黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

キセキの世代、最後のインターハイの開幕です!

それではどうぞ!



第98Q~新たなる猛者~

 

 

 

――全国高等学校総合体育大会…。

 

 

高校の三大大会の1つである夏の大会。通称、インターハイ。

 

今年度の会場である広島県に、都道府県予選を勝ち抜いた全国の猛者達が集結していた。

 

「っしゃぁっ! 遂にこの日がやってきたぜ!」

 

インターハイの試合が行われる会場に到着すると、空が会場の目の前で気合いを入れる。

 

「毎度それやらんと気がすまへんのか?」

 

「空、ここにいるのは我々だけではないのですよ?」

 

そんな空を見て、天野は呆れ、大地は空を窘めた。

 

「そりゃ気合い入るだろ? これからまた激しい戦いが始まるんだぜ?」

 

不敵に笑いながら言う空。

 

「確かに、空程じゃないけど、身体が熱くなっちゃうかも」

 

「俺もだ。去年はほとんど試合に出られなかったからな。…早く身体を動かしたいものだ」

 

生嶋が耳からイヤホンを外しながら、松永は肩を回しながら言った。

 

「開会式まで時間に余裕はない。各自、あまり動き回るな。特に神城」

 

「…何で俺だけ名指しなんですか?」

 

上杉の名指しで注意を受け、空はジト目で抗議する。

 

「あなたには前科があるでしょう。今年のあなたは主将なんですから、勝手な行動は控えて下さいよ?」

 

「わーってるよ。…ったく、信用ねえな…」

 

大地にまで忠告され、口先を尖らせながら拗ねる空であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

開会式が行われ、昨年度の王者である花月から優勝旗が返還され、開会式はつつがなく終わった。

 

そして翌日、インターハイ1日目、1回戦の試合が始まった。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

試合が始まると、会場の観客席を埋め尽くす観客の歓声が会場内に響き渡った。

 

「いいかお前ら、片時も試合から目を離すな。しっかり研究し、学べるものは全て学んでいけ」

 

『はい!』

 

観客席にて、花月の選手達が一角に座り、試合を観戦している。

 

花月はシードの為、1回戦はない。その為、選手全員で試合の観戦に来ている。ちなみに、1回戦でキセキを冠する者が所属する高校同士の試合はない。

 

「今日は誠凛、洛山もシードだから試合がないのか」

 

「こればかりは仕方ありません。…しかし、この2校は他と比べて戦力の入れ替えが多いので、是非見たかったですね。誠凛はついこの間の合宿で紅白戦を致しましたが、試合ともなれば、また違ってくるでしょうし」

 

試合が見れない事を残念がる空。大地も同様の表情をする。

 

「ですが、注目すべき試合は他にもいくつもあります。しっかり研究致しましょう」

 

大地は表情を引き締め、コートに集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「桐皇と秀徳は危なげなく1回戦突破やな」

 

試合は進み、いくつかの試合は終了していく。

 

「しっかし、どっちも第2Q中盤で青峰も緑間も引っ込んじまってつまんねえなぁ」

 

背もたれに体重を預ける空。2校のエースであるキセキの世代のエースとシューターである青峰と緑間がすぐにベンチに下がってしまい。つまらなそうな表情をしている。

 

「ま、しゃーないな。インターハイ出場校言うても、地力の差は明らかやったからなぁ。無理して出る事もないやろ」

 

「ですが、収穫はありました。どちらも昨年の冬に戦った時より、確実にパワーアップしていました。特に緑間さんは、スリーは相変わらずの代物でしたが、それ以上に、積極的に中に切り込んでのミドルシュートや、リングから近い位置で得点を決めていました」

 

「確かに、試合で緑間が打ったスリーはたったの3本。後はカットインからのミドルシュートやゴール下、後は切り込んでディフェンスを自分に引き付けてからパスを捌いたり、これまでの緑間のイメージとはかなりかけ離れてたな」

 

大地の言葉を受けて、菅野が試合での緑間を思い出す。

 

「生粋のスラッシャータイプの選手のようなプレーだったな。あのドライブはスピードもキレも相当だった。後は切り込んでからのバリエーションも豊富だったな。相手センターを背中で押し込みながらの得点もあった」

 

空の指摘どおり、緑間はありとあらゆるパターンで得点を決めたり、得点をアシストをしていた。

 

「…こうして見ると、まるでオールラウンダーだな。シューターだってのを忘れちまいそうだぜ」

 

「…けどさ、わざわざ見せつける必要あったのかな? 今まで通りのスタイルでも充分勝てる相手だったしさ、別にやる必要は…」

 

「理由はいくつかある」

 

空の感じた疑問に、上杉が答える。

 

「東京都予選の映像を見たが、去年より中へ切り込む選択肢を選ぶ回数は増えていたが、基本は去年のプレースタイルと同じだった。恐らく、去年の冬にウチに負けてから今日の試合までバリエーションを増やす練習はしていたのだろう。インターハイ出場を決めてから急ピッチで練度を熟成させた。それをここで披露した理由は実戦で通用するかどうか試したかったからだろう。緑間の性格上、ぶっつけ本番は極力避けたいだろうからな」

 

『…』

 

「それと、駆け引きというのは何も直前まで隠す事だけではない。あえて見せる事も駆け引きの1つだ。選択肢が増えれば迷いも増える。迷いが生じれば付け入る隙も増える。そもそも、緑間が見せたのは分かりやすい必殺技のような類のものではなく、バスケにおいて、基本のテクニックに過ぎない。隠す程のものではない」

 

「なるほど」

 

上杉の説明を聞いて、空は納得する。

 

「それとお前ら、キセキの世代ばかりを気にしてるようだが、実際に試合をしたら戦うのはキセキの世代だけではないんだぞ」

 

キセキの世代にばかり目を向けている選手達を上杉が窘める。

 

「…そうですね。あの2人が目立っていたのでつい目を逸らしてしまいましたが、他の方々も注目するべきでしたね」

 

「そやな、実際、キセキの世代の2人が下がっても、点差詰められるどころか逆にリードを増やしよったからのう」

 

桐皇、秀徳の両校は早々にエースを下げたが、それでもチームは確実にリードを広げた。

 

「桐皇は、キセキの世代の擁するチームで1番昨年の主力が残ったチームで、スタメンの入れ替わりは昨年主将だった若松のポジションのセンターのみ。今年のセンターは…、見覚えがないな。もしかして、1年か?」

 

松永が桐皇の出場選手、自身の同じポジションであるセンターの選手を思い出す。

 

「俺、知ってます。去年の全中で戦いました」

 

花月の選手の中で、唯一見覚えがある竜崎。

 

「國枝清。昨年の全中でベスト5に選出された程の選手です。プレースタイルは技巧派センターと言った感じですが、パワーもかなりありました。試合は勝ちましたが、結構あいつのポジションからやられる事が多かったです」

 

去年の試合を思い出しながら竜崎が解説する。

 

「…桐皇のスタメンに選ばれるくらいだ。かなりの逸材なのだろうな」

 

「せやろうな。恐らく、中坊の時より伸びとるやろうしな」

 

「後は、今年の主将である福山さん」

 

次に大地が注目したのは、昨年時にスタメンに選ばれた現主将の福山零。

 

「去年以上のオフェンス能力にも驚きましたが、それ以上に驚いたのはディフェンスですね」

 

「せやな。まだまだ甘い所もあったが、かなり様になっとったのう。あれは全国レベルの選手でも、エース級やないと簡単には抜けへんやろなあ」

 

ディフェンスのスペシャリストである天野が福山のディフェンスを評価する。

 

「秀徳も、緑間がスモールフォワードにコンバートして、空いたシューティングガードに去年のまでの緑間の控えが入った。緑間のインパクトが強すぎて影に隠れがちだが、やはりそこは強豪、秀徳のユニフォームを勝ちとり、鍛えられた選手だ。レベルは当然高い」

 

新たに秀徳のスタメンに選ばれた選手を上杉が評価する。

 

「高確率でスリーを決めてた。そこに緑間さんが加われば…」

 

「晴れて、2本の長距離砲が並ぶと言う事か」

 

生嶋と松永が続いて言葉を放つ。

 

「他の選手達も確実にレベルアップしていました。桐皇、秀徳共に、もし試合をしたなら、去年と同じとはいかないでしょうね」

 

大地がそう評価し、締めくくった。

 

「…っと、来たぜ、次の目当てのチームが」

 

コートに注目していた空がニヤリと笑みを浮かべた。

 

『来た!!!』

 

同時に観客から歓声が上がる。コート上に現れたのは海常高校。キセキの世代の黄瀬を擁するチームである。

 

「盛り上がっとるのう。…けど、雑誌の評価は辛いみたいやな」

 

「どういうことだ?」

 

「見てみ」

 

天野が持っていた雑誌を菅野に見せる。

 

「なになに……海常高校。キセキの世代、黄瀬涼太を擁するも昨年は黄瀬頼りになる場面が多々あり、同じキセキの世代を擁するチームとの試合では特にそれが顕著であった。今年は、戦力補強もままならず、キセキの世代を擁するチームに勝利を収めるの非常に厳しく、初戦敗退もあり得る……って、ボロクソだな」

 

渡された雑誌に掲載されている海常高校の評価を読み上げる菅野。

 

「昨年にしても、他のキセキの世代のいるチームに敗れはしたが、好勝負を繰り広げたと言っても過言ではないんだがな」

 

内容に不満を持ったのは松永。

 

「…気に入らねえのは初戦敗退もあり得るってところだな。キセキ同士は1回戦ではぶつからない事はこれを掲載した時には分かっていたはずなのによくこんな内容書けんな」

 

海常高校を侮辱する内容にどこか苛立ちを覚える空。

 

「理由は、今日の海常の相手にあるからやろな。見てみ」

 

コート上の海常の対戦相手に花月の選手達は注目する。

 

「…えっ?」

 

「…おいおい、これはスゲーな」

 

コートの半面で、ハーフタイム中の練習をしている海常の対戦相手である、佐賀県代表の田加良高校。帆足と菅野が注目したのはその中の選手である。

 

「大型選手が4人いますね。見たところ、全員190センチ以上ありますね」

 

大地が、練習をする田加良高校の選手の中の4人のビッグマンに視線を向ける。

 

「田加良高校は、近年では珍しい、2番のポジションを置かず、フォワードセンターを置き、4人のビッグマンでインサイドを制圧するチームだ」

 

上杉が田加良高校の特色を説明する。

 

「インターハイ出場校の中でもトップレベルを誇るインサイドの強さ。そして、海常はインサイドが強いとは言えない。雑誌記者が海常の敗戦を匂わせる分析をしたのはこれが理由でしょうね」

 

姫川が両校を比較し、雑誌の意図を読み取った。

 

「ふーん。…ってことは、外がないって事だろ? いくらインサイドが強くても、外がなけりゃ――」

 

「――ところがや、そういう訳でもあらへんねん。…あいつや」

 

空の指摘を遮るように天野が口を挟み、1人の選手を指差す。

 

「田加良高校の4番。主将の胡桃沢。佐賀県ナンバーワンの司令塔であると同時に、佐賀県ナンバーワンシューターでもあるねん。あいつが4人のビッグマンに巧みにパスを出してインサイドを攻め、中を固めればあいつが外から沈める。外を警戒し過ぎれば中に切り込まれ、そこからパス…あるいはそのまま決めてまう。あいつが1番と2番を兼ねとるからより4人のビッグマンが生きる。これまで注目されんかったのが不思議なくらいや」

 

追加で天野が解説をする。

 

「となると、神城にとってもこの試合は目が離せない試合になるな」

 

「…」

 

松永に指摘に、空は特に答える事はなく、座席の肘掛け肘を突き、手を顎に当てながらコートに注目していた。

 

「海常は確か、生嶋さんの中学時代のチームメイトが在籍していましたよね?」

 

「うん。マッキーとスエ。城ヶ崎中時代にポイントガードとセンターをしていたチームメイトだよ」

 

「2人は今年、スタメンに選ばれていました。この試合は彼らが実に重要になりますね」

 

大地の指摘どおり、司令塔とインサイドが武器の田加良。2人の課せられた責任は重大である。

 

「けどま、結果なんてやらなくても知れてる。俺が見たいのは、黄瀬の実力と海常の総合力。後、『あの人』の実力だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

やがて、海常と田加良の試合がやってきた。

 

多数の観客達が海常勝利を予想するも、心の中では『番狂わせが起こるのでは?』と期待していた。田加良の選手達も負ける事など微塵も考えておらず、気負いも恐れもなく試合に臨んだ。

 

「……まさか、こんな結果になるとは」

 

「…これが、今年の海常」

 

 

試合終了

 

 

海常  117

田加良  34

 

 

番狂わせが起こる空気など微塵も見せず、圧倒的な点差を付けて海常が初戦を突破した。

 

「ったく、キセキの世代はどいつもこいつも、ホントバケモンだぜ」

 

「あのビッグマンのトリプルチームをものともしないパワーとスピードとテクニック。恐ろしい限りですね」

 

キセキの世代、黄瀬涼太のプレーを見て菅野と大地は驚愕する。

 

田加良高校は、当初、黄瀬にトリプルチーム。ボールを持っていない状態でも2人のビッグマンをマークを付けていた。だが、黄瀬は数人のマークを付けられようとお構いなしに突破、果てはパワーでも圧倒していた。

 

「黄瀬にも驚いたが、それ以上に驚いたのは、生嶋の元中の海常のポイントガード。確か、小牧だったか? あの胡桃沢を完全に抑え込みやがった」

 

アウトサイドシュートとゲームメイクに定評がある田加良高校主将胡桃沢。試合が始まると、序盤こそパスやスリーで翻弄するも、小牧はすぐに対応、第1Q終盤に差し掛かる頃には胡桃沢はろくにプレーをさせてもらえなかった。

 

「別に特に理由なんてありませんよ。ただ単純に、小牧が胡桃沢より優れているってだけです」

 

司令塔対決を制した小牧の勝因をそう言い除ける空。

 

「いやだって、相手は全国屈指のポイントガードの胡桃沢…」

 

「確かに、評判通りの実力はありましたけど、見てのとおり、あらゆる面で小牧が上回っていましたよ」

 

今大会でも指折りのポイントガードとして注目される胡桃沢。だが、空は小牧が上だと断言する。

 

「2年前の全中の時も、マッチアップした中で1番手こずったのが小牧だったからな。あれから海常に入って相当努力したんだろうな」

 

「意外ですね。俺はてっきり新海かと思ってました」

 

「あー、あいつもてこずったけど、それは、他のヘルプやカバーしながらだったからってのもあったからなぁ。個人で見たらあの時点では小牧の方が上だったぜ」

 

「実際、何度か抜かれてましたからね」

 

竜崎の指摘に空が思い出しながら答えると、大地はクスリと笑った。

 

「末広も、あのインサイドを相手にきっちり仕事をこなしていた。…だが、この試合で1番の脅威だったのが…」

 

「ああ、海兄だな」

 

空と松永がもっとも注目した選手。それは、海常の新戦力として現れた三枝海。この選手の存在が田加良の計算を大きく狂わせる結果となった。

 

「とんでもないパワーだった。4人のビッグマンを相手にインサイドを1人で制圧していた」

 

試合では、田加良のビッグマン達のインサイドからのオフェンスとディフェンスをことごとく跳ね返していた。

 

「黄瀬さんのトリプルチームを解いて海さんを何とか止めようと人数をかけて止めにきましたが、それでもお構いなしでしたからね」

 

「並大抵のパワーではあの人とは戦えない。昨年、桐皇の若松さんを相手に使ったハック戦術はあの人には通じないだろうな」

 

松永の口にするハック戦術とは、フリースローが苦手な選手に対してオフボールで故意にファールを繰り返し、フリースローを打たせる戦術。昨年の冬、桐皇の若松に対してこの戦術を仕掛け、それがハマり、点差を縮めるに至った。

 

しかしこの試合、田加良は得意のインサイドで活路を見出そうとしたが、三枝の存在によってそれも叶わず、果てはファールをしてでも止めようと試みたが、ファールをされてもお構いなしに相手を弾き飛ばしながら得点を決め、ボーナススローを獲得し、フリースローもきっちり決めていた。

 

「黄瀬と三枝。他の選手も全国で戦えるだけのレベルの選手に成長している。もはや、黄瀬のワンマンチームではない。今年の海常は、キセキの世代を擁するチームの中でも優勝候補と見てもいいだろう」

 

『…』

 

上杉の言葉に異を唱える者は1人もいなかった。

 

「…おっ?」

 

試合が終わり、ベンチからの引き上げ作業を終え、コートを後にしようとする海常。その中で小牧が観客席の空を見つけ、拳を突き出した。

 

「(全中の借りは今年返すぜ、神城!)」

 

心中で全中でのリベンジを誓う小牧。

 

「…ハッ! 次も勝たせてもらうぜ、小牧」

 

挑戦状を察した空が不敵に笑った。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

コートから去る海常。入れ替わるように陽泉の選手達がやってきた。

 

「インサイドに定評があると言われていた田加良高校。だが、陽泉とは比較にならんだろう」

 

ベンチに移動する陽泉選手に視線を向けながら上杉は言ってのける。

 

「1回戦の相手は、大仁田高校か」

 

「今年の大仁田も昨年と同じ、ポイントガードのスキルを持つ選手達による巧みなパスワークでゲームを進めるスタイルです。ただ、去年と唯一違うのは…」

 

試合の時間が近づき、先に大仁田高校のスタメンに選ばれた選手達がコート上にやってきた。

 

「今年大仁田高校に進学した1年生ルーキー。10番の伊達康隆。187センチの高めの身長と高い身体能力とテクニックで得点を量産するスコアラーです」

 

「…へぇ、結構やりそうだな」

 

姫川の説明を受けた空は、伊達から何かを感じとる。

 

「あいつも知ってます。ワンマンチームながらチームを全中まで引き上げた奴です。予選リーグであいつのチームは敗退してましたが、それでもかなり得点を重ねてました。1ON1スキルなら去年の全中出場選手の中で確実に五指の指に数えられる実力者だと思います」

 

見覚えがある竜崎から説明が入る。

 

「なるほど、彼の加入で昨年の大仁田高校の唯一の弱点であったエース不在の穴を埋めるわけですね」

 

昨年の冬、大仁田に苦しめられた花月。ここ1番で流れを変えられるエースがいなかった事が大仁田の敗因であった。その穴を埋めるのが今年スタメンに選ばれた伊達であると大地は指摘する。

 

「…だが、今年の相手が悪すぎる」

 

松永が神妙な表情でポツリと言った。同時に、陽泉のスタメンがコート上にやってきた。

 

『で、でかい!』

 

『やっぱり陽泉は半端ねー!』

 

スタメンに選ばれた陽泉の選手は、例年通り、紫原を筆頭に高身長の選手ばかりであった。

 

『…っ』

 

そのあまりの圧力に、大仁田の選手達も圧倒されていた。

 

「…っ、相変わらずデケーのが揃ってやがんな」

 

観客席からもその迫力が伝わった空は思わず冷や汗が流れる。

 

「2メートル選手が2人、190センチ代の選手が2人もいますからね」

 

スタメンは、主将を務める永野を除き、全員が高身長を誇る選手であり、その存在感を露にしていた。そして、センターサークル内で礼を済ますと、試合は開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…』

 

試合はすでに第4Q残すところ数分。花月の選手達は言葉を失っていた。

 

 

陽泉  82

大仁田  0

 

 

『…っ』

 

大仁田はボールを回し、得点チャンスを窺う。が、陽泉のディフェンスは一向に崩れる事はなく、シュートチャンスを作れない。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『24秒、オーバータイム!』

 

遂に24秒過ぎても攻めきれず、オーバータイムがコールされてしまった。

 

「…またか、今日何度目だ?」

 

思わず菅野がぼやく。オーバータイムはこれが初めてではなく、この試合、何度かコールされている。

 

「なまじ、視野が広い選手が集まってるから、分かっちまうんだろうな」

 

仮にシュートを打ちにいってもブロックされてしまう。仮にブロックされなくとも焦って打ったシュートでは入る確率は低い。リバウンド勝負で陽泉に勝つのは至難の業。故に、ターンオーバーで失点をするくらいならと大仁田は無理に打たなかった。っと、空は分析した。

 

ボールは陽泉ボールになり、永野がボールを運び、パスを出す。

 

『来た!!!』

 

ここで観客が騒ぎ出した。

 

この試合、陽泉選手の中で紫原と同じ…いや、それ以上に存在感を醸し出している1人の選手に注目が集まる。

 

「…」

 

ボールは、左45度の位置に立っていたコート上唯一の黒人選手であるアンリ・ムジャイの手に渡る。

 

「…っ」

 

目の前でディフェンスをするのは、大仁田の1年生エースである伊達。

 

「…イクヨ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

宣言すると同時に一気に切り込む。1歩目で伊達の横を抜け、2歩目で置き去りにした。

 

「っ!?」

 

そのあまりの速さに伊達は全く反応出来ず、あっさり抜かれてしまう。

 

 

――ダン!!!

 

 

ゴール下まで切り込んだアンリはボールを掴んでそのままリングに向かって跳躍した。

 

「くそっ!」

 

ヘルプに来た大仁田のセンターの選手がブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

だが、後に飛んだにも関わらず、大仁田のセンターの選手が先に落下を始めた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

アンリはそのままワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

同時に観客席から歓声が上がる。

 

「…っ、とんでもないスピードとアジリティだ」

 

「それだけじゃないよ。あのジャンプ力も脅威だよ」

 

今のプレーを目の当たりにした松永と生嶋の表情が驚愕に染まる。

 

この試合、高い身体能力を駆使して得点を量産しているがこのアンリ・ムジャイ。

 

「秋田県予選でも、得点王を獲得しているわ。それだけじゃなくて、ディフェンスやリバウンドでも大きく貢献しているわ」

 

姫川からアンリに関する情報が語られる。

 

残り時間僅か、大仁田ボール。

 

「1本! 1本決めるぞ!」

 

大仁田のポイントガードが声を張り上げ、ゲームメイクを始める。敗北は既に確定しているが、せめて1本でも決めたい大仁田。ボールを回しをし、チャンスを窺う。そして、残り時間が5秒となったところで伊達にボールが渡る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを受け取った伊達がドライブで切り込む。

 

「ムッ…?」

 

追いかけようとしたアンリだったが、スクリーンによって阻まれてしまう。

 

「この1本、絶対に決める!」

 

パス回しによってゾーンディフェンスが崩れており、伊達の周囲に陽泉のディフェンスはいない。チームメイトが作ってくれた最後のチャンス。何としても決めると決意を固める。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

アンリをかわした直後に急停止してジャンプショットを放つ。だが、そのシュートは紫原によってブロックされてしまう。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、試合終了のブザーが鳴った。

 

『…』

 

茫然とする大仁田選手達。最後の決死のオフェンスも陽泉から得点を奪う事は出来なかった。

 

「……強い」

 

観客席から試合を観戦していた空の口から最初に飛び出たのはこの言葉だった。

 

「今年の陽泉はおそらく、ここ数年を見ても最強の布陣と言えるだろう」

 

『…』

 

上杉の言葉に異を唱える者は1人もいなかった。

 

「絶対防御(イージス)の名は伊達ではない。生半可なオフェンスでは、陽泉からは得点は奪えない」

 

『…』

 

「だが、だからと言って、恐れていては勝てん。絶対に勝つと言う断固たる決意がなければ、陽泉には勝てん」

 

『…』

 

「行くぞ。インターハイの頂点を、真の意味で辿り着く為に、初戦の相手、陽泉を蹴散らすぞ!」

 

『はい(おう)!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

インターハイ1日目…。

 

キセキを擁するチームは順当に勝利を収め、2回戦に駒を進めた。

 

2日目、2回戦。シード校の試合が始まる。誠凛、洛山。そして、花月の試合が始まる。

 

 

花月高校 × 陽泉高校

 

 

偶然にも昨年と同じ場所でこの2校が激突する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





予定ではもう少し進めるつもりでしたが、この時点でかなりのボリュームになってしまったので、一旦ここまでです。

さて、久しぶりの試合となるのですが、どのように展開させるか、未だ決めかねています。もしかしたら更新が遅くなるかもしれませんがご容赦を…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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