仮面ライダーディケイド ~The Darkness History~   作:萃夢想天

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長らくお待たせしました。

今回から、第二の世界での旅になりますが、
少し長くなってしまうかもしれません。

しかし「仮面ライダーゴースト」ですが
ホントに一年保つんでしょうかね、あのペースで。


それでは、どうぞ!


Ep,12『KABUTO's WORLD ~カブトの世界~』

『カブトの世界』

 

 

かつて士達が旅してきたライダー世界の一つで、

突如宇宙から飛来した隕石の中から誕生した地球外生命体『ワーム』と

日夜死闘を繰り広げてきた仮面ライダーのいる世界だった。

 

士がかつて訪れた際に与えられた『役割』は、ワームと戦う秘密組織

『ZECT』の一戦闘員である『ゼクトルーパー』の一人だったのだ。

その組織の中でも、特に優秀な人材を集めて結成されたのが『シャドウ』。

シャドウの指揮官を務めていた男が、士達が出会った少女の兄に成り代わった

ワームであり、その世界のライダーを全滅させる算段を立てていたのだが、

ディケイドと暴走して全ての人間とは異なる時間軸の中を走り続けていた男、

『仮面ライダーカブト』の二人の力を合わせ、ワームの悪策を打ち砕いたのだった。

戦いが終わっても全てのワームが倒れたわけではなく、カブトは再び異なる

時間軸の世界へと消えてしまった。愛する家族である妹と、祖母の二人を残して。

 

 

そして、今。

士達の目の前で静かに佇む背景フィルムには、その世界で見た事のある

紅い色をした機械のカブトムシのようなものが描かれていた。

 

「こ、今度はカブトの世界かよ……」

 

「らしいな。ブレイドの時みたいに色々変わってるかもしれねぇ」

 

 

ユウスケが士を見ながら呟くと、当の士はぶっきらぼうに呟いて部屋を出る。

写真館から出た瞬間から士にこの世界での『役割』が与えられる事を思い出し、

夏海とユウスケは慌てて後を追ったが、栄次郎は珍しく何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなってんだこりゃ?」

 

写真館から出た士は、瞬間頭上から降ってきた灰色の濁ったような膜に覆われ、

先程まで来ていた白シャツにジーンズのラフな恰好から瞬時に着替えていた。

ユウスケと夏海もそれを見ていたが、少し不思議な格好をしていた。

清潔感漂う純白の衣服で身を包んでいるが、どう見てもオシャレでは無い。

明らかにそれは、『料理人(シェフ)』といった感じの衣装だった。

頭の上にも、円柱状のコックが被るような帽子が乗っかっている。

その姿を見て、ユウスケがつま先から順に士をジロジロと眺める。

 

「コック、ってこと? 士って料理とか出来るの?」

 

「自慢じゃないがサッパリだ。人生で一番美味く作れたのは卵かけご飯だな」

 

「小学生じゃないんですから」

 

 

士の自信有り気な口調の割にはショボい内容に、夏海がツッコミを入れる。

そして士がいつものように、全身をまさぐって何か無いかを探し始める。

しかしそんな士を余所に、ユウスケがクンクンと犬のように鼻を鳴らしだした。

 

 

「ちょっとユウスケ、何してるんですか気持ち悪い!」

 

「い、いやぁ…………だって、スゴくいい匂いがしてくるからさ………」

 

「え? …………本当ですね、いい匂い!」

 

「すぐ近くだ! 行ってみようよ夏海ちゃん!」

 

「あ、ちょっとユウスケ!」

 

 

ユウスケが匂いに誘われて道に出て行くのを夏海が追いかける。

その様子をポケットから手を出しながら見ていた士は、同じように後に続く。

ポケットの中に入っていた『ノブレス・オブリージュ』と刺繍の施された

ハンカチを乱暴な手つきで元に戻しながら。

 

歩いて三分も経たない内に、ユウスケ達は匂いの発生源に辿り着いた。

少し小さめな一戸建て住宅の玄関先には、同じく小さな黒板のような本日の献立(デ・リスタ)

遠慮しがちに置かれていた。

どうやら店の名前は、『Bistro la Salle(ビストロ・ラ・サル)』という洋風料理屋らしい。

匂いに釣られたユウスケが、遠慮も無しにその店の扉を開けて中へ入る。

カランカランと小気味良い音を立てて扉に付けられたカウベルが鳴り、来客を告げる。

音に気付いた従業員が、厨房から玄関まで良く通る声でいらっしゃいませと言った。

ユウスケは早速テーブルに着き、後から来た夏海と士も同じテーブルに座る。

 

「いらっしゃいませ、三名でよろしいですね?」

 

「はい! えっと、オススメとかってあります?」

 

「ユウスケ! はしたないですよ!」

 

「だって、こんないい匂いなんだしさ……」

 

「そう言っていただけると嬉しいわ。ね、ひよりシェフ?」

 

 

テーブルに着いたユウスケ達のオーダーを取りに来た女性が振り返り、

厨房で鍋のフタを取りながらお玉で中身を混ぜている少女に声をかけた。

声に反応した少女はこちらを少し見た後で、再び視線を鍋に落とす。

 

 

「……シェフとか言わないでくれ、弓子さん」

 

「な~んでよ~! 資格も取ったし、テレビや雑誌でも取り上げられるしで

もう誰もが認める立派な『日下部(くさかべ) ひよりシェフ』じゃな~い!」

 

「………ダメなんだ、まだ」

 

「胸張っていいのよ、ひよりちゃん!」

「………だって、まだアイツ(・・・)が認めてくれてないから。

ボクは認めてもらわない限り、ボク自身も自分の腕を認めない」

 

「ひよりちゃん………」

 

 

厨房の少女が話を打ち切って、フライパンを取り出し火にかける。

その様子をテーブルから見ていた弓子という女性と士達は微妙な空気になった。

静寂を打ち破るように、ユウスケが弓子に声をかけて注文を取る。

 

 

「あ、それじゃあシェフさんの一番得意な料理がいいなぁ」

 

「お客様、それならとっておきのがありますよ! ね、ひよりちゃん!」

 

「………とっておきって、いつ決まったのさ」

 

「今よ、今。さてお客様、シェフの一番の料理は『サバの味噌煮』なんですよ!」

 

「ちょっと待て、ここは洋風料理の店だろ?」

 

「いいじゃないですか士君。嫌なら私とユウスケだけで食べますよ!」

 

「ね! それじゃあサバの味噌煮をふた「いや、俺も食う。三つだ」……それで」

 

「は~い! ひよりちゃーん、サバ味噌三つ入ったわよ!」

 

「………分かった」

 

 

洋風料理屋なのにサバ味噌が出てくることに文句を付けていた士も

結局同じものを頼んで、弓子がオーダーを厨房のひよりに伝える。

夏海が士に何かを言おうとした時、店の玄関が勢いよく開いて男が入って来た。

男は弓子よりも大きく通る声で、厨房にいるひよりに向かって叫んだ。

 

 

「ひよりーー‼ サバ味噌いっちょーーー‼」

 

「あら、『加賀美(かがみ)』君じゃない。でも残念、もうサバ味噌は品切れよ」

 

「ええっ⁉ 何で、どうして⁉」

 

「こちらのお客様のご注文で在庫切れ~。お疲れ様!」

 

「そーーーーんなーーーー‼‼」

 

 

弓子に加賀美と呼ばれた警官の服装をした男は、玄関で崩れ落ちる。

しばらくそのままでいた男が急に立ち上がって、士達を凝視する。

そして士の前まで来ると、先程と同じ大声で吠えるように叫んだ。

 

 

「頼む! アンタのサバ味噌を俺に分けて欲しい‼」

 

「何だコイツ? 警官の癖に善良な市民からランチをタカろう(・・・・)ってか」

 

「ちょっと士君! 何てこと言うんですか!」

 

「今度ばかりは俺の方が正論だろう夏ミカン。なぁアンタ、警察官なのに

これから楽しくランチしようって人間に向かって『飯をよこせ』だと?

人を笑わせたいんなら芸人育成所にでも行ってくるんだな」

 

「な、何だと‼ あのな、俺はただのサバ味噌が欲しいんじゃない!

ひよりの作るサバ味噌だから頭を下げてまで欲しいんだよ‼」

 

「………惚れてる相手が作る飯を他の男には食わせたくないってか」

 

「ち、違っ! いや、違わないけど違うっていうか…………とにかく‼」

 

 

士に言われた一言に何かを感じたのか、歯切れが悪くなった加賀美は

頼みこむと同時に下げていた頭を戻し、息を吸い込んで再び吠えた。

 

 

「頼む! アンタのサバ味噌を俺にくれ‼ 代金は俺が持つから‼」

 

「……ボクのサバ味噌だけどね。それと加賀美、うるさい」

 

「お、きたきた」

 

「人の話聞けよ‼」

 

 

厨房から三つの皿をボードに乗せたひよりが出てきて、士達のいる

テーブルに綺麗に等間隔で置いていき、一礼してから厨房へ戻っていく。

ユウスケは早速食べ始め、その味を口いっぱいに噛みしめている。

夏美と士もまたサバ味噌を口に入れ、その味に酔いしれていた。

 

 

「す、凄く美味しい! こんなサバ味噌初めてだ‼」

「ホントですね……………美味しい」

 

「無愛想なシェフが作ってるとは思えんほどの味だな」

 

「士君!」

 

「何だ夏ミカン。俺は今純粋に味を評価しているんだぞ?

あのシェフは無口で無愛想だが、このサバ味噌がまるでシェフの真価を

代弁しているかのように強調された風味を醸し出している………絶品だな」

 

「ああ、ああ! サバ味噌がぁ…………」

 

「次はもっと早く来なさい、加賀美君」

 

 

サバ味噌の味に舌鼓を打つ三人の脇で、またも崩れ落ちる加賀美。

そんな彼にお冷を渡して弓子が励ますが、その効果は無いようだった。

ひよりがサバ味噌を出してからものの数分で、三人は完食してしまった。

骨と頭部だけを残した皿を弓子が回収しようとした時、士がそれを手で制する。

その行動をユウスケと夏海は不思議がるが、士は気にせず加賀美に声をかける。

 

「おいアンタ、名前は何て言うんだ」

 

「…………加賀美、加賀美 (あらた)巡査だ」

 

「加賀美、か。ホレ、これで文句は無いだろ」

 

「……………え?」

 

「俺は優しい男だからな、分けてやるよ」

 

「ほ、ホントか! ホントにいいのか⁉」

 

テーブルの下で未だにいじけていた加賀美に優しく声をかける士。

その位置からは見えないが、確かに回収されていない皿があるのが見えた。

加賀美は目から涙をこぼさんばかりに瞳を潤ませ、士の手を取って礼を述べる。

 

「あ、ありがとう! 本当にありがとう‼」

 

「気にするな。と言いたいが、俺は聖人君子じゃないんでな。

さっき代金は自分が持つと言っていたな、その約束は守るよな?」

 

「ああ、ああ! 守る!」

 

「そうか、良し。ユウスケ、夏ミカン。おごってくれるそうだぜ」

 

「え、あ、ちょっと士君⁉」

 

 

掴んできた加賀美の手を払いのけ、士が立ち上がって店から出ようとする。

ユウスケと夏海はその後に続いて出ようとするが、弓子に一礼しておいた。

士のいた席に座って早速おこぼれに有り付こうとした加賀美だったが、

元々大きかったその瞳をさらに肥大化させ、丸くさせる。

 

 

「ショウガと味噌しか残ってない! アンタ、コレどういう事だよ⁉」

 

「あ? 俺はサバ味噌を『分けてやる』って言ったんだぜ。

言葉通りに俺の食うサバとお前の分の味噌とを分けてやったんだ」

 

「ふざけてんのか‼⁉」

 

「大真面目だ。逆に市民から飯を譲り受けるなんざ、アンタがふざけてるのか?」

 

「うっ…………」

 

「じゃ、代金はアンタ持ちだ。そういう約束なんだからな」

 

まるで悪びれていない口調で手をヒラヒラと振りながら店を出る士。

ユウスケと夏海は流石に悪いと思って店に残り、代金を置いていった。

半べそをかきながら皿の上に残った味噌とショウガを見つめる加賀美に、

弓子が近付いて肩を叩いて笑いながら話しかけた。

 

「いやー、今の人すごかったわね~」

 

「あんなに性格が悪い奴がまだ残ってただなんて…………」

 

「そうね~。でも『彼』とどっちが上かしらね?」

 

「いいとこ勝負ですよ」

 

 

弓子の問いかけにも拗ねながら答えた加賀美。

皿の上に残った味噌とショウガを食べきった彼は一息つく。

そのまま先程渡されたお冷を飲み込んだ直後、外から悲鳴が聞こえてきた。

 

「何、今の⁉」

 

「表通りの方からだ‼」

 

 

加賀美は悲鳴の聞こえてきた方向から大体の位置を予測すると、

弓子にご馳走さまと簡潔に礼を言って、店から飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかーさん、おかーさん!」

 

「…………逃げな、さい………」

 

「おかーさん‼」

 

 

加賀美や士達のいた店からほんの数十m先の通りに悲鳴が木霊する。

小さな少女を庇うように、母親らしい女性が上から被さっていた。

少女はしきりに母親を呼ぶが、気を失ったのか返事が聞こえない。

そんな二人の背後には、アリを模したようなヘルメットを被った一団が

同じくアリの腹部を象ったような武器を手にして見下ろしていた。

その内の三人が武器の銃口を倒れた母親とその下の少女に向ける。

 

「おかーさん! おかーさん‼」

 

「見苦しいぞクソガキが!」

「抑えろ、どうせ今から黙らせるんだから」

 

「いいからさっさと殺っちまえよ」

 

 

銃口を向けている三人が口々に暴言を吐くが、少女は気付かない。

母親の身体を揺さぶって意識を戻そうとするが、彼女は目覚めない。

武器の内部に内蔵されたトリガーに三人が指を添える。

そこから弾丸が発射される寸前、少女は微かな声で助けを求めた。

 

 

「たすけて…………おとぉさん……‼」

 

 

ガキンッ‼ ガキンッ‼

 

「うおっ⁉」

 

「何だ、どうした⁉」

 

「コイツ、『ガタックゼクター』‼」

 

 

金属と金属がぶつかるような音が、少女の前で響き渡る。

彼女達の後方から、警官の服装をした男が駆けつけてきた。

そして脇道からは、男二人と女性が一人同じタイミングで出てくる。

その四人が、少女と母親の前で合流して交戦の構えをとる。

 

 

「やはりお前らの仕業か、『ワーム』‼」

 

「どうなってんだよコレ‼」

 

「何でゼクトの人達が、この人達を襲うんですか⁉」

 

「……………大体分かった」

 

 

加賀美が激昂し、ユウスケと夏海が混乱する中でただ一人、

士だけが冷静に状況を分析して、クルリと身を翻して呟く。

 

 

「ユウスケ、夏ミカン。コイツらはワームだ」

 

「えっ、ワーム?」

 

「ゼクトの人達が戦っているのは、ワームですもんね!」

 

「そういう事だ。宇宙人なら遠慮はいらねぇな………行くぜ」

 

 

士が表情を険しくさせた直後、ユウスケと共に一歩前に出る。

そして二人はそれぞれ瞬時に自分のベルトを腰に展開させた。

だがそんな二人を余所に、加賀美とゼクトルーパー達がいがみ合う。

 

 

「お前達の好きにはさせない! 行くぞ___________変身‼」

 

「来るぞ、『ガタック』だ‼」

 

「総員射撃体勢‼」

 

「かかって来い‼」

 

 

加賀美が警官服を脱ぎ捨て、腰に装着している銀色のソレを露わにする。

そして右手を天高く掲げ、そこに収まるべきものが飛来するのを待つ。

掲げた右手の元へ、群青色のクワガタのような機械が飛んできた。

それをしっかりと握って、掛け声と共にベルトに右から装填した。

 

 

【Hensin!】

 

 

高音程の電子音声がベルトから発せられ、それと同時に六角形の

パネルのような物がバックルから全身を包み込むように放出される。

やがてソレは全身を覆い、群青と銀を主体としたカラーの鎧となった。

彼の名は加賀美 新、そして『仮面ライダーガタック』。

 

 

ガタックは両肩に装着された2門の砲台『ガタックバルカン』を起動し、

発射した瞬間、即座に再装填されるという高速発射を開始した。

前方にいたゼクトルーパー達の何人かが放たれた弾丸に直撃して致命傷を受ける。

少し後ろで待機していた残りの隊員達は武器を手にして応戦し始める。

その光景を、士達は唖然としながら見つめていた。

 

 

「何で、仮面ライダーとZECTが戦ってるんだ?」

 

「つ、士………どうなってんだよ」

 

「士君………」

 

「俺に聞くな! まあでも、しばらくは様子見といこうか」

 

 

ぶっきらぼうに呟いた士は、手にしたカードを懐にしまう。

それに見習ってユウスケもまた、変身の構えを解いて楽にした。

そんな二人の後ろで、倒れていた少女の母親が目を覚ました。

夏海が慌てて駆け寄り、彼女と少女の安否を確かめる。

 

 

「あの、大丈夫ですか? お怪我は?」

 

「………ええ、大丈夫」

 

「気を付けろ夏ミカン。ワームかもしれないぜ?」

 

「そんな訳ありません! この人がワームだなんて」

 

「根拠は?」

「……………ありません、けど……」

 

士の言葉に反論できずに(うつむ)く夏海だったが、

母親と少女の方を一瞥してから顔を上げて声を荒げる。

 

「おかぁさん………おかーさん‼」

 

「身を挺してこの子を守ろうとする人が、ワームなわけありません!」

 

「………あのな夏ミカン」

 

「まあまあ士、ワームだったら俺達が倒せばいいだけだし。な?」

 

 

横にいるユウスケがお気楽そうに士に語り掛ける。

その笑みにやる気を無くした士は、ガタックのいる方向に視線を向けた。

夏海は女性と少女をこの場から避難させようとするが、

女性も少女もその場を離れようとせず、ガタックを見つめている。

そして、おもむろに女性の口から言葉が漏れた。

 

 

「…………『戦いの神・ガタック』、あの方が………」

 

「え?」

 

「かーみのおいさん…………おとーさんのおともたち!」

 

二人の視線の先では、ガタックがバルカンを撃ち続けていた。

最初にいた半分ほどのゼクトルーパー達が戦闘不能になっている。

そして次の瞬間、彼らの死体から『緑色の炎』が噴き出て爆発した。

よく似た光景を知っている士は、その炎を見て驚愕する。

 

 

「今のはワームの消滅するときの……………じゃあアイツらは!」

士がある事実に気付いた直後、全てのゼクトルーパーが倒れた。

そして数秒後に、先程と同じ緑色の炎を噴き上げて爆発する。

クルリと向き直ったガタックは、変身を解いて士達に駆け寄った。

 

 

「アンタら………そのベルトは一体?」

 

「まあ気にするな。それよりも、この人がアンタの事知ってるようだぜ?」

 

「え?」

 

 

士に促されて女性を見つめるが、知らないなと小さく呟く加賀美。

そんな彼に近付いて、女性は立ち上がって礼を述べた。

 

 

「助けていただき、ありがとうございました。

あの、貴方は加賀美 新さんで間違いはございませんか?」

 

「え? 何で俺の名前知ってんの?」

「………………………」

 

 

加賀美からの質問に言葉を詰まらせる女性だったが、意を決したように瞳に

力を込めて、射貫くような視線を加賀美に向けながら女性が再び語りだした。

 

 

「私とこの子を、ビストロ・ラ・サルというお店に案内してください。

そこで待っていろと言われたので…………お店で全てをお話いたします」

 

 

女性の力強い瞳に気圧されたのか、女性の顔立ちが端正でありながら儚げで

まるで大和撫子を体現したかのような美しさに思考力を奪われたのか。

加賀美は女性の言葉を聞き入れ、士達を伴って元来た道を戻っていった。

 

「それでは………何故襲われたのか、話してください」

 

店に戻って母親と少女を空いている席に座らせて、加賀美が話を切り出した。

弓子からオレンジジュースを貰った少女は大人しく座ってソレを飲んでいる。

母親は俯きながらも、重たげな口調で加賀美からの問いかけに答え始めた。

 

 

「私とこの子は、主人に言われてこの店を探していました。

『ビストロ・ラ・サルに行け。そこで加賀美という男を探せ』と言われて、

主人は何やら焦っていたようだったので、すぐにこの子を連れてパリから……」

 

「なるほど………え、パリ?」

 

「ハイ。私とこの子と主人は、一週間前までパリで暮らしていました。

ですが主人は突然、『やるべき事が出来た。お前達は日本へ逃げろ』と言って

私達を家から離れさせて………日本で加賀美という方が助けてくれるはずだから、と」

 

「…………何故ご主人は俺の名前を?」

 

「それは………」

 

「ちょっといいか?」

 

 

女性の言葉を遮るようにして、士が話に割り込んだ。

加賀美は少し嫌そうな顔をして士を睨むが、お構いなしに話を続ける。

 

 

「アンタ、さっきこの男の事を『戦いの神・ガタック』って言ったな。

仮面ライダーガタックなら分かるんだが、戦いの神ってのは何なんだ?」

士の言葉に女性と、そして加賀美も驚いた。

加賀美はすぐに女性に詰め寄り、興奮した態度で質問する。

 

 

「その名前! 何でアンタが知ってるんだ‼

ガタックの異名を知ってるのは、俺と親父ともう一人だけだ!

答えろ‼ 何でアンタが戦いの神の名を知っていたんだ‼」

 

「それは…………………」

 

 

傍から見れば激怒しているような状態の加賀美に詰め寄られ、女性はオドオドとした

態度を見せるが、自分の隣で美味しそうにジュースを飲んでいる少女を見つめて

息を飲むと、覚悟したかのように口を開いて言葉を綴った。

 

 

「それは私の主人が____________夫が、選ばれし者だからです」

 

「え…………?」

 

「選ばれし者? 何だそりゃ?」

 

 

女性の口から発せられた言葉に加賀美は目を見開き、士は疑問符を浮かべる。

ユウスケと夏海もまた訳が分からずに互いの顔を見合わせる。

僅かな沈黙が流れた後、また女性が口を開いた。

 

 

「申し遅れました。私は、『天道 アゲハ』と申します」

 

「て、天道って……………じゃあ、まさか⁉」

 

「天道………どこかで聞いた名前だな」

 

 

女性が名乗った姓に先程以上の驚愕を見せる加賀美の横で、

士は自分の記憶の片隅に引っかかる天道の名を思い起こす。

そんな男二人を差し置いて、女性_________アゲハは語り続ける。

 

「そしてこの子が、私のあの人の娘………………」

 

 

愛おしそうに少女のツヤのある髪を優しく撫でるアゲハ。

そしてその少女の名前を口にしようとしたその時。

 

 

「__________天の道を往き、優しい未来に恵まれる女。天道 優未恵(ゆみえ)だ」

 

 

カランカランとカウベルが鳴り、昼時の逆光の中から男が入店してくる。

 

シャープな頬のラインに、色気すら感じられるような顎の形。

ウェーブがかって散らばりながらも、決してだらしなくは無い髪型。

キリッと上がった眉に、並行よりもやや上に吊り上がった目尻。

整った顔立ちに、老若男女問わずに視線を集めそうな大人の美貌。

威風堂々たるその歩き方から、貫禄どころか品格までもが溢れ出る。

そんな絶世の美男子が、右手の人差し指を右手ごと頭上に掲げた。

そのまま男は、自分の娘の名を告げた口から、自らの名も告げる。

 

 

「そして俺が、天の道を往き、総てを司る男。『天道 総司(そうじ)』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夜。月と星の明かりが闇を照らす。

だがそれらが照らすべき闇も、今は地上の明かりで数えるほどしか無くなっている。

ビルや住宅、店舗や信号、果ては車のヘッドライト。

無数の痛々しいほど輝く光が、星の瞬く夜空を無作法に照らす。

そんな夜空を興味無さそうに、一人の男が見上げていた。

男は自分の右手に握った銃を夜空に掲げ、左手でそっと撫でる。

 

 

「遂に来てしまったんだね、士。15のライダー世界の内の、2つ目まで」

 

 

悲しそうに、されども嬉しそうに男は呟く。

そのまま手にしていた銃を懐に戻そうとした。

だがそれは、背後から聞こえてくる足音によって中断された。

男が今いる場所は、建ち並ぶビル群の最も高いビルの屋上。

ここに来れる人間など数人しかいないが、来る必要もないはずだ。

そう考えて足音の正体に疑問を抱くが、様子見することにした。

やがて足音は男から7mほど離れた一位置で止まり、もう音は鳴らなかった。

自分の持っている武器が最も有効な射程距離からわずかに離れている、と

男は相手の警戒心の強さを感じ取り、こちらも警戒心を強めた。

 

 

「ここにいたのか。随分探すのに手間が掛かったよ」

 

 

背後から聞こえてきたのは、まるでスピーカーを通しているかのような

無機質で感情の感じ取れない、皮肉がたっぷり詰まった男の声だった。

肉声では有り得ない違和感を感じた男は、銃を構えて振り返る。

その視線の先にいたのは、頭蓋骨が露出したような怪人だった。

頭部は人間のものでは無い異常な骨格をしている頭蓋骨が露出し、

それ以外は輪郭以外において人間と共通する部分がどこにも見当たらない。

胸のあたりには『ZZZ』の三文字が刻まれていた。

 

 

「やれやれ、せっかく来てあげた私に対して(ソレ)は無いだろう」

 

 

怪人は鉄のパイプを輪切りにしたような指を揃えて、

人間でいう『やれやれ、困った奴だな』と言いたげなジェスチャーをする。

眼前の怪人の余裕とその行動に苛立った男はしっかりと立ち上がってから

相手の頭部に銃口が向くような位置取りをして、話しかけた。

 

 

「君は何者だい? 明らかに人間じゃないようだが?」

 

「失礼な奴だね、君は。確かに今の私は人じゃないが………」

 

「まるで前は人間だったような言い回しだね」

 

Exactly(その通り)。まあ今は強化機械生命体(サイバロイド)なんだがね」

 

「………サイバロイド? 聞いたことの無い怪人だな」

 

「この私を怪人扱いか………失礼を通り越し無礼だね、実に」

 

「だったら最初の質問に答えたまえ。君は何者だい?」

 

 

男の同じ質問に対して、サイバロイドを名乗る怪人は茶化さずに聞き入れる。

正面から向き直ったサイバロイドは、まるで男爵のような仰々しさでお辞儀する。

 

 

「私は世紀の大怪盗、アルティメットルパンことゾルーク東条!」

 

「大怪盗、ね。名前を名乗る辺りからして三流の小物にしか見えないが」

 

「中途半端な一流の目には、超一流がそう映るものなのさ」

 

「………僕を怒らせる才能だけはその通りらしい。失せたまえ」

 

「ここまで来て帰れるか。私は君に話がしたくて来たのに」

 

「何………?」

 

「やっと話す気になったか。一苦労だよ、全く」

 

 

男が銃を下げるのを確認したゾルーク東条は、汗を拭う真似をする。

そしてゾルーク東条はそのままの姿勢で、男に話を切り出した。

 

 

「君はさっき、15のライダー世界と言っていたね?

でもそれは間違いだ。正確に言えば、17のライダー世界だよ」

 

「どういう事かな?」

 

「君が知っているのは、『鎧武』とやらまでなんだろう?

しかし、実はそこから先に新たな世界が二つも生まれたんだ。

この私のいた『ドライブの世界』、そして『ゴーストの世界』がね」

 

「ゴースト、だと?」

 

 

ゾルーク東条の話の中に、聞き覚えのある言葉が出てきて驚く男。

その反応に気を良くしたのか、ゾルーク東条は両手を広げて大げさに話を続ける。

 

 

「そう! 君風に言うのならば………………

『新たなお宝が産み落とされた』、とでも言うのかな? 海東 大樹君?」

 

 

自らの名を呼ばれ、男_________海東は顔をしかめる。

そんな表情の機微を知ってか知らずか、ゾルーク東条は笑いながら語る。

 

 

「君と私の大好きなお宝が、まだ見ぬ世界にあるのだよ。

そこでどうかな………………我々と手を組む、というのは?」

 

「……………面白いね」

 

 

ゾルーク東条の出してきた手を組むという提案に笑みを浮かべる海東。

だがその脳裏では、壮絶な駆け引きが幾度も繰り返されていた。

眼前の大怪盗とやらの言葉は本当か否か。

新たな二つの世界が存在するのか否か。

常人ならパンクしているであろう脳内信号の嵐の中から、

海東はこの場において一番妥当な答えを導き出して口にした。

 

 

「僕はゴーストとやらに出会ったし、そこでお宝の確認も出来た。

でもその前に、今君は『我々』と言ったけど、お仲間がいるのかい?」

 

「ふむ、正解だ。その質問が来るのを待っていたよ。

ただし、正確に言ってしまうのなら………彼女は仲間ではなく同胞だ」

 

「彼女?」

 

 

海東がゾルーク東条の漏らした"彼女"というワードに引っかかっていると、

ゾルーク東条が不意に、海東に向かって白い何かを投げて渡した。

受け取ってみてみると、それは海東が一度だけ目にしたお宝だった。

 

 

「コイツは、『アイコン』じゃないか。どうして君が?」

 

「私の同胞の物だ。これで君にも彼女が『視える』ようになる」

 

ゾルーク東条の意味有り気な言葉に疑問を抱いた直後、海東の背筋が凍った。

先程まで誰もいなかったはずの彼の横に、白いボロ布を纏った人物が現れたのだ。

その人物がゆっくりと海東に近付き、その正体を彼に見せた。

 

 

「もしや君の、あのゴーストとやらの同類………?」

「私をあんな雑魚と一緒にしないで」

 

女性の割には高い方ではない声色で、海東の疑問に答えた女性。

彼女はそのまま海東の真横まで行って止まり、ゾルーク東条に代わって話し始めた。

 

「海東 大樹、貴方が筋金入りの盗みのプロだと信頼するからこそ依頼するわ。

私と、後ろにいるルパンと一緒に、新たな二つの世界の宝を盗み出して!」

 

「どういう事だい?」

 

「理由は依頼を承諾してくれたら話してあげる。

でもこの依頼を断るのなら、二人がかりでも貴方を潰すわ」

 

「このルパン、暴力事は嫌いだが……………仕方あるまい」

 

「僕は、好きな時に好きな物を好きなように盗むんだ。

足を引っ張るような他人と、チームを組んで盗むなんて御免だね」

 

 

海東は心底嫌そうにしながら二人に言い放つ。

それを拒否と受け取った女性は、瞬時に殺気を放ち始める。

彼女の放った殺気をどうやったのか探知したゾルーク東条は、おどけたようにして

お手上げのポーズを取って女性から一歩下がった。

 

 

「なら……………交渉は決れ「君も気が早い奴だね」………何?」

 

 

女性の言葉を遮って、海東が話し始めると共に一歩踏み出る。

自分と真逆の行動をとった海東を見てゾルーク東条は、ほぅと呟いた。

そんな彼を気にも留めず、海東は女性に向かって話を続ける。

 

 

「僕は嫌だとは言ったが、やらないとは言っていない。

泥棒をビジネスワークにはしないようにしてたけど、お宝の為だ」

 

「よく分からん男だな。ひねくれ者か?」

 

「つま弾きものさ、世間からすればね。泥棒なんてそんなものだろ?」

 

「…………そうだな。自己紹介が遅れたわ、私は『平坂 黄泉(よみ)』よ」

 

そう言って女性________黄泉が手を差し出してきた。

しかし海東はその手を払いのけ、ゾルーク東条の方へ歩き出した。

握手を求めたのに拒否された黄泉は、元々鋭い視線を更に鋭く尖らせる。

彼女の視線を浴びながらも飄々としている海東はゾルーク東条の元へ行き、

早速二つの世界へ向かおうと声をかける。

 

 

「それで、先にどちらへ行くんだい?」

 

「先に私のいた『ドライブの世界』に向かおう。そこである物を手に入れる」

 

「一体何を盗むつもりなの?」

 

「フフフ…………私が今最も手に入れたいお宝さ」

 

 

そう言ってゾルーク東条は黄泉の肩に手を軽く置いてから、

どこからか煌びやかな装飾が施された巨大な銃のトリガーのような物を取り出し、

その銃口に反対側の手のひらを押し当てて、スイッチを起動させた。

 

 

「さあ行こう、同胞たちよ」

 

 

ゾルーク東条の言葉を聞いた海東と黄泉は、彼の横に並び立って

それぞれ違った方法で自らの持つ力を発動させる手順を踏み始める。

海東は右手に持った銃の側面の溝にカードを装填し、銃の前半分をスライドさせる。

黄泉は腰に右指を添えて、左から右にスライドさせて半透明なバックルを装着した。

三人は同じ夜空の下、誰に言うでもなく高らかに告げた。

 

 

「「「_________変身‼‼」」」

 

 

【ルパーン‼】

 

【KAMEN RIDE _________DIEND】

 

【カイガン! ゼンセ! _______Here we go! 因果! ガ・ガ・ガ・ガイスト‼】

 

 

三人がそれぞれ異なる、独特な形状の外装に身を包む。

わずか数秒で、夜の闇の中に三人の仮面の戦士が現れ出た。

金色と黒のメインカラーに、様々な宝石を散りばめた『仮面ライダールパン』。

ゼオンカラーを主体とした、9枚の板で顔を覆い隠した『仮面ライダーディエンド』。

白とゴールドがベースのパーカーを羽織った、流麗な『仮面ライダーガイスト』。

 

 

「我らが狙うお宝は、私の最高の宿敵たる『ドライブの頭脳』!

その力の根源たる『クリム・スタインベルト』をいただく‼」

 

 

ルパンは狙った宝を宣言し、高笑いを夜空に向かって放った。

そのまま三人は、ディエンドの作った濁った色の膜に包まれ、この世界から旅立った。




本気を出した結果がコレだよ。
ということで、開幕から衝撃的な展開となりました。

読者の皆様の驚く顔が目に浮かぶようです。
まあ原作重視の方は激怒されたかもしれませんが(汗


次回は二週間後となる予定です。
ご意見ご感想、いつでもお待ちしております!


それでは次回、EP,13 『WIND RHAPSODY ~花は散り、風が止む~」

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