黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

やはり、この話では終わらなかった…( ;∀;)

それではどうぞ!


第58Q~決死~

 

 

 

第4Q、残り4分4秒。

 

 

花月 79

洛山 80

 

 

試合終了まで残すところ4分程となり、花月がついに洛山の背中を捉える。それと同時に、赤司が本来の自分に切り替わった。

 

「…」

 

ボールを進める赤司が目の前の三杉に対し、左右に切り返しながらチャンスを窺う。

 

「(…さっきまでとは雰囲気が違う。この感じ、試合開始直後の彼に戻ったか…)」

 

三杉は、赤司の変化にすぐに気づいた。

 

「(ジキルとハイド。赤司征十郎を一言で表すならそれだな。実際、その手の人物に初めて会ったが、戦うとなると、厄介極まりないな…)」

 

相手のあらゆる情報を集め、分析し、そこから攻略法を導き出す三杉のとって、赤司のような稀有な選手は苦手であった。何せ、人が別人のように変わってしまうので、集めた情報が役に立たなくなるからだ。

 

「(見たところ、身体能力に大きな変化はない。プレースタイルも、僅かに基本に忠実になっている程度。今のフェイントも、崩したり逆を突いたりするものでもない。エンペラーアイを使わないのか? それとも、使えないのか…)」

 

少ない情報をもとに、赤司の分析を進める三杉。それでも、エンペラーアイを使わない状態で抜かれる程三杉は甘くはなく、赤司の動きにピタリと付いていく。

 

「…」

 

ピタリと付いてこられるも、動揺の色はなく、落ち着いてボールを掴む。

 

 

――ピッ!

 

 

それと同時に矢のようなパスを出した。

 

「よっしゃぁっ!」

 

ボールの先、そこへちょうど走りこんでいた葉山がボールを受け取る。

 

「くっ!」

 

裏を取られた大地だったが、すかさずバックステップで追いかけ、葉山の前に立ち塞がる。

 

「あなたのドリブルにはもう慣れました。私には通じません」

 

「どうかな?」

 

大きな轟音が鳴ると、葉山はドリブルを始める。

 

「読めていますよ。次はここ――っ!?」

 

葉山のドリブルを読み、ボールを狙おうと手を伸ばしたが、大地の手は空を切り、葉山はそのまま大地の横を抜けていった。

 

「態勢が不安定だったとはいえ、大地が抜かれた!?」

 

止められるとばかり思っていた空は思わず声が出る。

 

「(スピードが……リズムが速くなった。いったい何が…)」

 

大地を抜きさった葉山はそのままリングに真っすぐ突き進み、レイアップの態勢に入る。

 

「打たせへんで!!」

 

そこへ、ヘルプにやってきた天野がブロックに現れる。

 

「知ってるよ、来てることぐらい!」

 

ここで、葉山は上げたボールを下げ、パスに切り替えた。ボールは、フリーの四条の下へ。

 

「あかん!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーでボールを受け取った四条は危なげなくミドルシュートを決めた。

 

「良いぞ四条ぉっ!」

 

「痛っ! …あざっす」

 

労いの言葉と共に根武谷が背中を叩き、四条が痛がりながらも礼を言った。

 

「…」

 

今の一連のプレーを三杉はジッと観察していた。

 

 

花月のオフェンス…。

 

三杉から大地へとボールが渡る。

 

「もう抜かせねぇからな」

 

「っ!」

 

大地の前に立ち塞がる葉山。今まで以上のプレッシャーを大地が襲う。

 

「…っ」

 

ボールを持った大地にフェイスガードでべったり張り付く葉山。そのプレッシャーに苦悶の表情を浮かべる大地。

 

「(突然動きが良くなった? …ですが!)」

 

機を見て大地がバックステップをし、葉山と距離を作った。

 

「ちっ!」

 

距離を空けさせまいと瞬時に距離を潰しに来る葉山だったが…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

葉山が前に出てくるのと同時にバックロールターンで葉山をかわす。

 

「させるかよ!」

 

葉山を抜いてシュート態勢に入る大地の前に根武谷がブロックに現れる。

 

 

――スッ…。

 

 

大地はボールを下げ、落とすようにボールを手放す。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

ボールを受け取った空がそのままリングにボールを叩きつけた。

 

「よし!」

 

パチン! と、ハイタッチをする空と大地。だが、点を決めたものの、2人は洛山に違和感を覚えた。

 

 

オフェンスが切り替わり、赤司から実渕にボールが渡る。

 

「来たな。何度やっても同じ――っ!?」

 

距離を取って実渕の数種類のスリーに対応しようとした空だったが、嫌な予感がした為、咄嗟に距離を潰してフェイスガードでマークをした。

 

「…へぇ、良い勘してるわね。けどね、私はスリーだけしか能のない選手じゃないわ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

僅かな隙を付き、空の横をドライブで抜ける。中へ切り込んだ実渕がシュートかパスか選別していると…。

 

「実渕、後ろだ!」

 

赤司の咄嗟の声に反応し、手元に視線を移すと、後ろから1本の腕がボールを近づいていることに気付く。

 

「っ!」

 

咄嗟にボールを掴み、その腕をかわした。

 

「おしい!」

 

「…んもう、やっぱり一筋縄ではいかないわね」

 

腕の正体は空。抜かれた直後、倒れこむように背中を倒し、実渕の持つボールを狙い撃った。腕が空振りすると、器用に態勢を立て直しながら身体を起こし、実渕の前を塞ぐ。

 

「(…とは言え、マジで抜かれた。いきなりキレが良くなりやがった)」

 

ふぅっと一息吐き、再びを腰を落としてディフェンスを臨む。

 

「……仕方ないわね」

 

抜くことを諦めた実渕は赤司にボールを戻した。ボールを受け取った赤司は間髪入れずにゴール下にパスを出した。

 

「っ!」

 

ボールは、目の前の三杉、その後ろの天野、堀田を抜け、ゴール下の根武谷にボールが渡った。

 

「ナイスパース!」

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

ボールを受け取った根武谷がボースハンドダンクを叩きつけた。

 

点差は、再び3点に広がる。

 

 

代わって花月のオフェンス。三杉がボールをフロントコートまで運ぶ。

 

「……なるほど」

 

「そういうことか…」

 

ここで三杉と堀田が洛山の変化の正体を知る。

 

「っ! これは…!」

 

「おいおい、ホンマかいな…」

 

「まさか…!」

 

それに続き、空、天野、大地もその正体に気付いた。

 

 

 

――洛山選手の全員がゾーンに突入していた。

 

 

 

「出た…! 赤司の味方をゾーンに引き上げる究極のパス!」

 

日向が目を見開いて驚愕をする。

 

去年と今年、誠凛が2度味わった洛山、赤司による、味方のパフォーマンス能力を上げる究極のパス。

 

 

ゾーンに引き上げられた4人のプレッシャーは、この試合最大のものとなった。

 

花月選手達の前に立ち塞がる洛山選手達の5人は、さながら、越えることを許さない断崖絶壁であった。

 

「臆したか?」

 

動揺する花月選手達に三杉が声をかける。

 

「まさか、要するに、試合が面白くなったってことでしょ?」

 

それを聞いた空はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「この程度は想定済みです。私のやることは変わりません」

 

大地は表情を引き締めた。

 

「さっすが洛山やなぁ。ま、それでもリバウンドは譲らへんけどな」

 

天野はケラケラ笑った。

 

他の3人の様子を見て、三杉は満足そうに笑みを浮かべる。

 

「ならいい。正真正銘、これからが正念場だ。…行くぞ」

 

『はい(応)!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は、このまま一進一退。膠着状態に陥る。

 

洛山が決めると、花月が決め返し、1点差と3点差を繰り返す展開になる。

 

花月は圧倒的な個人技で、洛山は劣る個人の差を連携で埋め、互いの矛が互いの盾を貫き、それぞれ得点を重ねていく。

 

 

「すげぇ…」

 

観客席の火神が今の試合展開を見てポツリと呟く。他の観客達も同様の感想であった。

 

試合はもはや、高校生のレベルを遥かに超越しており、大学、社会人のバスケでさえ、早々お目にかかれない試合内容である。

 

「どっちも譲らない。まさに互角だ」

 

日向も驚愕しながらも、試合から目を一切反らしていない。

 

互いに力が均衡し、結末が見えない試合内容。

 

「…そうね。両者は互角『だった』わ」

 

このリコの発言により、試合は動きを見せ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り1分31秒。

 

 

花月 87

洛山 88

 

 

洛山オフェンス。赤司がボールをキープしている。

 

三杉のディフェンスの隙を付き、実渕にパスを出す。

 

「っ!」

 

実渕をマークしている空は四条のスクリーンに捕まり、マークを外されていた。ノーマークでボールを受け取った実渕は悠々とスリーを放った…。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「なっ!?」

 

だが、ボールが放たれた瞬間、ブロックされてしまう。

 

『綾瀬だ!』

 

ブロックしたのは大地だった。空がスクリーンに捕まるのを確信した大地は、捕まる直前にヘルプに飛び出しており、それが功を奏してブロックに成功する。

 

「やるやんけ!」

 

ルーズボールを天野が抑え、攻守が切り替わる。

 

「天さん!」

 

大地のブロックと同時にフロントコートに走っていた空がボールを要求。すかさず天野はボールを走る空へ向けて投げた。

 

「っしゃ!」

 

ボールを受け取る空。そこへ…。

 

「行かせるわけないだろ!」

 

「っと」

 

フロントコートに足を踏み入れたところでボールを受け取った直後、葉山がその前に立ち塞がった。

 

「さすがに、簡単には速攻は許しちゃくれねぇか。まあいいや、俺としては、実渕だけじゃ物足りなかったところだったからな。ついにでにもう1人倒しておくかな」

 

「調子に乗んなよ1年坊。玲央姉の時みたいな小細工が俺に通用すると思うな」

 

葉山は腰を落とし、やや距離を取り、野生を全面に押し出して空を待ち構える。

 

「小細工? しねぇよ。ここは真っ向勝負だ!」

 

空もトリプルスレッドの態勢でグッと腰を落とした。

 

「行け。洛山が赤司のパスで力を発揮していると言うなら、お前は相手が強ければ強い程その力を発揮出来る」

 

三杉が囁くように空を鼓舞する。

 

「(俺の全身全霊の全速。…足に力を貯めて……それを一気に解放する!)」

 

全身の力を足に込めるよう貯める。そしてそれを一気に解放し、踏み出した。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

空が最初の1歩で葉山の横に並び、次の1歩で後ろに抜けた。そのスピードに、葉山は反応出来ず、反応出来た時には空は自身の後方に抜き出していた。

 

 

「なんて速さだ! 今のスピード、葉山のライトニングドリブルの比じゃないぞ!」

 

伊月が今のスピードを見て思わず立ち上がった。

 

「今の加速力は、青峰と同等……マックススピードが速い分、それ以上だ!」

 

火神の同様に立ち上がっていた。

 

 

葉山を抜きさった空はそのままリング目掛けて突き進み、フリースローラインを越えたところでボールを掴み、跳躍した。

 

「決めさせるわけないだろ!」

 

そこへ、葉山を抜く際に立ち止まった間に戻った根武谷がブロックに現れた。

 

「よーし、よく戻った根武谷!」

 

身長差と身体能力を考えれば空中戦で空に勝ち目は薄い。既に、ダブルクラッチで切り返すことも難しい。誰もが、根武谷のブロックを確信する。

 

「……知ってたよ。来てたことはな」

 

空は右手で持ったボールを左手で抑え、ボールを下げる。そのまま根武谷の脇の下を抜けると、エンドラインを越えていった。それと同時に抑えていた左手をボールから放し、身体を捩じってボールを左アウトサイドに投げつけた。

 

「良く切り返した。見事だった」

 

左サイドのスリーポイントラインの外側でポジション取りをしていた三杉にボールが渡った。

 

『っ!?』

 

空を追うことに集中していた洛山は、ノーマークの三杉に気付くことが出来なかった。

 

「そしてこれが、流れを帰る1本となるだろう」

 

悠々とボールの位置と縫い目を整え、放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはキレイな弧を描き、リングの中心を通っていった。

 

『ついに逆転だぁぁぁっ!!!』

 

花月がついに逆転に成功する。

 

「ナイッシュ、三杉さん!」

 

「良いパスだったぞ」

 

パチン! と、空と三杉がハイタッチをする。

 

『くっ!』

 

ついに逆転を許してしまい、思わず苦悶の声が出る洛山選手達。オフェンスが洛山に切り替わるが…。

 

「…くっ!」

 

ボールを保持する実渕。空は、距離を空けず、フェイスガードでマークをしている。先ほど同様、抜こうと試みるが、空がその隙を与えない。やむを得ず、パスを出す。

 

パスの先は葉山。マークに付くのは大地。

 

「こんの!」

 

ライトニングドリブルレベル5。高速で切り返しながら大地を抜きにかかるが大地はピタリと付いていき、それを許さない。結局攻めきれず、パスを出す。

 

そこから根武谷、四条とボールが渡るが、いずれも堀田、天野を抜けず、パスを出し、ボールは赤司の下に戻ってくる。

 

「…っ」

 

他の4人が得点を決められず、表情には出さないが、内心で動揺をする赤司。だが、即座に雑念を消し、目の前の三杉に集中する。

 

「…」

 

三杉は付かず離れず。理想的な距離で赤司をマークしている。

 

「…っ!」

 

意を決して赤司、動く。アウトサイドに陣取る実渕にパスを出す。それと同時にツーポイントエリアに走り、パスを要求。実渕はすかさずリターンパスを赤司に出した。

 

「…よし」

 

リターンパスを受けた赤司はそのままインサイドへ突き進んでいく。

 

「行かせへんで!」

 

天野がヘルプに飛び出し、赤司の前に立ち塞がる。

 

「…(チラッ)」

 

「っ!」

 

天野がヘルプに来た直後、赤司は四条の方をチラリと見る。それを見た天野は視線に釣られ、足を止めてしまう。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

フェイクと同時にダックインで天野の横を抜ける。

 

『赤司が自ら切り込んだ!?』

 

残り時間4分を切った直後から、自ら仕掛けず、パスを捌いてきた赤司。

 

 

「ここまで赤司が仕掛けなかったのはこの為の布石!」

 

氷室が目を見開く。

 

 

今までのパスワークでインサイドには人がいない。無人のリングに向けて赤司が跳躍する。

 

『た、高い!』

 

173㎝の身長からは考えられない跳躍力。ボールを持った手はリングを越える。赤司はそのままボールをリングに向けて振り下ろした。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

だが、横から現れた1本の腕がボールを弾き飛ばした。

 

『堀田だぁぁぁっ!!!』

 

赤司のダンクは、堀田によって阻止された。

 

「やはりな。勘を信じて正解だった」

 

ゴール下から離れた根武谷と、赤司と天野の位置から赤司の切り込みを察知し、根武谷のマークを外してヘルプに飛び出した。それが功を奏し、ブロックに成功する。

 

ルーズボールを空が拾い、フロントコートにロングパス。大地がボールを受け取る。

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

そのままワンマン速攻でワンハンドダンクを炸裂させた。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

それと同時に大歓声が上がった。

 

「よっしゃぁぁぁっ!」

 

空と大地がハイタッチ。点差は、ついに4点にまで開いた。

 

 

「どうなってるんだ? 急に均衡が崩れた。花月が何かしているようには見えないが…」

 

「確かに、花月と洛山の戦力はほぼ互角だった。いったいどうして…」

 

突然の花月の猛攻。日向と伊月は納得出来なかった。

 

「スタミナよ。この均衡を破るきっかけになったのはひとえに、スタミナの差よ」

 

リコが、その疑問を晴らす答えを言った。

 

「スタミナって、そんなもんが――」

 

「――そんなもんが勝敗を分けちまうんだよ」

 

火神の言葉を遮るように後ろから声が聞こえてくる。

 

『景虎さん!』

 

「テクニック、身体能力。確かに勝敗を分ける重要なファクターだ。だがな、拮抗した試合において、スタミナ…運動量が勝敗に強く影響しちまうなんてことはよくある話だ。相手より長く走れる。それだけのことでな」

 

そう言って景虎は座席に腰掛けた。

 

「試合開始直後のラン&ガンにオールコートゾーンプレス。その後のセットオフェンスに2-3ゾーン。そして、赤司のパスによるチーム全員のゾーン。考えてみれば、洛山は試合開始から今までハイペースで試合を進めてきた」

 

神妙な表情で緑間が試合を振り返っていく。

 

『ハァ…ハァ…!』

 

洛山選手達は、大きく肩で息をしており、ゾーンも解けていた。

 

「っ! あんなに消耗してやがる…!」

 

横の高尾も、洛山が消耗が著しいことに気付く。

 

「ここに来て、命綱とも言えるものが切れた。もう試合は…」

 

緑間は言い切らなかったものの、試合の結末を半ば予言した。

 

 

第4Q、残り49秒。

 

 

花月 92

洛山 88

 

 

点差は4点にまで広がり、洛山のオフェンス。残り時間は1分を切り、早く点差を詰めたい。だが…。

 

「……くっ!」

 

苦悶の声を上げる赤司。

 

必死にマークを外そうとする洛山選手達。だが、ゾーンが解け、体力も限界に近い今、フリーになることが出来ない。赤司ですらも、目の前の三杉を相手にボールをキープするので精一杯の状態であった。

 

ボールを回すも、それぞれ、目の前のマークを振り切れず、抜くことはおろか、シュートにも持っていけないでいた。ボールを回している内に、24秒が迫っていた。

 

絶え間なくボールが動き、ボールは、実渕の手元に収まる。

 

「…っ」

 

実渕をマークする空。空は、さっきまでのフェイスガードではなく、距離を取ってディフェンスをした。

 

「(ゾーンが解けてスピードとキレが戻った。なら、もうべったり張り付く必要はねぇ)」

 

ゾーンに入っていたさっきまでであれば、距離を空けるとスリーを決められてしまうリスクがあった。だが、ゾーンが解けた今、張り付かずともさっきまでの距離を取るディフェンス方法で止められると空は判断した。

 

「(…ダメだわ。天、地、虚空、下弦、どれを打っても止められてしまうわ)」

 

もはや、実渕に空をかわすことは出来ない。スリーは打てない。ドライブは距離を取られているので論外。パスをするにも、全員マークが外れておらず、仮にボールを渡せてもシュートまでは時間が足りない。

 

「(もう私が決めるしかない。…けれど、この状況で私に決められる方法が……いえ、考えるのよ。この坊やをかわして決める方法を…!)」

 

実渕は必死に考えを巡らせる。

 

「(…………これだわ)」

 

その時、実渕に1つの手段が浮かんだ。

 

「(これしかないわ。練習なんて当然したことない。けれど、去年と今年、何度も見せてもらったからイメージは十分。……やるのよ。彼が去年やったように…!)」

 

意を決した実渕が動く。

 

「……えっ?」

 

その時、空は目の前で起こった異変に思わず声を上げる。意識して広げていた距離がさらに広がっていたからだ。

 

「まずい!」

 

慌てて距離を詰める空。

 

「遅いわよ」

 

十分に距離を空けた実渕は後ろに飛んでさらに距離を取り、天のシュートを放った。

 

「くそっ!」

 

必死に距離を詰め、ブロックに飛んだ空だったが、紙一重で届かなかった。

 

 

「あれは……日向のバリアジャンパー!」

 

実渕が行ったことの正体を伊月がいち早く気付いた。

 

「あの野郎…!」

 

そんな実渕を日向は笑みを浮かべながら悪態を吐いた。

 

 

ボールはリングへと向かっていき…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングを潜り抜けた。

 

「よし!」

 

スリーを決めた実渕は拳を握った。

 

「ナイス玲央姉!」

 

駆け寄った葉山とハイタッチ。

 

「ナイッシュゥゥゥッ!」

 

「あなたのは嫌よ」

 

根武谷のハイタッチはかわした。

 

「ナイスです。けど、よくいきなりであれが出来ましたね?」

 

「付け焼き刃よ。少なくとも、2度と通用しないでしょうね。…けれど、次なんてどうでもいいわ。この1本が成功すれば」

 

四条の質問に、実渕は笑みを浮かべながら答えた。

 

「見事だ、実渕。今日ほど、お前が味方で良かったと思った日はない」

 

「征ちゃん…」

 

赤司が労いの言葉をかける。

 

「ここからが正念場だ。1本止めて1本決める。残り時間は僅かだ。みんな、死力を尽くすぞ!!」

 

『応!!!』

 

赤司の激に、洛山選手達が声を張り上げて応えた。

 

残り時間は僅か、点差は1点。勝敗の行方は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





続けて投稿致します。

予定は同日21時を予定しています。

1話に纏めて投稿しても良かったのですが、ボリュームがあまりにも多くなってしまったので、分けて投稿します。

それでも4時間後にまた!

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