黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

いやー久しぶりです…(;^ω^)

いろいろあって間隔があいてしまいました。ブランクが長いので、ちょっと不安です…。

それではどうぞ!



第95Q~夏の合宿~

 

 

 

インターハイ静岡県予選を全勝で突破した花月高校…。

 

花月の選手にとってインターハイ出場はあくまでも目標達成の為の通過点に過ぎず、喜びも早々に、翌日からインターハイに向けての猛練習を行っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

日々は過ぎ、花月高校1学期の終業式が行われる数日前…。

 

「目の前に迫ったインターハイに向けて、終業式の翌日から最後の調整の為、合宿を行う」

 

終業式が行われる1週間前に上杉の口から選手達に発表される。

 

「来よったか…」

 

発表されると、天野の表情が曇る。

 

「? 天野先輩、どうかしましたか?」

 

その様子を目の当たりにした竜崎が尋ねる。

 

「地獄の合宿や。これまでの練習が温く思える程の猛練習が始まるで…」

 

げんなりしながら天野が口にする。

 

『……はぁ』

 

ふと、周囲を見渡すと、3年生が一斉に溜め息を吐いていた。

 

「でも、去年はインハイ前に合宿やりませんでしたよね?」

 

「去年は花月が毎年利用しとる宿泊施設が改修工事で使えなかったらしくてな。他に都合も付かなくて中止にしたらしいぜ」

 

疑問を抱いた空に、菅野が説明する。

 

「一昨年はインターハイに出られなかったから冬に向けての合宿だったが、…思い出しただけで吐き気が…」

 

合宿の思い出を振り返った菅野が顔面を蒼白にする。

 

「昨年の主力が全員残っているウチは、他校に比べて戦力ダウンが少ない。だが、裏を返せば大きな変化もないという事だ」

 

上杉が胸の前で両腕を組みながら言葉を続ける。

 

「当然、研究もされている。僅かに進歩したくらいでは全国では戦えない。ましてや、キセキを擁するチームに勝つなど、夢のまた夢だ」

 

『…』

 

「残された僅かな時間とて無駄には出来ん。インターハイの頂点を目指すなら、少しでも厳しい環境に身を置いて前へ進むという気持ちが大事だ。故に、より厳しい練習を合宿でお前達に課す。各々、準備と覚悟をしておけ」

 

『はい!!!』

 

選手達が上杉の言葉に大声で応えた。

 

そして、終業式を迎え、翌日、花月高校バスケ部の、合宿が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

早朝に校門に集合した花月の選手達と、監督である上杉とマネージャーの姫川と相川。

 

用意されていたバスに乗り込み、合宿所へと走り出した。

 

「スー…スー…」

 

「…」

 

「♪~♪」

 

「…(ポチポチ)」

 

移動中のバスの中では、睡眠を取る者、本を読む者、音楽を聴く者、スマホをいじる者などをしながら目的地到着までの時間を過ごしていた。

 

海沿いの道をすすんでいくバス。そして…。

 

「着いたぞ」

 

上杉がそう言うと、前方に宿泊施設が見えてきた。

 

「ふぁ~…、やっと着いたか…」

 

大きく伸びをし、あくびをしながら身体を起こす空。花月の選手達がバスから下車していく。

 

「…おっ、すげー! めちゃめちゃキレーな施設じゃん」

 

「そりゃ、改修工事したばかりやからのう」

 

新築さながらの宿泊施設を目の前に空が興奮を露にする。

 

「そこの山道を少し進むと体育館がある。…まずは全員、部屋に荷物を置いて着替えを済ませろ。すぐに練習を始めるぞ」

 

上杉の指示を受け、部員達は施設内へと向かっていく。その時…。

 

「……ん?」

 

遠くから微かに響くエンジン音に空が気付き、振り返る。

 

「どうしましたか?」

 

そんな空を見て大地が尋ねる。

 

「…いや、向こうから何か……おっ?」

 

質問に答えようとすると、先程空達がやってきた道から1台のバスが現れた。

 

「何だ、俺達以外の利用者か?」

 

「…おかしいな。他の部活動が宿泊する話なんて聞いてねえし、ここは花月御用達の施設だから他校が来る事もないはずなんだが…」

 

松永の言葉に答えるように菅野が言う。

 

「ああ、言い忘れていたが、今年は他校と合同の合宿を行う。同じ、インターハイ出場校だ」

 

部員達の疑問に答えるように上杉が説明する。やがてバスが止まると、中から人が降りてきた。

 

「…くぁ~、やっと着い――っ!? おめぇらは!?」

 

バスから降りてきた人物は、空達に気付き、驚いていた。

 

「どうかしましたか? 後ろが閊えているので早く進んで――っ!?」

 

続いて降りてきた人物も空達を見て表情が驚愕に染まっていた。そこから続々と人が降りてくると、皆が一様に表情を驚きに変えていった。

 

「…ハハッ! よりにもよって、合同の合宿相手があんた達とはね」

 

「…俺も、合同の話は聞いてたが、まさかお前らとはな」

 

「お久しぶりです。こうやってまともに顔を合わすのは、去年の夏以来ですね……火神さん」

 

「おう、久しぶりだな、神城」

 

空の目の前までやってきた火神が不敵に笑いながら声を掛けた。

 

お互いが合同の合宿相手を知り、両校の選手達は互いに驚愕していた。

 

「お久しぶりです、おじ様。本日はお招きいただき、ありがとうございます」

 

誠凛の監督であるリコが上杉の前までやってきて、挨拶をする。

 

「遠路はるばるすまんな。共に刺激をし合っていい合宿にしよう」

 

挨拶を返す上杉。

 

「トラの奴は…」

 

「えっと、パパは仕事の都合で…、ここには顔を出すとは言っていたので…」

 

「そうか。…部屋については事前に通達したとおりだ。部屋の鍵はフロントから受け取ってくれ」

 

「お気遣いありがとうございます。…みんな、部屋割りは出発前に渡した紙のとおりよ。部屋に荷物を置いたらすぐに準備をしてここに集まりなさい! 花月の方達を待たせるんじゃないわよ!」

 

『はい(うす)!!!』

 

リコが指示を飛ばすと、誠凛の選手達は大きな声で返事をした。

 

「んじゃ、また後でな」

 

そう声を掛け、火神は施設内へと向かっていった。

 

「神城! 綾瀬!」

 

「おー田仲!」

 

「お久しぶりです」

 

星南中時代のチームメイトである田仲が空と大地の下にやってきた。

 

「まともに顔を合わせんのは卒業以来か」

 

「そうだな。去年のインハイは結局話せなかったからな」

 

かつては共に全中で戦い、優勝まで勝ち進んだ3人。空と大地は花月高校に進み、田仲は親の都合で東京に引っ越し、誠凛高校に進んだ為、携帯でのやりとりこそあったが、こうして会うのは1年ぶりの事であった。

 

「聞いたぜ。予選じゃ、大活躍だったらしいじゃん?」

 

「俺なんて大した事ないよ。足引っ張ってばっかだよ」

 

「そう謙遜すんなよ。全中優勝校のキャプテンがよ」

 

「よせよ。それこそ、お前と綾瀬の2人おかげじゃないかよ」

 

謙遜する田仲に対し、空は意地悪気な表情をしながら田仲の腹を肘でグリグリする。

 

「おい、田仲。いつまでくっちゃべってんだよ。早く来いよ!」

 

2人が会話をしていると、施設の入り口に立っていた池永が田仲を呼ぶ。

 

「…っと、悪い! すぐ行くよ!」

 

「……ふん」

 

田仲がそう返すと、池永は空の方に視線を向け、1度鼻を鳴らして施設内へと入っていった。

 

「…相変わらず嫌味な野郎だな」

 

咎めるような物言いに、もともと池永に良い印象を持っていない空は悪態を吐いた。

 

「まぁそう言うなって。あれでも結構マシになったんだぜ?」

 

「あれでかよ。…つうか、結局のところ、あいつどうなんだ? 正直、中学時代もそうだが、高校に進んでからもあいつの良い噂は聞かないぜ?」

 

怪訝そうな表情で空が田仲に尋ねる。

 

「まあ、それは俺も否定はしないけど…」

 

空の指摘に、バツの悪い表情をする田仲。

 

「けどあいつ、冬の大会が終わってから変わったぜ。それまでは自分勝手なところが多かったけど、今ではそれもほとんどなくなったし、インハイ予選だって、かなり活躍してたしな」

 

「…ふーん」

 

田仲がそう説明しても、いまいち信じられず、目を細める。

 

「今のあいつはあの火神さんを相手にしてもたまに止めたり点を決めたりしてるから、神城でも簡単にはいかないと思うぜ」

 

「っ!? 火神さん相手に……それは、楽しみだな…」

 

「…っ、警戒が必要な選手になったみたいですね」

 

話を聞いて空は不敵に笑い、大地は真剣な表情で池永が入っていった施設の入り口に視線を向けたのだった。

 

「…? そう言えば、今回の合宿には黒子さんは参加されないのですね」

 

大地が施設内に向かう誠凛の選手達を見送りながら呟く。

 

「参加しますよ」

 

「っ!?」

 

突如、背後から話しかけられ、驚く大地。

 

「く、黒子さん、いつの間に……!?」

 

「? 普通にバスから降りてきただけなのですが…」

 

驚く大地に首を傾げながら説明する黒子。

 

「何言ってんだよ大地。火神さんの次に普通にバスから降りてきてたじゃん」

 

不思議そうな表情で大地を見つめながら空が説明する。

 

「……全く気付きませんでした」

 

「…それでは、お先に失礼します」

 

そう告げて頭を下げると、黒子も後に続くように施設に向かっていった。

 

「俺達も早く行こうぜ」

 

「……えぇ、そうですね」

 

空に促され、大地は施設に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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割り当てられた部屋に荷物を置き、着替えを済ませると、花月、誠凛の選手達は施設の傍にある体育館に集合した。

 

「これより、花月と誠凛の合同合宿を始める。俺は花月高校の監督、上杉剛三だ。今日より1週間、合宿の指揮を取らせてもらう。よろしく頼む」

 

『お願いします! (しゃす)!!!』

 

上杉が挨拶をすると、誠凛の選手達が頭を下げて挨拶をした。(誠凛の選手達は、リコから合同合宿する高校の監督の練習メニューを行う事を事前に聞いていた為、特に異論を放つ者はいない)

 

「ではこれより練習を始める。全員、靴を履き替えて外に出ろ!」

 

そう指示を飛ばすと、花月、誠凛の選手達は外へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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靴を履き替えて外に出ると、各自、入念に準備運動を始める。

 

「各自、インハイ直前にケガしたくなければ準備運動はしっかりやっとけよ!」

 

怪我の防止の為、入念に準備を促す上杉。

 

「全員、そのまま話を聞け、まずは走り込みから始める。コースはここから道なりに進んで、この辺一帯をぐるっと1周のコースだ。距離はおよそ3キロ程だ。5人ずつ間隔をあけてスタートしてもらう」

 

『…』

 

最初の練習メニューを両校の選手達は準備運動しながら頭に入れていく。

 

「この走り込みに時間制限を設ける。1周、10分以内に走り切れ。1周終えたら1分のインターバル後にスタートだ。その間、しっかり呼吸を整えながら水分補給をするように」

 

「10分か。結構きついな」

 

「ハァッ? 余裕だろ。花月の練習は随分温いんだな」

 

時間制限を聞いて息を飲む者もいる中、池永は鼻で笑っていた。

 

「これを12本行う」

 

『っ!?』

 

最後の言葉を聞いて大半の選手達が驚愕の表情で顔を上げた。

 

3000メートルを12本。つまり、今から36キロの距離を走らなければならない。それも、時間制限付きで。

 

「走り切るのに時間をかけ過ぎればそれだけ休憩時間がなくなる。死ぬ気で10分以内で走り切れ」

 

『…』

 

淡々と説明をする上杉。選手達の表情がどんどん曇っていく。

 

「…ちなみにちなみにコースは登りも下りもあるし、途中、足場の悪い山道もあるで。せやから普通に3キロ走るよりキツイで」

 

補足するように言う天野。それを聞いた選手達の表情はさらに曇ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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1組目、2組目が続々スタートしていく。

 

「3組目、並べ!」

 

「っしゃっ、次は俺達だな」

 

「頑張りましょう」

 

上杉に呼ばれ、空と大地がスタートラインに並ぶ。

 

「てめえらだけには負けねえ」

 

「…ふう」

 

池永が空と大地を睨みつけながらスタートラインに立ち、新海は呼吸を整えながらそれに続く。

 

「よろしく」

 

最後の1人、能面の顔をした男が空と大地に挨拶を交わす。

 

「ああ……えーっと…」

 

「朝日奈大悟。一応タメ。最後の年の全中には俺も出てたんだけどね」

 

顔と名前を知らなかった空が返事と同時に少し困った表情をすると、軽く自己紹介をした。

 

「へえー、もしかして、対戦した?」

 

「いや、当たる前に負けたから」

 

「そうか、さすがに試合したわけでもない奴の顔までは分からねえわ」

 

「別にいいよ。…この合宿中に覚えてもらうから」

 

そう言って、表情を変える事なく視線をコースの先に向けた。

 

「そうかい。楽しみにしてるぜ」

 

そう返すと、空もコースの先に視線を向けた。

 

「3組目、スタート!」

 

号令と共に上杉が笛を吹くと、5人が同時にスタートした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『…』

 

黙々とコースを走る5人。走るコースは先の天野説明にあったが、そこまで急でもないがアップダウンがあり、途中、足場が不安定な山道がある。

 

「(…少しペースを上げるか)」

 

空が心中でそう呟くとペースを上げ、5人の先頭に出る。同じ事を考えていた大地も2歩程遅れて前に出る。

 

「…ん?」

 

直後、池永がペースを上げ、空達の前に出る。

 

「おめえらに俺の前は走らせねえ。12本全部俺のケツでも拝んでろ」

 

嘲るような表情で2人に告げる。

 

「…カッチーン。上等。受けて立ってやる」

 

「…出来るものならやってみてください」

 

その言葉と表情に怒りを覚えた空と大地はさらにペースを上げていった。

 

「…あいつら、後11本走らなきゃならない事分かってんのかな?」

 

「…放っておけ。それより、無駄口を叩かない方がいい。呼吸が乱れるぞ」

 

能面のまま呟く朝日奈の言葉に、表情を変える事無く新海は返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…おらぁっ! ゴールだ!」

 

「…分かってますから静かにしてください」

 

1本目を走り終えた空が声を上げながらゴールすると、横を走っていた大地が呆れながら空を諫める。

 

「足を止めるなよ。ゆっくり歩きながら水分補給をしろ。水はあまりがぶ飲みするなよ」

 

そう上杉に促され、2人は相川からドリンクを受け取り、歩きながら口にした。

 

「くそがっ! 次は負けねえ!」

 

遅れる事30秒程で池永がゴールする。その少し後を新海、朝日奈の順にゴールしていく。ゆっくり歩きながら水分補給を行う。やがて、1分のインターバルが過ぎ…。

 

「3組目、2本目、スタート!」

 

笛が鳴り、3組目がスタートした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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それから、3本目、4本目と、選手達は走っていく。この辺りからペースが落ち、体力に自信がない者が10分が切れなくなっていく。

 

そして7本目8本目に進むと…。

 

「(…っ!? なんなんだよあいつらは…!?)」

 

「(……ちくしょう、…ちくしょう…!)」

 

「(…っ、化け物め…!)」

 

朝日奈は目を見開き、池永は悔しさを露にし、新海は歯を食いしばった。

 

現在3組目は9本目を走っている。既に、走行距離は24キロを超え、ハーフマラソン以上の距離を走っている。最初の何本かは3000メートル走を9分切って走っていた空、大地、池永。ペースを掴んだ新海と朝日奈は9分30秒から50秒のペースで走っていた。だが、5本目から池永は9分を切れなくなり、本数を重ねるごとにタイムが落ちていき、新海と朝日奈も、覚えたペースで走る事に苦しさを感じるようになっていった。

 

だが、空と大地は9本目に入っても変わらないスピードとペースを保ち、全ての本数を8分中盤程のペースで走り切っていた。そして、それ以上に3人を凍り付かせたのが…。

 

「…っしゃっ、来い!」

 

「言われなくとも、行きます!」

 

スタート地点の広場には、片面だがリングが1つ設置されている。そこで、空と大地は1ON1をしていた。2本目終了時、空がマネージャーの相川にボールを持ってきてもらうよう頼み、3000メートルを走り切った後に2人で勝負を始めた。さすがにこの行動に姫川が苦言を呈し、しっかり休むよう言ったのだが…。

 

『この走り込みって、10分間走り切れるスタミナを付けることと1分間のインターバルで呼吸を整える為の回復力を付けさせるのが目的だろ? 俺ら8分半くらいしか走ってないから、残りの1分半動かないと』

 

平然と言ってのける空。呆れて物も言えなくなった姫川。

 

『この走り込みはペース配分を身体に叩き込む意味も兼ねているのだが…、まあいいだろう。ただ、1分間は必ずインターバルを取れ。後、万が一、1本でも10分超えたらさらに特別なペナルティーを科すからな』

 

そう言って、上杉は2人の行動を承認した。

 

「「「…」」」

 

息も絶え絶えになって3000メートルを走り切った同グループの3人はその光景を見て言葉を失い、背中に冷たいをものを感じたのだった。

 

その後、12本の走り込みを終えた花月・誠凛の選手達。12本、全て10分切れたのは、花月では空、大地、天野、室井。誠凛では火神と新海だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「場所を移動するぞ。各自、呼吸を整えながらゆっくり俺について来い」

 

12本の走り込みが終わった後、呼吸を整えながらゆっくり移動を促す上杉。

 

『ハァ…ハァ…!!!』

 

すでに12本の走り込みを終えている両校の選手達は、空と大地を除いた全員が険しい表情をしている。歩く事20分。やってきたのは一面海。目の前には砂浜。

 

「姫川、相川」

 

「「はい!」」

 

砂浜に足を踏み入れ、上杉が合図を出すと、2人がカラーコーンを持って移動し、所定の位置に置いていく。カラーコーンは10メートルの間を開けて2つ置かれると、そこから30メートル程離れた場所に同じように10メートルの間を開けて置かれた。

 

「先程作った5人組、1組ずつそこに並べ。これからこのカラーコーンから向こうのカラーコーンまでダッシュしろ!」

 

『…っ』

 

そう指示を出す上杉。表情が引きつる選手達。

 

既に先の走り込みで乱れた呼吸はだいぶ整ってはいるが、かなり疲弊している。しかも砂浜は砂地故、足が取られ、走りにくい為、脚にかかる負担は補装された道路の比ではない。

 

「1組目、早く並べ!」

 

躊躇う選手達に上杉が檄を飛ばす。1組目がカラーコーンで作ったラインに並び、笛を合図にダッシュを始めた。続いて2組目も笛と同時にダッシュし…。

 

「3組目!」

 

笛が鳴ると、空と大地のグループがスタートする。

 

「おぉぉぉぉーーーーーっ!!!」

 

気合い充分にダッシュをする空。加速力のある空が先頭に立つ。その僅か後ろには大地。

 

「くっ…!」

 

「くそっ…!」

 

「…っ」

 

疲労と砂に足を取られ、2人に大きく離される新海、池永、朝日奈。1本目は、空が先頭でゴールし、2歩差で大地。少し距離が空いて3人がゴールした。

 

「こうやって走ると、中学時代を思い出すな」

 

「ええ。龍川監督の指示でよく走りましたね」

 

星南中時代に龍川の指導で地元の海岸で走り込みをしまくった2人。その為、砂浜を走る事には慣れており、さほど苦も無く砂浜を走っていた。

 

その後も、代わる代わるダッシュをし、歩きながら呼吸を整えてスタートラインに戻り、走るを繰り返した選手達。砂浜でのダッシュは合計100本行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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砂浜から体育館に戻ると、スリーメン、ファイブメンが行われる。1度でもミスをすれば1からやり直しルールで。

 

「おっ、やってるな」

 

そこへ、リコの父親であり、誠凛のコーチを引き受けている景虎が体育館に現れた。

 

「トラか。久しいな」

 

上杉の傍までやってきた景虎に視線を向ける。

 

「あいつらの様子を見るに、相変わらずしぼりまくってるみてぇだな」

 

体育館を苦しそうな表情で選手達を見ながら上杉に言う。

 

「…なるほど、誠凛、花月の選手の混合でのファイブメンか。一見意味がないように見えるが、相手のリズムと呼吸を瞬時に掴まなきゃならねえから難易度は上がる」

 

花月と誠凛。同じチームで試合をする事がない両校が交じってスリーメン、ファイブメン。チームメイトのリズムや呼吸を掴むのは確かに大事だが、試合中、必ずしも練習どおりのパスが出せるとは限らない。慣れたリズムや呼吸に合わせたパス練習も過ぎればルーティン作業となってしまう。

 

そこで、混合チームで、組み合わせを変えながら行い、絶えず呼吸とリズムが変わる状況を作る事で実戦で生きるパスワークを養わせる事がこの練習の目的である。

 

「トラよ」

 

「なんだ?」

 

「お前の要望どおり、誠凛の選手にも俺の練習メニューをやらせているが……知らんぞ? 潰れても」

 

他校の、それも、インターハイ出場校の選手達を指導する事に思うところがある上杉は、景虎に懸念を示す。

 

「ここで潰れちまうようなそれまでだ。どのみち、頂点には立てねえよ」

 

景虎はそんな懸念を鼻で一蹴する。

 

「ゴーの指導は根性論主体で、まあ、悪く言えば今の時代には合わねえ」

 

「…」

 

「今、あいつらに必要なものは分かりやすい必殺技を身に着けさせる事でも才能を伸ばす事でもなく、基礎能力を上げる事だ。単純なフィジカルアップを目指すなら、ゴーの指導はうってつけだ」

 

「…」

 

「まあ、お前の思うが儘、しごいてやってくれ。なに、もし万が一潰れても責任は俺が取るからよ」

 

「…いいだろう。とことんしごいてやる」

 

胸の前で腕を組みながら上杉は返事を返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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その後も、厳しい練習は続き、両校の選手達は苦悶の表情を浮かべながら練習メニューをこなしていく。そして…。

 

「よし! 今日の練習はこれまでだ」

 

『はぁ~、…終わった…』

 

そう上杉から告げられると、両校の選手達はその場で崩れ落ちるように倒れこんでいく。

 

「各自、しっかりストレッチをやれ。後片付けは全員で行うように」

 

それだけ指示を出して上杉は体育館を後にしていった。

 

「ダメだ…、もう身体が動かない…」

 

「し、死ぬ…」

 

「…」

 

倒れ伏した状態で泣き顔になる福田、河原、降旗。

 

「さて…、さっさと片付けて自主練するか」

 

「そうですね」

 

空と大地は用具の片付けに動き出す。

 

「せやな。…あぁー! めっちゃしんどいわー」

 

よろよろと天野が立ち上がり、重い足取りで片付けに向かう。

 

「…ぜぇ…ぜぇ」

 

「…フー」

 

続いて生嶋と松永も立ち上がる。疲労の色が濃い中、花月の選手達が次々立ち上がり、片付けに向かっていく。

 

「…あれだけ練習した後なのに、もう動けるのか…」

 

多少、疲労の色が見えるも確かな足取りで片付けに入る空と大地。それに続くように重い足取りで片付けに入る花月の選手達を見て誠凛の選手は驚愕する。

 

「ぐっ…! 俺達も手伝うぞ。花月の奴に片付けを押し付けるな」

 

膝に手を置きながら強引に立ち上がった火神が同校の選手達に発破をかけるように指示を出す。

 

『お、おう(は、はい)…』

 

続くように誠凛の選手達はおぼつく足取りで片付けを始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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その後、片付けを終えた両校の選手達は宿泊施設へと戻った。選手達は部屋に戻るとそのまま大浴場に行って汗を流し、食堂へ向かった。

 

それぞれテーブル前に座り、カレーが並べられると、リコが前へとやってきた。

 

「みんな練習お疲れ様! 腕によりをかけて作ったからみんなお腹いっぱい食べなさい!」

 

『えっ!?』

 

リコがそう言った次の瞬間、誠凛の選手達の表情が凍り付く。

 

『?』

 

その表情を見て花月の選手達は頭に『?』を浮かべる。

 

「か、監督! この料理、もしかして監督が…」

 

恐る恐る火神が尋ねる。

 

「もちろん! ……って、言いたいけど、私はおじ様と練習メニューを考えるのに忙しかったから、花月のマネージャーの姫川さんと相川さんに任せっきりなっちゃったのよね」

 

『…ホッ』

 

その言葉を聞いて誠凛の選手達は胸をなでおろす。

 

「ごめんなさいね2人共。これだけの大人数の食事を任せちゃって…」

 

申し訳なさそうにリコが2人に頭を下げる。

 

「私も料理は得意じゃなくて、野菜を切っただけなので…。お礼は相川さんに…」

 

「いえいえ! 私もお役に立てて嬉しいです! こんなに大勢の食事を作ったのは初めてだったから楽しかったです!」

 

同じように申し訳なさそうにする姫川。相川は胸の前で拳を握りながら笑顔で返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

食事は大好評で、口々に絶賛された。特に誠凛の選手達に大好評で、花月の面々は羨ましがられた。

 

「あー食った食った…」

 

カレーを腹いっぱい食べた空は腹ごなしに散歩をしていた。

 

「しっかし、何か物足りねえなあ…。ひとっ走りしときたいぜ」

 

そうぼやく空。だが、上杉から今日これ以上の練習は禁じられており、許されてのは散歩のみであった。

 

「せっかく誠凛との合同合宿なんだから試合とかもしたいよなぁ…。明日にでも……ん?」

 

その時、空の視界にとある光景が飛び込んできた。そこには、チームメイトである竜崎と、誠凛の池永と新海であった。空は咄嗟に物陰に隠れ、様子を伺う。

 

「久しぶりだな、竜崎」

 

「…」

 

新海が声を掛けると、竜崎は返事を返すでもなく、無表情でその場を去ろうとした。

 

「おいおい、シカトはねえだろ。それが中学時代の先輩に対する態度か?」

 

その態度に癇に障った池永が竜崎の肩を掴んで注意する。

 

「…放してくれませんか? っていうか、俺はもう花月の人間です。先輩面しないでください」

 

掴んだ手を払いのける竜崎。

 

「…っ」

 

「…あ?」

 

それを見て新海はバツの悪そうな表情をし、池永はさらに表情を険しくする。

 

「…」

 

「「…」」

 

そこから暫し沈黙し、竜崎が口が開く。

 

「不作の世代……あんた達には似合いの名だ」

 

「っ!? てめえ!」

 

その言葉を聞いて池永がついに激昂し、竜崎の胸倉を掴み上げる。

 

「おい、やめろ!」

 

それを見て新海が慌てて池永を止める。

 

「お前ら、何やってんだ!」

 

物陰から様子を伺っていた空が慌てて飛び出し、2人を引き離す。

 

「放せ新海! お前だってムカついてんだろ!?」

 

「…っ」

 

一瞬、視線を逸らす新海だったが、それでも池永を押さえつける手を放さない。

 

「なんやなんや? 騒がしいのう」

 

「何騒いで……って、池永、またお前か!」

 

騒ぎを聞きつけた天野と火神が現場へとやってきた。

 

「ムカつきました? 相変わらず被害者面ですか? つくづく救えない人ですね」

 

「っ!? くそっ、てめえぶん殴って――っ!?」

 

思わず池永が拳を振り上げると、火神が腕を掴んで止める。

 

「いい加減しろよ池永。これ以上やんなら、俺がお前をぶん殴るぞ」

 

「…っ」

 

腕を掴み上げながら睨み付ける火神。そんな火神を見て池永は表情を曇らせる。

 

「…俺は…いや、俺達の代とその後輩達は、あんた達を許さない」

 

それだけ告げ、竜崎は踵を返し、その場を後にしていった。

 

「…」

 

「…ちっ」

 

俯く新海と、ある程度頭が冷えた池永は軽く舌打ちをした。

 

「わりーな、うちの後輩が」

 

「いえ、先に煽ったのはこっちですから」

 

頭を下げる火神。空はそれを手で制した。

 

「まあ、あいつには俺が後で言い聞かせます。合宿は明日からも仲良くやりましょう」

 

「そう言ってもらえると助かるぜ。…おら、部屋に戻るぞ!」

 

火神は池永の頭を叩きながらチームメイトに促す。やがて、部屋に戻っていった。

 

「にしても、なんや穏やかな様子やなかったのう?」

 

「そうですね」

 

「…行くんやろ?」

 

「ええ。話を聞かなきゃ、言い聞かせる事も出来ないですからね」

 

そう話し合うと、空と天野は竜崎の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

合宿1日目が終了し、それぞれが英気を養う中、かつての先輩後輩同士がいがみ合う現場を目撃した空。

 

中学時代に何があったのか…。

 

主将として花月を纏める為、空は、先輩の天野と、途中で合流した大地を引き連れ、竜崎の下に向かったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





主に練習の描写ばかりでしたが、正直、自分はスポーツ経験はありますが、弱小校での緩い学校での部活だったので、これがきついのか、それとも強豪校はもっとやっているのか分からないので、その辺が不安です…(;^ω^)

インターハイにこの合宿を1話だけ挟むつもりが、新海と池永の過去にばらまいた誠凛に来た謎について触れてなかったので、次話にて説明するつもりです。一応言っておくと、人によっては竜崎の逆恨みに感じたり、新海と池永も被害者のように感じたりすると思います。正直、ちょっとやり過ぎな内容になると思うので、もしかしたら批判もあるかと思います。ご了承を…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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