てか…この作中では戸塚彩加があまり活躍してないな。
戸塚のバンドなのに。
では、どうぞ。
13 一色いろはと葉山隼人は結託する
文化祭の本番まであと一週間に迫った。
実際の会場である講堂を使って、流れの確認と練習をする。女子バンドの部分は別の日にやるらしいので、今日は俺たちと有志のバンドが集合した。
タイムスケジュールでは、午前中に雪ノ下陽乃率いるブラスバンド演奏、午後は最初に有志バンドの出演があり、その後に俺たち男子のバンド、最後に女子のバンド、となっている。
「げっ、雪ノ下さんも来るのかよ」
俺と葉山は顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
「あ、今日は来られないようですよ」
文実委員長の鶴巻だ。その後ろに委員だろうか、もう一人の女子がいる。
ほっと胸を撫で下ろしていると、後ろの女子が説明を始めた。最初に有志バンドの演奏を通しで行い、それから俺たちのバンドの通しリハーサルと伝えられる。
「さて、先輩方の演奏を拝見しますか」
先輩方の演奏は、善くも悪くもなく無難というか、普通だった。なぜ今ハードロックなのかはすごく気になったが。
いや、ライトハンド奏法とか凄いんだよ。実際は。
俺たちの番が来た。ステージ上で時間を計りながらセッティングをする。
そして演奏開始。
まだ練習中なので至る所で間違えるが、そのまま流して演奏を続ける。演奏が終わると、撤収の時間を計測。ちなみにタイムキーパーは先程説明を受けた女子委員が担当した。
「24分24秒でした。当日はMCとかなさいます?」
葉山のほうを見遣る。この中でステージ上での話が出来るのは葉山ぐらいだろう。
「いいや、今のところ演奏だけで行く予定だよ。もしMCがあっても3分程度で収めるよ」
後ろのほうで、材木座が耳につけたイヤホンモニターを取っている。イヤホンモニターにはクリック音が流れていて、奏者はそれを聞きながらドラムのテンポを維持する。こないだの練習から使い始めたスマホ用のアプリだ。
「葉山殿、お主の助言通りにこれでテンポを聞きながら叩くと、若干ではあるが楽だな。むふ」
この口調に漸く慣れてきた葉山が笑って答える。
「材木座君は、もう素人とは呼べないな。今度俺たちのバンドにも参加してよ。ちょうどドラムが抜けてしまったんだ」
おお、まさかのリア充の王、リア王からのオファーだぞ。材木座もついにぼっち脱却の道を歩むのか。
「ゴラムゴラム、我の援軍が必要ならいつでも呼ぶが良い。馳せ参じようぞ」
若干引いている葉山を余所に、いつものように胸を張り高笑いを上げる。
「…おい材木座、女子が引くぞ」
正しくは「女子も引くぞ」か。だって男子も引いちゃうもん。
決まらない決めポーズを決める材木座を横目にタイムキーパーの女子委員を見遣ると、ケラケラと笑っていた。
「ふう、笑って貰えただけマシか。」
キセキって、あるのな。
☆ ☆ ☆
翌日、文化祭実行委員会室。
「あれぇ葉山先輩、どうしたんですか?」
出迎えたのは、忙しそうに指示を出す生徒会長の一色と、文実委員長の鶴巻。
「今日は相談があって来たんだ」
「相談なら奉仕部ですよ。比企谷せんぱいとバンド組んでるんですからそちらに…」
「いや、この相談は比企谷には話せないんだ。彼に関係することだから」
きょとんとして顔を見合わせる一色と鶴巻に、葉山は相談と称して用件を伝える。その内容に、一色と鶴巻は興味と同時に難色を示す。
「んー、それって…相談というか、罠。いや、悪戯ですかね」
それが、葉山の相談の内容を聞いた一色の率直な感想だった。
「ああ、そういえるな。だけど、無理を承知でお願いしたい」
鶴巻と一色が顔を見合わせて、ぼそぼそと話し合う。
「わざとトラブルを起こすのは運営側としては気が引けます」
一色の常識的な発言に、うんうんと頷く鶴巻。
「でも面白そうだし、その方が盛り上がっちゃいますね。きっと」
鶴巻の頷きは、驚きの顔に変わっていた。
「か、会長…そんな、文化祭を個人的な理由で…」
取り乱す鶴巻を尻目に、一色は葉山と歪んだ笑顔を交わしている。
「葉山先輩って、意外と腹黒いんですね~」
「こうでもしないと、あいつは動かないからね」
ふたつののニヤニヤ顔が向き合うのを、鶴巻の深い溜息が包み込んだ。
「もう、どうなっても知りませんからね」
俺は、その話し合いの内容を知らなかった。
お読みいただきありがとうございます。
第13話、いかがでしたか。
つつがなく進んでいたバンド練習。しかしそこはやはり曲者ぞろいの登場人物。
今回はあの人が平穏を崩しにかかります。
みたいな話でした。
気がつけばありがたいことに57件ものお気に入り登録をいただいておりました。
もう感謝の一言に尽きます。本当にありがとうございます。
ご意見ご感想、出来れば批評もいただけたら幸いです。
ではまた次回。