黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

61 / 218

投稿します!

久しぶりに文章量が大幅に増えました…(^-^;)

それではどうぞ!



第61Q~合同練習~

 

 

 

「ここが秀徳高校か…」

 

新幹線に乗り、その後、電車を乗り継ぎ、ようやく秀徳高校に到着した。

 

「正邦や泉真館も広かったけど、ここも結構広いな」

 

以前に東京遠征に寄った正邦と泉真館と比べ、その広さに感心する空。

 

「同じ強豪校で、進学校ですからね。当然の規模でしょう。…どうやら出迎えの方がいらしたみたいですね」

 

大地の視線の先、監督思しき者と選手が1人やってきた。

 

「遠路はるばるご苦労様です。秀徳高校の監督、中谷です」

 

「主将の宮地です」

 

監督の中谷が挨拶をすると、横に立つ選手、主将の宮地が続いて挨拶をした。

 

「久しぶりだな、マサ。今日は突然の申し出を受けてくれて感謝する」

 

相手側の挨拶が終わると、続いて花月の監督である上杉が挨拶をした。

 

「こちらとしても、インハイ王者校との練習は選手達には良い経験にもなるし刺激にもなる。願ったり叶ったりだ」

 

「そう言ってくれると助かる。今日から6日間、よろしく頼む」

 

「こちらこそ」

 

上杉が差し出した手を中谷がその手を握り、握手に応じた。

 

『よろしくお願いします!』

 

続いて花月の選手達が一斉に頭を下げた。

 

「では、時間も惜しい、すぐに合同練習を始めようか。…宮地、花月高校の方々を控室まで案内してやってくれ」

 

「分かりました。では、俺に付いてきて下さい」

 

主将の宮地の案内に従い、花月の選手達は控室に向かい、そこで着替えを済ませ、体育館へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「本日より6日間、秀徳高校と花月高校の合同練習を始める」

 

『よろしくお願いします!』

 

控室にて着替えを終え、体育館に集合し、互いに礼をした。

 

「練習内容は、花月高校が来週に試合がある都合上、花月高校に合わせた練習内容になる。つまり、実戦を想定した練習を中心とする」

 

中谷から、秀徳の選手達に大まかな練習内容が伝えられる。

 

「(あいつが緑間真太郎…)」

 

空は、秀徳の選手達の一角に釘付けだった。キセキの世代シューター、緑間真太郎に…。

 

バランスを崩さなければコート上の何処からでも決めることが出来るという、キセキの世代の中でもひと際異才を放つ選手である。

 

「…」

 

同じシューターである生嶋も、興味深々の眼差しで見つめていた。

 

「そういえば、バックアップ要因を呼ぶと聞きましたが…」

 

「ああ、それなら――」

 

馬場が、上杉に尋ねると…。

 

「チュース!」

 

体育館の入り口から、突如、声が聞こえてきた。

 

「あっ! 誠凛の火神さん!」

 

そこには、誠凛高校のエース、火神大我の姿があった。

 

「バックアップ要因って、誠凛の火神のことだったのか…」

 

真崎がまさかの人物に驚きを露わにする。

 

「僕もいます」

 

『っ!?』

 

火神の隣に、黒子テツヤが立っており、それに今気付いた花月の選手達の何人かが驚いていた。

 

「よう、来てやったぜ」

 

「こんにちわー! よろしくッス!」

 

続いて現れたのは、桐皇高校学園、キセキの世代の一角である青峰大輝と、同じく一角の黄瀬涼太であった。

 

「青峰さんに、黄瀬さん…!」

 

続いて現れた、まさかの人物が現れ、空は興奮を隠せないでいた。

 

「どうせなら、レベルの高いプレイヤーがいた方が練習になる思ったのでな、知り合いを通して合同練習の参加を要請しておいた」

 

上杉は、景虎を通じて誠凛、そして、桐皇の監督に連絡を取り、合同練習の参加を要請していた。

 

「…ホントなら、お前とはコートの上以外で会うつもりはなかったんだが…、お前、ウィンターカップには参加しないらしいじゃねぇか」

 

青峰が睨み付けるような視線を向けながら三杉に喋りかけた。

 

「ああ」

 

「…ちっ、なら仕方ねぇ、だったらこの合同練習でインハイの借りを返す。それで我慢してやるよ」

 

軽く苛立ち気味に青峰は納得させていた。

 

「にしても、まさか黄瀬涼太までおるなんてな」

 

「いや、参加を要請したのは、誠凛の火神と黒子、桐皇の青峰だけだ。他は呼ぶには距離があるからな」

 

天野の言葉に、上杉は顎に手を当てながら答えた。

 

「いやー、桃っちから話を聞いて、居ても立ってもいられなくなって、ここまで飛んで来ちゃったッスよ。あっ、アンタが三杉さんッスね? よろしくッス!」

 

「フフッ、どうも」

 

黄瀬が喜々として三杉に駆け寄り、三杉の手を握った。

 

「わざわざ来てくれたところ悪いが、参加の話は来ていない。監督の許可は貰っているのだろうな?」

 

「……あー、それは…」

 

上杉が尋ねると、黄瀬は目を逸らした。

 

「黄瀬君、どうやら招かれていなかったみたいですね。会えて嬉しかったです。冬に会いましょう」

 

「ちょっと、黒子っち! そんなこと言わないでほしいッス!」

 

黒子の容赦ない一言に、黄瀬は涙目になった。

 

「まあまあ、せっかく来てくれたんだし、どうせなら参加してもらいましょう」

 

三杉が黄瀬の肩を持つ形で参加を促した。

 

「うぅ…そう言ってくれると助かるッス。監督達には黙って来たんで、このまま帰ったら絞られるッス」

 

「…ハァ。分かった。だが、参加するなら監督の許可を取れ。選手を預かる以上、無断という訳にはいかないからな」

 

上杉は、溜息を吐きながら黄瀬の参加を許可した。

 

「さて、選手は全員揃ったな。後は…」

 

「こんにちわー」

 

「すごいメンバーが揃ってるわね」

 

最後にやってきたのは、桐皇のマネージャー、桃井さつきと、誠凛の監督、相田リコ。

 

「来たな。リコの嬢ちゃんには、コーチの補佐と練習メニューの作成を、桃井さんには、チームサポートと情報収集にあたってもらう」

 

「よろしくお願いします」

 

「もうまとめてあります!」

 

リコは頭を下げ、桃井は手持ちのカバンからDVDを取り出した。

 

「さて、これで全員揃ったな。これより、合同練習を開始する。では、アップを開始してくれ」

 

「まずはランニングから始めようか。宮地、花月の選手達を連れていつものランニングコースを案内してあげなさい」

 

「はい。では、花月の人達は俺達に付いてきて下さい。おら、お前ら! 遅れんじゃねぇぞ!」

 

秀徳の宮地を先頭に、合同練習に参加する選手達は体育館を出ていった。

 

こうして、花月と秀徳+黒子、火神、青峰、黄瀬を加えた選手達による合同練習が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

アップを済ませると、本格的に練習が始まった。

 

現在、3ON3を始めている。三杉、生嶋、松永。この3人に対するのは、火神、黄瀬、秀徳の選手の支倉。

 

花月側のオフェンスで始まり、現在、ボールを持っているのは三杉。松永には支倉。残りは…。

 

「三杉さんはオレのマークッスよ!」

 

「俺だろ!?」

 

三杉の前に火神と黄瀬が立ち塞がっており、生嶋はノーマーク。

 

「火神っち! 譲ってほしいッス!」

 

「お前が譲れよ!」

 

3ON3は既に始まっているのだが、火神と黄瀬は尚も言い争っている。目の前の三杉は苦笑を浮かべ…。

 

「構わない、来なよ。それくらいでちょうどいい」

 

2人にそう言い放った。

 

「…今の発言、舐められてるみたいでムカつくな」

 

「…上等ッス。止めてやるッスよ」

 

今の三杉の言葉にカチンときた2人は、表情を引き締め、改めて三杉のマークを始めた。

 

「本気出しても良いッスよね?」

 

「もちろん」

 

「ハッ! 覚悟しろよ」

 

火神は両腕をだらりと下げ、集中力を全開にし、黄瀬は…。

 

「っ!? パーフェクトコピー…!」

 

自身の最大の武器であるパーフェクトコピーで待ち構える。

 

「火神も黄瀬も本気だ。本気のあの2人のダブルチームなんて、抜くどころか、パスを捌くのも至難の業だぞ…」

 

三杉対火神・黄瀬。その対決に、体育館中の選手達が注目する。

 

「…」

 

「…」

 

それは、青峰と緑間も同様であった。

 

「…」

 

三杉から見て左に火神、右に黄瀬。三杉は重心を下げながら手に持ったボールを下げ、ドライブの態勢を取る。火神と黄瀬も、三杉の仕掛けに備える。

 

『…(ゴクリ)』

 

体育館中の選手達が固唾を飲んで勝負を見守る中、三杉が動きを見せる。

 

「「っ!?」」

 

三杉が少ないモーションからのフルドライブで火神の右手側を抜けていく。その速さに、マークをする2人は目を見開く。

 

「(速ぇっ! だが)…まだだ!」

 

火神は瞬時に反応し、横を抜けていく三杉を追いかけるべく、振り返る。だが…。

 

「なっ!?」

 

だが、そこに三杉の姿はなかった。

 

「(フェイクか!? 何て精度だ! マジで本物と見分けが付かなかった!)」

 

精度の高すぎるフェイクを前に、火神は完全に釣られ、反応してしまった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

対して三杉は、フェイクに反応した火神とは逆、黄瀬の左手側からドライブで仕掛けた。

 

「っ!?」

 

黄瀬も、火神程ではないが、フェイクに反応してしまい、横を抜けられてしまう。

 

「(まだだ! まだ止められる!)」

 

「(まだッスよ! まだ追いつける!)」

 

火神は持ち前の野生で瞬時に反応し、反転して三杉を追いかける。黄瀬は、青峰のコピーで三杉を追いかけた。だが…。

 

 

――ドン!!!

 

 

「ぐっ!」

 

「がっ!」

 

その瞬間、火神と黄瀬はタイミング悪く接触してしまう。

 

 

――バス!!!

 

 

三杉はそのままレイアップを決める。

 

「ってぇ~、おい黄瀬! 何やってんだよ!?」

 

「ったた、火神っちこそ、何やってんスか!?」

 

立ち上がるや否や、掴み合いを始める2人。

 

「ったくあの2人、何やってんだよ…」

 

そんな2人を見て、勝負を見守っていた面々はその光景を呆れていた。ただ…。

 

「…」

 

「…」

 

青峰と緑間だけは真剣な表情でコートを見つめていた。

 

「…見たか?」

 

「……あぁ」

 

緑間の問いかけに、一言返事を返す青峰。

 

「今のプレー、偶然でも事故でもない。三杉誠也のテクニックと駆け引きが引き起こした結果なのだよ」

 

今の一連プレーを偶然ではなく、三杉の手で引き起こしたものだと断言する緑間。

 

「まず、高精度のフェイクを見せ、黄瀬と火神を引っかける。完全にかかった火神と僅かにかかった黄瀬。この時点で、2人は背中合わせになる。その後、フェイクをかけた方とは逆方向に切り込む。三杉誠也の進路を塞ごうとする火神と青峰のコピーで追いかけようとする黄瀬。だが、背中合わせとなってお互いが見えていない2人は…」

 

「……ふん」

 

緑間の解説に鼻を鳴らす青峰。

 

「お前が負けた訳が良く理解出来たのだよ」

 

「うるせーよ」

 

悪態を吐いた青峰は、コートへと向かっていった。

 

 

次の組は、堀田、馬場、真崎と、青峰、高尾、木村(秀徳、木村信介の弟)がコートにやってきた。

 

「…」

 

青峰は、堀田を鋭い眼光で凝視する。

 

「うはっ! 見ろよ木村、視線だけで人殺せそうだぜ」

 

「はぁ」

 

ケラケラ笑いながら木村の肩を叩いて青峰を指差す高尾。木村は、困った表情で返事を返した。

 

そして3ON3は始まり、ボールは高尾から始まる。

 

「…っしゃ」

 

「くっ!」

 

ドリブルを始めた高尾は、目の前でマークする真崎をクロスオーバーでかわす。その後、ヘルプに馬場がやってくると…。

 

「よっ」

 

ノールックビハインドパスで青峰にパスを出した。パスを受けた青峰はそのままリング目掛けてドリブルで進行していく。

 

「…来たな」

 

ドリブルする青峰に立ち塞がるように堀田が現れる。青峰は堀田の目の前で急停止し…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを堀田の股下に投げつけ、通すと、自身も同時に加速、堀田の横を抜けていく。

 

「うおっ! 青峰が抜いた!」

 

ボールを掴んだ青峰はそのまま跳躍。ボールをリングに叩きつける。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、その直前に手に持ったボールを叩き落とされる。

 

「堀田スゲー!」

 

堀田が後方から手を伸ばし、ダンクが決まる寸前にボールを叩き落とした。

 

「ちっ!」

 

青峰は舌打ちをしながら着地した。

 

「ふぅ」

 

一息吐き、ズンっと同時に堀田が着地した。

 

「マジかよ…」

 

その光景を見て高尾は茫然としながら呟いた。

 

「誘いこまれたな」

 

ポツリと緑間が呟くように言った。

 

堀田は青峰の仕掛けを誘い込む形でディフェンスをした。それが功を奏し、ブロックに成功した。

 

堀田の組と青峰の組がコートから去ると、次の3ON3が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後、合同練習は定期的に休憩を挟みながら行われていく。

 

要所要所で花月、秀徳の監督の指示が飛び交い、両校共に、普段より過酷で濃密な練習が続く。一応、練習は来週の花月の試合に合わせた練習メニューが組まれているが、秀徳の選手達や黒子、火神、青峰、黄瀬は、文句1つ言わず、練習メニューをこなしていった。

 

時刻が8時を回ると、練習は終わりとなった。

 

「よし、今日の練習はここまで。各自、ストレッチを入念に行うように、秀徳の1年生はストレッチの補助を。残りは片付けに入るように」

 

中谷が教え子達に指示を出した。

 

「同じく、こっちもストレッチを行え。身体を冷やすなよ。後、ストレッチが終わったら校舎2階の視聴覚室で資料を見ながら来週の試合の対策を立てる。場所の案内は…」

 

「あっ、はいはい! 案内、俺がします! ついでに俺も参加させてくれると嬉しいッス」

 

案内役を探していると、高尾がそれをかってでた。

 

「分かった。では頼む。帰宅時間が大丈夫なら自由に参加して構わない」

 

上杉は高尾に任せ、ミーティングにも了承した。

 

「あの、すみません、俺もう少し練習したいんですけど…」

 

空が手を上げながら申し出た。

 

「神城、お前は来週の試合に出場予定だろ。練習よりも相手の対策を――」

 

「――構わないぞ。マサ、良いか?」

 

申し出を馬場が諫めたが、上杉がそれを了承した。

 

「モップ掛けと戸締りだけしっかりしてくれれば構わないよ」

 

「あざっす! では、失礼します」

 

了承を得ると、空はその場から離れていった。

 

「私も、空だけでは最後大変でしょうから」

 

それに続いて大地も空の後を付いていった。

 

「あいつらあんだけ練習してまだ動けんのかよ。元気だなー」

 

「あの2人はいつもあんなもんやで」

 

「マジかよ…」

 

感心半分、呆れ半分で高尾が2人を目で追っていった。

 

「にしても、一緒に練習して分かったけど、花月の奴らはホント化け物ばかりだな」

 

ストレッチをしながら高尾が語り出す。

 

「三杉さんと堀田さん。マジで化け物だ。キセキの世代や火神が2人がかりでようやく互角。俺自身3ON3で少しやり合ったけど、全く相手にならなかったし」

 

「…」

 

喋る横で緑間がストレッチをしている。

 

「あの1年坊コンビも、帝光破って全中の覇者になっただけのことはあるわ。スピードに乗ったらマジで手ぇ付けらんねぇ。真ちゃんもやられてたしな」

 

「やられてないのだよ」

 

突っ込むように緑間が口を挟む。

 

「あの天野って奴も、インハイじゃ周りが派手過ぎて目立たなかったけど、ディフェンス、リバウンドがかなり上手い。宮地さんがほぼ封殺されてたし、支倉さんや木村もほとんどリバウンドを取らせてくれなかった」

 

「…」

 

「控えの生嶋と松永も、全中ベスト5に選ばれるだけあって、良い動きしてた。…そりゃ、優勝する訳だよな」

 

半ば、溜息を吐くように言う高尾。

 

「……ふん」

 

緑間は鼻を鳴らした。

 

「スタメンはもちろん、控えも強いしさ、来週のジャバウォックとの試合ももしかしたら…」

 

「……俺はそうは思わないのだよ」

 

期待する高尾に対し、緑間はバッサリ否定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって視聴覚室。

 

「そんじゃ、これからスカウティングを始めるぞ」

 

景虎が合流し、ジャバウォックの選手の詳細を解説が始まった。

 

「まず、ジェイソン・シルバー。身長210㎝、体重115㎏、ポジション、センター。こいつの特徴は何と言っても、凶悪なまでの身体能力だ。全てを兼ね備えたその肉体は、アメリカでは『神の選ばれた躰』とまで呼ばれる程だ」

 

「称賛される反面、性格は粗悪で女好きと、日常生活では最悪と言わざるを得ず、『神も選ぶ人間を間違えた』とも言われています。練習嫌いで有名であり、筋力アップ、スキルアップの為の反復練習も一切やったことがありません」

 

景虎に続いて桃井が補足説明を入れる。

 

「マジかよ…、練習しないでここまで…」

 

桃井の説明を聞き、思わず表情が曇る花月の選手達とスカウティングに参加した秀徳の選手達。

 

「世界には、努力しないでも勝っちまう天才ってのが稀にいるんだよ。キセキの世代も天才と言われているが、こいつはスケールが違う。分かりやすく言うならこいつは、青峰以上のアジリティーと、火神以上の跳躍力、紫原以上のパワーを兼ね備えた選手だ」

 

『…』

 

景虎の分かりやすい説明に、その場にいる選手達は言葉を失った。

 

「……本当に化け物じゃねぇかよ」

 

化け物という言葉が思わず高尾の口から零れた。

 

「……フフッ、良いぞ。そうでなくては戦い甲斐がない」

 

だが、堀田1人が、シルバーの詳細を聞いて笑みを浮かべた。

 

「シルバーの相手は健に任せる。…というより、健にしか抑えられない。任せるよ」

 

「ああ、任せてくれ」

 

堀田にシルバーの相手を託し、次の選手の解説に移った。

 

「次だ。もう1人はジャバウォックのリーダー、ナッシュ・ゴールド・Jr。身長は190㎝、体重は82㎏、ポジションはポイントガード」

 

『…』

 

「シルバー程じゃないが、身体能力はトップクラス、オールラウンダーで、変幻自在のトリックプレーを好む、通称マジシャン。…だが、この選手は謎が多い」

 

『…』

 

「正直、それだけでジャバウォック…特にシルバーが従うとも思えんし、過去のゲームを試合を見ても、全く底を見せていない」

 

「だろうね。少なくとも、昔やった時は、トリックプレーよりもオーソドックスなプレーの方が多かった」

 

「えっ? 三杉さん、ナッシュと試合したことあんの?」

 

「ああ。…完敗したけどね」

 

高尾の質問に、三杉は苦笑しながら答えた。その瞬間、室内に軽く動揺が走った。

 

「こいつの相手だが、ポジション的には神城になるのだが…」

 

「残念だが、今の空ではナッシュの相手は出来ない。俺がやる」

 

三杉がナッシュのマークをかってでた。

 

「他の3人も、実力はキセキの世代と比べても遜色ない。分かってはいたが、激戦は免れないな」

 

上杉の口から飛び出る現実。誰もが理解していたことだが、それでも資料を見て改めて現実を突きつけられる。

 

その後も、資料映像を見ながらジャバウォックのスカウティングは続いた。

 

「さて、時間も遅い。今日はここまでとしよう」

 

上杉がそう締めくくり、スカウティングは終わった。各々が立ち上がり、部屋を後にしていった。

 

「そういや、神城と綾瀬はまだ体育館か? ったく、しょうがない連中だ」

 

「自販機で飲み物買ってくるついでに俺が声を掛けてきますよ」

 

呆れる上杉。三杉は空と大地を呼びにいく為、花月の選手達の輪から離れていく。

 

「…」

 

その姿を見ていた火神がその後を追っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

小銭を入れ、ボタンを押し、取り出し口からスポーツ飲料を取り出し、蓋を空ける三杉。

 

「三杉さん」

 

そこへ、火神がやってきた。

 

「火神君?」

 

「頼みがある。来週の試合、俺も一緒に戦わせてくれ」

 

真剣な表情で火神が三杉に頼み込んだ。

 

「ジャバウォックは強ぇ。さっき映像見て改めて分かった。戦力になるはずだ。だから――」

 

「抜け駆けしてんじゃねぇぞ火神」

 

言葉を遮るように火神の背中から聞こえてくる。

 

「青峰! それに黄瀬も!」

 

「どうもッス」

 

火神が振り返るとそこには青峰と黄瀬がいた。

 

「まあいい。俺の要件もそこの馬鹿と同じだ。俺も戦わせろ」

 

「俺もッス! 良いッスよね?」

 

青峰も黄瀬も来週の試合の参加を申し出た。それを聞いて三杉はフゥッと溜息を吐いた。

 

「やれやれ、3人揃って何の用かと思えば…、来週の試合は花月とジャバウォックで行われるものだ。君達は違う高校なのだから参加は――」

 

「そんなくだらねぇことはどうでもいいんだよ。…はっきり言ってやる。来週、負けんぞ」

 

負けると言い切る青峰。

 

「…ほう」

 

「ジャバウォックは荷物を抱えたまま倒せるような相手じゃねえ。それはお前も分かってんだろ?」

 

「荷物……それは、チームメイトの事を言ってるのか?」

 

「そう言ってんだよ」

 

目を細めて聞く三杉に対し、青峰ははっきり断言した。

 

「お前と堀田以外、ジャバウォックの誰も止められねぇ。お前と堀田にしても、あのナッシュとシルバーとか言うカスを相手にするだけで手一杯になる。どう考えても負けしかねぇだろ」

 

「青峰、言い過ぎだ……と言いてぇが、事実だ。俺にも、花月のメンバーだけで勝てる絵が浮かばねぇ。お前らが負けたら、日本でバスケやってる奴全員が馬鹿にされちまう。だから参加させてくれ」

 

「どうせ向こうも文句なんか言わないッスよ。俺自身、笠松元主将の仇を討ちたいッスから、お願いします!」

 

青峰に続き、火神、黄瀬も心の内を三杉に伝え、参加を強く申し出る。

 

「……ダメだ」

 

それでも三杉は申し出を拒否した。

 

「ざけんな! てめぇ、いつまでくだらねぇことにこだわって――」

 

「納得出来てないようだから理由を説明する」

 

激昂する青峰を手で制し、自販機横のベンチに座った。

 

「君達は確かに戦力としては申し分ない。だが、君達が加入することで1番の問題になるのは連携だ。試合まで後5日。とてもじゃないがそれまでにかみ合わせることは出来ない」

 

「「「…」」」

 

「ジャバウォックは、チームがバラバラで倒せるような相手じゃない。君達のように、プレーも性格も我の強い者達を入れて試合をすればミスを連発して失点を重ねるだけだ。まあ、連携を無視して個人技の主体のバスケという選択肢もある。そう…」

 

ここで三杉は青峰を指差す。

 

「君達が全中三連覇を決めた帝光中がしてたようなバスケだ。これなら半端な連携をするよりは機能する。だが、格下が相手ならともかくジャバウォックレベルにそんな試合をしたら惨敗は必至だ」

 

「「っ!?」」

 

これを聞いて青峰と黄瀬が顔を引き攣らせる。

 

「これが君達を参加させない理由だ。かみ合わず、チームを崩壊させるかもしれないリスクを背負った実力者を使うくらいなら、花月の選手だけで戦った方がまだマシと言える。納得は出来たか?」

 

「…っ」

 

理由を聞いて尚も反論したい火神だったが、三杉の述べた理由は戦略と状況に基づいたものである為、反論出来なかった。

 

「だったらせめて、ベンチにだけでも置いてほしいッス。それなら…」

 

「それもダメだ」

 

黄瀬がせめての提案をしたが、それも三杉は拒否した。

 

「それは逆効果だ。君達がベンチにいたら、自分がダメでも君達がいるとという安心感から俺と健以外のチームメイト…特に空と綾瀬が実力を発揮出来なくなる」

 

「…なら、お前と堀田だけで勝つって言うのかよ」

 

青峰だけは、尚も食い下がる。

 

「そんなわけがないだろ。バスケは5人でやるものだ。寧ろ、来週の試合、キーマンになるのは空と綾瀬だ」

 

「あん?」

 

青峰は三杉の返事を理解出来なかったのか、怪訝そうな表情をした。

 

「話はさっきのことにも起因するが、インターハイで空と綾瀬が実力を発揮出来なかったのはひとえに、危機感がなかったからだ」

 

「危機感?」

 

話が理解出来ず、火神が聞き返す。

 

「例え抜かれても俺や健が取り返してくれる。点を取られても俺や健が取り返してくれる。こんな状況じゃ、実力が発揮出来るわけがない。まあ、洛山との試合では多少の危機感を覚えてくれたから少しは実力を発揮出来たけどな」

 

「「「…」」」

 

「直接やったことがある青峰君や、火神君と黄瀬君も、今日1日2人を見てたなら分かっているはずだ。あの2人の資質は俺や君達と同格だ。今回の状況は、2人の実力を限りなく引き出してくれるはずだ」

 

「ちっ! 分かったよ」

 

青峰は舌打ちをし、つまらなそうな表情で踵を返した。

 

「奴等とやり合いてぇってのもあるが、それ以上に俺は、俺に勝ったお前があんなカス共に負けるのが我慢ならねぇんだよ。ここまで言ったんだ、勝てよてめえ」

 

それだけ告げ、その場を後にしていった。

 

「…納得出来たわけじゃないが、ひとまずは諦める。無茶言ってすんませんでした」

 

「気が変わったらいつでも声を掛けてほしいッス、では」

 

それに続いて火神と黄瀬も青峰に続くように後を追っていった。

 

「やれやれ」

 

三杉は再度溜息を吐き、飲み干した空き缶をゴミ箱に投げて入れると、空と大地のいる体育館へと向かっていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日…。

 

早朝から秀徳高校の体育館に花月と秀徳の選手と、火神、黒子、青峰、黄瀬が集まり、合同練習は行われた。一通りの準備運動が終わり、これから実戦練習が始まるのだが…。

 

「空と綾瀬は残ってくれ」

 

「「?」」

 

三杉は空と大地をその場に残らせた。

 

「青峰君と黄瀬君も残ってくれ」

 

「あん?」

 

「何スか?」

 

同時に青峰と黄瀬にも声をかけた。

 

「空、綾瀬はここから別メニューだ。空は黄瀬君、綾瀬は青峰君とここからずっと1ON1だ」

 

「おっ!」

 

「っ!」

 

「あぁ!?」

 

「?」

 

三杉の言葉に、空は顔を綻ばせ、大地は目を見開き、青峰はイラついた表情をし、黄瀬は頭に『?』を浮かべていた。

 

「それだけだ。じゃ、解散」

 

それだけ告げて三杉はその場を後にしようとした。

 

「ふざけんじゃねぇぞ! 俺はお前とやる為にここに来たんだ。何でこいつの相手しなきゃならねえんだよ!」

 

青峰はその場を後にしようとする三杉の背中に怒鳴りつけた。すると三杉は振り返り…。

 

「君はバックアップ要因としてここに来たんだから協力してくれないと困る。そんなにやりたいなら大地が1ON1出来なくなるか、練習後に相手になってやるから、ひとまず俺の言うことに従ってくれ」

 

「…ちっ、分かったよ。おら、早く来い。俺とやり合う気が起きなくなるくらいまで潰してやる」

 

「はい。よろしくお願い致します」

 

イラつきながらも三杉の指示に従い、リングのある方へと向かう青峰。大地は頭を下げると、後を付いていった。

 

「青峰っち、ここに来てからずっとカリカリしてるッスね。それじゃ、俺達は反対がやろっか。よろしくッス、神城君」

 

「お願いしまっす!」

 

黄瀬に続き、空も後を追っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

それから、日程は順調に進んでいった。

 

実戦練習を重ね、着実とチームの練度を上げ、空と大地は青峰と黄瀬と1ON1をひたすら繰り返す事で自力を上げていく。

 

練習終了後は、ジャバウォックの試合の資料を見てスカウティングを重ね、対策を立てていった。

 

そして日付は、試合前日まで進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「足を止めるな! 疲れた時程足を動かせ!」

 

試合が翌日に迫るも、相変わらず、厳しい練習は続けられている。上杉から厳しい指示が飛ぶ。そこへ…。

 

「これは…、わざわざ東京までいったい――っ!? …それは本当なのですか?」

 

上杉の元にやってきた1人の人物。その人物から伝えられた言葉に上杉の表情が曇った。

 

「1度練習は中断だ! 花月の部員は全員ここに集まれ」

 

紅白戦の途中だったが、上杉は試合を中断させ、花月の選手を自分の元に集めた。

 

「監督ー、いったいどうしたんですか? ……って、理事長?」

 

疑問を浮かべながら上杉の元に駆け寄ると、上杉の横に立つスーツを着た妙齢の美女、花月高校の理事長がいることに気付いた。

 

「…皆さんにお伝えしなければならない事があります」

 

いつもの柔和でにこやかな表情ではなく真剣な表情で理事長が話し始めた。その内容に、この場にいる者達の表情が一変した。

 

「…嘘ですよね?」

 

ワナワナと身体を震わせながら空が聞き返す。理事長は表情を変えることなく首を横に振った。

 

他の者達も空と同様の面持ちであった。

 

理事長の口から告げられた内容は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――明日のジャバウォックとの試合がなくなった。という内容だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





黒子が文字通り影が薄くなってしまいました…(^-^;)

もうまもなく試合が始まるのですが、今の心境として、試合描写は映画を見てから書きたいなあっという思いもあります。理由として、映画を見てからの方がよりイメージが沸くというのと、万が一原作にはない、映画で初めて公表される原作設定が出てくると、修正するのも帳尻合わせをするのも面倒くさい。というのが理由です。現状、もう1つの二次もありますので、しばらくはそっちを優先してもいいかなぁ……というのが今の率直な心境です。さて、どうしよっかな…(^-^;)

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。