黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

今回は少し短めです。

それではどうぞ!



第97Q~合宿の終わり~

 

 

 

花月、誠凛の2校による合宿。猛練習が行われ、その夜、かつての先輩後輩同士の竜崎と新海、池永の衝突。何かと激動な1日目が終わった。

 

「ふわぁ…」

 

時刻は早朝6時。目が覚めた火神が欠伸をしながら施設の通路を歩いている。7時起床となっている為、まだ余裕があるのだが、身体を解す為、早めに起き、着替えて部屋を出た。

 

「(っ! …さすがに昨日あれだけ動いたからか、筋肉痛で身体がきしみやがる。早めに起きて正解だったな…)」

 

歩きながら腕や肩を回し、身体の調子を確かめる。

 

「少し外でも走るか…」

 

玄関口で靴を履き替えていると…。

 

「あっちぃー!」

 

「ふぅ」

 

入り口のドアが開かれ、そこから空と大地が現れた。

 

「おう、はえーなお前ら……って、スゲー汗だなおい」

 

挨拶を交わす火神だが、2人の身体から流れる汗の量に驚きを見せる。

 

「あっ、火神さんちーす」

 

「おはようございます」

 

同じく火神に気付いた空と大地も挨拶を返した。

 

「毎朝軽く走るのがいつもの日課なもので、少々近くの駅まで…」

 

「日課って、昨日あんだけ走って、今日だって死ぬほど走らされるだろうによ」

 

「まあ、そうなんですけど、ずっとやってる事なんで、やっておかないとどうにも…」

 

事情を聞いた火神は半ば呆れ半分となった。

 

「…っと、もうこんな時間ですか。空、起床時間まであまり余裕がありません。急いでシャワーを浴びませんと…」

 

「うぉっ!? もうこんな時間か。ちょっとゆっくり走り過ぎたか。それでは火神さん、また後で!」

 

「失礼致します」

 

時間が迫っている事に気付き、2人は早々に会話を切り上げ、その場を後にしていった。

 

「…元気な奴らだな」

 

靴を履いた火神は部屋に向かう2人の背中を見つめながらボソリと呟くように言った。

 

「…さて、俺も少し外をブラブラ――」

 

「――火神君」

 

「どわっ! 黒子!?」

 

外に出ようとした瞬間、突然黒子に声を掛けられ、火神は思わず声を上げた。

 

「て、てめえ、心臓止まるかと思ったじゃねえか!」

 

黒子の頭を掴みながら抗議をする火神。

 

「こんな朝早くに大声を出さないでください。まだ寝てる人もいるんですから」

 

とうの黒子は特に悪びれる事もなく、淡々と言い放つ。

 

「それよりもさっきの2人…」

 

「ん? ああ、神城と綾瀬か。これから練習だっての大した奴らだよな」

 

「少し、話が聞こえたのですが、彼らは駅まで走りに行ったと…」

 

「あー、そういや、そんな事言ってたな。それがどうかしたのか?」

 

「駅って、僕達がこの施設に来る途中で見かけたあの駅ですよね?」

 

「じゃねえのか? この辺に他に駅は…っ!?」

 

ここで火神はある事を思い出す。

 

「正確な距離は分かりませんが、ここから駅までは10キロくらいはあったと思います」

 

「10キロ…てことは、往復で20キロ!? あいつら、朝っぱらそんな…、だからあんな汗だくだったのか…」

 

にわかには信じ難いがあの汗の量を見てしまえば信じざるを得なかった。

 

「普段から彼らはあれだけ走っているんでしょうね」

 

「…あいつらが化け物じみた運動量を誇る理由がよく理解出来たよ」

 

前日の疲労が残り、身体もきしむ火神と黒子。これから再び地獄の練習が始まるというのに早朝から長距離のジョギングをこなす2人を目の当たりにした黒子と火神は、もはや呆れを通り越し、恐怖すら感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

合宿2日目…。

 

この日も前日同様、厳しい練習が行われていた。

 

「…」

 

「…」

 

前日の夜にやり合った竜崎と池永だったが、双方の主将に言い含められた為、表立って争う事はなく、黙々と練習をしていた。

 

現在、合宿所周辺のコースを走っていた。

 

「……ん?」

 

ランニングコースを走っていると、空が何かを見つける。

 

「あれは誠凛の……おーい!」

 

木陰で木にもたれかかりながら座り込んでいる人影を見つけ、空が話しかける。

 

「ハァ…ハァ……あっ、どうも…」

 

空の声に気付いた人影は弱々しく顔を上げると、無理やり声を出した。

 

「どうかしたのか? えぇっと…」

 

「夜木さんでしたね。もしかして、体調が悪いのですか?」

 

名前を思い出せなかった空。同じくやってきた大地が様子を尋ねる。

 

「大丈夫…です…。少し…休んでるだけです…」

 

「いや、大丈夫そうに見えないぞ…」

 

顔を蒼白しながら答える夜木。そんな夜木を見て空が怪訝そうに返す。

 

「……熱中症ですね。速やかに身体を冷やして水分を補給するべきです」

 

症状を観察した大地が処置方法を指示する。

 

「ここからなら宿泊施設は目と鼻の先だ。急いで運ぼう。…よし、乗れ!」

 

指示を聞いた空が夜木の前に座り背中を向ける。

 

「し、心配いりません! す、少し休んだら自分で――」

 

「熱中症を甘く見るなって。船の上なら死んでるぞ?」

 

「…船?」

 

「良いから乗れ。ここで無理したらインターハイに出られなくなるぞ。……大地」

 

「はい」

 

空が合図を出すと、大地が夜木の腕を肩に回し、立ち上がらせると、そのまま空の背中に乗せた。

 

「少し揺れるかもしれないけど我慢してくれ。その代わり超特急で運んでやるからよ」

 

そのまま宿泊施設まで走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…10分を超えた…。神城と綾瀬が戻ってこないな。……むっ?」

 

ストップウォッチを見ながら唸る上杉。すると、背中に人を背負って走る空と、その横に連れ添うように走る大地が現れた。

 

「夜木君!」

 

空の背中でぐったりしている夜木の姿に気付いたリコが慌てて駆け寄る。

 

「熱中症のようです。すぐに部屋に運んであげてください」

 

「分かったわ!」

 

背負っていた夜木を降ろし、リコに託す。リコは夜木の腕を取って肩に回し、宿泊施設へと足を進めた。

 

「相川! 今の3000メートル走のタイムは?」

 

「えっ? えーっと、11分57秒だけど…」

 

「あっちゃー! 10分切れなかったか…!」

 

タイムを聞いた空が悔しがりながら頭を抱えた。

 

「でも、途中でおんぶしながら走ってきたんだから、仕方な――」

 

「次の1本で今の分取り戻さないとな」

 

顔力強くパチンと叩きながら気合いを入れる空。

 

「行くぞ大地! オーバーした1分57秒取り戻すぞ!」

 

そう言って空は走っていった。

 

「やれやれ…」

 

半分呆れながら大地はその後に続いていった。

 

「全国レベルの選手はやっぱすごいなぁ…」

 

「いや、あの2人はその中でも例外中の例外よ?」

 

その様子をリコに抱えながら見ていた夜木が、思わずそう呟くと、リコがそう返した。

 

※ ちなみに、2人はこの1本、8分フラットで走り切りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後も、練習は続いた。

 

4日目に入ると、インターハイに備え、練習が軽くなり、もっぱら、ゲーム中心の練習メニューとなった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空がペイントエリアにカットインする。リング付近まで切り込み、そこからボールを持って跳躍した。

 

「くっ! 行かせる――っ!?」

 

ヘルプに飛び出した田仲がブロックに飛んだが、空は田仲がやってくるのと同時にボールを真下に落とした。

 

「ふっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを受け取った大地がダンクを炸裂させた。

 

 

後半、残り2分24秒。

 

 

花月 36

誠凛 25

 

 

現在、前後半の紅白戦が行っている。後半戦残り2分半を過ぎ、花月が10点以上リードしていた。

 

合宿の疲労で思うように身体が動かない両校の選手、だが、その中でも空と大地の2人は縦横無尽にコートを走り回り得点を量産すると同時にディフェンスではブロックとスティールを連発していた。

 

『…くっ!』

 

試合は2人の独壇場で、疲労で思うように身体が動かず、さらに判断力も鈍り、2人に良いようにあしらわれている状況に、誠凛の選手達から思わず舌打ちが飛び出す。

 

「すごい…、あの2人、目の前で見るととんでもないスピードとキレだ」

 

2人のプレーをコートの外から見ていた降旗が思わず唸った。

 

「…あれでも全開ではないわ」

 

「えっ!?」

 

「前に見た2人はもっと速かったし、キレも鋭かったわ。さすがのあの2人であっても、この合宿の疲労の影響が出ているわね」

 

「あれで落ちているのか…」

 

「それでもそこらの選手より数段速い…」

 

リコの話を聞き、河原と福田は言葉を失う。

 

この紅白戦は、2人の活躍により、15点差を付けて花月が勝利したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

合宿も5日目に入ると、基礎能力アップの激しい練習から、インターハイに向けてのコンディション調整の練習に切り替わり、練習は緩くなった。

 

練習は時間も量も減り、紅白戦を数試合行い、残りは自由時間に充てられることとなった。

 

割り当てられた自由時間は各々が有意義に過ごし、合宿の疲労を抜いていった。

 

そして合宿最終日の7日目…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

この日のスケジュールは、ウォーミングアップをした後、紅白戦を2試合行って終了。その後、昼食を摂って各々の高校へと移動となっている。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ボールをキープする新海。

 

「…」

 

目の前でディフェンスをするのは竜崎。

 

現在、試合は2試合目で、花月は空と大地が、誠凛は火神が試合に出場しておらず、コートの外から試合を見守っている。

 

 

――ピッ!!!

 

 

新海からローポストに立つ田仲へ矢のようなパスが出る。ボールを受け取った田仲は背中に張り付くように立つ松永に背中をぶつけ、押し込みながらゴール下の侵入を試みる。

 

「行かせん!」

 

松永は身体を張って侵入を阻止する。同時に田仲は左アウトサイドに立つ朝日奈にパスを出した。

 

「…っ」

 

シュート態勢に入る朝日奈に対し、生嶋がすかさず距離を詰めてスリーの阻止に向かう。だが、朝日奈はシュートを打たず、ボールを再び中に入れる。そこへ、走りこんでいた新海にボールが渡る。

 

「打たせるか!」

 

新海に並走しながらシュートを警戒する。新海は走りながら両手で押し出すようにボールを放った。

 

「(シュート…いや、違う!)」

 

一瞬、強引なシュートだと思ったが、ボールの軌道を見てすぐにそれを改める。ボールはリングを僅かに外れて山なりの軌道を取る。そこへ、池永が走りこんだ。

 

「まさか、アリウープか!?」

 

跳躍して池永が空中でボールをキャッチ。そのままリングに叩きつけた。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「させへんよ」

 

直前に現れた天野の手がボールを弾き飛ばした。

 

「くそっ! 邪魔しやがって…!」

 

悔しさを露にしながら着地する池永。

 

この2試合目は、両校共にオフェンスに決め手を欠き、同点で終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

紅白戦が終わり、インターハイ前の合宿は終わった。

 

「良い経験をさせてもらったぜ」

 

「こちらこそ」

 

帰りの時刻。並ぶバスの前で空と火神が握手を交わす。それに倣うように花月と誠凛の選手達が握手を交わし、言葉を交わしていく。

 

「合宿での紅白戦は俺達の勝ち越しでしたが、本当の決着はインターハイで」

 

「おう。お互い勝ち進めば、当たるのは決勝だ。そこまで負けんじゃねえぞ」

 

「うす」

 

そう言葉を交わし、お互い手を放した。

 

「よし! 準備はいいな? 全員バスに乗れ!」

 

「忘れ物はないわね? みんなバスに乗って! 帰るわよ!」

 

両校の監督に促され、選手達がバスに乗車していく。

 

座席に着席し、変わりゆく景色を眺めながら合宿の余韻に浸る選手達。こうして、7日にも及ぶ合宿は、終わったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「く~~っ! やっと着いたー!」

 

花月高校に到着し、いち早くバスから降りた空は大きく伸びをする。

 

「そこ立っとると邪魔やで。早よ行きや」

 

乗車口に立っていた空の背中を押しながら天野がバスから降車する。続々とバスから降りてくる花月の選手達と監督とマネージャー2人。

 

「全員体育館に移動しろ。長時間の移動でだいぶ身体が固まっているからな。インターハイに影響を出さない為に軽く身体を動かすぞ」

 

『はい!!!』

 

上杉が指示を出すと、選手達は体育館に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後は、体育館で軽くランニングをした後、ストレッチをして固まった身体を解し、そこから部室に集まってミーティングをして解散となった。

 

インターハイまでの残りの日数は、疲労を残さないように軽いメニューと紅白戦形式の試合をする程度に止め、主な時間は姫川が各選手の動きやプレーを参考にして作成した改善点を下にミーティングを行った。

 

そして時間は過ぎ、インターハイ開催の日がやってきた。

 

空達にとって2回目の、そして、キセキを冠する者達の最後の夏の戦いが、始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





インターハイ前に1話だけ挟むつもりが、結局3話にまでなってしまったorz

書いている内に過去に投げっぱなしだった伏線を思い出したり、未読の小説版に出てきた新キャラを思い出し、本屋を駆けずり回って小説を探し、読破したりで何かと間隔が空いてしまいました…(;^ω^)

まあ、ここからが本番なのですが、正直、大まかな結末はほぼほぼ固まっているのですが、肝心なそこまでの試合展開が決まっていない為、勉強する意味も含めて間隔が空いてしまうかもしれません。そうなれば、すみません…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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