「ずっと好きだった」   作:エコー

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前回に引き続いて川崎沙希登場。
やっぱサキサキ可愛いっす。
てか、バンドの話はどーなった!?
の第9話です。


9 川崎沙希は呼びたがっている

9 川崎沙希は呼びたがっている

 

 放課後の音楽室に入ると、すでに戸塚や葉山、ブタ将軍は集まっていた。

 今日はバンドの練習、いや楽器の練習の為に割り当てられた日だ。

「おおー、上手くなってきたな材木座」

 こいつは本当に勘が良い。葉山の教え方が上手いのもあるだろうが、初めてドラムに触って一週間で8ビートにスネアやタムなど「おかず」を入れて叩いている。材木座にしとくのが勿体無いくらいだ。

「ぬふふ…八幡よ。そう思うのなら大人しく我に帰順せよ」

「それは無理。やだ。断る。無理」

 ドヤ顔から一転、しゅんとするバカ将軍を尻目に、戸塚にちょっかい、もとい話しかける。ちょっかいって猪八戒みたいだな。

「どうだ戸塚」

「なかなかうまくいかないや。久しぶりだし(弦が)太くて硬いから…(指が)痛くなっちゃった」

 なんだろうこの色気、非常に艶かしい。まだ高校生だぞ。それ以前に男だぞ。

 おい葉山、なぜてめーまで顔を赤らめる。材木座はあとで説教な、さっきのドヤ顔の件も込みで。

「そうだ比企谷。ちょっと好きなように弾いてみてよ」

 アコギを持たされた俺に、葉山は戸塚の余韻を残す赤い顔を向ける。海老名がいなくてよかったと心から思う。いたら今頃は一面血の海だ。鼻血の海。

「好きなようにって、ぼっちにはハードル高いぞ…じゃあ適当に」

 ギターのネックにカポタストを挟んで、昔練習した『歌うたいのバラッド』を弾いてみる。カポタストってのは、任意のフレットの弦6本を全部押さえておく便利アイテムだ。

「おー、思ったより覚えてるもんだな」

「比企谷。それ、弾き語りは出来る?」

 ん? おかしい。

 今日の俺は明らかにおかしい。普段ならこんなにホイホイと行動なんかしない。リア充の毒気に中てられたか。早く小町で解毒したい。すまん戸塚、解毒作用は小町のほうが上なのだよ戸塚。

「ああ、元々弾き語りしたくて覚えたんだ。少しなら歌える、かな」

 心の中に戸塚に詫びながら少しだけ歌ってみせる。

「はちまん…カッコいいっ」

 やばい、見くびっていた。戸塚の浄化能力。副作用で頬が緩んでしまうぜ。

「へえ、意外といい声してるんだな」

「ぐぬぬ、おのれ八幡~」

 その結果、ボーカルは葉山と俺で半分ずつ担当することとなってしまった。

 

   ☆      ☆      ☆   

 

 学校からの帰り道で、川…沙希と出くわした。

「おう。今帰りか」

 川…沙希は俺を見るなり少し顔を背ける。

「…露骨に嫌な顔するなよ。泣くぞ」

「あ、いや…嫌じゃない嫌じゃない、むしろす…、あ、あんたこそ、こんな時間に珍しいね」

「ああ、俺たちも文化祭でバンドやることになって、な」

 きょとんとしている。今まで見たことのない川…沙希の顔に少し目を奪われる。

「どうした、ハトが豆鉄砲くらったような可愛い顔して」

「か、か、か、可愛い…」

 こいつをからかうのは面白い。普段は厭世感たっぷりのくせに、こういうときの反応がいちいち可愛いのだ。

「は、は、比企谷もバンドやるの?」

 赤い顔を向けてくるが、目は斜め下を見ている。

「ああ、戸塚のお願いだからな。そういえばサキサキはドラムだってな」

 ついに茹でダコ級の赤ら顔を手にした川…沙希。そう川崎。

「サ、サキサキゆーなっ」

「じゃあ、さーちゃん」

 顔を真っ赤にしてぷるぷると震える川崎の反応をたっぷり堪能した俺は、無言で歩を進める。川崎も溜息ひとつ吐いた後、無言で斜め後ろを歩く。

「は、は、比企谷は、どんな曲をやるの?」

 さっきからなんだサキサキ。

「まだ曲は選考中だ。ところでおまえ、もしかして『八幡』って呼びたいのか?」

「あ? そ、そんなこと…馬鹿じゃないの」

 鋭く睨んでぷいと視線を反らし、なにやら口の中でぼそぼそ言っている川崎に再び悪戯心が頭を擡げる。

「呼んでいいぞ。呼びたいならな。強制はしないが」

 にやりと笑う俺に向かって、これでもかと云わんばかりの勢いで振り向く。サキサキ首とれちゃうぞ。

「いや別に、その…ほ、本当に?」

 花が咲いたような笑顔を向ける川崎に少し罪悪感を感じる。

「お、おう。今日だけ、な」

「わ、わかった…はち、まん」

 ぐはっ。何これ。破壊力抜群。こんなやりとりを日常で繰り返すリア充恐るべし。

「なんだ、サキサキ」

「さ、サキサキいうなっ。は、八幡の馬鹿」

 

「悪かった。沙希たちはどんな曲やるんだ?」

 うー、と唸って下を向いたまま歩く川崎が、ふと顔を向けて笑う。

「な、名前で呼び合うのって、なんかいいな。な、八幡」

 おまえ、「な」の含有量多すぎ。そんなに使ったら明日使う分の「な」が無くなるぞ。

「ああ、そうだな」

 それからしばらくは無言で歩いた。

「…ところで相談なんだけどさ、昨日大志があ、あたしの下着で…」

 結局、女子バンドの情報は何も聞けなかった。

 

 




お読みいただきありがとうございます。
第9話、いかがだったでしょうか。
どうしても書きたくなって、また川崎沙希を出してしまいました。
次回からはちゃんとストーリーを進めるつもり、その予定です。


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