黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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第5Q~全中地域予選開幕~

 

 

「おっしゃぁっ! テンション上がってきたぁっ!」

 

感情の昂りが抑えられない空が絶叫する。

 

「クスッ…周りの方に迷惑がかかりますから、少し抑えてください」

 

空を窘める大地だが、心なしか表情は緩い。

 

 

 

 

 

 

――全国中学生総合体育大会…。

 

 

 

 

 

 

通称、『全中』と呼ばれる大会の地域予選大会の会場に空と大地、そして、星南中学のバスケ部員達がやってきていた。

 

空と大地にとって、中学生での初めて公式戦であり、最後の公式戦でもあるため、2人共興奮を抑えきれないでいた。

 

「大地ー、今日の試合って何時からだっけ?」

 

「やれやれ、そのくらいちゃんと覚えておいて下さい。10時からですよ」

 

空は前日に試合日程ついては聞いていたはずなのだが、すっかり頭から抜け落ちていた。

 

「あー、そういやそうだったな…、今日の相手って強いの?」

 

「去年は2回戦敗退している中学校だし、強力な新人が入学した話も聞かないからそこまででもないんじゃないか?」

 

「ふーん、なら、腹ごなしにちょうどよさそうだな」

 

「油断は禁物ですよ。試合では何が起こるかわからないんですから」

 

「そのとおりじゃ」

 

監督の龍川がガシィっと空の肩に腕を回した。

 

「ガキの分際で相手ぇ舐めくさるなんざ、ええ度胸しとるのぉ」

 

「ギ、ギブ…」

 

回した腕を締め上げ、アームロックをかけていく。空はその腕を叩いてタップする。

 

「ったく、試合まではそんなに時間はない。身体は入念に解しておけよ」

 

腕を放すと、龍川はそのまま会場に向かっていった。

 

「よし、会場入りしたらすぐに荷物を置いて、それから準備運動を始めよう!」

 

『おう(はい)!』

 

部員達は会場入りしていく。

 

「ゴホッ! ゴホッ! …ちょっ、ちょっと待って!」

 

咳き込みながら空もそれに続いて会場入りしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

準備運動の後、会場のコート内で試合前の練習をし、試合開始2分前の合図を聞いて自軍のベンチに戻り、ジャージを脱いでユニフォーム姿になる。

 

「よし! 行こうぜ!」

 

キャプテンの田仲の声に続いて赤いユニフォーム姿の星南中学のスターティングメンバーに選ばれた5人がコート上のセンターサークルへと向かっていく。

 

 

星南中学スターティングメンバー

 

4番C :田仲潤  187㎝

 

5番PG:神城空  177㎝

 

6番SF:綾瀬大地 179㎝

 

7番PF:駒込康平 181㎝

 

9番SG:森崎秀隆 171㎝

 

 

試合開始前に告げられたスターティングメンバー、これに空が少々反発した。空はプレースタイルもさることながら、攻撃意識がかなり強く、ミニバス時代もスコアラーとして鳴らしていた。そのため、PG起用に難色を示したのだが…。

 

「ええからワシの言うことに従わんかい!!!」

 

龍川は一喝して空を黙らせ、半ば無理やりPGとして空をコートに送った。

 

「始めます」

 

ついに試合が開始される。

 

ジャンパーには一番身長の高い田仲が入る。そして……!

 

 

 

 

 

ティップ・オフ!!!

 

 

 

 

 

ジャンパーが同時に飛ぶ。

 

 

 

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

 

 

 

身長で勝る田仲がボールを制す。

 

「ナイスだぜ!」

 

弾かれたボールを空が拾う。

 

「っしゃあ! 行くぜ!」

 

 

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

 

 

空がそこから一気にドリブルで相手ゴールへとボールを運んでいく。相手チームもすぐさまディフェンスへと向かうが空のスピードに全くついていけずにいる。

 

「先取点、いただきぃっ!」

 

そのままレイアップで点を決める。

 

「ナイス、神城!」

 

空と田仲がバチンとハイタッチ。

 

「は、はえぇ…」

 

試合開始わずか4秒。そのあまりの速さに相手チームは茫然としている。

 

試合は電光石火の得点により、一気に星南ペースで進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

空、大地を中心に、それ以外のメンバーが2人をフォローしながら試合は進んでいく。

 

相手チームが空と大地を止めることは皆無で、2人はガンガン得点を量産していく。

 

「ラストォッ!」

 

第4Q残り時間数秒、空が3Pを放つ。

 

「(やべっ! 汗で…)」

 

 

 

 

――ガン!!!

 

 

 

 

しかし、そのショットはリングに弾かれてしまう。

 

 

 

――ポン……。

 

 

 

外れたボールを大地がタップで押し込む。

 

ボールはリングをくぐり、星南に得点が加算される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同時に試合終了のブザーが鳴り響いた。

 

『ありがとうございました!』

 

両校が中央に整列してお互いに礼をしてコートから下がっていく。

 

114対28。トリプルスコア以上の点差を付けての快勝。星南中学は順調に2回戦に駒を進めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

両校がベンチに戻り、ベンチを引き上げるべく片付けを行っているのだが…。

 

「…」

 

「…」

 

ベンチの前で正座させれている空。竹刀を肩にかけ、足を組みながらベンチに座り、空を睨みつける龍川。

 

「の~、神城よ?」

 

「…はい」

 

「ワシは試合前にお前に何言うたかの~、言うてみぃ?」

 

龍川は下から見上げるようにして睨み付けながら空に尋ねる。

 

「…ターンオーバー等からの速攻を除き、1試合10点以上取ってはならない…」

 

試合前にポジションを発表されると同時に龍川が空に課した制約であった。これは、空にPGというポジションに慣れてもらう意味合いも含まれている。

 

「おいガキィ、ワレ、今日何点取ったんか言うてみぃ?」

 

「…38点です(ビクビク)」

 

空は怯えながら申し訳なさそうに呟いた。

 

総得点103点の内、空が取った得点38点、実にチーム2位の得点率だ。(この試合の得点率1位は大地の44点)

 

「喧嘩うっとんのかワレェェェェッ!!!!????」

 

「す、すいませぇぇぇぇ-ーーん!!!」

 

空は全力で土下座をした。龍川は竹刀を空の顎下に当て、強引に顔を上げさせた。

 

「ええか? 次はないで? 次ワシの言うことに逆らったら海にチンするからのぉ、そのつもりでいるんやなぁ」

 

 

 

※ 沈(チン)↓↓↓

 

 

 

「話しは終わりやぁ! お前らようやった! 引き上げるで!」

 

星南中学の面々は荷物をまとめ、ベンチを引き上げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後、星南中学の勢いは止まらず、次の試合、その次の試合と、空が起点となり、大地が得点を量産し、ダブルスコア以上の点差を付けての快進撃を繰り広げていた。

 

 

 

――ダム…ダム…ダム!!!

 

 

 

空がぺネトレイトでゴール下へと侵入していく。

 

「囲め!」

 

それに合わせて相手チームが3人がかりで空を取り囲んでくる。

 

「空! こっち――」

 

 

 

――パシィッ!!!

 

 

 

森崎がアウトサイドでパスを要求をしたのと同時にその手にボールが収まる。

 

「フリーだ! 打てるぞ!」

 

「えっ? あっ!」

 

森崎はパスを要求してからボールを貰うまでがあまりにも速かったため、一瞬茫然するが、すぐに我に返り、そのまま3Pを打つ。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

そのシュートはリングを潜った。

 

「ナイッシュ! ガンガン回していくから頼むぜ」

 

空は森崎の肩にポンと手を置いてディフェンスに戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

星南中学のベンチにて…。

 

「なあ、空先輩、今ノールックでパス出してたよな…」

 

「俺も見た。パスターゲットの方を全く見てなかった」

 

先程のプレー、空はぺネトレイトでゴール下に侵入し、囲まれる前にビハインドパスでアウトサイドにいる森崎にパスを捌いていた。森崎は、ゴール下に侵入し、囲まれる空がパスを出しやすい位置に移動したのであって、始めからそこにいたわけではない。

 

「空先輩って、この試合に限らず、ノールックパスがすごく多いんだよね。だから一度聞いたことがあるんだよ」

 

空の後輩の1人が、何故そんなにパスターゲットを見ずにパスを出せるのか尋ねたことがあった。

 

『う~ん、何というか…試合が始まっていい感じに集中力が増してくると、上から覗いてるみたいにコートが見えるようになるんだよ』

 

空は少し考えながらそう後輩に答えた。

 

「上から? …それってどういう――」

 

「そういう視野を持つ選手というのが稀におる」

 

龍川が竹刀を肩にかけながら言葉を挿んだ。

 

「バスケに限った話やないが、広い視野と高い空間把握能力を持ったスポーツ選手の中には、脳内で視点を変え、コート上をあらゆる角度で把握できる能力を持つ者がおる」

 

ベンチにいる選手達は龍川の話しに聞き入る。

 

「鷲の目(イーグルアイ)や鷹の目(ホークアイ)とか呼ばれ方はいろいろあるが、あのガキ(空)にはそういったもん(能力)を持っとるちゅうわけや」

 

「だから、監督は空先輩にPGを…」

 

「無論、それだけが理由やないけどのぉ」

 

龍川は腕を組みながら言う。

 

「空先輩やっぱりすげぇ…」

 

下級生達は説明を聞いて感嘆の声を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

この試合は88-49で星南が勝利した。

 

星南の快進撃は止まらず。強豪校でさえもその勢いを止めることができなかった。

 

星南はそのまま勝ち上がり、そして遂に、星南は全中地域予選の決勝戦まで辿り着いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 


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