「ずっと好きだった」   作:エコー

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なかなか進まないまま第10話。
今回もなかなか進みません。

ではどうぞ。


10 比企谷八幡は思い出す

10 比企谷八幡は思い出す

 

 文化祭二日目の打ち合わせということで、生徒会室に呼び出されていた。

 放課後なのに学校に残るって超めんどくさい。あ、そういや部活もそうだった。バンドの練習も同じく。残業なんて大嫌いさっ。

 そんな瑣末なことを考えること数分、雪ノ下たちもやってきた。平塚先生は職員会議で欠席らしい。

 通りすがりにアホリーダーこと由比ヶ浜結衣がちらりとこちらを見て、すぐに目を反らす。

 あれ~俺ら敵対関係だっけ。

「えーと、今日わぁ、タイムスケジュールの作成とぉ、パンフレットに載せるバンド名や曲目を提出していただくためにぃ、来て貰いましたぁ」

 生徒会長、突然甘えたような声で議事進行をしないでくれ。見ろ、葉山が苦笑いしてるぞ。あの誰にでも良い顔する葉山がだぞ。

「でわぁ、文化祭実行委員長から一言、お願いしまーす」

 会長…いや一色、もう一度小学校で「てにをは」の使い方を学んでこい。話はそれからだ。

「文実委員長を任ぜられました二年の鶴巻といいます。今回、先輩方には受験勉強でお忙しい中、バンド演奏でのご参加を頂き、本当にありがとうございます」

 お、今年の実行委員長は仕事出来そうなやつで良かった。去年は散々だったから。でもそれが相模オリジナル。

「…で、今回は有志参加のバンドも含めて、『総武高ライブ』という形でやって行きたいんです」

 説明もわかりやすい。聞く全員が同じように正確に理解できる、勘違いの余地の無い説明だ。

「とりあえずこちらで作成した当日の仮のタイムスケジュールです」

 回されてきたプリントには、当日の時間割がざっくりと、しかし明瞭簡潔に書かれている。あとはバンド名や出演順序を記入するだけにしてあった。

「一つのバンドあたり、およそ30分か。結構長いな」

 葉山が言う。ライブハウスなどで複数のバンドが出る場合、15~20分くらいの持ち時間が通常らしい。

「30分…1曲5分ちょいとして、やっぱ5曲くらい欲しいか」

「そうだね。ぼくたちの場合はMCなんかは入れないほうが良いだろうからね」

 そうだな、この中で公衆の面前で堂々と喋れるのは葉山くらいだ。

「では双方の代表者さん、チラシやパンフに載せるバンド名を教えてください」

 そういや、まだ名前決めてなかったな。ひそひそと戸塚との密談を始める。

「どうする戸塚」

「はちまんは、どんな名前がいい?」

「彩加と下僕たち、だな」

「もうっ、まじめに考えてよっ」

「あはは、悪い悪い」

 などと戸塚といちゃつこうとする俺に、女子バンドのメンバー達から冷たい視線が集まる。全然密談になっていなかった。

 痛い視線のお返しとばかりに、女子バンドに矛先を向けてやる。

「女子のほうはもう決まってるのかよ」

 先に女子のバンド名を発表してもらって、その隙に決めちゃおう大作戦だ。

「え、ええ…一応」

 雪ノ下が顔を赤らめる。よくみると女子バンド全員俯いている。

「じゃあそっちを先に発表してくれ」

 女子一同の顔が一様に赤くなる。何? 集団感染? そんなに恥ずかしいバンド名なの?

「あ、あのー、せんぱい」

 議事進行の一色が手を挙げる。おまえも顔赤いぞ。感染者か。院内、いや委員内感染か。あんま上手くなかった。

「あの、せっかくですからぁ、バンド名は当日発表のサプライズってことにしませんか?」

 何それ、なんか意味あるの?

「それ誰に対してのサプライズなんだよ。まあ、いいけど」

 とりあえず会議なんて、早く終わらせたかった。

「では、バンドの責任者さんは後でバンド名を届け出てくださいね。それから、どうせなら曲目も当日発表にします?」

 一色が女子メンバーにだけ向けるように提案する。何の出来レースだ。女子メンバーの一色さん。

「そうね。その方が驚きが増しそうだし」

 女子側で何か客を盛り上げる策でもあるのだろう。雪ノ下が同意したことで、他の出席者も賛同した。その後出演順を決め、結局打ち合わせは15分程度で終わった。

 退室前に一色に声をかける。

「今年の委員長は出来るやつみたいだな。安心した」

 去年の嫌な思い出が一瞬フラッシュバックで甦る。

「はいー、去年の相模先輩とは比べ物にならないですよ」

「おい。現委員長を誉めるのはいいが無為に他人を下げるのはよせ。相模もそれなりに頑張っていたんだ」

 本当の事だ。相模も相模なりに頑張ろうとしていた。優秀過ぎる雪ノ下を目の当たりにして心が折れるまでは、だが。

「委員長の鶴巻です。比企谷先輩のお噂は一色会長から度々伺ってます。あらためてよろしくお願いします」

 この委員長、流れに逆らわずに物事をより良い方向に持っていくスキルを持っているな。それに可愛い。

「あ、ありがとう…ございます」

「せんぱぁい、また考えたことを口に出してましたよ。可愛いとか」

 ぼっち生活が長かったせいか、たまに思ったことが独り言として声に出る。仕方ない。話し相手は自分か小町しかいなかったのだから、とセルフフォロー。

「え、ああ。悪い」

 俯いている委員長女史に軽く詫びる。腐った目で気持ち悪いこと言ってすまない、という意味を込めて。

「もう、そういうとこ気をつけたほうがいいですよ。先輩の言葉って変に女心をくすぐるんだから」

 女心。くすぐれるものならくすぐりまくってみたい。あと戸塚心も蹂躙したい。

「一色会長と比企谷先輩って、仲良いんですね」

 それにしても一色のヤツ、しっかりと生徒会長してるんだな。感心感心。

「い、いやいやそれは無いよマキちゃん。それにこの人」

 耳打ちをしながら俺をチラチラ見るなよ。ちょっと勘違いしちゃうぞ。

「へ…そうなんです、か」

 足元から舐めるように俺を見る委員長は、全身を見終えるとしきりにふむふむと頷く。

「ほら、おまえのせいで俺が変な目で見られてるじゃないかよ。どうせ捻くれ者のぼっちとか言ったんだろ。」

 すっと鶴巻が俺の目を覗き込む。気恥ずかしくなって目を逸らす。

「一色会長のおっしゃる事、わかる気がします。…ライバル多そうですね」

 女の密談に首を突っ込むとロクな事が無い。それは由比ヶ浜と雪ノ下で経験済みだ。

 こんなときは早めに退散するに限る。

「じゃあな一色、俺行くわ。バンド名は明日提出する。あ、鶴巻さんだっけ、頑張ってな」

 遠くで戸塚が呼んでいる。ダッシュで向かわなければっ。

 

 




お読みいただきありがとうございます。
第10話、いかがでしたか。
ここまであまり物語は進んでいません。
起承転結も曖昧です。
でも、書くのって楽しい。読んでもらえるのって、楽しい。
気分は剣豪将軍材木座義輝。

あと大事なことを。
お読みいただいた方からのご指摘をいただきまして、後書きでの結末の希望募集を削除させていただきます。
詳しくは活動報告をご覧くださればありがたいです。

ではまた次回。

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