投稿します!
何とか書きあがりました!
それではどうぞ!
第2Q、残り3分48秒。
花月 39
秀徳 51
ボールは現在、高尾がキープし、秀徳のオフェンス。
「…」
「…」
高尾をマークしているのは空。鬼気迫る表情でディフェンスに臨んでいる。
「(いい表情してんな。思ったとおり、こいつにはこの手の崩し方が一番だな)」
空の表情を見て内心でほくそ笑む高尾。1度ボールを切り返した後にドライブを仕掛ける。
「遅ぇーよ」
そんな高尾のドライブに空は難なく付いていく。
「別に抜こうななんて思ってねえよ」
ドライブを仕掛けた直後、頭上からオーバーヘッドパスでハイポストに立っていた木村にパスを出した。ボールを貰った木村はローポストに立っている支倉にパスを出した。
「止めてみせる!」
背後に立った松永が気合を放ちながらディフェンスに現れた。
「…」
支倉は一瞬ターンをする素振りを見せ、松永から距離を取って反転。正面を向き、シュート態勢に入った。
「くそっ、打たせん!」
距離を空けられた松永だが、すぐに距離を詰め、ブロックに飛んだ。
「まっつん、フェイクだよ!」
「っ!?」
慌てて生嶋が声を出した。だが既に手遅れ。ブロックに飛んだ松永だったが、支倉がシュートにいっておらず、フェイクであった事にここで気付き、目を見開いた。
「支倉さんはパワーと高さこそ去年のキャプテンの大坪さんに劣るけど、テクニックとシュートエリアの広さなら上なんだぜ」
フェイクで引っかけた支倉を見てしてやったりの表情で高尾が呟いた。ポンプフェイクの後、改めてシュート態勢に入った。
――ポン…。
「っ!?」
ボールを頭上に掲げようとした瞬間、支倉の持つボールが何者かによって弾かれた。
『神城だぁっ!』
弾いたのは空。高尾のパスの直後に一気に距離を詰め、支倉の持つボールを狙い撃った。空はすかさずボールを保持すると、そのまま単独で速攻を仕掛けていった。
「ちっ、調子に乗んなよ!」
フロントコートに到達したところで高尾がディフェンスにやってくる。
「…っ」
目の前に高尾が現れても空は歯を食いしばって強引に仕掛けていく。高尾が横に並んだ瞬間空はバックロールターンで反転。高尾の逆を付く。
「同じフェイントに何度もかかるかよ!」
バックロールターンを読んだ高尾は空と同時に反転し、再度空の進路を塞ぎにかかる。
――ダムッ!!!
高尾が進路を塞ぎにかかる為に1歩踏み出した瞬間、高尾の股下からボールを通しながら切り返して高尾を抜きさった。その後、空はそのままリング目掛けてドリブルをしていく。
「いつまでも調子に乗るなよ1年坊!」
「絶対に止める!」
ここで、高尾と抜きさる為に時間をかけた隙に宮地と木村の2人がディフェンスにやってきた。
「アウトナンバーだ! 神城、俺達のフォローを待て!」
後ろから松永が声を出す。だが、空はそれでも構わず突っ込み、リング目掛けて跳躍した。
「叩き落してやる!」
「舐めるな!」
それに合わせて宮地と木村もブロックに飛んだ。空の目の前に2枚の高い壁が道を阻む。
『うわー、いくら何でも無茶だ!』
観客から悲鳴に近い声が飛び出る。
――スッ…。
目の前にブロックが2枚現れると、空は掲げていたボールを1度下げ、2人の間、脇の下からひょいとボールを放り投げた。
――バス!!!
ボールはバックボードに当たってリングの中央を潜った。
『スゲー! 何だ今の!?』
ブロックを空中でかわし、決めた空が着地する。
「フー」
大きく一息吐いた。
「入ったから良かったものの、今のは俺と生嶋を待って確実に行くべきだったんじゃないのか?」
ここで追いついた松永が今の空のプレーに苦言を呈した。
「だったらもっと早くフォローに来いよ。待ってる間にディフェンスに戻られたら意味がないだろうが」
「っ!」
突き放すような空の言葉に、松永の表情が曇る。
「くー、そんな言い方は…」
「生嶋も、マークが全然外れてねえからパスが出せねえんだよ。ディフェンスをたかだが1人引き付けるだけがお前の仕事なのか?」
「っ!?」
先ほどと同様の口調で告げられ、生嶋の表情が曇った。
「…」
2人を一瞥すると、空はディフェンスへと戻っていった。
「「…」」
そんな空を見ながら生嶋と松永は晴れない表情で自陣に戻っていった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
その後も、花月は空がボールを保持すると単独で仕掛け、得点を重ねていく。一方、秀徳は高尾がボールを上手く回し、木村がポストプレーで中継し、緑間のスリーを中心に得点を重ねていった。
第2Q、残り時間14秒。
花月 49
秀徳 62
点差は、大きく広がる事も縮まる事もないまま第2Q残り僅かな所まで進行していた。
「…」
現在秀徳のオフェンス、ボールを保持するのは高尾。
「(完全に熱くなってる。ここまでは目論見通り。…だが、まさか、こいつ(空)を止めるのがここまで厄介とはな。さすが、インハイで五将の実渕を圧倒しただけの事はありやがる!)」
ボールをキープしながら空を見据える高尾。空のダンクとその後のバスカン以降、花月のオフェンスはほとんど空が担い、ディフェンスでも半ば空がポジションを無視して動き回っている。
ここまでは高尾の予定通りであったが、空のオフェンス力が高尾の想定を上回っていた為、点差は想定を下回っていた。
「止めてやる。俺が花月を勝利に…!」
「…くっ!」
鬼気迫る表情でガンガンプレッシャーをかける空。そのプレッシャーに高尾は圧倒されていた。ボールキープが困難になった高尾はハイポストに立っていた木村にパスを出した。
「お前の仕事はチームのサポートやろ? させへんよ」
背後を取った天野が木村にプレッシャーをかける。
「(くっ! この人、ディフェンスが上手い! 俺では抜く事はおろか、碌に仕事も出来ない。このままじゃ…!)」
隙を窺う木村だったが、ディフェンス名手である天野を前にボールをキープするだけ手一杯になっていた。
「ボールを持ち過ぎだぞ! こっちだ!」
見かねた宮地がボールを貰いに走っていく。ボールキープが困難になった木村はすかさず宮地にパスを出した。
「っ! 木村、ダメだ出すな!」
――バチィィッ!!!
「えっ?」
咄嗟に声掛けをしたが既に遅く、木村の出したパスは1本の手にスティールされた。
「くそっ、またお前かよ!」
スティールしたのは空。木村と宮地の間に手を伸ばし、ボールをカットした。
「よし!」
ボールを奪った空はそのまま速攻。チームの先頭を走っていく。
「あまり調子に乗るなよ」
「っ!?」
フロントコートに突入し、スリーポイントラインを越えた所で空の進行方向に緑間が現れた。
「(…ギリッ!)」
だが、空はそれでも歯を食い縛りながらスピードを落とさずに突っ込んでいった。
『緑間とやる気か!?』
『無謀過ぎるだろ!?』
空の決断に観客席から悲鳴が上がる。空と緑間の距離が詰まろうとしたその時…。
――ズッ…!!!
急停止しようとした瞬間、空の両足が前方に滑り、空は後方に倒れてしまう。
『うわっ! ツイてねえ!』
思いがけないアクシデントに観客は頭を抱える。
「(違う、これは全中の決勝の時に見せた、倒れ込みながらスリッピンスライドフロムチェンジ!)…そんな初見殺しの技は俺には通じると思うな!」
過去にその目で目の当たりにしたことがある緑間は空の次の一手に予測を立て、その後のスピンに備える。だが…。
「っ!?」
緑間は目を見開いた。それは、空の手元はもちろん、その周囲にボールが存在しなかったからだ。
「真ちゃん、上だ!」
高尾が緑間の頭上を指差しながら叫んだ。その声に反応し、緑間が視線を上に向けると、ボールが弧を描きながら緑間の頭上を越えていった。空は滑り込む直前にボールを下から背中側に腕を回しながら投げていた。
そのまま空は滑り込みながら緑間の横を抜け、両脚を曲げて態勢を整えると、そのまま跳躍した。
「ちっ!」
舌打ちをしながら反転し、ボールに向かって跳躍した。だが、身長差はあれど、先に飛び、かつ瞬発力で勝る空が先にボールを掴み…。
――バキャァァァッ!!!
そのままリングに叩き込んだ。
『うおぉぉぉっ! 何だ今の!?』
予測不能の空のプレーに観客から大歓声が上がる。そして…。
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
ここで、第2Q終了のブザーが鳴った。
第2Q、終了。
花月 51
秀徳 62
試合の半分が終わり、点差は11点。ハーフタイムを迎え、両チームの選手及びベンチの選手、監督が控室へと向かっていった。
※ ※ ※
「秀徳の一方的な展開も予想していたが、中々競った試合をしているな」
観客席の一角で観戦していた誠凛の『元』主将、日向がコートから去っていく選手を見ながら呟いた。日向の周辺の席には他にも誠凛の3年生である伊月、水戸部、小金井、土田と監督であるリコが座っていた。
「しかし、あの神城って奴マジ凄いな。第2Q終盤からほとんど1人で秀徳と戦ってた。このままなら――」
控室に歩いている空を見ながら土田が驚きの表情を浮かべながら言った。
「いや、すぐボロが出る」
土田の抱いた感想を、伊月が神妙な表情で否定した。
「ここまで上手く行ったのは、意表を突かれたことと神城の成長が想定を超えていたからだろう。だが、それも修正されただろうし何よりハーフタイム中に何かしら指示が出ればすぐ手詰まりになる」
「でしょうね。今のプレーをこれからも続けたのなら、第3Q早々に止められるわ」
伊月の分析に、リコが首を縦に振った。
「率直に言って、神城はポイントガードに向いてない」
「えぇっ!? だって、あいつ視野は広いし、パスだって上手いじゃん」
伊月の口から告げられた事実に、小金井は信じられないとばかりに驚いた。
「ポイントガードの仕事はパスを出す事じゃない。確かに彼はコガの言う通り、視野も広いしパスも上手い。だが、彼はポイントカードもっとも必要な事が出来ていない」
「必要な、事?」
伊月の言葉が理解出来ず、土田は首を傾げる。
「ゲームの組み立てだ。ポイントガードの役割を一言で言うならこれに尽きる。彼はそれが出来ていない」
『…』
「そして、コート上で誰よりも冷静でなくてはならないにも関わらず、コート上で誰よりも熱くなっている。これはもはや致命的だ」
「伊月君の言うとおりね。もし、彼が誠凛に来てたなら、私は2番か3番にコンバートさせていたわ」
同意見であったリコも伊月の分析に同意した。
「後半、開きそうだな」
分析の言葉を聞いていた日向が先を予言するかのように呟いた。
「…それは良いとして、黒子君と火神君はまだ来ないの?」
ここで試合の話を一時締めたリコは話題を変えた。
「連絡してみたら今会場に向かってるって」
自身の携帯を見ながら小金井が返した。
「全くもう。試合を見たいって言ったのはあの2人なのに」
唇を尖らせ、怒りを露わにするリコであった。
※ ※ ※
控室に戻った花月の選手達。
『…』
展開だけ見れば好試合をしているように見えるが、点差は第1Qから確実にじわじわと開いている。やはり、純粋な地力の差が出ているこの事実に選手達の表情は硬い。
「いいか、第3Qは――」
「待ってください」
監督である上杉が後半戦の作戦を説明しようとした所、空がそれを制した。
「第3Q、俺にやらせて下さい」
『っ!?』
空がそう口にした瞬間、控室にいる者全員が驚愕の表情を浮かべた。
「お前、何言ってんだ!?」
「いくら何でもそれは…!」
その言葉を聞いて、馬場と真崎が空を咎める。
「神城。お前、その言葉の意味、分かって言ってんだろうな?」
ギロリと睨みつけながら上杉が空に問いかけた。
「分かってます」
当の空は真剣な表情で即答した。
「…」
「…」
空と上杉、両者の視線が絡み合う。
「……良いだろう。やってみろ」
暫しの沈黙の後、上杉は空の提案を了承した。
「監督!? 良いんですか!?」
了承した事が納得出来ず、馬場が上杉に異議を唱える。
「勘違いするな。あくまでもひとまずそれで行くという話だ。ダメなら即座に次の手を打つ」
詰め寄る馬場を上杉は表情を変えずに答えた。
「ちょっと外行ってきます」
ジャージを羽織りながら空はそれだけ告げて控室の外に出ていった。
「お前達も、それで良いのかよ!? これじゃ…!」
それでも納得出来ない馬場は今度はスタメンの4人に問いかけた。
『…』
生嶋と松永は視線を逸らし、天野は鼻を鳴らし、大地はタオルで汗を拭っていた。
「…(オロオロ)」
チームの不穏な空気を感じ取り、相川が不安そうな表情で辺りを見渡している。
「すいません、失礼します」
姫川は出ていった空の後を追って室内を出ていった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「…」
会場に外に出た空は備え付けのベンチに座っていた。
「さっきの、どういう事なの?」
後を追ってきた姫川がベンチに座っている空を見つけ、開口一番尋ねた。
「どういう事も何も、それが最善だと判断しただけだよ」
尋ねられた空は顔を上げずに答えた。
「あなた…!」
その言葉に激昂した姫川が空に詰め寄る。
「何だよ?」
顔を上げた空は詰め寄ってきた姫川に目を合わせて返した。
「……いえ、もういいわ。何も言う事はないわ」
詰め寄った姫川だったが、空の表情を見るや否や表情を戻し、踵を返した。
「ホントに、あなたは馬鹿よ」
それだけ言い残し、姫川はその場を去っていった。
「……スー、フー」
大きく息を吸って吐きながら空は集中力を高めていった。
※ ※ ※
――ザシュッ!!!
第3Q、後半戦が秀徳ボールで開始され、木村のスクリーンに大地が捕まり、マークを振り切った緑間がスリーポイントライン2メートル程離れた所からシュートを決めた。
『緑間止まらねえーっ! 今日何本目だよ!?』
一向に外す気配がない緑間のスリーに、観客からは大歓声が上がった。
「…っ」
開始早々緑間の失点を許し、大地の表情が曇る。
「くれっ!」
空がすかさずボールを要求すると、松永がスローワーとなり、空にボールを渡した。ボールを受け取った空はそのままフロントコートへとドリブルを開始した。
「…っ! 戻れ!」
態勢が整う前に速攻に走った空に焦り、秀徳の選手達は慌ててディフェンスへと戻っていく。
「行かせるかよ!」
フロントコートに突入した所で高尾が空を捕まえる。
「…っ!」
高尾がディフェンスに現れると、左右に1度切り返してから高尾に背を向けた。
「あん?」
突然の空の行動に高尾の口から思わず戸惑いの声が漏れる。背後に背を向けたの同時にスピンしながら高尾の横を抜けていった。
「(…ぐっ! 変則のターンかよ! 動きがどんどん読めなくなってきやがった。それだけじゃねえ、スピードもキレも増してきやがった!)」
動きにどんどん磨きがかかる空の動きに高尾の表情が強張る。
「っ!」
高尾を抜いた直後、すぐさま支倉がヘルプにやってきた。空の左からは木村も近づいていた。
「まずい、囲まれるぞ! 外にボールを出せ!」
背後から高尾もやってくる状況を見て、ベンチから馬場が声を出した。
「(…ギリッ!)」
ベンチから声が耳に入ったが、それでも空はパスを出さず、そのままリングに突っ込んでいく。
――スッ…。
空はボールを持って跳躍すると、そのままボールをふわりと浮かせるようにボールを右手から放った。ボールはブロックに飛んだ支倉の僅か上を綺麗な放物線を描くように通過していく。
――ザシュッ!!!
ボールはリングを的確に通過していった。
『ティアドロップ! あいつもすげー!』
『もうあいつ1人で試合やってんじゃん!』
空が得点を決めると、今度は空に歓声が上がる。
「くそっ、いい気になりやがって」
失点を許してしまった事に宮地が憤りを露わにする。
「けどまあ、さすがに調子に乗り過ぎっしょ。…そろそろ大人しくなってもらいましょうか」
高尾がボソリと言った。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「あくまでもあいつ1人で戦うつもりか? 花月の監督はどうして何も指示を出さない。せめて1度コートの外に出して頭を冷やさせるべきだ」
一連の空のプレーを見て、伊月が疑問を口を出した。
「しないんじゃなくて、出来ないのよ」
伊月の疑問にリコが答えていく。
「なまじ上手くいってるから今止めるのも下げるのも逆効果。後、花月の代わりのポイントガードは真崎君。冷静でミスが少ない選手ではあるけど、秀徳を相手にプレーするには、失礼だけど実力不足。だから代えられないのよ」
「要するに、1度痛い目見ないとダメだって事でしょ?」
「そういう事だ。見ろ、秀徳が動きを見せるぞ」
小金井の発言に同意した日向がコートを指差すと、秀徳のフォーメーションが変化していった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
第3Q、残り8分13秒。
花月 55
秀徳 69
花月、秀徳共に次のオフェンスに失敗。その後、互いに1本ずつ返し、先のオフェンスで秀徳の宮地が決め、花月のオフェンス。
「っ!?」
空がボールを受けた所で、高尾と木村が空に対してダブルチームを仕掛けてきた。
「ちぃっ!」
2人の激しいプレッシャーにボールをキープする空の表情が曇る。
「どうした? きついならパス出したらどうだ?」
プレッシャーをかけながら高尾が空に軽口を叩く。
「…うるせえ、俺は花月を……優勝に導く男、神城空だぁっ!!!」
――ダムッ!!!
左右に1度切り返して揺さぶりをかけた後、高尾と木村の間に出来た隙間から一気にドライブで抜けていった。
『あのダブルチームを突破しやがった!』
激しいダブルチームを抜きさった空。
「っ!?」
だが、そのすぐ後、支倉と宮地が待ち受けていた。
「抜かれたんじゃねえ、抜かせたんだよ」
ダブルチームは空を止める為ではなく、空を追い込む為の罠。正面からは支倉と宮地が、後ろからは高尾と木村が空を包囲にかかる。
空を覆う包囲網がどんどん縮まると…。
「あーあ、中は随分と息苦しくなっちまった。お前もそう思わないか?」
完全に包囲される直前、空はボールを右へと流した。
「なら、僕が飛び切りの心地よい風を送るよ。飛び切りの音と共に…」
右アウトサイドに展開していた生嶋がボールを受け取り、そのままスリーを放った。
『っ!?』
綺麗な弧を描きながらリングに向かっているボールを見ながら秀徳の選手達は目を見開いた。
――ザシュッ!!!
ボールはリングの中央を的確に射抜いた。
「よっしゃ! ナイッシュー!」
パンっと空と生嶋がハイタッチを交わす。
「ええパスやったで、イクもよー決めた!」
2人の下にやってきた天野が2人の背中を叩きながら労った。
「おいおい、何親し気にハイタッチとかしちゃってんだよ…。天野も、さっきまでいがみ合ってたじゃねえかよ…」
状況が理解出来ない高尾は戸惑う。空は高尾に振り返ると、舌をペロッと出した。
「今まで散々1人で攻め続けていたのは…」
「自分にマークを引きつける為か…!」
ここで宮地と支倉が空の本当の狙いに気付いた。
「うちの司令塔はそら頭は悪いし、すぐカッとなる阿呆やが、同じ失敗を連続で犯す程阿呆やないで。そもそも、そこまで阿呆やったら司令塔なんてやらせてへんで」
したり顔を浮かべながら天野が2人に向けて言った。
「夏に散々キセキの世代にボロクソにやられたし、三杉さんや堀田さんの2人にはアメリカに帰るまで毎日ボロクソにされてんだ。俺1人で勝てるなんて思う程自惚れてねえよ」
ここで、大地と松永もこの場にやってきた。
「勝つのは俺達だ」
「上等だよ!」
花月の選手5人が揃い、空が告げると、宮地がそう返した。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
試合は、空の単独でのオフェンスが功を奏し、秀徳のディフェンスが崩せるようになった。
――ダムッ!!!
空がペネトレイトで切り込む。リングに近づいた所でレイアップの態勢に入る。
「(くっ! 自分で行くのか!)させん!」
シュート態勢に入ったのを視認した支倉がすかさずヘルプに走り、ブロックに向かった。
――スッ…。
ヘルプに来た支倉がブロックに飛んだの同時にボールを左に落とした。落とした先にいた松永がボールを受け取った。
「あっ!?」
――バス!!!
支倉がヘルプに向かった為にノーマークだった松永が悠々とゴール下を沈めた。
「くそっ、パスか…」
裏を掻かれた支倉が悔しさを露わにする。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
次の花月のオフェンス、先ほど同様、空がペネトレイトで切り込み、レイアップの態勢に入る。
「くそっ!」
先ほどのパスが頭によぎった木村だったが、このまま放置してしまえば空に決められてしまう為、ブロックに向かった。
「っ!?」
ここでも、空はシュートコースを塞がれるのと同時にレイアップを中断。右肩越しに背後にボールを落とした。
「ナイスパスや!」
――バス!!!
ボールを受け取った天野がそのままレイアップを決めた。
『連続得点! 花月負けてねー!』
ここでも空が起点となり、得点を重ねた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
――バチィィッ!!!
「あっ!?」
支倉が松永のディフェンスによって攻めきれず、オーバータイムを恐れて戻したパスを天野によってスティールされる。
「天さん!」
スティールと同時にフロントコートに向かって走っていた空がボールを要求。天野が前へ大きくパスを出した。ボールを受け取った空はそのまま速攻をかける。
「行かせるかよ!」
ピンチを察知した高尾が誰よりも早く自陣に戻っており、空を待ち受けていた。ここで空が少し遅れて左アウトサイドに走り込んで生嶋にパスを出した。
「(パスか!? させねえよ!)」
パスと呼んだ高尾が空と生嶋のパスコースを塞ぎにかかった。
「っ!?」
だが、空は自ら投げたボールを反対の手で止め、パスを中断し、そのまま高尾の横を抜け、そのまま跳躍。
――バキャァァァッ!!!
そのままボールをリングに叩きこんだ。
『うわぁぁぁっ! ダンクキター!!!』
空のダンクが炸裂し、会場のボルテージがさらに上がった。
「っしゃ!」
ダンクを決めた空が拳を握った喜びを露わにしたのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「…前言撤回するよ」
「えっ?」
花月の大躍進を目の当たりにしていた伊月が突如喋り始める。
「神城空にポイントガードの才能が無いって言った事。彼はゲームの組み立てがしっかり出来ている。俺とは違う、俺には出来ないやり方で…」
先ほど空にポイントガードの才能はないと言った伊月が冷や汗を流しながら前言を翻した。
「ああ。あいつが完全に試合を支配してやがる。まだ1年生、ポイントガードとしてのキャリアも少ないはずなのに大した奴だ」
続いて日向も空を称賛した。
「けど、それでもまだ足りないわね。まだ花月には大きな問題が残っているわ」
ここでリコが神妙な表情で言った。
「神城君が起点となった所で安定して点が取れるようにはなったけど、それだけでは足りないわ。花月が勝つには――」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
――ザシュッ!!!
ボールが垂直にリングの中央を通過すると、先ほどまで沸いていた観客が沈黙した。
「ただの独りよがりではなく、チームの為にプレーしていたお前の事は認めてやるのだよ」
自陣のゴール下に立っている緑間がそっと両腕を下ろした。
「だが、例え、お前達がどれだけ得点を重ねようと、こちらが3点ずつ決めてしまえば点差が縮まる事はない」
下ろした右手を再び上げ、自身のメガネのブリッジを押し上げる。
「来い。俺達とお前達との実力の差を教えてやる」
睨み付けるような表情で緑間が花月の選手達に言い放った。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
空の咄嗟の起点により、秀徳から安定して得点が取れるようになった花月。
ここから逆襲を開始しようとしたまさにその時、もう1つの、それでいて花月の最大の問題が再び姿を現わした。
――キセキの世代シューター、緑間真太郎…。
如何にして彼を止めるかという最大の問題が。
試合は、新たな展開へと移行していくのだった……。
続く
今年も早いもので気が付けばもう11月。大して投稿も出来ないまま今年も後2ヶ月を切ってしまいました…(^-^;)
最低でもこの試合だけでも今年度中に終わらせたいものです。
感想、アドバイスお待ちしております。
それではまた!