黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

令和最初の投稿です。

それではどうぞ!



第94Q~新生花月~

 

 

 

日付は進み、ついに、インターハイ静岡県予選の時がやってきた。

 

「っしゃあっ! 行くぞ!」

 

大声でチームメイトを鼓舞する空を先頭に、花月の選手達は会場へと足を進めている。

 

「ふふっ、空は相変わらずですね」

 

「気合い充分だね」

 

「声でっかいのう…」

 

そんな空を見て笑みを浮かべる大地と生嶋。やや呆れ気味の天野。

 

「…よし」

 

「…」

 

「…ふー」

 

その後ろを、特別声を発するでもなく、松永、室井、竜崎が付いていく。

 

「…っし、やるぞ…!」

 

「…っ」

 

さらに後ろを、静かに気合いを入れる菅野とやや緊張気味の帆足。

 

空達2年生にとっては2度目のインターハイ予選。だが、三杉と堀田がいた去年と違い、今年は自分達がチームを引っ張る立場である。キセキの世代と戦える最後のインターハイ。花月の選手達は全員もれなく気合いが入っていた。

 

「俺達の試合時間は早い。早々に荷物を置いてアップを始めるぞ」

 

『はい!!!』

 

上杉の指示に、選手達は大声で応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

荷物を控室に置き、準備を整え、コート入りをする花月の選手達。その時…。

 

『来たぞ!』

 

同時に、会場にいた観客達が沸き上がった。

 

「おっ?」

 

あまりの歓声に、思わず空は辺りを見渡す。すると、観客席には、県予選の1回戦にも関わらず、8割近くの観客席が埋まっていた。

 

「おースゲースゲー。こんなに観客入ってるよ」

 

観客の多さに空は僅かに驚く。昨年は1回戦の時は席の半分も埋まっていなかった。

 

「どうやら、目当ては私達のようですよ」

 

観客席をキョロキョロとする空に、大地が話しかける。

 

「昨年、インターハイ優勝。そして、ウィンターカップで秀徳を倒し、桐皇を後一歩のところまで追いつめた我々は、今年の注目度は高いようです」

 

「みたいだな。…ハハッ! いいね、客が多ければそれだけやりがいがあるってもんだよ」

 

自分達の注目度の高さに、テンションを上げる空。

 

「それと、気付いていますか?」

 

「ん?」

 

「観客席には、私達の試合をただ見に来た者ばかりではないようです」

 

「……ああ、そういう事ね」

 

今一度観客席を見渡し、空は大地の言葉の意味を理解する。

 

観客席にはビデオカメラを構える者が多数いる。他にも、他校のジャージを着る者も…。注目度が高いという事は、それだけデータを取られてしまうという事でもある。

 

「…偵察か、ま、別に構わねえよ。データ取られたくらいで負けるようならそこまでだ。第一、今日のデータで分かるのは今日の俺達までだ。明日の俺達は今日を上回ってるんだから、関係ねえな」

 

常に自分達は進化を続けている自負している空は、偵察等気にもかけていない様子だった。

 

「同感です。明日の試合の弾みになるいい試合をしましょうね」

 

「おう」

 

空と大地は拳を突き合わせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

粛々とアップを済ませ、身体を温める花月の選手達。

 

「3分前!」

 

審判からコールと同時に花月の選手達はベンチへと戻っていく。

 

『…』

 

目前の試合に向けて、選手達は集中力を高めながら試合の準備を進めていく。

 

「……てい」

 

「いたっ!」

 

そんな中、空が大地の脳天にチョップを落とした。

 

「そ、空? 何を…」

 

「お前、それ付けたまま試合するつもりか?」

 

頭を押さえながら講義をする大地に、空はジト目で大地の足元を指さした。

 

「………あっ!? すっかり忘れてました」

 

空の指摘に何かを思い出した大地はベンチに座り、足首のマジックテープをベリベリと剥がし始め、足首に付けていたものを外し、ベンチにゴトリと音を立てながら置いた。

 

「ん? これは、パワーアンクルか?」

 

置いたものの正体に気付いた松永。

 

「ええ、下半身の強化をと思って、4月の中盤くらいから付けていました」

 

「ほう……っ!? 結構重いな。10㎏近くはあるんじゃないか?」

 

想像していた以上の重さに、松永の表情が驚愕に染まる。

 

「片方5㎏ずつです」

 

『…っ!?』

 

正確な重さを聞いた周囲の選手達は思わず目を見開いた。

 

「片方5㎏ってことは10㎏!? そんなの足に付けながらあの地獄の練習してたんですか!?」

 

思わず尋ねてしまう竜崎。

 

「はい。そうですが…」

 

尋ねられた大地は何をそんなに驚いているのかが理解出来ないかのような表情で答える。

 

「(どおりで最近動きが鈍かったはずだ。…いや、むしろ、5㎏のパワーアンクルを付けながらあれほどの動きをしていたのか…!)」

 

パワーアンクルを付けながら花月の猛練習に付いていき、実戦練習では松永の動きに付いていった。その事実に、松永は驚愕していた。

 

「全員、静かにしろ」

 

上杉がそう言うと、花月の選手達は私語を止め、上杉の方へ視線を向け、注目する。

 

「もうまもなく試合だ。まず、いいか。過去の実績は忘れろ。あんなものは所詮、過去のものだ。これから新たな栄光を掴むのに、過去の栄光など必要ない」

 

『…』

 

「これからインターハイ出場を賭けての戦いが始まる。お前達は昨年の実績もあり、追う者から追われる者となる。お前達は静岡県の……いや、全国の猛者達がお前達に注目している。だが、やる事は変わらん」

 

『…』

 

「ここまで積み上げ、創り上げたお前達のバスケをコートで出してこい!」

 

『はい!!!』

 

「よし、行って来い!」

 

「はい!!!」

 

上杉が檄を飛ばすと、選手達は大声で応えた。

 

「監督、何か指示はありますか?」

 

空が上杉に尋ねる。

 

「第1Qでケリを付けろ」

 

「ハハッ! 了解!」

 

昨年、三杉が尋ねた時と同じ答えを言われ、思わず吹き出した空。親指を立てながら返事をすると、コートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コート上のセンターサークル内に集まる花月とその対戦相手のスタメンの選手達。

 

『来たぞ!』

 

『昨年のインターハイの覇者にして、ウィンターカップで秀徳を破り、桐皇を後一歩の所まで追いつめた花月高校!』

 

『この試合を見に来たんだよ!』

 

試合開始目前になると、観客達がざわめきたつ。

 

『…』

 

ジャージを着た者達は、花月の偵察の為、目を光らせる。

 

「これより、花月高校と藤田南高校の試合を始めます」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

4番PG:神城空  180㎝

 

5番SG:生嶋奏  182㎝

 

6番SF:綾瀬大地 185㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

8番 C:松永透  196㎝

 

 

センターサークル内に松永と藤田南のジャンパーとして立ち、その他の選手達は周囲に散らばる。審判がボールを頭上に高く上げ、ティップオフ!!!

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

松永がジャンプボールを制した。

 

「おし、ナイス、松永!」

 

空がボールを拾い、ドリブルを始める。

 

「行かせるか!」

 

藤田南のポイントガードが空の前に立ち塞がる。

 

「…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…えっ?」

 

空は同時にクロスオーバーで一気に加速し、横を駆け抜ける。あいて選手はそのあまりの速さに棒立ちで抜かれ、茫然としていた。

 

ツーポイントエリア内まで侵入すると、空はボールを下から放り投げるようにしてリング付近に放る。すると、そこへ大地が走り込み、跳躍していた。

 

「ま、まさか…!?」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

大地が空中でボールを両手で掴むと、そのままリングにボースハンドダンクを叩きこんだ。

 

『…』

 

試合開始僅か10秒程の出来事に相手選手は言葉を失い、会場も静まり返る。

 

『お…』

 

『おぉぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

静まり返っていた会場が一気に沸き上がった。

 

「おーおー、いきなり派手にやってくれたねぇ」

 

「あなたがあそこに投げたからでしょう。…そもそも、自分で決める事も出来たでしょうに…」

 

空の掛けた言葉に、大地は呆れたような表情で返した。

 

「ま、これで錘外して浮足立った感覚も戻ったろ? そんじゃ、ここから一気に行こうぜ」

 

「えぇ」

 

空と大地はハイタッチを交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

そこから試合は花月ペースで進んだ。

 

手始めのアリウープで浮足立った藤田南。得意のパスワークが上手く決まらず、不用意に出したパスをスティールされるか、シュートまで持って行けず、オーバータイムでオフェンス失敗を繰り返す。

 

空は、ドライブで切り込んで何本か決めると、そこからパスを捌き、味方の得点をアシストしていく。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

生嶋がパスを受けて外からスリーを決め…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

松永がゴール下でボールを受け、ダンクを叩きこむ。

 

天野がスクリーンやポストプレーでチャンスを演出し、時に自ら得点を決める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地がドライブで一気に切り込む。

 

「は、速い!」

 

あっさり抜かれた相手選手は、思わず後ろを振り返る。

 

「…えっ?」

 

だが、振り返ると、そこに大地はおらず、思わず素っ頓狂な声が出る。

 

「う、後ろだ!」

 

味方選手が指を差す。それに釣られて振り返ると、先程大地がドライブを開始した位置より僅か後方に大地はいた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーとなった大地は悠々とジャンプショットを決めた。

 

「とんでもない速さで切り込んだかと思ったら、とんでもない速さでバックステップしやがった…。あんなのありかよ…」

 

目の前で起きた事実を目の前に、相手選手が茫然としていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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試合はそのまま花月ペースで進んでいった。

 

得意の機動力を生かしたオフェンスとディフェンスで相手を翻弄。藤田南はオフェンスではチャンスを作れず、ディフェンスは的を絞れず、得点を許してしまう。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第1Q終了。

 

花月  46

藤田南  6

 

 

『ハァ…ハァ…!』

 

藤田南の選手達は、既に試合終了したかのように息を切らしながらベンチに戻っていく。

 

『つ、つぇー!!!』

 

『去年の冬の結果はマグレじゃねえぞ!』

 

圧倒的な試合展開と点差に、観客達も盛り上がる。

 

『勢いと運動量で戦ってた去年と違って、連携が深まっている…』

 

『スタメンも、かなり伸びてやがる』

 

偵察に来た他校の選手達も、想像を超える花月の強さに冷や汗を掻く者も。

 

「よし、緒戦の入り方としては上々だ」

 

腕を組みながら上杉が選手達を称える。

 

「ここからは選手を入れ替えながら試合に臨む。神城、天野、交代だ」

 

「なんや、もう交代かいな」

 

「ちぇ、もっと出たかったな」

 

交代を告げられた空と天野は物足りなそうな表情をする。

 

「代わりに竜崎。ポジションは1番だ。ゲームメイクはお前に任せる」

 

「はい。分かりました」

 

「天野のポジションには松永が入れ、空いたセンターは……室井。お前が入れ」

 

『っ!?』

 

松永を4番、パワーフォワードにポジションチェンジさせ、5番、センターのポジションに室井を置いた事に選手達の間に軽いどよめきが起きた。竜崎は同じ1年であるが帝光中出身という肩書きがあるので当然だが、室井は高校に入学して本格的にバスケを始めた言わば素人。あまりの速い実戦投入に選手達は驚く。

 

「勉強してこい」

 

「はい!」

 

上杉が掛けた言葉に、室井は力強い声で応えた。

 

「今日は全員試合に出場させるつもりだ。今、呼ばれなかった者もいつでも試合に出られるよう準備しておけ」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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OUT 空、天野

 

IN  竜崎、室井

 

 

空と天野がベンチに下がり、竜崎と室井がコートへとやってきた。

 

第2Qに突入しても、花月の勢いは止まらなかった。外から生嶋が、松永が切り込んで中から、大地が中と外から確実に得点を重ねていった。

 

「1本! 行きましょう!」

 

空の代わりにポイントガードを任せられた竜崎も、下級生ながら、司令塔として堅実にゲームを組み立てていった。

 

ボールがローポストに立っていた藤田南のセンターに渡る。

 

「(中には切り込ませない。身体を張って、ここで死守だ!)」

 

何とかゴール下まで押し込もうとする相手センターを、室井が身体を踏ん張って押しとどめる。

 

「(くそっ、こいつ! ビクともしない、だったら…!)」

 

押し込めないと見た相手センターはここでスピンターンでゴール下に切り込み、そのままシュート態勢に入った。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「(これは練習で散々体験したパターンだ。松永先輩のものに比べれば格段に遅い!)」

 

ボールが放たれると同時に叩き落とし、ブロックに成功する。

 

「いいぞ室井! その調子だ! …よし、速攻!」

 

ルーズボールを松永が拾い、前線へとパス。ブロックと同時に前へ走っていた大地にボールが渡る。

 

 

――バス!!!

 

 

そのままワンマン速攻、レイアップを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

第2Qも、花月が終始、藤田南を圧倒。

 

時折、室井のポジションから崩される事もあったが、キャリアの浅さを持ち前の身体能力でカバー。申し分ない結果を残す。

 

第3Q、後半戦に突入すると、生嶋と松永がベンチに下がり、菅野と帆足がコートに入る。

 

「行くぜぇっ!!!」

 

「……よし…!」

 

気合いを入れてコートに入る菅野と、緊張しながらも静かに気合いを入れながらコートに入る帆足。

 

「帆足、行け!」

 

「ありがとうございます!」

 

菅野がスクリーンをかけ、帆足をフリーにする。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーになったところで竜崎がパス。帆足がボールを受け取り、そのままジャンプショットを決めた。

 

「や、やった…!」

 

自身公式戦初出場で初得点を決めた帆足は拳を握って喜びを露にする。

 

「帆足先輩、ディフェンス! 戻りましょう!」

 

「あっ! スマン!」

 

竜崎に促され、正気に戻ると、帆足はダッシュで自陣へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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試合はスタメンの大半がベンチに下がるも、花月は1度も点差を詰められる事なく試合を進めた。

 

「任せますよ」

 

「おう!」

 

第4Q中盤には大地と空がメンバーチェンジ。空がポイントガードに入り、竜崎がスモールフォワードに入った。

 

空は極力1ON1を仕掛けず、パスを散らしてチームメイトに積極的に点を取らせるゲームメイクに徹した。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了のブザーが鳴った。

 

 

花月  148

藤田南  36

 

 

100点以上の点差を付け、花月が1回戦を突破した。

 

『やっぱ花月つえー!!!』

 

『スタメンだけじゃねえ、ベンチも結構やるぞ!?』

 

スタメンの5人だけではなく、ベンチメンバーも試合に大いに貢献し、観客達はざわめいていた。

 

「引き上げるぞ! 片付けは迅速に行え。後の高校を待たせるな」

 

上杉が引き上げの号令をかけると、選手達は全員で荷物を纏め、ベンチを後にする。

 

『頑張れよー!』

 

『また全国でキセキを起こしてくれー!』

 

コートを去ろうとする花月に、観客から声援が掛けられた。

 

「おーおー、今年はえらい期待されてんなー」

 

「喜ばしい限りです。是非とも期待に添えたいですね」

 

観客達の声援を受けて胸を熱くさせる空と大地。花月への応援の言葉は、コートを去るまで送られたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後も、2回戦、3回戦と快勝し、順調に勝ち進んでいく。

 

昨年の運動量を生かしたバスケに加え、連携も巧みにこなし、個人技だけではなく、チームプレーもこなせる事を見せつけていく。

 

ベンチメンバーもスタメンの後を立派に引き継ぎ、勝利に貢献する。こうして花月は、決勝リーグに勝ち進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

決勝リーグまで勝ち抜いた花月高校。

 

 

Aブロック代表、花月高校

 

Bブロック代表、鬼羽西高校

 

Cブロック代表、福田総合学園高校

 

Dブロック代表、松葉高校

 

 

以下の4校が決勝リーグまで駒を進めた。この4校で、インターハイ出場の2枠を巡って試合を行う。

 

花月が決勝リーグで戦う相手はBブロックを勝ち抜いた鬼羽西高校。堅守が持ち味の決勝リーグ常連の強豪校である。

 

「スタメンはこれまでと同じ、神城、生嶋、綾瀬、天野、松永だ」

 

『はい!!!』

 

「鬼羽西高校は昨年同様、ここまでの全ての試合を40点以内に抑えて勝ちあがっています。それに付け加え、昨年以上のオフェンス力で得点を重ねています。今年に鬼羽西高校は、昨年の以上の強さと見ていいと思います」

 

姫川から鬼羽西高校の情報が選手達に伝えられる。

 

「ここからはこれまでのように行くと思うな。試合終了のブザーが鳴るまで全力を尽くせ!」

 

『はい!!!』

 

「よし、行って来い!」

 

「っしゃあっ! 行くぞ!!!」

 

上杉の檄を受け、空がさらに声を張り上げ、スタメンに選ばれた5人がコートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「(さっすが、堅守が売りだけあって、簡単にはパスは出させてくれないか…)」

 

パスターゲットを探しながらボールをキープする空。鬼羽西の選手達はパスコースを塞ぎながらディフェンスに臨んでいる。

 

「(パスが出せないなら自ら……けど、それじゃ面白くねえ…)」

 

あくまでもパスにこだわる空。ここで、空が天野に合図を出す。合図を受け取った天野が空をマークする選手にスクリーンをかけるべく動く。

 

「(ええで!)」

 

「(あざす!)」

 

天野がスクリーンをかけたのと同時に空がドライブ。中へと切り込んでいく。

 

「スイッチ!」

 

スクリーンにかかった鬼羽西の4番の選手だが、対応が早く、すぐさまマークチェンジ。天野をマークしていた7番の選手が空のヘルプに向かう。だが…。

 

「…えっ?」

 

次の瞬間、空は7番の選手の股下を通すようにボールを投げつける。股下を通ったボールはそこに駆け込んでいた大地に渡る。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを受け取った大地がそのままレイアップを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

その後、オフェンスでは空が針に穴を通すようにパスを出し、鬼羽西の堅いディフェンスを突破。ディフェンスでは空と大地がその運動量とスピードを生かして相手を翻弄し、オーバータイムを誘発させていく。

 

空の単独突破を警戒していた鬼羽西だったが、空がパス中心のゲームの組み立てをしてきた事で予測を外され、常識では考えられない所からボールを通され、自慢のディフェンスも機能せず。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了のブザーが鳴った。

 

 

花月  83

鬼羽西 54

 

 

花月が順調に第1戦を制した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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第2戦…。

 

この日の花月の相手は静岡の強豪校が1校、松葉高校。松葉も花月同様、第1戦の福田総合を破り、勝ち星を上げている。

 

かつては静岡の覇権を握っていた松葉。だが、近年では福田総合、昨年時は花月が現れた事で王者の座から遠のいており、失った覇権を取り戻す為、気合い充分。

 

「行くぞ、勝つのは俺達だ!」

 

『おう!!!』

 

空を先頭に、花月もインターハイ出場がかかった試合の為、気合いは充分に入っていた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

大地が相手選手の上からダンクを炸裂させる。

 

「っ!?」

 

自分の方が身長が高いにも関わらず、上からダンクを決められ、松葉の選手は驚きを隠せない。

 

この試合でも空はボール回しに徹し、自身の突破は極力控え、アシストに徹する。空の単独突破を目当ての観客からは一部不満の声が出たが、偵察に来ていた他校の選手からは巧みなボール回しを目の当たりにして、空の司令塔としての力を認識した。

 

空がボールを回し、大地、生嶋、松永が得点を稼ぎ、天野がリバウンドを制し、相手エースを封殺した。そして…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

試合終了

 

 

花月 106

松葉  77

 

 

30点近い点差を付け、花月が快勝したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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インターハイ静岡県予選決勝リーグ最終戦。

 

「2勝しているからと言って気を抜くな。相手も死に物狂いでこの試合に臨んでくる。最後まで全力を尽くせ」

 

すでに2勝し、8割方インターハイ出場を決めた花月だったが、未だ確定している訳ではないので上杉は集中を促す。

 

相手は福田総合学園高校。松葉と同じく静岡の強豪であり、一昨年のウィンターカップではキセキの世代の黄瀬を擁する海常高校を後一歩のところまで追いつめた強豪である。

 

第2戦で鬼羽西を破り、この試合で点差を付けて勝利が出来ればインターハイ出場の希望がある為、気合いは充分入っていた。

 

「……あれ? やっぱり、灰崎祥吾はいないんだな」

 

空が、福田総合のベンチ内に灰崎がいない事に気付いた。

 

「えぇ、去年と同じく、ベンチにも入っていないわ」

 

姫川が空の疑問に答えるように補足した。

 

「気になって調べてみたのだけれど、灰崎祥吾はバスケ部に所属していないみたいなの。それどころか、学校にもいないみたい」

 

「はっ? どういう事だよ」

 

姫川から告げられた言葉に空が思わず声を上げる。

 

「何でも、もともと素行が良くなかったらしくて、ウィンターカップ終了後にバスケ部を退部になって、それから学校に来なくなったみたいで、行方を探っても退学処分になったとか、自ら退学届を出して辞めてしまったとかそんな話しか…」

 

「……そうか」

 

元キセキの世代にして、黄瀬涼太を追い詰めた逸材。1度、戦ってみたいと思っていた空は残念がる素振りを見せる。

 

「ま、考えても仕方ない。俺達がやる事は変わらない。全力で勝ちに行くだけだ」

 

そう言った空は気持ちを切り替え、目の前に迫る試合に向けて、集中するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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試合が始まり、福田総合はチーム一丸の全員バスケで花月にぶつかる。

 

序盤は得点のキーマンがおらず、チャンスがあれば全てのポジションから積極的にシュートを狙ってくる福田総合に食い下がられる場面がちらほら見られた。

 

「…福田総合のスタメンは全員3年生。ウチは全国経験者が揃っていると言っても主力の大半が2年生。その差が出ていますね」

 

なかなか点差が開かない展開に姫川は経験の差を挙げる。

 

「…ふむ、昨年の大仁田もそうだが、絶対的なエースがいるチームが必ず勝つとは限らん。それぞれが与えられた役割、出来る事を全力で行えば格上や絶対的な個がいる相手にも勝利する事もできるのがバスケだ」

 

ベンチで腕を組みながら告げる上杉。

 

「タイムアウトを取りますか?」

 

「……いや、いい。やり辛さを感じてはいるが、選手達は焦ってはいない。きっかけがあれば展開は変わる。今は様子を見る」

 

1度流れを切る為にタイムアウトを提案した姫川だったが、上杉は首を横に振った。そして、上杉の言葉は、現実のものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

第2Qが始まると、空と大地が積極的に動き、スティールを連発し、そこから得意に速い展開に持ち込んだ。

 

福田総合は、花月の速い展開に付いていけず、じわじわと点差を付けられていき、第3Qが終わった頃には点差は20点以上に点差が付いていた。

 

第4Q中盤になると、空、大地、松永がベンチに下がり、竜崎、菅野、室井がコートへと向かった。

 

「最後まで攻めていきましょう!」

 

竜崎が懸命に声を出してチームを鼓舞しながらゲームを組み立てていく。主力が3人下がっても花月は福田総合に食らいつき、そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了

 

 

花月   86

福田総合 60

 

 

「いよっしゃぁぁぁぁっ!!! 優勝だぁぁぁっ!!!」

 

全勝でインターハイ出場1位突破を決め、喜びを露にする空。

 

「よう頑張ったで、1年生コンビ!」

 

「当然ですよ!」

 

「…いえ、自分なんてまだまだです」

 

竜崎と室井の肩に手を回しながら激励する天野。竜崎は胸を張りながら喜び、室井は表情変える事無く謙遜の言葉で返した。

 

「全国だよ、まっつん」

 

「ああ」

 

ハイタッチを交わす生嶋と松永。菅野が帆足の首に腕を回して喜び、帆足は苦しみながらも喜びを露にし、姫川と相川は手を取り合って喜んでいた。

 

隣のコートでは、松葉が鬼羽西を破り、残りの枠を松葉が獲得した。

 

こうして、花月は1位で静岡県予選大会を突破し、インターハイの舞台に足を進めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

静岡県予選を危なげなく突破した花月。

 

他県でも、京都の洛山高校、秋田の陽泉高校、神奈川の海常高校が同様に圧倒的な強さで予選大会を突破した。

 

全国一の注目の的にして、激戦区東京。

 

決勝リーグには誠凛、桐皇、秀徳、正邦が勝ち上がった。

 

結果は、誠凛、桐皇、秀徳の3校が2勝1敗で並び、得失点差で1位が誠凛。2位が桐皇。3位が秀徳という結果となり、この3校がインターハイ出場を決めた。

 

こうして、県予選が終わり、各県を勝ち抜いた強者達がインターハイの舞台へと駒を進めた。

 

そして、キセキ達の最後の夏の戦いが始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





静岡県予選の試合はほぼほぼダイジェスト。東京都の試合も省略致しました。理由としましては、事細かに執筆したら多分、それだけで今年が終わりますw

後は上手く執筆出来る自信がなかったのと、何より新世代の誠凛・桐皇・秀徳の秘密にしたかったので…(;^ω^)

恐らく、1話挟んでインターハイの執筆を始ます。インターハイの大まかな展開と結果はすでに決まっているのですが、肝心な試合描写がまだ固まっていない状況です。正直、これが1番の難関です…(>_<)

今一度、原作、他作品、現実のバスケの映像を見ながら構想を固めると思いますので、暫しお待ちを…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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