黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

諸事情により久しぶりの投稿です…(^-^;)

それではどうぞ!



第70Q~奇跡へのプロローグ~

 

 

 

ウィンターカップ2日目が終わった。

 

この日、神奈川の強豪にして、キセキの世代の黄瀬涼太を擁する海常と、栃木の雄、大仁田高校がこの日姿を消した。

 

ここまで勝ち抜いた猛者達は翌日の激戦を備えて各々準備を始める…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

秀徳高校…。

 

ホテルの1室に、秀徳のユニフォームを獲得した選手達と監督中谷が集まっていた。

 

「全員集まったな。これから明日のスカウティングを始める」

 

選手達の前方に設置されているテレビの横に立つ中谷が選手達に向かって口を開いた。

 

「皆、知っているとおり、明日の相手はインターハイ優勝校である花月高校だ。だが、今大会の花月に三杉と堀田はいない。いつもどおり戦えば問題ない相手だ。…………何て、呑気な事を考えている者はここにはいないな?」

 

中谷がそう尋ねると、選手達の表情は真剣なものであった為、満足気に1度頷いた。

 

「うん、それでいい。……明日の花月は今日のスタメンと変わる事はないだろう。1人ずつ見ていくぞ。まずはポイントカード、6番、神城空からだ」

 

テレビに、空の映像が映し出される。

 

「クイックネスに長け、ガンガンペネトレイトで切り込んでくる選手だ。フリーなら外も打ってくる」

 

映像の空が高速のドライブで目の前の相手を抜きさる。

 

「俺が今までマッチアップした相手の中では、元海常の笠松さんがあいつに近いですね」

 

ここで高尾が椅子の背もたれに体重を預けながら口を挟む。

 

「だが、スピードは笠松の比じゃねえぞ。下手したら青峰並みだ」

 

空を見て秀徳の主将である宮地裕也が真剣な表情で言った。

 

「この選手は調子の変動が激しい。とりわけ、今日は限りなく調子が悪かったと言ってもいいだろう」

 

試合映像では空がパスミスを連発している。

 

「多分それ、昨日真ちゃんが挑発したのが原因かと思います」

 

「挑発等していないのだよ。目を向けるべきところに向けるよう伝えただけだ」

 

「いや、あれ普通に挑発しているようにしか聞こえなかったからな」

 

否定する緑間に対し、高尾は笑いながら言った。

 

「まあなんにせよ、こいつを調子付かすとチームが活性化しちまう。…高尾、止められるか?」

 

「今の神城なら何とかなると思います。任せて下さい」

 

宮地の問いかけに、高尾は不敵な笑みで答えた。

 

「次に、7番、シューティングガード、生嶋奏」

 

映像が生嶋に切り替わる。

 

「元城ヶ崎中のエースで、アウトサイドシューターだ。フリーでのスリーはまず外さない」

 

映像の生嶋がスリーを放ち、リングの中央を綺麗に射抜いた。

 

「…」

 

緑間が食い入るように映像に注目する。

 

「同じシューターとしてどうよ?」

 

そんな緑間に高尾が尋ねる。

 

「いいシューターなのだよ。人事を尽くしている事が良く分かる。打たれたらまず外れる事はないだろう」

 

緑間が生嶋を称賛する。

 

「だが、身体能力は高くない。いいとこ、中の中だ。誠凛の日向のバリアジャンパーみたいなディフェンスをかわすテクニックもないし、スタミナも多くない。フェイスガードでべったりマークしちまえば何も出来ずにガス欠だぜ」

 

宮地が対応策を口にする。

 

「この選手をフリーにするのは危険だ。マークは常に外せない。マークに付く者は要注意だ」

 

中谷がそう告げると、秀徳の選手達は頷いた。

 

「次に、8番、スモールフォワード、綾瀬大地」

 

映像が生嶋から大地に切り替わる。

 

「このとおり、ボールを持てばガンガン1ON1を仕掛けてくるスラッシャータイプの選手だ」

 

大地がドライブで目の前にディフェンスを一瞬で抜きさる。

 

「ここからが彼の真骨頂だ」

 

ディフェンスを抜き、インサイドに切り込んだ瞬間、他の選手達が大地を囲みにかかる。その瞬間、大地がバックステップで急速に下がり、ディフェンスと距離を空ける。フリーになった大地は悠々とミドルシュートを決めた。

 

「っ…何度も見てもこのバックステップには驚かされるな」

 

ディフェンスの包囲網から一瞬にして脱出してしまう程のバックステップに、秀徳の面々は顔を顰める。

 

「あれを止めるのは至難の業だぞ。前を塞げば下がられる。かと言って並走すればスピードでちぎられる。面倒さのレベルはキセキの世代並みだ」

 

神妙な表情を浮かべながら宮地が感想を述べる。

 

「攻略法がないわけではありません。実際、あれだけのスピードのドライブからのバックステップは足にかなりの負担が強いられます。そう何度も行えるものではありません」

 

静まり返る室内の中で、緑間が大地のバックステップの欠点を述べていく。

 

実際のところ、猛スピードで走ってる最中に急速に止まるだけでも相当足に負担がかかる。それを止まるではなく、下がろうと考えると、通常の人間の筋肉ではまず耐えられない。

 

「要するに、乱発はしてこない…と言うより出来ない訳か。回数が限られるなら、使いどころも自ずと読みやすそうですね」

 

緑間の解説を聞き、高尾は納得するように頷いた。

 

「それでも、彼の1ON1スキルはあの五将、葉山小太郎をねじ伏せれるレベルだ。花月のエースは綾瀬であり、今日の試合も逆転の引き金になったのも綾瀬だ。彼を乗せると面倒極まりない。明日は、ここのマッチアップが最重要となるだろう。彼には要注意だ」

 

中谷が選手達にそう言い聞かせた。

 

「次に、9番、パワーフォワード、天野幸次」

 

ここで、映像が天野に切り替わる。

 

「彼の仕事は主に、ディフェンスとリバウンドだ。オフェンスではポストプレーやスクリーンで味方をフォローし、ロールプレイヤーに徹している」

 

映像で、天野が長身選手を押しのけてリバウンドを制した。

 

「インターハイでのデータになりますが、1試合平均にリバウンド数は12・5。これは、昨年の冬の誠凛の木吉鉄平を上回る数字です。ディフェンスでも、天野幸次から得点で来たのはキセキの世代と五将のみです」

 

秀徳のマネージャーから細かい数字が伝えられる。

 

「…周りが派手過ぎて目立たないが、こいつもかなりのプレイヤーだな」

 

「うちにも欲しい選手だ。彼なら全国の何処の高校でもスタメンに選ばれるだろう」

 

口々に天野の事を称賛していく。

 

「オフェンス力はどうなんだ? 見たところ、オフェンスでは味方のフォローや中継ばかりやってるが、自ら仕掛ける場面がほとんどない」

 

映像ではディフェンス、リバウンド、オフェンスではスクリーンやポストプレーをする姿が多々見られるが、ボールを持って相手をかわしたり、得点を決めるシーンがほとんど見られない。

 

「これもインターハイのデータになりますが、ノーマークの場面で何本かシュートを決めています」

 

「つまり、誠凛の黒子テツヤのように打てない訳ではなく、打たないだけって訳か」

 

マネージャーの情報から、天野の選手像を解析していく。

 

「形は違えど、彼も黒子テツヤ同様、影となってチームを支えている。目立たずとも要注意だ」

 

ここで、映像が次の選手に切り替わる。

 

「次に、10番、センター、松永透」

 

映像内で松永がディフェンスをかわし、ボースハンドダンクを決めた。

 

「花月のインサイドを担う選手であり、何より、この特徴は、センターとは思えない程の1ON1スキルを持ち合わせているところだ」

 

オフェンス時、松永はゴール下から離れた所でボールを受け、そのまま自身のマークの選手を抜きさり、そのまま決めた。

 

「…まるでスモールフォワードの動きだな。全国レベルで見ても、これだけの1ON1スキルを持っている奴はそう多くはいない」

 

「昭栄中学時代では、3番(スモールフォワード)でスタメン入りをしていて、チームの稼ぎ頭となっていたようです。急激な身長の増加とチーム事情により、センターをしているようです」

 

「つまり、センターでありながら、スモールフォワードの動きも出来るということか、この分だと、パワーフォワードも問題なく出来そうだな」

 

解説を聞きながら松永を分析していく。

 

「シュートエリアが広いのは厄介だな。ゴール下から離れて勝負してくる可能性があるなら、常にゴール下にヘルプに行けるよう心掛けておけ」

 

選手達に中谷が指示を出した。

 

「スタメン以外では、4番、馬場高志。5番、真崎順二。共に3年生で、花月の主将と副主将です」

 

「上杉監督の下で3年間やってきた選手だ。基礎能力が高く、メンタルも強い。決して侮れない選手だ」

 

スタメンから外れている馬場、真崎にも、警戒するように選手達に言い含めた。

 

「こうやって見ると、三杉と堀田が抜けたとは言っても、かなりの戦力だな…」

 

「各ポジションに高レベルの選手が揃っている上に、控えも悪くない」

 

花月の主戦力を見て、秀徳の選手達は改めて、花月の実力を再認識した。

 

「けど、このチームで始動したのはインターハイの後。しかも花月は、予選が免除されてる。実戦不足は否めない。そこは狙い目なんじゃないですかね?」

 

「確かに、スタメンのほとんどが1年生。明らかに時間は足らなそうですね」

 

高尾の指摘に、1年生ながらレギュラーの座を掴んだ木村が頷いた。

 

「ふむ。その指摘はもっともだ。だが、向こうもそれは承知のようだ。本大会まで、練習試合を数多くこなして実戦不足の解消に臨んでいる。これが、大会までの4ヶ月の花月の試合結果だ」

 

中谷から選手達に1枚の紙が配られる。

 

「どれどれ……全部で12試合。結果は、2勝10敗か。花月はホントに調子が悪いんだな」

 

「戦績だけ見ればそうだが、問題は、花月が戦ってきた相手にある」

 

「えっと……天王、国士台……って、おいおい! ここに書いてある練習試合の相手、全部大学…、それも、関東の関西の1部と2部の上位の大学じゃねえか!」

 

1度は戦績を見て侮りを見せる高尾だったが、対戦相手を見て目の色を変えた。

 

「どれも大学の強豪ばかりだな。これだけの相手と戦って2勝出来ただけでも称賛ものだな」

 

宮地も高尾と同様、驚きを隠せなかった。

 

「ここに載っている対戦相手はどれも、うちでも苦戦は必至だ。そして、花月が勝った2校は、エースであるシューターが得点を稼ぎ、固いインサイドが売りの大学。つまり、うちと似たチームスタイルの大学だ」

 

『っ!』

 

中谷の口から発せられた言葉に、秀徳の選手達は息を飲んだ。

 

「改めてもう1度言う。明日の相手は強敵だ。皆、全力で臨め。いいな」

 

『はい!!!』

 

部屋に、選手達の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールがリングの中央を潜り抜ける。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

それと同時に試合終了のブザーが鳴り響く。

 

 

花月 45

秀徳 112

 

 

茫然とする花月の選手達。

 

「この程度で俺達に勝てると思っていたのなら、思い上がるにも程があるのだよ」

 

心底見下すような表情で緑間が空に向けて言い放った。

 

「ふん。明日の試合のウォーミングアップにもならなかったのだよ」

 

そう言い残し、緑間は踵を返していった。

 

「ま、待てよ! 俺達はまだ――」

 

緑間を追って駆け出すと、そこへ、三杉と堀田が現れた。

 

「失望したよ。まさか、この程度だったとはな」

 

「全くだ。俺達がいない花月は、見る影もない」

 

2人共侮蔑がこもった視線で空に言い放つ。

 

「待って下さい! 俺は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「――ハッ!?」

 

空が目を開けると、そこには天井があった。慌てて起き上がり、辺りを見渡す。

 

「………夢か」

 

今し方見たものが夢であることを理解し、心を撫でおろす。時刻を確認すると、時間は朝の6時前。外はまだ仄かに薄暗い。

 

「……起きるか」

 

まだ時間はあるが、今一度寝る事は出来ないだろうと判断した空は頭を掻きながら布団から出て、軽く顔を洗った後、着替えて外に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ホテルを出て軽くランニングがてら走り出すと、バスケのリングが設置してある公園を見つけ、中へと向かった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

公園に足を踏み入れると、既に先客がおり、ジャンプシュートを決めた。

 

「大地?」

 

その人物の正体に気付き、空は思わず声をかけた。

 

「空? ずいぶんと早起きですね」

 

「お前こそ」

 

「私はいつもこの時間には起きてますよ」

 

2人は軽く挨拶を交わした。

 

「試合前に軽く身体を動かしておきたくてな」

 

「私も、どうにもジッとしていられなくて」

 

お互い同じ考えであったことにクスリと笑う。そのまま、2人は何本か1ON1を始めた。

 

「……こんなこと、始めてだ」

 

「?」

 

唐突に、空が神妙な表情で喋り始めた。

 

「今まで、相手が強ければ強い程ワクワクが止まらなかった。去年の全中の決勝、今年のインハイでのキセキの世代との試合、ジャバウォックとの試合の時は試合が近づけば近づく程身体が熱くなっていった。…けど、今は身体がどんどん冷たくなっていくんだよ」

 

「…」

 

「今もホントは、試合に惨敗する夢を見て居ても立っても居られなくなって外に飛び出しただけだ。ったく、キセキの世代打倒を宣言しておきながらこの様だ。情けねえ話だよ」

 

自嘲気味に空は言った。

 

「お互い様ですよ」

 

気落ちする空に、今度は大地が喋り出す。

 

「昨晩、今日の試合に備えて早くに床に就きましたが、結局眠れませんでした。試合の事を考えれば考える程悪いイメージばかり浮かんでばかりで。それを打ち消す為に私はここで身体を動かしてました」

 

「…大地」

 

「三杉さんにエースとして花月を支えるよう託されたのに、試合当日に平静を保つ事が出来ません」

 

大地は自身の胸の位置に拳を置き、歯をきつく食い縛った。

 

2人の心中に悪いイメージと恐怖が襲い、表情が曇る。

 

「何や、お前らも来とったんか?」

 

そこへ、聞きなじみのある声が2人の耳に届いた。

 

「天さん、それに生嶋と松永も…」

 

「おはよう、くー、ダイ」

 

「よう」

 

振り返るとそこには、天野、生嶋、松永が立っていた。

 

「随分早起きやなあ。えらい健康的やないか」

 

ケラケラと笑いながら空と大地に話しかける。

 

「…」

 

「…」

 

だが、2人の表情が変わる事はなかった。

 

「しけた面しとんのう。……何や、お前達も同じかいな」

 

顔を右手抑えて点を仰ぐと、苦々しい表情となった。

 

「早う目ぇ覚めたから茶でもしばこ思たら、フロントのソファーでお通夜みたいな顔して黙りこんどるこの2人を見つけたから何や気分転換に外連れて歩いとったら、お前らもかい!」

 

両脇で生嶋と松永の首を固めながら空と大地に突っ込みを入れた。

 

「秀徳は強いで。手強いインサイドに、絶対的なシューターの緑間がおる。対して、うちらには足らんもんがぎょーさんある。…けどな、そんなん今更やろ」

 

ここで、空、大地、生嶋、松永の4人の視線が天野の方へ向く。そこには、真剣な表情をした天野の姿があった。

 

「お前らは全中で名を上げた選手や。当然、いろんなとこから誘いもあったはずや。キセキの世代のいるとこからも」

 

『…』

 

「けど、お前らはこの花月を選んだ。対して実績もない、練習が全国一で有名なだけの花月をや。あえて、キセキの世代全員と戦ういばらの道を選んだ。覚悟してここに来たはずや。今更ビビってもしゃーないやろ」

 

『…』

 

天野が不安を取り除くべく初心に立ち返らそうと促すも、4人の表情はまだ硬い。

 

「ああもうしゃーないのう! 全員、目ぇ瞑れ。ええから瞑れ」

 

『?』

 

疑問に思いながらも、4人は天野の言葉通り、目を瞑った。

 

「ええか? 今日の試合、多分、ぎょーさん客はいるやろ。けどな、俺らが勝つ思うとる奴はほとんどおらんやろ」

 

『…』

 

「試合は間違いなく秀徳のペースで進む。…ところがや。試合が進むにつれ、俺らがどんどん点差を詰めていく。試合が終盤に進むにつれて点差はどんどん縮まっていく。当然、秀徳の奴等は焦るやろ。そして、試合終了目前。俺らの逆転勝利や。どうや? そう考えると、ワクワクしてけーへんか?」

 

自身の試合の展望を4人に話す。4人は言われた通り想像を膨らませていく。

 

「………ハハッ」

 

想像していくと、空が思わず吹き出した。

 

「確かに、そう考えると試合が楽しみになってきました」

 

「…少し考えすぎたようです。言われた通り、今更でしたね」

 

「僕も、ワクワクしてきたよ」

 

大地、生嶋も続いて気が付けば笑みを浮かべていた。

 

「鉄平さんがいつも言っていた口癖がある」

 

松永が口を開く。鉄平さんとは、かつての松永の先輩であり、無冠の五将の1人、『鉄心』木吉鉄平の事である。

 

「こういう時、あの人はいつも言っていた。『楽しんでいこーぜ』ってな」

 

そう言って、松永はニヤリと笑った。

 

「ええ言葉やないか。…なら、その言葉にならおうや」

 

おもむろに、天野は拳を突き出した。

 

「やったろうや。今日の試合、力合わせて、ジャイアントスイングを起こしたろうやないか」

 

「キリングでしょ!? …まあそれはともかく、その為に俺達はここまで来たんだ。絶対勝とうぜ」

 

突っ込みを入れつつ空が突き出された拳に自身の拳を合わせた。

 

「ええ。私達にはそれが出来るはずです」

 

続いて大地が拳を合わせた。

 

「僕も、最高のプレーをするよ」

 

生嶋も拳を合わせる。

 

「俺も全力を尽くす。そして勝つ」

 

最後に松永が拳を合わせた。

 

「俺達の最初の挑戦だ。絶対勝つぞ!」

 

『おう!!!』

 

空の掛け声に、他の4人は公園に響き渡る程の声で応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

そして時計の針は進み、ウィンターカップ3日目が始まった。

 

各校がベスト8進出をかけ、激闘を繰り広げる。まずは洛山高校が危なげなく試合に勝利し、ベスト8進出を決めた。続いて、陽泉高校が同じく勝利を飾る。

 

そのまま試合スケジュールはつつがなく進んでいき、遂に、その時はやってきた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

コート上で第2Q終了のブザーが鳴り、10分間のインターバルに入る。入れ替わりに、花月と秀徳の選手達がやってきた。

 

『来たぞ! 花月と秀徳だ!』

 

本日、最も注目のカードである花月対秀徳戦。その両校がやってきて、観客の関心がそちらに向いた。

 

『しゃす!』

 

それぞれエンドライン上で一礼をし、両校の選手達がコートに足を踏み入れ、ウォーミングアップを開始した。

 

『…っ』

 

淡々とウォーミングアップを行う秀徳に対し、花月は秀徳から放たれるプレッシャーに圧倒されていた。

 

1度は覚悟を決めた5人も同様に、相手コートから放たれる秀徳のプレッシャーに表情を曇らせていた。

 

「(…ちっ、何ビビッてんだよ。こんなんじゃ勝負にならねえ! こうなったら…)」

 

空は自身の両頬を力強く叩き、気合いを入れ直す。

 

「皆、勝負はもう始まってる。挨拶がてらかますぞ」

 

そう言って、空がスタートを切り、フリースローラインを越えた所で跳躍…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

ダンクが決まると、観客が沸き上がった。

 

「(続けよ)」

 

「……ハァ、仕方ありませんね」

 

空のジェスチャーの意味を理解した大地が溜息を1つ入れてスタート。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

先ほど同じく、ワンハンドダンクが決まる。

 

「…こうも連続でやられるてしまうと、こっちも続かない訳にはいかないな」

 

一息入れ、松永がスタート。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

松永のボースハンドダンクが決まる。

 

「さ、天さんも」

 

「柄やないんやけど、しゃーないのう」

 

空に促され、天野もスタート。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

天野のワンハンドダンクが決まった。

 

『スゲー! ダンク4連発だ!』

 

派手なダンクが4本決まり、観客は大いに盛り上がった。

 

「何かやらないといけないけど、僕はダンクが出来ないから……これでいいかな?」

 

生嶋がおもむろにスリーポイントラインの外側、正面からスリーを放った。

 

 

――ガン!!!

 

 

だが、ボールはリングのふちに当たり、高く跳ね上がってしまう。

 

『おっ、外れたぞ?』

 

しかし、生嶋はスリーを放った直後、すぐさま2投目を放つ。2投目は1投目よりもループが高く放られている。2投目が高く弧を描きながらリングに落下。1投目のリングのふちに当たったボールに直撃する。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

2投目にぶつかったボールはそのままリングの中心を潜り抜けた。

 

『スゲー、ボールをボールで押し込んだぞ!』

 

だが、これで終わりではなかった。1投目のボールにぶつかったボールはそのまま垂直に高く跳ね上がった。跳ね上がったボールはゆっくり落下し、そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングの中心を潜り抜けた。

 

『マジかよ!? 狙ったやったのか!?』

 

『まさか、偶然だろ?』

 

生嶋が見せた曲芸に観客は再び盛り上がった。

 

「ハハッ、相手さん、見せつけてくれるねえ」

 

一連のプレーを見ていた高尾が笑みを浮かべる。

 

「ふん。サルでも出来るダンクに興味はない。…だが、最後のスリーは見事なのだよ」

 

「確かに、あれは凄かったな」

 

「ボールを狙う位置、ループの高さ、タイミングが全て合致しなければあれは出来ない。それを行おうとすれば当然リズムやフォームが崩れる。崩れても尚狙える正確性があるという事なのだよ」

 

緑間は、今、生嶋がやったことの凄さを解説していく。

 

「真ちゃん、あれ出来る?」

 

「……出来る必要性がない。ただ、生嶋奏だったか。単純なスリーの精度は俺以上かもしれないのだよ」

 

同じシューターであり、全国一のシューターである緑間が、生嶋のシューターとしての資質に脅威を感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

10分間のインターバルが終わり、第3Qが始まった。

 

試合終盤に再び両校はコートまで戻ってきた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了のブザーが鳴り、ついに、花月と秀徳の選手達は各々のベンチへと向かっていった。

 

「スターティングメンバーは昨日と同じ、1番に神城、2番に生嶋、3番に綾瀬、4番に天野、5番に松永だ」

 

『はい!』

 

「『忍耐』…今日の試合、この言葉を忘れるな。相手は強敵だ。連携、技術、経験、これらにおいてこっちが大幅に劣っている。明日の事なんか考えるな。夏の終わりから言っている通り、足りないものは相手の倍走って補え」

 

『はい!!!』

 

「よし! 行って来い!!!」

 

「っしゃぁっ! 行こうぜ!!!」

 

上杉の号令に選手達が大声で応え、空を先頭にコートへと足を踏み入れていった。それと同時に秀徳ベンチからもスターティングメンバーがコートへと足を踏み入れた。両校のスタメンの面々がセンターサークルへと集まった。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

6番PG:神城空  179㎝

 

7番SG:生嶋奏  181㎝

 

8番SF:綾瀬大地 182㎝

 

9番PF:天野幸次 192㎝

 

10番 C:松永透  194㎝

 

 

秀徳高校スターティングメンバー

 

4番SF:宮地裕也  190㎝

 

5番 C:支倉桂太郎 197㎝

 

6番SG:緑間真太郎 195㎝

 

8番PG:高尾和成  177㎝

 

10番PF:木村孝介  189㎝

 

 

 

――ざわ……ざわ……。

 

 

試合開始を目の前に、観客はざわめく。

 

観客のほとんどが秀徳の勝利と予想している。だが、それでも観客には、何かが起こるのではないかという期待感を抱いていた。

 

ティップオフがなされ、試合が始まるのを今か今かと待ちわびている。

 

 

「これより、花月高校対秀徳高校の試合を始めます」

 

『よろしくお願いします!』

 

審判の号令し、両校の選手達が礼をした。

 

「お手柔らかに」

 

「お願いします!」

 

花月のコートリーダーの天野と秀徳の主将である宮地が握手を交わした。

 

「宣言通り、たどり着きましたよ」

 

各選手が散らばって行く中、空が緑間に話しかける。

 

「キセキ越え、させてもらいますよ」

 

緑間に宣言する。緑間は一瞥もくれずに…。

 

「ふん。昨日、あのような無様な姿を晒しておいてその言葉が吐けるとはな。もはや、理解に苦しむのだよ」

 

「いやー、お恥ずかしい限りです」

 

昨日の事を出され、空は後頭部を掻いて照れる素振りを見せる。

 

「けど、今日勝てばそれもチャラ。…いや、お釣りが出る」

 

「あり得ないのだよ。お前達の奇跡は、ここまで来れたことだけだ。それ以上の奇跡は起こらないのだよ」

 

それだけ言い残し、緑間は空の横を抜けていった。

 

「……あくまでも上から目線かよ。そうやって人を見下して、驕ると痛い目を見るって事を教えてやるよ」

 

苛立った表情を浮かべながら空もジャンプボールに備えて散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

「…」

 

センターサークル内に花月のジャンパーである松永と、秀徳のジャンパーである支倉が立っている。

 

「…」

 

審判が2人の中央に立ち、双方を見渡し、そして、ボールを高く放った。

 

 

――ティップオフ。

 

 

「「っ!」」

 

双方のジャンパー同時に飛ぶ。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

ジャンプボールを制したのは…。

 

「…ちっ」

 

「ナイス支倉さん!」

 

秀徳のセンターの支倉。弾かれたボールは高尾の手に収まった。

 

「やらせねえよ」

 

そこへ、空がすかさず高尾の目の前に立ち塞がる。

 

「おーおー、気合入ってるね。…そんじゃ、挨拶代わりに…」

 

高尾はノールックで自身の右上にパスを出した。そこには、既にシュート態勢を取っている緑間の姿があった。

 

「ま、まさか…!」

 

大地が何をしようとしているか理解し、目を見開いた。

 

緑間が最高到達点に到達するのと同時に緑間の手にボールが収まり、同時にシュートを放った。

 

「勘違いしているようだから1つ言っておく。俺はお前達を侮ってなどいなければ驕ってもいない」

 

シュートを放ち、着地した緑間は踵を返す。

 

「人事を尽くす。故に、お前達に奇跡は起こらない」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

センターサークル付近で放たれた緑間のシュートがリングの中央を的確に射抜く。

 

試合開始数秒、緑間の空中装填式3Pシュート(スカイ・ダイレクト・スリーポイントシュート)が炸裂する。

 

試合は、秀徳の先制によってその火蓋が切られたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





最後に投稿したのが7月の終わり、実に1ヶ月以上空けてしまい、申し訳ございません…m(_ _)m

8月、身内が亡くなり、立て続けに親戚も亡くなり、時間的にもテンション的にも執筆する事が出来ませんでした。一応、諸々落ち着いて来たので、再び執筆を開始しました。

これからも再び以前の投稿ペースに……と、行きたいのですが、もしかしたら再び投稿ペースが落ちるかもしれません。理由として、ここからがこの物語の本題なのですが、大雑把な試合の展開は決まっているものの、試合内容がまだ固まっていないからです。現在、黒バスの原作及び、他作品や、バスケの動画を見て勉強中です。やっぱり、バスケ経験がないとこういう時に困りますね…(^-^;)

万が一、投稿が極端に遅くなると判断したら、もしかしたらハイスクールD×Dのリメイクを投稿するかもしれませんのでその折はお立ち寄りください…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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