黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

思いついたまま、勢いで書きました…(^-^;)

それではどうぞ!



第89Q~追う者、旅立つ者~

 

 

 

とある、雑誌記者の話…。

 

月刊バスケットマガジン…通称月バスと呼ばれるバスケットボールを専門とするスポーツ雑誌。その部署へ、1人の新人が配属された。

 

配属された当初は、雑用等の仕事を任されるばかりで、記事を書かさせてもらう事はおろか、取材にすら同行させてもらえず、鬱屈とした日々を過ごしていた。

 

だが、これはこの部署に限らず、新人の通例行事であるので、いつか記事を書かさせてもらう事を夢見て、日々の雑用業務をこなしていた。

 

この部署に配属されて数ヶ月が過ぎた頃…。

 

「新人! これから取材に行く。補佐として付いてこい」

 

とあるベテラン記者から声がかかる。

 

「っ!? はい! すぐに準備します!」

 

突然の指名。待ちに待った取材に、興奮を覚えながら撮影の機材を纏め、ベテラン記者の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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電車を乗り継ぎ、やってきたのは1つの体育館。ここで行われている試合の取材にやってきた。

 

 

――全国中学校バスケットボール大会。

 

 

会場に入り口に大きく掲げられた看板がそびえ立つ。

 

「行くぞ」

 

一言促され、会場の中に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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会場に入ると、コートでは今まさに試合が行われようとしていた。

 

 

――帝光中学校 × 星南中学校

 

 

舞台は決勝。

 

中学生の頂点をかけた試合が、始まろうとしていた。

 

早々に記者の撮影スペースに進み、カメラをセットするベテラン記者とそれを補佐する新人。両校の選手達が礼をしたところでカメラのセットが済んだのと同時に試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「(退屈だなぁ…)」

 

念願の取材の同行。…だが、新人は既に退屈していた。

 

社会人やプロに限らず、近年ではキセキの世代という10年に1人の逸材が現れた事により、学生バスケも今やサッカーや野球に並ぶ程の人気スポーツとなっていた。

 

だが、キセキの世代は今年から高校に進学している為、彼ら不在の全中大会。資料映像やプライベートで生で彼らの試合を見た事もある新人からすると、全中の決勝戦とはいえ、レベルが低くて退屈を覚えてしまった。

 

試合はこれから第3Qが始まろうとしている。だが、周囲の記者達の中でカメラのファインダーを覗いている者はいない。元々キセキの世代不在の全中大会の興味が薄かったのと、既に会社に提出する為の写真は撮り終えているのだろう。周囲の記者達は試合よりも記者同士の雑談で盛り上がっていた。

 

「…」

 

だが、唯一、同行を指名したベテラン記者だけが真剣な表情でファインダーを覗いていた。

 

「……新人」

 

突如、ファインダーを覗いたまま新人に話しかける。

 

「星南の5番と6番。よーく見ておけ」

 

それだけ告げられ、新人は視線をそっちに向ける。

 

星南中の中で、唯一帝光の選手と対等に戦えている選手である。だが、新人からすると、ベテラン記者が言う程の選手とは思えなかった。

 

身長は180㎝程度。確かに身体能力は高い、なかなかのテクニックを有しており、高校生レベルが相手でも通用する選手である。だが、その程度だ。キセキの世代と比較してしまうとその差は天と地程にも感じた。帝光中の6番の方がまだ派手で目立っていたくらいである。

 

ベテラン記者はそう告げて以降、カメラのファインダーに釘付け。その先は、星南中の5番と6番に向いている。

 

点差はこの時点で20点近く開いている。正直、ここからの番狂わせなどあり得ないと考えたが、言われたと通り、新人は星南中の5番と6番を目で追っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「……すごい」

 

観客の大歓声を受けながら新人記者がポツリと囁く。

 

ベテラン記者に促され、言われた通り星南中の5番と6番に注目した。第3Qが始まると、何かに目覚めたかのように帝光中を圧倒し始めた。20点近くあった点差も第3Q終了時には2人の力によってひっくり返っていた。

 

「っしゃぁっ! ガンガン行くぜ!」

 

「ボールを下さい。突破します!」

 

5番と6番が個人技で帝光中を圧倒。帝光中も個人技主体の戦術から連携重視の戦術に切り替えるが、星南中は5番と6番が個人技で対抗。

 

「…(チラッ)」

 

辺りを見渡すと、先ほどまで雑談をしていた記者がカメラのシャッターを切っていた。それほどまでに2人の変貌ぶりに注目しているのだろう。

 

最後は5番のパスから6番のアリウープでトドメを刺し、星南中が全中大会を制した。

 

「…」

 

星南中の選手達が涙を流しながら抱き合い、勝利を喜びあっている。

 

「いいか新人。記者ってのはな、ファインダーを通して選手の才能と可能性を切り取るのが仕事だ。目先の天才ばかりに目で追ってちゃ、いい記事なんざ書けん」

 

「…」

 

「行くぞ。あの2人で特集記事の撮影に行くぞ」

 

「はい!」

 

カメラを持って移動を始めるベテラン記者。その後を、急いで荷物を纏めて追いかけていった。

 

「神城空、綾瀬大地か…」

 

新人記者は、星南中の5番と6番、2人の名前を、頭に刻んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

そして1年後…。

 

 

――パシャパシャ!!!

 

 

新人記者が夢中でカメラのシャッターを切る。カメラの先にいるのは、星南中の5番と6番、空と大地である。

 

高校に進学した2人。全中を制し、MVPと得点王を獲得した2人は当初、キセキの世代の新たなライバル候補として期待されていた。だが、2人の最初大会であるインターハイでキセキの世代を相手に手も足も出なかった事と、三杉誠也と堀田健という、新たな才能が現れた事により、その期待もなくなり、記者達の注目もなくなった。

 

だが、例の新人記者は全中以降、2人の姿を追っていた。キセキの世代の前ではただの凡人と周囲の記者が2人を切り捨てる中、新人記者は2人を追いかけ続けた。

 

「よう、取材が捗っているようだな」

 

2人を引き合わせてくれたベテラン記者が声を掛ける。

 

「はい。あの2人、今は確かにキセキの世代には通用していませんけど、あの天才達に抗えてはいます。少しずつではありますが、対応し始めていました。将来が楽しみです」

 

「ほう」

 

生き生きとしながら語る新人記者を見て、ベテラン記者は嬉しそうに返事をする。

 

「周りから何を言われようと僕は2人を追いますよ。いつか必ず、次世代のキセキを記事にします!」

 

そう宣言する新人記者。

 

「次世代のキセキ?」

 

新人記者から飛び出した単語に、ベテラン記者が尋ねる。

 

「2人の名称です。安易ではありますが、キセキの世代の次の世代から現れたので次世代のキセキです」

 

嬉しそうに語る。新人記者。

 

「…」

 

それを聞いて何か考える素振りをするベテラン記者。

 

「書いてみるか?」

 

「えっ?」

 

突如、そう尋ねられ、キョトンとする新人記者。

 

「あの2人の記事、書いてみるか?」

 

「良いんですか!?」

 

突然の申し出に驚きを隠せない新人記者。入社して2年足らずの記者が記事を書くなど、異例の事である。

 

「でも、採用してくれますかね? 僕が書いた2人の記事なんかを…」

 

心配そうに尋ねる新人記者。現状、2人はキセキの世代に遠く及ばず、記者及び、編集局の間ではもはや感心は皆無であるからだ。

 

「あいつらはすぐに頭角を現す。早ければ冬のウィンターカップにでもな。俺が編集を説得してやる。やってみろ」

 

「っ! はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

それから、新人記者は空と大地の記事を書いた。だが、その記事が採用される事はなかった。やはり、2人のネームバリューが低すぎて記事ならない事が主な理由であった。

 

だが、それでも新人記者は記事を書き続け、何度もデスクに提出し続けた。

 

そして、その年の最後の月の12月に行われたウィンターカップ。三杉と堀田のいない花月の注目度は低かった。だが、秀徳戦でまさかの番狂わせの勝利を掴み取り、続く準々決勝で桐皇を相手に惜敗。キセキの世代のエースである青峰大輝を相手に空が互角に渡り合った事で再びその名を上げた。

 

かくして、早い段階で2人を取材していた新人記者の記事が、ベテラン記者の説得もあり、月バスで特集が組まれる事になった。その記事で、空と大地をこのように綴られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――次世代のキセキと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

3月下旬…。

 

「さむ…!」

 

終業式を終え、花月高校での1年が終わった。本日はその兼ね合いで部活動がなく、空は下校していた。

 

「しっかし、部活がねえと暇だな。自主トレするにしてもどうっすかなぁ…」

 

海の砂浜で走り込みでもするか、それともバスケのコートがある公園で打ち込みでもするか考えていると…。

 

「……ん?」

 

校門を抜けると、空の視線に1人の女子が映った。

 

「(…誰だ? 学校じゃ見かけねえ顔だ。他校の生徒か?)」

 

その女性は見た所、空と同年代。だが、空が花月高校で見た事がなかった。

 

「(女にしては結構でかいな。170㎝はあるんじゃねえか?)」

 

高い身長に、神を後ろで1本に纏めたポニーテール。顔立ちも可愛らしい、同じ学校にいたなら間違いなく注目されていた事だろう。

 

その場で止まって女子に注目していると、その女性が空の視線に気付き、2人の視線が合う。

 

「(…ニコッ)」

 

視線が合うと、女子はニコリと笑顔を浮かべ、空の下に駆け寄ってきた。

 

「こんにちは!」

 

「ん、あー、こんにちは」

 

突然、元気よく挨拶された空は、その勢いにやや圧倒されるも、挨拶を返した。

 

「あのあの! 神城空君、だよね!」

 

「えっと……何処かで会った事があったっけ…?」

 

名指しされ、戸惑う空。相手は空を知っているようだが、空にはその女子に会った覚えがなかったからだ。

 

「フフッ、知ってるよぉ。去年のインターハイで優勝、年末のウィンターカップで、キセキの世代のエースの青峰大輝さんと互角に戦った神城空君! あの試合、ボクも見てたんだよぉ」

 

ビシッと指を指しながら説明する女の子。

 

「へぇ、あの試合見てたんだ」

 

そう説明されて頬を掻きながら僅かに照れを見せる空。

 

「とっっっってもかっこよかったよぉ!」

 

「お、おう…」

 

空の右手を両手で掴んでブンブンと上下に振る女の子。そんな女の子の勢いにさらに圧倒される空。

 

「と、ところで、誰か待ってたみたいだけど…」

 

「あっ! そうだった!」

 

目的を思い出してパッと空の右手から両手を放す女子。

 

「ねえねえ空君、姫川梢ちゃん知ってるよね? ボクね、彼女に会いに来たんだよ!」

 

「姫川に?」

 

「うん!」

 

「ちょっと待ってろ……えっと、名前は…」

 

「由香里。妃由香里、だよ」

 

「了解」

 

ポケットからスマートフォンを取り出し、電話をする。

 

「………出ないな」

 

電話をかけるも、一向に電話に出ず、もう一度かける。だが、やはり繋がらない。

 

「わりぃ、出ないわ」

 

「…そっか」

 

それを聞いて残念そうな表情をした。

 

「…」

 

寂しそうな表情で遠くを見つめる妃と名乗る女の子。

 

「…姫川とはさ、どういう関係なんだ?」

 

沈黙を埋めるように空が尋ねる。

 

「そうだね……ボクにとって梢ちゃんはね、ライバル…かな?」

 

「ライバル?」

 

妃の口から飛び出した思わぬ言葉に空が聞き返す。

 

「ボクが全力を尽くして戦えるのは梢ちゃんだけだった。2回だけだけど、梢ちゃんと戦えたあの試合は、ボクにとって一生の宝物なんだ」

 

懐かしむように語る妃。

 

「試合? ………あっ!」

 

ここで空は何かを思い出す。

 

「妃由香里。そうだ、何で今まで思い出せなかったんだ。そうか君が、中学女子バスケで有名だった2人の天才の1人…、女帝(エンプレス)、妃由香里」

 

「あはは、よく知ってるね」

 

恥ずかしそうに頬を掻く妃。

 

「いやいや、バスケやってる奴なら知らない方が珍しいだろ…」

 

呆れながら言う空。

 

妃由香里。女子中学バスケ界に現れた2人の天才の1人。彼女の偉業はまず、全中三連覇を成し遂げた事から始まる。彼女が在籍していた中学校。そのバスケ部に妃が入部してから引退するまで、その中学は公式戦無敗で終わった。帝光中とは違い、彼女1人の手によってそれを成し遂げた事が彼女の名を上げた。

 

だが、これは彼女にとってそれは伝説の始まりに過ぎなかった。

 

高校進学。彼女がどの高校に進学するか、全国の高校女子バスケ部が注目した。だが、彼女が選んだのは地元の高校だった。その高校は、決して強豪校というわけではなく、全国出場経験のない、実力で言えばせいぜい県の中堅レベルの高校であった。彼女の出身中学の生徒も多く進学する高校に妃は進学した。

 

その選択が、彼女をスカウトした全国の強豪校達の失望を生んだ。だが、その地元の高校に彼女が進学すると、瞬く間に全国大会出場を果たした。そしてその勢いのまま、優勝を果たした。

 

妃は、インターハイ、国体、ウィンターカップの三大大会の全てを優勝に導き、さらに、その全ての大会でベスト5、得点王、MVPを獲得。これは、キセキの世代ですらなしえなかった偉業である。

 

どれだけマークが集まろうと、どれだけ作戦を練ろうと、妃はこれを独力で突破してしまう。男に産まれていればキセキの世代のライバルになっていたという評価は今や、男に産まれていればキセキの世代ですら天才の称号を剥奪されていたと言う者がいる程である。

 

「俺も1試合だけだけど去年見たぜ。マジで凄かったよ。特にテクニックは、鳥肌が立ったよ」

 

「フフッ、ありがと」

 

「正直、高校でも君の相手になる奴なんていなかったんじゃないか?」

 

「…」

 

何気なく空がそう尋ねると、妃の表情が曇った。

 

「……高校に進学すれば、何か変わると思った。でも、高校でもボクが本気を出せる相手はいなかった」

 

「…えっ?」

 

「梢ちゃんだけだった。ボクが本気を出して、それでも勝てるかどうか分からなかった相手は…」

 

「…姫川が」

 

寂しそうな表情で語る妃。

 

「(そういえば、キセキの世代もそんな感じだったな…)」

 

ここで空は、中学時代に見たキセキの世代がまだ所属していた帝光中の試合を思い出した。彼らは、試合の勝ち負けではなく、誰が多く点を取れるかを競い合っていた。当時は対戦相手を蔑ろにした行為に見えた。

 

「(今に思えば、あれは、自分と対等に戦える相手がいなかったから、ああでしかバスケを楽しむ事が出来なかったんだな…)」

 

その当時は空はキセキの世代の試合ぶりに引っ掛かりを覚えていた。

 

「(俺ももし、キセキの世代がいなかったら…、身近に大地がいなかったら…、俺もどうなっていたか…)」

 

恐らく、バスケがつまらないものになっていただろう。新人戦の地方大会の決勝でも、最後、単独の突破を試みたら容易に出来てしまった。あの時、空は、5人抜きをした達成感以外で、自分を止める事が出来なかった失望もあった。故に、空には妃の言っている事も、当時のキセキの世代の事も少なからず理解出来た。

 

「だから、梢ちゃんに最後に会いたかった。ボクのライバルである彼女に」

 

「最後?」

 

その言葉に気にかかった空が思わず聞き返す。

 

「ボクね、アメリカに行くの」

 

「アメリカに?」

 

「うん。ボクの試合を見て、アメリカの高校から誘いがきて、それを受ける事にしたんだ」

 

「アメリカの高校から誘いが来るって、スゲーな」

 

素直に感心する空。だが、1度だけだが彼女の試合を見た事がある空からすれば当然とも思ったのだった。

 

「4月からアメリカの高校に通うの。そこでもっと上手になって、WNBAの選手になる。それが、ボクの小さい時からの夢だったから」

 

WNBA…、それはアメリカの女性のバスケットボールのプロである。

 

「…そうか、お前ならやれるかもな」

 

「空君はどうなの? アメリカに興味はないの?」

 

「興味はあるさ。俺もいずれはNBAのコートに立ちたい。…けど、その前にこの日本で倒さなきゃならない奴がたくさんいる。アメリカは、そいつらを倒してからだ」

 

不敵な笑みを浮かべながら言った。

 

「……そっか」

 

羨ましそうに妃は笑った。

 

そこから当たり障りのない会話を続ける2人。

 

「……っと、残念。もう時間がきちゃった」

 

徐に時計を見ながら残念がる妃。

 

「向こうには今日の便で出発だから、もう行かないと」

 

「もうか。姫川は…」

 

「会えなかったのは残念だけど、2度と会えないわけじゃないからね。いつになるか分からないけど、またその時にまた会いに来るよ!」

 

そう言って、妃はニコリと笑顔を浮かべた。

 

「そうか。…アメリカに行っても頑張れよ。応援するぜ」

 

「ありがと! それじゃ、バイバイ!」

 

空がそう声を掛けると、妃は荷物を持ち、大きく手を振りながらその場を後にしていった。

 

「…」

 

花月高校を後にする妃の背中を見送る空。

 

「………いいのか? このまま会わなくて」

 

その背中を見つめながら空が言う。

 

「…」

 

空が声を掛けると、校門の影から姫川が姿を現わした。

 

「…よく分かったね」

 

「これでも俺は司令塔だぜ? 視野の広さには自信がある。途中から顔を出して様子を窺ってたところまで見えてたぜ」

 

ドヤ顔で言う空。

 

「会わなくていいのか?」

 

「…会す顔がないよ。私は彼女との約束を守れなかった。どんな顔して会ったらいいか分からないよ」

 

表情を曇らせ、空から視線を逸らしながら申し訳なさそうに喋る姫川。

 

「…あいつは、お前の事、ライバルだって言ってたぜ。お前との試合は、一生の宝物だって」

 

「っ!?」

 

「妃にとって、今でもお前は1番のライバルなんだよ。だから、…後悔を残すような事はするなよ」

 

ポンと、姫川の肩を叩く空。

 

「……ありがとう、神城君」

 

その言葉に触発され、姫川は空に礼の言葉を伝え、妃を追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「由香里ちゃん!」

 

彼女の名前を叫びながら走る姫川。

 

「っ! 梢ちゃん!」

 

その声で妃が振り向く。

 

「っ!」

 

突如、姫川が顔を歪ませ、右膝を抑える。

 

「だ、大丈夫梢ちゃん!?」

 

そんな姫川に駆け寄り、身体を支える妃。

 

「…大丈夫、古傷が痛んだだけだから」

 

姫川は手で制しながら言った。

 

「由香里ちゃん」

 

呼吸を整え、顔を上げると、姫川は彼女の名前を呼んだ。

 

「ごめんね」

 

そして一言、そう言った。

 

「約束守れなくてごめん、由香里ちゃん」

 

「梢ちゃんが謝る事なんてないよ! ボクの方こそ、あんな約束したせいで…!」

 

2人の言う約束。それは、2人が中学生2年の全中大会で戦った後、また来年、互いに全国の舞台で全力で戦おうと言う約束である。

 

致命的な怪我をしてしまい、約束を反故にしてしまった姫川。その約束を交わしてしまったばかりに姫川に致命的な怪我をさせてしまった妃。互いに負い目を感じていた。

 

「…もう、バスケは出来ないの?」

 

「…ごめん。もう、ダメみたい」

 

恐る恐る尋ねる妃。申し訳なさそうに答える姫川。

 

「ボクの、せいだよね。ボクがあんな約束を押し付けたから…」

 

「違う! これは私の責任だよ! 私が無理をしたから…!」

 

互いに自分を責め合う両者。次第に、2人の瞳に涙が浮かんだ。

 

「…やめよ? こんなの良くないよ」

 

「…そうだね」

 

妃がそう提案し、涙を拭いながら受け入れる姫川。

 

「…ありがとう。ボクとの約束を守ろうとしてくれて」

 

「っ!」

 

「いろんな人試合をしたけど、ボクがライバルと思える人は、梢ちゃんだけだったよ」

 

「…」

 

「ボクの最高のライバル、姫川梢という選手がいた事、ボクは一生忘れない。梢ちゃんと同じコートで試合をしたあの時間は、ボクの一生の宝物にする。だから……ありがとう」

 

自身の思いの丈を伝え、右手を差し出した。

 

「……ありがとう、由香里ちゃん…!」

 

感謝の言葉を伝え、その右手を取り、握手を交わし、そして抱き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

2人が互いに胸のつかえていた思いの丈を伝え合った事により、2人の表情は晴れやかなものとなった。

 

「ありがとう。最後に梢ちゃんに会えて良かった」

 

「私の方こそ、会いに来てくれて嬉しかった。ありがとう」

 

笑顔で2人は感謝の言葉を伝えた。

 

「じゃあボクは行くね」

 

「うん! アメリカでいっぱい暴れてね!」

 

もう1度、2人は握手を交わした。

 

「またね! 梢ちゃん!」

 

妃を手を振り、その場を歩き始めた。

 

「あ、そうだ!」

 

1度は歩き始めた妃だったが、数歩歩いた所で歩みを止め、今一度姫川の下に歩み寄った。

 

「梢ちゃんって、空君と付き合ってるの?」

 

「……………えぇっ!?」

 

突然のまさかの質問に思わず声を上げる姫川。

 

「そんな訳ないでしょ!? あんなバスケ馬鹿…!」

 

必死に否定をする姫川。

 

「そうなんだ。……だったら、ボク、狙ってもいいかな?」

 

「えぇ…えぇっ!? 本気なの!?」

 

「うん! だって、バスケやってる彼ってすごいカッコイイし、ボク、一目見ただけで一目惚れしちゃった!」

 

両頬を抑えながら頬を赤らめる妃。

 

「か、彼はやめた方がいいよ? バスケ以外はホントにだらしないんだよ?」

 

「へぇー、何かそういうの余計に惹かれるなぁ」

 

「は、はぁ…」

 

それでも気持ちが一切揺れない妃に思わず溜息を漏らす姫川。

 

「これ、ボクの連絡先! 空君に渡しておいて! …いっけない! 飛行機に間に合わない! それじゃ、お願いねぇ!」

 

そう言って、妃の連絡先を書いた紙を渡すと、駆け足でその場を後にしていった。

 

「…」

 

紙を受け取ったまま茫然とする姫川。

 

「……頑張ってね、由香里ちゃん」

 

踵を返し、花月高校へと足を進める姫川。道中、ふと、受け取った妃の連絡先の紙に視線を移す姫川。

 

「…っ!?」

 

突如、姫川の胸にズキリと痛みが走った。

 

「?」

 

咄嗟に胸を抑える姫川。その痛みに疑問を覚えながら姫川は歩みを進めるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





思い付きで書き、途中でやっぱ書き直そうとも考えましたが、せっかくなのでそのまま書き上げました。

女子バスケ界の2人の天才のもう1人を登場させました!

当初、もう1人はロウきゅーぶの湊智花にする構想もあったのですが、よくよく考えて、その後のロウきゅーぶ勢との絡みが一切なかったので、没にしました。正直、やらなくて良かったと思います…(^-^;)

ここからは、キセキの世代のラストイヤーを始めるか、それともその前にもう1話挟むか、とりあえず、年越しまでに後1話投稿出来たらいいな…(>_<)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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