黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

大急ぎで書き上げた、いろいろぶっこんだ話です。

それではどうぞ!



第92Q~各校始動~

 

 

 

「…」

 

「…」

 

スリーポイントラインの外でボールを持って構える空。その目の前に立つ竜崎。

 

竜崎が空に挑んだ1ON1。2人の勝負が始まろうとしている。

 

『…』

 

各々、自主練をしていたバスケ部の部員達だったが、今では手を止め、2人の勝負に注目している。

 

「…」

 

ボールを小刻みに動かしながら牽制する空。

 

「…」

 

竜崎は腰を落とし、空の動きに合わせながらディフェンスをしている。

 

「ほー、なかなかええディフェンスするやんけ」

 

勝負を見守っていた天野が竜崎のディフェンスを見て思わず唸る。

 

「よー鍛えられとるわ。そこらの実力者じゃ抜くのは難しいやろなぁ」

 

ディフェンスのスペシャリストである天野から賛辞の言葉が出る。

 

「帝光中出身は伊達ではないな」

 

松永も竜崎を見て同様の感想を持った。

 

「…」

 

「…」

 

睨み合う両者。

 

『…(ゴクリ)』

 

対峙する2人から発する緊張感に静まり返る体育館。

 

「……フー」

 

ゆっくり空が息を吐き…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そして動く。

 

「っ!?」

 

最初の1歩目で竜崎の横に並び、2歩目で後方に駆け抜けた。

 

 

――バス!!!

 

 

竜崎が振り返った時にはもう空はレイアップを決めていた。

 

「うおっ、はえー!」

 

あっという間に決めた空を見た1年生が思わず唸る。

 

「(とんでもない速さだ…。今の、中学時代に見た青峰先輩より速いんじゃ…!)」

 

目の前で駆け抜けた空の速さに驚きを隠せない竜崎。

 

「次、お前のオフェンスだぜ」

 

ボールを拾った空が竜崎にボールを渡す。

 

「は、はい!」

 

ボールを受け取った竜崎は慌ててスリーポイントラインの外側に移動する。

 

攻守が入れ替わり、竜崎。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

ゆっくりドリブルをしながらチャンスを窺う。

 

「遠慮はいらねえ、来いよ」

 

「…っ」

 

不敵に言い放つ空。そんな空から発せられるプレッシャーを受けて思わずたじろぐ竜崎。

 

「(これがキャプテンのプレッシャー…! …ビビるな…強気で攻めるんだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

竜崎がレッグスルーで仕掛ける。

 

「…これはなかなか」

 

1ON1を見守っていた大地がキレのある竜崎のレッグスルーを見て唸る。

 

「…ですが」

 

「…っ」

 

だが、空はこれに難なく対応。右手を伸ばして進路を塞ぐ。

 

「…なら、もう1つ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

同時にクロスオーバーで竜崎が逆に切り返す。

 

「甘い」

 

これにも対応。先回りで進路を塞いだ。

 

「…だったらこれでどうです!?」

 

ここで竜崎はボールを掴み、ターンアラウンドで反転する。その後、すぐにシュート態勢に入る。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

シュートを放った瞬間、空の手が現れ、ボールはブロックされた。

 

「(…っ、これでもダメか…!)」

 

逆を付いたつもりだったが、それでも空をかわす事は出来なかった。

 

「そんじゃ、次は俺のオフェンスな」

 

「…くっ! お願いします!」

 

ボールを拾って空に渡す。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

スリーポイントラインの外まで移動した空がゆっくりドリブルを始める。

 

「(今度こそ、止める!)」

 

腰を落とし、気合を入れてディフェンスに臨む竜崎。

 

「…」

 

空は3度ボールを突き…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

4度目でクロスオーバーで仕掛ける。

 

「…くっ!」

 

全神経を集中していたのにも関わらず、空に横をあっさり抜けられ、思わず声を上げる竜崎。

 

 

――バス!!!

 

 

慌てて空を追いかけるも、後ろに抜かれた空に追いつける事は出来ず、空は悠々とレイアップを決めた。

 

「(フェイクにかかったわけじゃないのに…、この人、スピードだけじゃない、アジリティーも桁違いだ!)」

 

今のワンプレー、竜崎は空の動きを予測し、対応しようとした。だが、動き出してから最高速に達するまでが速すぎる為、先読みしてもなお、止める事が出来なかった。

 

「これで2本目。次、始めようぜ」

 

そう言って、空がボールを放る。

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

攻守が切り替わり、1ON1が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!」

 

強引に切り込んでレイアップに行った竜崎だったが、態勢に入った瞬間、空にボールを叩かれる。

 

続いて、空のオフェンス。

 

「(この人を止めるには次のプレーだけじゃない、動き出しのタイミングまでドンピシャで予測出来なきゃ今の俺じゃ止められない。読み切るんだ!)」

 

今度こそは気合を入れ直す竜崎。空の一挙手一投足に注意を払う。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

「(…1、…2、…ここだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

3度目で空が動く。読みが的中した竜崎は遅れる事なく空に並走する。

 

「おっ」

 

空の動きに対応出来た事に天野が声を上げる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後、空がバックロールターンで反転。竜崎の逆を付く。同時にシュート態勢に入る。

 

「…くっ、まだだ!」

 

何とかこれに対応し、ブロックに飛ぶ竜崎。

 

「…あっ」

 

ここで2人の勝負を見ていた帆足が声を上げる。ブロックに飛んだ竜崎。だが、空はフェイダウェイで後ろに飛びながらシュート態勢に入っていた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

竜崎のブロックをかわした空がミドルシュートを決めた。

 

「あかんな。空坊はあれで修羅場を潜っとるからのう。実力以上にこの差が大きいで」

 

高校に進学してから夏と冬でキセキの世代と戦った経験に加え、ジャバウォックともフルに戦った空。帝光中出身の竜崎ではあるが、過ごした密度の差によって、実力以上の差が出てしまっている。

 

ボールが竜崎に渡り、3本目の竜崎のオフェンスが始まる。

 

「(このスピードと瞬発力は桁違いだ。多少逆を突いたくらいじゃ追いつかれる。とにかくこの人の裏を掻かないと…!)」

 

パワーやスピード、身体能力に頼ったプレーでは分が悪い。とにかく手数を出す事に決めた竜崎。

 

「…」

 

ボールを持って左右に振る。右…と見せかけて左…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

と見せかけて右から切り込む竜崎。

 

「ととっ…」

 

僅かに不意を突かれる空。

 

「(この程度の崩しじゃシュート態勢に入る頃には追いつかれる…、だから…!)」

 

ボールを掴んでシュート態勢に入る。これに空が対応しようとする。

 

「っ!?」

 

だが、竜崎はシュートには行かず、小さなポンプフェイクを入れた。空はこれにかかり、ギリギリで気付いて飛ばなかったものの、両腕を上げて膝を伸ばしてしまった。

 

「(かかった! これなら決められる!)」

 

フェイクにかかったのを確認し、改めてシュート態勢に入る竜崎。もはやブロックに飛べる態勢ではないのでシュートが決まるのを確信する。

 

「フェイクにかかりおったな。あれじゃ、もう止められへん。…並みの奴ならのう」

 

「ちいっ、けど、まだまだ!」

 

伸ばした膝を曲げ、再度ブロックに飛んだ。

 

「空坊のスピード、瞬発力、反射速度は尋常じゃあらへんねん。普通ならまず追い付けんタイミングでも空坊なら…」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「追い付いてまうねん」

 

「なっ!?」

 

ボールが手から放れた瞬間、下から伸ばされた空の手にボールが当たる。

 

「(あり得ない…。フェイクであれだけタイミングを外されてブロックが間に合う訳…)…くっ、まだだ!」

 

ボールは空の手に当たって真上へと跳ねた。コートに着地した竜崎はボールを確保すべく飛びついた。

 

「(ボールを確保したら1度距離を取って仕切り直しだ)」

 

リバウンドに飛んだ竜崎の両手にボールが収まる……直前…。

 

「ととっ、やらねえよ」

 

竜崎の両手を空の右手が追い越し、先にボールを奪い取った。

 

『うぉっ! スゲー瞬発力だ!』

 

フェイクにかかって尚ブロックをし、後にリバウンドに飛んだにも関わらず先のボールを触れてしまう瞬発力に1年生達が驚愕する。

 

「神城のブロックをかわすのは至難の業だ。去年の夏、自分より10㎝も高い、五将の実渕の天のシュートに、距離を取ってしかも足がコートに離れてからブロックに飛んで間に合うくらいだからな」

 

松永が空の恐ろしさを口にする。

 

「せやな。空坊から点取るには、後出しで追い付けん速さで仕掛けるか、空坊が届かへん高さから放るか、単純にパワーで押し通すか、未来を読んで完全な逆を突くか、や」

 

続いて、天野が解説をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

4本目の勝負は空が確実に決め、竜崎がクイックリリースからのスリーで不意を突いたが、リングに嫌われ、失敗する。

 

そして5本目、空のオフェンス。

 

「…」

 

ゆっくりドリブルを続ける空。

 

「(止める! 1本だけでも!)」

 

これまで1度も止める事が出来ていない竜崎。せめて1本だけでもと気合を入れ直す。

 

「…フー」

 

「っ!?」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一息吐き、仕掛ける。タイミングを読み切った竜崎はこれに対応。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

空、直後に急停止し…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ロッカーモーションで緩急を付け、再度切り込んだ。切り込んだのと同時に空はボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「抜いた!」

 

「いや、まだや」

 

「まだだぁ!」

 

空とリングの間に竜崎がブロックに現れた。

 

「タイミングはバッチリだ。止めたか?」

 

「…」

 

タイミング良くブロックに現れた竜崎を見て、帆足が予測する。だが、大地は無言でそれを見つめている。

 

「っ!?」

 

ここで、竜崎が目を見開く。

 

「(た、高い! 身長なら俺の方が高いはずなのに…!)」

 

ブロックに飛んだ竜崎。だが、ボールを掲げて飛んだ空の右手が、竜崎のさらに上へと伸びていく。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのまま空は竜崎の上からボールを持った右手をリングに叩きつけた。

 

『うおぉぉぉっ、スゲー!!!』

 

空のワンハンドダンクが決まると、1年生達が歓声を上げた。

 

「…」

 

唖然とする竜崎。

 

「これで5本目。俺の勝ちだな」

 

ニコッとして告げる空。

 

「っしゃっ、さすが神城だぜ」

 

完全勝利を決めた空を見てガッツポーズをする菅野。

 

「性格悪いやっちゃなぁー」

 

そんな菅野を見て呆れる天野。

 

「なかなか楽しめたぜ」

 

そう言って、その場を後にする空。

 

「待ってください!」

 

「?」

 

空を呼び止める竜崎。

 

「あの、勝負は俺の負けですけど、このまま終わったら悔しいんで、もう少し付き合ってもらってもいいですか?」

 

ボールを拾って頼み込む竜崎。そんな竜崎を見て空はニコリと笑い…。

 

「いいぜ。気が済むまで付き合ってやるよ」

 

快く了承したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

それから何度となく1ON1を繰り返す空と竜崎。やはり、2人の力の差は大きく、竜崎は1度も決める事も止める事も出来なかった。そして…。

 

 

――バス!!!

 

 

竜崎を抜きさった空がレイアップを沈めた。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

体力を使い切った竜崎が息を切らしながらその場で大の字で倒れ込んだ。

 

「…よう、満足したか?」

 

ボールを人差し指で器用に回しながら空が竜崎に尋ねる。

 

「ハァ…ハァ…、はい。……ありがとう…ございました…」

 

呼吸を荒げながら竜崎は空に礼の言葉を述べた。

 

「勝負したけりゃ、いつでも受けてやるからよ、またやろうな」

 

笑顔で竜崎に告げ、空はその場を後にしていった。

 

「ハァ…ハァ…、マジでバケモンだ。…あれだけ練習をして、あれだけ1ON1をしたのに…、平然としてるなんて…」

 

もはや立ち上がる事も出来ない竜崎。平然としている空を見て驚きを隠せないでいた。

 

「…あの人、本物だ。あの人がいるなら、勝てるかもしれない…。ここ(花月)に来て、ホントに良かった…」

 

体育館の天井を見つめながら、竜崎はポツリと呟いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「お疲れさん」

 

そう言って、天野が空にタオルを放った。

 

「ども」

 

タオルを掴んだ空が礼を言って汗を拭い始めた。

 

「で、どうやった? 期待のルーキーは」

 

「まさに期待どおりでしたよ。何度かヒヤリとした場面もありましたし」

 

天野の問いに、空が満足気に答えた。

 

「それに度胸もありますし、シックスマンとしてはうってつけだと思いますよ」

 

「確かにのう。…それと、気付いとったか? あいつ――」

 

「ええ、俺の事、試してましたね」

 

空がタオルを肩に掛ける。

 

「何や、気付いてたかんか。あの1年坊、お前の実力と主将としての器を計りよった」

 

天野が大の字で倒れ込む竜崎に視線を向けながら言う。

 

先輩であり、このチームの主将である空に1ON1を挑む事で実力を計り、挑発とも取れる発言をして主将としての器をも計った。

 

「全国の舞台で戦おうと思うなら、あのくらい生意気なくらいがちょうどいいですよ」

 

「ま、物怖じせんあの度胸は買いやな。……にしても、あいつを見とると、去年の誰かさんを思い出すのう」

 

懐かしみながら天野がポツリと呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『三杉さん! もう1本! もう1本お願いします!』

 

『全く、あれだけ負かされてまだ挑む度胸があるとはな。…いいだろう。何度でも来いよ』

 

呆れながらも不敵な笑みを浮かべながら挑戦を受ける三杉。

 

『もちろん、勝つまで何度でも挑戦してやる!』

 

同じく不敵な笑みを浮かべながら空は三杉に挑んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「そういや、俺も何度も三杉さんに挑んでボロカスにやられましたね」

 

1年前の自分を思い出し、苦笑いをする空。

 

「去年の主力が全員残っていますし、いい新人も加入しました。高校最後の今年、全国の頂点、取りますよ」

 

「俺は最後やけど、お前らは後1年あるやろ?」

 

空の言葉に引っ掛かりを覚えた天野が怪訝そうな表情で尋ねる。

 

「高校の試合でキセキを冠する者達と戦えるのは今年で最後です。来年なんてどうでもいい。絶対に今年取ります」

 

「…なるほど、そういう事か。そら是非とも頂点掴んで有終の美を飾らんとのう」

 

言葉の意味を理解した天野は。笑みを浮かべたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

季節は春。4月を迎え、新たに新入生が加わり、新体制を迎えた花月。

 

迫るインターハイ県予選に向けて、猛練習を積んでチームを熟成させていく。

 

そして、キセキの名を掲げた全国の猛者達も、全国制覇に向けて、動き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

東京都、誠凛高校…。

 

「そこ! 足を止めないで!」

 

「はい!」

 

監督、リコの激が飛ぶ。

 

「行くぞ、火神!」

 

「来い、池永!」

 

ボールが新海から池永に渡り、池永が火神に1ON1を仕掛ける。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

池永がクロスオーバーからバックロールターンで火神の横を抜ける。そこからリングに向かって跳躍する。

 

「まだ抜けてねえぞ!」

 

横を抜かれた火神だったが、すぐさま追いつき、リングと池永の間にブロックに飛ぶ。

 

「はっ! あめーよ!」

 

ボールを掲げた池永は1度ボールを下げ、火神のブロックをかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

かわした所でもう1度ボールを構え、リバースレイアップ…ダブルクラッチで得点を決めた。

 

「っしゃぁっ! どうだ!」

 

「はっ! やるじゃねえかよ池永」

 

拳を握って喜びを露わにする池永。そんな池永を素直に称える火神。

 

「スゲーなあいつ、火神から点取りやがった」

 

今の勝負を見ていた降旗が思わず声を出す。

 

「1年前は全く勝負になってなかったけど、今では10回やり合えば1~2回くらい池永が決められるようになってきたし、急成長してるよな」

 

火神は今やキセキの世代と同格の選手であり、そんな火神から1ON1で得点を奪うのは至難の業である。

 

「何より、今までは試合に出れば自分勝手なプレーばかりしてたけど、それもなくなったよな」

 

今の池永を見て河原が言う。

 

これまで、自由気まま、自分勝手なプレーを繰り返し続けた池永。昨年の冬の都予選敗退も、それが1つの要因であった。だが、その敗退と卒業した前主将、日向の言葉を受けた池永は心を入れ替え、新人戦では別人かのようにチームプレーに従事していた。

 

「ここ最近になってさらに伸びたよな。先輩への口の利き方は相変わらずだけど…」

 

福田も池永の心身の成長を実感していた。

 

「おめーらそんな呑気に人の品評してる場合か?」

 

「「「あ、景虎さん!」」」

 

そんな3人の前に、今日、たまたま時間に余裕が出来て体育館に足を運んでいた監督、リコの父親である景虎がやってきた。

 

「リコ達の代がいなくなって最上級生になったからってうかうかしてられねえぜ。活きの1年が入ってきているし、何より、2年生もかなり力を付けてきているからな」

 

そう言って、景虎がコートを指差す。そこには、巧みにボールをキープしながらゲームメイクをしている新海。ゴール下で立ち塞がり、インサイドを死守する田仲の姿があった。

 

「火神と、新海、池永、田仲は現状、スタメンの頭角線上にいる選手だ。お前らこのままじゃスタメンはおろか、ベンチ入りすら怪しくなるぜ?」

 

ニヤっと笑みを浮かべながら3人に告げる景虎。

 

「「「っ!?」」」

 

その言葉を受けてドキリとさせる3人。

 

「俺、シュート練習してくる!」

 

そう言って、河原がその場を走り出す。

 

「俺も、インサイドの強化をしないと!」

 

「走り込みをして足腰を鍛え直さないと!」

 

続いて福田、降旗が走っていった。

 

「ハッハッハッ! そうでなくちゃな」

 

その光景を見て満足そうに笑う景虎。

 

「(これまでは明確な目標はあったが、競争が少なかった。去年の敗退の原因はそれと言ってもいい)」

 

誠凛バスケ部は、創部してから一貫して全国制覇を目標にしてきた。2年前の冬に創部2年での全国制覇を成し遂げて以後、目標を成し遂げてしまった事により、何処か気が緩んでいた。

 

「(単純な総合力は去年以上とも言ってもいい。それに、まだまだ伸びしろもある。後は、インハイ予選まで何処までチームを熟成させられるか、だな…)」

 

誠凛の選手達を見つめながら景虎は考えたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

同じく東京、桐皇学園高等学校…。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

体育館内にバッシュのスキール音が鳴り響く。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

ボールを持った福山が桜井を抜きさる。そのままドリブルを続け、もう1人抜きさる。

 

「らぁっ!」

 

ここでボールを掴んでリングに向かって跳躍する。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「させるわけねえだろ」

 

ボールを持った右手がリングに叩きつけられる直前、青峰がボールを弾き飛ばした。ルーズボールを今吉が拾い、フロントコートに走った青峰の縦パスを出す。

 

「行かせねえぞ!」

 

スリーポイントラインの直前で青峰に追いついた福山が青峰の前に立ち塞がる。

 

「てめえじゃ俺は止めらんねえよ」

 

左右に切り返しながら揺さぶりをかける青峰。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

急加速をして一気に福山の横を抜ける青峰。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままボールをリングに叩きつけた。

 

「ちっくしょう! 次だ! 次は絶対止めてやる!」

 

悔しさを露わにする福山。今度こそはと意欲を燃やす。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

「紅白戦は終了です。皆さん、水分補給を行ってください」

 

桐皇の監督、原澤が笛を吹き、指示を飛ばす。指示を受けた桐皇の部員達は各々水分補給を行う。

 

「青峰君」

 

「あん?」

 

水分補給を行っている青峰に原澤が話しかける。

 

「福山君はどうですか?」

 

「ゴクッ…ゴクッ……ま、いいんじゃねえの? 全国レベルでも止められる奴はそうはいねーと思うぜ」

 

「そうですか。…では、ディフェンスの方はどうですか?」

 

本命の質問であるディフェンスについて聞いた。

 

今年、主将に任命された福山。全国上位クラスのオフェンス力を誇る一方、ディフェンスに関してはザルと言っても過言ではない。昨年のウィンターカップでもそれが浮き彫りとなり、現在に至るまでディフェンスの強化に努めていた。

 

「話にならねえ」

 

ボトルを置いた青峰が言い放つ。

 

「…けどまあ、前よりはマシになったんじゃねえの? と言っても、ミジンコがアメンボになったくらいだけどな」

 

「…分かりました」

 

ひどく抽象的ではあるが、一応は褒めている青峰の言葉に、福山が成長を窺う事が出来た。

 

「…ふむ」

 

顎の手を当てて考え込む原澤。

 

昨年のスタメンが4人も残る今年。だが、インサイドの要であった若松が抜けた事により、その穴を埋めなければならない。戦力確保の為、インサイドを担う新戦力を確保したが、当然ながら、若松の穴を埋めるには至らない。

 

「…考えても仕方ありませんね」

 

ないものねだりをしても仕方がないので、原澤は現戦力の強化をしていこうと決めた原澤。

 

 

――ザシュッ!!! ザシュッ!!!

 

 

シューティング練習を続ける桜井。

 

 

――ダムッ!!! …ダムッ!!!

 

 

ドリブル練習をする今吉。

 

「おらぁっ、青峰! 1ON1付き合えよ」

 

「っせーな、何度やっても同じに決まってんだろうが…」

 

福山に指名された青峰。嫌々ながらも1ON1に付き合った。

 

「みんな、張り切ってますね」

 

「ええ。良い傾向です。全国制覇を目指すには、このくらいやらなければ成し遂げられませんよ」

 

原澤、マネージャーの桃井は、自主練習を続ける桐皇の選手達を見て頷く。

 

「今年こそは、頂点を取らなければいけませんね」

 

全国制覇を目指して練習を積む選手達を見て、原澤も気合を入れたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

同じく東京、秀徳高校…。

 

既に練習を終えたバスケ部。だが…。

 

 

――ダムッ!!! ダムッ!!!

 

 

カラーコーンを並べてドリブル練習をする緑間。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

器用にカラーコーンをかわし、ジャンプシュートを決めた。

 

「…ふぅ」

 

決まったのを確認し、腕で汗を拭う。

 

「ほれ」

 

そんな緑間にタオルを差し出す高尾。

 

「気合充分なのは分かるけどよ、オーバーワークには気を付けてくれよ」

 

猛練習を積む緑間に高尾が窘めるように言った。

 

「…まだだ。この程度では足らないくらいなのだよ」

 

だが、それでも緑間はやめようとしない。

 

ウィンターカップ終了後、緑間は、中谷に、スモールフォワードへのコンバートを提案した。昨年の花月との試合終盤。積極的に切り込んで得点を重ねた事で思う所があり、今では以前から日課であるシューティング練習に加え、ドリブル練習やインサイドプレーの練習も行っている。

 

「けどま、良い傾向だよな。真ちゃんに触発されて居残り練習する奴も増えたしな」

 

高尾が辺りを見渡すと、個人練習や、1ON1等を行っている部員達が大勢見られる。昨年までは、スタメンと1部のレギュラーくらいであったが、今年はレギュラーだけでなく、1軍のほとんどが自主練を行っている。

 

「…騒がしくて練習に身が入らないのだよ」

 

訝しげな表情をする緑間。

 

「まあまあ、あれでも真ちゃんに気を使ってんだぜ? 感謝しろよ。俺が真ちゃんの邪魔にならないように言い聞かせたんだからな」

 

自主練を始めるにあたって、高尾は、緑間の自主練の邪魔にならないよう、部員達に自主練スペースには気を遣うよう、指示を出していた。

 

「…ふん」

 

それを聞いて、緑間は照れ隠しするように鼻を鳴らす。

 

「今年は俺達最後の年だし、先輩達の悲願の全国制覇、取らないとなー」

 

淡々と宣言する高尾。だが、その表情は真剣なものであった。

 

「当然なのだよ。もう敗北はいらない。夏も冬も、勝つのは俺達なのだよ」

 

同じく、緑間も宣言したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

京都府、洛山高校…。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

「スピードを緩めるな! 正確にパスを出せ!」

 

全速で走りながらボールを回し続ける洛山の選手達。

 

「正確に出せと言ってるだろう! 練習で出来なければ試合でも出来んぞ!」

 

「はい!!!」

 

監督、白金が激を飛ばすと、選手は大声で返事をした。

 

「そこまで! 1分休憩!」

 

洛山選手達はその場でゆっくり歩きながら呼吸を整え始める。

 

「…」

 

練習風景を思い出しながら白金は考え込む。

 

新体制を迎えた洛山。だが、去年までの主力であった無冠の五将である実渕、葉山、根武谷の3人が抜けた事により、戦力ダウンが否めない洛山。だが、白金は全く悲観していなかった。

 

「休憩時間は終わりだ。行くぞ。次はシャトルランだ」

 

『はい!!!』

 

主将、赤司が指示を出すと、部員達が大声で応え、動き出す。

 

洛山の現状を誰よりも理解しているのは選手達であり、抜けた3人の穴を埋める為、選手達は日々、練習を積んでいた。

 

「(昨年の主力が3人も抜けたが、これが選手達に危機感を与え、より一層練習に打ち込むきっかけとなった)」

 

選手達1人1人が赤司を中心に、先に迫るインターハイに向けて練習に打ち込んでいる。

 

「(今年も昨年と同等…いや、それ以上のチームになる。これで優勝出来なければ、私の責任だな)」

 

選手達の練習風景を見ながら、白金は決意を固めたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

秋田県、陽泉高校…。

 

現在、紅白戦が行われている。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ボールをとある選手がキープしている。その選手を、陽泉の選手達が注目している。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

一気に加速し、ディフェンスをしていた木下の横を高速で駆け抜ける。フリースローラインを僅かに越えた所でボールを掴んでリングに向かって跳躍する。

 

『た、高い!』

 

その選手は、周囲が驚く程の高さまで到達する。そこから一気にボールを持った手をリングに叩きつける。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「させないよ」

 

だが、その直前、紫原によってブロックされた。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

「そこまでだ! 次にグループ、入れ!」

 

今、紅白戦を行っていた2チームがコートから出て、次の2チームがコートに入る。

 

「マサカ、ブロックサレルトハオモワナカッタ」

 

先程の選手がカタコトの日本語で喋る。

 

彼は、今年、セネガルから陽泉高校に留学してきた、アンリ・ムジャイ。陽泉高校は、外国からの留学生を積極的に受け入れており、特に、スポーツ交流が盛んに行われており、陽泉高校の運動部には1人以上の海外からの留学生が存在する。

 

バスケ部には去年まで、劉偉が在籍していた。彼が卒業し、新たにバスケ部にやってきたのがこのアンリ・ムジャイである。セネガルとの気候の違いに未だに慣れていないが、持ち前の陽気さによってチームに馴染みつつある。

 

「別にー、あのくらい普通だし」

 

褒められた紫原だったが、特に表情変えることなく返す。

 

「ソレニシテモ、キミトゴカクニタタカエルセンシュガマダ5ニンモイルナンテ。コノクニハスゴイナ」

 

先程自分をブロックをした紫原を見て、その紫原と同格の選手が5人もいる事に驚きを隠せないアンリ。

 

「タイセンスルノガタノシミダ」

 

そんな逸材と試合をするのを楽しみにするアンリ。

 

「やっと怪我も治ってあのめんどくさい筋トレも終わったし、今年は全部捻りつぶして絶対優勝してやる」

 

紫原にとって最後の年になる今年。有終の美を飾る為、意欲を燃やすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

神奈川県、海常高校…。

 

 

――ざわざわ…。

 

 

海常の選手達がざわつき始める。

 

それは、練習終了後の事である。各々が自主練を始めようとした時である。

 

『黄瀬君! ワシと勝負してくれんかのう!』

 

1人の男が黄瀬に勝負を挑んだのだ。

 

この男は4月に海常高校に3年生に転校してきた三枝海。新1年生が入学するのと同時にバスケ部にやってきた男である。3年次にやってきた三枝に部員達は物珍しさを覚えたが、一緒に練習を励んでいた。

 

新入生と三枝がやってきて数日が経過したある日、三枝が黄瀬に勝負を挑んだ。1ON1形式の勝負で、先に5本先取した方の勝ち。

 

『良いッスよ』

 

黄瀬は快く勝負を受けた。

 

勝負をした結果、黄瀬が勝利した。誰もが黄瀬のワンサイドゲームで終わる予想していたのだが、結果は5-1で黄瀬の勝利。だが、黄瀬は何本か三枝にブロックされていたし、決められたのは1本だが、他にも何本か危うい場面もあった。決して黄瀬の完勝ではなかった。

 

『ガッハッハッ! さすが、キセキの世代じゃのう! 平面じゃ敵わんのう。今度はこっちの土俵で付き合ってはくれんかのう』

 

不敵な笑みで言う三枝。三枝の言う勝負とは、ゴール下限定の1ON1である。

 

『構わないッスよ。それでも勝つのは俺ッス』

 

先程と同様、快く勝負を受け、2人は再び勝負を始めた。そして、2人の勝負に決着が着いた。

 

「嘘…だろ…」

 

「黄瀬さんが…負けた…」

 

部員達が信じられないと言った表情で呟く。

 

平面での1ON1では黄瀬に軍配が上がったが、ゴール下限定の1ON1では三枝に軍配が上がった。三枝はそのパワーを生かして黄瀬を圧倒し、5-3でこの勝負を制した。

 

「良い勝負じゃった! また頼むのう!」

 

「そッスね。このまま終わったら悔しいッスから、またお願いするッスよ!」

 

少々悔しかったのか、黄瀬は唇を尖らせながら再戦を約束したのだった。

 

「…ふう」

 

2回の勝負を終えた黄瀬がタオルで汗を拭う。

 

「黄瀬。最後の勝負、手を抜いたのか?」

 

黄瀬に監督の武内が近づき、尋ねた。

 

「そう見えたッスか?」

 

その質問に黄瀬はそう返した。

 

黄瀬は、今の勝負、パーフェクトコピーこそ使わなかったが、それ以外は決して手を抜かなかった。それは見ていた武内も理解していた。

 

「…」

 

ここで武内は考える。この先、三枝を試合で使うかどうかを…。

 

昨年、海常は、黄瀬のワンマンチームと揶揄され、成績も決して満足するものではなかった。それを受けて、武内は既存の部員達を徹底的に鍛え上げた。結果、バックラインに関して言えば、城ヶ崎中からやってきた小牧を筆頭に全国でも戦える程に成長した。だが、インサイドは不安を残す結果となった。

 

同じく城ヶ崎中からやってき末広も海常に入って成長したが、技巧派である彼ではインサイドを担うには少々不安が残る。真1年生にリクルートをかけたが、即戦力を担えるインサイドプレーヤーをリクルートする事は出来なかった。

 

以上の事から、戦力的な事を考えれば迷わず三枝を試合で使うべきなのだが、ここで頭を悩ますのが、体育会系の色が強い海常高校の風潮である。三枝をここでスタメンで使えば、入部からここまで頑張ってきた2、3年生からすれば面白くないと感じる者も出てくるだろう。チームの輪を壊すリスクを負ってまで三枝を使うべきか…。

 

「…黄瀬、お前の意見が聞きたい。奴を、試合で使うべきか?」

 

黄瀬に意見を求める。黄瀬も2年もこのチームに属しているので、チームの事情や色を含めて良く理解している。

 

「全国で優勝を目指すなら、使うべきッス」

 

尋ねられた問いに、黄瀬は迷わず答えた。

 

「…」

 

武内は少し考える素振りを見せ…。

 

「…末広」

 

となりに立っていた末広に声を掛けた。

 

「はい。俺は今日から、パワーフォワードにコンバートします」

 

意図を理解した末広は、尋ねられるより前に答えた。

 

「…うむ、頼む」

 

その言葉を聞いて、武内は頷いた。

 

結論から言うと、武内が危惧した不安は杞憂に終わり、三枝はその実力と人柄でチームを認めさせ、海常に馴染んでいったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

4月となり、各々が1学年進級し、さらに新1年生を迎えた。

 

新体制となり、各校が全国の頂点を目指し、猛練習を始める。

 

こうして、キセキの世代にとっての最後の1年の激闘が、始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





この話にて、新たにオリキャラを投入しました。

アンリ・ムジャイ。

身長 193㎝
体重  89㎏

陽泉高校に留学してきた、セネガルからの留学生。学年は2年。まだ、日本に来たばかりなので、日本語はカタコト。プレースタイルは後程…。


菅野肇

身長 177㎝
体重  66㎏

花月高校の3年生。上下関係に厳しい。花月で2年間鍛えられているので、基礎体力は高い。

という事で、キセキの世代のラストイヤーにして、この二次の新章的なものが本格的に始まりました。大雑把な展開は思いついているのですが、試合描写に不安が残っています…(^-^;)

今一度、原作及び、他のバスケ漫画や、バスケの試合動画を見直さなければ!

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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