投稿します!
投稿まで1ヶ月以上もかかってしまいました…(^-^;)
リアルの忙しさに加え、最近では、ハイスクールD×Dの編集作業に精を出していた為、ここまで空いてしまいました。
休みほしい…Orz
それではどうぞ!
第3Q、残り6分49秒…。
花月 36
桐皇 48
タイムアウトが終わり、桐皇ボールでゲームが再開される。
「…」
今吉がボールを受け取り、ゆっくりとボールを進めていく。
「(…焦りは禁物や。ゲームは生き物や。何をやっても上手くいかん時がある。こういう時、無理に攻めてもええことあらへん。…まだ、うちらがリードしとるんや、今は、流れがうちに来るまで点差を死守や)」
タイムアウトの折、呼吸を整えると共に頭も落ち着かせた今吉。三杉の活躍で狭まった視野がだいぶ戻ってきていた。
「(福山はんが入ったことでディフェンスに穴が出来よったが、逆に、攻めてが増えた。桜井はんも多少、休めたみたいやし…、堅実に行くで!)」
目の前でディフェンスをしているのは空。絶対に抜かせまいと今吉の前に立ち塞がる。
「(ええディフェンスや。…やけど、タイムアウトを挟んだことで集中が途切れとる。今なら、どうにでもなる!)」
――ダムッ!!!
ここで、今吉が仕掛ける。空の横をドライブで抜けようとする。
「甘ぇっ!」
対する空も、これに即座に反応し、今吉にピタリと付いていく。
「誠二、寄越せ!」
「こっちだ、今吉!」
青峰と福山が同時にボールを要求する。今吉の選択は…。
「青峰はん!」
ここでボールを掴み、パスのモーションに入る。
「こっち!」
空が今吉と青峰のパスコースを塞ぐ。
――ピッ!!!
今吉は、青峰へのパスを途中で止め、ビハインドパスに切り替える。
「っ!」
パスの先は、福山。
「ナイスパース!」
ボールを受け取る福山。
「行かせへんで!」
背中に張り付く天野。そこに…。
「福山はん!」
今、パスを出した今吉が、福山目掛けて走り、ボールを貰いにいく。
2人が交差し、天野が通り抜ける今吉を追いかける。だが…。
「!? しもた!」
今吉はボールを持っていなかった。ボールは、今吉には渡らず、福山が持ったまま。
「よっしゃ!」
交差すると同時に反転し、天野のマークを振り切った福山が、そのままドリブルで進んでいく。
「くっそ!」
思わず悪態を吐く松永。
天野が突破されてしまった為、ディフェンスは松永1人。対する桐皇は、ぐんぐん近づいてくる福山と松永マークしている若松の2人。つまりは、アウトナンバー。
飛び出せば若松にパスを出されてしまう為、ギリギリまで引き付けてシュートかパスに対応しようと考える松永。
ペイントエリア内まで侵入してきた福山は急停止。そのままジャンプショットを放つ。
「くっ!」
慌ててブロックに向かう松永だが、ブロックをされない為にクイックモーションで放った福山のシュートに触れることが出来ず…。
――ザシュッ!!!
ボールはキレイにリングを潜った。
「よっしゃぁぁぁっ!!!」
後半戦、ようやく初得点を取った桐皇。
「ええシュートでしたわ」
「お前も、いい囮っぷりだったぜ」
パチン! と、ハイタッチをする今吉と福山。
「けどまあ、次、止めんと点差は変わらへん。期待しとりませんが、1本頼んます」
「素直に頑張れと言え!」
軽く毒を吐く今吉に、福山が突っ込みを入れる。
「ちっ!」
自分で得点を取れなかった青峰は、舌打ちを打った。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「1本、取りましょう!」
攻守が入れ替わり、花月ボール。
ボールを進めるのは、空。
「…」
目の前には今吉。ディフェンスはマンツーマンなのだが、福山だけ、天野のマークを甘くし、空と三杉のパスコースに割り込める位置に陣取っている。
「…やっぱ、そこを塞いでくるよな…」
予感をしていた空は、特に動揺はせず、落ち着いてゲームメイクをする。
空は、大地にパスを出す。大地は、間髪入れず、ハイポストに立つ天野にパスを出す。
天野にボールが渡ると、先ほどのお株を奪うとばかりに天野に向けてダッシュ。
つい先ほどの桐皇のオフェンスと同じパターン。
ボールを渡すのか、それとも、渡さず、自分で仕掛けるのか…。
ボールは……空に渡される。
「ちぃっ! 行かせねぇっ!」
福山が、空を追いかける。
――ピッ!!!
空は、福山が動いたのを見計らい、パスを出す。
「っ!?」
福山の顔のスレスレをボールが通りすぎる。福山は、動き出した直後だったこともあり、反応出来なかった。
ボールは…。
『来たっ!!!』
三杉の手に収まる。
「いいね。そうでなきゃ面白くねぇ」
1ON1の形になり、青峰は笑みを浮かべる。三杉、トリプルスレッドの態勢で青峰と対峙する。
「…」
「…」
小刻みにフェイクを入れ、隙を窺う三杉。両腕を広げ、隙を潰す青峰。
その時、大地が桜井のマークを外し、ボールを貰いに行く。
それと同時に、大地にパスを出した。
「ちっ! チマチマパスばっか出しやがって…!」
第3Q最初の勝負以降、仕掛けてこない三杉に苛立ちを覚える青峰。パスに反応した青峰は、瞬時に三杉と大地のパスコースに割り込む。
「よし、カウン……なっ!?」
青峰のスティールが成功すると誰もが確信したが、ボールはカットされず…。
――ダムッ!!!
三杉は、ドライブで切り込んだ。
「!? …フェイクだ!」
氷室は、今、何が起こったかを理解した。
三杉のパスはフェイクであり、青峰はそれに反応してしまい、抜かれてしまう。
青峰を抜き去った三杉はグングン突き進み、ペイントエリア到達と同時にシュート態勢に入る。
「おらぁっ! 打たせっかぁっ!」
若松がヘルプにやってきて、ブロックに飛ぶ。
「馬鹿野郎! 飛ぶな!」
青峰から怒声が上がる。
「なっ!?」
その声で若松は気付く。三杉が、飛んでいないことに…。
ブロックに飛んだその横を抜け、ゴール下まで侵入すると、ボールを掴み、跳躍する。
「いっけぇっ!」
空が声を上げる。三杉は右手にボールを持ち、ダンクの態勢に入った。そこへ、黒い影が現れる。
「調子に乗ってんじゃねぞ、三杉ーーっ!!!」
青峰が、リングを阻むように現れた。
「っ! フェイクでスピードが緩んだその一瞬で追いついた!」
火神が目を見開く。
青峰のその手が、三杉の持つボールを叩くその直前…。
「っと」
三杉はボールを下げ、青峰のブロックをかわす。
「っ!?」
そのまま、青峰の横を抜け、リングを通り過ぎ、リングに背中を向けながらボールを放る。
――バス!!!
ボールはリングをキレイ潜り抜けた。
『うおーーっ! 絶妙のダブルクラッチ!』
「……っ!」
またもや三杉に抜かれ、点を決められてしまったことに、苛立つ青峰。
「今のプレー、タイミング的に、青峰がブロックに現れてから切り替えるのは不可能。青峰のブロックを予見していたのだろう」
赤司は冷静に分析する。
「青峰っちが、2度も…」
2人の対決を見守っていた黄瀬も、言葉を失いかけていた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「…」
攻守が入れ替わる。
今吉は、胸中に不安を感じながらゲームメイクを始める。
攻め方次第で、桐皇は、青峰以外からでも点が取れる。特に、若松のところならば、1ON1ならば、1番の狙いどころである。
だが、青峰以外の攻めでは、いつか限界が来る。
エース対決は、ゲームの流れ…ともあれば、ゲームの勝敗に直結する。負けっぱなしでは、そのツケが終盤の勝負どころでやってくる。
「(10点差…)」
点差を見て、今吉は判断する。
ここで、今吉はパスをする。ボールの先は、青峰。
残り時間と今の展開を考え、このままエース対決を避けて攻めても、攻め勝つことも凌ぎきることも不可能。やはり、勝つには、青峰が三杉から点を取ることが必須。
点差を犠牲にしてでも、青峰が三杉から点を取ること…否、取れるようになることを期待を込め、青峰にボールを…試合を託した。
――青峰が、三杉を倒すまでに成長することを信じて…。
そして、三杉と青峰の1ON1が始まる。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「ほう…、あの10番(今吉)、なかなか思い切ったことをする」
ベンチの堀田が、今吉の意図を理解し、称賛の言葉を贈る。
「青峰との1ON1…、三杉はいつまでも抑えられるのか?」
馬場が、心配そうな面持ちで2人の対決を見守っている。
「心配はいらん。『今』の青峰ならば、三杉が負けることはまずない」
馬場の危惧を、堀田が断言する。
「タイムアウトの時に三杉が言っていただろう?」
「確か、『青峰のバスケには致命的な欠陥がある』…でしたっけ?」
「あの青峰にどんな欠陥が…」
タイムアウト時の三杉の言葉の意味を考えるベンチメンバー達。
「堀田先輩は、青峰さんの欠陥の正体が分かってるんですか?」
隣に座っていた生嶋が尋ねた。
「ああ。まあな」
「それはいったい…」
コート上では、再び、三杉と青峰の1ON1が始まろうとしている。
「もっとも、弱点と呼べる程のものでもないのだがな」
堀田はコートに視線を向けたまま答えていく。
「青峰大輝のバスケは、選択肢が1つ少ない」
「? ……選択肢が、少ない?」
答えを聞いてもピンとこない馬場。
「青峰大輝がしているのは、ただの1ON1の延長でしかない。奴は『試合』をしていない」
淡々と説明を続けていく堀田だが、未だに、誰も答えに辿りつけていない。その時…。
――バチィィィッ!!!
コートでは、青峰が三杉に仕掛けるも、失敗。三杉にボールを奪われてしまう。
「っ!? …また止めた。俺には青峰のどこに欠陥があるのかさっぱり…」
「選択肢が少ない……、もしかして…」
花月ベンチ内で、生嶋だけが何かに気付く。
「生嶋、何か気付いたのか?」
「…この試合に限った話ではないのですが、青峰さんって、パスをしないんですよね」
「そう言われてみればそうだが…」
バスケにおいて、主に、ドリブル、シュート、パスを警戒しながらディフェンスを行う。
「……確かに、あいつがパスを出すところは見たことがないが…」
生嶋の言葉を聞いて、真崎は頷くが…。
「だが、それは欠陥と呼べる程のものなのか?」
納得は出来なかった。
確かに、青峰は試合でパスをほとんど出さない。1ON1ともなれば、全くと言ってもいいほどである。だが、過去に青峰と対戦した者で、同じキセキの世代や火神でさえも、止めきれていないという事実がある。
「あれだけの身体能力にアジリティー、それに、動きが読めないストリートのプレーが加われば、たとえ、パスがないと分かっていても、止めることは至難の業だろう。…だが、三杉を相手に、選択肢を狭めることは、命取りになる」
『…』
「裏を掻かれない限り、三杉を抜くことは不可能。パスがないという状況は、三杉に優位に働く。相手のプレーや心理を読むことに長ける三杉にな」
『…』
「青峰大輝がやっていることは、ただの1ON1。試合となれば、敵も味方もいる。ただの1ON1とは違い、選択肢はさらに少なくなる。そんな状況でパスという大きな選択肢をなくせば……答えはあれだ」
三杉にボールを奪われ、速攻に走り、レイアップを決め、再び点差が縮まる。
「俺は、様々な選手と戦ってきた。手強い奴も当然いた。…だが、三杉程、敵に回さなくてよかったと思える選手はいなかった」
『…(ゴクリ)』
堀田の言葉に、思わずゴクリと唾を飲む花月のベンチメンバー。
「青峰が自身の欠陥に気付くことが出来なければ、試合はもう決まったも同然だ」
試合は、さらに進んでいく。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
桐皇のオフェンス…。
まだ、桐皇がリードしているのにも関わらず、表情を暗い。
『…』
青峰が、ここまで抑えられることなど、未だかつてなかった。故に、この状況に対し、動揺を隠すことが出来ない。
今吉からオフェンスが始まり、ボールが青峰に渡る。
「…」
「…っ」
淡々とした表情でディフェンスをしている三杉に対し、青峰の表情は若干硬い。
ボールを持った青峰は、小刻みにフェイクを入れ、抜き去る隙を窺っているが、当の三杉は歯牙にもかけない。
青峰自身に、自分が止められる未来が見えてしまっているため、仕掛けることも出来ない。かと言って、パスに逃げることもプライドが許さない。
「…どうだ? 楽しんでいるか?」
攻めあぐねている青峰に、三杉がポツリと話しかける。
「…ちっ!」
そんな余裕ともとれる態度に、思わず舌打ちが出る青峰。
「俺と健が帰国するきっかけになったのは、君達、キセキの世代の試合映像がきっかけだった」
「?」
突然、話し出す三杉に、青峰は怪訝そうな表情をする。
「健は紫原敦に興味を持った。ま、同ポジションだからね。俺が興味を持ったのは、青峰大輝、君さ」
「あん?」
「キセキの世代の中で、君が1番センスを感じた。中学であのレベルなら、俺が帰国する頃には、俺と同等…いや、それ以上になってるかもしれない。そう、信じていた。…だが――」
三杉がスッと目を細くする。
「――君が、キセキの世代の中で1番、成長していなかった」
「…っ!?」
「確かに、能力アップはしていた。だが、それは、成長期による能力アップに過ぎない。それ以外は、全く成長を感じなかった。まるで、成長することを拒否したみたいに…ね」
「…」
「第3Q最初に俺が君に向けて言った言葉。あれは、君を挑発する意味合いだったが、あの言葉自体は嘘ではない。君のバスケには、致命的な欠陥がある」
「…っ」
その言葉を聞き、青峰の表情が曇る。
「いや、欠陥と言うのは少々大袈裟かな? 正確には、君は、その才能を生かし切れていない」
「んだと?」
思わず言い返す青峰。
「それに気付くことが出来なければ、君は、キセキの世代の中でただ1人、その場に取り残されることになる」
「…うるせえ」
「昨年の敗北。君はそこから何も感じることはなかったのか? 何も学ばなかったのか? …これ以上、俺を失望させないでほしいな」
「うるせえって言ってんだよ!!!」
――ダムッ!!!
激昂した青峰が仕掛ける。当然、三杉もそれに付いていく。その直後、青峰が立ち止まると、背中の後ろでドリブルを始める。
「…むっ?」
その後、背中から手首のスナップを利かせ、ボールを三杉の後方に放る。それと同時に、青峰が走り、三杉の横を抜ける。
自らが投げた拾おうとする。だが…。
――バチィッ!!!
「…っ!?」
青峰がボールをキャッチしようとした瞬間、三杉が手を後方に伸ばし、ボールを逆に奪った。
「速攻!」
三杉のその声を合図に、花月が速攻を開始する。
「くそがっ!」
カウンターを食らい、桐皇は急いでディフェンスに戻る。いち早く、青峰と若松と福山がディフェンスに戻った。
「っと」
戻りの速い桐皇を前に、三杉がスリーポイントライン手前で止まり、1度、空にボールを渡した。その間に、今吉、桜井もディフェンスに戻った。
「っしゃっ! 行くぜ!」
ボールを貰った空は、喜々としてゲームメイクを始める。
「行かせへんで」
空の前に、今吉が立ちはだかる。
これ以上、点差を縮められるわけにはいかない今吉は、決死の表情でディフェンスに臨む。
「…うおっ!」
フェイスガード気味のタイトなディフェンスを仕掛ける今吉の迫力に空が僅かに押される。
「ちっ!」
思わず、頭上に構えていたボールをハイポストに立っていた天野にパスを出す。
――バチィィィッ!!!
だが、そのパスは、若松にスティールされてしまう。
「やっば! 迂闊過ぎた」
今吉のフェイスガードはこの為の伏線。若松も、これを見越して松永のマークを外していた。
「おらぁっ! 走れぇっ!」
ボールを奪った若松は、前方に放り投げる。
「もう走ってますよ!」
すでにフロントコートまで走っていた福山がボールを掴み、進軍。そのままシュート態勢に入る。
「させません!」
唯一、追いついた、大地がブロックに飛ぶ。
「甘ぇーよ1年坊!」
1度ボールを下げ、空中で大地のブロックをかわし…。
――バス!!!
ダブルクラッチでボールをリングに沈める。
「よーし!」
点を決めた福山がガッツポーズで喜びを露わにする。
「くっ…!」
ブロック出来なかった大地は悔しさを露わにしている。
「ドンマイ。今のは仕方ない。切り替えろ」
三杉が大地の肩をポンっと叩き、労った。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
試合は、花月ペースで進んでいった。
花月は、三杉が起点となり、適所にパスを捌き、得点をアシストするか、自らが切り込んで得点を重ねる。
対して桐皇は、青峰が三杉に抑えられ、完全に沈黙。
今吉が随所にパスを捌いて何とか点を取ってはいるが、前半戦の勢いは完全に衰えている。
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
第3Q終了のブザーが鳴る。
第3Q終了…。
花月 54
桐皇 60
20点近くあった点差は、6点にまで縮まっていた。
両チーム、ベンチに下がっていく。
花月側は、点差を一気に詰め、流れに乗っている為、表情は明るい。
それとは対照的に、桐皇側は、リードをスリー2本分まで詰められ、後半戦開始前とは違い、表情は暗い。
「くそがっ!」
苛立ちを隠せず、荒々しい足取りでベンチに座る青峰。
前半、32得点を挙げた青峰だが、第3Q、得点は0。1Q、得点が出来なかったことなど、青峰に経験はない。
『…』
エース対決の結果は、文字通り、試合の流れに直結する。青峰の沈黙は、チームに大いに影響していた。
「…ふむ」
原澤が前髪をいじりながら第4Qの戦略を練っている。一見、平静を装っているが、内心は穏やかではない。
現状、桐皇はジリ貧もいいところである。点差こそ、リードしているが、今や、点差など、あってないようなもの。
この状況を打破するには、三杉をどうにかしなければならない。桐皇で、それが出来るのは…。
「…っ!」
チームの視線が青峰に集まる。
「そう言えば、第3Qの途中、三杉と何か話してたよな? 確か、欠陥がどうとか…」
「…」
新村の指摘に、青峰が沈黙する。
「もしかして、青峰が抑えられてるのは、その欠陥…弱点があるからなんじゃないのか?」
「あぁ? うるせえよ。俺に弱点なんかねぇよ」
青峰は、新村の指摘を一蹴する。
「現に抑えられてるじゃねぇかよ! 真剣に考えろよ。それさえ分かりゃ、第4Q、逃げ切ることだって――」
「――ハッ! 逃げ切るだぁ? 馬鹿かてめぇ。何で俺がそんな惨めなことしなきゃなんねぇんだよ。…三杉は俺が絶対倒す。やっと、俺を楽しませてくれる相手が現れたんだ。邪魔すんじゃねぇ」
声を荒げる若松に、青峰は鼻で笑う。
「てんめぇ…!」
我慢の限界を迎えた若松が青峰に掴みかかろうとする。
「皆さん、聞いてください」
原澤が皆の注目を集める。
「第4Q、うちは、青峰君中心に攻めていきます」
『っ!?』
「か、監督、それは…!」
原澤の提案に、若松が異を唱えようとする。
「桐皇のエースは青峰君です。それは、皆、分かっていることでしょう?」
『…』
「この試合、青峰君に任せます…いや、託します。いいですね」
「…ああ、任せろよ。必ずあいつを倒してやる」
原澤の言葉に、青峰は、決意の表情で頷くのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
花月ベンチ…。
「よーし! いい調子だ!」
点差を大きく詰め、喜びを露わにする空。
三杉の活躍により、点差を6点にまでしたことにより、ベンチのムードは明るい。
「静かにしろ。まだ試合は終わっていない。しかもこっちは負けてんだ。喜ぶのまだ早い」
緩みかかっていた選手達を、上杉が引き締める。
「とりあえず、順調には点差を詰めている。だが、ここからが正念場だ。全員、足を止めるなよ」
『はい!』
「とりあえず、松永、下がれ。生嶋、入れ」
「えっ?」
上杉の指示に、交代を命じられた松永が目を丸くする。
「待ってください! 俺はまだ――」
「交代だ。まだ自覚出来ていないだけで、お前はもう限界に近い」
「そんなことは…」
と、立ち上がろうとしたが、松永は足が縺れてベンチに座り込んでしまう。
「ゴール下でのポジション争いは、パワーがない方が倍疲れる。集中が切れた今、これ以上は無理だ。分かったな」
「……はい」
渋々ではあるが、松永は承諾する。
桐皇の若松相手に、決して、対等にやり合えた訳ではなく、結局、力の差を見せつけられてベンチに下がってしまう自分に悔しさが拭えない松永であった。
「生嶋は2番(シューティングガード)に。空いた5番(センター)には天野が入れ」
「はい」
「任しとき!」
「三杉は4番(パワーフォワード)だ。青峰を抑え込め」
「分かりました」
ニヤリと笑みを浮かべる三杉。
「特別な指示はない。変更点があれば、三杉に指示を出させる。この調子で最後まで攻め抜け!」
『はい!!!』
「最後の10分だ。行って来い!」
花月選手達が、コートへと向かっていった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
松永OUT 生嶋IN
第4Qが始まる。
花月のオフェンス…。
「1本! 行くぞ!」
空がゲームメイクを始める。
速い展開を好みとする空だが、インターバル直後のオフェンスの為、流れを維持すべく、慎重にボールを進める。
花月は、パスをしながらチャンスを窺っている。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「監督」
「何でしょう?」
桐皇ベンチ、桃井が原澤に話しかける。
「インターバルの時に触れた、青峰君の欠陥…弱点についてですが…」
「ええ、もちろん気付いています」
「だったら――」
「――ですが、これは、答えそのものに意味はありません。青峰君自身が答えに気付き、たどり着くことが重要なのですよ」
「…」
「心配する気持ちは理解します。青峰君では、気付いたとしても、受け入れることは出来ないでしょう。……昨年の彼であれば」
「えっ?」
「昨年の敗北は、彼にとって良い経験なったはずです。その経験が、彼を答えに導き、1歩、前に進むためきっかけを与えてくれるはずです」
「そう……ですよね」
「信じてあげてください。青峰君を。彼はきっと、三杉君を超えてくれるはずです」
そう桃井を励まし、試合を見守った。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
試合の流れは、インターバルを挟んでも変わることはなかった。
依然として、青峰は三杉に抑えられ、三杉を中心に花月は得点を重ねていく。
対して、桐皇はエースである青峰が沈黙している為、決定打がなく。単発でしか得点が出来ない。そして…。
「っ!」
空のパスから生嶋へ。スリーポイントラインの外側でボールを貰った生嶋はすぐさまシュートを放つ。
マークする桜井がブロックに飛ぶが、生嶋得意の斜めに飛び、かつ、上体を傾けた変則打ちでブロックをかわされ…。
――ザシュッ!!!
ボールは、リングをキレイに潜った。
『ついに逆転だぁぁぁーーーっ!!!』
第4Q、開始3分が経過したところで、花月が遂に逆転する。
第4Q、残り6分44秒。
花月 66
桐皇 64
「くそがっ!」
主将である若松が、桐皇の中の誰よりも悔しさを露わにする。
「っ!」
青峰も、悔しさこそ表に出さないが、きつく拳を握り、歯を食いしばった。
桐皇のオフェンス…。
「…っ」
ゲームメイクをする今吉。逆転を許してしまった為、平静を装うとするものの、その表情は暗い。
「っしゃっ! 抑えてやるぜ!」
空が、フェイスガードで今吉をマークする。
「(…なんやねん、こいつ! あれだけ動き回っとるのに、なんでまだこないな動きが出来んねん!)」
一向にスピードとキレが落ちない空に、驚愕を超えて恐怖を覚え始める。
「(…あかん! これ以上、ボールをキープできへん!)」
空のプレッシャーに押され、たまらずパスを出す。ボールの行先は…。
『来た! エース対決!』
青峰にボールが渡る。ディフェンスをするのはもちろん三杉。
「……ちっ!」
ボールを保持した青峰だが、思わず舌打ちが出る。三杉のディフェンスからは、隙が一切見当たらず、抜けるイメージが沸かないからだ。
小刻みにフェイクは入れてはいるものの、三杉は一切反応しない。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「出るぞ。三杉の真骨頂が」
「えっ?」
ボールが三杉に渡ると、堀田が腕を組みながら2人の対決を見守っている。
「俺が三杉を敵に回したくないと言ったのは、単に、身体能力やテクニックが優れているからではない」
『…』
「単純な能力なら、キセキの世代や誠凛の火神の方が優れていると言えるだろう。三杉の恐ろしさは、誰よりも自分を知り、敵を知り。心を知り、人を知り、バスケを知っていることだ」
『…』
「三杉は、キセキの世代のようなオンリーワンの才能を有している訳ではない。赤司征十郎のような特殊な眼を持っている訳でもない、緑間真太郎のように、どこからでもシュートが打てる訳でもない、黄瀬涼太のように、見たものを即座に真似るセンスがあるわけでもない、紫原敦のような規格外のパワーと反射神経を有している訳でもない、青峰大輝のようなアジリティーを有している訳でもない、火神大我のような、驚異的なジャンプ力と滞空力を持っている訳でもない。…だが、三杉の力は、それらを霞ませる」
『…(ゴクリ)』
話を聞く花月の選手達は、思わず唾を飲む。
「第3Q開始時、三杉には、青峰が『どう』動くかが予測出来ていた。そこから青峰と幾度となく激突し、データをより正確なものに修正していった。第4Q半ば。もはや三杉には――」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
ボールを保持し、抜き去る隙を窺う青峰。
「(もっとだ。もっと速く…もっと速く動け! こいつが反応出来ない程速く…!)」
もはや、三杉を出し抜くことは不可能と判断した青峰は、とにかく『速さ』を意識する。たとえ読まれても、反応出来なければ一緒。
「(…行けっ!)」
青峰が、最小限の動作、最大限の加速を意識したドライブを仕掛ける――。
――バチィィィッ!!!
『!?』
その瞬間、2人の勝負を見守る者達が目の当たりにしたものは、青峰が動き出したその瞬間、三杉が青峰の持つボールをカットした光景だった。
「っ!?」
とうの青峰は、動き出した瞬間にボールを失い、目を見開く。
ボールをカットした三杉は、そのままボールを取り、速攻をかける。
「させっか、ボケッ!」
「行かせるか!」
スリーポイントライン少し超えてところで若松と福山が三杉に追いつき、道を阻んだ。
残り時間と流れを考えれば、ここでの失点は致命的。何としても失点を防ぎたい2人の裂帛の意思を持ってディフェンスに臨んでいる。
「いい気迫だ。確固たる意志を感じられる。…だが、ここは決めておきたい。決めさせてもらうよ」
三杉は、左右へ切り返しを始める。
「……っ」
若松と福山の体重が片足に乗った瞬間…。
――ダムッ!!!
そこで切り返す。
「なっ!?」
「がぁっ!」
2人はバランスを崩し、その場で尻餅を付いてしまった…。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「アンクルブレイク! 今、狙って起こしたぞ!」
「その前、青峰君が動き出した瞬間にカットした…。まさか、彼には――」
「――いや、違う」
火神と氷室が一連の三杉のプレーを見て、ある仮説を立てるが、それを赤司が否定する。
「彼には、俺のような特殊な眼は持っていない。それは間違いない」
「だったら、今のは?」
「最後のアンクルブレイクは、黄瀬が俺の眼をコピーしたやり方と同じことをしたのだろう。その前のカットは恐らく、青峰がいつ動くかを読み切ったんだろう」
「読み切った!? そんなの、次に何するか読むのとは訳が違うぞ…」
赤司の推理に、火神が冷や汗を流す。
「間違いない。特殊な眼を持たず、動き出した瞬間を狙える方法があるとするなら、それしかない」
赤司は、断言する。
「青峰は、恐ろしい選手を相手にしている。…自惚れたつもりはなかったが、キセキの世代と呼ばれる逸材をここまであしらえる選手が、同じ日本人でいるとはね…」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
若松と福山が尻餅を付き、視界を阻む者がいなくなる。
そこでボールを掴み、悠々とシュート態勢に入る。
だがそこに、そのシュートを阻む黒い影が現れる。
『青峰!』
三杉の前方に回り込んだ青峰が、ブロックに飛んだ。
――青峰をかわすのは一筋縄ではいかない…。
その時、誰もがそう思った…。
「まさかとは言わないよ。来ると思っていたよ」
「なっ!?」
ここで、青峰を含めた、全ての者が気付く。三杉が飛んでいないことに…。
『フェイク!?』
三杉は飛んではいなかった。青峰のブロックを読み切った三杉は、フェイクをかけた。
「せっかく来てくれたんだ。ついでにもらっていくよ」
――ドン!!!
三杉は、ブロックに飛んだ青峰にぶつかりながらシュートを放つ。
『ピピーーーーーーーーー!!!』
審判が笛を吹く。
――ザシュッ!!!
ボールはキレイにリングを潜った。
「ディフェンス、プッシング、黒5番! バスケットカウント、ワンスロー!」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!!!!!』
ファールを貰いながらシュートを決め、バスカンをもぎ取った三杉。
『――三杉には、青峰が『いつ』動くまで読めている』
堀田が静かに呟いた。
三杉は静かに、拳を握ったのだった……。
続く
投稿ペースを早く戻したい…。
休みがない上、唯一の休みに予定がてんこ盛り。……しんどいッス…( ;∀;)
まぁ、地道に書き上げて投稿を続けていきます。
感想、アドバイスお待ちしています。
それではまた!