黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

新年1発目の投稿となります。

それではどうぞ!



第77Q~新しい可能性~

 

 

 

第4Q、残り2分58秒。

 

 

花月 112

秀徳 115

 

 

1点差にまで詰め寄られた秀徳だったが、緑間が単独で大地、松永を抜きさり、ブロックに来た天野の上からダンクを決め、点差はタイムアウト前の3点差にまで戻った。

 

現在、ボールは空が運んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「驚きました」

 

緑間のダンクを見ていた黒子が徐に口に出した。

 

「驚いたって、さっきのダンクにか? 確かにあいつのダンクをしている所は見た事ねえが、あの身長と高さなら別に余裕で出来るだろ」

 

195㎝の身長がある緑間。その彼ならダンクなど問題なく出来ると言う火神。

 

「彼がダンクをしている姿を僕は帝光時代から1度も見た事がありません」

 

中学時代から同じ帝光中に所属していた黒子。その黒子ですら緑間のダンクを見た事がなかった。

 

「緑間君はスリーへのこだわりはかなりものです。ワンマン速攻の時でさえスリーを打つ程に。ですが、ダンクに対しては、そのこだわり以上に嫌悪感を持っていました」

 

「…」

 

「そんな緑間君がダンクを決めた。緑間君をよく知っている人は驚きを隠せないと思います」

 

黒子の言う通り、現在会場で見ていた赤司も驚きを隠せないでいた。

 

「だが、その甲斐はあったと思うぜ。見ろよ。さっきまで花月一色だった会場が秀徳の応援が聞こえるようになった。何より、これで流れが変わったはずだ」

 

火神の言う通り、花月一辺倒だった観客だったが、緑間のダンク直後から秀徳の応援を始める者が現れ始めていた。そしてこれがきっかけで、試合は熾烈なクライマックスに突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空がゾーンディフェンスの中に切り込む。同時に秀徳ディフェンスがゾーンを狭め、空を包囲にかかる。

 

「分かってるよ!」

 

だが、空は包囲される前にボールを右へと出す。そこへ大地が走り込み、ボールを受け取る。

 

「よし!」

 

ボールを受け取るのと同時に大地はレイアップの態勢に入った。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

だが、ボールは横から伸びてきた手によって叩かれた。

 

「決めさせないのだよ!」

 

レイアップをブロックしたのは緑間。必死の形相で失点を阻止した。

 

「いいぞ緑間!」

 

ルーズボールを支倉が抑え、すぐさま高尾にボールを渡す。花月のオフェンスは失敗し、秀徳のオフェンスに切り替わる。

 

「くそっ、戻れ! ディフェンスだ! 絶対止めるぞ!」

 

自陣に急いで戻りながら空が声を張り上げる。持ち前のスピードでワンマン速攻を阻止し、花月はディフェンスを整える。

 

「さて……って、考えるまでもないか。いいぜ、存分にやれよ……真ちゃん!」

 

スリーポイントラインの外側でボールをキープする高尾。どう攻めるか一瞬考えるも、目でボールを要求する緑間にパスを出した。

 

「行くぞ」

 

目の前でディフェンスをする大地にそう告げると、緑間はドリブルを始める。レッグスルーでボールを右から左へと切り返すと、大地もそれに対応する為に緑間を追いかける。その瞬間…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

レッグスルーで切り返した事で大地の身体の重心が右足に乗った。そこを狙い、ボールを股下を通過するのと同時に膝を曲げ、重心を下げ、すぐさまボールを左手に収め、直後にクロスオーバーで逆に切り返すのと同時に加速。大地を一気に抜きさった。大地を抜くのと同時にシュート態勢に入る。

 

「打たせるか!」

 

そこへ、松永がブロックに現れる。だが…。

 

「くっ!」

 

緑間はフェイダウェイシュートで松永のブロックをかわしながらボールを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を綺麗に潜り抜けた。

 

「ナイスだ緑間!」

 

得点を決めた緑間の頭を宮地が掴みながら得点の功を労った。

 

 

「すごい。ここに来て緑間の動きが良くなった」

 

緑間の連続得点とブロックを見ていた秀徳ベンチの選手が驚愕する。

 

「精神が肉体を凌駕し始めたか…」

 

奮闘する緑間を見て中谷はそう呟いた。

 

 

オフェンスは変わって花月。空がボールをフロントコートまで運ぶ。ここで攻撃を失敗すると残り時間を考えても命取り。その為、得意のラン&ガンは控え、慎重にボールを進めた。

 

『…っ!』

 

ここを止め、決定打を決めたい秀徳は疲労はあるにも関わらずこの試合1番の集中力を発揮する。

 

「…」

 

秀徳の気合を一身に浴びる空。空が取った行動は…。

 

「なに!?」

 

突如、空はシュート態勢に入った。空の立つ場所はスリーポイントラインから1メートル程離れている。一見すれば無謀とも言える。

 

「くそっ!」

 

高尾が慌てて距離を詰め、ブロックに飛ぶ。打たせても良さそうな所だが、タイムアウト前に決められた記憶が高尾をブロックに向かわせた。

 

「くっ!」

 

ここで木村もヘルプに飛び出し、ブロックに向かう。空と高尾では高さのミスマッチが生まれてしまう為、やむを得ない状況であった。距離があり、スリーを打つのに溜めが必要だった為か、木村のヘルプが間に合い、空のシュートコースを塞いだ。

 

「…」

 

空は高尾と木村の2枚のブロックが現れると、リングではなく、真横、右にボールを落とした。そこへ立っていた生嶋がボールを掴む。

 

「お前には打たせねえ!」

 

素早く宮地が生嶋のチェックに向かう。だが、生嶋はシュートを打たず、ハイポストの天野にパスを出した。天野がボールを受けると支倉がチェックに入る。天野は背中に張り付かれる前にボールを左へとトス。そこへ大地が駆け込み、ボールを受け取りそのままレイアップ。

 

「…っ!」

 

だが、ここに再び緑間がブロックに現れた。

 

 

『うわー! 緑間高ぇー!』

 

花月の得点チャンスと思われただけに観客席から悲鳴が響く。

 

 

「…」

 

それでも大地は動じず、冷静にレイアップを中断してボールを下へと落とす。

 

「ナイスパスだ!」

 

 

――バス!!!

 

 

ゴール下に立っていた松永がボールを受け取り、落ち着いてゴール下を決めた。点差は3点に戻る。

 

「ドンマイ! もう1本取るぞ!」

 

宮地がすぐさまボールを拾い、高尾に渡す。再びボールをフロントコートまで運ぶと、高尾は迷わずボールを緑間に渡す。そこへ大地がディフェンスに入る。

 

「…」

 

ボールを受け取った緑間は僅かにバックステップをし、視線をリングに向けた。

 

「(まさか、打つのですか!?)」

 

打たせまいと大地が距離を詰める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、それに合わせて緑間が発進。大地の横をドライブで切り込む。

 

「(くっ! スピードや加速力こそ空や青峰さんに劣りますが、このドライブの切れ味は…!)」

 

不意を突かれた所に切れ味鋭いドライブを仕掛けられ、大地は抜かれてしまう。緑間はそのまま切り込むと、ボールを掴んでそのままリングに向かって跳躍。

 

「これ以上は決めさせん!」

 

失点を阻止する為、松永がブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

だが、松永がブロックに現れると緑間はボールを下げ、そのブロックをかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

ブロックをかわした直後、再びボールを構え、ボールをリングに放り、得点を決めた。

 

 

『スゲー! ダブルクラッチだ!』

 

絶妙なダブルクラッチに再び観客が沸いた。

 

 

「っ!? ディフェンスだ!」

 

得点を直後、緑間が目を見開いて声を出した。秀徳の選手達が振り返ると、空がフロントコートに猛ダッシュをしていた。すぐさまボールを拾った天野が走る空目掛けて大きなロングパスを出した。

 

 

――バス!!!

 

 

先頭を走る空。ましてや不意を突かれた秀徳の選手達が空に追いつけるはずもなく、悠々とレイアップを決めた。

 

「よっしゃ、今度こそ止めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

猛ダッシュで速攻に走ってレイアップを決めた空はすぐさま転身して自陣に戻り、ディフェンスに備えた。

 

「…」

 

ボールをフロントコートまで進めた高尾はゆっくりドリブルをしながらゲームメイクを始める。

 

「気合入ってるねぇ。…止められるもんなら止めて見ろよ」

 

ここで高尾はパス。ボールの先はもちろん…。

 

『キタ! 緑間だ!』

 

ボールが緑間の手に収まり、観客は沸き上がる。

 

「(今度こそ止めてみせます!)」

 

心の中で強く決意した大地は。集中力を最大にして緑間の挙動に備える。

 

「…」

 

スリーポイントラインの外側でボールを受けた緑間。牽制の為、小刻みにボールを動かし、揺さぶりながらチャンスを窺う。大地もそれに反応し、抜かせまいと腰を落としてドライブを警戒。

 

「……おいおい良いのか? ボール持ってんのが誰なのか忘れたのか?」

 

不意に高尾が笑みを浮かべた。

 

「っ!? しまった!」

 

突如、シュート態勢に入った緑間。血相を変えた大地が慌てて距離を詰め、ブロックに向かった。

 

「っ!?」

 

だが、一足遅く。大地のブロックは間に合わず、緑間はボールを放った。放たれたボールは高々と舞い上がった。

 

『っ!?』

 

花月の選手全員がリングへと視線を向ける。ボールを放った緑間はコートに着地すると放ったボールの結末を見届ける事なく振り返り、自陣へと足を進めた。右手でメガネのブリッジを押し上げ、左手はそっと拳を握った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは外れる事なくリングの中心を潜った。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

沸き上がる観客。

 

「くそっ、ここに来て息を吹き返してきたか…」

 

「あかんわ。点差が広まってもうたわ」

 

試合終盤に来ての緑間の躍動に花月の士気も落ちかける。今の1本はそうなるのも仕方がない程のものだった。

 

「確かにきついけど、そんな事は分かり切った事だろ?」

 

絶望の影が過る花月の選手達の中、空だけが1人顔を上げて言った。

 

「相手は10年に1人の化け物だ。俺達とは格が違うかもしれない。けど、それが分かってて俺達は花月に入って、今この場に立っているはずだ」

 

『っ!』

 

「ここまで来たら天才も凡人もない。がむしゃらに勝ちに行くだけだ。だろ?」

 

決して絶望せず、希望の眼差しで放つ空の言葉に、過りかけた絶望の影が希望の光へと変わっていった。

 

「……せやな」

 

「そうだね」

 

「そのとおりだ」

 

再び希望の灯った眼差しで天野、生嶋、松永が空の言葉に応えた。

 

「行くぜ大地。2年前のあの日の誓い、ここで果たすぞ」

 

あの日の誓い…。初めて帝光中の試合……キセキの世代を目の当たりにした時、彼らを倒そうと願った2人の誓いだ。

 

「ええ。勝ちましょう。ここにいる皆で!」

 

大地も空の言葉に賛同した。空の言葉によって、花月の下がりかけた士気が上がり、全員が顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…スゲーな」

 

緑間の奮闘に葉山が冷や汗を掻いていた。

 

「緑間がスリーだけの選手じゃない事は分かっていたが、ここまでとはな…」

 

根布谷も同様であった。

 

「決してあの坊や(大地)のディフェンスが悪い訳ではないわ。正確無比のスリーをちらつかされて上であのレベルのドライブを来られたらまず止められないわ」

 

同ポジションである実渕も緑間のプレーに驚愕していた。

 

「緑間のバスケの中心にあるものはやはりスリーだ。緑間にとって、全てのテクニックはスリーを生かす為、スリーを打つ為のものだった。だが、今はそのスリーを楔にして積極的に点を取りにいっている」

 

『…』

 

「花月に追い詰められ、自身への憤りから勝つ為にこだわりを捨て、がむしゃらに点を取りに行こうとした結果が今の姿なのだろうが、こんな姿は俺も見た事がない」

 

赤司は腕を組みながら淡々と言葉を口にしていく。

 

「だが、今の姿は付け焼き刃と呼ぶにはあまりにも強力だ。もしかしたら、この姿こそが、緑間という選手の完成形なのかもしれない」

 

「完成形…」

 

思わず実渕がオウム返しのように口にした。

 

「今の緑間は同じキセキの世代や同格の火神でさえ止めるのは至難の業。正直、さっきまで花月がこのまま押し切って勝利すると予想していたが、あのダンクで試合の流れも押し戻した。もはやこの試合、どちらに軍配が上がるか誰にも予想出来なくなった」

 

試合の有無は神のみぞ知る。既に結果の予想は赤司の手を離れたと宣言する。

 

「けど、さっきのスリーで6点差だぜ。残り時間も僅か。決まりじゃない?」

 

2本のカットインを布石に決めたスリーによって点差は6点に開いた。この事から葉山は秀徳勝利と断言する。

 

「進化しているの緑間だけではない。花月も、今この瞬間にも進化しようとしている。もし、彼らがまた進化したなら…」

 

ここで赤司は言葉を止めた。実渕、葉山、根布谷はあえて赤司に聞く事はなく、試合の結末を見届ける事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り1分17秒。

 

 

花月 116

秀徳 122

 

 

ボールをキープするのは空。慎重にゲームメイクをしている。

 

「…」

 

点差は6点。残り時間を考えても1本でも取りこぼせば敗北は確定。失点をしても同様。

 

「……よし」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して空がクロスオーバーで切り込む。高尾も空のリズムを読み、ホークアイを駆使して食らい付く。進路を塞がれると空はそこでボールを掴んだ。

 

「(打つのか!?)」

 

ミドルシュートを警戒する高尾。ボールを掴んだ空はシュート……ではなく、ビハインドパスをハイポストに立つ天野に出した。それと同時に反転してボールを渡した天野の下へ走り、ボールを貰いに行く。空が天野の下に到達する直前、天野は身体をリングへと向けた。

 

「しまった!」

 

天野の背後に張り付いた支倉。天野のリングに身体を向ける動きに釣られ、走り込んできた空に手渡しでボールを受け取った空に対応出来なかった。ボールを受け取った空はそのままリングに向かって跳躍した。

 

「何度も何度もやらせるかよ!」

 

 

――チッ…。

 

 

「っ!?」

 

ここに、宮地が現れ、空の放ったボールに手を伸ばす。伸ばした手の指先をボールが掠める。

 

 

――ガン!!!

 

 

触れた事で軌道が僅かに逸れ、ボールはリングに弾かれた。

 

「「リバウンドォッ!!!」」

 

空と宮地が同時に叫んだ。松永、木村が一斉にボールに飛びつく。

 

 

――ポン…。

 

 

ポジションが悪かった松永だが、木村の背後から手を伸ばし、タップしてボールをリングに押し込んだ。

 

「よっしゃ、ナイス!」

 

空と松永がハイタッチを交わした。

 

「まだ慌てる状況じゃねえ。落ち着いて1本返すぞ!」

 

すぐさまボールを拾った宮地が高尾にボールを渡した。ボールを貰った高尾はゆっくりボールをフロントコートまで進めた。早く点差を縮めたい花月をしり目に、秀徳はボールを回し、時間を使いながらチャンスを窺っている。

 

「(落ち着け。向こうは24秒以内に確実に打ってくる。例え時間いっぱい使われても時間は十分にある。今やらなきゃいけないのはボールを奪う事じゃない、失点を防ぐ事だ)」

 

心を落ち着け、冷静にディフェンスに努める空。

 

「(…ちっ、焦ってボールを奪いに来るかと思えば、意外に冷静じゃねえかよ。…まあいい、だったら、こっちは確実に行くぜ)」

 

高尾が手を上げて合図を出すと、木村が大地にスクリーンをかけに動く。

 

「(緑間さんか!?)」

 

左アウトサイドに走る緑間。大地はスクリーンをかわしながら緑間を追いかける。だが…。

 

『っ!?』

 

その時、緑間が動いた事で空いたスペースに宮地が走り込み、ボールを要求。

 

「ちぃっ、緑間は囮かいな!」

 

その動きを察知した天野が宮地のチェックに向かう。ここで高尾がパスを出した。

 

「なっ!?」

 

高尾が出したボールの先は、宮地でも緑間でもなく、ゴール下に立つ支倉だった。

 

「何も確率が高いのは真ちゃんだけじゃないからな」

 

ニヤリと笑みを浮かべる高尾。支倉の背後に松永が立った。

 

この試合、大地がマークする緑間からの失点が目立っているが、その陰に隠れ、松永も支倉をほとんど止めきれていないという事実がある。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

支倉が背中で松永をジリジリと押し込んでいく。

 

「ぐっ! …ぐっ…!」

 

少しずつ押し込まれていく松永。

 

「これ以上……やられてたまるか!」

 

歯を食い縛り、腰をさらに落として踏ん張り、支倉の進軍を止めた。

 

『止まった!?』

 

「それを、待っていたぞ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

進軍が止まったのと同時にスピンターンで松永をかわし、そのままボールを掴んでリングに跳躍した。

 

「させるか!」

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

ボールをリングに叩きつける支倉。その前にブロックに飛んだ松永の右手が阻む。

 

「態勢が悪い。元々のパワーも支倉さんの方が上だ。そのまま押し込める!」

 

支倉の勝利を確信する木村。その言葉通り、少しずつボールはリングに押し込まれていく。

 

「ぐっ! がっ!」

 

ここでの失点は致命的。松永は懸命に粘りを見せる松永。

 

「(俺はこの試合、何をした…。神城はゲームメイクを果たした。綾瀬は緑間を失速させ、さらにチームを勢い付けた。生嶋は外を決め、ディフェンスを外へ広げ、チャンスを作った。天野先輩はリバウンドを制し、何度も失点を阻止した。対して、俺はこの試合で何を為せた…)」

 

松永は自問自答を繰り返す。

 

「(俺がこの試合でした事は、周りのお膳立てで得点をしただけだ。まだ何も為してはいない!)」

 

ブロックする右手に力が集まる。

 

「(俺はキセキの世代を倒すと決めて花月に来た。断じて倒してもらう為ではない!)」

 

押し込まれていた右手が徐々に押し返し始めた。

 

「(勝つんだ! 俺自身の力で! 俺は…、その為に花月に来たのだから!)おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

 

――バチィィィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

身体から力を集め、渾身の力で松永はボールをかきだした。

 

『なにっ!?』

 

得点出来ると思っていた秀徳の選手からは驚愕の声が漏れる。

 

「さすが、全中ベスト5は伊達じゃねえな!」

 

ルーズボールを空が抑えた。

 

「速攻!」

 

空の号令と同時に花月の選手達がフロントコートに駆け上がる。

 

「戻れ! 絶対死守するぞ!」

 

宮地が声を出し、秀徳の選手達は大急ぎで自陣に戻り、ディフェンスを構築した。

 

「行くぞ!」

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

バックチェンジからのクロスオーバーでカットイン。

 

「行かせるかぁっ!」

 

高尾がこれに食らい付き、さらに木村、宮地が空を包囲にかかる。

 

 

――スッ…。

 

 

その瞬間、空はノールックビハインドパスで逆サイドにパスを出す。

 

「よし!」

 

ボールは大地に渡る。空が3人を引きつけた為、逆サイドは手薄。だが…。

 

「行かせん!」

 

大地の目の前には緑間が立っていた。1度は脚が限界を迎え、失速したものの、今はそれを感じさせない…どころかそれ以上の動きを見せている緑間。抜きさるのは容易ではない。

 

「(それでも、ここで私が点を取れなければ花月は負ける。何としてはここは私が…!)」

 

ここで大地はシュートフェイクを入れ、その直後、一気にバックステップで距離を取る。

 

「……くっ!」

 

だが、緑間はフェイクとバックステップを読み、距離を空けずに大地の動きに対応する。続けて大地は左右に連続して切り返し揺さぶりをかけるがそれでも緑間は崩れず、隙を見せない。

 

「(抜けない…! キセキの世代、ここまでなのですか…!)」

 

一向に抜く事が出来ず、大地の表情が曇り、顔に焦りの色が浮かび上がる。

 

「大地ーーーっ!」

 

その時、自身を呼ぶ声が耳に届く。先ほどパスを出した空がパスを要求していた。

 

「(空!)」

 

窮地とも言える状況に頼れる相棒の声。大地は迷わず空にパスを出した。

 

「(1人でどうにもならないなら、力を合わせて勝てばいい!)」

 

ボールを受け取った空はすぐさまリング付近にリターンパスのボールを放った。一方、大地はパスを出すのと同時に走っており、空のリターンパスを空中で掴んだ。

 

「…ちっ!」

 

大地を追いかける緑間だったが、スピードで劣り、さらに走り出しが遅れた為、ボールをスティール出来ず…。

 

 

――バス!!!

 

 

空中でボールを掴んだ大地はそのまま放った。ボールはバックボードに当たりながらリングの中央を潜った。

 

「よっしゃぁぁぁぁっ!!!」

 

空と大地がハイタッチを交わす。

 

『くっ!』

 

失点を防げず、苦悶の表情を浮かべる秀徳の選手達。

 

「取り乱すんじゃねえ! こんなピンチ、何度も味わってきただろうが!」

 

気落ちする選手達の中、主将である宮地が激を飛ばす。

 

「次の1本、必ず決めるぞ。最後まで気を抜くんじゃねえぞ!」

 

『応!!!』

 

宮地の激により、落ちかけた士気が戻り、さらに闘志が生まれた。

 

「ここまで来たら実績も実力も関係ねえ! より勝ちたいと願った方が勝つ。だったら勝つのは俺達だ。最後まで走りまくるぞ!」

 

『応!!!』

 

司令塔である空の激に花月の選手達が大声で応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

最終Q、残り1分を切った。両チーム共に限界間近。それでも気力を振り絞り、勝つ為に試合に臨んでいる。

 

もはや試合の結末は誰にも分からない。

 

点差は2点、秀徳ボール。この試合最後の攻防が、始まる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





新年を迎えて既に2週間。正月休みを満喫してしまった結果、執筆する時間が取れず…(^-^;)

さらにソシャゲのイベントが始まってしまい、現在それに熱中しています。何で常にかじりつかなきゃならないイベントばかりやるかね…orz

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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