺は、通りすがりの仮面ライダーだ」

 

「つまり、今まで通りすがった世界でクロックアップを体験してんだよ」

 

「何だ…………何を言っている⁉」

 

「「日本語」」

「ふざけるな‼」

 

 

両腕を掴まれたまま『万歳』のポーズをとらされているザビーが吠える。

しかし二人して冷静にザビーを押さえているディケイドがさらに話を続ける。

その言葉を聞いたザビーは、今度こそ閉口せざるを得なくなった。

 

 

「ついで言っとくと、お前が倒したのはギリギリで生み出した分身の方で」

 

「ついで言っとくと、お前を今こうして掴んで押さえてんのも分身の方で」

 

「「あっちでブレイドにライドしてんのが、本体ってわけ」」

 

「な、んだと⁉」

 

 

二人合わせて四つの緑眼とサイバーブラックの複眼が見つめる先に居たのは、

横に居る二人とは違う青いスーツに白金の鎧をまとった赤眼の戦士だった。

 

【KAMAN RIDE BLADE】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が俺に遅せぇってのも、おかしな話だけどな……………」

 

 

少し離れたところからこちらに目線を向けてくる二人の分身(じぶん)に、ディケイドは呟く。

だが今や彼は普段のマゼンタでは無く、青いスーツに白金の鎧をまとうブレイドとなっている。

この変身こそ本来彼が立てていたもう一つのクロックアップ対抗策なのだった。

しかし実際は【アタックライド・イリュージョン】によってクロックアップを乗り切ったため

ブレイドに変身した今、やることは一つを残すのみとなっていた。

 

 

「待たせて悪かったな。今終わらせてやる」

 

 

ライドブッカーから一枚の、それまでとは一線を画したオーラを放つカードを取り出す。

金色で縁取られているそのカードの中心には、ブレイドの象徴たるスペードの紋章があった。

輝かしいカードを腰のバックルに装填し、機構を動かして効果を読み取って反映させる。

直後、バックルから普段のとは違う高音程の電子音声が高らかに、そして厳かに告げた。

 

 

【FINAL ATTACK RIDE___________B,B,B,BLADE】

 

 

電子音声が流れると共に、ブレイドのバックルから黄金のリングが幾重にも飛び出す。

飛び出たそれらはブレイドにライドしているディケイドの体を包むと霧散してしまった。

しかしそのリングが触れた直後から、ブレイドの体が肉眼でも分かるほど発光していた。

否、発光しているのではなく、迸る雷撃を宿して輝いていた。

 

自身の中から溢れ出るほどの力の本流を感じたブレイドは即座に駆け出す。

目標は言うまでもなく、身動きを封じられているザビーただ一点のみ。

 

「はあぁぁぁぁあぁぁぁっ‼」

 

 

彼我の距離が残り数mとなった地点で、ブレイドは大きく跳躍した。

前進と跳躍の2方向への運動エネルギーを、空中前転という行動で違和感無く組み合わせる。

体育座りを空中でするようにして前転したブレイドは、その勢いを活かして距離を縮める。

そして一回転したブレイドは前進+跳躍に加えてさらに落下のエネルギーを掛け合わせて

もはや大人一人分くらいの距離にまで迫っていたザビーの胴部に蹴りを叩きこんだ。

 

 

「「「やああぁぁぁあぁぁぁっ‼‼」」」

 

 

バチバチと耳の奥にまで響くように迸る雷撃をまとわせた蹴りがザビーに突き刺さる。

蹴りの直前まで両脇に居た二人のディケイドは【ライトニングブラスト】が直撃する瞬間に

掴んでいたザビーの腕を放して左右から同時にハイキックを背後から決めていたのだった。

前後から同時に浴びせられたライダーキックの威力にザビーの装甲は耐え切れる訳が無く、

豪快かつ膨大な爆発の衝撃によってガラス細工の如く粉々になって破壊された。

 

 

「ふっ……………まあ、こんなところか?」

 

 

疲れを感じさせない口調で振り返りながら変身を解いたディケイド。

彼が変身を解くと同時に手をパンパンと鳴らして成し遂げた感をアピールしていた分身が消える。

そんな彼の___________士の戦闘を間近で見ていたじいやと岬の二人はもはや絶句していた。

しばらくはまともに会話できそうも無いな、と内心で苦笑した士は夏海とユウスケを見つめる。

二人は自分の送った視線にすぐ気付いて、夏海は頷き、ユウスケはサムズアップを見せてきた。

だがすぐに二人の笑顔は掻き消え、その表情は困惑と恐怖の混合体となった。

 

「……………ぁ、きさ、まぁ……………」

 

「何?」

 

 

二人の視線が自分の後ろをさしていることに気付いた士はゆっくりと振り返って驚く。

士が振り向いた先に居たのは、ザビーでも資格者の人間でもなく、一体のワームだった。

普通の(さなぎ)体のワームでは無く、脱皮して能力を得た進化個体。

何の昆虫をモデルにしているかまでは、全身の組織を雷撃で焼き焦がしてしまった今では

もう誰も知る由が無いが。

 

「………………よく、も………………こんな、マネ、をぉ」

 

「…………お前がワームだったのか」

 

「やっぱりそうだったのね、三島さん」

 

 

ボロボロと崩れていく身体を必死に動かしながら士をおぞましい視線で射貫くワーム。

岬に恐怖を嫌悪の混じった視線と共に『三島』と呼ばれたそのワームはただ語る。

 

 

「わた、しは……………死なん、ぞ…………………絶対に」

 

「不死だと? そんなヤツの相手は前の世界でしてるから遠慮願いたいぜ」

「……………それに、もう、手遅れだ……………何も、かも…………」

 

「どういう事だ?」

 

「知りたければ………………自分で、調べるんだ、な…………」

 

 

士と数回言葉を交わした三島は、そのまま炭素の塊となって崩れて死を迎えた。

そこから数秒後、ワームが死ぬときに上げる緑色の炎を噴き上げて死体すら消える。

不穏な言葉だけを残して消えた三島に、岬はただただ困惑の色を浮かべて唸る。

最後まで自分を睨んで目線を外さなかった三島に対して士は違和感を感じていた。

 

 

「ここに来た理由……………俺との戦闘………………手遅れ?」

 

 

思いつく限りの全ての事を考えて色々と考察を練るが、いまいちピンとこない。

何かが、ほんの小さな何かを見落としてしまっているような。

自分でも気付かないうちに表情がこわばっていたのか、夏海が声をかけてきた。

 

 

「士君、勝ったんだからいいじゃないですか。ほら、優美恵ちゃんみたく笑って!」

 

「_____________今、なんて言った?」

 

「え? 勝ったんだからいいじゃないですかって」

 

「そっちじゃない、その後」

 

「…………優美恵ちゃんみたく笑って、ですか」

 

優美恵。天道 優美恵。この一言が士の違和感を取り除いた。

途端に浮かび上がった疑問のために再び閉口して考えを巡らせ始める。

士の言動が理解出来ない夏海とユウスケは首をかしげる。

しばらくして結論が出した士は、テーブルに置いていたカメラを手に駆け出した。

 

「ちょ、士⁉」

 

「士君! どこ行くんですか⁉」

 

 

慌てて追いかけながらかけられた二人の問いに、士は耳を貸さない。

ただ一目散に来た___________連れてこられた道を走って戻る。

 

 

「そもそもが間違ってたんだ‼」

 

 

息を荒げながら駆ける士は声にならない声を上げて自分の考えを残す。

そう、そもそも彼らから教わったこの世界の現状。

今現在こうなってしまうに至った経緯が、そもそも間違っていたとしたら(・・・・・・・・・・)

 

「一年前にワームが地球に来れた事が、そもそもおかしいだろ‼」

 

 

走りながらも頭をフルで回転させて、自分の立てた仮説を一から紐解く。

ここに来る前、あの店で自分と張り合った天道という男は言った。

____________『相手は宇宙局に潜伏していたらしく』

 

この時点で違和感を感じなかった自分が恥ずかしく思えてくる。

宇宙局は外宇宙から飛来してきたワームをこれ以上地球に飛来させないために造られた、

いわば人類が何をどれだけ犠牲にしても守り通さなくてはならない防衛の要。

そこに擬態出来るワームが侵入(・・・・・・・・・・・)なんて、出来ていいわけが無い(・・・・・・・・・・・・・)のだ。

 

士は知らないことだが、ワームと人間は実は区別が付けられる。

どれだけ精巧に擬態しても、どれだけ完璧に記憶を模写しても、変えられない弱点。

ワームは温度の無い宇宙空間を飛来する際、体温を極限まで下げる術を身に着けた。

これによって隕石に守られているとはいえ、宇宙で凍死せずにすんでいたのだ。

故に彼らワームという種族は、人間ほどの体温を有することは決して出来ない。

つまり、サーモグラフィという温度を検知する機械を通せば人との違いが分かるのだ。

このような見分け方を知っている人類が、防衛の最重要拠点を簡単に墜とさせたのか。

どれほど有力そうな説を上げたとしても、宇宙局には有事の際の戦闘員が数多くいた。

さらには人類側の切り札たる【マスクドライダーケタロス・ヘラクス】の二人までもが

配備されていたというのに。数十人単位でも奪えるような場所では無いだろうに。

 

ここまで考えて、士はふと思考を逆転させた。

天道や一緒に居た加賀美、夏海やユウスケですらも考えないような馬鹿げた仮説を。

 

 

「宇宙局を襲ったのが、ワームじゃなく人間だとしたら(・・・・・・・)‼」

 

辻褄は合う。途方も無く馬鹿げているとは理解しているが、一番納得がいく。

人間だとしたら疑われることなく施設には侵入出来るし、機械も誤魔化せるだろう。

しかし今度はまたしても天道の口にした言葉がこの仮説を削り取っていく。

 

 

___________『隕石の破壊工作を始めようとした直後、その二人は殺された』

 

 

つまりこの時点でおそらくだが、二人のライダーは変身していたのだろう。

対ワームの切り札である【クロックアップ】を有するライダーを同時に殺せる人間など。

そんな明らかに常軌を逸した力を有している人間など、この世界には一種類しかいない。

 

 

「ライダーしかいないだろ‼ 人類を裏切ったのはライダーだ(・・・・・・・・・・・・・・)‼」

 

 

いったいどんな目的があってそんな凶行に及んだのかは見当もつかない。

だが、ここまでの流れで一体誰が人類を裏切ったのかは見当がついた。

 

「アイツだ! クソ、やっぱりこの世界でも(・・・・・・・・・・)邪魔しに来るのか(・・・・・・・・)‼」

 

 

カブトでは無い。ガタックに変身した加賀美とやらはまず除外してもいいだろう。

次いで怪しいのはザビーだったが、ワームが資格者を強制していた時点で可能性は薄い。

ならばサソードかドレイクだが、サソードは故人であるために判定が出来ない。

残るドレイクは戦闘のスタイルからして犯人である可能性はそこまで高くは無いはずだ。

なにせ彼は射撃型の戦闘スタイルのため、遠距離戦で最も強さを発揮するのであって

宇宙局というあからさまに限られてる屋内戦はどう考えても不得手のはずなのだ。

 

だとしたらもう、容疑者は二名に絞られた。

士はここまで考えた時、間違いなくこの二人だと確信した。

しかし今度は天道ではなく、加賀美の言葉が士の仮説をより引き立たせた。

 

___________『こうなったのも、全部アイツのせいだ‼』

 

この言葉からして、容疑者はただ一人。

自分の頭に浮かんでいた容疑者の内、どちらか片方のみとなる。

二人の容疑者の内、片方は戦闘力と性格からして除外された。

たった一度きりの邂逅だったが(・・・・・・・・・・・・・・)奴一人ではユウスケにすら劣る(・・・・・・・・・・・・・・)事は知れた(・・・・・)

ならば残る最後の一人が暫定的に、この一件の容疑者として確定された。

戦闘力に関しても、自分(ディケイド)両足のみで圧倒するほどの(・・・・・・・・・・・・)洗練されたものがあるのだ(・・・・・・・・・・・・)

 

 

間違いない。地球をワームに売り渡した男は_____________

 

「……………【仮面ライダーキックホッパー】‼」

 

 

証拠など無い。だが不気味なほどその答えがしっくりときてしまうのだった。

士の中にさきほどよりも、もっと大きくのしかかる様な圧迫感が生まれる。

地球にワームを素通りさせたのがキックホッパー、ライダーである人間だとすれば

もう一つ納得のいかなかった疑問が解消される。いや、されてしまう。

加賀美という男と偶然にも再開した時の当時の状況を思い返す。

あの時自分と夏海とユウスケの三人は、女性の悲鳴と銃声を聞いて戻ったのだ。

そして銃口を向けていたのは『ZECT』の隊員で、向けられていたのが人間。

自分はあの時、『ZECT』の敵ならば人間の方がワームである、と考えていた。

しかしそれは今この思考に行き着いてからは、早計だったのだと己を叱責する。

___________何故だ、何故あの時違和感に気付かなかった‼

 

 

自分の目の前で『ZECT』の部隊がワームで構成されているのを見たのに。

自分の目の前でワームだと断じた相手がワームに殺されかけていたのに。

自分の目の前でライダーと子を成した人物が、人間だと思い込んでしまった(・・・・・・・・・・・・・)

全てが違った。全てが間違っていた。

ワームが人間を騙して仲間を通したのではなく、人間が人類を裏切っていた。

人間がワームを撃とうとしていたのではなく、ワームがワームを撃とうとしていた。

ネイティブとワームが結託したのではなく、人間とワームが結託したのだとすれば(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

浮かび上がる最悪の答えに、士は冷や汗を流しながらとにかく走る。

理由など知らないまま、ワームに組織として狙われていた彼女ら二人。

士は疲労が溜まっていく自らの肉体を気にするでもなく、息を切らせて呟く。

 

 

「無事でいてくれッ‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球を照らしていた太陽が徐々に高度を下げ始める時間帯。

真昼時と夕方の中間らしい今、その男はとある場所に向かって移動していた。

しかし足音は彼一人のものではなく、訂正し、彼らは移動していたのだった。

太陽の光を吸収して高温を保ってしまう黒で統一された集団、『ゼクトルーパー』。

それらの先頭に立っているのは、黒と相反した白で全身を覆った隊長と思しき男。

彼らは目的地を目視出来る場所まで来ると、作戦の内容を密やかに確認した。

 

「……………我々の目標は、この二名の捕獲だ。異論はあるか?」

 

「失礼ながらビャクヤ隊長。その二人をわざわざ『捕獲』するんですか?」

 

「……………ああ、この二名は殺害ではなく捕獲だ。くれぐれも間違えるな」

 

「了解しました。ですが、その……………理由は教えてもらっても?」

 

「……………上層部からの密命、としか言えねぇな」

 

「了解です、隊長」

 

「……………そろそろ時間だ。ぬかるなよ」

 

 

ビャクヤと呼ばれた白いゼクトルーパーが号令をかけると、全ての黒が頷いた。

そのまま周囲を警戒し、誰もいないことを確認させて隊員に移動を開始させる。

音を極力立てずに目的地周辺に全隊員の配置を完了させると、ビャクヤは呟く。

 

 

「………………十秒後、煙幕を投下して突入しろ」

 

 

装着している頭部のマスクに内蔵されたマイクが各員に命令を伝達する。

自分の視界内にいる全ての隊員は彼の言葉に無言で頷き、準備を始めた。

たった十秒。それだけの時間が、ビャクヤには妙に長く感じられた。

とうとうここまで来た。あともう少しで、ようやく手が届く。

 

自分がかつて目指して手に入れられなかった、命よりも大切なもの。

自分がかつて捨てざるを得なくなった、自分自身よりも大切なもの。

自分がかつてより引き摺り続けている、強く深い未練と後悔。

 

もうすぐで一切合切、何もかも決着が着く。

人を殺した。ワームを殺した。しかし後悔などしていない。

今からすることに関しても、ほんのわずかな罪悪感などありはしない。

自分の視界は全てが闇に覆われている。故に今更多少暗くなっても意味は無い。

 

だからこそ、この希望(ひかり)だけを見て生きてきた。

 

一度捨てたプライドも、調和(ハーモニー)も再び手に入れて。

一度捨ててしまった自分自身を焼き焦がすほどの強い光を求める。

 

深く淀んだ思考を裂くように、作戦開始の時刻を告げる煙幕の炸裂音が聞こえた。

もう後戻りは出来ない。もとよりもう、後戻りする様な道など見えていない。

だから、先に何が待っていようと進み続けよう。

更なる地獄があろうと、どんな痛いしっぺ返しが待っていようと。

 

 

___________お前なら分かってくれるよな、相棒?

 

 

 

「作戦開始」

 

 

ビャクヤの冷酷な声と共に、ビストロ・ラ・サルに煙が上がった。

 

 






いかがだったでしょうか?
前回から仄めかしていた、黒幕の正体が明かされましたね。

ええ、大好きなんです。
皆さんも大好きでしょう?
闇堕ち中二病患者の兄貴が‼

少々冷静さを失いましたが敵はキックホッパーでした。
彼が何を思ってワームと結託したか、それは次回かその次辺りで
詳しく書けていけたらいいと思っております。


それでは次回、Ep,16『ENDING REVERSE ~最期の約束~』

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