「ずっと好きだった」   作:エコー

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比企谷八幡と川崎沙希。
実はこの二人が一番しっくりくるんじゃないのかな。



8 兄は妹に、姉は弟に

8 兄は妹に、姉は弟に

 

 葉山邸でのバンド練習というハードな残業を終えて比企谷家に戻る俺。

 比企谷家っていうとなんか上流階級みたい。いや葉山邸とかいっちゃう時点で比企谷家の負けは確定か。

「ただいまー」

 一方通行の帰りの挨拶が、無人の暗いリビングに虚しく響く。

 あれ、小町いないのかな。塾か。男か。まさか…大志か。

「あんのやろー」

 いない敵にムカついても腹は満たされない。仕方が無いので、冷蔵庫を開けて夕食作りに使えそうな材料を引っ張り出す。

 野菜、レタスだけかよ。

「え、と。鶏ガラスープの素は…」

 棚の中を引っ掻き回す。

「その上の棚だよ、おにいちゃん」

 声のほうへ振り向くと、小町がいた。その足元には飼い猫のカマクラが巻きついている。

「ごめんね~ちょっと電話してた。でもでも、小町の心はいつもおにいちゃんと一緒だよ。あ、今の小町的にポイント高いっ♪」

 何のポイントかは未だに不明だが、小町が上機嫌なのはいいことだ。うん。

「はいはい、おにいちゃんも一緒だよ~っと」

「むー。今の小町的にはポイント激低~」

 そのうち俺自身が没シュートされそうなので、さっさと話題を変える。

「そういえば、お前はメシ食ったのか?」

「あ、ずーっと電話してたから忘れてた。てへっ」

 可愛いのだが何か癪に障るのでスルーすると、小町はむすっとした顔で俺を見る。

「じゃあ、チャーハンでいいか?」

「うん」

 チャーハンひとつで機嫌を直してくれる。家族、いや兄妹ならではの事なのかもしれない。

「おにいちゃんっ」

 小町が俺の腕に絡みつく。

「愛情たーっぷりのチャーハン、お願いねっ」

 ああ、任せろ。

 

 冷蔵庫にカニかまがあったので、カニかまをサキサキして今日はカニチャーハンにした。カニかまだから、ニセかにチャーハンだけど。

「小町」

 カチャカチャあむっと、お手製のチャーハンを頬張る小町に目を向けずに話しかける。

「ん~?」

 こくこくと水を飲みながらの生返事。

「文化祭、見に来いよ」

 小町のコップの中でこふっという音がした。

「けほっ…おにいちゃんがそんなこと言うなんて、熱でもあるの?」

「熱なんかねえよ、文化祭でバンドやることになっただけだ」

 いよいよ目を丸くして俺を見る。

「え、ええ~っ!?」

 俺とバンド。水と油みたいなものだ。そもそもバンドとはリア充の象徴的なものであり、青春の象徴でもある。故に、俺には一番縁遠い存在だった。

「あのね、おにいちゃん知ってる?バンドって一人じゃ出来ないんだよ。メンバーいるの?」

 Tなんとかレボリューションみたいなパターンもあるだろうが。バンドじゃないけど。

「あ、戸塚と、材、いや中二と…リア充オバケ」 

「なあんだ、結衣さんや雪乃さんとじゃないんだ~。ところでリア充オバケって誰?」

 残念そうに目に光らせた期待を消す小町。

「あいつらはあいつらでバンドやるからな。リア充オバケは葉山だ」

 たしかこいつ、葉山に一回会ってるよな。去年の夏休みに。

「へぇ~さいですか」

 その後は、二人でニセかにチャーハンを無言で食べた。

 

   ☆      ☆      ☆    

 

川崎沙希 Side 

 一方その頃、川崎家。

「大志、あんたドラムやったことあるっていってたよね?」

 今後ろに隠した黒いの、本か? なんだったんだろ。後で追求してとっちめよう。

「う、うん。音楽室で遊んでただけだけど。どしたの姉ちゃん」

「ちょっと、教えてくれないかな」

 じゃあこれ、と大志にドラムの教本(古本屋で購入)を借りたのはいいけど。

「この教本見れば基本は出来ると思うよ。姉ちゃん人付き合いと恋愛以外は器用だし」

 とりあえず1発大志を殴って自分の部屋に戻る。

「なになに…スネア? タム? ツインバス? さっぱりわからないじゃんか」

 ドラムって何でこんなにいっぱい太鼓があるんだよ。しかもシンバルが二枚重ねって意味わかんない。

 仕方ない、もう一度大志に聞くしかないね。さっき咄嗟に隠した本のことも含めて。きっとエッチな本か何かだろう。

 ま、大志もそういうお年頃だからね。そんなにきつく怒るつもりはないけど。

 そういえばあいつは…じょ、女性の身体とか、やっぱ興味…あるのかな。そういう年頃だし。

 た、た、例えば、あたしの…身体、とか。

 由比ヶ浜は胸大きいけど、あたしだって負けてないと思う、弾力とか。あ、でも足の綺麗さは雪ノ下には負けてるかな。

 でも前にパンツ見られたし。もう一回見せてとか言われたらどうしよう。やっぱ黒がいいんだよね、あいつ。あの時も黒だったし。

 そういえばあの下着って、どこにいったんだ。まさかあいつがこっそり…

 って、ないない。ある訳ない。何考えてんだろ。今はドラムのことを大志に聞かなきゃ。

 よし、いきなりドアを開けてちょっと大志を脅かしてやろう。

「大志~さっき隠した本……!」

「な、何だよ姉ちゃん」

 大志は黒い布を握り締めてこちらを見ている。

「…それ…あたしの下着」

 黒のレースを握り締めた大志を、とりあえず殴っておいた。

 

   ☆      ☆      ☆   

 

 




お読みいただきありがとうございます。
第8話、いかがだったでしょうか。
実は原作の中に登場する女子の中で一番好きなのは川崎沙希だったりします。
男子では材木座義輝。
今回の物語ではこの二人はあまり登場しませんけど。


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