黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

諸事情により思ったより時間がかかってしまいました…(^-^;)

今年も残すところあと1ヶ月弱。駆け抜けたいです。

それではどうぞ!



第56Q~空VS実渕~

 

 

 

第4Q、残り6分54秒。

 

 

花月 65

洛山 74

 

 

大地が葉山のライトニングドリブルを攻略し、連続得点をしたことで点差は一桁の9点にまで縮まった。

 

ボールは実渕が所持し、その前に立ちはだかるのは空。

 

「…」

 

「…」

 

夜叉、実渕玲央と、空の戦いの火蓋が切って落とされようとしている。

 

「(こいつには、数種類のスリーがある…)」

 

実渕には、後ろに飛んで相手のブロックを避けて決める『天』のシュート。相手とぶつかってファールを貰いながら決める『地』のシュート。相手を飛ばせずに決める『虚空』のシュート。そして、今年から加わった、飛ぶことなく決める『下弦』の4種類。

 

「(天と地はこの試合で見たけど、虚空と下弦はまだ見れてないんだよなぁ)」

 

一応ではあるが、空は、資料映像を見た三杉から虚空のシュートの正体を聞いている。下弦のシュートの意味合いも同時に聞いている。だが…。

 

「(こいつを止めるには、どれを打ってくるか見極める必要がある)」

 

1つ1つは空なら止められない程ではない。1番重要なことは、実渕がどれを打ってくるかである。

 

「考え事かしら? 感心しないわね。私を相手に…」

 

その時、実渕がシュート態勢に入ろうとしていることに気付く。

 

「(やばっ! 何を打ってくる……っ! 状態が後ろにやや傾いている。…天か!)」

 

空は天と判断し、ブロックに向かう。

 

「あっ!」

 

焦ってブロックに飛んだ空だが、ここで自分が失態を犯したことに気付く。実渕がまだ飛んでいないことに…。

 

「ここで突き放させてもらうわよ」

 

 

――ドン!!!

 

 

実渕が、空にぶつかるように飛び、接触する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹き、指を3本立てる。

 

 

「出た、実渕の『地』のシュート…!」

 

高尾が息を飲む。

 

 

「ちっ!」

 

実渕の手からボールが放たれる。ボールはリングの縁をクルクルと回る。ボールはその勢いを徐々に失い、そして、零れ落ちた。だが…。

 

『外れた!』

 

ボールはリングの内側ではなく、外に零れ落ちた。

 

「ディフェンスチャージング、緑10番!」

 

審判からフリースローを宣言される。

 

 

「花月は命拾いしたな。ここで決められたら絶望的だった」

 

「ああ。…それにしても、あのシチュエーションで実渕が外すとはな。疲労かプレッシャーで手元が狂ったか?」

 

伊月、日向が言葉を交わす。

 

 

「…んもう! 嫌な子だわ!」

 

実渕が苛立った表情で右手をヒラヒラさせ、空を睨みつけている。

 

地のシュートが外れた理由は疲労でもプレッシャーでもなく…。

 

「……(ぺロッ)」

 

そんな実渕に舌を出す空。

 

空は、ボールが手から放たれる瞬間、実渕の右手を思い切り叩いた。その為、シュートの軌道が僅かにズレてしまった。

 

フリースローラインに実渕が立つと、審判からボールを渡される。

 

「…」

 

ボールを受け取ると、手元でボールを回転させ、縫い目と感触を確かめながらボールを掴む。4点プレーにはならなかったものの、ここで全てのフリースローを決めれれば3点。実渕の1投目。

 

 

――ガン!!!

 

 

「っ!?」

 

『外れたー!!!』

 

ボールはリングに嫌われ、外れてしまう。

 

「…っ! ホント、嫌になるわ」

 

先ほど叩かれた際の痺れが完全に引いていなかった為、手元が狂い、外してしまう。

 

「(……痺れがなくなったわね。後は大丈夫…)」

 

痺れが治まった実渕は後の2本を落ち着いて決める。これにより、花月は再び点差が二桁になるも、最悪の失点は防いだ。

 

「(ちくしょう、結局止められなかった…。まあいい、次だ、次!)」

 

空は顔を叩き、次のオフェンスに切り替えた。

 

 

三杉がボールを運び、ゲームメイクを始める。

 

「三杉さーん! パスパース!」

 

空が大声でボールを要求する。

 

「分かったよ。あまり大声を出すな」

 

軽く嘆息しながら三杉は空にパスを出した。

 

「っしゃあ! そんじゃ、早速さっきの借りを返すぜ」

 

ドリブルを始める空。

 

「それはこっちのセリフよ。完膚なきまで負かしてあげるわ」

 

実渕がその前に立ちはだかる。

 

「…」

 

空はゆっくりドリブルをしながら隙を窺う。

 

「(さすが五将。簡単には隙は見せてくれないか。なら…!)」

 

小さなフェイクを入れながら崩しにかかったが、実渕は隙を作らなかった。その為、空は決断する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

実渕の態勢等お構いなしにレッグスルーを入れてドライブで仕掛ける。

 

「甘いわよ」

 

スピードに乗った空のドライブだったが、実渕は冷静に対応する。

 

「こんの!」

 

そこからバックチェンジで切り返し、逆を付く。

 

「その程度? それでは私は抜けないわ」

 

読み切った実渕が空の進路を塞いだ。

 

「ちっ!」

 

動きを読まれた空は舌打ちをしながら1歩引いて距離を取る。

 

「…ふぅ」

 

距離を取った空は一息吐く。簡単にいく相手ではないことを改めて認識する空。

 

「空! こっちです!」

 

その時、左サイドから大地がボールを要求する。

 

「……(チラッ)」

 

大地の呼びかけに、空は一瞬そっちに顔と視線を向ける。それと同時に…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

視線を向けた方とは逆にクロスオーバーで再び実渕の左手側から仕掛ける。

 

「ホント、あからさまねぇ」

 

視線のフェイクには実渕は引っ掛からず、先ほど同様、進路を塞がれる。

 

「…」

 

 

――ピッ!

 

 

それと同時にノールックビハインドパスで大地にパスを出した。だが…。

 

『パスが緩いぞ!?』

 

咄嗟だった為か、パスが緩くなってしまい、葉山がパスコースに割り込み、実渕がボールを追いかける。

 

「っ! 玲央、小太郎! そのボールは――」

 

何かに気付いた赤司が2人に指示を出したが…。

 

「えっ?」

 

「はっ?」

 

ボールがコートを跳ねた瞬間、ボールが実渕と葉山の手から逃れるかのように軌道を変えた。

 

「…(ニヤリ)」

 

ボールは、吸い込まれるようにハイポストに移動していた空の手元に向かっていった。

 

 

「あいつ…! 何をしやがった!」

 

ボールを軌道を変えたカラクリが理解出来ず、火神が思わず声を出す。

 

「見りゃ分かんだろ。ボールに回転をかけたんだよ」

 

火神の背後から、その答えが聞こえてくる。

 

「っ! …青峰…!」

 

振り向くと、そこには青峰が立っていた。

 

「ボールに意図的に回転をかけてバウンドの方向を変える、ストリートで良くやるテクニックだ」

 

「…そういや、俺も見たことあるな」

 

それを聞いて火神も納得する。

 

「青峰君も今の出来ますか?」

 

「出来る。…けどまあ、試合じゃやったことねぇな」

 

黒子の質問に答えると、青峰は黒子の横に座った。

 

「クライマックスか…」

 

点差を見て、青峰は1人呟いた。

 

 

ボールを受け取った空はそのままリングへと向かい、フリースローラインを越えたところでレイアップの態勢に入る。

 

「行かせねぇぞ!」

 

そこへ、ヘルプでやってきた根武谷がブロックに飛ぶが…。

 

「なっ!?」

 

空は、ボールをひょいとリングに放り投げる。ボールはブロックの僅か上を綺麗な放物線を描くように通過していき…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングを潜り抜けた。

 

「っしゃあ!」

 

先ほどの赤司のお株を奪うかのような空のティアドロップにより得点が決まり、拳を握る空。

 

「…っ、ティアドロップ、あいつも打てるのかよ」

 

得点を奪われた根武谷は茫然とする。

 

「後悔している時間はない。ゴール下のディフェンスはお前の仕事だ。次は止めてみせろ」

 

「おう! 分かってるぜ」

 

根武谷に告げると、実渕の方に振り返る。

 

「玲央。現状、小太郎は使えない。そして、中は厚い」

 

「分かってるわ。次は完璧に決めてみせるわ」

 

赤司の激に、実渕は目をギラつかせるのだった。そして、洛山のオフェンスに切り替わる。

 

ボールは、赤司によって運ばれ、実渕へと渡る。

 

「(来たっ! こいつから点を取るより、得点させないことの方が難しい。どう止める…)」

 

先ほどは、咄嗟の機転を利かせ、最悪の4点プレーこそ防いだものの、結局、失点を防ぐことは出来なかった。

 

「神城君! 距離を詰めて! フェイスガードならスリーは撃てないわ!」

 

「…」

 

ベンチから姫川から指示が飛ぶ。

 

スリーは通常のシュートと比べてモーションが大きい。その為、べったり張り付かれると早々打てるものではない。だが…。

 

「(それじゃあダメなんだよ…)」

 

この方法では、スリーは防げても、止めたことにはならない。それでは、実渕に勝ったことにはならない。

 

「ああもう…!」

 

頭を抱える姫川。空は、指示には従わなかった。

 

「(やっぱり、何度か観察しないと見極めが出来ない。けど、これ以上、失点も出来ない。何かないのか…。何を打ってきても止められる1発逆転の秘策は…!)」

 

必死に考えを巡らせる。身長差は確かにあるが、空の跳躍力なら問題はない。見極めさえ出来れば…。

 

「(何か……何か…! …………………あった)」

 

ここで、空の頭の中で1つのアイデアが浮かんだ。

 

「(ハハッ! ある! 見つけた! この方法なら止められるかも!)」

 

攻略法を見つけ、思わず頬が緩む空。空は、早速それを実行に移した。

 

「……何のつもりかしら?」

 

実渕が怪訝そうな表情になる。空は、実渕との距離を空けたのだ。

 

通常、ディフェンスに入る際、相手と付かず離れず、手を伸ばせば届く距離が理想とされている。例外として、相手がスラッシャータイプ、ドライブで切り込んでくるタイプの場合、抜かれないように距離を取り、シュータータイプの場合、距離を潰し、密着してディフェンスすることがある。

 

実渕玲央は言わずもがな、シューター。それも、全国トップレベルのだ。そんな実渕に、距離を取ることは自殺行為でしかない。

 

 

「なに!?」

 

「あいつ、何考えてんだ!?」

 

突如、空が起こした行動に、伊月と日向が目を見開いた。

 

「距離を取られると、地や虚空は打ちづらくなるだろうけど…」

 

「まさか、それが狙いか?」

 

「だが、あれじゃ、天のシュートは打ち放題だ。そうでなくても、天のシュートをフェイクに使われたらそれこそ地のシュートの餌食だぞ」

 

結局、答えが出なかった為、2人の勝負を見守ることにした。

 

 

「…」

 

依然として、距離を空けたままディフェンスをする空。

 

「(何が狙いかしら。これだけ距離があると、天が打ちやすいわね。もしかして、それが狙い? 気になるのが、重心を低くして右足を後ろに下げてるのが気になるところだけれど…)」

 

空は、重心を低く、右足を1歩引いている。

 

「(…まあいいわ。それなら天のシュート……を囮に改めて4点貰おうかしら)」

 

実渕が天のシュートのフェイクを入れる。

 

「…」

 

だが、空は一切動きを見せなかった。

 

「(…かからなかった。さすがにあからさま過ぎたかしら? さっき見せたばかりですものね)」

 

ならば次はどうするか…。ならば、相手のブロックから逃れる天のシュートを撃ちたいが、誘われているような気がして中々決断出来ない。

 

「(…いえ、行くわ。向こうは地のシュートを警戒している。迷いが出てるはずだわ。それにこれだけ距離があれば、例え読まれていても問題ないわ)」

 

実渕は決断し、天のシュート態勢に入る。

 

「(動かない…。地のシュートを警戒し過ぎたわね。今からではブロックは間に合わない。いただくわ!)」

 

得点を確信し、悠々と後ろに飛んだ。その瞬間、実渕の顔が驚愕に染まった。

 

「なっ!?」

 

飛ぶ直前まで動きを見せなかった空が今、目の前でシュートコースを塞ぎにかかっている。

 

「(嘘!? あの状況でブロックに間に合うわけが…!)」

 

実渕の手からボールが放される。

 

 

――チッ…。

 

 

空の指の先に微かにボールが触れた。

 

「っ! リバウンド!」

 

外れることを確信した空はゴール下の堀田と天野に叫ぶ。その声と同時に2人が即座にスクリーンアウトに入る。

 

「ぐおっ! ビクともしねぇ…!」

 

「こいつ…!」

 

根武谷がパワーで強引にいいポジションを奪おうとするが、堀田は微動だにしない。天野も、持ち前にパワーと腕を上手く使い、理想のポジション取りをする。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールは予想通りリングに弾かれた。

 

「もろたでぇっ!」

 

リバウンドボールを天野がしっかりと抑えた。

 

「三杉はん!」

 

「速攻!」

 

天野が三杉にボールを預けると、花月の選手達は一斉に駆け上がる。洛山も戻りが速く、すぐさま自陣に戻り、各自マンツーで付いた。

 

「勢いのまま言って来い」

 

三杉はパスを出す。ボールの行き先は…。

 

「任せて下さい!」

 

空の手にボールが治まる。

 

「今度こそ止めるわ。さっきみたいな曲芸染みたテクニックが何度も通じると思わないことね」

 

先ほどと変わらず、空をマークするのは実渕。その表情は、鬼気迫るものがある。

 

「そんじゃ、その曲芸で抜いてみよっかな」

 

空はゆっくりとドリブルを始める。前方、股下、後方と、左右にボールを散らしながら少しずつスピードとテンポを上げていく。

 

「…っ!」

 

ドリブルをするスピードがどんどん速くなっていく。それに応じて重心を低く構え、ボールをコートに近い位置で突くことでテンポがさらに上がる。

 

「♪~♪」

 

スピードが上がり、リズムに乗ってくると、空は足を何度もクロスさせ、そこをボールを通すなど、ダンスでも踊っているかのようなドリブルをする。

 

『おいおい、ふざけ過ぎだぞ! 状況分かってんのか!』

 

余裕とも取れる空のドリブルに一部観客からは野次が飛ぶ。

 

傍から見れば空がふざけているように見えるが…。

 

「っ!?」

 

目の前で対峙する実渕は、ボールの動きを追いきれず、焦りが生まれる。

 

「…にひっ♪」

 

空がニヤリと笑みを浮かべる。それと同時に…。

 

「えっ?」

 

実渕はついにボールを見失う。空が倒れこむように上半身を下げると、空の背中からボールが飛び出し、実渕の背後にボールは飛んで行った。

 

「しまっ…!」

 

気付いた時には遅く、空はすぐさまボールを追いかけ、拾った。ボールを掴むと同時にシュート態勢に入る。

 

「ちっ、打たせるか!」

 

四条がヘルプに飛び出し、ブロックに向かうが、フェイダウェイ気味に後ろに飛ぶことでギリギリブロックをかわす。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

「しゃぁぁぁっ!」

 

それと同時に拳を握る空。

 

 

「あいつのプレースタイル、スピードとキレは劣るが、まるで青峰……変則性だけならそれ以上」

 

数度の対戦経験のある火神が空を評価する。

 

「いや、それよりも、今のプレー、間違いない。神城空は――」

 

 

「あなた…司令塔やってた時よりプレーが生き生きしているわ。こっち(スコアラー)が本職ね」

 

空は、中学3年時に広い視野とパスセンスを買われてポイントガードにコンバートされたが、それ以前は大地と共に得点を重ねるスコアラー(点取り屋であった)。

 

「まあね。…それより、そっちのオフェンスだ。さっきので確信した。もうあんたのスリーは脅威ではない。次も止める」

 

「っ! たかが1本止めただけで随分強気ね。…やれるものならやってみなさい」

 

宣戦布告をする空を、実渕は睨み付けるように返した。

 

 

オフェンスは洛山に切り替わり、ボールは再び実渕の手に渡る。

 

「…」

 

「…」

 

トリプルスレッドの態勢で構える実渕に対し、空は先ほど同様、距離を取り、右足を1歩引いて構えている。

 

 

「さっきはギリギリ止めれたが、今度はどうなるか…」

 

2人の対決の行方を高尾は予想する。

 

「…恐らく、先ほどと同じ結果になるのだよ」

 

緑間は、そう断言する。

 

「…どういうことだよ?」

 

「神城が距離を取っているのは、実渕の全体像を捉える為だ」

 

「……?」

 

高尾は緑間の説明を聞くも理解出来ず、首を傾げる。

 

「見ていろ。実渕玲央は、この後背筋を凍らせることになる」

 

 

「(変わらず距離を取ってきたわね…)」

 

これだけ距離があればスリーを撃ちやすい。天のシュートなら尚のこと。だが、先ほどのブロックが頭にちらつき、躊躇う。

 

「(…なら、ブロックに飛ばせなければいい。虚空はこの試合まだ1度も見せていない。これなら、この子がどれだけスピードがあろうとジャンプ力があろうと関係ないわ!)」

 

意を決して、実渕はシュート態勢に入る。普段より膝を沈み込み、実渕の切り札である虚空を放つ為。

 

「(…動かない? 何を考えて…)」

 

だが、空はその場から未だ動いてはいなかった。

 

「(いいわ。今からではブロックは間に合わない。やっぱりさっきも勘が当たっただけ。いただくわ!)」

 

得点を確信し、実渕はボールを頭上に掲げ、跳躍し、ボールを指から放した。だが…。

 

「!? 嘘…でしょ…」

 

実渕の表情が驚愕に染まる。ボールが放たれる直前、下から1本の腕が現れる。

 

「言ったはずだぜ、止めるって!」

 

それは、空の腕だった。

 

「(どうして…、私が飛ぶまでこの子は1歩も動いていなかった。なのにどうして……まさか!?)」

 

ここで、実渕は先ほど何故天のシュートに触れることが出来たのか…。今、何故目の前に現れたのか…。それに気付いた。

 

 

「神城が行ったことは至極単純で、それでいて恐ろしいことなのだよ」

 

緑間は説明を始める。

 

「その方法は、相手が先に飛んでからブロックに飛ぶことだ。現時点で、神城はスリーの見極めは出来ていない。だが、相手が先に飛んでしまえば、何を選択しようと関係がなくなる。距離を取ったのは、相手の全体像を捉え、足元をより見やすくする為だ」

 

「……おいおい、ちょっと待てよ。相手を先に飛ばせちまったらブロックなんて…」

 

「足がコートから離れた瞬間に反応出来る反射神経と相手との距離をすぐさま詰め、先に飛んだ相手より先に最高到達点に達する瞬発力がなければ不可能だ」

 

「……!?」

 

緑間の説明を聞いて言葉を失う高尾。

 

「それらを持ち合わせる神城だからこそ、この作戦が成り立った。実渕玲央にとって、神城空は最悪の相手なのだよ」

 

 

先に飛んだ実渕にグングン迫る空。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

実渕が放ったボールを、空が叩き落とした。

 

『止めたぁぁぁぁぁっ!』

 

「そんな……私のスリーが…、こんなふざけて方法で…!」

 

常識では考えられない手段でブロックした空を見て背筋が凍りついた実渕。

 

「速攻ぉぉぉぉっ!!!」

 

すかさずボールを拾った空がワンマン速攻を仕掛ける。無人のリング目掛けて駆け抜ける。はずだったが…。

 

 

――バチィン!

 

 

拾ったボールをすぐさま弾かれてしまう。

 

「っ!? 赤司!」

 

ボールを弾いたのは赤司だった。ボールが、空の手から零れていく。

 

「あぶねぇ!」

 

すかさず、空が零れたボールをキープする。

 

「大地!」

 

再度、赤司に詰められる前に空は大地にボールを渡す。ボールを貰った大地は駆け上がっていき、リング目前でレイアップの態勢に入る。

 

「大地! 打つな、後ろに戻せ!」

 

「っ!」

 

ボールを放る瞬間、背後から空の声が耳に入り、咄嗟にボールを抑え、背後にボールを落とす。

 

「ちぃっ!」

 

大地の僅か後ろで、根武谷がブロックに飛んでいた。そのままボールを放っていれば、確実にブロックされていただろう。

 

「よし!」

 

ボールを受け取った空はそのまま跳躍する。

 

「させないわ!」

 

一連のやり取りの隙に戻っていた実渕が空の目の前、ブロックに現れた。

 

「ハッ! 関係ねぇ!」

 

空は構わずボールを右手に持ち替える。

 

「俺の勝ちだ、五将ぉぉぉぉっ!!!」

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

実渕の上からワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「うおぉぉぉっ!!!」

 

雄叫びを上げる空。

 

「…」

 

茫然とする実渕。再度、空は実渕を止め、実渕から得点を奪った。

 

点差はついに5点にまで縮まり、花月の士気も上がっていった。逆に、洛山の士気は下がっていった。

 

洛山のオフェンス。ボールが実渕に渡る。

 

「…くっ!」

 

距離を取ってディフェンスをする空に、言い知れようのない恐怖を感じ、パスを出した。

 

 

「あの実渕が引いた…」

 

「どうやら、格付けが済んでしまったようだな」

 

高尾は驚き、緑間は淡々としている。

 

「だが、実渕には新しい武器の…確か下弦があったはずだろ? コートを足から放さないあれなら出し抜けるはずじゃ…」

 

「結果は変わらないのだよ。下弦ならば、一瞬出し抜く事は出来る。だが、飛ばないということは、打点が限りなく低いということだ。一瞬出し抜いても、結末は同じだ」

 

 

ボールは実渕から葉山へ。

 

「…っ!」

 

目の前でディフェンスする大地を抜けるイメージが持てず、葉山は四条にボールを渡す。

 

「やらせへんで」

 

「……ぐっ!」

 

隙の無いディフェンスをする天野を目の前に、仕掛けるきっかけを掴めず、ゴール下の根武谷にパスを出す。

 

「マッスル~ドリブ――」

 

身体で強引に押し込もうとする根武谷。だが、堀田は山の如く微動だにしない。

 

「(このおっさん…ビクともしねぇ! それより、前半、五河と2人がかりでマークしてたのに、全然息を切らしてねぇじゃねぇか!)」

 

持ち前のパワーは通じず。それどころか消耗もしていない堀田に、驚愕を隠せない根武谷。押し切れず、ボールを戻す。ボールは、赤司の下に帰ってくる。

 

「どうだい? うちのルーキーは?」

 

マークをする三杉が赤司に話しかける。

 

「…称賛には値する。だが、驚愕することのほどではない。あの2人が五将を凌ぐ資質の持ち主であることは初めて見た時に分かっていたことだ」

 

「…ほう」

 

「ここまで詰められてしまった以上、こちらにも余裕はない。切り札を切る」

 

「興味があるな。各選手をウチが洛山を上回り、頼れないこの状況で、どんな手があるのか…」

 

「周りが頼れないのであれば、僕が1人で決めればいいだけのことだ」

 

「…っ」

 

『っ!?』

 

その瞬間、コートに立つ者及び観客席の選手達が赤司の変化に気付く。

 

「……ゾーンか」

 

「ここまで僕を侮辱した罪は重い。僕直々に跪かせてやろう」

 

赤司の放つプレッシャーが花月選手達を襲う。

 

「ゾーン、それも自らの意志で入るとは恐れ入る。…なら、1つ忠告しておくよ。もう1人の君。その彼と入れ替わることが可能ならそうすることを勧めるよ。君では俺には敵わない」

 

「面白いことを言うね。だが、それはあり得ない。絶対は僕だ。去年のテツヤような想定外な事がない限り、未来が見える僕は誰にも止められない」

 

勝利宣言をする三杉に対し、同じく勝利宣言で赤司は返した。

 

「エンペラーアイ。確かに恐ろしい武器だ。その眼を日本でも見れるとは思わなかった。だが、その眼は全能ではない。そして、その眼が君に致命的な欠点を生み出してしまっていることを教えてやる」

 

そっと集中力を高める三杉。

 

試合は、クライマックスへと移行していくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





パソコン買い替え時かな…。

今回、執筆途中で突然テキスト画面が消えること2回。数時間分の文章が一瞬で消えてなくなりましたorz

かなり旧式なので致し方無いのですが、消える度にテンションダダ落ちになります。

早く何とか、今年度中にインハイを…!

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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