仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

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読者の皆様、実に三週間ぶりでございます。

他の投稿作品が思うように投稿できなかったために
こちらの投稿がとても遅れてしまって申し訳ありません。


そんなこんなで、それでは、どうぞ!


Ep,13『WIND RHAPSODY ~花が散り風は止む~』

 

明るい真昼時の日差しが窓辺から差し込む『Bistro la Salle』の中に、一人の男が来店した。

その男は優雅でありながらみなぎる自信を主張するかのような足取りで店内を闊歩する。

店のテーブルに座っていた士達は突然の登場に驚いていたが、彼らよりも驚いた男がいた。

他ならぬ加賀美その人だ。

 

 

「天道‼ お前、今までどこにいたんだよ‼」

 

「やかましいぞ加賀美。お前の声は四年経っても衰えないのか、鬱陶しい」

 

「な、何だその言い方は‼ ……………でも本物だ、本物の天道だ」

 

「当然だ。俺こそが天道 総司、俺こそが天の道を歩む男…………」

 

 

加賀美が興奮気味に話しかけてもサラリと受け流した天道は再び右手を上にあげて

人差し指をしっかりと伸ばし、その指先を焦がれるような目で見つめ始めた。

しばらくそうやっていたが、やがてゆっくりと手を戻して正面に向き直る。

その正面には、厨房にいたはずの少女が緊張した面持ちで立っていた。

 

 

「て、天道………………」

 

「ひよりか、久しぶりだな。調子はどうだ?」

 

「あ、うん。まあそれなり、かな」

 

「ちょっとちょっと天道君久しぶりじゃない‼」

 

「弓子さんか、久しぶりだな」

 

「ホント、四年ぶりよね。それで、その人本当に天道君のお嫁さんなの⁉」

 

ひよりの調子を尋ね、天道は先程から浮かべていた表情を崩して微笑む。

そんな二人の間に割り込むようにして弓子が天道との再会を喜んだ。

そして先程の彼の発言を確かめる様に話を切り出し、彼もそれに答えた。

 

 

「そうだ。天道 アゲハ、俺が三年前に知り合って同居した。

そしてそこにいるのが俺の娘の天道 優未恵、二年前に生まれた」

 

「へ~~! 意外だわホント、天道君が結婚して子供まで作るなんて‼」

 

「天道………………お祝儀袋、用意してない」

 

「そんな物必要ない。それよりもひより、俺とアゲハにサバ味噌を作ってくれ」

 

そう言って天道は厨房に近い席に座り、アゲハも今座っている席からそこに移った。

オレンジジュースを飲んでいた少女__________優未恵もよたよたと歩いて移動した。

アゲハは自力で椅子に座れない優未恵を抱きかかえ、自分の隣に座らせた。

椅子に座ってから身じろぎせずに持っているジュースを飲む少女を見て加賀美が唸る。

 

「しかし天道がなぁ……………優未恵ちゃん、だっけ? 大人しいんだな」

 

「俺が教育しているからな。あらゆる作法や行儀を、完璧かつ完全に」

 

「お、お前…………ソレってモンスターペアレントってヤツじゃないか?」

 

「うるさいぞ加賀美。ひより、サバ味噌を早く作ってくれ」

 

加賀美の言葉を真っ向から切り捨て、立っているひよりをせかす。

だが当のひよりは動かず、申し訳なさそうな表情のまま立ち尽くしている。

それを見て座っていた夏海が立ち上がって、天道の前に歩み寄った。

 

 

「あ、あの…………サバ味噌は私達で最後だったようで」

 

「何?」

 

「その、ごめんなさい!」

 

 

頭を下げる夏海に、天道は面食らってしまった。

そんな天道の正面に座っていたアゲハは、天道に優しく語り掛ける。

 

 

「総司さん、この方たちは先程私とこの子を助けてくださったのです」

 

「…………………どういう事だ」

 

「それは、その………」

 

「なあ、聞いてもいいか?」

 

 

天道がアゲハの言葉を聞いて夏海を冷ややかな目で睨んだ直後、士が立ち上がった。

そして士は夏海の横まで歩き、ふてぶてしい態度で座る天道を上から見下ろす。

士の視線に気付いた天道は同じく立ち上がって、士と同じ目線に立って口を開く。

 

 

「お前は誰だ? まずはそこからだ」

 

「俺は別の世界から来た通りすがりの仮面ライダー、門矢 士だ」

 

「…………………?」

 

「ま、覚えておけ。さあ名乗ったんだ、こっちの質問に答えてもらうぜ」

 

「断る。俺達は今からひよりのサバ味噌を食べる」

 

「ああ、そのサバ味噌なら俺達でラストだ。悪かったな」

 

「何だと?」

 

「在庫切れだそうだ、また出直して来な」

 

「……………………………」

 

 

二人の間に流れる空気が、より一層険悪なものになっていく。

何故初対面であるはずなのにこうも互いの仲が悪くなっていくのだろうか。

ユウスケは二人を交互に見比べてからある一つの結論に至った。

 

 

「ああなるほど、二人とも似たタイプだから嫌ってるのか?」

 

「ユウスケ?」

 

「アレだよアレ。ほら、よく言うじゃん…………………えっと、同族険悪?」

 

夏海と加賀美がユウスケの言葉に首を傾げる。

ユウスケは何だったっけとひたすら考えるが、思うようにいかない。

すると店の扉が優しく開き、カウベルがカランカランと鳴って来客を告げた。

 

 

「________________それを言うなら、同族嫌悪、でしょ?」

 

昼下がりの穏やかな日差しを背に受けて、高めの少女の声が響く。

キッチリと統一された規則正しい学生の服装に、学生が所持する指定カバン。

スラリと伸びている脚は未だ発育途上ながらも、将来性を感じさせるもので、

着ている学生服や身長とは裏腹に、少しくたびれた幼いニット帽を被っている。

 

突然現れた少女の言葉に、ユウスケは納得いったように声を上げて頷く。

 

 

「そうそう、それそれ! …………………って誰?」

 

「おじさんこそ誰? ってどうでもいいや。それより弓子さーん!」

 

少女はユウスケをおじさん呼ばわりして切り捨て、厨房に駆け込む。

普通の客なら厨房になど入りはしないが、この店は随分フランクなようだ。

厨房にいた弓子は少女の声に気付いて振り返り、また驚いたような声を上げた。

 

 

「あらゴンちゃん、もう学校終わったの?」

 

「えへへ、抜けてきちゃった」

 

「ダメじゃない、また先生とお母さんに怒られるわよ~?」

 

「だって……………大介が今日帰って来るって」

 

「あら、風間君が?」

 

「うん。だからここで待ってることにしたの」

 

「んもう、仕方ない…………ちょっとだけよ?」

 

「ありがとーー! 弓子さん大好き‼」

 

 

弓子にゴンと呼ばれた中学生のような恰好の少女は黄色い声を上げる。

その真後ろで、士と天道はさらに雰囲気の悪さを悪化させていた。

 

 

「同族嫌悪? バカ言うなチョビスケ、俺がこんなのと同族な訳あるか」

 

「同族嫌悪? バカを言うなゴン、この俺とコイツが同等な訳があるか」

 

「…………………案外合ってるかも」

 

 

士と天道が同時にゴンの言葉を否定し、それを見た夏海がこっそり笑う。

お互いの行動がゴンの言葉を証明したことに、二人はさらに苛立って睨み合う。

ひよりと弓子は怯えるが、ゴンがそこに割り入って仲裁する。

 

 

「天の道を行くお兄さんも、巻き毛のイカしたお兄さんも落ち着いてってば。

ここはご飯を食べるところなんだから、ケンカなんてしちゃ駄目だよ。

ねえ天の道を行くお兄さん、そうだよね?」

 

「…………ゴンの言う通りだ」

 

「……………ふん」

 

 

ゴンの言葉に毒気を抜かれた二人は互いの席に戻ってドッカリと座り込む。

全く同じタイミングだったことに、その場にいた全員が笑いを堪え切れなかった。

その一瞬和んだ空気の隙を突いて、黙っていたアゲハがゆっくり口を開いた。

 

 

「ごめんなさい皆さん。総司さんは向こうにいた頃からこのお店の話をすると

必ず『お前にひよりのサバ味噌を必ず食わせてやるから』と息巻いておりまして。

それが果たせなかった事がどうにもお悔しいようで……………士さん、でしたか?

どうぞお許しくださいな」

 

「あ、ああ…………まあ別に」

 

「ホンットすみませんねアゲハさん、それと旦那さん! 士がご迷惑を」

 

「おいユウスケ、お前な…………」

 

「お優しい方ですね、ユウスケさん?」

 

「い、いやぁ……………ハハハ」

 

「…………このおじさん、美人さんに褒められたかったんだ」

 

「最低ですねユウスケ」

 

ゴンが漏らした呟きを聞いた夏海が白んだ視線をユウスケに浴びせる。

誤解だと叫ぶユウスケを中心に、またも笑いが渦を巻いて沸き起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、本当に他の世界のライダーなのか……………」

 

「ゼクターを用いない変身か、興味深い」

 

「ま、俺らの事を信じてもらえて何よりだ」

 

「では、この世界の事についても教えてもらえますか?」

 

 

一息ついてから加賀美と天道、士達は近くのテーブルに寄って会議を始めていた。

士達はこの『カブトの世界』の現状についてを話す前に自分達の事を話した。

仮面ライダーディケイドの事、仮面ライダークウガの事。

九つの世界の事、世界の崩壊と消滅の事、そして新たな世界の誕生の事。

初めはもちろん信じてはもらえなかったが、夏海の真摯な態度が良く働いたのか

アゲハが助け舟を出したおかげで天道を納得させることに成功したのだった。

そして今、夏海が加賀美たちにこの世界の現状を率直に聞き始めた。

夏海の問いかけに、まずは加賀美が答えた。

 

 

「そうだな…………確かアンタ達の世界とやらにもカブトがいたんだろ?」

 

「ええ、でもこちらとは全然…………」

 

「なら、ワームは知ってる?」

 

「ハイ、人間に化ける虫みたいなヤツでしたよね?」

 

「まあそんな感じだ、それなr「もういい、俺が話すからお前は黙っていろ」………オイ!」

 

加賀美の言葉を遮って天道が口を開く。

そこから、カブトの世界の『今』が明かされた。

 

 

「ワームとは、1999年に東京の渋谷に降ってきた隕石の中に紛れていた生命体で

人間の外見から性格、特徴や記憶すらも完璧に模倣する『擬態能力』を持っている。

さらに言えば、『クロックアップ』という人間では太刀打ち出来ない能力も保有する」

 

「あ、ソレ知ってます! 凄い速さで移動できるってヤツですよね‼」

 

「………………そのユウスケとやらは加賀美と同類のようだな」

 

「ああ、そこだけは同意見だ」

 

「オイ、どういう意味だよ天道」

 

「話を続けるぞ、ワームの『クロックアップ』についてだが」

 

 

 

 

______________クロックアップ。

 

 

地球外生命体のワームが保有する二つの能力の内の一つであり、最強の能力。

ここでは天道に代わってクロックアップの細かい解説を行わせてもらおう。

まずクロックアップとは、どのような能力であるのか。

ユウスケが言っていた、いわゆる高速移動の能力などではない。

クロックアップとは、『時間の流れを変動させ、その流れの中を移動する』能力だ。

解りやすく言えば、高速移動ではなく局地的な時間操作の能力である。

数学で使われる、x軸とy軸のグラフを用いた計算式がある。

コレはクロックアップの説明にはもってこいであるため、活用させて貰おう。

(x=0、y=0)という計算式は、x軸とy軸の交差する中心点の事を指す。

この部分が、今私達が生活している『普通の時間軸』ということにしよう。

クロックアップはこの時間軸を時間の流れを変動させる事によって変化させることだ。

(x=0、y=2)が、クロックアップを使った時の時間軸とすればよく解る。

xの軸(空間)は同じだが、yの軸(時間)は通常の時間軸とは全く別の位置に存在する。

通常の時間軸が一分を60秒とするが、クロックアップの時間軸ではそうはならない。

一分が2秒、あるいは3秒といったように、流れる時間の速度が異なるのだ。

 

高速移動とは、文字通りに移動する速度を増大させることだ。

しかし速度を上げれば上げるほど、周囲の空気が速度に耐え切れずに急速な移動をする。

いわゆる衝撃波やソニックウェーブというヤツがそれにあたるわけだ。

しかしクロックアップは、周囲の空気の流れる時間の速度も操作している訳だから

そういった空気の変動も起こらない。クロックアップの速度で動いているのだから。

 

この超常的な現象を引き起こすカギは、『タキオン粒子』という素粒子にある。

タキオン粒子とは、ワームの体内で生成される地球上には存在しない特殊な素粒子だ。

地球上には無かったが為に、その特異な能力はまさしく全地球上の生命体にとって

脅威以外の何物でもない。そこで人類はこの素粒子を解析し始めた。

時が経ち、ある者の協力によって遂にタキオン粒子を生成するベルトが開発された。

それこそがこの『カブトの世界』のライダーベルトである。

 

 

 

 

 

 

「_______________と、言うわけだ」

 

「………………???」

 

「………………???」

 

「なるほど、大体分かった」

 

 

クロックアップについての説明が終わり、ユウスケと夏海の頭には疑問符が浮かぶ。

逆に士は理解出来たと宣言し、加賀美が士を驚愕を飛び越えた驚きの目で見つめる。

そんな彼らの反応をさておいて、天道が弓子の持ってきたコーヒーを飲んで続ける。

 

 

「そこいらでクロックアップの説明はいいだろう。

次は今現在の状況か…………………どこから話せばいいか、そうだな。

1999年にヤツらがこの地球の侵略を人知れず開始してから数年後に、ゼクターが開発され

俺達ライダーが誕生した。そして全てのワームを殲滅するため、行動を開始した。

どいつもこいつも役に立たない連中だったが、俺の力で全てのワームを打ち滅ぼした」

 

「オイ天道ちょっと待て」

 

「だがワームには亜種が存在した。『ネイティブ』という角の生えたワームだ。

ソイツらはワームとは違って、戦闘能力はほぼ皆無といって等しい下等種だったが

ワームはネイティブを虐殺しようとした。理由は連中の卓越した頭脳によるものだ。

実際、人間の対ワーム用切札である『マスクドライダーシステム』を作ったのも彼らで

ネイティブは俺達ライダーにワームを滅ぼさせ、改めて自分達の科学力で地球上の

人間をワームに変えるという装置を起動させてこの地球を支配しようとした」

 

「それを止めたのが、お、れ、と、天道の二人だ」

 

「…………その装置によってネイティブ化した人間は、存在しない。

すんでのところでネイティブ化する装置を破壊した、俺g「俺と‼」………俺と加賀美が」

 

「そんで、平和な世界に戻ったんだけどな……………」

 

「だがそこから三年後、つまり今から一年前にワームは再びこの地球に戻ってきた。

前回同様、巨大な隕石と共に。だが今回は人類側も対策は打っていた。

人類の力で生み出した新たな二人のライダーが隕石の破壊に向かった。

【マスクドライダーヘラクス】と【マスクドライダーケタロス】がな」

 

「え、あの、ちょっと待ってください‼」

 

 

天道と加賀美の話を遮って、夏海が声を荒げた。

ユウスケと士が見つめる横で、夏海は天道の方を向いて疑問をぶつける。

 

 

「隕石の破壊にって…………仮面ライダーが宇宙に行ったんですか⁉」

 

「ああ、そうだ」

 

「宇宙局ってのが出来たんだよ。ワーム対策にね」

 

「別段不思議じゃねえだろ夏ミカン。【仮面ライダーBLACK RX】だって宇宙に行って

太陽の超パワーを体に宿して復活したんだから」

 

「そ、それもそうですね。すみません、続けてください」

 

夏海が興奮気味になった気分を抑える様に息を大きく吐き、椅子に座る。

離れた席では、ひよりとゴンと弓子が優未恵と一緒に遊んでいた。

そんな小さな喧騒を無視して天道が夏海に促されて話を戻した。

 

 

「ところが、宇宙局から二人のライダーが隕石の破壊工作を始めようとした直後、

その二人は殺された。相手は宇宙局に潜伏していたらしく、隕石は宇宙局を素通り

地球に飛来し、再びワームと人類の終わらない抗争の日々が始まった」

 

「俺と天道とあと一人のライダーが三人で戦えば何とかなるって思ってたけど、

現実は甘くはなかった…………………向こうも既に、ライダーへの対策を立ててたんだ」

話を区切って再びコーヒーを飲む天道と俯いたままの加賀美。

ユウスケが話の続きを催促しようとした瞬間に、天道の口が開いた。

 

 

「今回攻めてきたのは、ネイティブが支配したワームの軍勢だった。

単純に攻めてくるワームだけならともかく、知能を持って攻め込むネイティブの

頭脳が加わったせいで、ワーム達の討伐が非常に困難を極めるようになった」

 

「何度も何度も危ない目にあったぜ……………天道が急にいなくなるから」

 

「俺抜きで抑えられないとは、情けないぞ加賀美」

 

「仕方ないだろ! アイツらがまさかZECTを乗っ取るなんて予想できるか‼」

 

「ゼクトが乗っ取られたんですか⁉」

「………………ああ、ネイティブの手に落ちた」

 

 

悔しそうに両手を振るわせる加賀美を夏海は黙って見つめる。

天道は横目でわずかにアゲハと優未恵を視界に収め、また向き直った。

 

 

「ZECTを乗っ取られ、人類の対抗手段は激減した。

今となっては、人類とネイティブ達の割合は同じかもしれない」

 

「そ、そんなに………………」

 

「こうなったのも、全部『アイツ』のせいだ‼」

 

 

今まで俯いていた加賀美が大声と共に急に立ち上がった。

周囲にいた者は驚いたが、ただ一人冷静だった天道が小さく息を吐く。

彼の目線はただただ、日の沈む西の方角を向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士達が集まっている『ビストロ・ラ・サル』から西に向かって約2kmほどの地点。

昼過ぎとはいえ人通りが多くてもおかしくないはずのビル街に、人の影は見当たらない。

そんな怪しげな雰囲気の漂うこの場所に、一人の男がやって来た。

 

白いハンチング帽を浅く被り黄色の柄の濃いシャツを華麗に着こなし、

長身な彼の背中には、ミュージシャンが持つような巨大なギターケースが鎮座している。

顔立ちは天道同様に整っていて、同性の中でも異彩を放つほどだ。

シュッと流れる切れ目は微かに濡れているようにも見え、異性からの注目を常に浴びるようだ。

彼の名は『風間 大介』、【仮面ライダードレイク】の資格者である。

 

 

「………………ハッ‼」

 

 

人影の無いビル街の真ん中で風間が独り声を荒げて空を見上げる。

しばらく雲も何もない空を見上げたまま、彼はゆっくりと口を開いて呟いた。

 

 

「………何故だろう、今日は美人と出会える気がする」

 

 

だが口にした言葉は至極残念極まるものだった。

 

「いわゆる一つの……………一つの…………………えっと」

 

 

彼は自分が感じた予感を別の言葉に置き換えようとして失敗する。

風間という男は大した学は無いが為に、国語力が成人男性としては乏しい。

 

 

「……………駄目だ、やっぱりゴンが____________百合子がいないと」

 

 

そう寂しげに呟いて風間はガックリと肩を落として落胆する。

実は風間は四年前まで、記憶を事故で失っていた百合子という少女にゴンと名付け、

しばらく生活を共にしていたことがあったのだ。

その時のゴンは彼の本職であるメイクアップアーティストの仕事の調整や彼自身の

発言のフォローなどを見事にこなし、風間をしっかりとアシストしていたのだった。

だがワームとのとある一件でゴンは記憶を取り戻し、元の百合子としての人生を掴み

彼との浮浪者のような生活に一応終止符を打ったのだった。

 

 

「………………いや、百合子には百合子の人生がある。俺とはもう、関係ない」

 

 

先程とは打って変わって落ち込んだ気分になった風間はトボトボと無人街を歩く。

 

 

「_______________________見つけたぞ」

 

「ん?」

 

 

風間が独り街を東に、懐かしい『ビストロ・ラ・サル』のある場所に向かって歩き出すと、

入り組んだ路地の一つから、低くかすれた男の声が聞こえてきた。

顔だけをそちらに向けて見てみると、そこにいたのは一人のゼクトルーパーだった。

ZECTは既にネイティブの手に落ちていることを知っている風間はすぐさま戦闘態勢に入る。

ズボンのポケットから銃のグリップ部分のみを取り出し、それを空に掲げた。

数秒後、複数の機械が擦れ合うようだが決して不快ではない調和のとれた音が聞こえてくる。

その音の発生源が、まるで生き物のように上空を旋回しながら風間の掲げた物に音もなく留まる。

 

「…………………『ドレイクゼクター』、風間 大介か」

 

「だったら何です?」

 

「………………排除する」

 

「分かりやすい敵ですね、でもたかがワーム風情が俺には勝てないと思うが?」

 

「………………風間 大介、一度勝ったくらいで(・・・・・・・・・)図に乗るな」

 

「………何?」

 

 

眼前のゼクトルーパーは、普通の者とは違いその全身は白で統一されていた。

かつてのZECTであればそのカラーリングは、訓練生を意味するものであったが、

今となってはその形態が残っているのかも分からない。

そして風間は白いゼクトルーパーの言葉に違和感を覚えた。

 

 

「一度? 何の話だ?」

 

「…………………行くぞ」

 

風間が白いゼクトルーパーに言葉の真意を尋ねるが、男は無視して行動に移る。

見覚えのある形状のメタリックカラーのベルトを腰に巻いて、右手で皿を持つように掲げた。

既に自分のゼクターを呼び出した風間は手にしたグリップにドレイクゼクターを装着させる。

 

「くっ、変身‼」

 

【HENSIN!】

 

 

風間の掲げたグリップに留まっていたトンボを模したドレイクゼクターがグリップと一体化する。

そしてガタックの時と同じように全身に六角形状の装甲のようなものが広がっていく。

違うのはガタックとは違って、ベルトからではなく右手のグリップから広がる点だけだが。

やがて全身を覆われた風間は、マスクの口部分から背中のタンクにチューブの伸びた特殊な形状の

全身装甲に身を包んだ水中戦特化型【マスクドフォーム・ドレイク】となった。

 

 

「…………………」

 

 

対して白いゼクトルーパーの掲げた右手には、あるものが飛来して来た。

明るいエメラルドカラーのカマキリを模した形状の、自立して動くゼクターが。

ゼクトルーパーはそれを掴むと、腰のベルトの中央部分を展開し、そこに滑り込ませた。

するとベルトから三角形状の装甲が全身に広がり、数秒と経たぬ内に全身を覆い尽くした。

 

「お、お前は……………?」

 

「……………………………」

 

 

まるで尖り切ったリーゼントの如く突き出た頭部は、まるでカマキリの腹部を模しているようで

その上には緑がかった半透明の翅のような装飾が施され、マスクの側面にも脚部が備わっている。

胴体はカマキリのカマらしいデザインの装甲が中心部から左右の肩部に向けて伸びている。

右腕にはベルトのバックルと同じように何かをはめ込むような形状のくぼみのある篭手を装着し、

左足にはバッタの後ろ足を巨大化したかの如き薄黄色のジャックアンカーが取り付けられていた。

 

 

「貴様、まさか『岬さん』が言っていた例の新型か⁉」

 

「……………………【Clock Up!】」

 

「しま________________________がッ‼‼」

 

 

緑色の装甲のライダーが眼前から姿を消した瞬間、ドレイクの体が吹き飛ぶ。

自分の体に何が起こったのか瞬時に理解したドレイクは、敵と同じ時間軸に行くために

腰に装着されている『クロックアップシステム』を起動しようとして手を伸ばす。

だがその直後、自分の腰の部分に違和感を覚え驚愕する。

 

 

「な、クロックアップシステムが、破壊されている⁉」

 

 

ドレイクの腰にあったシステムは既にクロックアップの時間の中にいる敵によって

破壊されてしまっていたらしく、いくら動かしてみてもその機能は発動しなかった。

吹き飛ばされたドレイクが立ち上がるこの数秒の間、敵はどんな行動をとるのか。

そんな事を考えていたドレイクの思考は、次の一瞬で停止した。

 

 

【RIDER HUNT!】

 

「________________________ごふっ‼」

「…………まず一人」

 

【Clock Over!】

 

 

クロックオーバー、時間の流れの変動の終了を告げる電子音声が周囲に響き渡る。

だがその音声に対して、誰も疑問や異議を申し立てる者はいない。

この場にいるのはただ一人、立っているのはただ一人、勝者はただ一人。

緑色のライダーはドレイクの腹部を貫いた右手を引き抜き、ブラブラと脱力させる。

やがていつの間にか装着していた右手のゼクターを外し、ベルトにマウントさせた。

 

 

「……………残るは二人、か」

 

 

濁ったような黄緑色の双眸を怪しく光らせながらライダーは呟く。

そのまま振り返り、来た道を戻るようにして路地裏に消えていった。

 

 

「………………ぐ、かはっ!」

 

 

独り残され、耐久度を超え強制的に変身を解除させられた風間は激痛に苦しむ。

地面を這うようにして、ゆっくりと亀の如き速度でただひたすら前進する。

穏やかな日差しなど彼には意に介する暇もなく、虚ろになった目で前を見据える。

掠れるような声で、風間は脳裏に焼き付いて離れない人物の名を呼んだ。

 

 

「…………ゴン………………れ、な…………さん………………」

 

 

糸が切れた操り人形のように、声を漏らしたきり風間は動かなくなった。

彼の手に握られていたグリップからドレイクゼクターが、東に飛び立つ。

それを薄れる意識の中で確認した風間は、一休みしようとゆっくり目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風間 大介はその後、意識不明の重体で発見された。

 

 










いかかだったでしょうか。

すこしずつですが白熱してきたカブトの世界!
これからも邁進前進、突っ走って参りますので
皆さまもどうか応援のほど、よろしくお願いします‼


それでは次回、Ep,『HUNTING TIME ~地獄の残り火~』

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