黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

かなり間隔が空いてしまいました…(^-^;)

それではどうぞ!




第69Q~挑戦権~

 

 

 

最終Q、中盤、4ファールの空がコートに戻ってくる。直前の大地のダンクによってバスカンをもぎ取った事もあり、会場は大いに盛り上がる。

 

「っしゃぁっ! 行くぞォォォォッ!!!」

 

空は咆哮を上げながらコートに入る。

 

 

第4Q、残り6分47秒。

 

 

花月  43

大仁田 55

 

 

試合は、大地のフリースローから再開される。

 

「…」

 

大地は2、3回ボールを弾ませ、念入りに縫い目を確認する。そして顔を上げ、フリースローを放つ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

危なげなく大地はフリースローを決めた。

 

「いいぞ!」

 

松永が大地に歩み寄り、ハイタッチを交わした。

 

 

「とは言え、問題はここからだな。オフェンス、ディフェンス共に花月は突破口を見出してない」

 

「ああ。流れは花月に傾きつつある。ここで綾瀬の作った流れを生かせなければ、花月は負ける」

 

高尾、緑間が冷静に状況を分析していた。

 

 

「ディフェンスを変えるぞ」

 

空がコート上の花月の選手達に指示を出す。

 

「何や、何か良い手でもあるんか?」

 

駆け寄ってきた花月の選手達に空が指示を出していく。

 

『……(コクリ)』

 

皆が空の指示に耳を傾け、頷き、ディフェンスに戻っていった。

 

風間がスローワーとなり、ボールが綾辻に渡り、大仁田のオフェンスが始まる。

 

「…なに?」

 

ここで、花月のディフェンスが切り替わったことで大仁田が眉を顰める。花月のディフェンスがマンツーから3-2ゾーンに変わった。

 

前方に空、生嶋、大地が、後方に松永、天野。

 

 

「…確かに、マンツーではパス回しの餌食になるだけだろうが、出来んのか?」

 

ゾーンディフェンスは選手間の連携が必須。急造チームの花月が上手くこなせるのか疑問に感じた高尾。

 

 

「(残念だが、うちはゾーンディフェンスは苦としていない、むしろ得意分野だ)」

 

これまでどおり、大仁田がボール回し始めた。

 

『っ! …っ!』

 

絶え間なく動く回るボールに、花月は必死に食らい付く。やがて…。

 

「よし!」

 

ボールはペイントエリア内でフリーの内海にボールが渡った。

 

 

『うわー! やっぱり止められない!』

 

観客席から悲痛の声が上がる。

 

 

フリーでボールを受けた内海がシュートを放った。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「えっ!?」

 

だが、そのシュートはブロックされる。

 

「綾瀬だと!?」

 

ブロックをしたのは大地。

 

「バカな、あいつは間違いなくスリーポイントラインの外にいたはずなのに…」

 

花月の選手達のポジションを把握していた内海。ボールを受けた時、自身はフリーで、大地は外に展開していた。だが、気が付けば大地は自分の目の前でブロックをした。

 

ルーズボールを生嶋が抑え、すかさず空にボールを渡す。

 

「戻れ!」

 

速攻を防ぐ為、大仁田は素早く自陣に戻る。

 

『大仁田の戻りが速い!』

 

空が速攻をかけるよりも早く大仁田が自陣でディフェンスを布いた。

 

「…」

 

これを想定していた空は特に動揺はせず、落ち着いてボールをキープしている。

 

 

――スッ…。

 

 

空が手で合図を出すと、他の花月の選手達が動き出す。

 

『っ!? これは!?』

 

花月の選手全員がアウトサイドに寄り、中央にスペースを作った。

 

 

「アイソレーションか…」

 

「確かに、大仁田には有効だろうが、よりによって…。」

 

花月のフォーメーションの変化を緑間はメガネのブリッジを押しながら注目し、高尾は声を上げた。

 

特定のプレーヤーがプレーしやすいようにスペースを空けるように展開するアイソレーション。だが、その対象になったのが4ファールで後がない空。

 

 

「(こいつ…)」

 

花月が布いたアイソレーションに大仁田で1番反応を示したのが空をマークする綾辻だった。アイソレーションは通常、実力の差があるマッチアップ相手の場合に行われる戦術だからだ。それはつまり、自身が舐められている事に他ならない。

 

「大した自信だな。だが、お前が4ファールだと言うのを忘れるなよ? 今日の審判は辛いからな。ぶつかった振りして倒れても、オフェンスファールを取ってしまうかもな…」

 

空に4ファールだと言う現実を知らしめ、動揺を誘う為にトラッシュトークを仕掛ける。

 

「…」

 

だが、当の空は全く反応しなかった。そして…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速し、高速で綾辻の左を抜けていった。

 

「なっ!?」

 

特にフェイクもない空のドライブ全く反応出来なかった綾辻。空はそのままリングに向かっていく。

 

「くそっ!」

 

風間がヘルプに向かい、空を止めにかかる。フリースローラインを越えたところで空がボールを右手に持ち、跳躍する。

 

「行かすか!」

 

得点を阻止するべく、風間がブロックに現れる。

 

「神城君、無茶よ!」

 

ベンチから姫川が悲痛の声を上げる。空は構わずリングにグングン突っ込んでいく。

 

「(構わねぇ、行くぞぉっ!)」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐぉっ!」

 

ブロックをお構いなしに空はリングにボールを叩きつける。体格で勝る風間だったが、態勢が不安定だったのと、空がスピードに乗っていた為、吹き飛ばされた。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

ダンクが決まるのと同時に大歓声が上がる。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、審判が笛を吹いた。

 

『っ!?』

 

その瞬間、コート上の選手、ベンチ、観客が審判に注目する。

 

もし、オフェンスファールとなれば、空は退場。大地が作った流れは止まり、司令塔を失った花月の敗北はほぼ確定する。

 

審判が笛を口から放し、そっと指を2本を上げ、下した。

 

「ディフェンス、バスケットカウント、ワンスロー!」

 

『うおぉぉっ! バスカンだぁっ!』

 

コールと同時に再び観客が沸き上がった。

 

「よし!」

 

拳を握り、空は喜びを露わにする。

 

「『よし!』ちゃうわ! 何考えとんねん! 次ファール取られたら退場やねんぞ!」

 

喜ぶ空の後頭部を天野が叩いた。

 

「(そのとおりだ。今の、後少しタイミングずれていたらオフェンスファール…いや、審判によっては今のもオフェンスファールものだった。あいつ、何考えてんだ…!)」

 

無謀とも思える空のプレーに、綾辻は信じられないものを見る目で空を見つめていた。

 

 

「全く、神城君は…」

 

ベンチで姫川はハラハラしながら空のプレーを見ていた。

 

「いや、考えなしという訳でもない」

 

腕組をしながら上杉が喋り出す。

 

「その前の綾瀬のプレーも、審判によってはオフェンスファールを取っただろう。あれを見て、今日の審判はオフェンスファールに寛容だと判断したのだろう」

 

今の空のプレーはある程度、計算があったと上杉は言った。

 

「とは言え、これで流れは完全にうちに傾いた。だが、向こうも早々に手を打ってきたな」

 

オフィシャルテーブルに視線を向ける上杉。そこには、大仁田の監督、高東がいた。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボーナススローを空がきっちり決めた。その後…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、白(大仁田!)』

 

ここで、タイムアウトがコールされる。

 

 

「大仁田は判断が速いな」

 

「花月をこのまま勢い付かせたら手遅れになる。流れを断つ意味でも、ここでタイムアウトは当然なのだよ」

 

試合を観戦している緑間と高尾がベンチに下がる両チーム選手を眺めながら分析している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「ちぇっ、良い所で水を差されたな」

 

つまらなさそう表情をする空。

 

「まぁ、当然だろうね。2発のダンクにバスカンだからね。この流れを切るのは当然だよ」

 

ベンチに腰掛け、水分補給をしながら生嶋が空に返した。

 

「この勢いはタイムアウト1つで断てるものでもないはずだ。…だが、問題はここからだ」

 

タオルで汗を拭いながら松永が表情を改める。

 

「せやな。向こうのオフェンスとディフェンス。まだまともに突破してへんし、止めてもおらん。さっきはディフェンスを変えた直後に意表を突いて止めれたが、次はそうもいかんやろ」

 

現状を天野が説明していく。

 

花月は大仁田のボール回しに対応出来ていない。オフェンスでも、パスをスティールされ、ドリブル突破を図れば囲まれ、苦し紛れにパスを出せば同じくスティールされているのが現状である。

 

「みんな聞いてくれ。俺に良い考えがあるんだけど」

 

空が皆を集め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

タイムアウト終了のブザーが鳴り、両チームの選手達がコート上に戻ってくる。

 

花月、大仁田共に、メンバーチェンジはなく、試合は大仁田ボールから再会される。

 

「…」

 

ボールはスローワーの風間から綾辻にボールが渡り、綾辻はこれまでどおりゆっくりボールを運んでいく。花月のディフェンスはタイムアウト前と変わらず2-3ゾーンのまま。

 

「(どんなチームだろうと、突破出来ないディフェンスはない。これまでどおりボールを回して、花月のディフェンスを切り崩す!)」

 

 

――ピッ!!!

 

 

綾辻がアウトサイドに展開する寺沢にパスを出し、ボールを受け取った寺沢がハイポストに立つ大沢にボールを渡す。

 

「(…来た!)」

 

ボール回しが始まり、空は集中力を高める。

 

大仁田のボール回しは、パスを受けてから次に捌くまでが速い。しかも、各々が広い視野とパスセンスを擁している為、パスターゲットをほとんど見ない。その為、ボールの行き先を読むことは困難である。

 

「(散々見てきたこのパス回し。一見止めるのは不可能に見えるが、俺の目論見通り運べば、止められるはずだ)」

 

空は、タイムアウト時に提案した作戦の為に動く。

 

「(…スッ)」

 

「(…コクッ)」

 

それと同時に大地にアイコンタクトをし、大地が頷いた。

 

ボール止まることなく大仁田の選手間を行き来する。大仁田のオフェンスが18秒を経過した所で大仁田が動く。

 

「よし!」

 

ここで、ボールは左アウトサイドでフリーになっていた寺沢へと渡った。ボールを受けた寺沢がシュートを放とうとしたその時…。

 

「っ!?」

 

大地が寺沢の目の前に現れた。

 

「バカな!? どうしてここに綾瀬が現れる!?」

 

広い視野で周囲を把握し、他の選手も寺沢がフリーになるよう動いたのにも関わらず、目の前に大地が現れた事に大仁田の全選手が驚愕する。

 

「作戦通りだ」

 

思惑通り事が進み、空はニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

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・・・・

 

 

『大仁田のパス回しは、とにかくリスクを避け、成功確率の高いパスをしてくる。だけど、単にリスクを避けたパスを出し続ければ、何処かでパスカットされるか、少なくとも、シュートにまで持っていけない。そうならないのは、大仁田のスタメン全員が広い視野とパスセンスをあわせ持って持っているからだ』

 

『そうだな』

 

空の分析に、松永が頷く。

 

『向こうがリスクを避けた効率の良いパスをしてくるなら、それを逆手に取ればいい』

 

『? …僕達は何をすればいい?』

 

空の考えが理解出来ない生嶋は、自分の役割を空に尋ねた。

 

『天さん、生嶋、松永はそのままゾーンディフェンスをしてもらう。仕掛けは、俺と大地でやる』

 

『…聞かせて下さい。空の作戦を』

 

大地が空の指示を仰ぐ。

 

『要は、パス回しが厄介なら、そのパスを封じてやればいいのさ。例えば、左右どちらかのアウトサイドでボールを止め、その後、全てのパスコースを塞げば、後は1ON1で勝負せざるを得ない。1ON1なら、俺達に分がある』

 

『なるほど…、その為のゾーンディフェンスという事やな』

 

作戦の全容を理解した天野が感心するように頷く。

 

『良い考えだとは思うけど、この作戦を成立させる為には、あなたと綾瀬君の役割が重要になるわ。ましてや、神城君は4ファールよ。やれるの?』

 

空と大地の負担が大きい事に姫川が2人に…特に空に声を掛ける。

 

『大丈夫。問題ねえ』

 

姫川の心配をよそに、空は笑顔で親指を立てた。

 

『大地も、問題ねぇな』

 

『ええ。ここまで散々大仁田のパス回しを見させてもらいましたので、パスコースは理解しています』

 

『よっしゃ、ならディフェンスはこれで行く。名付けて、追い込み漁作戦だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

目の前に大地が現れ、明らかに動揺する寺沢。

 

「くっ!」

 

パスを出そうとパスターゲットを探す寺沢だったが、他の4人全てががっちりマークされており、パスは出せない。

 

「バスケにおいてパスは重要です。ですが、バスケは1ON1も求められます。パスだけで試合を成立させられるほど、甘くはありません」

 

両腕を広げ、寺沢を大地が威嚇する。

 

「くそっ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

オーバータイムの時間が目の前に迫っている為、寺沢はやむを得ずドライブを仕掛ける。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

だが、その直後、大地の手が伸び、ボールを捉えた。

 

「ナイスだよ、ダイ!」

 

ルーズボールをすぐさま生嶋が抑えた。

 

「くれっ!」

 

そこへ、空がボールを要求し、生嶋はすぐに空にボールを渡した。

 

「戻れ、ディフェンスだ!」

 

攻撃が失敗に終わり、慌ててディフェンスに戻る大仁田。幸い、空が自陣深くまで下がっていた為、空の速攻より早くディフェンスに戻れた。

 

 

「おー、大仁田のオフェンス止めちゃったよ。…けどまあ、肝心なのは守りより攻めだ。いくら失点を防げても、点が取れなきゃ点差は縮まらない」

 

大仁田のオフェンスを止めた花月に高尾が感心し、次に花月のオフェンスに注目した。

 

 

「…」

 

フロントコートに入ったところで空はボールを止め、ゲームメイクを始める。

 

タイムアウトで流れを切られた形だが、ここできっちり大仁田のディフェンスを攻略し、得点を決められれば、再び流れに乗ることが出来る。

 

オフェンスに関しては、空が皆に出した指示は1つだけ。

 

『オフェンスでは、ボールから目を離さないでくれ。ちょっと、無茶なパスを出すからさ』

 

時間がなかったこともあり、この1点だけであった。

 

「(無理に切り込んでいけば囲まれ、今まで同様スティールされる。かと言って、まともにパスをすれば何処かでカットされる)」

 

これまで、花月のオフェンスは、空が無理に切り込み、包囲され、そこからの苦し紛れのパスをカットされるか、ボール回しをしている内にパスを読まれ、カットされるパターンが大半だった。

 

「(まともなパスはカットされる。…なら、まともじゃないパスを出せばいい)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

考えが纏まった空は、目の前の綾辻を高速のドライブで一気に抜きさる。

 

「(バカめ。その先には罠があると何度も味わっただろう!)」

 

綾辻はわざと左手側から抜かせ、寺沢と大沢が待ち受ける包囲網に空を誘導した。正面から大沢。左後ろから寺沢。真後ろから綾辻が空の包囲にかかる。その他の風間、内海が空のパスに対応出来るポジション取りをする。

 

徐々に包囲網狭まる中、空は…。

 

 

――ボムッ…。

 

 

包囲される寸前、空がパスを出す。

 

『なっ!?』

 

その瞬間、大仁田選手達が目を見開く。

 

空は、今まさに自分を包囲する寺沢が1歩踏み出したのに合わせ、その股下からボールを通した。

 

「この包囲網はスティールしやすいパスコースにボールを誘導する為に罠。その罠に合わせて他の2人が動くなら、正道のパスは通らない。正道がダメなら、邪道からパスを通せばいい」

 

大仁田のディフェンスは、司令塔を特定のエリアに誘導し、そこからミスリードのパスを誘発させるディフェンス。包囲させる中で出せるパスは全て罠が待っている。だが、常識で測れないところからパスが出れば、3人は空を包囲し、残りの2人は罠を張ったパスコースに待ち受けている為、そのパスを受けた選手は完全なフリーとなる。

 

「ナイスパスだ!」

 

ボールを受けた松永はそのままドリブル。そして…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

「よぉぉしっ!」

 

「景気の1発や!」

 

ダンクを決めた松永と天野がハイタッチを交わす。

 

ここから、花月の反撃が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

再び大仁田のオフェンス。これまでどおり、高速のパス回しを始める。パス回しが始まって20秒経過したところで大沢にボールが渡る。

 

「(…くっ、天野のチェックが速い。ゴール下の風間はマークがきつい、寺沢は神城との距離が近い、綾辻は空いているが、ここで戻したらシュートに行けない。なら、外の内海だ!)」

 

瞬時に各選手のポジションを確認し、1番得点に繋げる確率が高い味方選手を割り出し、パスを出した。内海にボールが渡り、シュート態勢を整えようとすると…。

 

「させねえよ」

 

そこへ、空がディフェンスに現れた。

 

「くそっ! 何でそこにお前がいるんだよ!?」

 

先ほど同様、フリーを確信したにも関わらず、目の前に空が現れた事に大仁田の選手達に動揺が走る。パスの行き先を読み切った空が自身の瞬発力とスピードを生かして空が距離を詰めた。

 

右アウトサイドでボールを受けてしまった為、パスコースは限られており、内海以外の選手は全て花月のマークされている為、パスは出せない。つまり、内海は、空と1ON1を仕掛けざるを得ない。

 

「時間がない、内海、仕掛けろ! そいつは4ファールだ! 派手なディフェンスは出来ない!」

 

ここで、大仁田ベンチから声が出る。

 

「(そうだ、弱気になるな! こいつ(空)がいくら俺より上手くとも、4ファールだ。仮に得点にならくとも、上手く行けばこいつをコートの外に追い出せる!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して内海が仕掛け、空の左手側を抜けていく。

 

「ちっ!」

 

4ファールという言葉が耳に入った瞬間、軽く動揺が走った空は、ドライブ直後に狙いを澄ましていたのだが、内海を抜けさせてしまう。

 

「よし!」

 

空を抜いた直後、内海はゴール下まで侵入し、シュート態勢に入る。

 

「(何ビビッてんだ! ここで俺がしっかりしなきゃ、花月は勝てない…)」

 

すぐさま転身し、空は内海を追いかける。

 

「(止める! 俺がチームを勝利に導くんだ!)」

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

ボールが放たれる直前の内海のボールを空が叩いた。

 

『うぉぉぉーっ! 神城速ぇっ!』

 

抜かれたも尚ブロックに追いつける空の瞬発力に観客は沸き上がる。

 

「ファールだ!」

 

やや後方からのシュートブロック。ブロックした空が内海に近いことから、大仁田のベンチから審判に対してアピールするかのように声が出る。

 

「…」

 

だが、審判は笛を口に口に咥えたまま動かない。かなり際どかったが、審判はノーファールと判断した。

 

 

「あっぶねえなぁ…。今のもファールギリギリだぜ?」

 

あまりにヒヤヒヤする空のブロックに、高尾が自分の事のように冷や汗を流した。

 

 

素早くルーズボールを松永が抑え、そこから、花月が速攻をかける。

 

「行くぞ! 全員走れ!」

 

ボールを受けた空がフロントコート目掛けてドリブルを始め、それに続いて大地、生嶋、天野、松永が走り出す。

 

「くそっ! ディフェンスだ!」

 

再び攻撃が失敗し、慌てて戻る大仁田の選手達だが、今回は深く切り込み過ぎたことと、花月の速攻が速すぎる為、まだディフェンスが構築出来ていない。それでも、何とか花月に食らい付いていく。

 

「このまま突き進む!」

 

並走してくる綾辻を加速して振り切る空。そのままゴール下まで侵入し、レイアップの態勢に入った。

 

「行かすか!」

 

「止める!」

 

ここで、風間と大沢がシュートコースを塞ぐようにブロックに現れた。

 

「ちっ」

 

咄嗟にボールを左手で抑え、レイアップを中断する。すると、空はそのままエンドラインを越え、リングの裏に行ってしまう。

 

「よーし、止めた!」

 

失点を防ぎ、拳を握る大仁田の選手達。だが、空は空中で態勢を整え、身体を捩じって右手を振りかぶり、ボールをぶん投げた。

 

「ナイスパスだよ、くー」

 

ボールは、左側のスリーポイントラインの外側に展開していた生嶋の手に渡る。ボールを受けた生嶋はそのままシュート態勢に入る。

 

「させるか!」

 

シュート態勢に入ろうとする生嶋の前に寺沢がブロックにやってくる。生嶋はお構いなしに飛んだ。

 

「なっ!?」

 

ブロックに飛んだ寺沢だが、生嶋は真上ではなく、右斜めに飛び、ブロックかわした。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ブロックをかわして放たれたボールは、リングの中央を的確に射抜いた。

 

「ナイッシュ」

 

「うん。良い音がしたよ」

 

駆け寄った大地が生嶋の肩に手を置き、労うと、生嶋は親指を立てた。

 

「この調子だ。一気に勝負をかけるぞ」

 

『おう!!!』

 

空の激に、花月の選手達は大声で応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンス、ディフェンス共に突破口を見つけた花月。その勢いのまま、花月は攻めていく。

 

一方大仁田も、手を変え品を変えて仕掛け、花月を翻弄。ノリに乗る花月の勢いを断ちにかかるも、止めきれず、点差は徐々に縮まっていく。

 

 

第4Q、残り2分23秒。

 

 

花月  62

大仁田 63

 

 

試合時間、残り2分半を切った所で、花月はついに大仁田の背中を捉える。

 

「集中しろ! この1本、絶対に止めるぞ!」

 

大仁田のオフェンス。空が声を張り上げ、チームを鼓舞する。

 

「負けねえぞ。ここを勝って秀徳と戦うのは俺達だ。小林先輩の悲願を果たすの俺達だ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールをキープする綾辻がフロントコートにボールを運んで早々空に対して仕掛ける。

 

「甘えぞ!」

 

今までにない速い仕掛けであったが、きっちり集中していた空は綾辻のドライブに対応する。だが…。

 

「っ!?」

 

空が並走したのと同時に綾辻は前を向いたままバックパスをする。そこには、寺沢が立っていた。

 

「ちっ!」

 

スリーポイントラインの外側に立っていた寺沢。シュート態勢に入る寺沢を見て空がすぐさま転身し、ブロックに向かう空。

 

 

――ピッ!

 

 

寺沢は、一瞬シュートフェイクを1つ入れると、中断してボールを前方に投げつける。ボールは空の横を抜け、再び綾辻に渡る。

 

「くそっ!」

 

裏を掻かれた空はもう1度転身し、綾辻を追いかけようとする。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

「っ!」

 

だが、その直後、空は寺沢のスクリーンに捕まってしまう。

 

「スイッチ!」

 

スクリーンに捕まった空が声を出す。

 

「任せてや!」

 

空に代わり、天野がヘルプにやってくる。綾辻はボールを受け取ると、すぐさまパスを出した。

 

「あっ!?」

 

ボールは、生嶋のマークを振り切り、ゴール下まで走り込んでいた寺沢に渡る。寺沢はボールを受け取るとすぐさまシュート態勢に入った。

 

「させません!」

 

そこに、大地がブロックに現れる。

 

「っ!?」

 

だが、寺沢のシュートはフェイク。飛んではいなかった。

 

実力はあるもまだ1年生の大地。経験豊富な寺沢は、冷静にフェイクを入れ、ブロックをかわす。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地の横を抜け、リングを越え、リバースレイアップの態勢に入る。

 

「まだだぁぁぁっ!!!」

 

そこに、松永がブロックにやってくる。松永は懸命に手を伸ばす。

 

 

――チッ…。

 

 

僅かに松永の伸ばした指先にボールが障る。ボールは、リングを縁を転がりながらリングの外に落ちていった。

 

「リバウンドォォォォッ!!!」

 

外れる事を確信していた松永が声を張り上げる。

 

リバウンド争い。花月は天野が、大仁田は風間と内海がリバウンドに飛ぶ。

 

「リバウンドは、俺の土俵やぁぁぁっ!!!」

 

天野がリバウンド争いを制し、ボールを確保した。

 

「いいぞ天野!」

 

花月ベンチからリバウンド争いを制した天野に対して労いの言葉が出る。

 

「天さぁぁぁぁぁん!!!」

 

その直後、フロントコート目掛けて走りながら空がボールを要求する。

 

「決めてこいや!」

 

天野の声を背中に受けながら空はボールを受け取り、そのまま速攻に走る。

 

「くそっ!」

 

慌ててディフェンスに戻る大仁田だったが、誰よりも前を走る空に追いつける者はいなかった。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「しゃぁぁぁぁーーーっ!!!」

 

右拳を天高く突き上げ、空は喜びを露わにした。

 

残り時間2分を切り、花月が遂に逆転に成功する。

 

 

「……帰るぞ、高尾」

 

空のダンクが決まるのと同時に、緑間が踵を返し、歩き始める。

 

「おい、真ちゃん!」

 

スタスタと歩く緑間を高尾が慌てて追いかけていく。

 

「まだ試合は終わってねえぞ」

 

「勝敗はもう決まった。これ以上、見る必要はない」

 

戸惑いながら声を掛ける高尾を他所に、緑間は止まることなく出口へと歩いていく緑間。

 

「勝敗は決したって、んなもんまだ…」

 

「勝敗を分けたのは、エースの有無だ」

 

納得が出来ない高尾に対し、緑間は歩きながら説明をする。

 

「花月は綾瀬の1発で悪い流れを変えた。だが、大仁田にはその役割を担う者がいない」

 

「…」

 

「エースの存在。それが花月と大仁田の差だ」

 

「なるほど。去年まであって今年なくなったものが、勝敗を分けちまったのか…」

 

昨年、大仁田には小林圭介という絶対的なエースがいた。高尾自身、間近で体験しただけに、その実力はよく理解していた。その小林圭介が抜け、エース不在の大仁田がそれでも全国で勝ち抜く為に構築したパス主体のバスケだったが、エースが存在するチームに鳴くことになった事に、高尾は皮肉さを感じていた。

 

「真ちゃんとしては、どうなんだ? この結果に満足なのか?」

 

「……どちらが勝とうと関係ない。俺はただ人事を尽くして試合に臨み、勝つだけなのだよ」

 

高尾の質問に一瞬緑間が立ち止まると、そう答えて再び歩き出した。

 

「ハハッ。素直に答えりゃ良いのによ」

 

高尾は、僅かに口元の口角が上がるのを見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合の流れは完全に花月に傾く。

 

空のダンクが、試合を決定づけた。試合時間が残り1分を切ったその時。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

「…あっ」

 

「ディフェンス、プッシング、緑6番! 5ファール、退場!」

 

綾辻のパスをカットしようとした際、空の手が綾辻の手に当たってしまう。

 

「しまったぁぁぁぁっ!!!」

 

コールされた空は頭を抱えて絶叫した。

 

「ド、ドンマイ、空」

 

退場となった空を大地は引き攣った表情で慰める大地。空はトボトボとベンチへと下がっていく。

 

「最後の最後で集中切らせやがって、バカ者が!」

 

「す、すいません…」

 

返す言葉がない空は、俯きながらベンチに腰掛ける。

 

「そこじゃない。ここに座れ」

 

上杉が指差したのは、自身の正面である床だった。

 

「うっ…」

 

一瞬怯んだ空だったが、覚悟を決めて空は上杉の前で正座した。

 

『あいつ正座させられてるぞ』

 

『可哀想に…』

 

観客の1部から、同情であったり、笑い声が上がった。

 

「バーカ」

 

正座する空を冷ややかな目で姫川は見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は、空が退場したものの、それでも流れは変わる事がなかった。

 

残り時間、執念の籠った大仁田の猛攻を、花月は耐えきった。そして…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、試合終了のブザーが鳴った。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

それと同時に観客から大歓声が上がった。

 

 

試合終了

 

 

花月  66

大仁田 65

 

 

試合終盤まで大仁田のバスケに翻弄された花月だったが、大地のダンクと空のアイディアをきっかけに流れを変え、逆転に至った。

 

「66対65で、花月高校の勝ち!」

 

『ありがとうございました!』

 

両チームがセンターサークルに集まり、互いに礼をした。

 

「…ハァ。勝てると思ったんだけどな」

 

綾辻が天野と握手を交わしながらポツリと呟いた。

 

「ヒヤッとしたわ。今でも冷や汗が止れへん」

 

おどけた表情で天野が返す。

 

「秀徳は強いぞ」

 

「よー知っとるで」

 

「番狂わせ、起こせよ」

 

そこで2人は手を放した。

 

「後、そっちのポイントカードによろしく」

 

振り返り、ベンチに引き返しながら綾辻は後ろ手で天野に伝えた。

 

「ふー、たどり着いたな」

 

「うん。待ちわびたよ」

 

「明日は……さらに激戦となるでしょうね」

 

試合に勝利し、喜んだのも束の間、明日に控える激戦を目の前に、自然と表情が引き締まる大地、生嶋、松永。

 

「奇跡を、起こしましょう」

 

「もちろん」

 

「当然だ」

 

3人は拳を突き出し、コツンと合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(試合に勝った。これで戦える!)」

 

試合に勝利し、3回戦に駒を進め、待ち受ける秀徳と戦えることとなり、空は内心で拳を握って喜ぶ。

 

「(キセキの世代への挑戦権は手に入れた。明日は目にもの見せて…)って、いねえ!?」

 

試合中、偶然見つけた緑間・高尾がいた方向に視線を向けると、2人は既にいなかった。

 

「聞いてるのか!」

 

「聞いてます! すいません!」

 

明後日の方向に視線を向けた空を怒鳴りつける上杉。慌てて空は頭を下げた。

 

空の説教は、旅館に戻っても再開された…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

苦戦を強いられた花月高校。

 

それでも、各々が力を発揮し、勝利した。

 

次に待ち受けるのは、キセキの世代のシューター、緑間真太郎を擁する秀徳高校。

 

花月高校は、キセキの世代への挑戦権を、獲得したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





かなり難産でした…(^-^;)

バスケ経験がなく、緻密な戦術となると全然頭が回らず、結果、間隔がかなり空き、試合結果も何か微妙な感じに…。

相当動画やら本やら読みましたが、やっぱり、バスケに限らず、スポーツは年単位で経験しないと深く理解出来ない事を思い知りました…。

没ネタとして、三杉と堀田が見られないことと、誠凛が出場出来ず、一見地味な大仁田にやられる花月に腹を立てた観客による野次が飛び、ヒートアップしてさらなる暴挙に出ようとした観客を後ろに座っていた青峰に睨みつけながら止められるなど考えましたが、さすがにこれはやり過ぎかなと思い、没にしました。今後、没ネタがあったら後書きで書こうかなと思います。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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