黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

52 / 218

投稿します!

良いペースになってきました。

どうにかこのペースを保ちたいですね…(^-^;)

それではどうぞ!



第52Q~ルーキーコンビの力~

 

 

 

洛山がボールを回し、チャンスを窺っている。

 

「私達も随分舐められたものね」

 

「?」

 

突如、実渕が三杉に言い放つ。

 

「良いの? あの子(空)じゃ、征ちゃんには敵わない。敵わないだけならいいわ。もしかしたら、潰されちゃうかもしれないわよ」

 

「……もしそうなったら、その程度だった、だけのことさ」

 

ボールの動きに注視しながら答える三杉。

 

「2つほど、言っておくよ。空は、花月高校に入学してから、俺に何度も1ON1を挑んできた。その度に俺は空を負かしてきた。…だが、あいつは何度も敗北しても、1度も潰れることはなかった。あいつを潰すのは、至難の業だぜ」

 

「…」

 

「あともう1つ。君は俺達が洛山を舐めてる言ったが、君達こそ、空を舐めてるよ」

 

そっと、三杉は実渕に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「――道をあけろ」

 

バランスを崩す空の横を赤司が通り抜け、そのまま赤司はインサイドへ切り込んでいく。

 

「…むっ」

 

堀田がヘルプで飛び出し、赤司の進軍を阻もうとする。

 

「…」

 

赤司は迫ってくる堀田を冷静に見極め、ギリギリのタイミングで…。

 

 

――ピッ!

 

 

ローポスト付近にパスを出した。

 

「ナイスパス!」

 

ボールは、そこへ走りこんでいた葉山が拾う。1歩目でリングを通り抜け、バックレイアップを放った。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

葉山の手から放られたボールはそこに現れた者によってブロックされた。

 

「アウトオブバウンズ、白(洛山)」

 

こぼれたボールは、ラインを割った。

 

「うそっ!?」

 

決まると思っていた葉山は思わず声を上げ、ブロックした者に視線を向けた。

 

『神城だぁぁぁっ!!!』

 

葉山のシュートをブロックしたのは空だった。

 

「あっぶねぇ。また俺からの失点とかシャレにならねぇからな」

 

空自身も、何とかブロックに間に合い、胸を撫でおろした。

 

「なに?」

 

これには赤司もわずかだが驚きの表情に変わった。

 

あまりにも速すぎる。アンクルブレイクを起こし、尻餅をついた空が葉山のシュートをブロックすることはタイミング的に出来ないはずだからだ。

 

「征ちゃん……よね?」

 

赤司の変化に気付いた実渕がおそるおそる尋ねる。

 

「そうに決まっているだろう……玲央」

 

「っ!?」

 

この一言で、実渕は赤司が以前の赤司に戻ったことを理解した。

 

「それよりも、神城は確かにアンクルブレイクで崩したはずだが…」

 

「ええ、確かにバランスを崩したのだけれど、倒れる直前に手を床について転倒を防いだのよ」

 

先ほど、赤司は確かにエンペラーアイを使ってアンクルブレイクを起こさせたはずだった。だが、空はギリギリで床に手をついて転倒を避けたのだった。

 

「……感情的になりすぎて、かけ方が甘かったか」

 

顎に手を当て、赤司は反省をした。

 

「ごめーん、赤司! 決まると思って油断し過ぎたわ!」

 

そこへ、葉山が手を額に当てながらやってくる。

 

「いやいい。今回は僕の落ち度だ。気にすることはない」

 

「えっ? ……赤司?」

 

葉山も、赤司の変化に気付いた。

 

「おいおい、いつまでも集まってないで、早く再開しようぜ」

 

そこへ、根武谷がリスタートを促す為にやってきた。

 

「ああ、そうだな。……この試合、僕1人の力で勝つことは不可能だ。玲央、小太郎、永吉、充。力を貸してくれ」

 

『おう!!!』

 

洛山選手達は、散らばっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

リスタート、試合が再開され、ボールが赤司に渡る。

 

「次は止める!」

 

赤司のマークをするのは変わらず空。

 

「…」

 

赤司はゆっくりドリブルを始める。

 

「(同じ愚はもう犯さない。この眼で見極める)」

 

ボールを左右に散らし、揺さぶりをかけていく。空も、抜かれまいとその動きに付いていく。

 

空の片足に体重が掛かったその瞬間!

 

「(ここだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に左から右へと切り返した。

 

「くっ!?」

 

空がバランスを崩し、背後へ崩れる。

 

「(今度こそ崩した。これで――)」

 

「征ちゃん!」

 

空を崩し、その横を抜けようとした瞬間、実渕が赤司に対して声を掛ける。

 

 

――ブン!!!

 

 

「っ!?」

 

赤司は、背後に嫌なものを感じ取り、咄嗟にボールを右から左へ切り返した。それと同時に、背後から1本の腕が現れる。

 

「ちぃっ!」

 

ボールを狙い撃つことが出来ず、舌打ちが飛び出す。その腕の正体は、空だった。

 

「…どういうことだ?」

 

先ほどとは違い、エンペラーアイで念入りに足を崩すことを確認していただけに、先ほど以上に来るのが速かった空に驚愕を隠せない赤司。

 

「……何よあれ。何であんなことが出来るのよ」

 

今の空の動きを後ろから見ていた実渕は、顔が強張っていた。

 

空は確かに、体重が片足に乗ったところで切り返され、アンクルブレイクを起こし、背後へ倒れた。だが、空は尻餅を付く直前、両足を踏ん張って身体を支え、手を床に付けることなく転倒を拒否すると、すぐさま反転、赤司の持つボールを狙い撃った。

 

普通の人間であれば、限りなく背後に倒れこんだ態勢から、手を付かずに転倒を拒否することなど、まず不可能。

 

「空の御実家は、代々、漁師の家系で、彼は、幼少の頃から良く稼業の手伝いをされていました」

 

「?」

 

大地が、空の身の上の話を始める。目の前の葉山がそれに耳を傾ける。

 

「彼の家は少々過激で、収穫の時期が来ると、一般の漁師ならまず船を出さないであろう大荒れの海でも船を出し、漁を行うんですよ」

 

「…」

 

「私も1度、手伝いをさせてもらったことがあるのですが、その時に私が見たものは、船から投げ出されないようにするので精一杯な程の大荒れの海で、彼は、船の舳先で両足でバランスを取りながら平然と作業をしていたのですよ」

 

「…」

 

「つまり、何が言いたいのかというと――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――神城空相手に、アンクルブレイクを引き起こすことはまず不可能です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼い頃から培った天性のバランス能力は、赤司のエンペラーアイを使ったアンクルブレイクを無効化にした。

 

1度、実渕にボールを渡し、再びボールを受け取った赤司。マークするのは当然空。

 

今一度、赤司はボールを左右に切り返し、揺さぶりをかけ、アンクルブレイクを起こそうと試みる。

 

「…ととっ」

 

空は、僅かにバランスを崩し、倒れそうになるも、先ほどよりも危なげなくバランスを取り、立て直した。

 

「始めはちょっと面食らったが、だいぶ慣れてきた」

 

軽く笑みを浮かべる空。

 

「…」

 

赤司は仕掛けることなく、ボールを実渕に戻した。

 

 

「あの赤司が攻めあぐねてる?」

 

まるで空との勝負を避けるようにパスを出した赤司の姿を見て日向が呟く。

 

「それにしても、赤司のエンペラーアイに対抗出来る奴がいるなんて…」

 

実際に2度のマッチアップ経験のある伊月は、その姿を見て驚愕している。

 

過去、赤司に対抗するため、火神は、限りなく距離を取り、赤司に相対した。だが、これは、ゾーンに入った火神だからこそ出来たことであり、これでも、完全には対抗出来なかった。

 

黒子と火神が力を合わせ、これでようやく対抗出来たくらいだからだ。

 

故に、独力で赤司に対抗した空に、驚きを隠せなかった。

 

 

その後、赤司は、三杉のポジションや堀田の迎撃エリアを確認しながらボールを回し、そのパスを受けた実渕、葉山、根武谷が得点を重ね、五河は、スクリーンやポストプレーで味方を補助し、後はディフェンスに専念した。

 

花月は、今まで通り、天野がポストプレーで仲間を補助。空と三杉が上手くボール回し、チャンスと見れば自ら決め、パスを受けた大地、堀田が得点を重ねていく。

 

序盤こそ、洛山の奇襲で一方的な展開になったが、その後は、双方、点の取り合いをしている。

 

ただ、どちらのチームにも個人技に優れた選手が多くいるにも関わらず、どちらも、積極的に仕掛けず、あくまでパス回しを中心に得点を重ねていった。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第1Q終了のブザーが鳴った。

 

第1Q終了…。

 

 

花月 18

洛山 22

 

 

選手達がベンチへと引き上げていく。

 

 

「序盤の洛山の奇襲で一時、二桁近くまでリードが開いたが、第1Q終わってみれば、4点差か…」

 

高尾が、背もたれに身体を預けながら言う。

 

「ここまで大きな力の差は見られない。だが、お互いまだ、全力ではない。動きを見せるのは、これからなのだよ」

 

試合を見て、緑間はこう分析する。

 

「普段はお互い、どちらかと言えば、個人技主流のチームなのに、不気味なくらい、1ON1仕掛けなかったな」

 

「どちらも守備は固い。恐らく、仕掛けなかったのではなく、仕掛けることが出来なかったのだよ」

 

絶対的な守備力を誇る堀田に、身体能力が高く、運動量の多い選手が揃っている花月。同じく、能力が高い選手が揃い、さらに、全国屈指の練度を誇る洛山。共に、一筋縄ではいかない。

 

「お互い、オフェンスもディフェンスも見事にかみ合っちまってる。こうなっちまうと、試合がなかなか動かなくなるんだよな」

 

バスケは、実力が互角でも、相性などによって、点差が付くこともある。だが、攻守が互角で、バスケスタイルが似た同士が試合をすると、もちろん、点差が付く展開になることもあるが、点差が付かず膠着状態になることもある。

 

膠着状態になってしまえば、どちらが均衡を覆すきっかけを掴むか、どちらかがミスを犯すのを待つか…。

 

「(だが、少なくとも、あの赤司が、いつ起こるか分からないミスを待ったり、形も見えないきっかけ見つけるまで何も手を打たないはずがない。赤司は、必ず何か手を打ってくるのだよ。…いや、もしかしたら既に…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山ベンチ…。

 

試合に出場した選手達は、ベンチに腰掛け、汗を拭いながら水分補給をしていた。

 

「現状は、想定内か」

 

「はい」

 

選手達の前に立った白金の言葉に赤司が首を立てに振る。

 

とはいえ、赤司としては、ここまでの展開は想定内ではあれど、もっと点差を付けておきたかったというのが本音だった。

 

赤司は、試合が膠着状態になることは分かっていた。だから、身体と気持ちが試合に入り切れていない試合開始直後にこちらのデータにない奇襲を仕掛けたのだ。

 

奇襲によって付けた点差と、奇襲による余波。それによって付いた点差を維持しながら試合を進めたかった。

 

かみ合っているとはいえ、試合には流れがあり、全てが上手くいく時もあれば、逆に、上手くいかない時もある。その時の保険の為、もう少し点差を付けておきたかった。

 

今、試合が4点差しか付けられなかった要因は…。

 

「(まさか、あんな強引に主導権を奪い返されるとはね。…三杉誠也。アメリカでの経験は伊達ではないな。後は堀田健…)」

 

「…ふぅ」

 

「ぜぇ……ぜぇ…」

 

普段の第1Q終了時以上に汗を掻いている根武谷。五河は肩で息をしている。

 

根武谷、五河、共に、普段以上に消耗している。2人共、スタミナのない選手ではない。根武谷に関しては、洛山の中でも随一のスタミナを誇っているのにも関わらずだ。

 

ここまで消耗している理由は言うまでもなく、堀田だ。堀田とのゴール下争いによって、2人はスタミナを削られてしまった。

 

「(この2人を同時に相手をして、ここまで消耗させてしまうとは。永吉はともかく、五河は最後までもたないだろう。三杉誠也、堀田健。やはり、一筋縄ではいかないか…)」

 

花月ベンチに視線を向ける赤司。

 

「赤司、第2Qからは…」

 

「はい。次のプランに移行します。ここからは僕達本来のバスケスタイルでいく。玲央、小太郎、永吉にはもっと点を取ってもらう」

 

「ええ」

 

「おっしゃ!」

 

「おうよ!」

 

「充。お前がどれだけインサイドを制せるかにかかっている。全力で食らい付け」

 

「ああ」

 

「行くぞ。勝つのは、僕達だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「序盤の奇襲で点差を付けられたが、第1Q終わってみれば4点差。まあ、上出来か」

 

上杉が、腕を組みながら言う。

 

空の特性により、赤司のプレーに制限をかける結果となり、試合は均衡を保つことが出来た。

 

「ここまでは一応、想定通りです。…問題はここから。攻守がこれ以上になくかみ合ってしまった。しばらくは、我慢の時間が続きそうだ」

 

三杉は、この先の展望を告げる。

 

「(…それにしても、赤司征十郎。俺のポジションと健のディフェンスエリアを掌握しつつ、味方のポジションを把握する広い視野。敵味方が密集しているエリアから針の穴を通すかのような的確なパス。そして、ここまでのゲームメイク。これほどのポイントカードはアメリカでもそうはいない。大したものだ)」

 

ここまで、的確に試合を運んでいる赤司に、三杉は内心で賛辞の言葉を贈ってた。

 

「(…ただ、気にかかるのが、途中、彼のプレイスタイルががらりと変わった。まるで、人が入れ替わったかのように…。そういえば、昨年のウィンターカップ決勝の資料映像でも、終盤、同じことが起きていたな。彼は…)」

 

ただ1つ、赤司の変化に、三杉は疑問を持った。

 

「向こうは、これからオフェンスに変化を付けてくる。恐らく、洛山本来のオフェンスを仕掛けてくるだろう。…なら、こっちもそれで行こう」

 

「というと…」

 

三杉の提案に空が聞き返すと…。

 

「こっちも、パス回し主体から1ON1主体に切り替える。そうだな、俺と健……綾瀬の3人で点を取りに行く」

 

「っ! 分かりました」

 

オフェンスを任された大地は、心なしか、口元を綻ばせた。

 

「後はディフェンス。空。赤司は引き続きお前に任せる。抑えてみせろ」

 

「うす。任せてください!」

 

「天野。お前はリバウンドだ。簡単な相手ではないが、何としてでもボールをもぎ取れ」

 

「任せといてください!」

 

「健。君には現状、ダブルチームを布かれているが、問題はないだろう。君の力、存分に揮ってくれ」

 

「任せろ」

 

三杉は立ち上がり、選手達の方へ振り返る。

 

「さあ行こう。決して守ろうなんて考えるな。俺達のバスケはあくまでもオフェンスだ。攻めまくって、俺達の力を見せつけるぞ」

 

『はい(おう)!!!』

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

インターバル終了のブザーが鳴る。

 

花月の選手達は、コートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第2Qが始まり、花月ボールでスタートする。

 

ボールをフロントコートまで運ぶ空。目の前には赤司。

 

「…」

 

「…っ」

 

目の前の赤司に対し、空は一定の距離を取る。

 

「(こいつ(赤司)、試合開始当初とは別人みたいなプレッシャー放ちやがる。…っていうか、これ以上は踏み込まれたらボールを取られる気がして近づけねぇ)」

 

空は、無意識に、赤司との距離を空けていた。

 

 

「あいつ…、まさか、赤司のエンペラーアイの射程距離をすでに見切っているのか?」

 

距離を空ける空を見て、伊月がこのような感想を呟いた。

 

未来が見える赤司のエンペラーアイは、動き出したその瞬間を狙う撃つことが出来る。故に、近づけ過ぎてしまうと、簡単にボールを奪われてしまう。

 

 

目の前の赤司のプレッシャーに押され、どう攻めるか迷っていると…。

 

「空! 俺に持ってこい!」

 

インサイドで、堀田がボールを要求した。空は、赤司にボールを奪われないようにその場でジャンプをし、ボールを要求した堀田へパスを出した。

 

「行かせるか!」

 

「止める!」

 

堀田にボールが渡ると、根武谷と五河が背中に張り付くようにディフェンスをする。

 

 

――ズシッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

堀田はドリブルを始めると、根武谷と五河を背中で押し込んでいく。

 

「(うおっ! 何て力だ! 今までよりさらにパワーアップしやがった!)」

 

「(根武谷先輩と2人がかりでも止められないのか!?)」

 

その、堀田のあまりの力に、2人はジリジリ押されていく。

 

「…五河ぁっ! 気合入れろぉっ! 全身から力を絞り出せぃ!」

 

「はい!」

 

2人は、さらに腰を落とし、踏ん張る。すると…。

 

『おっ、止まったぞ!』

 

今までジリジリと押し込まれていたが、ピタリと侵入が止まった。

 

「(…ほう)」

 

2人がかりとは言え、自分を力で押しとどめたことに内心で感心する堀田。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで、堀田は高速のスピンターンで2人をかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

そのまま、ゴール下を沈めた。

 

「くそっ! あのパワーでこのスピードかよ…」

 

「身体能力が桁違いだ…」

 

堀田を止められず、みすみす失点をしてしまった根武谷は悔しがり、五河は茫然としている。

 

「ナイス」

 

「おう」

 

堀田と三杉はハイタッチをする。

 

「今のは仕方がない。切り替えろ」

 

赤司は2人を責めることはなく。リスタートを要求した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

五河がリスタートをし、赤司がボールを貰い、フロントコートまでボールを進めた。

 

「…来い!」

 

赤司に対して、目の前に立つのは空。

 

「…」

 

赤司は、特に仕掛けるでもなく、スリーポイントラインの外側に立っていた葉山にパスを出した。

 

「よーし、きたきた!」

 

ボールを貰った葉山は喜々として構える。大地がすかさずディフェンスに入る。その瞬間、洛山の選手達が片側へと動き、スペースを空けていく。

 

 

「アイソレーションか…」

 

火神がボソリと呟く。

 

 

「…」

 

「……良いね、お前、大人しそうな顔してるけど、気合がビンビン伝わってくるよ」

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

「っ!」

 

葉山がドリブルを始めると、耳をつんざく程の轟音が鳴り響く。目の前の大地も、顔を顰めた。

 

 

「出るぞ、葉山の雷轟のドリブル(ライトニングドリブル)が…!」

 

2度の試合で何度も体験した伊月が、葉山に注目する。

 

 

「3本……いや、4本から行っちゃうよ」

 

ボールを突く葉山の指に、さらに小指が足される。

 

「(…来る!)」

 

仕掛けてくると感じ取った大地は集中力を高める。

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

葉山は、高速で大地の横を抜けていく。

 

『抜いたか!?』

 

だが、大地はこれに遅れずに付いていく。

 

 

「おいおい、マジかよ!? あの宮地先輩ですら付いていけなかったあのドリブルに初見で対応しやがった!」

 

洛山との試合の折に近くで目の当たりにしたことがある高尾は、大地のディフェンス力の高さに驚愕する。

 

 

「やるね! 全中得点王は伊達じゃなさそうだね。だったらこれならどうよ!」

 

 

――ダムッ!!! ダムッ!!!

 

 

そこから葉山はさらに切り返していく。だが、大地はこれにも対応していく。

 

「(こいつ…! キセキの世代相手にやられてばかりのイメージしかないから印象薄かったけど、結構やるじゃんかよ!)」

 

自身の認識が低かったことに反省する葉山。

 

「……正直、4本でも十分だと思ってたけど、ちょっと舐めすぎてたわ。…良いよ、5本……全力で行くわ」

 

ここで、ドリブルをする葉山の指に、親指が足された。

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

さらにスピードアップする葉山のドリブル。

 

「(は……やい…!)」

 

何とか反応し、葉山を追いかけるが…。

 

「ハハッ! 甘いね!」

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

大地が動いた瞬間切り返し、大地の横を完全に抜けていった。

 

『抜いたーーーっ!!!』

 

そのままどんどん侵入していく葉山。ゴール下でボールを掴むと、そのままレイアップの態勢に入る。

 

「させるかい!」

 

1番近くにいた天野がマークを外し、ブロックに向かう。だが、葉山は1度ボールを下げ、天野のブロックをかわすように抜けていく。

 

「なんやて!?」

 

 

――バス!!!

 

 

リングを潜るように通過した葉山は、ダブルクラッチで得点を決めた。

 

「おーし、ナイス!」

 

根武谷が得点を決めた葉山を労うように背中をバチンと叩いた。

 

「だからいってぇーんだよ馬鹿力!」

 

そんな根武谷に怒りを露わにする葉山。

 

「…」

 

ディフェンスに戻る葉山を視線で追う大地。

 

「ドンマイ、大丈夫か?」

 

気落ちしていると考えた空が、大地の下に歩み寄る。

 

「…はい。葉山さんの噂に聞くドリブル。4本ならば恐らく問題ありません。…ですが、5本は、止めるのに少しかかりそうです」

 

「……少し…ね。なら安心した。あいつは大地に任せるわ。つうか、…俺も人の心配している余裕ないしな」

 

気落ちはなく、時間はかかっても止めると言い切った大地を見て、空は目の前の相手に集中することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…彼のドリブルは、いつ見ても驚かされるね」

 

葉山のライトニングドリブルを見た氷室がそのドリブル速度に驚愕する。

 

「ていうか、あいつ、ポコポコ点取られ過ぎでしょ。俺とやった時はこんなもんじゃなかった」

 

失点を重ねる堀田に、紫原は不満の声を上げる。

 

「…敦の名誉の為に言わせてもらうと、彼はブロックに行かないんじゃない。行けないんだ」

 

「…そうなの?」

 

「洛山は第1Q、セットオフェンスを仕掛けた。ボールと人が常に動き、ボールの所在を分からなくする。いくら、守備範囲が広くとも、ボールの位置が分からなければブロック出来ない」

 

「…」

 

「仮に、ボールの位置を特定出来ても、敵味方がインサイドに密集しているから、ブロックに行くことが出来ないシチュエーションもあった」

 

「…」

 

「そのオフェンスが効いているから、1ON1を仕掛けてきても、迂闊にヘルプに出てしまえば、たちまちパスを出されてしまう。だから、堀田健は容易にブロックに行かないんだ」

 

「…このオフェンスは恐らく、うち(陽泉)の……いや、敦対策に用意した戦術プランなんだろう」

 

「…ふーん」

 

紫原は、氷室の解説に納得する。

 

「(…とはいえ、ここまで何度も得点出来ているのは、ひとえに、赤司君の手によるものが大きい。…彼のゲームメイクぶりはもはや化け物染みているな…)」

 

赤司の抜群のゲームメイクに、氷室は冷や汗を流すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスが切り替わり、空が再びボール運びを始める。

 

「…」

 

空は、赤司を最大限警戒しながらゲームメイクをしていく。その時、視界に入ったのが、ボールを要求する大地の姿。

 

「…」

 

その目は、強くボールを要求する。

 

「分かってるって。借りは、しっかり返さないとな」

 

ビハインドパスで大地にパスを出す。

 

『うおー! 早速やり返す気か!?』

 

攻守が入れ替わり、今度は大地のオフェンス。観客も盛り上がる。

 

「抜けるもんなら抜いてみな」

 

葉山が腰を落とし、集中を高めて対応する。

 

「っ! この感じ…、青峰さんを相手にした感覚に似てますね…」

 

青峰に似た感覚……それは、野生の獣のそれに似た感覚のことだ。

 

「…ですが、それでも、行くだけです」

 

ボールを小刻みに動かし…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速。葉山の左手から仕掛ける。

 

「うおっ、はやっ!」

 

一瞬、大地の速さに面を食らうも、葉山は持ち前のスピードと野生でピタリと付いていく。

 

「…」

 

大地は並走する葉山を確認すると、バックロールターンで反転しながら葉山の反対側を狙う。

 

「…けどっ、そんなんじゃ抜かせないよ!」

 

葉山はこれにも遅れることなく付いていく。

 

『葉山すげー! 11番じゃ無理か!?』

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「えっ!?」

 

大地は、バックロールターンで逆側を付いた直後、バックステップで急バック。葉山は瞬間、大地の姿を見失う。

 

バックステップで距離を作った大地は、シュート態勢に入る。

 

「やばっ!」

 

葉山は慌ててブロックに向かうも、僅かに間に合わず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地のミドルシュートが決まる。

 

「ナイッシュ!」

 

空が大地の駆け寄り、ハイタッチをした。

 

「すっげー、あんなスピードでバックステップ出来んのかよ」

 

葉山は大地のバックステップの速さに感心する。

 

「感心してる場合じゃないわよ。…大丈夫?」

 

「大丈夫! 絶対止めてやるから」

 

実渕の激に、葉山が不敵な笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後、試合は、花月は大地、三杉、堀田が得点を重ね、洛山は葉山の1ON1を中心に、実渕、根武谷が、周りのフォローを受けながら得点を重ねていく。

 

パス中心の試合展開から1ON1中心の試合展開に切り替わった。

 

それでも、試合は均衡を保ち続けていた。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第2Q終了のブザーが鳴った。

 

 

花月 42

洛山 44

 

 

点差は僅か2点。

 

試合の半分が終わり、試合は、後半戦へと突入する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





もっと短くまとめたいのですが、どうしても長文になってしまうorz

投稿活動を始めた当初は文字数の少なさに悩んだのですが、今は長すぎる文字数に悩まされるとは…。もっと短い文章でそれでいて意味がわかるものを書く。これが才能なんでしょうね…(^-^;)

過去のキセキの世代との試合があまりにも長すぎたので、決勝ではありますが、ボリュームをしぼっていきたいと思います。

感想、アドバイスお待ちしております。

それではまた!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。