仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

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皆様、新年明けましておめでとうございます。
今年もよい一年になられますよう、心よりお祈り申し上げます。


もう一つの作品の投稿が遅れてしまったためにこちらにも影響が出まして。
ようやくこちらも安定してきたというのに、残念でなりませんでした。
ですが、軌道に乗ってきたというのもあってやる気はあります!

それと前回の次回予告でEpの数字を入れ忘れるというミスをやらかしましたが、
新年にして心機一転‼


それでは、どうぞ!


Ep,14『HUNTING TIME ~地獄の残り火~』

 

 

 

男が一人、路地裏から人混み溢れる街中に現れた。

今この『世界』に起きている事態を知りながらも自分達とは無縁だと言い張るような雑踏。

彼らの感じる一秒の間に、どれほどの怪物が蠢いているのかすらも知らないままで。

男は独り、人間の群れの中に歩いていく。

 

周囲の人々から向けられる視線に、かつてのような好奇の視線は見受けられない。

まるでそこに存在していない幽霊であるかのように、男は人混みの中に紛れていく。

 

男は独り、何を思ったか振り返る。

 

自分の視線の先にあるのは、宇宙から来た生命体『ワーム』と共に飛来した二度目の隕石の

直撃を受けて倒壊してしまったこの都市のシンボルだった金属とコンクリートの残骸。

ソレを見ている男の目には、感情と呼べるほどのものは無かった。

 

男は独り、ゆっくりと歩き出す。

 

人の気配から遠ざかるように歩を進め、崩れ去った廃墟に向かって行く。

彼の向かっている場所にはかつての人類の防衛拠点『ZECT』の本部があった。

しかし今はもう見る影も無く、むき出しの鉄骨と腐って砕けた灰白色の破片が散乱している。

男は独り、ようやく足を止める。

 

履いている黒色の革靴にはもう地面に散らばる残骸の粉末が付着して汚れているが、

本人は気にせず廃墟の一つを目で見つめてため息をつく。

 

 

「……………………………またか」

 

 

半分苛立つように、半分呆れるように男は呟く。

すると廃墟の中から呟きを聞いた、別の男が姿を現した。

 

「ああ、まただ。だが仕方ないだろう、それが組織というものだ」

 

 

高級ブランド物のスーツで身を包んだ知的な印象を抱かせる眼鏡の男はそう語る。

その言葉は聞き飽きた、と言いたげな表情をする最初の男を見て続けて小さく呟く。

 

 

「君ならその辺りはよく知っていると思ったがな」

 

「…………………………昔の話だ」

 

「昔、ね。だがそれは今になっているな。何せ今の君は我々の仲間なのだから」

 

「………………要件があるんなら早く言え、お前も暇じゃないんだろ『三島』」

 

 

三島と呼ばれた眼鏡の男は、元々釣り気味だった目をさらに上げて睨みつける。

人間が出せるとは思えないほどの殺気を纏った視線にも、男は身構える事は無かった。

効果が無いと最初から知っていたのか、三島は眼鏡の奥の瞳の殺気を素直に消した。

 

 

「その名をここで呼ぶな。ヤツらワームには印象が良くない名前だからな」

 

「……………自分のコピー元、オリジナルの名前なのにか?」

 

「余計な事は喋るな。お前は黙って命令を実行していればいいんだ」

 

先程の怒りが覚めていないのか、若干喧嘩腰になって三島は男に詰め寄る。

男の方はさっきと同じように気にも留めずに、三島の話の続きを促す。

 

「………………そうだな。それで、次の命令は?」

 

「今度は簡単だ、さっきよりもな。女と子供を(さら)ってくればそれでいい」

 

「…………女と、子供?」

 

 

そうだ、と言って三島は上着のポケットから二枚の写真を取り出す。

そこには盗撮されたような角度で、母親と娘のような二人が映っていた。

男は写真を受け取って確認し、黙って廃墟の中へと踏み込む。

彼はそこを寝ぐらにしていた。それを知っていた三島がわざわざここへ来たのだ。

三島は自分の横を通り過ぎて行く男に背を向けながら、ただ一言告げる。

 

 

「次でお前の求めるものに手が届くぞ。抜かるなよ、『ビャクヤ』」

 

「…………………俺が求めるのはいつだって、闇の底にある」

 

ビャクヤと呼ばれた男はそのまま、沈みかけた夕日を背に廃墟の中に消える。

三島は要件は伝えたとばかりに歩いて瓦礫の山から出て行く。

その小奇麗な後ろ姿を見送りながら、ビャクヤは写真を見て悲しげに呟いた。

 

 

「………………いや、闇の底にしかない。ここまで堕ちた俺にしか、見えない『光』が」

 

 

ビャクヤの後ろにいた一匹のカマキリだけが、彼の言葉を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士とユウスケと夏海の三人は、今とっても困っていた。

彼らが今いるのは先程までいた比較的庶民感漂う洋食店では無く、豪奢な城の門前。

一体どうしてこんなことになっているのか、それはほんの三十分前に遡る。

 

 

 

士達は天道達とこの世界についての様々な事を聞いていた。

ワームについて、クロックアップシステムについての事など。

ところがここに三度目の来訪者が扉を蹴破るような勢いで現れたのだ。

白いスーツを完璧に着こなした才女、名前を『岬 祐月(ゆづき)』というらしい。

彼女は店に乱入してくるや否や天道と加賀美には目もくれず、士を見つけて怒鳴りだした。

そのまま士の手を引いて自分の乗ってきた高級車に無理やり乗せて去ってしまった。

残されたユウスケと夏海は、ユウスケの持つバイクに乗って士の後を追ったのだ。

そうして辿り着いた場所で呆然と立っていた士を見つけ、三人で並んで突っ伏していた。

 

 

自分の記憶が正しいことを思い返しながら、士はここまでの出来事を思い出す。

とりあえず現状を把握しようと周囲を見回すが、自分と同じように立っている二人しか

目に入らず、無駄なことだったかと諦めて先程城の中へと行ってしまった女性を待つことにした。

するとちょうど巨大な両開きの扉を押し開けて階段を下りてくる女性と目があった。

 

「おいアンタ、一体何のつもりだよ」

 

 

高圧的に女性に詰め寄る士だが、その格好はコックが着るあの白い服である為

如何せん迫力が無い。相手もそう思ったのか高圧的な態度を返すように話しかけてきた。

 

 

「何って、どうもこうもないわよ」

 

「だから、どうして俺がここまで連れてこられたのかって事だ」

 

「あなたね、自分の立場を分かってないの⁉」

 

 

女性は士の胸倉を掴む勢いだが、女性の身長はちょうど士の胸元辺りまでしかない。

だから仕方ないというべきか、思ったよりも迫力が無くなってしまった為に士に余裕が生まれる。

士は一歩踏み出してさっきよりも態度を大きくして女性に話しかけた。

 

 

「俺様の立場は常に最上級だ。どの世界にいってもチヤホヤされっぱなしでな!」

 

「あなた、何言ってるの?」

 

「日本語」

 

「バカにしてるの⁉」

 

「ああ、してる」

士とのやり取りにさらに苛立ちが募った女性が目つきを鋭くさせる。

ようやく二人の雰囲気が険悪になっているのに気付いたユウスケと夏海が女性に何とか

話をつけようとするが、全く聞く耳を持たない。

すると女性がやってきた城の中から、燕尾服を来た白髪の老人がヨタヨタと歩いてきた。

老人は女性と士達を見つけるや否や、しわがれてはいない音程の声で謝罪し始めた。

 

 

「も、申し訳ございません! 貴方がたのお話は岬お嬢様から伺っております!

御気を悪くされたようでしたら、この(じい)やめがいくらでも頭をお下げいたします!」

 

「じ、じいやさん! 頭を下げないで、ちょっ‼」

 

「………………士、何がどうなってるの?」

 

「………………俺に聞くな」

 

 

眼前で起こっている出来事に脳内での処理が追いつかなくなった三人はうなだれる。

その場で突っ立っているわけにもいかず、後から現れた『じいや』という老人に促される

ままに大きな城の中へと足を踏み入れた。

最初に士達の目に留まったのは、金色の光で自分達とロビーを照らしているシャンデリア。

まるで最初からそこに存在するためだけに作られたかのようなソレを見て、庶民の二人は

感動の吐息を漏らし、士は黙って首元にぶら下げたカメラで城内を撮影し始める。

じいやに導かれるままに、おとぎ話に出てくるような城の中を見て回った三人は最後に

食堂に連れてこられ、ここでしばらく待つように言われた。

 

 

「いやぁ~、それにしても凄いところだな士!」

 

「ま、ようやく世界が俺の要望に応えられるようになったってところか?」

 

「何偉そうなこと言ってるんですか、士君」

 

「偉そう、じゃねぇ。偉いんだよ」

 

 

普段の生活では決して座れないような、金で縁取られた豪勢な椅子に座る三人。

椅子の脚の部分が緩やかな曲線を描いていて、三人が座るのに足が邪魔にならない。

あまりに高価なものが溢れすぎている食堂で彼ら三人は完全に浮いてしまっていた。

しばらくすると、正装に着替えた女性と老人が現れて対面座席に座って挨拶をした。

 

 

「まず最初に貴方への非礼は詫びます。本当にごめんなさい」

 

「ま、謝れただけマシか」

 

「士君!」

 

「…………まあいいわ。自己紹介がまだだったわね、私は岬 祐月。

隣に居るのは私の、と言うよりこの館の当主の執事を務めていたじいやさんよ」

 

「先程のご無礼、どうかお許しください」

 

自己紹介と共に深々と三人に頭を下げるじいやという老人にユウスケはかしこまる。

夏海は気にしていないと手を振るが、士だけは完全に図に乗っていた。

そんな不遜な態度の士を見かねて、とうとう夏海は奥の手を出してしまった。

 

 

「光家秘伝・笑いのツボ‼」

 

「いだっ! _________________ふっはははは‼ や、やめろ夏ミカン‼」

 

「出た、夏海ちゃんの必殺技!」

 

「え、何? 何で笑ってるの?」

 

「ど、どこかお体の具合でも?」

 

 

岬がバカを見るまなざしで士を蔑み、じいやは心底心配そうに士を眺める。

しばらくしてから笑いの治まった士は、夏海のいる手前大人しくなった。

一番の不安要因を(強制的に)黙らせた彼女は、そのまま会話の主導権を握る。

 

 

「すみませんでした、士君は本当に他人を思いやれない人なので」

 

「オイ、今なんつった夏ミカン」

 

「ああ、やっぱり。それは仕方ないですね」

 

「岬お嬢様! お客様にそのような言葉は慎まれた方が」

 

「そうだそうだ、言ったれ爺さん」

 

「士、ちょっとだけでいいから黙ってろよ、な?」

 

 

とうとうユウスケにまで邪魔扱いされた士は拗ねて、カメラをいじりだした。

そんな彼を放っておいてどんどん話を進めて行く岬と夏海の二人。

 

 

「それで、どうして士君がここに連れてこられたんですか?」

 

「その事については、彼自身が知っているはずなんですが………」

 

「士、どうなんだよ」

 

「……………………………………」

 

「ちょっと士君! 拗ねてないで話してください!」

 

「士様、お飲物でもお出ししましょうか?」

 

 

ユウスケの言ったように黙ってしまった士に、じいやは優しく話しかける。

じいやの言葉に無言のまま頷いた士を見て、夏海とユウスケは微妙な顔になった。

飲み物を取りに出て行ったじいやを除いた三人で話は続けられる。

 

 

「何故私が彼を連れて行ったか、それは多分彼の持ち物に関係があります」

 

「持ち物、ですか?」

 

「ええ。彼は多分、生前ここの当主が持っていた物を所持している

可能性があります。というより、ほぼ間違いなくそうです」

 

「………………士君、出してください」

 

「士様、紅茶でございます」

「知らねえよ。俺が持ってるのはカメラだけだ」

 

 

話をしている間にじいやが戻り、紅茶を士の前にそっと置く。

それで少しだけ機嫌が直ったのか、手持ちのカメラをぶら下げて不機嫌そうに呟く。

夏海はそれを信じて岬の方を見るが、彼女は士に食って掛かるように詰め寄る。

 

 

「いいえ持っているはずよ。彼の持っていた形見のハンカチを!」

 

「だから知らね……………いや、待て。ハンカチだと?」

 

「もしや、ご存知なのですか⁉」

 

「ハンカチなら、確かコッチに……………あった、コレか?」

 

「そう、ソレよ‼」

 

士が懐をまさぐって取り出した純白のハンカチを見て、岬が立ち上がる。

そのまま士の手からハンカチを取り上げ、細部まで見逃しの無いように凝視する。

手触りやハンカチの縫い方、そして隅に施された『ノブレス・オブリージュ』の刺繍。

これらを全て確認した後で、岬は心の底から安心したようにハンカチをたたむ。

 

 

「良かった……………(つるぎ)君のお父様の形見が戻ってきて……………」

 

「本当にようございました。やはり、正統な後継者は貴方だったのですね‼」

 

 

泣き出しそうな岬の肩を支えて、じいやが感動したように士に視線を向ける。

当の士は何のことだか分からないまま、ただ突然の出来事にあたふたしていた。

その横にいたユウスケと夏海もまた、何が起きているのか分からず動揺していた。

しばらくして治まったのか、岬とじいやがそろって椅子に座りなおって話を始める。

 

 

「夏海さん、でしたか。先程も言ったように、彼を連れてきた理由はこれです。

このハンカチはここ、『ディスカビル家』の先々代当主の形見だったんです。

それが先代当主に継承されたんですが、彼の死後、行方が分からなくなってしまって」

 

「そんな事があったんですか…………………」

 

 

声が震えて涙交じりになっているのも構わず、岬がハンカチの事を語る。

話を聞いたユウスケと夏海は、士が何故そんな物を持っていたのか疑問に思った。

二人の視線を受けて言いたい事を悟ったのか、カメラをいじる手を止めて呟く。

 

 

「ホントに知らんぞ俺は。ハンカチがあったのは知ってたが、そんな物だとは」

 

「…………………士君、正直に話してください」

 

「お前ホントいい加減にしろよ夏ミカン、俺はな」

 

「まあまあ、お二人とも。紅茶でも飲んで一息ついてはいかがでしょう」

 

険悪な雰囲気になりかけた士と夏海の間に、じいやが割り込んで仲裁する。

どこか高貴な香りを漂わせるティーポットを持って、カップを新たに並べて中に紅茶を注ぐ。

香りにつられた二人とユウスケはカップを手に取って、グッと傾けて一気に飲み干す。

 

 

「こ、これは……………落ち着くぅ」

 

「ホントですね、美味しい」

 

「この香りと味は………………バラを使ってるんだな、じいさん」

 

 

カップに注がれた紅茶を飲み干した三人は思い思いの感想を述べるが、士一人だけは紅茶に

使われた植物を言い当てた。岬とじいやの二人は、その事に少しではあるが驚いていた。

 

 

「士様は、紅茶も(たしな)まれるのですね」

 

「ん? いや、なんかそんな気がしただけだ」

 

「貴方って、意外と紅茶の違いが分かる人間だったのね。少し驚いたわ」

 

「ああそうかい。ところでじいさん、このバラもディスカビル家とやらの御用達なのか?」

 

「………………………………」

 

 

つい先ほどまで穏やかな笑顔を浮かべていた老人が、引き締まった顔つきになって強張る。

一体どうしたのかと夏海とユウスケが気遣うが、何でもないと言うように手を振る。

そして何かを決心したようにじいやは顔つきを鋭くして、士の問いかけに応えた。

 

 

「このバラの紅茶は、先代当主の剣坊ちゃまが心底嫌悪なされた一品でございます」

 

「…………嫌悪? 自慢の一品じゃないのか?」

 

「ハイ。実は先代の剣坊ちゃまには、お姉様がいらっしゃいました。

御二人はとても仲睦まじく、御二方の幸せはいつまでも続くと思っておりました」

 

 

じいやの話が始まった途端、岬が下を向いて肩を震わせ始めた。

夏海が彼女を心配する横で、じいやが話をゆっくりとだが続けていた。

 

 

「ですが、とある清々しい穏やかな昼下がりの事でした…………………。

御二人は少し離れた場所にある庭園で優雅に御茶を楽しんでおられたのですが、

そこに一体のワームが現れて、剣坊ちゃまのお姉様を殺害したのです」

「え………………」

 

「お姉さんを、か。俺にとっての姐さんみたいなもんかな………………」

 

先代の話を聞くにつれて明らかになった過去に、ユウスケが反応した。

彼もまた自分がかつて暮らしていた『クウガの世界』での思い出を思い出す。

ユウスケが愛し、慕っていた一人の女性と、見知らぬ女性を重ね合わせて。

 

「目の前でお姉様を惨殺された坊ちゃまは、一人復讐を誓ったのです。

サソリの姿を模した、スコルピオワームに」

 

「なるほど、大体分かった」

 

「え⁉」

 

「要するに、そのサソリのワームと戦って惨敗しちまった先代とやらの

(かたき)を取ればいいんだな?」

 

 

椅子から立ち上がってそう豪語した士だったが、じいやは困ったような顔になる。

岬もまたじいやと同様でやはり困ったような表情をしているが、士は全く気付かない。

そのまま食堂を歩き回りながら、独自の世界観に浸り始めた。

 

 

「まあ任せておけ。俺にかかればワーム程度相手にはならないしな。

これがこの世界での俺の『役割』だとしたら、楽勝にもほどがあるぜ」

 

「こ、この世界? 役割?」

 

「士様、一体それは何のことでございましょうか……………?」

 

「あ、気にしないでください。コッチの話ですから」

 

 

士がうっかり漏らした言葉に違和感を覚えた二人だったが、ユウスケがフォローする。

その後椅子に座りなおした士が、急に真面目な顔に戻って自分で遮った話を戻す。

 

 

「それで、あのハンカチを戻したら俺がここに居る理由はもう無いのか?」

 

「いえ、まだございます」

 

「え、まだあるんですか?」

 

「ハイ。士様は正式に『ノブレス・オブリージュ』のハンカチを継承なされた御方。

であれば、この力を授けるに相応しいかどうかのテストを受けていただくことになります」

 

「テスト?」

 

 

帰れるんじゃないのか、と心底残念そうに嘆いた士にユウスケと夏海も同意した。

だが岬はおろか優し気なじいやですらも怒りを含んだような表情になって語りだす。

 

 

「左様でございます、士様。これは非常に名誉あることですぞ!

単なる平民がこのイギリスの名門たるディスカビル家を継ぐ機会を得るなど‼」

 

「何か腹の立つ言い方だったぞ、爺さん」

 

「士君、だったかしら? この試験は受けるか受けないか、貴方に拒否権は無いわ。

今この世界において、ライダーシステムの資格者は必要不可欠なの。

だから例え血反吐を吐いてでも、『サソードゼクター』の資格者になってもらうわ!」

 

 

じいやが態度を一変させる最中、岬は食堂の端にある暖炉の上に崇められるようにして

供えられていた異様にメカチックな一振りの剣を持ち出し、士に突き出した。

困惑する士を差し置いて、じいやと岬の二人はジリジリとにじり寄る。

とうとう互いの距離がゼロになりかけたその時、食堂のステンドグラスが粉々に砕かれて

至るところに飛び散り、予期せぬ闖入者の来訪を高らかに、激しく告げた。

 

 

「やはり隠し持っていたな、あの世間知らずの遺した最後のゼクターを‼」

 

突然の事に誰もが驚いたが、特に岬と士の二人がこの場に居る誰よりも驚いていた。

その二人だけしか、やって来た脅威の脅威たる理由を知らなかったのだから。

 

 

「さあ、ソイツを寄越せ人間。いや、我々に返上しろ…………………なあ、岬?」

 

「………………やはり、貴方も関わっていたのね‼」

 

 

色とりどりのステンドグラスが舞い散る中、それは優雅な足取りで歩み寄る。

 

胸部を守る分厚く強固なメタルイエローの鎧に、腹部に伸びる針状の計測器。

左腕には腕輪の上に装着されたブレスに巨大なハチを模した機械のようなものが鎮座している。

胴部の鎧から両肩にかけて伸びているのは、鋼色のスズメバチのような翅の形状のアーマー。

頭部は同じくメタルイエローの装甲に包まれていて、そこから覗く狡猾に歪んだ鈍色の

昆虫の複眼のような構造になっている双眸。そしてそこから伸びる二本の触覚。

 

そこに現れたのは、組織を束ねる統率者の化身。

微々たる個であろうと全てを自らの支配下とし、完全たる集団を形成し敵を抹殺する。

まさしく『調和(ハーモニー)』と共にあり、『不協和音(コンクルード)』を許さない自然界の縦社会の縮図。

 

___________彼こそは【仮面ライダーザビー】

 

 

ザビーはゆっくりと岬に歩み寄り、その腕で抱き締めている剣を一点に見つめる。

だが彼と彼女の間に、ゆったりと場の空気を読まないように一人の男が割り込んできた。

知らない男に行く手を遮られたザビーは不快げに舌打ちして、瞬時に殺気を放ち始める。

しかし、そのドス黒い殺気でさえも、この男には届かない。

 

 

「テストに何を用意してたかは知らんが、要するに実力を見せればいいんだろ?

だったらちょうどいい、ザビー程度なら軽く叩きのめせるってとこ見せてやるぜ」

 

 

懐からザビーには見慣れないバックルと取り出して、同じく見知らぬカードを取り出した

謎の男に対して、一応の警戒だけはしておく。

だがその慢心こそが、ザビーの最大の間違いだった。

その事に気付かせるように、男の持つカードが装着されたバックルに装填され、起動する。

唐突に聞こえた電子音声。その直後に目の前で起きた事実。

仮面の下で、ザビーの資格者は驚愕で声も出せなくなっていた。

 

何故、何故。どうして、どうして。

馬鹿な、馬鹿な。ありえない、ありえない。

 

ゼクターを使用しないライダーなんて、存在するわけが無い。

 

 

そんな彼の心中の叫びを打ち砕くように、目の前の男の姿が変化する。

 

 

【KAMEN RIDE DECADE】

 

 

マゼンタカラーの悪魔が、メタルイエローの支配者と対峙した。

 

 

 






ようやく進展させることが出来ました。
このままこのペースを維持していきたいんですが、
もしかしたら今以上に更新が遅くなってしまうかもしれません。

そうなってしまいそうな場合は一応事前に報告しておきますが、
そのような状況になってしまったとしても、どうぞ応援してください!


それでは次回、Ep,15『WHITE Night ~果たせぬ誓い~』

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