黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

お、お久しぶりです…(^-^;)

少しずつ書き溜め、ようやく書き終えられたので投稿致します。

それではどうぞ!


第47Q~欠陥~

 

 

 

 

第3Q、残り9分31秒…。

 

花月 31

桐皇 48

 

 

後半戦最初の桐皇の攻撃を止め、三杉が青峰を抜いて得点を決めた。

 

キセキの世代のエース、青峰大輝を棒立ちのまま抜き去り、観客からは、歓声が響き渡った。

 

「…っ」

 

全身全霊でディフェンスに臨んだにも関わらず、止めることはおろか反応も出来なかったことに、青峰は悔しさを露わにし、三杉を睨みつける。

 

得点を決めた三杉は、ディフェンスへと戻っていく。

 

「――」

 

「あぁっ!?」

 

青峰とのすれ違い様、三杉が何かを囁くと、これを聞いた青峰が激昂する。

 

「青峰、どうかしたか?」

 

声を荒げる青峰に、若松が声を掛ける。

 

「…何でもねぇよ。つうか、ブロックされてんじゃねぇよ」

 

「んだと…てめぇもあっさりぶち抜かれてんじゃねぇか…!」

 

毒を吐いた青峰に額に血管を浮かべる若松。

 

「どうどう、いつものことやないですか。心広く持ちましょうや」

 

そんな若松を、今吉が抑える。

 

「(あの野郎…、上等じゃねぇか…!)」

 

怒りを露わにする若松を無視し、三杉に視線を戻す。三杉の姿を捉え、より一層、闘争心を燃やすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あの青峰が棒立ちで…、今のドライブ、スピード、キレ共に青峰並み…いや、キレはそれ以上だった」

 

先のプレーを見ていた火神は、今、目の前で起こった事実を受け止めることが出来ていなかった。

 

「あいつには、青峰と同等のアジリティーまで備わってやがるのか…!」

 

「…少なくとも、加速力だけは、青峰君に匹敵することは間違いないな」

 

冷や汗を流しながら呟く氷室。

 

「彼の身体は、とても効率よく筋肉が付けられている」

 

赤司が、ここで口を開く。

 

「先ほど、第2Q終了後のインターバルの際、僅かに見た程度だが、彼は一見、細身に見えるが、その実、実に効率的だ」

 

「効率的な筋肉の付け方?」

 

「まず、全身の筋肉を無駄ない。細身に見えるその身体は、筋肉を極限にまで絞り込んだ結果なのだろう」

 

『…』

 

「もう1つ。彼は、身体の筋肉の使い方を良く理解している。筋肉をどのように使えば、より、大きな力を発揮することが出来るのか。これを正しく理解しているからこそ、筋肉を無駄なく、かつ、効率的に使うことが可能となる。それが、青峰と遜色ないスピードを披露出来た答えだ」

 

「…なんていうか、正邦が使う、古武術みたいだな」

 

一連の説明を聞いた火神は、予選で戦った、正邦を思い出した。

 

「似たようなものだ。恐らく、古武術だけでなく、それ以外のものも取り入れていることも間違いないだろう」

 

「…赤司君の説明のおかげで、三杉さんが、青峰君と同等のスピードを持っていることは分かりました。ですが、それだけで、青峰君がああもあっさり抜かれてしまうとは思えません」

 

青峰は、ディフェンスも一級品。ただ速いだけでは不可能。黒子は、まだ何かあると考えている。

 

「…それについては、俺に、1つ考えられることがある。…赤司君、彼は、ドライブで切り込む前に、シュートフェイクを1つ入れたと思うのだけれど、どうだろうか?」

 

「そのとおりだと思います。俺も、『この目』で見ましたので」

 

「そうか、なら、俺の仮説は間違いないな」

 

赤司に確認を入れ、考えが合うと、氷室は、確信に至った。

 

「彼は、ドライブの前にシュートフェイクを入れた。それに青峰君がかかり、その隙に、先ほどのドライブ。…これが、答えだ」

 

「シュートフェイクにかかったことにより、視線が上へ向く。それと同時にドライブを仕掛ければ、目の前の相手は、黒子君のバニシング・ドライブを受けたのと同じ感覚を陥るだろう」

 

「っ!? マジかよ…」

 

「…」

 

氷室の説明と赤司の補足を聞くと、火神は驚愕し、黒子は沈黙を保った。

 

昨年、自身の限界を超え、更なる進化を遂げるため、苦心して完成させた、黒子テツヤのバニシング・ドライブ。

 

火神の協力を得て、初めて完成するバニシング・ドライブとは違い、三杉は、1人でそれを再現してしまった。

 

その事実が、黒子と火神を驚愕させた。

 

「ついに、三杉誠也が動き出した。この試合…分からないぞ」

 

ボソリと、予言のように氷室が言ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスは切り替わり、桐皇ボール。

 

「ほな、1本、返しましょか」

 

ポイントガードである今吉が、指を1本上げ、ゲームメイクを始める。

 

表情こそ先ほどまでと変わっていない、しかし、内心では動揺していた。

 

「(青峰はんをあっさりちぎるとか、ありえへんわ! 何やねん、あの人は!?)」

 

昨年の主将であった今吉翔一同様、青峰には絶大な信頼を置く今吉誠二。その青峰があのような形で抜かれたことに驚愕した。

 

「(点差はまだ充分あるのにこの空気。あかんわ。取り返して流れを戻さなあかん)」

 

第3Q早々の、エース対決からの失点。会場及び、試合の流れに変化をもたらすには充分であった。

 

バスケは、たとえ、大きな点差が付いても、試合の流れと展開次第ではいくらでもひっくり返すことが出来るスポーツ。故に、この流れをもとに戻したいと今吉は考えた。

 

タイムアウトを申請して試合を止めれば花月に傾きかけている流れを切れるのだが、インターバル直後のこの時間帯では使いづらい。そのため、コート上の選手達の手によって、流れを戻さなければならない。

 

「…来いよ」

 

今吉の前に立ち塞がるのは、空。決死の表情でディフェンスをしている。

 

「(…ここに来て、10番(空)の集中力が増してきおった。ええディフェンスしよる。今の1発で目が覚めたんか…、それとも、単にスロースターターなだけなんか…)」

 

どちらにせよ、今吉の前に、強敵がいることには違いない。それをどうにか出来なければ、流れはもとには戻らない。

 

フロントコートにまでボールは進んでいるが、今吉は、一向にどこから攻めるか苦慮している。

 

「よこせ!」

 

青峰が、ボールを要求する。

 

「(…青峰はんが空いとる。普段なら、迷わずそこに出すんやが…)」

 

ここで、青峰が攻撃に失敗すれば、流れは花月に傾くことは必至。この1本を確実に取りたい今吉は、信頼はあれど、成功確率未知数な青峰より、実績のある、若松で攻めた方が賢明とも考える。

 

「誠二! うだうだ考えてねぇで、黙って俺によこせ!」

 

パスを出し渋る今吉に怒りを覚えながら再度、ボールを要求する青峰。

 

「(……せやな、うちのエースは青峰はんなんや。迷うことはあらへん、最強は、青峰はんなんや!)」

 

意を決した今吉は、青峰にボールを渡す。

 

『来た! エース対決だ!』

 

攻守を入れ替えてのエース対決に、観客は沸き上がる。

 

「…」

 

「…」

 

睨み合う両者…。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

青峰がゆっくりとドリブルを始める。そこから徐々にスピードを上げていく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

後方、股下にボールを通しながらリズムとスピードを上げ、そこから仕掛ける。

 

三杉も、これに遅れず付いていく。

 

ここで青峰が、ボールを後方に弾ませる。そのボールを回転しながら掴み直し、再度、反対側から仕掛ける。

 

 

「出た…! 青峰の、変則のチェンジオブペース!」

 

火神が食い入るように注目する。

 

 

青峰のスピードがどんどん上がっていく。型にはまらない、ストリートのバスケ。そこに、青峰のアジリティーが加わり、その動きはさらに読みづらく、捉えらないものになっていく。

 

ひとしきり、変則のドリブルで翻弄した後、一気に加速し、三杉の横を抜ける。

 

『抜いたーっ!!!』

 

三杉の横を抜けると、青峰はボールを掴み、跳躍する。

 

「ちっ!」

 

「させんで!」

 

そこに、松永と天野がヘルプに現れ、ブロックに向かう。

 

それよりも速く、青峰はボールを右手に持ち替え、リングに向かってボールを投げつけた。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

ボールが手から投げられるその瞬間、ボールがその手から弾き飛ばされる。

 

『三杉だぁぁっ!!!』

 

青峰の手からボールを弾き飛ばした者の正体は三杉。

 

「させないよ、キセキの世代のエース君」

 

ルーズボールを大地が拾い、空へと渡す。

 

「速攻!」

 

空がそのままフロントコートにボールを進めていく。

 

「行かせへんで!」

 

「調子にのんな、1年坊!」

 

今吉、若松の戻りが速く、花月の速攻を阻止する。

 

「数的不利だな…」

 

強気で攻撃意識が高い空だが、点差のこともあり、無理な攻めを断念した。

 

やがて、桐皇がディフェンスに戻り、花月の選手のディフェンスに付く。

 

「さて、どうするか…」

 

どう攻めるか、考えを巡らせる空。

 

「…いや、考えるまでもないよな」

 

空がパスを出す。そのボールの先は当然…。

 

「次は抜かせねぇ」

 

三杉にボールが渡る。

 

先ほどの勝負は三杉に軍配が上がった。2人の勝負の、言うなれば2ラウンド目が始まる。

 

『…(ゴクリ)』

 

青峰は、両手をだらりと下げ、集中力と野生を最大限にする。その気迫は、同じコートに立つ選手達にも伝わる。

 

右サイドに展開する三杉と青峰。それ以外の者は反対サイドに展開し、アイソレーションの形を作る。

 

三杉は、いくつかボールを持ちながらフェイクを入れ、仕掛ける。

 

「行かせ……っ!?」

 

ドライブに対応しようとした青峰だが、ここで違和感に気付く。

 

「(違ぇ、これはフェイクだ!)」

 

青峰の読み通り、三杉はドライブをしておらず、シュート態勢に入っていた。

 

「ちっ、打たせっかよ!」

 

すぐさま反応した青峰が、驚異のアジリティーでブロックに飛び、三杉のシュートコースを塞いだ。

 

『うおぉぉっ! 青峰速ぇーっ!』

 

 

「青峰の野生とアジリティーが三杉を上回った!」

 

ブロックを確信する火神。

 

 

 

――ピッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

『なっ!?』

 

三杉は、シュートを中断すると、ブロックに飛んだ青峰の脇の下からボールを通し、パスに切り替えた。

 

ボールは、針の穴を通すかのように、ゴール下の若松の後方にポジション取りしていた松永に渡った。

 

「んな!?」

 

全く反応出来なかった若松は驚きの声を上げる。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを受け取った松永は、落ち着いてゴール下を決めた。

 

 

『何だ、今のパス!?』

 

『密集地帯を通しやがった!』

 

 

ゴール下の松永までキレイにボールを通したことに、観客席から驚嘆の声が上がる。

 

「ナイッシュ、松永」

 

「いえ、三杉先輩のパスのおかげです」

 

点を決めた松永を三杉が労う。

 

「よくあんな狭いところに通せましたね?」

 

芸術的なパスに、空が冷や汗を流す。

 

「密集地帯はボールを通しにくい…と、考えがちだが、逆に死角となる箇所が増える。各選手のポジションと視野と目線と死角。これを理解していれば、そう難しい芸当ではない」

 

コート上で、選手達が密集すると、ボールが通りにくくなるかわりに視界に味方、敵選手が常に近くにいる為、見えにくいところ、死角が出来る。三杉は、コート上の選手達がどこにポジション取りをしているか、そのポジションからの死角がどこに出来るかを割り出し、パスを通した。

 

「広い視野と独特の視野を持つ空なら、そのうち出来るようになるさ」

 

「…そうなりたいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスが切り替わり、桐皇ボール。

 

「(…あかんで、恐れてたことが起こってもうた)」

 

エースからの失点、及び、エースが止められるという事実が、今吉及び、桐皇選手達の気持ちに影を差す。

 

第3Qが始まってからの連続失点。今は何よりも、得点を上げて流れを保ちたい。

 

得点を上げるため、何より、青峰の得点力をより生かす為、外からの得点が欲しいのが現状。そのため、今日、当たりがない桜井に外から決め、ディフェンスエリアを広げてほしいところなのだが…。

 

「ハァ…ハァ…」

 

当の桜井は、大地のマークを振り切れず、ボールすら触れない。何より、呼吸が乱れており、動きが重い。

 

「(まだ第3Q始まったばかりやで? 桜井はんはスタミナのない選手やない。もうガス欠起こしたとでも言うんか?)」

 

桜井は、傍から見ても分かる程に動きに精彩を欠いている。スタミナ切れは明白である。

 

 

「これが、前半戦、三杉が青峰ではなく、桜井に付いた理由の1つだ」

 

ベンチの堀田が口を開く。

 

「三杉は、桜井のマークに付き、とにかく体力を使わせるディフェンスをした。完璧にマークするのではなく、わざと隙を作り、ボールを受け取る為に走らせ、ボールを受け取れないギリギリでパスコースを防ぐことを繰り返して、な」

 

オフェンスの際、選手は当然、ボールを受け取る為にマークを振り切ろうとする。

 

三杉は、桜井をマークする際、ボールが受け取れないよう完全にシャットアウトするのではなく、わざと隙を作ってマークを振り切らせる動きをさせた。

 

その後、パスが出来ないギリギリでパスコースを塞ぎ、再びマークをする。これをひたすら繰り返した。

 

結果、桜井は何度も余分に動きまわされ、必要以上にスタミナを浪費させられてしまった。

 

「スタミナ切れを起こしてしまえば、味方のフォローがない限り、マークは振り切れない。綾瀬が付いてしまえば、もはや何も出来なくなるだろう」

 

桜井が無効化するということは、桐皇に外がなくなる。外がなくなれば、ディフェンスを外に広げることが出来なくなる。

 

「これで桐皇は、青峰に1人に頼らざるを得なくなる。ディフェンスを広げることが出来ないこの状況。しかも、マークは三杉。…ふっ、面白くなってきたな」

 

堀田は満足気な笑みを浮かべ、試合に注目するのだった。

 

 

「さて、どないしようかのう…」

 

限りなく平静を装いながらゲームメイクをする今吉。

 

危険を察知する嗅覚に長け、リスクが少なく、確率が高い選択肢を選ぶ傾向がある今吉。現状、青峰に頼りたいところであるのだが…。

 

「(向こうもそれは百も承知や。あの三杉はんには、青峰はんを止めるだけの絶対的の自信があるんやろな。……それでも、こっちの取る選択肢はこれしかないんや!)」

 

今吉は、青峰にボールを渡した。

 

ボールを受け取った青峰。2人の勝負が再び始まる。

 

「…次はぶち抜いてやる」

 

目をギラリとさせ、三杉を睨みつける。

 

そして、小刻みにフェイクを入れ、三杉を抜く隙を窺う。だが…。

 

「(っ! 隙がねぇ…!)」

 

正面で立ち塞がる三杉からは、一切の隙がなかった。そして、沸き上がるのは、どう攻めても止められてしまう、圧倒的な敗北のイメージ。

 

 

――ポン……。

 

 

「っ!?」

 

敗北のイメージが浮かび、身体が一瞬、硬直する。まさにその瞬間を狙いすました三杉の手がボールに触れる。

 

「ちっ!」

 

すぐに反応した青峰は、すぐさまボールを拾いなおす。

 

 

「彼は、オフェンスだけじゃない、ディフェンスも一級品だ。少しでも隙を見せればああやってスティールされる。彼から得点を奪うのは困難だ」

 

氷室が、自身の経験から三杉をこう総評する。

 

「だが、それでも青峰が優位だ。青峰のバスケは予測出来ねぇ。先読みが出来ない以上、止めるには野生の勘で食らいつくしかねぇ。野生を持たないあいつ(三杉)では、そう何度も止められるとは思えねぇ」

 

火神は、自身の対戦の経験から、青峰の優位を押す。

 

 

「…」

 

「…」

 

再度、睨み合う両者。

 

「(…ハナから、隙のなんて見せる奴じゃねぇ。隙がねぇなら…)」

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

「作るだけだろ!」

 

停止状態から一気に加速し、三杉の左脇を抜けようとする。三杉も遅れずに付いていく。

 

「っ!」

 

青峰も、それを見越しており、動じず、バックロールターンを仕掛ける。

 

 

――スッ……。

 

 

そのロールの途中、青峰はリングにリングに背中を向けながらシュートを放つ。

 

『来た、フォームレスシュート!』

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

だが、その放たれたボールは三杉のブロックによって阻まれる。

 

 

「これもブロックされた!?」

 

決まると思っていた黄瀬は、思わず座席から立ち上がる。

 

「青峰のバスケは見てから反応したのでは間に合わない。…まさか、青峰のプレーを読んだとでも言うのか?」

 

同じく、緑間も、冷や汗を流しながら2人の対決を観戦していた。

 

 

「速攻だ!」

 

ボールを拾った三杉は、そのまま攻め進んでいく。

 

「くっそがぁっ!」

 

ブロックされた青峰。激昂しながら三杉を猛追し、スリーポイントライン手前で三杉に追いつき、進路を塞ぐ。

 

「…さすが、大したスピードだ」

 

三杉は感心し、停止する。その間に、他の桐皇の選手達もディフェンスに戻る。

 

「…」

 

「…」

 

第3Qから始まった、もはや、お馴染みとも呼べる、三杉と青峰の対決。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

三杉、ノーフェイクでドライブを仕掛ける。

 

「(フェイク…違ぇっ! これは、本物だ!)舐めんな!」

 

青峰、ノーフェイクを読み切り、ピタリと三杉に付いていく。

 

 

 

――ピッ!!!

 

 

 

三杉、ここで、ノールックビハインドパスを出す。ボールの先は、逆サイドでマークが空いた空のところへ。

 

「っ!? しもた!」

 

空に付いていた今吉。三杉を囲むためにヘルプに出てしまった為、空のマークを空けてしまった。

 

「っ! ナイスパス!」

 

ボールを受け取った空はそのままシュート態勢に入る。今吉が慌ててブロックに戻るが間に合わず、ボールはリングへと向かっていく。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

ボールはリングを潜る。

 

「よおぉぉぉし!」

 

スリーを決めた空は両拳を握り、喜びを露わにする。

 

「「…」」

 

その光景を、今吉は茫然と、青峰は歯を食いしばりながら見つめていた。

 

 

「おいおい、今の、今吉がヘルプに向かったのを見計らってからパスを出してたぞ。あんなの、広い視野とパスセンスがなきゃ出来ない芸当だ。三杉はポイントガードとしても一流なのかよ!?」

 

試合を観戦していた高尾は、今の一連のプレーを理解し、驚愕していた。

 

 

桐皇ボール…。

 

「(あかんわ…! まさか、こないなことが起こるなんて…!)」

 

ゲームメイクをする今吉の心中は、焦りが占めていた。

 

エースからの立て続けの失点。予想だにしない事態に、動じるなというのが無理であった。

 

「(みんな浮き足立っとる。この流れはあかん…)」

 

エースの青峰が続けて攻撃失敗からの失点、しかも、ハーフタイム直後。前半戦、順調に点差を付けた直後の為、桐皇は、意思の統一が出来ない。

 

「(何とかせな…、翔兄なら、この状況でも何か手ぇ考えてくるはずや。司令塔のわしがどうにかせな…!)」

 

必死に策を巡らせる今吉。だが…。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ! あかん!」

 

思考を巡らせ過ぎた結果、大きく隙を作ってしまい。空にボールをカットされてしまう。

 

「アウトオブバウンズ、黒!」

 

ボールは、ラインを超える。

 

「ちっ、おしい」

 

悔し気に舌打ちをする空。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、ブザーが鳴る。

 

『チャージドタイムアウト、黒!』

 

桐皇の監督、原澤が、悪い流れを絶つ為、タイムアウトを申請する。

 

「…さすが、原澤、手を打つのが速いな」

 

上杉も、的確なタイミングでのタイムアウト申請を称賛する。

 

両チーム、ベンチへと退いていく。

 

 

第3Q、残り6分49秒…。

 

 

花月 36

桐皇 48

 

 

後半戦が始まり、点差が12点にまで縮まる。

 

「とりあえず、順調ですね」

 

縮まってきた点差を見て、空の表情が明るくなる。

 

「…まさか、あの青峰さんをああも止めてしまうなんて、嬉しくもありますが、複雑でもありますね」

 

前半戦、青峰をマークしていた大地は、複雑そうな表情をしていた。

 

「ま、簡単ではないけどね」

 

タオルで汗を拭いながら答える三杉。

 

「けどまあ、彼のプレーは読みづらくはあるが、別に空を飛んでいるわけでもなければ、瞬間移動しているわけでもない。どんな選手でも、よーく観察し、データを集め、分析すれば、その動きを予測することも可能さ」

 

そこで、三杉はドリンクを口にした。

 

データがあれば、その動きを予測することは可能、と、三杉は言う。

 

『…』

 

だが、過去に、青峰のプレーを予測出来た者がいないことを皆知っている。それを、試合前日のスカウティングと、第1、第2Qだけで予測を立ててしまう三杉に、花月の選手達全員が言葉を失ってしまった。

 

「ここだけの話、青峰大輝は、キセキの世代の中で、1番プレーが予測しやすい」

 

「えっ? それってどういう……」

 

思わず、空が聞き返す。

 

「何せ、彼には――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

桐皇ベンチ…。

 

いい形で終わらせることが前半戦とは打って変わり、後半戦、早々に劣勢に立たされた桐皇。

 

余裕があったハーフタイムの時は違い、重苦しい空気の桐皇ベンチ。

 

「すんまへん、単調に攻めすぎましたわ」

 

司令塔である今吉が、謝罪をする。

 

「お前だけの責任じゃねぇよ。俺も、マーク外しちまったからな」

 

そんな今吉を若松が制した。

 

「…」

 

原澤は、顎に手を当て、作戦を練る。

 

「ふむ…、とりあえず、新村君は下がりましょう。福山君、お願いします」

 

「はい!」

 

途中交代の新村を下げ、そこに福山を入れる。スタメンに戻した。

 

「ディフェンス力が落ちるのは痛いですが、今は、点を取りに行くことが先決です。今吉君は、出来るだけパスを散らして攻めてください」

 

「分かりました」

 

「それと…」

 

原澤は、視線を別に移す。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…!」

 

ベンチでただ1人、荒く呼吸をしている、桜井。

 

前半戦は三杉に、現在では大地に徹底マークを受けている為、この試合、全くと言っていいほど仕事が出来ていない。

 

桜井は、決してスタミナがない選手ではない。そんな彼がここまで体力を削られてしまった要因は、三杉によるマークだ。

 

無駄な体力を使わされ、それでもなお動き回った結果、あっという間に体力は枯渇してしまった。

 

「…」

 

ここで原澤は頭を悩ませる。桜井の今の状態を考えれば、1度ベンチに下げて休ませるべきである。だが、桜井がいなくなれば、外からの脅威がなくなる。

 

福山もアウトサイドシュートを打てる選手ではあるが、桜井に比べれば精度と信頼度ははるかに劣る。

 

「…桜井君、まだ行けますか?」

 

「ハァ…ハァ…大丈夫…です。…まだ…行けます」

 

呼吸は整っていないが、原澤の問いにしっかり答える。

 

「……分かりました。引き続き、外からチャンスを窺ってください」

 

原澤は、桜井の目を見て、続投を指示した。

 

「…」

 

もう1人、桐皇ベンチ内で、沈黙を保っているものが1人。

 

「……(ギリッ)!」

 

青峰が、歯をきつく食い縛り、苛立っていた。

 

第3Qに入り、全く得点が出来てない青峰。過去にも止められたことはあったが、ここまで立て続けに止められたのは記憶にない。

 

「……くそっ…!」

 

ここまで青峰を苛立たせている要因は、第3Q最初の失点時、三杉から掛けられた言葉だ。

 

それ以降、青峰は三杉に完全に抑えられている。

 

「(……負けられねぇ。誰が相手でも…! 俺に……俺に勝てるのは…!)」

 

「――峰、青峰!」

 

「あん!」

 

ここで、若松の声で正気に戻された。

 

「お前、話聞いてたのか? これから先は、今吉がパスを散らして攻める。周りにも気を遣えよ」

 

「…ちっ、分かったよ」

 

内心、自分のボールを集めてくれれば…とも考えたが、自分からの立て続けの失点であるため、その言葉を飲み込んだ。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、タイムアウト終了のブザーが鳴る。

 

「では、行ってきてください」

 

『はい(おっしゃー)!!!』

 

桐皇はベンチから飛び出していった。

 

「…」

 

同じく、花月ベンチから選手達がコートへと向かっていく。

 

その中の一角、三杉を、睨みつけるように視線を送る青峰。

 

 

 

 

 

――君のバスケには、致命的な欠陥がある…。

 

 

 

 

 

先ほど、三杉が青峰に囁いた言葉。

 

「ふぅぅぅぅ……」

 

ここで青峰は、自分落ち着かせるべく、大きく深呼吸をした。その結果、幾分か頭を落ち着かせることが出来た。

 

「…上等だよ。ようやく楽しくなってきた。もっと楽しませてもらうぜ…!」

 

青峰は、笑みを浮かべ、コートに向かっていった。

 

そして試合は、再開されるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ちょっと会話の描写の方が多いですね…(^-^;)

1ヶ月以上も空けてしまい、申し訳ありませんm(__)m

……また空いてしまうかもしれません…Orz

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!

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