黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

99 / 218

投稿します!

いい感じに投稿ペースが安定してきました…(^-^)

それではどうぞ!



第99Q~スカウティング~

 

 

 

インターハイ1日目の試合が終了し、その夜…。

 

「全員集まったな。これより、明日の試合相手である陽泉高校のスカウティングを始める」

 

花月高校の宿泊するホテルの一室に選手達と監督の上杉、マネージャーの姫川と相川が集まった。

 

姫川がリモコンを操作すると、正面のテレビについ先程行われた陽泉と大仁田の試合映像が流れ始めた。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「始めに、陽泉高校の今年の主将、4番、ポイントガード、永野健司」

 

ボールを運びをする永野。冷静にドリブルをしながらゲームメイクを始め…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

目の前のディフェンスをドライブでかわし、中へ切り込んだ。

 

「…速い。去年よりスピードとキレが増してるな」

 

ドライブを見た空が昨年相手した時と比較し、そう答えた。

 

「それだけやない。視野も広がっとる。ええパス放るわ」

 

カットインをして相手ディフェンスを引き付けてからパスを出した永野を見て天野が言う。

 

「チームの軸となる為、この1年間自分を磨いてきたのだろう。こいつに如何に仕事をさせないよう抑える事が出来るか……神城」

 

「分かってますよ。去年同様、抑えてやりますよ」

 

名指しをされた空は不敵に笑いながらそう宣言した。

 

「次に、5番、シューティングガード、木下秀治」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

永野からのパスを受けた木下が外からスリーを放ち、ボールはリングを潜った。

 

「192センチの高い身長から放たれる打点の高いスリーは注意が必要です」

 

「去年も感じたが、長身のシューターってのは厄介だよな」

 

「…」

 

生嶋は真剣な表情で映像を見つめていた。

 

「どうです生嶋さん。明日の試合、この方をマークするのはあなたになるかと思いますが」

 

大地の指摘通り、明日の試合、ポジション的にも状況的にも木下とマッチアップするのは生嶋となる。

 

「身長差は10センチもある。厳しそうだね」

 

心配と不安を覚える帆足。

 

「心配ないよ。リングから距離があるスリーはゴール下程身長差の影響が出ないから」

 

不安そうな表情をする帆足を安心させる為に生嶋は笑みを浮かべながら言った。

 

「だが、それでも身長差があるのは事実だ。そのハンデを埋める為には相当体力を使う事になるぞ?」

 

「うん。分かってるよ。僕はシューターだ。シューターの事はよく理解しているよ。シューターが何を嫌がるか、よく知っている」

 

あくまでも心配ないと松永の懸念を払拭する生嶋。

 

「ま、あいつの相手は任せる。後、中が堅い陽泉ディフェンスを攻略する為にはお前のスリーが不可欠だ。あてにしてるぜ」

 

「どんどんボールを回してよ。全部決めてみせるから」

 

空の言葉に、生嶋は笑顔で答えた。

 

「次、9番、パワーフォワード。渡辺一輝」

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

相手の放ったシュートを渡辺がブロックした。

 

「2メートルの身長を誇る、陽泉の選手の1人です」

 

「でっけーな。陽泉にはまだこんな奴がいたのか」

 

紫原に次ぐ高身長の渡辺を見て菅野の額から冷や汗が滴る。

 

「…」

 

映像に移る渡辺のプレーを松永は食い入るように見つめる。

 

「どうした松永? 何か気にかかった事でもあったのか?」

 

「…いや、そういう訳ではないんだが」

 

空の指摘に歯切れの悪い返事をする松永。

 

「…実は中学時代、こいつとは対戦した事がある」

 

「へぇー、結果はどうだったんだ?」

 

「…」

 

結果を空が問うと、松永は再び黙り込む。

 

「なんやねん、そんな押し黙る程ヤバい奴なんか?」

 

「…いえ、そう言う訳ではないんですが」

 

何かを言いよどむ松永。

 

「率直に言いますと、ただデカいだけの選手でした」

 

「…はぁ?」

 

松永の言葉に、天野が思わず声を上げる。

 

「中学3年の時に全中の予選で戦ったんですが、パワーは当時の俺でもやり合える程度でしたし、高さも、飛べば俺の方が高かったです。スピードとテクニックに関しては大したレベルではなかったです。正直、俺達世代最高身長の選手だったので覚えていましたが、それがなければ記憶に残っていたかどうか…」

 

「けどよ、試合を見た限り、そうは見えないぜ? 正直、陽泉以外ならスタメンセンターに選ばれてもおかしくないレベルだぜ、こいつは」

 

菅野の言う通り、試合では相手選手をインサイドプレーに対しても決して力負けしておらず、オフェンスではローポストからパワーとテクニックを駆使して得点を重ね、ディフェンスでは相手選手のシュートをブロックしていた。

 

「監督である荒木の影響かもしれんな。あいつはあの手の選手を鍛えるのが特に上手い。一昨年の主将の岡村を見れば分かるようにな。松永と試合をしてから2年もあったんだ。眠っていた資質を伸ばすには十分な時間だ」

 

ロングの試合映像から僅かに映る陽泉の監督である荒木の姿を見ながら上杉が言った。

 

「マッチアップすんのは、俺やな。こないなデカい奴相手すんのは初めてやな」

 

試合映像を見ながら天野がぼやく。

 

天野とて、193㎝の身長があり、高校生のバスケ選手としては決して低い方ではない。だが、渡辺はそんな天野より8㎝も高く、天野がこれまでマッチアップした選手の中でも最長の選手である。

 

「けどま、抑えな話にならんからのう。抑え込んだるわ」

 

右拳を左の手のひらでパチン! と当て、意気込みを見せた天野だった。

 

「次に、11番、スモールフォワード。アンリ・ムジャイ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを持ったアンリが高速のドライブで相手選手を一瞬で抜き去る。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままインサイドに切り込み、ワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

「…っ、とんでもないスピードとジャンプ力だな」

 

ドライブからダンクまでの一連のプレーを見て、松永が表情を曇らせる。

 

「あのスピードとアジリティはマジで青峰レベルじゃないのか?」

 

目の前の選手が反応出来ないレベルのスピードと加速力でドライブを披露したアンリを見て、菅野が思わずキセキの世代のエースである青峰と比較する。

 

「…体感はそれ以上に感じます。実際、目の前で目の当たりにしたのなら、もっと速く感じるかもしれません」

 

大地はアンリのドライブを見てそう感想を述べた。

 

「そっちも厄介だが、あのジャンプ力も厄介やで。あの高さと滞空時間は下手したら誠凛の火神クラスや。飛ばれたら終いや」

 

天野の指摘はもっともで、ヘルプに来た相手選手の上から、しかも、相手より先に飛んだにも関わらず相手より長く飛びながらボールをリングに叩きこんでいた。

 

「オフェンスもそうですが、ディフェンスでもこの身体能力は生かされます。チンタラしていたら、あっという間にヘルプに来るでしょうね」

 

空の指摘通り、大仁田がボールを回してフリーの選手を作り出してもこのアンリがあっという間に距離を詰め、シュートをブロックしてた。

 

「去年の劉は、典型的なパワー型のインサイドプレーヤーだったが、こいつはスピードとジャンプ力特化のスラッシャータイプの選手だ。…ポジション的に、大地、お前がこいつの相手だぜ?」

 

隣に座る大地に空が視線を向けながら問いかける。

 

「…確かに、あのスピードとアジリティから来るドライブは厄介です。ですが、青峰さんのような横の出入りはありません。私もスピードには自信があります。抑えてみせます」

 

覚悟を決めた表情で大地は返したのだった。

 

「最後に、6番、センター、紫原敦」

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

十分にノーマーク放たれたと思ったミドルシュートを紫原が難なく追いつき、ブロックした。

 

「…マジかよ。今の完全フリーだったろ。あれに追いついちまうのかよ」

 

シュートを打つ直前、それなりの距離があったにもかかわらず、紫原はその距離を一瞬で潰し、ブロックしてしまう。

 

「あの身長と手足の長さであの反射神経とスピードは反則レベルだ。マジでツーポイントエリアから得点を奪うのは地獄だぜ」

 

圧倒的な紫原の守備範囲を見て空の背筋が凍る。

 

「荒木め、かなり紫原を鍛え上げたな。身体付きが去年とまるで違う」

 

映像に映った紫原の身体を見て上杉が唸る。

 

「去年は結局、堀田さんがオフェンスに参加するまで紫原から1点も取れなかったんだよな」

 

『…』

 

去年の陽泉との試合を思い出す空。空の言葉を受けて花月の選手は言葉を発せなかった。

 

「あん時はたけさんがディフェンスに専念しよった関係で4人で攻めとったからちゅうのもあるけどな。…けどま、それ抜きにしても今年の陽泉はあかんわ」

 

「ああ。氷室と劉が抜けて戦力ダウンするかと思ったが、これは下手すると去年以上かもしれないぜ…!」

 

天野の言葉に同意する菅野。

 

「ただやみくもに戦っては、勝つどころか大仁田と同じように1点も取れずに終わってしまうこともあり得る」

 

神妙な表情で松永が続ける。

 

その後も選手間で意見を出し合いながら陽泉選手の分析と対策を立てる。

 

『…』

 

ひとしきり話し合った後、再び室内が沈黙が包まれる。何か突破口が開ける何かはないか、真剣に考える。

 

「……全員、こっちを向け」

 

この沈黙を破ったのは、上杉だった。上杉は立ち上がると、テレビの横に置いたあったホワイトボードを選手達の前へ移動させた。

 

「これから、明日の作戦を説明する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日、インターハイ2日目…。

 

2日目からシード校の試合が始まる。この日、1番の注目カードは、花月高校と陽泉高校の試合である。

 

「っしゃっ!」

 

身体を解しながら気合いを入れる空。早々に会場入りした花月の選手達は各々、試合の準備を進めていた。

 

「ねえねえ、姫ちゃん知らない?」

 

柔軟運動をしていた空に相川が問いかける。

 

「姫川? そういやいねえな」

 

辺りを見渡しながら空が答える。

 

「どうしよう。テーピングの数とか相談したかったんだけど…」

 

「よっと、そんじゃ俺が探してきてやるよ」

 

空は姫川を探すべく立ち上がった。

 

「えっ、悪いよ。試合の準備だってあるんでしょ?」

 

「ちょうど喉が渇いてたから、ジュース買いに行こうと思ってから、そのついでに行ってくるだけだから気にすんなって」

 

「ごめんね。それじゃ、お願いね」

 

後ろ手に手を振って、空は姫川を探すべくその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「放してください」

 

「いーじゃんかよ。ちょっとぐらい付き合えよ」

 

会場の外。姫川はしつこいナンパにあっていた。

 

「急いでますので」

 

ナンパを無視して姫川はその場を後にしようとする。

 

「待てよ」

 

だが、ナンパ男は立ち去ろうとする姫川の肩を強引に掴む。

 

「お前の都合なんざ知らねえーんだよ。俺が付き合えっつってんだから付き合えよ」

 

「っ!」

 

ナンパ男は肩を掴んだ手に力を込める。すると、姫川の表情が苦痛に染まる。

 

「楽しいトコ連れてってやるからよ。一緒に遊ぼーぜ」

 

強引に姫川を自分の傍に引き寄せ、肩に腕を回した。

 

「っ、いい加減に――」

 

その時、ナンパ男目掛けて何かが飛来してきた。

 

「あん?」

 

それに気付いた男はそれを右手でキャッチした。飛んできた物は、缶ジュースだった。

 

「わりーな、手が滑った」

 

飛んできた先から、空が不敵な笑みを浮かべながら立っていた。

 

「その子、ウチのチームのマネージャーなんだわ。ナンパなら他当たってくんない?」

 

「放して!」

 

現れた空に気を取られている間に姫川は肩に回された腕を振りほどき、空の後ろまで駆けていった。

 

「神城君…」

 

「相川が探してたぜ? 早く行ってやれよ」

 

「でも…」

 

姫川は空と男を交互に見て戸惑う。

 

「いいから。早く行っとけ」

 

「……分かったわ」

 

一瞬考えた後、姫川はその場を後にしていった。

 

「…じゃ、そういう事で」

 

姫川が立ち去ったのを確認すると、空は踵を返し、後ろ手で手を振ってその場を去ろうとする。

 

「待てよ」

 

「っ!?」

 

 

――ブン!!!

 

 

男が引き留め、空が振り返ると、男は空の顔目掛けて拳を振るった。空は咄嗟に横に上半身を傾けてかわした。

 

「っと!」

 

拳をかわした空に対して追い打ちをかけるように男は蹴りを繰り出す。空は上半身を後ろに倒して蹴りをかわし、距離を取った。

 

「へぇ? 意外とやるな」

 

避けられると思わなかったのか、男は感心する。

 

「(…こいつ、本気で当てにきやがった)」

 

威嚇でも寸止めでもなく、本気で殴り掛かってきた男を見て空の表情が僅かに曇る。

 

「…お前、ジャージ着てここにいるって事は、選手だろ? こんな所で喧嘩していい立場じゃねえだろ」

 

この男が選手なら、つまり、インターハイの参加校と言う事になる。喧嘩をしてそれが表沙汰になれば、不戦勝だけではなく、その後の部活動にも差し障る事になる。

 

「知るかよ。俺はバスケなんざ何とも思ってねえからな。どうなろうと知ったこっちゃねえんだよ」

 

男は悪びれる事もなく空に言ってのける。

 

「あー気分わりー。人の楽しみ邪魔しやがってよ。てめえで憂さ晴らしてやるよ」

 

拳を握り、ジリジリと空に近寄る男。

 

「くっだらねえ。やりたきゃ他当たれ。こっちはお前の相手してる暇なんかねえ」

 

「…決めたわ。ここでお前殺してやるよ」

 

「やれるもんならやってみろ。腐れドレッド」

 

男は駆け出し、空に殴り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「ハァ…ハァ……くそがっ!」

 

「…」

 

男が空の顔面目掛けて左右の拳を振るう。左拳をスウェーでかわし、右拳を掻い潜り、一定の距離を取った。

 

「ちょこまかちょこまかしやがって…!」

 

自身の振るう拳をことごとく避けられ、憤りを隠せない男。空は、殴り掛かってくる男の打撃を避けるあるいは払うをひたすら繰り返している。目の前の男は、空より体格に優れ、何より、人を殴り慣れている上に暴力を振るう事に抵抗がない。だが、空からすればそれだけであった。

 

空は、家業である漁を手伝う傍ら、海の治安維持の為、密漁者の見回りもしている。現場を見咎められれば大人しく退く者もいれば、中には折角手に入れた収穫物惜しさなのか、然るべく機関に通報される事を恐れてなのか、暴力手段に訴える者も多数いる。中には、喧嘩慣れしている者や、格闘技に精通している者、果ては凶器を振るう者もいる。

 

そのような輩を相手にしてきた経験がある空は、目の前の男はただ人を殴り慣れているだけで、喧嘩慣れしていない事にすぐに理解した。実際、体格に優れた厳つい男が何の抵抗もなしに暴力を振るってくれば恐怖でしかない。これまで男が殴ってきた者達は、抵抗も出来ずに殴られたか、最初こそやる気があっても、遠慮なく殴られた事で早々に戦意を喪失した者達ばかりなのだろう。

 

修羅場をそれなりに経験をしている空からすれば、純粋な喧嘩をほとんどした事がない男をあしらう事はさほど難しい事ではなかった。その気になれば叩きのめす事も出来るだろうが、当然、その選択肢は取れない。それをしてしまえば花月が出場停止処分になりかねないからだ。原因を作ったのも先に手を出してきたのも向こうなのだから本来は正当防衛なのだが、目撃者がいないこの状況で反撃すれば、まず間違いなく喧嘩両成敗で片付けられてしまう。

 

正当防衛に真実味を持たせる為にはある程度怪我を負わなければならないのだが、大事な試合を控える空からすればそこまでする義理もメリットもない。相手を組み伏せて拘束するにしても、体格では相手が上回っている為、振り解かれて下手したら怪我をしかねない為、それもやりたくない。

 

「(…さて、もう少しかな)」

 

打撃を避けながら空は何かを待っていた。

 

「こらぁっ! そこで何をしている!?」

 

その時、怒号のような声が2人の耳に入ってきた。声が聞こえてきた方角に視線を向けると、そこには警備員が2人の下に駆け寄ってきた。

 

空が待っていたのはこれであった。いくら人通りが少ない場所とは言っても、人の通りは皆無ではない。時間を稼げば誰かが通報してくれる。その為に、空はただただ相手の打撃をかわし続けていた。

 

「ちっ、邪魔が入ったか。…おいてめえ、覚えてろよ」

 

そう言い残し、男はその場を去っていった。

 

「おい君、大丈夫かい?」

 

「ええ。見ての通り、怪我1つありません」

 

無傷をアピールするように空は両腕を広げる。

 

「女の子が必死になって助けを求めてきたから、急いで来たのだが、見た所、怪我がないようだし、良かった良かった」

 

負傷の後がない空を見て警備員は安堵する。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

警備員が事情を説明すると、遅れて姫川がやってきた。

 

「神城君、怪我はない!?」

 

「心配いらねえって、言っただろ?」

 

息も絶え絶えに尋ねる姫川。空はあっけらかんとした表情で返した。警備員は無線で何処かに連絡を取っていた。無線での連絡を終えると、警備員室で事情の説明を求められたが、試合がすぐに控えている為、それを辞退。変わりにその場で空達と軽い事情聴取のような話し合いをした。

 

「物騒な者もいたもんだ。本部に警備の人員を増やすよう報告しておくよ。2度とこんな事が起こらないよう警備を強くする。けど、君達も一応用心しておいてね」

 

そう言い残し、警備員はその場を後にしていった。

 

「やれやれ、試合前にとんだゴタゴタに巻き込まれたもんだ。さて、みんな所に戻ろうぜ」

 

「…ええ、そうね」

 

そう言って、空と姫川はチームメイト達が待つ所へ向かっていった。

 

「(…あの男はやっぱり。…けど、あの人が何でこんな所に…)」

 

男に見覚えがあった姫川。だが、その男はこの場にいるはずがない男であったので、戸惑いを隠せない姫川なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月高校が集まる控室…。

 

『…』

 

試合時間が刻一刻と近づくにつれて、選手達の口数は減っていき、今では誰1人口を開こうとしない。

 

初戦の相手は陽泉高校。去年のインターハイでも戦い、勝利した相手だが、それは三杉と堀田の力によるものが大きいし、試合も接戦であった。

 

去年の冬、その2人抜きでキセキの世代を擁する秀徳に勝利し、桐皇を後一歩の所まで追いつめた経験もあるが、秀徳戦の勝利は相性の良し悪しと奇策がハマった事によるものが大きく、桐皇の接戦も、あらゆるものが花月に味方した事によるものが大きく、仮に再戦すれば敗北は必至である事は花月の選手が1番理解していた。

 

陽泉は、花月にとって相性がかなり悪い相手である。それが分かっている為、選手達はプレッシャーを感じている。後は、去年の冬に秀徳を撃破し、桐皇を後一歩まで追いつめた事で周囲のからの期待感も大きく。それがまた、選手達にプレッシャーとしてのしかかっている。

 

「時間だ。皆、準備は出来ているな?」

 

控室にやってきた上杉が選手達に問いかける。

 

「スー…フー……よっしゃ、行こうぜ!!!」

 

大きく深呼吸をした空が大きな気合いを入れた。

 

「やかまし! そないな声ださんでも聞こえとるわい!」

 

「空、みんな集中しているのですから、急に大声を出さないで下さい。心臓飛び出るかと思いましたよ」

 

大声にびっくりした天野が空に突っ込みを入れ、大地は苦笑いで空を窘めた。

 

「そりゃないぜ、イメトレしてたら葬式みたいな空気なってから俺が活を入れたってのに…」

 

良かれと思ってした行動を窘められ、軽く凹む空。

 

「大丈夫。ここまで来たら恐怖はないよ。ただ勝つだけだね」

 

「同感だ。今更怖いも何もない。全力で試合に臨み、勝ちに行くだけだ」

 

生嶋と松永が空に対して意気込みを露にする。

 

「覚悟をとっくに出来ています。後は、試合に臨むのみです」

 

「同感や。相手が何処やろうと、やる事は変わらへん。120%に力出して勝つだけや」

 

大地と天野も、意気込みを露にした。その他の選手達も、一様に覚悟が決まったのか、薄っすらと笑みを浮かべていた。

 

「よし。全員、戦う準備は出来ているようだな。では行くぞ!!!」

 

『はい(おう)!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『来たぞ!!!』

 

花月、陽泉の両選手達がコートにやってくると、会場中の観客達が歓声を上げた。

 

観客達の目当ては、花月と陽泉の試合であり、この日最大のメインイベントであると目されている為、観客席はほぼ満員状態である。

 

下馬評では、陽泉有利で、花月の勝率は万に一つとまで言われている。だが、観客達は『番狂わせが起こるのでは?』と、期待に胸を膨らませていた。

 

「スタートは神城、生嶋、綾瀬、天野、松永だ。これに変更はない。相手は今大会最高の高さを誇る相手だ。だが、機動力ではこちらが上だ。やる事は変わらん。足りないものは相手の倍走って補え」

 

『はい!!!』

 

「行って来い!!!」

 

「っしゃっ! 行くぞぉっ!!!」

 

空を先頭に、スタメンに選ばれた選手達がコートに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

両校のベンチから、スタメンに選ばれた選手達がコート中央へとやってくる。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

4番PG:神城空  180㎝

 

5番SG:生嶋奏  182㎝

 

6番SF:綾瀬大地 185㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

8番 C:松永透  196㎝

 

 

陽泉高校スターティングメンバー

 

4番PG:永野健司     181㎝

 

5番SG:木下秀治     192㎝

 

6番 C:紫原敦      211㎝

 

9番PF:渡辺一輝     201㎝

 

11番SF:アンリ・ムジャイ 193㎝

 

 

『で、でけぇー!!!』

 

190センチ代を2人、2メートルの選手を2人も揃えた摩天楼軍団の陽泉を見て、観客達が思わず声を上げる。

 

花月も全国的に見ても高さがないチームではない。だが、陽泉の選手達と並ぶと、どうしても低く見えてしまう。

 

「ふわぁ…」

 

両校の選手達が並ぶ中、紫原が気怠そうに欠伸をした。

 

「随分と余裕そうですね」

 

その様子が目に付いた空が紫原に話しかける。

 

「んー? 別に余裕かましてる訳じゃないよ。ただ、負ける気がしないってだけ」

 

話しかけられた紫原は興味なさ気に答えた。

 

「そんな呑気で良いんですか? 俺達これでも、同じキセキの世代の1人がいるチームに勝ってるんですけど?」

 

「知ってるよ。だから何? あんなマグレ臭い勝利が何度も続くと思ってんの?」

 

「続かないとも限らないっスよね?」

 

一向にこちらに興味を抱かない紫原に、空は煽るように言う。

 

「あるわけないじゃん。バスケはデカい奴が勝つように出来てる。どのポジションでも高さで負けてるお前達にどうやったら俺が負けるの?」

 

僅かに憤り始めた紫原が煽り返すようにそう返す。

 

「ぷはっ! アハハハハハ!」

 

すると、空が突然笑い始めた。

 

「どしたの? 現実思い知って狂った?」

 

「いやいや、まさか、キセキの世代で1番冗談が上手いのが紫原さんだとは思わなくて」

 

「?」

 

空の言ってる意味が理解出来ず、頭に『?』を浮かべる。

 

「あんたが言う事が正しいなら、一昨年も去年も、全部陽泉が優勝しているはずですよね? あんたが陽泉に来てから何回優勝しました?」

 

「っ!?」

 

その言葉を聞いて、紫原の表情が歪む。

 

「いつの時代の話してるんですか? デカい奴揃えれば勝てる時代はとっくに終わってるんだよ。そんな事言ってるから、自分より小さい奴に何度も負けるんだよ」

 

「あー去年も感じたけど、お前って、俺が嫌いな奴に似ててムカついてたんだよね」

 

そう言うと、紫原は空の頭付近まで手を伸ばした。

 

「適当にやって捻り潰すつもりだったけど、今決めたわ。お前、2度とバスケ出来ないようにここで全力で捻り潰してやるよ」

 

怒りの表情で紫原が空の頭に手を置こうとする。

 

「ホラホラ、整列ダヨ! チャント並バナイト!」

 

その瞬間、アンリが紫原の後ろから抱きしめながらそう促す。

 

「…っ、分かってるしー。っていうか、気持ち悪いからくっつかないでよ」

 

水を差された紫原は渋々整列した。

 

「君ノコトワ知ッテルヨ。グッドプレーヤーミタイダネ! 今日ハ楽シク試合ヲシヨウ!」

 

陽気に空に話しかけ、手を差し出すアンリ。

 

「もちろん。よろしく」

 

同じく手を出し、2人は握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

センターサークル内に両校の選手達が並ぶ。

 

「これより、花月高校対陽泉高校の試合を始めます。礼!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

「去年の借りは返させてもらうぜ」

 

「させませんよ。今年も俺達が勝たせてもらいます」

 

両校の主将である空と永野が握手を交わす。センターサークル内にジャンパーである松永と紫原を残して周囲に散らばっていく。

 

「…」

 

「…」

 

センターサークルの中心で対峙する松永と紫原。審判がその間に立ってボールを構え、ボールを高く上げる。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

花月高校と陽泉高校の試合の火蓋が今、切られたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





アンリ・ムジャイの身長を196㎝から193㎝に修正しております。

さて、ついに試合開始がされ、次話から本格的に試合が始まります。正直、肝心な試合の中身が完全に固まっていないので、もしかしたら投稿間隔が空くかもしれませんのでご了承を…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。