黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

ギリギリ今年度までに投稿に間に合いました…(^-^;)

展開的に賛否両論出るかもしれませんが……受け止めます!

それではどうぞ!



第76Q~捨てるプライド~

 

 

 

第4Q、残り8分52秒。

 

 

花月 85

秀徳 98

 

 

最終Q開始直後、緑間に突如アクシデントが起こる。立て続けにスリーはブロックされ、空と大地には簡単に抜かれ、失点を喫する。それを見て中谷が慌ててタイムアウトを申請した。

 

突然コートで起こった出来事に、ベンチ、会場中がざわつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「緑間に何が起こった? 秀徳の監督やベンチの様子を見る限り、穏やかではなさそうだな」

 

「まさか、何処か負傷でもしたのか?」

 

慌ただしい秀徳の様子を見て、日向と伊月がざわつく。

 

「いえ、違うわ。あれは恐らく――」

 

 

「スタミナ切れ?」

 

「ああ。正確には、疲労によって脚が限界を迎えたのだろう」

 

実渕の問いに、赤司が答えた。

 

「でもさ、緑間ってスタミナもかなりあったはずじゃん」

 

納得出来なかった葉山が赤司に問いかける。

 

「要因はある。まず、第3Q終了時点で秀徳、花月の得点を合わせると約180。これは明らかなハイスコアゲーム。これだけでもかなりの消耗をさせられるが、注目すべきが、今日この試合で緑間が放ったスリーの本数だ」

 

「スリーの本数?」

 

「ブロックされたものも含めて、この試合で緑間が放ったスリーは25本。スリーポイントラインから数メートル離れた距離からのスリーは9本。センターラインより外から放ったスリーは7本ある。これはかなりのハイペースだ」

 

「確かに、秀徳の得点の8割近くが緑間だもんな。…けどさ、それだけで緑間があそこまでなんのかな?」

 

説明に一部は納得したものの、釈然としない様子の葉山。

 

「1番の要因は、緑間に対し、攻守両方で綾瀬がマークに付いた事だ」

 

「そういや、緑間をあいつ(大地)がマークしてた事が分からなかったな。身長的にもディフェンス能力的にも天野の方が適役だっただろ」

 

ここまで緑間を天野ではなく大地がマークして事に疑問を抱いていた根布谷。

 

「そうでもない。何故なら綾瀬の方がスピードも運動量も上だからだ」

 

「?」

 

赤司の言葉に根布谷は頭に『?』を浮かべる。

 

「まず、オフェンス時、綾瀬のマークはとにかくしつこい。並みの者ではボールすら貰えない程にね」

 

「あー確かに、あいつ大人しそうな顔して凄いマークしつこかったなぁ」

 

「征ちゃんがポイントガードじゃなかったらあなたほとんどボール持てなかったわよ」

 

げんなりする葉山する。インターハイ決勝での試合では大地と葉山が勝負する機会はそれなりにあったが、その要因は、マークを外すと同時にパスが出せる赤司がいたからこそである。

 

「次にディフェンスだが、綾瀬はガンガン切り込む葉山と同じスラッシャータイプの選手。スピードも全国でレベルでトップクラスであり、緩急もある。そして、緑間と綾瀬には14㎝もの身長差がある。つまり、緑間が綾瀬を相手にする時、常に距離を取り、そして重心低くしてディフェンスに臨まなくてはならない」

 

「? それが何か関係あるの?」

 

「それがどうかしたのか?」

 

いまいちピンとこない葉山と根布谷。

 

「小太郎は自分より極端に身長が低い上にスピードもある相手と戦う事はないでしょうし、ゴール下が主戦場のあなたも分からないでしょうけど、身長が低くてかつスピードがある相手って凄い疲れるのよ?」

 

理解出来ていない2人に実渕が言う。

 

「重心を下げるという事は、膝を深く曲げる態勢を強いられる。そんな態勢をディフェンス時だけとはいえ、し続ければ脚にかかる負担も大きい」

 

ここで、赤司は背もたれに背中を預けた。

 

「ハイスコアゲーム、打ち過ぎたスリー、綾瀬のマッチアップ。これらが重なった事が要因で緑間の脚はここで限界を迎えてしまった。という事だ」

 

「でも、らしくないわね。征ちゃんを除く他のキセキの世代や火神ちゃんならまだしも、あの冷静な緑間ちゃんがこんな致命的なミスを犯すなんて」

 

「いや、むしろ緑間だからこそかもしれない」

 

緑間らしからぬミスだと発言する実渕。だが、赤司はむしろ緑間故と発言する。

 

「緑間は冷静で思慮深い性格だ。それは去年のインハイ予選で誠凛に負けてからは特にだ。相手が1%でも負ける可能性がある相手なら、相手の心が折れるか、逆転不可能な程の点差を付けない限り決して手を抜かない。今日の試合もそういう心持で試合に臨んだ事だろう。だが、緑間が俺達や誠凛程花月を評価していたかと言えば、答えはノーだろう」

 

『…』

 

「仮に、俺達が花月のような策を弄したなら、緑間はかなり早い段階で気付いただろう。だが、気付かなかった。いや、疑問には行きついたのかもしれないが、そこで思考を止めてしまったのだろう」

 

「つまり、手を抜かないから全力を尽くし、侮っていたから策に気付かなかった。ということね」

 

繊細な心理描写を赤司が説明し、実渕が葉山と根布谷にも分かるように簡潔に短く要約した。

 

「緑間は下がるか?」

 

「いや、下げないだろう。単純なスタミナ切れなら、数分ベンチで休ませればある程度は回復するだろうが、限界を迎えた脚は数分休ませたぐらいでは回復しない。何より、緑間がいなくなれば外の脅威がなくなり、得点は確実に激減する」

 

根布谷の考えを赤司が否定する。

 

「残り約9分残して緑間が失速。勢いは確実に花月に傾くだろうし……どうなるか分かんなくなってきたな」

 

葉山がポツリとそう口にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「真ちゃん! 大丈夫か!?」

 

「おい緑間! 何があった!?」

 

倒れ込むようにベンチに座った緑間に慌てて高尾と宮地が駆け寄る。

 

「何でも、ないのだよ」

 

そんな2人に心配をかけたくないのか、気丈にふるまう緑間。そこへ、中谷がやってきた。

 

「見せてみろ」

 

床に膝を付いて緑間の脚に触れる。

 

「……氷を持ってこい。急げ」

 

そう指示を出すと、ベンチいる1人が慌ててクーラーボックスから氷を取り出す。

 

「…っ!」

 

氷を受け取った中谷が緑間の両脹脛に氷を当てる。すると、緑間が顔を顰めた。

 

「第3Q最後のブロック。あの時に既に自覚症状はあったな。何故黙っていた?」

 

「…」

 

咎めるようにではなく、諭すように緑間に尋ねる。だが、緑間は無言のまま。

 

「…全く、我慢は美徳ではないんだぞ」

 

ふぅっと溜息を吐くように言った。だが、中谷は緑間を咎める事は出来なかった。緑間が入学以来、緑間を中心のチーム作りをすると本人及び、チーム全体に言い聞かせていた。誰よりも責任感が強い緑間が試合終盤、楽観視出来ない点差の状況で泣き言を言うはずがない事は分かっていたからだ。

 

「ディフェンスを変える。ここからはマンツーではなく、2-3ゾーンで行く。前を左から高尾、宮地。後ろは緑間、支倉、木村だ」

 

中谷がマグネットボードを取り出すと、選手に見立てたマグネットを貼りながら選手達にここからの作戦を説明していく。

 

「オフェンスでは24秒きっちり使って確実に得点を積み立てて行け」

 

『はい!!!』

 

「緑間。今から第4Q終盤までスリーポイントライン手前から以外のスリーは打つな。高弾道のスリーも同様だ。あれはメリットもあるが脚への負担も大きい。ループの高さは抑えろ」

 

「…っ」

 

中谷に命じられたが、納得出来ないのか返事を渋る緑間。

 

「勝つ為だ。終盤の勝負所で抜けられては困る。それまでは私の指示に従え」

 

「……分かりました」

 

勝利の為、という言葉を聞き、緑間は渋々指示に従った。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

タイムアウト終了のブザーが鳴った。

 

「よし! 最後まで足を止めんじゃねえぞ! 行くぞ!」

 

『おう!!!』

 

秀徳の選手達がコートへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

秀徳ボールから試合が再開される。審判から木村がボールを受け取り、リスタート。ボールは木村から高尾に渡される。

 

「1本! 行くぞ!」

 

高尾が声を高々と張り上げ、秀徳のオフェンスが始まる。秀徳はこれまでとは違ってペースダウン。とにかくパスを回し、各々があまりボールを持ち過ぎず、無理な攻めはしない。

 

「どうしたよ? 随分と慎重に攻めるじゃん」

 

「…」

 

軽口で喋る空。高尾は表情を変えずにボールを回す。

 

 

――バス!!!

 

 

24秒タイマーが残り4秒になったところで高尾がゴール下にボールを入れる。支倉がボールを受け取り、背中で松永を押しやり、そのままゴール下を沈めた。

 

「ドンマイ! 返そうぜ!」

 

空が松永からボールを受け取り、フロントコートまでボールを進めた。

 

「おっ?」

 

ここで、空は秀徳のディフェンスがマンツーからゾーンに変わった事に気付く。

 

「ここまで露骨に変わられると追い込まれてるって教えてるようなもんだぜ」

 

秀徳の変わりように空が思わず笑みを浮かべる。

 

「(…チラッ)」

 

「(…コクッ)」

 

空がアイコンタクトをすると、松永が頷き、ローポストの位置から空に向かってダッシュ。すると、松永の動きに支倉が釣られてしまう。松永のフラッシュの動きに合わせ、空は左アウトサイドにいた大地にパス。それと同時に空は松永と交差するようにゴール下にダッシュ。それに合わせて大地が空にパスを出した。

 

「よっしゃ!」

 

 

――バス!!!

 

 

松永のフラッシュでゾーンを乱された秀徳ディフェンスは対応出来ず、空はレイアップを決めた。

 

「気にするな取り返すぞ!」

 

ボールを拾った宮地がスローワーとなり、高尾にボールを渡す。

 

「っ!? 高尾!」

 

高尾にボールを渡した瞬間、宮地が声を上げる。

 

「えっ?」

 

その瞬間、空と大地がボールを受けた高尾に激しいプレッシャーをかけた。

 

『なっ!?』

 

秀徳ベンチ、中谷は思わず立ち上がり、選手達は声を失う。

 

『オールコートゾーンプレス!?』

 

花月が仕掛けたオールコートゾーンプレスに、会場中が驚愕に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

先程のタイムアウト、花月のベンチ…。

 

『綾瀬のおかげで緑間を疲弊させる事に成功した。ここからは恐らく、秀徳はオフェンスでは時間をかけて確実に得点を奪い、ディフェンスではゾーンでインサイドを固めてくるだろう。…神城、綾瀬、まだ走れるな?』

 

『当然』

 

『もちろんです』

 

『相手のオフェンスに切り替わったら仕掛けろ』

 

『『はい!』』

 

『正念場だ。苦しいだろうが、そんなものは毎日味わってきたはずだ。俺がお前達をしごいてきたのはこの時の為だ。後9分、走り切れ!』

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「くっ……くそっ…!」

 

空と大地の2人がかりのプレッシャーに高尾はどんどんコートの隅に追いやられてしまう。

 

 

―――バチィィッ!!!

 

 

ボールキープが出来なくなり、ボールは弾かれ、奪われてしまう。

 

「よし!」

 

ルーズボールを大地が拾いそのままリングに向かって跳躍。

 

「決めさせるか!」

 

そこへ、支倉がブロックに現れる。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

支倉がブロックに現れると、大地は1度ボールを下げ、ブロックをかわし…。

 

 

――バス!!!

 

 

そこからリングに背を向けたままボールを放り、ダブルクラッチで得点を決めた。

 

「何て奴等だよ…」

 

ボールを拾った宮地の表情が驚愕に染まる。試合終盤。疲労がピークのこの時間帯でオールコートゾーンプレス。ましてや、花月はこの試合既に相当な距離を走っている上に空と大地はもう2試合分は走っている。

 

「…ちっ」

 

宮地がスローワーとなった瞬間、天野が目の前で両腕を広げながら立つ。パスターゲットを探す宮地だが、高尾以外にフリーの選手がおらず、5秒が経過する前にやむを得ず高尾にボールを渡す。同時に空と大地が再びプレッシャーをかけた。

 

「ハッ! この程度の事でおたおたしてるようじゃ、秀徳のポイントガードは務まらねえんだよ」

 

ボールを受けた高尾はすぐさま宮地にボールを戻し、前に走る。同時にフロントコートから支倉が戻ってきて、宮地がすかさずそこへパスを出した。

 

『ダブルチームが突破されたぞ!』

 

『ゾーンプレスが破られた!』

 

ボールを受けた支倉は走ってきた高尾に手渡しでボールを渡した。

 

「そんな付け焼き刃のゾーンプレスが2度も通用するかよ」

 

鼻で笑いながらボールを受け取った高尾がドリブルを始める。

 

「ちっ、止める」

 

そこへ、松永が両腕を広げて立ち塞がる。それと同時に高尾はノールックビハインドパスでボールを横に流す。そこへ走ってきた木村がボールを受け取り、そのままリングに向かってドリブル。リング手前でレイアップの態勢に入った。

 

 

「オールコートゾーンプレスは強力な反面突破されればたちまち失点に繋がる諸刃の剣。普通ならな」

 

腕組みしながら試合を見守る上杉。

 

「なっ!?」

 

その瞬間、木村の表情が驚愕に染まる。リングにボールを放った瞬間、そのボールを叩き落とそうする1本の腕が現れたからだ。

 

「例えゾーンプレスを突破されても、シュート態勢に入る前に追いついてしまう化け物がいるウチにはそんな常識は通用しない」

 

 

「神城!?」

 

ブロックに現れたのは空。空はレイアップを木村より早く、そして高く回り込んだ。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

手から放れたボールを空が叩き落とした。

 

「くっ! ルーズボール、抑えろ!」

 

宮地が叫び、高尾がボールに向かって走り込む。ボールを先に抑えたのは…。

 

「ナイス、大地!」

 

ボールに向かう高尾を追い抜いた大地が先にボールを掴んだ。そして、ブロックと同時に前へと走った空にボールを渡す。

 

「くそっ、行かせるかよ1年坊!」

 

フロントコートに入り、スリーポイントライン目前のところで宮地が空の前に立ち塞がった。その後ろにすぐにヘルプに行けるポジションに支倉がいた為、空は無理に突っ込まず、ボールを止めた。その間に、他の秀徳の選手が戻り、2-3ゾーンを布いた。

 

「お前が化け物染みたスタミナの持ち主だってのは理解したよ。けどな、これ以上は何もやらせねえ。お前のスピードにももう慣れた。次は止める」

 

ディフェンスが高尾と入れ替わり、高尾が腰を落として空の動きに備える。

 

「ふーん、そう…」

 

ここで空が右手から左手へとボールを切り返し…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、止めてみろよ。俺のマックススピードを…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「えっ?」

 

その瞬間、高尾の横を風が抜けたかのように空が1歩で横に並び、2歩目で駆け抜けた。ディフェンスをしていた高尾は棒立ちのまま一切反応する事が出来なかった。

 

「っ!? 囲め! これ以上行かせるな!」

 

一瞬驚くも宮地がすぐさま指示を出し、空の動きに対応する。切り込んだ空に宮地、木村がチェックに入る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そこから高速のスピンムーブ。包囲網を突破した。突破した所で空がボールを持って跳躍。

 

「くそっ!」

 

慌てて支倉がヘルプに飛び出し、ブロックに向かう。

 

 

――スッ…。

 

 

空はリングから離れた所でレイアップの構えでボールをふわりと浮かせるようにリングに放った。ボールは支倉のブロックの上を弧を描くように超え…。

 

「スクープショット!?」

 

支倉は自身の両手の上を越えるボールを見上げながら目を見開く。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

吸い込まれるようにリングの中央を射抜いた。

 

『うおぉぉぉぉっ! ゾーンを突破して決めたぁっ!!!』

 

空のビッグプレーに観客が沸き上がる。

 

「何だよ今の……今までのは全速じゃなかったってのかよ…」

 

最初に抜かれた高尾が茫然と立ち尽くす。

 

「最初の勝負以降、俺は少しずつスピードを下げて戦っていた。あんたがギリギリ対応出来ないまでにね」

 

「っ!?」

 

すれ違い様に空が高尾に語り掛ける。

 

「考えたら分かるでしょ? 40分って長丁場の試合で最初から最後まで全速で走ろうとする奴がいたとするなら、そりゃ単なる馬鹿だ」

 

高尾の横に並んだ所で空が足を止める。

 

「俺達はおたくと違って全学年合わせても登録メンバーギリギリの12人しかいない。何故だか分かるか?」

 

「あん?」

 

突然空から尋ねられ、怪訝そうな表情で返す高尾。

 

「厳しい練習に付いていけねえからさ。過去にも経験者、体力自慢、果てはそれなりにバスケで鳴らした奴が花月のバスケ部に来た。けど、厳しい練習に耐えられなくて残ったこの12人だけだ」

 

「…」

 

「そういや、さっき俺に言ったよな。頑張ればユニフォームを貰えるお前らとは違う、だっけ? なら今度はこっちが言ってやる。あんな大人数が残っちまうような温い練習しかしてないおたくとは鍛え方が違うんだよ。身体も、心もな」

 

「っ!?」

 

空の睨み付けるような表情で告げられ、高尾は僅かに圧倒された。

 

「肝に銘じておきな、おたくのへばったエース共々な」

 

そう告げ、空は自陣へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「……ここまで散々走りまくった挙句にオールコートゾーンプレスに突破されてから追い付いちまうスピード」

 

「…だんだん征ちゃん達(キセキの世代)より化け物に見えてきたわ」

 

空と大地の衰えないスピードと運動量に葉山と実渕も表情が引き攣った。

 

「おっ? 花月がゾーンプレスをやめたぞ」

 

自陣に戻る花月の選手達を見て根布谷が言った。

 

「失点を防いだとはいえ、ゾーンプレスを抜かれたからね。これ以上続けるのは愚策だ」

 

状況を見て赤司が口に出す。

 

「(…チラッ)」

 

赤司が辺りを見渡す。

 

「秀徳は早く何か手を打つ事だ。そうでないと、秀徳最大の不安要素が顔を出す事になる」

 

意味深に赤司がボソリと言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスが秀徳に変わる。指示どおり、ボールを回し、時間をたっぷり使いながらチャンスを窺う。

 

「あっ!?」

 

ボールがローポストの支倉に渡り、再びインサイドプレー……と見せかけて、外にパスを出した。そこには、木村のスクリーンのおかげでフリーになった緑間がおり、ノーマークでボールを受け取った。

 

「…くっ…!」

 

緑間はスリーポイントラインの僅か外でシュートを放つ。その際、若干表情を曇らせた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングに触れる事なく中央を潜った。

 

『うわー! ここでのスリーは痛い!』

 

観客が頭を抱えた。

 

「(…ですが、今のは打点もボールのループ低かった。かなり消耗している事は間違いないなさそうですね)」

 

緑間の様子を見て、大地は冷静に分析した。

 

オフェンスは、花月へと切り替わる。空がフロントコートまでボールを進め、スリーポイントラインの手前でボールを止める。秀徳のディフェンスは変わらず2-3ゾーン。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空がドライブで切り込み、ペイントエリアに侵入する。そして、包囲が始まる前に右アウトサイドにパスを出した。ボールは大地に渡る。

 

「行きます」

 

空の切り込みによって出来たスペースに大地がドリブルで切り込む。そこへ、緑間が現れる。

 

「これ以上調子には乗らせないのだよ!」

 

必死の表情で緑間がディフェンスに臨む。大地は緑間が現れると左右に切り返し、ゆさぶりをかける。

 

「(さすがにディフェンスは上手い。ですが、下半身の動きが明らかに鈍い。今の緑間さんなら私でも…!)」

 

ここで大地が重心を後ろへと移す。

 

「(バックステップか!)」

 

下がる大地の対応する為、緑間が前に出ようとする。だが…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地は重心を後ろに下げた態勢でドライブを仕掛けた。

 

「(くっ、ロッカーモーションか!)」

 

横を抜ける大地を緑間が追いかけようとするが。

 

「っ!?」

 

その瞬間、緑間の脚から力が抜け、その場で尻餅を付いてしまう。

 

『抜いたぁぁぁっ!!!』

 

緑間を抜いた大地はそのままリングに向かっていく。

 

「止める! これ以上は…!」

 

「何度も決めさせるかよぉっ!!!」

 

支倉と宮地が2人がかりでチェックに入った。大地はシュートフェイクを入れ、2人がそれにかかってブロックに飛んだ所で逆サイドにパス。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

ボールは左アウトサイド、エンドラインギリギリに立っていた生嶋に渡った。

 

「そいつはもう何も出来ねえ! 落ち着いてボールを奪いに行け!」

 

宮地から指示が飛ぶ。

 

「腕は動く、リングは……そこだね…」

 

よろよろとした動きでボールを構え、生嶋はボールを放った。

 

「入るわけねえ、あんなヨレヨレの構えで…!」

 

リバウンドに備え、宮地と支倉がスクリーンアウトを取る。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

ボールがリングに掠る事なく潜り、言葉を失う宮地。

 

「ええで、イク!」

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

天野に労われた生嶋は、そっと拳を握った。

 

『いいぞ花月!』

 

『頑張れ花月!』

 

花月の奮闘に、観客から声援が上がり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「火神君、急いで下さい」

 

「わーってるよ」

 

会場前の誠凛の黒子テツヤがチームメイトの火神大我を急かす。

 

「信じられません。ウインターカップの試合を見に行こうって言った張本人が寝坊するとか。おかげで待ち合わせをしていた僕も遅刻です」

 

「悪かったって! 今日練習休むから昨日の夜今日の分トレーニングしたらつい…」

 

「言い訳は聞き飽きました。キビキビ歩いて下さい」

 

理由を説明する火神に対し、黒子は淡々と話、足を進める。その後を火神が付いていく。

 

「(秀徳の相手は花月か。夏に見た限り、三杉と堀田がいない花月に苦戦するとは思えねえ。恐らく20点差…もしかしたら30点…)」

 

やがて2人は会場内に辿り着く。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

2人が会場に辿り着いた瞬間、会場中に歓声が響き渡る。

 

「おっ、まだ試合は終わってないな。先輩達は――」

 

「っ!? 火神君、あれを見て下さい!」

 

突如、黒子が血相を変えて電光掲示板を指差した。

 

「どうしたくろ――っ!? …うそ…だろ……」

 

電光掲示板を見た火神が目を見開き、言葉を失う。

 

 

第4Q、残り3分17秒。

 

 

花月 107

秀徳 113

 

 

「6点差? たった?」

 

想像を遥かに下回る点差であった為、驚きを隠せない火神。その時、電光掲示板の数字が動く。

 

 

花月 110

秀徳 113

 

 

花月の数字が3点加算される。コート上を見ると、右アウトサイドのスリーポイントラインの外側で拳を握る空の姿があった。

 

「先輩! いったい何が…!」

 

日向達を見つけた火神が駆け寄る。

 

「遅ぇーぞ火神。…どうもこうも見たままだ。第4Q入って突然緑間が失速して、瞬く間に花月が20点近くあった点差を詰めやがった」

 

遅刻してきた火神を叱りつつ日向が状況を簡潔に説明した。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここでブザーが鳴る。秀徳がタイムアウトを申請し、それが今コールされた。

 

『ハァ…ハァ…』

 

秀徳の選手達は、息を切らしながらベンチへと下がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「よっしゃー! 3点まで詰めたぞ!」

 

ベンチに辿り着くと同時に空がガッツポーズで喜びを露わにした。

 

「喜んでないでさっさと座って呼吸を整えなさい!」

 

喜びまわる空を姫川が無理やりベンチに座らせ、タオルとドリンクを渡した。

 

「ええ調子やで。第4Qに入って緑間の得点は確実に減った。あの調子じゃ、打てる弾数も残り僅かなのは確実やろ」

 

足が止まりかけている緑間を見て天野が笑みを浮かべる。天野の言葉に選手達の表情も綻ぶ。

 

「静まれ」

 

その時、決して大きい声ではないが、よく通る声で選手達に向けて言った。

 

「もう勝ったつもりか? まだ試合は終わってない。ましてや、こっちはまだ負けてるんだ。その事を忘れるな」

 

諫めるような上杉の言葉に選手達の表情が引き締まる。

 

「最後まで足を止めるな。試合終了まで走り抜け」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

タイムアウトが終了し、選手達がコートに戻ってきた。

 

『点差はたった3点。これはもしかしたら…』

 

『三杉と堀田がいないから大した事ないかと思ってたけど、花月もやるじゃん』

 

『この調子なら番狂わせもあり得るぜ』

 

『ここまで来たなら勝っちまえ!』

 

『頑張れ花月!』

 

選手達がコートにやってくると、会場中が花月の応援一色に染まる。

 

『かーげーつ! かーげーつ!』

 

『っ!』

 

会場中から発せられる花月コールに秀徳の選手達の表情が曇った。

 

 

「スゲーな、観客のほとんどが花月の味方だぜ」

 

会場の熱気に根布谷が圧倒される。

 

「これが俺の言った、秀徳の3つ目の不安要素だ」

 

「えっ? どういうこと?」

 

答えが分からない葉山は赤司に聞き返す。

 

「この試合、秀徳先行で試合が進む事は分かっていた。点差がある程度付くことも。花月が秀徳を追い詰める事があるとすれば、開いた点差を一気に詰める展開だ」

 

『…』

 

「緑間のいる秀徳と三杉と堀田がいない花月ではどう見ても花月が格下に見える。そんな花月が開いた点差を一気に詰めて逆転可能な所まで来たなら…」

 

「ジャイアントキリングって奴ね」

 

「そうだ。番狂わせってのは見る者を熱くさせる展開だ。つい応援したくなる。ここからは、花月には声援が送られるだろう。声援が選手に与える影響は大きい。それは、お前達も良く理解しているだろう?」

 

「「「…」」」

 

実渕、葉山、根布谷の3人が険しい表情をする。洛山は昨年のウインターカップの決勝で、誠凛絶体絶命の状況で会場中が誠凛の応援に回り、誠凛の選手達は力を貰い、逆転のきっかけとなった。応援が選手に与える影響をよく理解していた。

 

「秀徳は苦しい状況になる。このまま流れを変えられないのなら、秀徳の敗北は決定する」

 

予告するように赤司は呟いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地のミドルシュートがリングを潜った。

 

「ナイッシュー大地!」

 

得点を決めた大地に空が笑顔で駆け寄った。

 

『キタ、1点差だ!』

 

『いいぞー、頑張れー!』

 

会場中から花月を労う声援が送られる。

 

『…っ!』

 

失点を喫し、花月に送られる声援に秀徳の選手達の精神は確実に削られていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「何やってんだよ緑間の奴…!」

 

確実に縮まる点差を見て、火神は苛立ちを露わにする。

 

誠凛と秀徳は、ウインターカップ出の最後の枠を賭けて戦った同士であり、火神と緑間は互いに認めたライバル同士である。試合は僅差で秀徳が勝利し、ウインターカップ出場の最後の席を獲得した。

 

この結果に火神は悔しさは残るが、全力を尽くした結果である為、納得しており、秀徳には1つ多く勝ち上がってほしいと願っていた。

 

だが、今この状況に火神は苛立ちを隠せないでいた。火神から見て花月は格下という認識であり、秀徳が他のキセキの世代がいる高校に負けるなら納得出来るが、格下の花月に負けるのは納得出来なかった。

 

「…」

 

その隣に立つ黒子は、真っすぐコートを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(どうして、こうなった…)」

 

緑間が疲弊し、倍にも感じる身体で走りながら自問自答をする。

 

緑間は決して花月を侮っているつもりはなかった。試合途中、上手く行き過ぎている状況に1度は疑問を抱いた。だが、自分達の方が優れているのでこの状況は必然。例え相手が何を企んでいようと、逆転不可能な程点差を付けてしまえば一緒だと考え、思考を止めてしまった。

 

「(今日程、自分自身に腹が立った事はない)」

 

今、この状況を招いたのは自分自身にあると考える緑間は、自身への苛立ちを隠せないでいた。この状況を何とかしたいと考えるが、身体は鉛のように重く、思い通りに動かない。

 

「(くそっ…!)」

 

重い身体、会場中から発せられる花月コールに緑間の心に影が現れ、視線が下へと向いてしまう。

 

「(負けるのか…)」

 

こんな言葉が頭の中をよぎったその時!

 

『緑間君!』

 

『緑間!』

 

突如、自身を呼ぶ声が緑間の耳に届いた。直感的にこの声はチームメイトのものではないと理解する。顔を上げ、観客席の一角に視線を向けるとそこには…。

 

「…黒子!」

 

視線の先には、苛立った表情で自身を見つめる火神と、真っすぐ自身を見つめる黒子の姿があった。

 

「(…忌々しい奴等だ)」

 

自身と対等の才能を持ち、相性の悪さから何度も煮え湯を飲まされたライバル、火神大我と、決して1人では何も出来ない。それでも試合では頼りになり、人事を尽くして最後まで試合を諦めない黒子テツヤ。

 

不思議と、2人の視線を浴びた緑間の身体に力が沸いてきた。

 

「こい!」

 

緑間が顔を上げ、ボールを持つ高尾にボールを要求した。

 

「真ちゃん…」

 

必死の表情でボールを要求する緑間に一瞬戸惑うも高尾は緑間にボールを渡した。それと同時に大地がチェックに入る。

 

「(ここを止めて逆転に繋げれば勝利を呼び込めます。ここは止めてみせます!)」

 

勝負所であると考えた大地は集中力を高めてディフェンスに臨む。

 

「(やる気みたいだが、足が止まった状態で大地をかわせるかよ。ボールを奪ったらフロントコートに走って逆転を狙う!)」

 

空はディフェンスをしつついつでも走れるよう心掛ける。

 

しつこくプレッシャーをかける大地。

 

「(…ギリッ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

緑間は歯をきつく食い縛りながらドライブで大地の横を抜ける。

 

「っ!? 速い!」

 

想定しなかった突然の緑間のドライブとそのスピードに大地は目を見開いた。大地を抜いた緑間はそのままリングに向かってドリブルをしていく。

 

「これ以上は行かせん!」

 

そこへ、松永がヘルプに現れた。

 

「(…チラッ)」

 

松永が現れると、緑間は視線をリングに向けた。

 

「(打つのか!?)」

 

それを見て松永はミドルシュートを警戒する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、緑間は松永をバックロールターンでかわした。

 

「突然やる気出したやないか!」

 

松永が抜かれたのを見て天野がヘルプに向かう。

 

 

 

 

 

――サルでも出来るダンク応酬。運命に選ばれる訳がない。

 

 

 

 

 

かつて、誠凛に負けた黄瀬に向けて放った自身の言葉。今でもその言葉は間違っていないと思っている。

 

ここで緑間はボールを持って跳躍した。

 

 

 

 

 

――君のスリーは確かにすごいです。けど、僕はチームに勢いをつけたさっきのダンクも点数以上に価値のあるシュートだと思います。

 

 

 

 

 

始めて誠凛と戦った際、自分の上からダンクを決めた火神を決められた時に黒子が自分に向けて放った言葉。

 

「決めさせへんでぇっ!」

 

天野がブロックに飛ぶ。

 

「(忌々しい…忌々しい…! ……だが!)おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

緑間はボールを左手に持ち替え…。

 

 

 

 

 

――バキャァァァァァァァァッ!!!!!!

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

天野の上からボールをリングに叩きつけた。

 

『…』

 

静まる会場。ボールがコートに落ち、続いて緑間がリングから手を放し、コートへと着地する。

 

『おっ…』

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

会場がこの日1番の歓声に包まれる。

 

「もう勝った気でいるのか? まだ試合は終わってないのだよ」

 

ここで緑間が振り返る。

 

「絶対に負けん。勝つのは、俺達だ!」

 

緑間が花月の選手達に向けて言い放ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





いやー間に合って良かったです…(^-^;)

ここからここまで書こうと決めていたんですが、いざ書いてみたらここまでのボリュームになってしまいました。

やり切りました。後は年越しを待つだけです。

来年は、もっと投稿ペースを上げたいなぁ…(遠い目)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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