黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

体調不良により、投稿が遅れました。申し訳ございません…m(_ _)m

それではどうぞ!



第67Q~冬の開幕~

 

 

 

「まさか、このような結末になるとは…」

 

『…』

 

突如、花月の選手達に舞い込んだ報を聞き、皆、神妙な表情になった。

 

それは、先ほど空の携帯にかかってきた、空と大地の元チームメイト、田仲からの電話によるものだった。

 

東京都で開催された、ウィンターカップ都予選。全国一の激戦区であり、最も注目度の高い場所でもある。

 

決勝リーグに駒を進めたのは、誠凛、桐皇、秀徳、正邦の4校。去年の冬、今年の夏に決勝リーグに進出した霧崎第一は、主将花宮真が不参加による戦力ダウンが原因で、正邦に敗れた。

 

ウィンターカップ本選に出場出来る東京都の枠は2つ。つまり、キセキの世代及び、火神が所属する高校のいずれかがここで姿を消す事を意味している。

 

まずは初戦。桐皇対秀徳と、誠凛対正邦の試合。

 

キセキの世代同士の桐皇と秀徳の戦い。青峰が緑間を徹底マーク。これにより、緑間のシュートチャンスがかなり減る結果となった。試合は、夏同様、緑間が青峰をマークするが、夏と違い、パスを織り交ぜるようになった青峰を緑間は対処しきれず、得点を許してしまう。

 

秀徳は緑間以外で活路を見出そうとするも、流れに乗り切れず、結果、103-97で桐皇が初戦を制した。

 

一方、誠凛対正邦の試合は、正邦のお家芸である、古武術によるディフェンスに苦労するが、火神が独力でディフェンスを突破。津川も、火神を止めきれず、試合は85-72で誠凛が勝利した。

 

2日目。誠凛対桐皇と、秀徳対正邦の試合。

 

誠凛対桐皇の試合は、火神と青峰の激突となった。夏では互角に戦った両者だが、此度の戦いは、パスという選択肢が増えた青峰に軍配が上がった。

 

影の薄さを取り戻した黒子がパスを中継し、得点を重ねる誠凛だが、青峰と、インサイドから若松がガンガン仕掛けていき、点差は開いていく。結果、試合は99-95で桐皇が制した。

 

秀徳と正邦の試合は、先日の試合のフラストレーションを晴らすかのように緑間がスリーを量産。インサイド、アウトサイド共に秀徳が制圧し、試合は89-65で秀徳が制した。

 

そして都予選最終日。試合は桐皇対正邦と、誠凛対秀徳。

 

最初に行われた桐皇対正邦の試合は、青峰が得点を量産。桐皇が正邦のディフェンスを貫き、試合は101-64で勝利。これにより、桐皇が全勝でウィンターカップ出場を決めた。

 

そして、運命の誠凛対秀徳の試合。勝った方が出場を決め、負けた方はここで終わるサバイバルゲーム。

 

試合は、火神が緑間を連続ブロックし、序盤は誠凛リードで試合が進む。だが、秀徳は後半戦からインサイドを中心に攻め始める。水戸部と田仲は、秀徳のインサイド攻撃に大いに苦しみ、得点を許してしまう。火神がフォローすると、緑間にスリーを打たれしまい、誠凛は、ディフェンスをマンツーからボックスワンに切り替え、対応する。

 

試合終盤、秀徳が動く。メンバーチェンジで、シューターをもう1人投入。外が2枚に増えた事により、誠凛はボックスワンからトライアングルツーに変更。だが、インサイドが1枚減った事により、再びインサイドを攻められてしまう。高尾が鷹の眼(ホークアイ)とパスセンスを駆使して巧みに外と内にボールを回し得点を重ねていく。誠凛も火神がゾーンに入り、食らい付く。

 

試合はラスト数秒まで逆転に継ぐ逆転を繰り返し、そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了。

 

 

誠凛 92

秀徳 93

 

 

試合は秀徳が制し、ウィンターカップ出場の最後の枠を手に入れ、昨年のウィンターカップの覇者が本選に参加する事なく姿を消した。

 

電話では、弱点となってしまった田仲が自分を責め、後は、全国で戦う事が出来なかった事への謝罪をしていた。空は電話を切ると、事の顛末を皆に伝えた。

 

「枠は2つ。漏れたのは昨年の覇者か…」

 

生嶋がポツリと言う。

 

「秀徳はもともと、インサイドが強いチームだ。桐皇も、あの若松は全国でも屈指の実力者。鉄平さんの抜けた穴を埋めきれなかったか…」

 

センターを担う松永が半ば複雑な表情をした。

 

昨年のメンバーがほぼほぼ残る誠凛だが、唯一、怪我で離脱したのが鉄心、木吉鉄平。既存のメンバーでも、新戦力でも穴は埋めきれなかった。

 

「もったいない話やな。誠凛も、別の県なら確実に行けたろうに」

 

残念そうな表情で天野が言った。

 

「誠凛……火神さんとやってみたかったな…」

 

キセキの世代の全員に勝利した火神と戦う事が出来ず、溜息交じりで空は残念がった。

 

「お前ら他の心配をしている余裕はないだろ」

 

ここで、話をしているところに上杉がやってきた。

 

「全国を最後まで勝ち抜いた経験のある誠凛でも負ける。これが高校バスケだ。…休憩は終わりだ。冬、勝ちたければ死に物狂いで練習しろ!」

 

『はい!!!』

 

花月の選手達は、練習へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後も、猛練習を続ける花月高校。

 

各々がウィンターカップまで少しでも力を付ける為、上杉が用意した練習メニューをこなし、早朝練習前と練習後に自主練を行ってきた。冬を制覇する為に。そして、11月某日…。

 

「監督、これを」

 

姫川から上杉に1枚の紙が渡された。

 

「むっ。…遂に来たか。…全員、集まれ!」

 

用紙に書かれた内容を確認すると、休憩中の部員達を集めた。

 

「ウィンターカップの組み合わせが決まった」

 

『っ!?』

 

上杉に口から発表された言葉に、部員達は目を見開いた。そして、姫川と相川から組み合わせ表が配られた。

 

「……っ! 1回戦からキセキの世代同士がぶつかってる!」

 

組み合わせで注目したのは、自分達、花月高校が何処にいるか、そして、優勝候補であるキセキの世代が所属する高校が何処にいるか。

 

「海常と陽泉がいきなりぶつかったか…」

 

黄瀬涼太が所属する海常高校と紫原敦が所属する陽泉高校が1回戦でぶつかっていた。

 

「…ちぇ、これじゃあ黄瀬か紫原とは戦えないじゃんか…」

 

1人でも多くのキセキの世代と戦いたい空は、黄瀬と紫原の潰し合いを残念がる。

 

「俺らはシードやから…ここやな…。……栃木の大仁田高校と千葉の仙洋高校……まあ、勝ち上がるんは大仁田やろうな」

 

「大仁田は確か、去年の冬は秀徳、今年の夏は海常と戦ってますよね?」

 

「そや。去年は小林圭介言うかなりやる選手がおってやな――」

 

天野と松永が組み合わせを見ながら話をしている。

 

「僕達がキセキの世代と最初にぶつかるのは3回戦。…で、相手は――」

 

 

――秀徳高校…。

 

 

「…なるほど。秀徳……緑間真太郎か…!」

 

組み合わせ表から視線を外すと、空はニヤリと笑った。

 

「田仲さんの無念を晴らす絶好の機会ですね」

 

釣られて大地もニコリと笑った。

 

「盛り上がるのはここまでだ。戦うためにはまずそこまで辿り着かなければならないことを忘れるな! 休憩はここまでだ。大会の最後の仕上げをするぞ!」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ウィンターカップの組み合わせが発表されてからさらに月日が経過し、遂に、大会1週間までカレンダーは進んだ。

 

「今までよく頑張った。俺の監督歴の中でも、今年は1番練習した」

 

『…』

 

「だが、これから始まるウィンターカップはこれまでのどの練習より辛いものになるはずだ。この中に、自分が夏の王者等という驕った考えを持っている奴は今すぐ捨てろ」

 

『はい!!!』

 

「行くぞ! 全国の猛者を蹴散らし、頂点を獲るぞ!!!」

 

『はい!!!』

 

上杉の激に、部員達は腹の底から声を出し、応えた。

 

「やれることはやりました。後は勝つだけです」

 

大地が右手を前に差し出した。

 

「うん。僕達の挑戦がこれから始まる。キセキを起こさないとね」

 

生嶋が大地の手の上に自分の右手を重ねた。

 

「ああ。俺達になら出来るはずだ」

 

その上に松永が右手を重ねた。

 

「そのとおりや。全国で暴れたろうやないか」

 

その上に天野が右手を重ねた。そして、部員達とマネージャーの姫川、相川が次々手を重ねていく。

 

「俺達が目指してきた、『キセキを倒して奇跡を起こす』という目標。絶対に達成しようぜ!」

 

そして、空が右手を重ねた。

 

「ここに残っているのは、本気でキセキを起こせると信じた奴だけだと思っている。みんな、行くぞ!」

 

『応(はい)!!!』

 

最後に馬場が締め、花月の選手達は優勝を誓い、ウィンターカップの決戦の場へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

12月下旬。

 

 

――全国高等学校バスケットボール選抜優勝大会…。

 

 

通称、ウィンターカップの会場のある東京に花月の選手達はやってきた。

 

「ついに来たぜ」

 

会場の目の前に立った空が、瞳を輝かせながら会場を見上げた。周辺にはチラホラ他の参加校の選手の姿も見える。

 

「空。今回は夏みたいにフラフラ動き回らないで下さいね」

 

テンションを上げる空を大地が窘める。

 

「この会場…、去年の激戦を思い出すね」

 

「ああ。去年、誠凛が起こした奇跡を…」

 

生嶋と松永が懐かしむように思い出す。

 

昨年、誠凛高校がウィンターカップ初出場初優勝を成し遂げた。その激戦に継ぐ激戦は試合を目の当たりにした者達の記憶に今も焼き付いている。

 

「同じ会場や。1度奇跡が起きたんや。2度起きてもなんも不思議やあらへん。なぁ?」

 

昨年を懐かしむ2人の間にやってきた天野が、2人の肩に腕を回した。

 

「開会式までそんなに時間はない。その後はスカウティングだ。…行くぞ」

 

上杉に促され、選手達は会場内に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

開会式は粛々と行われ、終了すると、シード校以外の参加校が1回戦の準備に向かっていった。

 

花月の選手達は、そのまま観客席に向かっていった。

 

「さて…」

 

「待て、神城。お前、何処に行くつもりだ?」

 

1人別行動を取ろうとする空を上杉が呼び止める。

 

「ちょっと陽泉と海常の試合を…」

 

「ダメだ。明日の相手の試合が優先をしろ」

 

「ちぇー」

 

目当ての試合を見る事が出来ず、口先を尖らせる空。

 

「向こうは決勝まで当たらないのだから当然でしょ? 次の試合相手に集中しなさい。油断していると足元掬われるわよ」

 

「分かったよ」

 

姫川に窘められ、渋々チームメイトと一緒に観客席に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

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・・・・

 

 

席に座ると、コート上で次の試合相手である、大仁田対仙洋の試合が行われていた。

 

「(つまんねえ~)」

 

試合は既に第3Q中盤に差し掛かろうとしている。

 

 

第3Q、残り4分49秒。

 

 

大仁田 38

仙洋  30

 

 

8点差で大仁田がリードしている。試合はロースコアゲームで、大仁田がとにかく時間をたっぷり使い、必要以上にドリブルを行わず、パスを中心にゲームを組み立てている。

 

「(こういうテンポが遅い試合って嫌いなんだよなぁ…)」

 

速い展開を得意とする空にとって、ゆっくり試合が動くディレイドオフェンスは退屈そのものであった。

 

「(観客が少ないな。多分、陽泉と海常の方に行ってんだろうな…)」

 

周囲には、空席がチラホラ目立つ。空の推測どおり、観客の大半が陽泉と海常の試合が良く見える席に密集していた。

 

空の目当てである、陽泉と海常の試合は…。

 

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

 

初日1番の注目の対戦カードだけに、試合は大いに盛り上がっていた。

 

共にキセキの世代を擁するチーム。試合は拮抗している……と、思われたが…。

 

「ハァ…ハァ…くっ!」

 

滴る汗をユニフォームで拭う黄瀬。

 

 

第3Q、残り5分21秒。

 

 

陽泉 46

海常 34

 

 

試合は陽泉ペースで進められていた。

 

陽泉は普段から強いている2-3ゾーンではなく、氷室を黄瀬に付け、残りはゴール下でゾーンを組むボックスワンで海常と対峙していた。

 

如何に黄瀬でも、氷室を抜くのは容易ではなく、制限時間のあるパーフェクトコピーを使わないで戦うにはかなりの苦労を強いられていた。

 

早川によるリバウンドも、劉がスクリーンアウトで早川を外に追い出し、飛ばせなくして、残りの者がリバウンドを抑える作戦を取ったことで、オフェンス、ディフェンス共にリバウンドを陽泉が制していた。

 

海常は、周りがスクリーンを掛け、黄瀬をフリーにし、そこにパスを回したり、黄瀬が緑間の超長距離スリーのコピーを中心に何とか点を取っているが、ゴール下を陽泉に制されている為、点差は少しずつ開いていっている。

 

「悪いけど、黄瀬ちんは勝てないよ」

 

ボールを貰った紫原が、背中に立つ黄瀬に言った。

 

「何言ってんスか? 試合はまだまだこれからッスよ!」

 

言われた黄瀬は、反論する。

 

「黄瀬ちんは確かにすごいけど、周りが雑魚過ぎるでしょ。1人で勝てる程、うち(陽泉)は甘くないよ?」

 

「っ! 言ってくれるッスね。こっちだってこのまま終わる程、ヤワじゃないッスよ!」

 

ここで黄瀬はプレッシャーを強める。

 

「…ふうん。じゃあ、これならどう?」

 

紫原は回転しながら飛び上がった。

 

「あれは…破壊の鉄槌(トールハンマー)!?」

 

「させないッスよ!」

 

黄瀬は紫原をコピーしてブロックに向かった。

 

「へぇー、すごいね、それ。ホントに俺を見てるみたいだよ。…けど」

 

「っ!?」

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

紫原の破壊の鉄槌(トールハンマー)がリングに叩きつけられる。ブロックに向かった黄瀬はその威力に弾き飛ばされた。

 

「動きは真似出来ても、力までは無理みたいだね」

 

「…っ!」

 

紫原の指摘を受けて、黄瀬は表情を歪ませた。

 

黄瀬の紫原のコピーは、ジャンプ力と予測で守備範囲こそ再現しているが、力まではコピー出来ない。本家とぶつかり合ってしまえば、黄瀬に勝ち目はない。

 

「まだッスよ。…まだこれからッス」

 

黄瀬が立ち上がると、再び瞳に闘志を宿らせ、コートを走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ここから黄瀬が奮闘し、点差を縮めていくが、やはり、制限時間のあるパーフェクトコピーの多様である為、黄瀬はみるみる疲弊していく。

 

陽泉は、外から木下が決めるか、氷室が切り込んで決めるか、インサイドの紫原が確実に得点を決め、得点を重ねていく。

 

「シュッ!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

黄瀬がハーフラインからスリーを放ち、得点を決めた。

 

 

第4Q、残り1分18秒。

 

 

陽泉 62

海常 57

 

 

黄瀬の猛追により、得点差を5点にまで縮めていた。

 

「…これがキセキの世代か。とんでもないな」

 

この試合、黄瀬のマークをしていた氷室の口から思わずこんな言葉が漏れる。緑間のコピーを最も警戒しながらディフェンスをしていた氷室だが、それでも防ぎきれず、スリーを許してしまう。

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

ハーフラインからのスリーを決めた黄瀬だったが、もはや限界なのは一目瞭然である。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

永野のパスを黄瀬がスティール。そのままターンオーバーの速攻をかける。

 

「行かせないよ」

 

そこへ、氷室が待ち構える。

 

「いいや、ここを決めさせてもらうッスよ!」

 

ここで黄瀬が青峰のコピー、チェンジオブペースで氷室に仕掛けた。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「な…に…」

 

だが、氷室は黄瀬のボールを冷静に捉えた。この事実に黄瀬は両目を見開いて驚いた。

 

「あいにくだが、もはやさっきのキレもスピードもない。これはただの贋作だ」

 

零れたボールを氷室が拾い、再び陽泉のオフェンス。氷室がそのまま切り込んでいく。

 

「絶対に…ここは行かせない!」

 

ボールを奪われた黄瀬が執念で戻り、氷室の横に並走した。

 

『っ!?』

 

黄瀬が横に並んだところで氷室はビハインドパスを出した。ボールの行先はスリーポイントラインの外側でフリーになっていた木下。すぐさまスリーの態勢に入った。

 

「しまっ…!」

 

切り込んできた氷室に釣られ、マークを外してしまった中村が慌ててブロックに向かうが、一歩届かず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングに中央を射抜いた。

 

『…』

 

致命的とも言える失点を喫した海常の選手達に表情に絶望の影がよぎった。

 

「まだッスよ! まだ追いつける!」

 

黄瀬が、その絶望を晴らすように声を上げた。

 

「そうだ! まだ試合は終わってないぞ! 声出せ! ちか(ら)をふ(り)しぼ(れ)!」

 

続いて主将の早川もチームを鼓舞する。2人の鼓舞によって、海常の表情が引き締まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

だが、陽泉の壁は厚かった。既に体力の限界に近い黄瀬。他の選手達も同様であり、点差を縮めるのは至難の業であった。

 

それでも海常は体力と気力を振り絞り、戦った。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了。

 

 

陽泉 66

海常 62

 

 

しかし、逆転をすることは出来なかった。

 

「…」

 

早川に肩を抱かれてベンチへと引き上げていく黄瀬を、紫原は無言で見送る。

 

「恐ろしい選手だよ、彼は」

 

そんな紫原の横に氷室が歩み寄ってきた。この試合、黄瀬のマークを任された氷室。ほとんど止める事が出来ず、要警戒をしていた緑間のコピーによる超長距離スリーを何度も許してしまった。

 

「……そうだね」

 

紫原は、ただそう返事をした。

 

初日、1番の注目のカードである陽泉対海常の試合は、陽泉に軍配が上がったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

一方で、空達花月が観戦している大仁田対仙洋の試合も終わっていた。

 

 

大仁田 56

仙洋  42

 

 

予想通り、大仁田が初戦を制した。これにより、花月の最初の相手が大仁田高校に決まった。

 

「順当に大仁田勝ち上がりましたね」

 

「そうだね」

 

試合を見届けた花月の選手達は、明日の試合を想定し、気合を入れる。

 

「さて…、試合も終わったし、トイレ行ってくる」

 

空は立ち上がると、1人席を離れていった。

 

「全くもう…」

 

1人単独行動を取る空に姫川は口先を尖らせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…ん?」

 

「おっ」

 

トイレに向かっていると、見知った顔と出会った。

 

「高尾さん。夏以来ですね」

 

出会ったのは、秀徳の高尾であった。

 

「よう。元気そうじゃん」

 

声を掛けられた高尾は軽快に返した。

 

「危なげなく勝ったみたいですね」

 

「おう。そっちは…そういやシードだったな。おうおう、良いご身分じゃねえかよ」

 

「どうもッス。…お互い、後1つ勝てばコートで会えますね」

 

「そうだな。そんじゃ、次はコートでな」

 

軽く会話すると、空と高尾は握手をした。

 

「高尾。こんなところで無駄話をしている時間はない。早く行くぞ」

 

横に立っていた緑間が急かすように高尾に言う。

 

「緑間さんも。コートで会ったらその時はお手柔らかに」

 

不敵な笑みを浮かべながら手を差し出した。

 

「…あいにくと、試合をするかどうか分からない相手に裂く時間はないのだよ」

 

そんな空に一瞥もくれず歩き出した。

 

「…っ」

 

そんな緑間の対応に、空はカチンときた。

 

率直に、空はキセキの世代の中で緑間真太郎が1番嫌いであった。青峰と紫原は言動行動共に分かりやすいのでそこまででもないが、赤司や黄瀬は、自分達を下に置いてはいるが、それでも認めてくれているところは認めてくれていた。

 

だが、緑間は、そんな4人とは確実に違っていた。緑間が空を見る目は、見下しではなく、単純に興味がなく、言わば、眼中にないと言った目である。

 

「夏とホントに変わらないですね。あんたにとって俺達はただの道端の石ころなのかもしれないけど、あんま上ばっか見てると、その石ころに躓くことだってあり得るんですよ」

 

緑間の対応に、空は挑発混じりに言った。

 

「…俺達に勝つ勝たないの話は、まずはそこまで辿り着いてから言うのだよ」

 

一瞬立ち止まった緑間はそれだけ告げ、再びその場を後にしていった。

 

「おい真ちゃん! 悪いな神城君。それじゃ、またな」

 

そんな緑間を追うように高尾もその場を後にした。

 

「上等だよ…!」

 

立ち去る緑間達の背中を見つめながら、空は拳をきつく握った。

 

「田仲の無念もあるが、意地でもお前らに勝って、その鼻っ柱を叩き折ってやるよ」

 

空は緑間を睨み付け、歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おい真ちゃん。ったく、そのツンデレ癖どうにかならないのかよ」

 

高尾が諫めるのではなく、からかうように言った。

 

「黙れ高尾。俺の言った事は事実だ。この先、花月と戦うとは限らないのだよ」

 

「花月の次の相手は確か……大仁田だよな。確かに大仁田は強いけど、小林圭介はもういないし、強力な新人が加入したって話も聞かないから、楽勝とはいかなくても花月が勝つんじゃないのか?」

 

高尾が鞄からトーナメント表を取り出した。

 

「甘いのだよ。今年の大仁田は強い。俺の見立てでは、昨年、小林圭介が率いていた大仁田より強い。戦えば俺達でも苦戦は免れないのだよ」

 

「なっ、マジかよ…」

 

緑間の分析に、高尾は信じられないと言った表情になった。

 

「真ちゃんはどっちが上がってくると思う?」

 

「さあな。だが、あの様子では、花月の勝率は低いだろう。少なくとも、完勝はまずあり得ないのだよ」

 

先ほどの空の様子を見て、緑間は、花月の苦戦は必至と分析する。

 

そして、この緑間の予想が翌日、的中することとなったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





自宅のクーラーのフィルターを掃除し、その後、試運転でクーラーを起動し、そのまま眠り込んだ結果まさか風邪を引くとは…(^-^;)

ウィンターカップ予選の東京。賛否両論は確実にあるかと思いますが、このような結末にしました。誠凛ファンの方にはただただ申し訳ございません…m(_ _)m

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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