黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

一気に試合開始致します。

それではどうぞ!



第79Q~激闘のオープニング~

 

 

 

激闘から一夜が明け、早朝。

 

「…っ! …っ!」

 

ジャージに着替えた空が前日と同様、公園までランニングをし、柔軟運動をしている。

 

「おはようございます、空」

 

「おーす、大地」

 

そこへ、同じくジャージ姿の大地がやってきた。

 

「身体の調子はどうですか?」

 

「昨日、寝る前に姫川にマッサージしてもらったおかげで絶好調だぜ」

 

「それは良かったです」

 

「そっちはどうよ?」

 

「こちらも同様です。多少の疲労は覚悟していたのですが、さすがは姫川さんと言ったところでしょうか」

 

肩を回しながら空が、屈伸運動しながら大地が自身の調子を話していく。

 

「昨日は激闘の末、秀徳を撃破! ……て、喜んだのは束の間…」

 

「…ええ、そうですね」

 

明るい表情をしていた2人だったが、突如、表情が暗くなる。

 

昨日、試合終了後、仮眠を取った後、会場の観客席に向かった2人。そこでは、自分達の次に対戦相手の試合が行われていた。試合は終始一方が優勢で進められていた。

 

「全く、とんでもなかったな」

 

「ええ。『夏に戦った』時よりさらに伸びていました」

 

結局、試合は大差を付いて終了した。

 

「今日勝てるかどうかはあいつを止められるかどうかにかかってる」

 

「止めなければなりませんね。あの方、キセキの世代のエースと呼ばれたあの人を…」

 

今日、昨日と同等……それ以上の激闘が始まる。

 

 

――花月高校 × 桐皇学園高校

 

 

新鋭の暴君との試合が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

8強が出揃ったウィンターカップ。この日、4強を賭けた試合が行われる。

 

本日、キセキの世代が所属する高校同士の試合はない。その為、盛り上がりの欠けるラインナップ…と、思われたが…。

 

 

――ざわざわ…!!!

 

 

観客席は、満席に近い程埋め尽くされていた。目当ては勿論、花月対桐皇の試合である。全国随一のオフェンス力を誇る桐皇、そして昨日、奇跡の番狂わせを巻き起こした花月高校。試合前から観客はざわついている。

 

「…」

 

観客席の上段、1人の男がコートを見つめていた。

 

「なーに突っ立ってるんスか、緑間っち」

 

その男に1人の男……黄瀬涼太が話しかけた。

 

「むっ…、黄瀬か」

 

話しかけられた男……緑間は視線だけを向け、返事をした。

 

「試合を見に来たのだよ」

 

「だったら何処かに座ればいいじゃないスか」

 

「見ての通り満席なのだよ」

 

緑間の周辺の席は見渡す限り席が埋まっている。

 

「だったら一緒にどうスか? 俺の隣の席、空いてるんスけど」

 

「…」

 

「決まりッスね。なら、一緒に行くッスよ」

 

返事を待たず、黄瀬は緑間の背中を押しながら自分の席まで移動していく。

 

「待て! 俺は一緒に見るとは一言も言ってないのだよ!」

 

そんな黄瀬を叱りながら緑間は渋々足を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

「…」

 

席に辿り着くと、そこにいたある人物を見て緑間は眉を顰める。

 

「緑間! お前も来てたのか」

 

「…黄瀬、何でこいつがいるのだよ」

 

「まあまあ、いいじゃないスか。皆で仲良く見た方が楽しいッスよ」

 

げんなりする緑間を他所に、黄瀬は気に留める様子を見せず、緑間を席に誘った。

 

「ふん…。お前まで来ていたとはな……火神」

 

視線を向けず、コートを見下ろしながら隣の男、火神に話しかけた。

 

「ん…まあ、な。昨日はあまり試合を見れなかったからな」

 

火神は、昨日負けたばかりの緑間。言葉を選びながら答える。

 

「ちょうど良かったッスよ。直に手合わせをした人の意見を聞きたかったところだったんス」

 

対して黄瀬はいつもの如く話しかける。

 

「俺は試合の終盤しか見てねえから詳しくは分からねえが。…どうなんだ? お前はこの試合、どっちが勝つと予想する?」

 

ずばり、火神が1番聞きたかった事を尋ねた。

 

「聞かずとも分かるだろ。勝つのは桐皇だ。花月の勝率は甘めに見積もっても万に一つと言った所だ」

 

尋ねられた緑間ははっきりと断言した。

 

「手厳しいッスね。仮にも緑間っちに勝ったチームッスよ?」

 

あまりに淡泊に言ってのける緑間に怪訝な視線を送る黄瀬。

 

「仕方のない事だ。地力の差…何より、エースの差が大きすぎる」

 

「だったら、お前は何でわざわざこの試合を見に来たんだ? 花月が負けるって踏んでるなら後で結果だけ聞けば良かったんじゃねえのか?」

 

疑問に思い、火神が尋ねた。

 

「見定めに来たのだよ。来年、花月が俺達にとってただの強敵なるのか。それとも、好敵手となるのか…」

 

「「…」」

 

緑間の答えを聞き、火神も黄瀬も口を噤んだ。火神にしても黄瀬にしても、桐皇が負けると欠片も思ってはいなかった。それでもこの会場に足を運んだ。花月と言う、新たな台風の目を見定めに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『…』

 

花月の控室。選手達は粛々と試合の準備を進めている。

 

「…っ!」

 

室内を覆う重い空気を感じ取り、相川は思わず身震いする。

 

今日の相手は昨日と同様キセキの世代を擁する高校、桐皇学園高校。インターハイの準決勝で戦い、勝利を収めた相手であるが、それは三杉誠也の尽力によるものが大きく、事実、三杉以外は青峰大輝を全く止める事が出来なかった。

 

桐皇は秀徳のような相性の良し悪しはない。故にインターハイの時にあった力の差が埋められていなければ敗北は濃厚。それを理解してか、昨日以上に花月の選手達は張り詰めている。

 

その時、控室の扉が開かれ、上杉が入室してきた。

 

「お前ら、しっかり汗をかいているか?」

 

上杉が声を掛けると、選手達は返事をせず、ギラついた目付きを向け、頷いた。

 

「もう時間ですか?」

 

「まだ時間はある。ゆっくり準備を進めろ」

 

空の問いかけに、上杉は薄い笑みを浮かべながら返事をした。

 

「(…1人でも昨日の勝利で浮かれている奴がいたら活を入れてやるつもりだったが…、うん、良い気合のノリだ。試合の入り方としては上々だ)」

 

選手達を見て満足する上杉。

 

「そのままで良いから話を聞け。桐皇は今大会最強のオフェンス力を誇るチームだ。それは、夏で充分味わったはずだ」

 

『…』

 

「試合開始からガンガン点をを取りに来るぞ。決して受けに回るな。こっちも同じように点を取りに行け」

 

『はい!!!』

 

「昨日と特に変わった指示はない。とにかく走れ! 足を止めるな! 相手の倍走ってペースを握れ!」

 

『はい!!!』

 

上杉の指示に、選手達は控室が揺るがす程の大声で応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『来たぞ!』

 

『秀徳を相手に奇跡大勝利を収めた今大会のダークホースの花月だ』

 

コート上に花月の選手達が空を先頭に入場すると、観客が盛大に沸き上がった。

 

『来た! 最強のオフェンス力を誇る桐皇!』

 

『今大会全ての試合で100点以上決めてるオフェンス力は伊達じゃないぞ!』

 

続いて桐皇がコート上にやってくると、先ほど同様、観客が沸き上がった。各々、ベンチまで移動し、ジャージを脱いで最後の準備を始めた。

 

「スタメンは昨日と同じ、神城、生嶋、綾瀬、天野、松永で行く」

 

『はい!!!』

 

「生嶋、隙あらばガンガン外から撃っていけ。チームの生命線であるお前が決められなければチームが活性化しない。その事を頭に入れておけ」

 

「はい」

 

「天野。今日のお前は責任重大だ。お前には青峰を止めてもらう事になる。それとリバウンド。お前がリバウンドを制するか否かで勝敗が決まる」

 

「はい」

 

「後、オフェンス。普段ならスクリーンやポストプレーに従事してもらっているが、今日は場合によっては点も取ってもらう。いつも以上に気合を入れて行け」

 

「まかしとき!」

 

「神城。お前には特に言う事はない。余計な事は考えずに自由にやれ」

 

「……何か、俺だけ指示が大雑把ですね」

 

特別な指示がなかった事に苦笑いを浮かべる空。

 

「お前は余計な指示を与えると調子が悪くすることは大仁田戦で良く分かっているからな。どのみち夢中になれば忘れてしまうのだから一緒だ。バカは何も考えずに無心で走れ」

 

「う、うす!」

 

「綾瀬。今日の試合の勝敗はお前にかかっていると言っても過言ではない」

 

「…はい」

 

上杉の言葉に気を引き締めながら頷いた。

 

「お前が花月のエースなんだ。絶対に負けるな。それが、キセキの世代であってもだ」

 

「はい!」

 

あまり声を張らない大地が珍しく辺りに響き程の声で返事をした。

 

「松永、お前は昨日以上にきつい相手となる。夏では完敗だった」

 

「…そうですね」

 

痛い所を付かれ、表情が曇る松永。

 

「お前はインターハイ終了後のエキシビションマッチでジェイソン・シルバーと僅かは時間だがマッチアップをした。どうだった?」

 

「…正直、次元が違いました。パワー、スピード、テクニック、全てが桁違いでした」

 

「そうか。……ならば、1つ言っておく。あのレベルの選手は日本にはいないぞ」

 

「…えっ?」

 

上杉にそう言われた松永はキョトンとする。

 

「シルバーはアメリカでも容易に現れないレベルの選手だ。紫原とて奴には及ぶまい。お前は、この日本で唯一最高峰の選手と戦った経験値を持つ選手だ」

 

「っ!」

 

「お前は夏から確実に成長している。今のお前なら若松相手でも決して引けを取らないはずだ。自信を持っていけ」

 

「はい!!!」

 

上杉は選手達を見渡し、再度口を開く。

 

「今日の試合、俺はあえて100%の力を出せとは言わない。何故なら、それでは足りないからだ」

 

『…』

 

「120%の力を出してみせろ。そのくらい出来なければ、この試合は勝てん」

 

『はい!!!』

 

「行って来い! 自分を…桐皇を超えてこい!」

 

『はい!!!』

 

上杉の飛ばした激に、選手達は会場を震わせるかのような声で応えた。

 

「なあ、円陣組まない?」

 

選手達がベンチから立ち上がると、唐突に空が提案する。

 

「おお、ええな! 今までやったことあらへんけど、たまにはええかもな! ほら、みんな集まり! ほら、マネージャーもけえや」

 

天野がいち早く賛成し、花月の選手達及びマネージャーも集まり、1つの円を作った。

 

「キセキの世代を倒す為に俺は花月に来た。他の皆もそうだよな?」

 

円陣を組むと、空が皆に問いかける。空の問いかけに皆が頷いた。

 

「昨日、秀徳に勝った。これで俺達の目標は達成された事になる。…けどさ、皆、これで満足出来てるか?」

 

『…』

 

「…だよな。俺達はキセキの世代を倒す為だけにここに来た訳じゃない。キセキの世代とそれを倒した誠凛を全部倒して優勝する為にここに来たはずだ」

 

「ですね。ここが私達の終点ではありません」

 

「だね。こんな所じゃ満足は出来ないよね」

 

「当たり前の事言うなや」

 

「ああ。目指すのは頂点だ」

 

空の言葉に大地、生嶋、天野、松永が答える。それを聞いて空は不敵な笑みを浮かべた。

 

「安心したぜ。これで心置きなく戦える。……奇跡は1度起こした。なら、もう1度…いや、何度でも起こせるはずだ」

 

ここで空は大きく息を吸った。

 

「勝つぞ!!! 桐皇を、ぶっ潰すぞ!!!」

 

『応!!!』

 

空を中心に行われた号令に、選手達が応える。スタメンに指名された5人は、気合を入れ直し、コートに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コートの中央…センターサークル内に花月、桐皇の両スタメンの選手達が集まった。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

6番PG:神城空  179㎝

 

7番SG:生嶋奏  181㎝

 

8番SF:綾瀬大地 182㎝

 

9番PF:天野幸次 192㎝

 

10番 C:松永透  194㎝

 

 

桐皇学園高校スターティングメンバー

 

4番 C:若松孝輔 195㎝

 

5番PF:青峰大輝 193㎝

 

7番SG:桜井良  175㎝

 

9番SF:福山零  189㎝

 

10番PG:今吉誠二 177㎝

 

 

「これより、花月高校対桐皇学園高校の試合を始めます」

 

『よろしくお願いします!』

 

審判の号令し、両校の選手達が礼をした。

 

「よろしく頼むぜ!」

 

「こちらこそや…(声うっさいのう。それに手ぇつよー握り過ぎや)」

 

まるで威嚇するかの如く声を上げ、きつく握手をする若松に、天野は少々げんなりした。

 

「よう。まさかお前らが緑間に勝つとは欠片も思ってなかったぜ」

 

青峰が空と大地の傍まで歩みを進める。

 

「紛いなりにも緑間に勝ったんだ。ちったぁ俺を楽しませろよ」

 

「…」

 

「…」

 

それだけ告げ、青峰は2人の横を抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

センターサークル内にジャンパーである松永と若松を残し、残りの両選手達は周囲へと展開していった。

 

「…」

 

「…」

 

松永、若松が腰を落とし、ジャンプボールに備える。2人の間に審判が歩み寄り、そして、ボールは高く上げられた。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「っ!」」

 

ボールが上げられるのと同時にジャンパーの2人が飛ぶ。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

高く上げられたボールを2人が同時に叩いた。

 

『おぉ! 互角だ!』

 

「どっせぇぇぇぇぇい!!!」

 

「ぐっ!」

 

ジャンプボールは2人が同時にボールを叩いたが、若松が気合と共に渾身の力で松永の手を弾き飛した。

 

「キャプテン、おおきに」

 

ボールは今吉が抑え、そのままリングに向かってドリブルを始めた。

 

「行かせねえ!」

 

スリーポイントラインから僅かに離れた所で空が今吉を追い抜き、目の前に立ち塞がる。

 

「行かせてもらうわ」

 

今吉は無理やり突破を図ろうとする。空は身体を張りながら突破を阻止する。

 

「…と、さすがに簡単には行かんのう」

 

突破が不可能だと判断した今吉はスリーポイントラインまで押し込んだ所でビハインドバックパスでボールを左へと出した。ボールは中央よりやや左側、スリーポイントライン外側で桜井が受け取った。

 

「すいません!」

 

「打たせない!」

 

ボールを受け取った桜井はすぐさまスリーの態勢に入る。それを阻止するべく生嶋がブロックに飛ぶ。だが、紙一重で桜井のリリースが速く、ブロックは間に合わなかった。

 

「(これは外れ……いや、違う!)」

 

ボールの軌道から外れると1度は確信した生嶋だが、すぐに考えを変える。ボールはリングではなく、リングの僅か右へと飛んでいた。そこへ、右サイドからリングに向かって1つの黒い影が駆け上がる。

 

『シュートじゃないぞ!?』

 

『青峰だ!』

 

ボールに向かって右サイドから青峰が現れる。桜井の放ったボールに青峰が飛びついた。

 

『青峰のアリウープだ!』

 

『先制は桐皇だ!』

 

跳躍した青峰はボールをそのままリングへと叩きつけた。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「おっ?」

 

だが、その直前、横から現れた1本の腕が青峰の右手に収まる直前のボールを叩き落とした。

 

「えぇっ!?」

 

アリウープが決まると思っていた桜井は驚愕の声を上げた。

 

『綾瀬だ!』

 

「させませんよ」

 

ボールを叩き落としたのは大地。アリウープを紙一重で阻止した。

 

「ええで。気合入っとるやんけ!」

 

ルーズボールを天野が抑えた。

 

「天さん!」

 

「あいよ!」

 

天野が即座に空にボールを渡し、空はそのままフロントコート目掛けてドリブルを始めた。

 

「行かせるかコラァッ!!!」

 

センターライン目前で若松が空の前に立ち塞がる。

 

「(…チラッ)」

 

若松との距離が詰まる直前、空は右へと視線を向けた。

 

「(パスか!?)」

 

空の右後ろから松永が駆け上がってくるのが見えた若松がパスを警戒する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!? クソがぁっ!」

 

だが、空は視線のフェイクを入れた直後、バックロールターンで反転して若松を抜きさった。

 

『おぉっ! 抜いたぞ!』

 

若松を抜きさると、もう空の行く手を阻む者はおらず、空は悠々とボールを進めた。フリースローラインを越えた所でボールを右手に持ち、レイアップの態勢に入った。

 

『カウンターからの速攻! 先制は花月だ!』

 

今度こそ初得点を確信して沸く観客。だが、そのレイアップを阻もうとする1つの影が現れる。

 

「調子に乗ってんじゃねえぞ」

 

先回りした青峰が空を阻む。

 

『青峰だぁっ!』

 

『もう追いつきやがった!』

 

若松を抜きさる時にスピードが緩んだ隙に青峰が距離を詰め、ブロックに飛んでいた。

 

「…」

 

 

――スッ…。

 

 

だが、青峰のブロックを予見していた空はボールを下げ、ブロックをかわすと、背中越しからボールをリング付近にふわりと浮かせた。その直後、その僅か後方から大地が走り込み、ボールに向かって跳躍した。

 

『綾瀬も速ぇっ!』

 

空中で大地は右手で掴み、そして…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままリングに叩きこんだ。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!! アリウープだぁっ!!!』

 

その直後、会場中に歓声が響き渡った。

 

「ちっ」

 

目の前でアリウープを決められた青峰の口から思わず舌打ちが出る。大地はリングから手を放し、コートへと着地する。

 

「楽しみたいなら好きにしたらいい。もっとも、こっちはそんな余裕与えるつもりはねえけどな」

 

すれ違い様、空が青峰に向けて言い放つ。

 

「私達は手も足も出なかった夏とは違います。今日も勝たせていただきます。正真正銘、我々の力で」

 

大地も同様に青峰に言い放った。

 

「…ハッ! いいぜ。そのくらいのやってくれねえとこっちも楽しめねえからな」

 

2人に告げられた青峰は、不敵に笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「おっ? えらい盛り上がっとるやんけ」

 

場所は変わって会場の外、メガネをかけた1人の男が会場入りしようとしていた。

 

「急ごうぜ。もう試合は始まってるぞ」

 

その隣に、並んで会場入りしようとしているもう1人の男がいた。

 

「そんな慌てんでもええやろ、諏佐。まだ第1Q始まったばかりやんけ」

 

「お前が試合を見に行かないかって誘ったんだろうが、今吉」

 

呆れた表情で急かす男に対し、特に気にする素振りを見せず、飄々と歩みを進めていた。

 

今吉翔一、諏佐佳典。彼らは昨年まで桐皇の在籍していた選手であり、主力のメンバーであった2人である。ふと、母校の試合があるのを思い出した今吉が諏佐を誘い、会場まで足を運んでいた。

 

「去年も来たっちゅうのに、えらい懐かしいもんやなあ」

 

「そうだな。…と言っても、苦い思い出の方が大きいけどな」

 

苦い表情をする諏佐。昨年、彼らはウィンターカップの初戦で誠凛と戦い、敗れた。

 

「にしても、こうやってお前に会うのは卒業式以来か。まさか、お前から誘われるとはな」

 

「ええやんけ。あの秀徳に勝った花月との試合。お前も気にはなっとったやろ?」

 

「…ま、確かにな」

 

桐皇のウィンターカップの組み合わせを知っていた両者。最初の障害となるのは準々決勝で当たる秀徳だと思っていた2人。だが、その秀徳は3回戦で花月に敗北していた。

 

「花月の事はインターハイやジャバウォックとの試合の事で知っとったけど、あれは三杉と堀田ありきやったからのう。まさか秀徳が負けるとは思わんかったわ」

 

「同感だな」

 

雑談をしながら会場入りした2人。

 

「さて、試合はどうなる事かな」

 

「そら桐皇が勝つやろ。贔屓目抜きにしても実力が違い過ぎるわ。…おっ、付いたな」

 

話をしている内に試合が行われている会場の観客席に到着した2人。

 

「…っ!?」

 

「っ! ……ハハッ、中々おもろい事なっとるやんか」

 

観客席に付いた2人が電光掲示板を見ると、驚愕の表情に染まる。

 

 

第1Q、残り2分4秒。

 

 

花月 15

桐皇 11

 

 

「おいおい、リードされてるじゃねえか」

 

驚きながら空いてる席に腰掛ける2人。ボールは現在青峰がキープしている。

 

「…っ」

 

「…っ」

 

ボールを左右に散らし、揺さぶりをかける青峰。対する天野が落ち着いて青峰の動きに付いていく。

 

「ほう」

 

この揺さぶりに付いて行かれた事に感心する青峰。

 

「青峰、こっちだ!」

 

青峰の左側からボールを要求する福山。

 

「ちっ」

 

舌打ちをした青峰がボールを福山に放る……振りをして逆に切り返し、そのままボールを下投げでリング目掛けて投げつけた。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

だが、それを読み切った天野が放ったボールをブロックした。

 

『すげー! 今のを止めた!』

 

「速攻!」

 

ボールを拾った空が声を出し、そのまま速攻に走った。

 

「行かせへんで」

 

スリーポイントライン目前で今吉が空の前に立ち塞がる。

 

「(…チラッ)」

 

ここで空は立ち止まり、リングへと視線を向ける。

 

「(っ!? 打つんか!?)」

 

リングに視線を向けられた事で今吉はスリーを警戒する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、その直後、空はクロスオーバーで目の前の今吉を抜きさり、ペイントエリアへと切り込んだ。

 

「やろっ! 行かせ――っ!」

 

ヘルプに飛び出した若松だったが、空がボールを持っていない事に気付く。

 

「あっ!?」

 

ここで、桜井が声を上げる。空は、今吉を抜いた直後にノールックビハインドパスで左アウトサイドの生嶋にパスを出していた。ボールを受け取った生嶋はそのままスリーを打つ態勢に入る。

 

「くっ!」

 

慌ててブロックに向かう桜井。だが、生嶋はブロックをかわす為に斜めに飛びながらボールを放った。

 

「(リズムが悪い。シュートセレクションもバラバラ。けどこれ、入る!)」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

桜井の直感通り、ボールはリングに掠る事無く中央を潜り抜けた。

 

「ナイッシュー!」

 

生嶋と松永がハイタッチを交わす。

 

「戻れ! ディフェンス、止めるぞ!」

 

自陣に戻って桐皇のオフェンスに備える花月。試合序盤、花月ペースで進められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…驚いたな。正直、花月がここまでやるとは思わなかったな」

 

花月リードに驚きを隠せない諏佐。

 

「……なるほど、天野幸次。花月にはあいつがおるんやったな」

 

「知ってるのか?」

 

「関西じゃ有名やったからな。最強のリバウンダーにしてストッパー。関西じゃキセキの世代と同じくらい名が知れとったで」

 

懐かしむように今吉(翔)が説明する。

 

「確かにあのディフェンスは脅威だな。あの青峰を止めるくらいだからな」

 

聞いた諏佐も、今吉(翔)の言葉を疑う事なく受け入れていた。

 

「だが、それでもリードされるとは予想外だ。少なくとも、今年のオフェンス力は去年より上なはずだからな」

 

「青峰がスロースターターやからな。良くも悪くも、エースの調子にチーム全体が引きずられる言うんはままある事やからな。何より、福山がコートにおるっちゅう事はでかい穴がぽっかり空いているようなもんやからな」

 

福山の方を見ながら笑みを浮かべる今吉(翔)。

 

「あいつのディフェンスの悪さは相変わらずだな。それさえなきゃ、去年もあいつがスタメンだったろうに」

 

コート上で天野に抜かれる福山を見ながら苦笑する諏佐。

 

「高い身体能力、安定した確率で決められるアウトサイドシュートに、スピードもキレもあるドライブ技術、インサイドでは身体をぶつけながら強引に得点出来る泥臭さも兼ね備えたオフェンス力。これでディフェンスがまともやったら今頃五将と同等の評価を貰ったとったやろうな」

 

今吉(翔)なりに高い評価される福山。

 

「けどま、桐皇がリードされている原因は福山だけやあらへんけどな」

 

「?」

 

言葉の意味が分からず、頭に『?』を浮かべる諏佐。

 

「おいおい、去年スタメンやっとったなら分かるやろ。目に見えて分かる違和感が。ま、第2Q始まったら分かるやろ」

 

そう言って、2人は試合に集中したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第1Q終了。

 

 

花月 22

桐皇 17

 

 

両チームの選手達がそれぞれのベンチに引き上げていく。

 

『すげー! 桐皇相手に花月がリードしてるよ!』

 

『秀徳を倒したのは伊達じゃないな』

 

『これはまたあるかもしれないぜ。番狂わせが!』

 

花月の奮闘に観客は沸き上がっていた。

 

 

花月ベンチ…。

 

「いいぞ天野! あの青峰を抑えてるぜ。この調子で――」

 

「冗談きつすぎやで、先輩」

 

奮闘に歓喜する真崎に、天野が冷静に言葉を挟む。

 

「あんなんが青峰の本気やったらキセキの世代とか呼ばれてへんよ」

 

「えっ? なら、青峰はまだ手を抜いてるって事か?」

 

「単純にエンジンのかかりが遅いんやろうな。1番の要因は、青峰はモチベーションでパフォーマンス能力が左右されるタイプやから、相手が俺じゃ出るもんもでぇーへんやろうな」

 

ドリンクを口にし、タオルで汗を拭う天野。

 

「けどま、そろそろやろうな。身体も温まってきたやろうし、第1Q何本か止められてプライドに障ったやろうから、ここからが正念場や」

 

ドリンクを置いた天野が未だかつて見た事ない程の真剣な表情をした。

 

「(…温いのは何も青峰だけじゃねえ。他のメンバーを何処かおかしい。桐皇がこんなもんな訳がない。これなら、夏の時の方がマシだったくらいだ)」

 

ここまでの桐皇に違和感を感じているのは天野だけではない。ゲームメイクをしている空には一層肌に感じていた。

 

1番違和感を感じるのはディフェンス。桐皇のディフェンスは特徴的だったので空の中ではかなりの印象が残っている。例えば洛山。実力者が揃っている洛山のディフェンスはとにかく『上手い』という言葉しっくりくる。対して桐皇のディフェンスはとにかく弱点を突き、行動を先回りしてくるので、とにかく『やりづらい』という言葉浮かぶ。

 

だが、今日の桐皇にはそれがない。手を抜いているようには見えないが、何処か温さを感じてしまう。

 

「(向こうがこっちを舐めきっているなら話は単純だけど、そんな甘くはないよな。さて、第2Qからどうなる事やら…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

桐皇ベンチ…。

 

「お疲れ様で。実際手を合わせて、花月はどうですか?」

 

ベンチに座った選手達の前に原澤が立ち、労うのと同時に選手達に尋ねる。

 

「1年生が主体なだけあって、ツボにハマった時の勢いは誠凛と同等…いや、それ以上ですね」

 

「あの速攻のスピードは敵わんわ。正直、神城か綾瀬に先頭で速攻走られたら止められんでしょうね」

 

若松、今吉が各々花月の評価を口にしていく。

 

「うん。あの秀徳に勝っただけの事はあるようですね」

 

監督である原澤も、花月を高く評価した。

 

「申し訳ありません」

 

おもむろに、マネージャーである桃井が頭を下げて謝罪した。

 

「あなたが頭を下げる事ありませんよ。むしろ、よくここまで資料を集めてくれました」

 

桃井が頭を下げた理由。それは、花月のデータを集める事が出来なかったからである。桃井は秀徳が負ける等露程も思ってはおらず、花月のデータは夏のものと残りは自身の勘から分析した最低限のものしかなく、昨日の試合後、急遽データをかき集めてものの、正確なデータは取れなかったのである。

 

「第1Q、花月の動きを見定める為にあえて『見』に回りましたが、皆さん、10分間手を合わせて、桃井さんのデータと実際の花月との差異は修正出来ましたね?」

 

この問いかけに、選手達は頷いた。

 

「ったくよ、わざわざこんな回りくどい事しなくてもよ…」

 

唯一青峰がこの指示に不満を漏らした。

 

「青峰、そんな気の抜けた事言ってんじゃねえぞ」

 

「うるせえよ。失点の大半がてめえの所からだろ」

 

「んだと!」

 

気を抜いたかのような発言をする青峰を福山が諫めたが、返された言葉に福山が激昂した。

 

「てめえ今日、ほとんど得点出来てねえだろうが!」

 

「声がでけーよ。…けどま、確かに相手を舐め過ぎてわ。あの天野って奴。さつきがディフェンスの名手だって言っただけの事はある。口だけの正邦坊主頭と大違いだ。ディフェンスだけなら火神…いや、緑間並みだ」

 

何処か花月…天野を舐めていた節があった青峰はその事を本人なりに反省していた。

 

「ちょうど身体も良い感じに温まってきた所だ。第2Q、そろそろ力の差を教えてやるよ」

 

そう発現し、青峰が不敵な笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

かくして準々決勝の火蓋が切って落とされた。

 

第1Q、当初の期待を裏切り、花月リードで終わった。だが、花月の選手達は桐皇の勢いのなさに不気味さを覚えていた。

 

試合は第2Qに突入し、暴君の牙が今、花月に向けられる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





第1Q終了まで一気に進めました。

この試合の大まかな展開はもう決まっているんですが、肝心なその合間を埋める試合展開が決まっておらず、現在頭を抱えています…(^-^;)

秀徳戦8話くらいやっておいて桐皇戦が2、3話で終わるのはさすがに避けたいのですが、いかんせん書く事が決まらない。再びネタ集めの為に他の漫画を読み耽る必要がありそうですorz

自身のやっているソシャゲのイベントの為、投稿が遅れ、現在、再びイベントが始まったとのと、ネタ集めの為、次話の投稿が結構空くかもしれません。楽しみにしている方は申し訳ございません…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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