黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

ついに、2人目のキセキの世代との試合が始まります。

それではどうぞ!


第44Q~エース~

 

 

 

夜が明け、インターハイ6日目…。

 

 

第1試合 洛山高校 × 多岐川東高校

 

第2試合 花月高校 × 桐皇学園高校

 

 

四強が出揃い、準決勝の火蓋が切って落とされた。

 

第1試合…。

 

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

 

 

試合は、第2Q、残り2分まで進んでいた。

 

 

洛山   47

多岐川東 23

 

 

試合は、洛山優勢で進められていた。

 

主将である赤司はこの試合、出場しておらず、ベンチにて試合を見守っていた。

 

スタメンで出場した実渕、葉山、根武谷も、第2Q中盤にはベンチに下がっており、スタメンで残っているのは、四条のみ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

洛山選手の放ったシュートが決まり、追加点を取る。

 

「さすがは洛山だな。控えの層も厚い。こりゃ、決まりだな」

 

観客席で試合を観戦していた秀徳高校のポイントガード、高尾が頭の後ろで手を組みながら座席の背もたれに体重をかける。

 

「多岐川…。くじ運に恵まれたとはいえ、ここまで勝ち上がっただけあって決して弱いチームではない。だが、やはり、洛山とは格が違う。番狂わせは、あり得ないのだよ」

 

隣に座る緑間が、メガネのブリッジを押し上げながら言う。

 

「ま、最初から期待してなかったけどな。……観客のお目当てはやっぱり、次の試合だよな」

 

コートでは依然として試合を行われているが、事実上、勝敗は決しているため、観客の興味は次の試合に移っている。

 

 

――ざわざわ…。

 

 

第2Q終了に近づくにつれて、観客のざわめきが大きくなる。そして…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

第2Q終了のブザーが鳴り響く。

 

 

洛山   54

多岐川東 26

 

 

試合の半分が終わり、インターバルへと突入する。

 

洛山、多岐川東、両校が控室へと向かっていくと、入れ違いに、次の対戦校同士が現れる。

 

『待ってましたぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!』

 

花月、桐皇の選手達がコートに入場すると、観客は盛大に歓声を上げる。

 

『昨年、ウィンターカップこそ、初戦敗退したが、激闘を見せ、実力を見せつけた、新鋭の暴君、桐皇学園高校!』

 

絶望的な点差を付けられ、悲痛な表情で控室に向かう多岐川東に対し、一瞥もくれず、コートに向かう桐皇の選手達。

 

『そして、突如、強力な新戦力を獲得し、並み居る強豪を圧倒し、勝ち上がってきた、進撃の暴凶星、花月高校!』

 

セーフティ圏内まで点差を付け、淡々と控室に向かう洛山選手達。

 

「…」

 

「…」

 

花月選手達の先頭を歩く三杉。洛山選手達の先頭を歩く赤司が、無言ですれ違うと、その瞬間、空気が弾ける。

 

「(…こいつが、キセキの世代のキャプテンの赤司征十郎か)」

 

「(以前に拝見した印象とはかなり違うようですね…)」

 

同じく、すれ違い様にチラリと一瞥する空と大地。

 

2人の赤司征十郎の印象は、近寄り難い、例えるなら、独裁者のような印象だった。だが、今は、それらの要素はなく穏やかで、それでいて威厳を感じられた。

 

その後ろを無冠の五将と称される、実渕、葉山、根武谷が続いて歩き、興味深そうに花月の選手達に注目する。

 

すれ違った洛山の選手達を視線で追う空と大地。

 

「空、綾瀬。気になるのは分かるが、今は目の前に相手に集中してくれよ」

 

視線を一切向けることなく、空と大地を諫める三杉。

 

「もちろん、分かってますよ」

 

「はい。今日の相手は、強敵ですから」

 

諫められた2人は、洛山から桐皇へと視線を移し、再度、集中し直す。

 

両校がエンドラインに整列し、対峙し、睨みあう。

 

今日の相手は、今大会、オフェンス最強の呼び声が高い、桐皇学園高校。

 

『よろしくお願いします!!!』

 

一礼をして、コートへと足を踏み入れる。

 

準決勝のもう1つのカード、花月高校と桐皇学園高校のアップが始まる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

パスを出し、リターンパスを受け取ると、そのままレイアップを決める。

 

「ちっ!」

 

青峰が、花月側のアップ風景を見て、思わず舌打ちをする。その理由は、堀田がアップに参加してなかったからだ。

 

前日に、桃井から、堀田の欠場のことは聞いていたのだが、それでも、無理をしてでも出場してくることに一縷の望みをかけていたが、それが叶わなかった。

 

紫原と対等以上に戦い、勝利した堀田健と、戦えないことに、青峰は苛立ちを隠せない。

 

『3分前!』

 

審判が、第3Q開始3分前をコールする。

 

「おらぁっ! ラストォッ!!!」

 

桐皇の主将、若松が、声を張り上げて告げる。

 

桐皇側のラストは福山。福山がハイポスト付近に立つ今吉にパスを出す。

 

「リング近くに投げろ」

 

「これでよろしいでっか?」

 

パスを受けた今吉は、リング付近にふわっとしたボールを上げる。それに合わせて福山が飛ぶ。

 

空中でボールを掴み…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままリングに叩きつけた。

 

 

――おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!

 

 

それと同時に歓声が上がる。

 

「へへっ! …どうよ? 俺からの宣戦布こ……あれ!?」

 

自信満々な表情をしていた福山だったが、今の歓声が自分に向けられたものではないことに気付く。

 

今、観客が歓声を上げたものの正体は…。

 

反対側のコート、花月側。

 

「よしっ! ラスト!」

 

三杉が花月選手達に指示を出す。

 

「そんじゃ、1発かますかな」

 

花月側のラストは空。ハイポストに立つ大地にパスを出す。パスを出すと、空はリングを指さす。

 

「やれやれ、分かりましたよ」

 

呆れた表情で大地はリング付近にボールを上げる。それに合わせて空が跳躍する。

 

空が空中でボールを両手で掴むと、そこから反転、リングに背を向け…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままリングに叩きこんだ。

 

『すげー!!!』

 

『あの身長でアリウープするだけでもすごいのに、空中で反転して、リバースダンクとか、ありえねぇ!!!』

 

180㎝満たない空がアリウープ……それも、空中で反転しての180°ダンク。

 

観客を沸かせるには充分だった。

 

「くそっ…目立ちたがり屋め…」

 

苦々しい表情で空を睨みつける福山。

 

「そりゃ、おめぇだ!」

 

そんな福山を後ろから小突く若松。

 

「試合前に余計な体力使ってんじゃねぇ!」

 

プンプンとさせながら引き上げていった。

 

「よし、試合が始まる。引き上げるぞ。ほら、空! さっさとコートから出ろ」

 

「うぃっす」

 

観客のインパクトを与え、意気揚々とコートから引き上げていく空。

 

そこに、転転と転がっていく1つのボール。そのボールを拾うのは三杉。

 

「よう。今日はあの堀田って奴は出ないのかよ?」

 

ボールを拾った三杉に歩み寄り、話しかけたのは青峰。

 

「ああ。残念なことだけど、今日、健は欠場だよ」

 

拾ったボールを青峰に放って渡す三杉。

 

「ちっ! んだよ、おもしれぇ勝負が出来ると思ってたのによぉ……まあいい、お前もあいつと同じくらいやれんだろ?」

 

「さて、どうだろう?」

 

青峰の質問に惚けながら答える三杉。

 

「お前には期待してるんだ。……楽しませてくれよ?」

 

不敵な笑みを浮かべて告げる青峰。

 

「ああ。善処するよ」

 

ニコリと笑みを浮かべて答える三杉。

 

「青峰! 早くしろ!」

 

「うっせぇな…言いたいことはそれだけだ」

 

踵を返し、桐皇の選手達に合流し、引き上げていった。

 

「ふふっ、若いな」

 

ボソリと呟き、同じく合流し、引き上げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

会場では、準決勝の最初のカードである、洛山対多岐川東の後半戦が始まる。

 

試合は変わらず、洛山優勢で進み、洛山側は、試合当初のスタメンは全員ベンチに下がっている。

 

それでも、洛山優勢は揺るがない。

 

試合は、番狂わせが起こることなく進んでいき…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

試合終了のブザーが鳴り、試合が終了する。

 

 

試合終了

 

洛山   91

多岐川東 51

 

 

洛山が準決勝を制し、決勝へと駒を進める。

 

 

――ざわ……ざわ……。

 

 

先ほどまで沸いていた観客も、試合が終わりに近づくにつれて、ざわつき始める。

 

今日の観客の興味は1つであり、波乱や番狂わせが起きそうにない洛山×多岐川東戦は二の次であった。

 

そして、両校が再び、会場入りする。

 

 

 

――おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!

 

 

 

ざわついていた観客に熱が再び戻る。

 

花月、桐皇が入場し、それぞれのベンチへと向かっていく。

 

「あなたの教え子と試合が出来る日がきたことを嬉しく思います」

 

「久しぶりだな、原澤。相変わらず若いな。今日はよろしく頼む」

 

両校の監督、上杉と原澤が歩み寄り、上杉が手を出す。

 

「こちらこそ。よろしくお願いします」

 

出された手を握り、握手を交わし、挨拶を終える。

 

刻一刻と試合開始が近づく中、選手達は試合に準備を進め、気持ちを作っている。

 

「…」

 

その中でも、花月ベンチ、松永は、ベンチに俯きながら腰掛けている。

 

「(今日は、俺がインサイドを任されているんだ。俺が堀田先輩の代わりを担うんだ…!)」

 

パンパン! と、自身の顔を叩き、自問自答しながら気合を入れていく。

 

「……(かなり、気合が入ってる……、けど、これは入れ込みすぎだな)」

 

そんな松永を見て空は、少し不安を覚える。

 

堀田欠場により、代わりにセンターのポジションを任されたことの重圧が松永に襲い掛かっているのだろう。

 

しかも、相手は、キセキの世代のエース、青峰大輝を擁する、超オフェンス型チーム、桐皇。ディフェンスの中軸を担う松永の責任は重大である。

 

その重圧が、今、松永の双肩にのしかかっている。

 

「(…ちょっと、声をかけてやるかな)」

 

緊張を解そうと、松永の下に寄ろうとすると、それよりも早く、生嶋が松永の目の前に立った。

 

「まっつん」

 

そっと話しかけると、生嶋は松永の肩にそっと手を乗せた。

 

「大丈夫、心配はいらないよ」

 

「松永…」

 

肩に手を置かれ、顔を上げる松永。すると、生嶋は薄く笑みを浮かべる。

 

「君が何点取られても、僕がそれ以上に点を取る。だから、安心していいよ」

 

不意にそう言われ、一瞬ムッとした表情を取ったが、すぐに、不敵な笑みに変わる。

 

「ほざけ。今日の試合、お前に出番を与えるつもりない。何せ、お前はすぐガス欠起こすからな。とてもではないが、俺の後は任せられん」

 

皮肉に対して皮肉で返す松永。その表情には、先ほどまでとは違い、幾ばくか、余裕が生まれていた。

 

「(ナイス、生嶋!)」

 

胸中で、空は生嶋に親指を立てる。生嶋は、そっと空にピースサインをした。

 

「よし、集まれ!」

 

上杉が号令をかけると、選手達が集まる。

 

「今更言うまでもないが、今日の相手は強い。2回戦の陽泉と同じく……いや、それ以上の激戦になるだろう」

 

『…』

 

「だが、勝つのはお前達だ。お前達は、インターハイに参加するどの高校よりも練習してきた。それがお前達の力となり、自信となり、支えになる」

 

『…』

 

「言って来い。お前達が積み上げてきたものを、見せつけてこい!」

 

『はい!!!』

 

「さて、時間だ。準備は出来ているな? なら……行こうか」

 

三杉がそう言うと…、コートへと足を踏み入れる。

 

『おう!!!』

 

それに続き、スターティングメンバーが、コートへと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コートのセンターサークルで整列する両校。

 

「これより、インターハイ準決勝、第2試合。花月高校対桐皇学園高校の試合を始めます!」

 

『よろしくお願いします!』

 

整列を終え、散らばっていく両校。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

4番SG:三杉誠也 190㎝

 

8番PF:天野幸次 192㎝

 

9番 C:松永透  194㎝

 

10番PG:神城空  179㎝

 

11番SF:綾瀬大地 182㎝

 

 

桐皇学園高校スターティングメンバー

 

4番 C:若松孝輔 195㎝

 

5番PF:青峰大輝 193㎝

 

7番SG:桜井良  175㎝

 

9番SF:福山零  189㎝

 

10番PG:今吉誠二 177㎝

 

 

『堀田がいないぞ!?』

 

『嘘だろ? 俺、あいつが見たくて来たのに…』

 

『花月は、堀田抜きで大丈夫なのか?』

 

堀田欠場により、残念がる観客達。それと同時に、花月のディフェンスを心配する観客達。

 

「舐められたもんだねぇ。なあ、松永?」

 

「全くだ」

 

不敵に笑い合う空と松永。

 

「昨年の全中大会、ベスト5に選出された私達の実力、ご披露しましょう」

 

「「おう!」」

 

互いに気合を入れ合う、全中でしのぎを削った空達。

 

そして、準決勝のもう1つのカード、花月高校対桐皇学園高校の試合の火蓋が、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ジャンプボール…。

 

花月のジャンパーは松永。桐皇は若松。

 

「…」

 

「…」

 

両者が対峙し、睨み合う。そして、審判がボールを上げ、ティップオフ!!!

 

「っ!」

 

「らぁっ!」

 

ジャンプボールを制したのは若松。今吉がボールを確保する。

 

「おおきに。ほな、いきまっせ!」

 

今吉がボールを進め、ゲームメイクを開始する。

 

花月のディフェンスは、ハーフコートマンツー。今吉に空がマークする。若松には松永、福山には天野。ここまでは、予想通り。

 

『なっ…!?』

 

『これは…!?』

 

ここで、桐皇及び、観客は驚愕する。

 

「…ちっ!」

 

再び、舌打ちをする青峰。その青峰をマークするのは、大地。

 

「えぇっ…えぇっ!?」

 

目を見開いて驚愕する桜井。その桜井ををマークするのは、三杉。

 

「(何考えとるんや? 青峰はんマークするんは三杉はんやろ?)」

 

実力的なものや、身長面を考えれば、マークするのは三杉が妥当。あるいは、ディフェンスに定評がある天野がマークするのが無難である。

 

「どういうつもりだ? なんであいつ(三杉)じゃなくててめぇ(大地)なんだ?」

 

「…」

 

苛立ちながら目の前で対峙する大地に尋ねる青峰。対する大地は、無言でマークに徹する。

 

これは、試合開始前のベンチでのこと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ベンチにて、バッシュの紐を結びなおす大地。

 

『綾瀬』

 

そんな大地に、三杉が目の前に立つ。

 

『何でしょうか?』

 

『青峰のマークをやってみるか?』

 

『っ!?』

 

三杉から、まさかの提案に、当の大地を含め、他の選手達も驚愕する。

 

大地は、三杉の提案に一瞬、目を見開くも、すぐに笑みを浮かべ…。

 

『やります。やらせて下さい』

 

了承した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

このようなやりとりによって、スタートは大地が青峰をマークすることになった。

 

「(さて、どうするかのう…)」

 

ボールをキープしながらどう攻めるか考える今吉。

 

普段であれば、特攻隊長である桜井から攻めるのが桐皇のセオリー。だが…。

 

「…ぐっ!」

 

だが、その桜井は、三杉のフェイスガードによってマークを振り切れず、顔を顰める。

 

「(桜井はんはあかんな…)」

 

次に視線を向けたのが、主将である若松。堀田が欠場した今、ここも狙い目の1つ。後は、ディフェンスには難があるものの、青峰に次ぐ得点能力を持つ福山。

 

「(…けどまあ…、ここはここしかないやろ)」

 

今吉はここでパスをする。

 

『来た…!』

 

ボールの行く先は、桐皇のエースたる青峰。

 

「…っ」

 

大地は腰を落とし、青峰の攻撃に備える。

 

「へぇ…、俺のマークにあてがうだけあって、ただの雑魚ってわけじゃなさそうだな…」

 

「…ありがとうございます」

 

目の前の大地を見て、青峰は僅かではあるが、大地の実力を認める青峰だったが…。

 

「…だがまあ、せいぜい、多少は歯ごたえがあるって程度だ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

青峰がゆっくりとドリブルを始め、そのまま仕掛ける。

 

「俺の相手にはならねぇ」

 

「っ!?」

 

ノーフェイクからのドライブで大地をあっさりとかわす。

 

「(速い! 空や三杉先輩以上に…!)」

 

スピードに定評がある空。抜群のテクニックとキレを持つ三杉。その2人をも上回ると評した大地。

 

グングン加速し、ゴールへと進軍していく青峰。

 

「行かせっかよ!」

 

ヘルプに現れたのは、もっとも青峰から遠い位置にいたはずの空。

 

「(いつもの間にヘルプに行ったんや!? 速すぎるやろ!)」

 

先ほどまで自分をマークしていた空がおらず、青峰のヘルプに向かったことに言葉を失う今吉。

 

「おーおー、さつきが言っただけあって、スピードだけは大したもんだ。それだけは認めてやる」

 

ここで、青峰が空の手前で急停止する。

 

「それだけだ。お前も俺の相手にはならねぇ」

 

クロスオーバーで空の横を高速で抜ける。

 

「はっえ!」

 

ほとんど反応出来ず、青峰を見送る空。

 

ペイントエリアまで侵入すると、そのまま跳躍する。

 

「くっそっ!」

 

松永がブロックに向かう。

 

ブロックが現れると、青峰は手に持ったボールを下げ、下から放り投げる。

 

 

――ガシャン!!!

 

 

無造作に投げられたボールは、バックボードに当たりながらリングを潜った。

 

『青峰いきなり来たーーーーーっ!!!』

 

青峰が、花月のルーキー3人を抜き去り、開始早々先取点を決める。

 

先制点を決め、踵を返し、ディフェンスへと戻る青峰。その際に、三杉の下まで歩み寄る。

 

「何を考えてのか知らねえが、あんな雑魚じゃ、何度やっても俺を止められねぇぞ」

 

「…」

 

特に反応を示さない三杉に、軽く鼻を鳴らす。

 

「ふん、だったら、てめぇが出てくるまで点差を付けるだけだ。アメリカ帰りだかなんだか知らねぇが、俺に勝てるのは俺だけだってのを分からせてやるよ」

 

それだけ告げ、青峰は自陣まで戻っていった。

 

「…やれやれ」

 

そんな三杉は、軽く苦笑いをするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

オフェンスは、花月に切り替わる。

 

「よっしゃ! 1本、返そうぜ!」

 

空が声を張り上げ、ゲームメイクを開始する。

 

そんな空の前に立ち塞がるのは、今吉。

 

「…」

 

今吉は、多少距離を取り、ドライブに備える。

 

「(…距離取ってくんなぁ…、ここは、外から狙うのがいいんだろうけど…)」

 

外からのスリーもある空。これだけ距離を取ってくるなら、スリーを狙っていくのが1番の選択肢。

 

「(…けどまあ、ここはあえて、裏をかいて抜きにいってみるかな!)」

 

空は、ドリブルで一気に距離を詰める。

 

「(桃井はんのデータ通りや。距離を開けたら、ムキになって抜きにきよった)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そこから、バックチェンジからのクロスオーバーを仕掛ける。

 

「抜かせへんで!」

 

今吉は、空の進路を塞ぐように手を出し、これに対応する。

 

「これに付いてくるかよ。…けど、本命は…!」

 

そこから、空はバックロールターンでかわしにかかる。

 

「クロスオーバーからの、バックロールターンやろ!」

 

「っ!?」

 

今吉は、これも読み切り、空を止める。

 

「(マジかよ…、大して身体能力が高いようには見えないのに、俺に追いつきやがった…)」

 

追いつかれたことに、軽くショックを受ける空。

 

桐皇には、マネージャーである、桃井のデータによる先読みがある。

 

彼女のデータは、非常に正確であり、それは、その選手がどのように動くか。さらには、その選手がどう成長するかまで調べ上げてしまう。

 

「(厄介やのう。データありきで、追いすがるのがやっとや…)」

 

余裕そうな表情を取る今吉だったが、内心では冷や汗をかいていた。

 

「(何か悔しいから、もう1回行きたいけど…)」

 

すでに1本決められている。それも、エースの青峰によって。ここを落とすと、流れが桐皇の傾きかねない。故に、この1本は確実に取りたいと考える空。

 

空は、ビハインドパスで1度戻す。

 

ボールの先は、三杉。その三杉をマークするのは…。

 

『始まるぞ…』

 

『エース対決だ!』

 

ボールを受け取った三杉の前に、青峰が立ち塞がる。

 

「来いよ」

 

「…」

 

待ち焦がれたとばかりに不敵な笑みを浮かべる青峰。そんな青峰を目の前に特に表情を変えない三杉。

 

僅かな…それでいて、長く感じる間対峙する両者。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

そして、三杉が、フロントチェンジで左右に揺さぶりをかけながら仕掛け、青峰の左手側から抜きにかかる。

 

『うおっ! 速いぞ!』

 

だが、青峰はこれに遅れることなくピタリと付いていく。

 

『青峰もこれに付いていってるぞ!』

 

だが…。

 

「っ!?」

 

三杉は、右側からではなく、左側から現れる。本物と見間違うほどの高精度のフェイクによって、青峰の虚を突く。

 

『抜いたーーーっ!!!』

 

裏をかき、三杉が青峰を抜き去った……かに見えた。

 

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

『なっ…なにぃぃぃぃっ!!!』

 

三杉の手からボールが弾かれる。青峰が抜かれた直後、即座に後ろからバックチップで三杉のボールを弾いた。

 

『アウトオブバウンズ、緑(花月)!』

 

弾かれたボールは、コートの外にこぼれる。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

ボールを弾かれた三杉は転転と転がるボールを一瞥した後、ボールを弾いた張本人の青峰に視線を向けた。

 

「……やるね」

 

「…お前もな」

 

ニコリと三杉は笑い、青峰は不敵に笑った。

 

ボールを拾いに行く三杉を、青峰は目で追っていく。

 

「(…抜かせるつもりはさらさらなかった…)」

 

三杉が見せたフェイクに一瞬だが完全にかかった。こうもあっさりフェイクにかかったのは、ここ数年記憶にない。

 

持ち前の野生の勘によって、ギリギリ追いつき、バックチップでボールを弾くことが出来た。

 

「…いいね。こうでなくちゃ、面白くねぇ!」

 

新たな強敵の誕生に、青峰の胸の奥が熱く滾ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「三杉さん! 今の…」

 

空が三杉に駆け寄って話しかける。

 

「ああ。本気で抜きに行ったが、さすがに、簡単には行かないみたいだ」

 

軽く肩を竦める三杉。

 

「(マジかよ…。俺は花月に入学して今まで、1度も三杉さんを抜いたことも止めたこともないのに、青峰は初対戦で止めやがった!)」

 

誰よりも三杉と戦ってきた空にとって、この事実は受け入れ難い事実だった。

 

「(…これが、キセキの世代のエースの実力か…!)」

 

自分と、キセキの世代の力の差を思い知り、苦々しい表情で青峰を睨みつける空だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!』

 

試合は、桐皇ペースで進んでいく。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

青峰が大地を抜き去り、ブロックに飛んだ松永の上からダンクを叩きつけた。

 

『すげー!!! 青峰止んねぇよ!!!』

 

この日、10得点目を決める青峰。

 

「くっ…!」

 

思わず悔しさが声に出てしまう大地。

 

第1Qも中盤に移行する中、一向に青峰を止められる気配がない。

 

3度目の対決で、ようやく青峰のスピードにも慣れ、リズムも掴んできたのだが、その矢先、教科書どおりのバスケに飽きた青峰が、自身の本領とも言えるストリートのバスケを出し始めた。

 

その、変則的なリズムから繰り出されるストリートのバスケに、驚異的な敏捷性(アジリティー)が加わり、大地は、全く対応が出来なかった。

 

桐皇は、エースである青峰を中心に得点を重ねていく。さらに…。

 

「おらぁっ!」

 

「ぐっ!」

 

インサイドから、若松が力で松永を押し切り、ゴール下を鎮める。

 

センター対決も、松永は若松に力で押され、失点を許してしまう。

 

花月は、大地、松永から点を取られてしまうのが現状だ。

 

試合は、青峰を中心に攻める桐皇ペースで進んでいき……。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

第1Q終了のブザーが鳴る。

 

 

第1Q終了

 

花月 16

桐皇 22

 

 

試合は桐皇リードで第1Qを終える。

 

未だ、青峰を捉えられない花月。

 

試合は、第2Qへと、移行するのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





花粉症により、体調不良です(T_T)

春は花粉があるから苦手です。夏は暑いですし、冬は寒い。結局、秋しか残りません。

花粉症って、克服出来ないのかな……。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!

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