投稿します!
長期間投稿を停止してしまい、申し訳ありませんでした…m(_ _)m
それではどうぞ!
――キュッキュッ!!!
体育館内にスキール音が響き渡る。
「おらぁ! 足が止まってるぞ! そんな様では通用せんぞ!」
激しい練習によって動きが鈍くなった部員に上杉の檄が飛ぶ。
5月に入り、間近に迫ったインターハイ静岡大会に向けて、チーム練習は更に厳しさが増していった。
「行かせませんよ…」
「(っ!? ビクともしない、こいつ、とんでもないパワーだな…)」
ローポストでボールを受け取った松永。その後ろには室井。姫川の基礎練習を卒業した室井は本格的にチーム練習に合流した。現在、3ON3に参加している。
背中でゴール下まで押し込もうとする松永だったが、背中に立つ室井はピクリとも動かなかった。
――ダムッ!!!
スピンターンで反転し、室井の横を抜け、そのままゴール下を沈めた。
「…っ」
あっさり横を抜かれ、僅かに悔しそうな表情をする室井。
もともとの身体能力の高さと、姫川の指導もあり、バスケ選手としてある程度形になってきた室井だが、まだまだディフェンス…特に平面の勝負ではキャリアの差が大きく、抜かれる場面が多々見受けられていた。
「…ふむ」
そんな室井を見て、上杉は、少しずつチームの戦力として成長している事を認識した。
次の組、空、帆足、天野の組と、大地、竜崎、菅野の組の3ON3が始まった。
「…」
「…」
スリーポイントラインの外側でボールをキープするのは空。マークをするのは竜崎。天野には大地。帆足には菅野がマークをしている。
――ダムッ…ダムッ…。
ゆっくりとドリブルをしながらゲームメイクをする空。おもむろにボールを掴むと、頭上からハイポストに立つ天野にパスを出し、天野目掛けて走りこんだ。
「スイッチ!」
すれ違い様に天野から手渡しでボールを受け取り、そのままリングに突っ込む空。天野が進行の妨げになった竜崎は声を出す。
「行かせません」
「止める!」
リングに迫る空に、大地と菅野がヘルプに向かう。
――スッ…。
同時に空がノールックビハインドパスでボールを放った。
「あっ!?」
思わず菅野が声を上げる。菅野の横を抜けていくボールは、右サイドのスリーポイントラインの僅か内側に走りこんでいた帆足にボールが渡る。
――ザシュッ!!!
ノーマークの帆足は落ち着いてジャンプシュートを決めた。
「ええで帆足!」
「ありがとうございます!」
天野が駆け寄り、背中を叩く。
「いいポジション取りだったぜ」
「神城君のパスが良かったんだよ」
続いて空が肩を叩いた。
「あーくそっ!」
悔しがる菅野。
「…っ」
若干苛立った表情で竜崎が菅野に視線を向けた。
攻守が変わり、ボールを竜崎がキープし、目の前には空。大地には天野。菅野には帆足がマークしている。
「…」
目の前の空にボールを奪われないよう気を付けながらゲームメイクをする竜崎。
「(…くそっ、あの人は何をやって…!)…ったく!」
苛立ちながら竜崎がドライブで仕掛ける。
「(おーおー、カッカしてんな)」
そんな竜崎を心中で苦笑しながらピタリと並んで追いかける空。
「こっちだ!」
帆足を振り切って中に走りこんできた菅野がボールを要求する。
「…」
急停止した竜崎がパスを出す。ボールは菅野…ではなく、左アウトサイドの大地に。
「行かせへん」
ボールが大地に渡ると、すぐさま天野がディフェンスにやってきた。
「…」
天野が目の前に現れると、大地は仕掛ける事なくボールを右へと流した。そこへ、竜崎が走りこんでおり、フリースローラインのやや後方でボールを受け取り、再び仕切り直しを始めた。
「おい! 何やってんだよ!? こっち寄越せ!」
自分にパスを出さない苛立ちを表に出した菅野がボールを要求する。
「…」
一瞬視線を菅野の方へ向ける竜崎。すでに15秒以上費やしているため、そろそろチャンスメイクをしたい。だが、自分が空をかわして得点を決めるのは至難の業。大地も天野をかわしてきれていない。
「…」
僅かに悩んだ末、竜崎は菅野にボールを渡す。
「っしゃぁっ!」
ボールを受け取った菅野はすぐさま構える。
「行きます!」
帆足が前に出て、ガンガンプレッシャーをかける。
「(…ちっ、こいつ、なかなかやるじゃねえか…!)」
思いのほかタイトにディフェンスをかけてくる帆足に驚く菅野。
「…だが、甘いぜ!」
――ダムッ!!!
一瞬の隙を付いて帆足を抜き去り、中へと切り込み、そのままシュート態勢に入る。
「させませんよ」
「うぉっ!?」
そこへ、空がブロックに現れる。
「くそっ!」
やむを得ず、菅野はブロックに飛んだ空の先に見えた大地にパスを出す。
――バチィィッ!!!
「甘いでスガ!」
だが、そのパスは天野にカットされてしまった。これにより、3ON3は終わった。
「5分休憩だ! 各自、呼吸を整えながら水分補給をしろ」
上杉が指示を飛ばすと、部員達は深く息を吐いた。
「はーい! 皆さんしっかり水分を摂ってくださいねー」
マネージャーの相川と姫川が部員1人1人にボトルとタオルを配ってまわる。
各自が汗だくの顔を拭いながらボトルの飲料水を口にしていく。
「あぁっ!? てめえもう1回言ってみろ!?」
その時、体育館内に怒声が響き渡る。部員達が一斉に視線を向けると、そこには竜崎に掴みかかる菅野の姿があった。
「さっきのなんスか? ディフェンスの時、綾瀬先輩のヘルプが間に合ったんですから行く必要はないでしょう。行くならせめて帆足先輩のパスコースを切るくらいの気配りをしてくださいよ」
「っ!?」
「オフェンスでは、綾瀬先輩をフリーにする為にスクリーンかけるとかしてくださいよ。あそこでボール貰ってもどうしようもないでしょう。挙句、みすみす中に切り込まされて、苦し紛れにパス出してターンオーバー…こんなの帝光中なら2軍の奴でも出来ますし、やらない事ですよ?」
淡々と告げていく竜崎。
「てめえ、帝光中出身だからって調子に乗ってんじゃねえぞ!」
後輩にダメ出しをくらい、皆の前で恥をかかされた怒りを加味された菅野が竜崎の胸倉を掴み上げた。
「おいスガ、その辺にしとき――」
ヒートアップしてしまった菅野を見かねた天野が2人の下へ駆け寄ろうとするが…。
「ちょっと熱くなり過ぎですよ、スガさん」
それよりも早く空が菅野を止めた。
「…ちっ!」
水を差され、舌打ちをしながら菅野は竜崎から手を放した。
「…率直に、スガさんには申し訳ないですけど、竜崎の言ってる事は尤もです」
「…っ!?」
『っ!?』
竜崎の言葉を認める発言をした空に思わず菅野が目を見開く。周囲にいたものを同様であった。
「さっきのプレーは少し迂闊だったと思います。結果論と言えばそれまでですけど、正直、咄嗟にそれくらい出来ないと、全国で優勝なんて狙えません」
「…っ」
主将であり、チームの司令塔である空に言われてしまい、返す言葉がなくなる菅野。
「ただ竜崎、相手は先輩だ。最低限の言葉遣いと礼儀には気を遣ってくれ。それさえ守ってくれれば、自由に意見を言ってもいいからよ」
「……分かりました。すいません、少し生意気でした」
自分でも言い過ぎたと感じていたのか、竜崎は頭を下げ、謝罪の言葉を述べた。
「……おう」
視線を向けず、素っ気なくはあるが、菅野は返事をした。
「さて…、そろそろ休憩時間も終わりか……よし! 次はスクエアパスだ。行くぞ!」
『おう(はい)!!!』
空が指示を飛ばすと、部員達が大声で応えた。
「(なるほど、空らしい)」
「(ほう…、やるやないか)」
空の仲裁を見守っていた大地と天野が心中で感心したのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
その後も、厳しく、激しい練習は続いた。
それは他の部活動の練習が終わっても続いた。
「今日の練習はそこまで! 各自、速やかに片付けを行い、帰宅しろ!」
『ぶはぁぁぁっ!!!』
上杉がそう言うと、部員達は大きな溜め息を吐きながら返事をしたのだった。
「大地! 1ON1やろうぜ!」
「良いですよ。やりましょう」
――ザシュッ!!! ザシュッ!!!
生嶋は籠に入ったボールを運んで黙々とシュート練習を始める。
「松永先輩、ディフェンスの御指導してもらってもよろしいですか?」
「いいだろう」
室井が松永に声を掛け、2人でリングの方へ散っていった。
――ダムッ!!! ダムッ!!!
竜崎はカラーコーンを並べ、ドリブル練習を始めた。
「菅野先輩」
「おう、帆足! 1ON1でもやるか!」
帆足と菅野が2人で移動していった。
全体練習が終わり、個人自主トレが始まった。居残り練習は、教員が体育館に顔を出し、注意を受けるまで続けられたのだった。
※ ※ ※
「…」
練習が終わり、学校に備え付けられている自販機に前に立つ菅野。小銭を投入し、飲み物を選び、ボタンを押した。
「お疲れっす、スガさん」
取り出し口から飲み物を取り出そうとしたのと同時に空が話しかけた。
「おう」
一言そう返すと、菅野はプルタブを開け、飲み物を口にした。
「…」
続いて空が自販機に小銭を投入し、ボタンを押し、飲み物を取り出した。
「さっきはすいません」
「あん?」
「スガさんに恥かかすよう事しちゃって」
先程の言い合いの仲裁。その場を収めた空だったが、菅野のメンツを潰す真似をしてしまった事を気にしており、その謝罪をした。
「気にすんな。竜崎の言った事は間違ってねえからな。俺も少し頭に血が上り過ぎたわ」
頭が落ち着いていた菅野は、特に空に思うところはなく、手で制しながらそう言い、飲み物を口にした。
「…」
「…」
暫し、互いに壁に背中を預けながら並び、飲み物を口にする。
「…馬場先輩から主将に任命されて――」
「?」
「花月をどういうチームにしたいか。考えてきました」
「…」
「新人戦の時はまだ考えが纏まらなくて、去年のまま、勢いで自分なりにチームを引っ張ってきましたけど、1年生が入ってきて、改めて考えるようになりました」
「…答えは出たのか?」
黙って聞いていた菅野が訪ねた。
「俺達が目指すのは全国優勝。その為には、1人1人が勝つためにどうすればいいか、考えなければならない。だから俺は、花月が先輩後輩関係なく意見を言い合えるチームにしたいって思いました」
「…」
「だから俺は花月を同じ静岡の松葉や、去年試合した泉真館みたいなガチガチの縦社会の体育会系にはしたくなかった。あの2校は、それで成り立っているのかもしれないですけど、ウチでは無理だと思いますし、何より、楽しくないですからね」
「…」
「俺が考える理想のチームは、全国優勝を目標に、勝つ為に皆で死に物狂いで頑張って、時に衝突してでも先輩後輩関係なく意見を言い合って、そんで試合に勝ったらみんなで喜び合える。俺は花月をそんなチームにしたいです」
「……そうか」
今まで空の言葉を黙って聞いていた菅野は、ただ一言、そう答えた。
「なら、俺は花月にいない方がいいか?」
「いやいや、むしろ、スガさんにはいてもらわないと困りますよ」
唐突に菅野が言い出し、空が慌てて言葉を挟む。
「ガチガチの体育会系にはしたくないですけど、だからといって、締めるところはきっちり締めないと、なあなあになってしまいますからね。俺はそういうの苦手ですし、天さんもそういうキャラじゃないですから、スガさんがチームが緩まないようにこれからも今までどおりやってもらえると助かります。…正直、スガさんに嫌われ役を押し付けてしまって申し訳ないんですけど…」
「ハッハッハッ! そういう事なら任せろ。どうせ俺は、試合じゃあまりお前達の力にはなれないからな。優勝の為に俺が少しでも役に立てんなら、嫌われ役でも汚れ役でも喜んで引き受けてやらぁ」
「スガさん…」
「その代わり、お前は全力でチームを引っ張って花月を優勝に導け。いいな?」
「うす! もちろんです!」
空は菅野の願いに、敬礼をしながら答えた。
「…さて、明日も朝から猛特訓だ。さっさと帰って身体休めようぜ」
「そうっすね」
2人は同時にゴミ箱に空になった空き缶を投げ入れ、鞄を掴み、その場を後にしていった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「…」
その場を去る2人を遠巻きで見つめる1人の男、竜崎。
先程の言い合い。やはり、後輩としてあるまじき行為だったので、改めて謝罪に来たのだが、空と話し込んでいたので顔を出す事が出来なかった。
「…ハァ」
溜め息が竜崎の口から零れる。
バスケの事になると相手が先輩だろうと思った事を口にしてしまう自身の悪い癖。過去にもこれがきっかけでトラブルになった事があり、高校進学を機に治そうと決めたのだが、ついそれが出てしまった。
「気を付けないとなぁ…」
昨年の最上級生であり、主将であった帝光中ならいざ知らず、今は花月の下級生。竜崎は改めて気を付けようと心に決めたのだった。
「…それにしても」
空と菅野の会話を聞いて、竜崎は考える。
実は、竜崎は、洛山から誘いを受けていた。だが、それを断り、花月高校に来た。その理由は、昨年のウィンターカップ、花月対桐皇の試合がきっかけだった。
その試合を見るまでは、洛山の誘いを受ける事に疑問はなかった。だが、花月が桐皇と互角に戦い、点差を付けても尚も食い下がり、最後はあと一歩のところまで追いつめた。
「…」
絶望的な状況でも諦める事無く戦うその姿を見て、竜崎の胸に1つの思いが生まれた。
――彼らと共に、キセキの世代を倒したいと…。
キセキの世代を敵に回す事がどれほどの事か、それが僅かな間なれどチームメイトであった竜崎は良く理解していた。現に帝光中出身者で、高校に進学した者は、プライドを守る為、無様に負ける事を恐れてバスケを辞めるか、キセキの世代の所属する高校に進学するかの2択である。
竜崎自身が洛山のスカウトを受けようとしたのも、他の彼らと同様であった。だが、諦める事なく戦う花月の試合を見て、竜崎は覚悟を決めた。
「神城先輩は、赤司先輩とも、あたりまえだけど新海とも違う…」
中学時代に見た2人の主将である赤司と新海、その2人と違い空はまた違った主将である事を竜崎は理解した。
「…あの人と…いや、あの人達となら……、ハハッ、やっぱここ(花月)に来て良かったぜ」
竜崎は笑みを浮かべながら、その場を後にしたのだった。
※ ※ ※
翌日…。
「基本の動作を忘れるな! 正しいフォームを意識しろ!」
この日も目の前に迫るインターハイに向けて猛練習を積んでいる。
「気を緩めるなと言っているだろ! 今の組、ダッシュ20本だ!」
『は、はい!』
気の抜けたプレーをした者には上杉から容赦なく厳しい声が飛ぶ。
「行くぞ」
「ええ」
現在、松永がボールを受け取り、目の前には大地。リングから離れて場所でボールを受け取った松永は大地と向かい合う形で対峙している。
「(こいつ相手に1ON1を仕掛けるのは無謀だが…あえて、その無謀に挑む!)」
――ダムッ!!!
覚悟を決めて松永は一気に加速。ドライブを仕掛ける。大地はこれに送れずにピタリと並走する。その後、バックロールターンで反転し、逆を突いたのと同時にボールを掴み、シュート態勢に入った。
――ザシュッ!!!
松永が放ったジャンプシュートがリングを潜り抜けた。
「ナイッシュー、松永!」
得点を決めた松永に賛辞の声が贈られる。
「?」
だが、当の本人は何処か腑に落ちない表情をしていた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「…」
「…」
ボールを持った空。目の前に立ってディフェンスするのは生嶋。
空が小刻みにボールを動かしながら牽制する。
「(くーはどう来るかな? 仕掛けてくるのか…それとも意表を突いてスリーか…)」
全国最速クラスのスピードと外がある空を相手に、身体能力で格段で劣る生嶋が止めるには動きをドンピシャで予測するしかない。
――ピッ!!!
「っ!?」
だが、空が選択したのはドリブル突破でもなくスリーでもなく、パスだった。ハイポストにポジション取りをした菅野にパスを出した。ボールを貰った菅野はそこから強引にシュートを放ち、得点を決めた。
「ナイスパスだぜ!」
「いい感じですよ、スガさん」
空と菅野がハイタッチを交わした。
「…?」
その光景を、生嶋は、何処か不思議そうな表情で見つめていた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
この日も猛練習、その後の自主トレを終え、部員達は早々に片付けと着替えを終えて帰路に着いた。
「……生嶋」
「なんだい、まっつん」
共に同じ道を歩いていた松永と生嶋。ふいに松永が話しかける。
「今日の綾瀬…いや、ここ最近の綾瀬、何処かおかしくないか?」
「ダイがかい?」
そう尋ねられ、ここ最近の大地の様子の記憶を辿る。
「やけに動きが悪い。今日3ON3で綾瀬とやりあってみたが、あまりにも呆気なさすぎる」
「…そう言われてみると、ダイにしてはあっさり点を取られていたね」
その時のやり取りを思い出した生嶋が頷く。
「疲労がピークなのかな?」
「あの綾瀬がか? あり得ないだろう。あいつが極端にパフォーマンスに影響が出るほどオーバーワークをするとは思えん」
「だよねー」
思いついた事を述べてみたが、松永が否定をし、生嶋も頷く。
「ダイもそうだけど、僕はくーも少しおかしいと思うんだよね」
「神城が?」
「うん。気付いたかい? 新人戦が終わってから、くーのドリブル突破が極端に減っている事に」
「……そういえば、練習試合や3ON3でも、パスを捌く事が増えたな」
生嶋に指摘され、ここ最近の空を思い出し、頷く。
「ドリブル突破から自ら決めるか、マークを集めてそこからのパスを出すのがくーのスタイル。最近は何というか、らしくないと言うか…」
「パスをするのが悪いわけではないが、あれはあいつの持ち味を生かし切れるスタイルではないな」
自ら勝負して活路を見出すのが空の持ち味。パス主体のゲームメイクは本来の空のバスケとは真逆である。
「主将に任命されて事で変に気負っているのではなければいいのだがな」
「くーとダイはうちの司令塔とエースだからね。心配だよね」
花月の主軸である空と大地を心配する松永と生嶋。
「大会までまだ多少の時間がある。監督とて、この事に気付いていないわけがない。もう少し、様子を見てみるか。俺達だって、余裕があるわけではないしな」
「あーそうだね」
松永の言葉に生嶋が苦笑を浮かべる。
昨年、インターハイではほとんど出番がなく、ウィンターカップでは空や大地、天野に頼り切りになる場面が多かったと自覚する2人。今年こそ花月の勝利に貢献したいと気合を入れている。
「お前ももう少し体力を付けないとな」
「そういうまっつんだって、もっと筋力付けないと」
互いの欠点を皮肉りながら、2人は帰路に着いたのだった。
※ ※ ※
それから日付は進んでいき、インターハイ予選が目の前へとやってきた。
「集合!」
上杉が部員全員を集める。
「インハイ予選まであと僅か。今年は例年以上に厳しい練習をお前達にさせてきた。ここまでよく耐え抜いた」
『…』
「俺はお前達を、全国の頂点を狙えるまで鍛え上げたつもりだ。キセキの世代を倒し、優勝を勝ちとるぞ!」
『はい!!!』
「心が折れそうになったら今日まで積んできた練習を思い出せ。それがお前達を奮い立たせてくれるはずだ」
『はい!!!』
「いい気合いだ。この気持ちのまま、大会に殴り込むぞ!」
『はい!!!』
上杉の言葉に、部員達は腹の底から声を出し、応えたのだった。
「今日の練習はここまでだ。これからは大会に向けて体調を整える練習に切り替える。自主練習もするなとは言わんが、ほどほどに切り上げろよ。では、解散!」
部員達にそう告げると、部員達はそれぞれ散っていった。
「その前に!」
『?』
踵を返した部員達だったが、振り返る。
「インハイ予選の前に中間テストがあるのは覚えているな? くれぐれも赤点を取るような愚行は犯すなよ」
「…」
その言葉に、空が顔を青くしたのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
後日…
「楽勝!」
返却された答案用紙を手にガッツポーズをする空。
「ギリギリセーフ…」
答案用紙を見てホッとする竜崎の姿があったのだった。
かくして、最後の関門(?)である中間テストを無事乗り越え、万全な態勢でインハイ予選に臨む花月。
キセキの世代の最後の年である、夏の大会の火蓋が、切って落とされるのだった……。
続く
2月頭からリアルがバタついてしまった為、これまで執筆の時間が取れず、気が付けば3ヶ月も空けてしまったorz
まもなく平成が終わってしまう為、せめて平成最後の投稿をと思い、大急ぎで仕上げました…(^-^)
間に合って良かった…(>_<)
感想、アドバイスお待ちしております。
それではまた!
ありがとう、平成!!! おいでませ令和!!!