投稿します!
この話でジャバウォック戦を終わらせたかったのですが、終わりませんでした…(^^;)
それではどうぞ!
第2Q、終了。
花月 40
J・W 42
試合の半分が終わり、点差は僅か2点。
両チームがベンチへと下がっていく。堀田の活躍によって点差をワンゴールで終えた花月は表情が明るい。対してジャバウォックは…。
――ガシャン!!!
「クソがっ!!!」
苛立ちを抑えきれなかったシルバーが椅子を蹴り飛ばした。
「お、おい、シルバー…」
チームメイトのザックがなだめようと恐る恐る声を掛けるが…。
「あのクソザルがぁぁっ…、この俺様に恥を掻かせやがって…! 後半になったらブチ殺して…!」
それでも怒りが収まらないシルバー。
「シルバー」
そんなシルバーにナッシュが声を掛ける。
「ああっ!?」
「黙れ」
「…っ!」
睨みを利かせたナッシュの言葉に、シルバーは身体をビクつかせる。
「バカの1つ覚えのようにパワー勝負を仕掛けやがって。少しは頭を冷やせ。お前はパワーだけの無能じゃねぇだろうが」
「っ! だがよぉ、このままあのサルに調子に乗らせたままじゃ俺の気が収まらねえんだよ」
「要は、お前の主戦場で戦えばいいだけの話だ」
そうシルバーに告げると、ナッシュは指の骨を鳴らした。
「心配すんな。どのみちこの試合、俺達の敗北はまずあり得ない。…お遊びはここまでだ。ここからは勝ちにいこうじゃねぇか」
不敵な笑みをナッシュは浮かべた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
花月ベンチ…。
「どうにか前半は良い形で折り返した。…だが、正念場はここからだ」
「ええ。ジャバウォックの実力はこんなものではない。特にナッシュは全く底を見せていない」
選手達の前に立つ上杉が腕を組みながら告げると、三杉が汗を拭いながら答える。
「後半。間違いなく向こうは…、ナッシュが仕掛けてくるだろう。さて、どうするか…」
上杉が顎に手を当てて作戦を練る。
「司令塔であるナッシュの底が見えない現段階で対応策を考えるのは不可能でしょう。とりあえず今、言えるのは…」
ここで、三杉が空と大地の方を向く。
「空、綾瀬。いいか――」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
ハーフタイムが終了し、後半戦、第3Qが始まった。
「…」
ジャバウォックボール。ボールはナッシュがキープする。
「…っ」
ナッシュのマークに付くのは三杉。ナッシュの雰囲気が変わった事を肌で感じ、警戒を強めた。
「ナッシュの雰囲気が変わった…!」
試合を観戦していた火神もそれに気付いた。
『…』
キセキの世代の5人も同様であった。
「俺達に舐めた口を利いただけのことはある。ここまでやるとはな」
「…君の口からそんな言葉が聞けるとはね」
淡々と告げるナッシュの言葉に、表情を変えることなく三杉は返した。
「だが、それもここまでだ。この第3Qで試合を終わらせてやるよ」
そう告げるとナッシュがゆっくり動き始める。そして…。
――ヒュッ…。
ナッシュの手元からボールが消え失せる。
「っ!?」
目の前の三杉は反応が出来なかった。
「えっ?」
ボールは、アレンの手元にあった。アレンがシュート態勢に入ったところで大地はようやくボールのありかに気付いた。
「くっ!」
慌ててブロックに向かうが間に合わず、ボールは放たれた。
――ザシュッ!!!
ボールはリングを潜った。
「今、何が起こったんや? ナッシュの手元からボールが消えたかと思ったら、7番の手元に収まっとった…」
何が起こったか分からない天野は混乱する。
「何だよあの速さ…。あの野郎、あんなパス出せんのかよ…!」
「…空、今の見えたんですか?」
「距離があったから何とか。ノーモーションからのクイックパスだ。しかも、目の前の三杉さんやパスの受け手をマークする大地が反応出来ない程の…。あんなパス、見た事ねぇ」
正体を辛うじて見えた空は驚愕していた。
「ちっ! ここからが本領発揮かいな…!」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
オフェンスが花月に切り替わる。ボールを貰った空がボールを運んでいく。
「スピードなら俺達の十八番だ。行くぞ!」
スリーポイントラインの外側までボールを進めると、ハイポストに立つ天野にパスを出した。パスを出した後、天野の下へ駆け寄り、ボールを受け取りにいく。
『っ!』
空がボールを受け取る瞬間、天野はボールを横に流した。空がボールを受け取ると思っていたジャバウォックの選手達は意表を突かれた。横に流したボールを…。
「よし!」
天野の目の前で真横に急旋回した空が走り込んでいた。
「黒子さん直伝!」
――バチン!!!
ボールに触れる直前、1回転し、回転した反動を利用してボールを叩いた。叩かれたボールはリング付近に飛んでいった。そこには、タイミング良く大地が飛んでいた。
『うおぉぉぉっ! 綾瀬速ぇぇぇぇぇぇっ!』
大地の右手にボールが収まり、そのままリングへと叩きつけた。
――バチィィィッ!!!
「っ!?」
「なに!?」
完全に意表を突き、決まると確信したのも束の間、アリウープはシルバーによってブロックされた。
「あの連携をブロックした! 読まれたんスか!?」
「いや違う。シルバーは完全に不意を突かれていた。単純にシルバーの反射速度がそれを上回っただけだ」
黄瀬の予想を赤司が否定し、事実を話した。
「今の連携は、黒子と火神の連携に匹敵する威力がある。シルバーの反射速度はそれよりも上か…!」
冷や汗を流しながら緑間が言う。
「「…っ!」」
黒子と火神も驚愕していた。
「カウンターだ、戻れ!」
『っ!』
三杉の声に反応し、花月の選手達は急いでディフェンスに戻る。いち早く切り替えた三杉と堀田と、コート上最速の空が戻り、3対3の状況になった。
「…」
ボールをキープするナッシュ。今度は抜かせまいと気を張ってディフェンスに臨む三杉。
「…ハッ! 無駄だ。俺のパスは誰にも止められねぇよ」
――ヒュッ…。
再びナッシュの手元からボールが消える。ボールは再びアレンの手元に収まった。
「っ! くそっ…!」
辛うじて反応出来た空がシュートモーションに入る前にアレンの足元に駆け寄った。
「…こいつ、ナッシュのパスが見えているのか?」
シュート態勢に入れなかったアレンは驚異的な反射神経を持つ空に驚く。
「だが、無駄だよ」
アレンは重心を後ろに下げながら膝を曲げると、高速でバックステップをし、空との距離を空けた。
「ちっ! だが、バックステップは大地の十八番だ。あれに比べれば…!」
すかさず空はアレンを追いかける。距離を取ったアレンはそのままフェイダウェイシュートの態勢に入った。
「(くそっ、届かねぇ!)」
跳躍力と瞬発力のある空だが、身長差があるアレンのフェイダウェイジャンパーには僅かに届かなかった。
「…ちっ」
それを察した堀田がブロックに向かった。
「…っ!」
堀田が迫ってくるのを察したアレンはシュートを中断し、パスに切り替えた。
「っ!」
ボールはゴールに走り込んでいたシルバーに渡った。
「ちぃっ!」
慌てて堀田がシルバーに向かう。
「無駄だ。パワーは確かにシルバーより僅かに上かもしれないが、スピードはそれ以上に差がある」
――バキャァァァッ!!!
「ぐっ!」
ボールに触れた堀田だったが、不安定な態勢だった為力が入らず、弾き飛ばされてしまう。
「ゴール下の勝負にこだわらなければ、シルバーがあんなサル(堀田)に負ける事はあり得ねえ。こうやってパスを散らせば、お前らごときじゃ止められねえ」
「…」
「前半戦、ワンゴール差で終わってこの調子ならいけるとも、と、思ったか? 違うな。それはここまで抑えてプレーをした上に、お前らの土俵で勝負してやったからだ。思い知るといい、現実を。絶対に超える事の出来ない力の差って奴をな!」
不敵な笑みを浮かべながらナッシュは花月の選手達に告げた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
試合の流れは、ナッシュのノーモーションクイックパスをきっかけにジャバウォックに傾き始めた。
ナッシュが各選手にパスを捌き、パスを受けた選手が確実に得点を重ねていった。三杉や堀田もフォローに向かおうと試みるが、三杉はナッシュの相手だけで手一杯であり、堀田も、シルバーを空けてしまうとすかさずそこにパスが来るので、対応が出来ないでいた。
オフェンスも、シルバーが猛威を振るいだし、得点は停滞気味となっている。
第3Q開始当初、僅かワンゴール差であった点差はみるみる開いていった。
第3Q、残り3分46秒。
花月 46
J・W 62
「点差がどんどん開いていく…」
開いていく点差を目の前に焦りを露わにする黄瀬。
「ちっ、だから言ったんだよ」
試合の経過を見て、苛立ちを露わにする青峰。
「お前ら、ここから先、試合から目を離すな」
そこに、景虎がやってきた。
「この試合が終わったら、俺は奴ら(ジャバウォック)にもう1試合申し込む。戦うのはお前らキセキの世代と火神だ」
『っ!』
景虎の言葉に、その場にいたキセキの世代のメンバーと火神が眼を見開いた。
「奴等の…特に、ナッシュとシルバーの動き、癖、プレースタイルをよく観察しておけ。いいな」
「ちょっと待ってくれよ。その言い方、まるで、あいつらが負けるみたいじゃないですか!」
景虎の言葉に納得出来なかった火神が景虎に詰め寄る。
「…お前ももう理解しているだろう。この試合、花月に勝ち目はねえ。こうなることは、ハナから分かっていた」
『…』
「もちろん、花月の奴等もここまでよくやっている。…だが、戦うのが早すぎた」
ここで、景虎が空と大地に視線を向ける。
「あいつらが、後1年早く産まれていたら、こんな結果にはならなかっただろう。皮肉な話だ」
試合は、空と大地からの失点が多い。そして、それをカバーしようとするとそこを突かれてまた失点を重ねているのが現状である。
「けど、試合はまだ――っ!」
――バキャァァァッ!!!
コートでは、シルバーのダンクが炸裂した。
「今からコミッショナーところへ行って再試合の交渉をしてくる。お前らも、覚悟を決めておけ」
そう7人に告げ、景虎はその場を後にしようとした。
「待ってください」
その景虎を、黒子が呼び止めた。
「そう判断するのは、まだ早いと思います」
「黒子…、だが…」
「花月の選手達の目を見て下さい。彼らはまだ、諦めていません」
黒子に促され、景虎はコート上の花月選手達を見る。コートに立つ5人の目は、誰1人、勝利を諦めていなかった。
「彼らは日本でバスケをする人の為に今戦っています。だから、もう少し見守っていてください」
「…」
黒子からの心からの言葉に、景虎は渋々了承し、席に腰掛けたのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
ここで、第3Q終了のブザーが鳴った。
第3Q、終了。
花月 50
J・W 71
点差は21点にまで広がっていた。
両チームがベンチへと下がっていく。
「後10分でその腕ともバスケともお別れだ。今の内に別れの言葉でも聞かせてやるんだな」
「…」
すれ違い様、ナッシュが三杉に告げた。
『花月でもダメなのか…』
会場中が当初の熱気からは打って変わり、静まり返っている。
「おい、見ろよ。すっかり静かになっちまったぜ」
「まるで葬式だぜ」
静まり返った会場に満足気に笑みを浮かべるニックとザック。
「ようやく自分達がサルだと理解したんだろうよ。だが、この程度じゃ済まさねえ。このまま一気にトドメを刺す」
嘲笑を浮かべながらナッシュが言った。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
遂に最終Q開始のブザーが鳴った。
『頼む、頑張ってくれ!』
『花月ーっ! 勝ってくれ!』
第4Qが始まると、観客達が必死に声を出し、花月の選手達に声援を送っている。
「聞こえるか? サル共の奇声が」
「…」
「ハッ! もう言葉も返す余裕もないか。だが、容赦はしねえぞ。こんなものじゃ済まさねえ。2度と戦うなんて気が起きない程点差を付けてやるからよ!」
ここで、アレンが空のマークを振り切り、ボールを貰いにいく。
――ヒュッ…。
だが、ナッシュはアレンではなく、シルバーにパスを出した。
「あっ!?」
空のヘルプに向かおうとしていた堀田は虚を突かれる形となった。
「終わりだ、サル共!」
ボールを貰ったシルバーが右手でボールを掴み、ダンクの態勢に入った。
――バチィィィッ!!!
だが、リングにボールが叩きつけられる直前、堀田の右手がボールを捉えた。
「バカが、そんな不十分な態勢でシルバーのダンクが防げるかよ」
得点を確信したナッシュは嘲笑を浮かべた。
※ ※ ※
『もういいんだな?』
『ああ。もう十分だ。後は、存分にやるといい』
『その言葉、待っていたぞ』
堀田が三杉に語り掛け、三杉が答えた。
※ ※ ※
リング目前で押し合いを始める堀田とシルバー。
「おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」
――バチィィィッ!!!
大きな咆哮と共にシルバーの右手に収まるボールをかき出した。
「な、んだとぉぉぉっ…!?」
『なにぃぃぃっ!!!』
まさか負けると思わなかったシルバー及びジャバウォックの選手達は驚きを隠せなかった。
『アウトオブバウンズ、黒』
ボールはラインを割った。
「これ以上良いようにはさせん。俺の全力を以って、お前達を倒す」
静かに、それでいてよく通る声で宣言した。
「これは…!」
火神が堀田の変化にいち早く気付いた。
「…っ!?」
紫原も同様であった。
「まさか!?」
「ああ。あいつ、入りやがった…!」
黄瀬の言葉に、青峰が答えた。
「ゾーン…」
空がポツリと呟いた。
堀田健がゾーンの扉を開いた。
「さあ来い!!!」
ゴール下で両腕を広げ、雄叫びを上げるように叫んだ。
『ぐっ!』
堀田がゴール下から放つ威圧感に、ジャバウォックの選手達は圧倒された。
「ちっ、この程度で!」
ザックがリスタートし、ニックがボールを受け取った。
「…っ!」
ボールを受け取り、仕掛けようとしたニックだったが、堀田の放つ強烈なプレッシャーに身体が硬直した。
「ボケっとしてんじゃねえよ、寄越せ!」
ボールを止めるニックに痺れを切らしたシルバーがボールを要求した。ニックは極限まで堀田を引きつけた後、シルバーにボールを渡した。
「くたばれや!」
シルバーが助走を付けて飛んだ。
「ふん!」
――バチィィィッ!!!
すかさず堀田がブロックに飛び、シルバーの持つボールに指先だけ触れた。不安定な態勢にプラスしてボールに触れているのは指先だけ。ブロックは不可能だと誰もが思った。だが…。
「んがぁっ!!!」
――バチィィィン!!!
『なっ!!!』
堀田は指先だけでシルバーの手からボールをかきだした。
「何だと!」
これに、ナッシュが初めて驚きを露わにした。
「健の握力は100を超えている。指先さえ触れていれば、パワーでは勝てなくても、ボールを弾き飛ばすだけなら造作もない」
ブロックされ、零れたボールを天野が拾った。
「天さん!」
「あいよ!」
速攻に走っていた空がボールを貰い、ワンマン速攻を始めた。
「…っ!?」
だが、ブロックされると予測したアレンが誰よりも早く戻っており、空の前に立ち塞がった。
『ダメだ…』
『せっかくの速攻のチャンスだったのに…』
空ではどうにも出来ないと思った観客から溜息が交じりの言葉が漏れる。空は、後ろに視線を向ける。
「(一旦戻し…いや、戻してどうすんだよ。これまで、三杉さんと堀田さん頼りで、俺は足を引っ張ってばかりだったじゃねえか。この試合が終わったら、もうあの2人はいなくなるんだ。だから…)」
空は正面を向いた。
「ここは俺1人で決める。俺は、もう足手纏いじゃねえ!」
ここで空は加速し、アレンとの距離を詰めていく。
『よせー! お前じゃ無理だ!』
『せっかくのチャンスを潰す気か! 戻せよ!』
空の選択に、観客からブーイングが飛ぶ。
「うるせー! 黙って見てろ!」
そんなブーイングを一喝し、空は仕掛ける。
――ダムッ!!!
アレンの目前でクロスオーバーで切り返す。
「甘い!」
だが、アレンは空の切り返しに遅れず対応する。
「(ただのフェイントじゃ、抜けねえか…なら!)」
ここで、空は急停止し、右脚を前に、左足を後方に伸ばし、両脚を広げた。
「頑張るッスよ。神城君ならやれる。何せ君は、俺からパーフェクトコピーを出させたんスから」
黄瀬が空に声援を送った。
「(何をする気だ?)」
突然の空の行動に、アレンは先の行動が読めず、混乱した。
空は両足を広げると、股下からボールを通し、変則のレッグスルーを仕掛ける。
「ぐっ!」
混乱しながらも、アレンは空に食らい付く。だが…。
――ダムッ!!!
そこから両足を回転させ、バックロールターンでアレンの背後に回った。
『抜いたーっ!!!』
遂にアレンを抜きさった空はそのままリングへと突き進み…。
――バキャァァァッ!!!
ワンハンドダンクを叩きつけた。
「っしゃぁ! どうだぁぁっ!!!」
空は観客に向かって叫んだ。
「…」
空の変則過ぎるプレースタイルに、アレンは茫然していた。
「おい、ボケっとすんな。早くボール寄越せ」
「あ、ああ」
ナッシュがリスタートを促し、アレンはナッシュにボールを渡した。
「…」
ボールをフロントコートまでナッシュがゲームメイクを始める。
ゴール下では、堀田が変わらず圧倒的なプレッシャーを放っていた。
「……ちっ、まさかゾーンとはな。だがな、あいつ1人が変わったところで、試合の行方は変わらねえよ」
そう呟くと、ナッシュはバックチェンジで揺さぶり、そこからノーモーションクイックパスを出した。ボールの行き先はアレン。目の前に立つのは大地。
「雑魚を抱えたまま勝てると思うな」
パスを出すと同時にナッシュが堀田の動きを制限する為に動いた。迂闊に堀田が動けばシルバーがフリーになる為、堀田は動けない。故に、事実上、この勝負は大地とアレンに委ねられた。
「…」
大地は腰を落とし、アレンの次の行動に備えた。
「…っ」
そして、アレンが動き出した。
「(っ! これは!?)」
ここで、大地がとある違和感を感じた。
――ダムッ!!!
アレンはドライブと見せかけ、バックステップで大地と距離を取った。
「っ!」
だが、バックステップを読み切った大地は全く遅れずアレンに付いていった。
「くっ!」
不意を突けると思っていたアレンは苦悶の声を上げた。そして…。
――バチィィィッ!!!
動きを止めた一瞬を見逃さず、大地はアレンの持つボールを捉えた。
「よし!」
零れたボールを大地がしっかり抑え、そのまま前進していく。
「雑魚が調子に乗りやがって!」
ペイントエリアまで侵入すると、そこにニックが立ち塞がる。
「…ったく、そんなカスに手こずる程てめえは雑魚じゃねえだろ」
青峰が大地を見ながら言う。
大地は、ニックが目の前に立ち塞がってもお構いなしに突っ込んでいく。そして、ニックにぶつかる直前…。
――ダムッ!!!
急停止からのフルバックステップでニックと距離を空けた。
「なっ!?」
ドライブを仕掛けると予測していたニックは重心が背後にかかってしまっていた為、これに対応出来なかった。
――ザシュッ!!!
距離を作って大地が悠々とミドルシュートを決めた。
「よし!」
得点が決まり、大地は拳を握って喜びを露わにした。
「ナイス大地!」
空が駆け寄り、ハイタッチをした。
「ようやく、殻を破ったか…」
2人を見て三杉が微笑んだ。
「あの10番と11番のコンビは…」
ハイタッチをする2人を見つめるアレン。ジャバウォックでただ1人、2人の覚醒を感じていた。
※ ※ ※
試合は、堀田がゾーンに入ったことと、空と大地の覚醒をきっかけに、花月ペースとなった。
「ふん!」
堀田がゴール下を制圧し、失点をとにかく抑え続けている。三杉も、ナッシュのパスをあえて止めに行かず、パスコースを限定をすることでパスそのものは見えずとも、行き先が分かっているので他の選手も対応が出来るようになっていた。
「行かせるか!」
「死守します!」
空と大地も、それぞれのマッチアップ相手であるニック、アレンの動きに対応出来るようになり、ここからの失点も格段に減った。
第4Q、残り4分29秒。
花月 70
J・W 79
点差は9点にまで縮まっていた。
「おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」
ゴール下でボールを受けた堀田がダンクに向かう。
「クソがぁっ!」
シルバーがブロックに向かう。
――バキャァァァッ!!!
堀田のダンクがシルバーの上から炸裂する。
『きたぁぁぁぁぁぁっ!!!』
徐々に詰まっていく点差を目の前に、会場が再び熱気に包まれていった。
「(この俺様が…! こいつが俺より上だとでも言うのか!? …あり得ねえ。そんなことあり得ねえ…! あっちゃならねえんだよ!)」
突如、シルバーの目に狂気が走る。
「がああっ!!!」
ダンクが炸裂すると同時にシルバーが腕を大きく振り、堀田の腕を振り払った。
「っ!?」
シルバーの突然の行動に、堀田は空中でバランスを崩し、そのまま落下していく。
「(まずい! あのまま落下したら大怪我を…!)」
空が慌てて堀田を助けようと駆け寄る。
――バタン!!!
だが、間に合わず、堀田はコートに叩きつけられた。
「ぐっ…!」
堀田が左肩を抑えて蹲っている。
「レフェリーストップ!」
審判が慌てて笛を吹き、試合を中断した。
「大丈夫か、堀田!?」
ベンチから上杉が堀田に駆け寄った。
「……肩が脱臼してやがる。大した怪我ではないが、これ以上の試合は無理だ」
入念に堀田の左肩を調べた上杉はそう判断した。
「てめえ、わざとやりやがっただろ!」
故意と断言した空がシルバーに詰め寄った。
「やめろ、空」
詰め寄ろうとした空を三杉が制止した。
「ハッ! うるせえサルだ」
そんな空を鼻で笑うシルバー。
「随分と余裕のない真似をするじゃないか、シルバー」
三杉がディフェンスに戻ろうとするシルバーに話しかけた。
「あん? 事故だよ事故。ゴール下じゃ、良くあることだろ?」
悪びれもせず、嘲笑を浮かべながら三杉に返すシルバー。
「あの野郎!」
1度は制止された空が再度詰め寄ろうとしたが、三杉に肩を強く掴まれた為、出来なかった。
「大丈夫です。まだやれます」
「ダメだ。脱臼を甘くみるな。ここで無理をすれば、一生ものだ。何より、左肩が上がらない状態では試合にはならないだろう」
試合の続行を要望する堀田に対し、上杉が制止する。
「右腕さえあれば問題ありません。ここで下がる訳には――」
「ダメだ。下がるんだ、健」
制止を聞かず、無理にでも試合に出続けようする堀田を、三杉が止めた。
「分かっているのか!? この試合が負ければお前は――っ!?」
「下がれ、健」
「……分かった」
尚も食い下がろうとした堀田だったが、三杉の顔を見て考えを改めた。
「メンバーチェンジだ。松永、入れ!」
「はい!」
呼ばれた松永がシャツを脱ぎ、コートへとやってきた。
「…」
三杉は、ただ無表情でシルバーに視線を向けていた。
ジャバウォックがリスタートをし、ナッシュがボールを保持した。
「…」
目の前には三杉が立ち塞がっている。だが、表情を窺う事は出来なかった。
「終わりだな。残念だが、それが現実だ」
「…」
挑発混じりの言葉を向けられても、三杉は何も反応しなかった。
――ヒュッ…。
ナッシュがノーモーションクイックパスをニックに出した。
「行かせねえぞ!」
怒りを露わにした空が全力を以ってディフェンスに臨んでいる。
「(ちっ、抜けねえ…。だが、関係ないな)」
抜くことが出来ず、僅かに苛立ちを覚えたが、すぐさま切り替え、ニックはシルバーにパスを出した。
「(ぐっ! 何だこの重さは!?)」
シルバーのマークに付いた松永だったが、シルバーの圧力に対抗出来ずにいた。
「ハッハッハッ! こいつじゃ話にならねえぜ!」
――ダムッ!!!
高速のスピンターンで松永をかわした。
「終わりだ!」
ボールを掴んだシルバーが跳躍し、リングへとボールを叩きつけた。
――バチィィィッ!!!
「な…にぃぃっ!」
「三杉さん!」
だが、ボールがリングに叩きつけられる直前、三杉によってボールが叩き落とされた。ルーズボールを空がきっちり抑えた。
「空、ボールを寄越せ!」
「っ! はい!」
普段とは違う三杉の口調に軽く戸惑いを覚えるも、空は三杉にボールを渡した。
「…」
ボールも貰った三杉はゆっくりボールをフロントコートまで運んでいく。
「クソッ! 調子に――」
「邪魔だ、引っ込んでろ」
ニックが三杉の目の前に立ち塞がった瞬間、突如、尻餅を突いてしまった。
『?』
試合を観戦していた観客は何が起こったのか理解出来ず、頭に『?』を浮かべていた。
そのまま、三杉はシルバーが待ち構えるゴール下まで進んでいった。
「まさか敵討ちのつもりか? ハッ! 返り討ちに――ッ!?」
「そういえば、まだ健への詫びがまだだったな」
そう三杉が呟いた瞬間、突如、シルバーの膝が崩れ、その場に膝を突いた。シルバーが崩れ落ちるのと同時に三杉はシルバーに背中を向け、ボールをリングに放り投げた。
「ここは日本だ。この国の最高の謝罪をこいつにさせてやるよ」
――ザシュッ!!!
ボールはキレイにリングの中心を射抜いた。そして…。
――ドガッ!!!
「がっ!!!」
リングを潜ったボールが丁度リングの真下で膝を突いていたシルバーの頭に直撃する。すると、その衝撃でシルバー前方に崩れ、両手をコートに付いた。
『っ!?』
その瞬間、会場中の人が眼を見開いた。
コートに膝を突き、さらに両手をコートに付けたその姿は、土下座そのものであったからだ。
「舐めた真似してくれやがって…。てめえら、ただでアメリカに帰れると思うなよ」
三杉がジャバウォックの選手達に向けて荒い口調で言い放った。
「まさか、三杉も…!」
「遂にあいつの本気が見られるのか…!」
「これが、三杉誠也の本気…」
「あいつも…」
「さっきまでとは別人ッス…!」
火神、青峰、緑間、紫原、黄瀬は、三杉の変貌とその正体に気付いた。
「間違いない。三杉誠也が、ゾーンに入った」
赤司が呟いた。
堀田がゾーンに入り、1度は広がった点差が再び縮まった。だが、シルバーの卑劣な行為によって堀田が負傷退場となってしまった。
だが、それにより三杉誠也のゾーンの扉を開いたのだった。
試合は、クライマックスに突入する……。
続く
ジャバウォック戦…というか、三杉と堀田がいるインハイが不評なのでさっさと終わらせたかったのですが、思った以上にボリュームが増え、次回に持ち越しです。
様々な感想をいただき、1度は全中戦以降を書き直す事も検討したんですが、せっかく書いたものですし、何よりそれをやると間違いなくエタリそうなので、このまま続けます。
宣言すると、自分は我が道を貫きます。もちろん、良い意見を頂ければ参考にし、あるいは採用しますが、自分の考えた大筋のストーリーは批判を受けても変えないつもりでこれからも執筆を続けていきますので不快に感じましたら申し訳ありません…m(_ _)m
感想、アドバイスお待ちしております。
それではまた!