黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

投稿が遅れて、申し訳ございませんm(_ _)m

そして、謝罪を…。

いくつか感想をいただいた中で、オリ高校のパワーバランスが悪すぎるという指摘がありました。

正直、ご指摘どおりだと思います(^-^;)

インターハイの間は、原作キャラがオリキャラに圧倒される場面が見られると思います。読者や原作ファンの方に、不愉快な思いをさせてしまうと思いますが、インターハイの間だけ、ご容赦と作者のわがままをお許しくださいm(_ _)m

それではどうぞ!



第41Q~雌雄決す~

 

 

 

三杉誠也がゆっくりとドリブルをしながら近寄ってくる。

 

 

 

――これは、フェイクなのか? それともリアルなのか?

 

 

 

――止めなければ…! だが、どっちなんだ…?

 

 

 

――分からない……分からない……分からない!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「悪くない。調子はまずまずだな」

 

ベンチに戻ってきた選手達を上杉が労う。選手達はタオルとドリンクを受け取り、呼吸を整えている。

 

「にしても、氷室の奴はいったいどうしたんですかね? 何か、最後の方、様子が変でしたけど…」

 

空がタオルで汗を拭いながら尋ねた。

 

「奴は、見失ったのだ」

 

「? …どういうことですか?」

 

「三杉のバスケの神髄は、相手の心理を付くところにある」

 

堀田が続けて説明していく。

 

「本物と見紛う程の高精度のフェイクを巧みに見せつけながら相手を圧倒する。何度も見せつけられていくうちに、本物が偽物に見え、偽物が本物に見えるようになっていき、区別が出来なくなっていく」

 

『…』

 

選手達全員が堀田の言葉に黙って耳を傾ける。

 

「そして、最後には疑心暗鬼に陥り、脳が判別が出来なくなり、脳から身体への信号を止めてしまい、動けなくなる」

 

『…』

 

「これが、三杉の武器の1つ、『支配』と呼んでいるものだ」

 

「お、恐ろしいですね…、相手の心理を付くとか…」

 

思わず冷や汗が流れる空。

 

「人間の心は、身体とは裏腹にとても繊細だ。ひとたび支配されてしまえば、とても脆い」

 

汗を拭いながら口ずさむ三杉。

 

「アメリカで勝利するため、俺は、スピードを維持しながらアメリカ人相手でも圧倒できるパワーを得るために自らを鍛え上げた。三杉は、身体を鍛えつつ、勝利に役立ちそうな様々な技術を習得していった。それは、古武術であったり、スポーツ医学であったり、メンタリズムであったり…」

 

「もちろん、ここまでの域に達するまでには時間がかかった。今にしても、まだ完成とは言い難い。何度も挑戦し、何度も失敗することで今の俺のバスケがある」

 

「挑戦……ですか」

 

大地がリピートするように口にする。

 

「お前達も、その言葉を忘れるなよ。少なくとも、頼れる先輩がいるうちは、何度でも挑戦しろ。尻拭いは、俺達がしてやる」

 

「「はい!」」

 

ニコリと告げる三杉に、空と大地は笑顔で返事をする。

 

「ええ話の途中で悪いんやけど、これからどないしましょうか?」

 

仕切り直すように天野が先行きを尋ねる。

 

「とりあえず、氷室はこのタイムアウトの時間内に立ち直ってくるか?」

 

「難しいだろうな。並の精神力ではまず不可能だ。過去に、三杉の相手をした者の中には、2度とバスケが出来なくなった者もいるからな」

 

「マジですか!?」

 

堀田から告げられた新たな事実に、空は驚きを隠せなかった。他の者も同様であった。

 

「……今のは冗談なのだが」

 

困った表情を浮かべる堀田。

 

「健、普段は堅物な君では冗談に聞こえないよ」

 

「むぅ…」

 

こんな2人の掛け合いを、他の者達はポカンとしながら眺めていた。

 

「まぁ、冗談はともかく、簡単には立ち直れないだろう。俺の『支配』は、精神に頼るところが大きいからね」

 

「なら、下げてきますかね?」

 

「それは、相手の監督と、氷室次第さ」

 

選手同士で試合のこれからの作戦を考察していく。そこに、上杉が、口を開く。

 

「とりあえず、ボール運びは引き続き、三杉がやれ。紫原は堀田に任せる。オフェンスは先ほどまでと同様、堀田を中心に攻める。終了まで、攻撃の手を緩めるなよ」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「ハァ…ハァ…!」

 

氷室がベンチに戻ると、すぐさま腰掛け、タオルを頭に被って俯いている。

 

「氷室! いったいどうしたアルか!?」

 

尋常ではない様子の氷室に、劉が心配そうに声をかける。

 

氷室は、目を見開きながら口を開く。

 

「分からない…分からないんだ。何が本物で、何が偽物かが…」

 

タオルを力一杯握りしめ、絞り出すように声を出していく。

 

「(…氷室をここまで壊してしまうとは…、三杉誠也。奴はいったい、氷室に何をしたんだ…)」

 

荒木は、相手ベンチの三杉を睨みつける。

 

「(噂には聞いたことはあった。アメリカで活躍する日本人2人の話は。まさか、これほどとは…!)」

 

予想外の現在の状況に、荒木の心中は焦りに焦っていた。

 

「(どうする? 氷室を一旦下げるか? …いや、そうなったら、三杉を相手にゲームメイク出来る者がいなくなる。何より、得点力が半減してしまう…)」

 

想定をはるかに超えた三杉と堀田の実力。氷室の不調。陽泉にとっての不安要素がここに来て出来てしまった。

 

「(落ち着け! 落ち着け! 主将の俺がこの様では試合に勝つことなど不可能だ! 俺がどうにかしないと…!)」

 

氷室は自身の顔を両手で叩き、落ち着かせようとする。

 

「氷室さん…」

 

そんな氷室を見て、チームメイトの不安はさらに広がったいく。

 

「(もっと相手(三杉)をよく見ろ! フェイクを見定めて…)むごっ!」

 

さらに集中力を高めようと自問自答していると、紫原が氷室の口に棒状の駄菓子を突っ込んだ。

 

「むぐっ…、あ、敦? いったい何を…」

 

「室ちん~、そんなんで試合に出られてもこっちが困るからさぁ、もう下がってもいいよ」

 

口に入れられた駄菓子を抜き取り、文句を言うと、紫原がベンチに下がるように提案する。

 

「こっから先は俺が何とかするよ」

 

「何とかするって、どうするんだよ?」

 

「俺が全部やる。俺が全部止めて、全部決めればそれで勝ちじゃん」

 

オフェンス、ディフェンスも全てこなすと宣言する。

 

「全部止めて全部決めるって、いくら何でもお前でもそれは…」

 

チームメイトはそれは無茶だと心配する。

 

「出来る出来ないじゃなくて、やるだけだし。…まさこちん、ヘアゴム1つ貸してくんない?」

 

「まさこちんと呼ぶなと言ってんだろ! …だが、紫原、いくらなんでもそれは無茶だ。両方やろうとすれば、何処かで綻びが出来る」

 

竹刀で紫原の頭を叩きつつ、紫原の提案を拒否する。

 

紫原は受け取ったヘアゴムで自身の後ろ髪を束ね、1歩も引かない。

 

「(…あの敦が、ここまで勝つために必死になってくれている…)」

 

バスケへの執着心が少なかった以前であれば、とっくに勝負を投げていたかもしれない。

 

「(敦とて、堀田を相手に余裕があるわけではない)」

 

少なくとも、現状では堀田と紫原は互角。そこに余力などあるはずがない。

 

「(…そうだ、陽泉には、敦がいる…)」

 

氷室は、自分が三杉に勝てなければ陽泉は負けると考えていた。故に、がむしゃらに三杉に食らいつこうと考えていた。

 

「(俺が1人で全てを背負い込む必要はないんだ…)」

 

陽泉には紫原という絶対的な柱がいる。他にも頼れるチームメイトもいる。自分1人が奮闘しなければ勝てないチームではない。

 

頼れる仲間…、それを理解したことにより、落ち着きを取り戻し、狭まっていた視野が広がっていく。

 

「いくら敦でも攻守の両方をこなすのは無理だ」

 

被っていたタオルを手に取り、紫原の肩に手を置く氷室。

 

「室ちん?」

 

「いくら敦でも、攻守の全ては負担が大き過ぎる。オフェンス面では俺がフォローする。そうすれば、敦の負担は減る」

 

「大丈夫なのー?」

 

「心配はいらない。さっきまでは、フェイクか否かを見失っていた。実際、今も定まっているわけではない。…だが」

 

氷室はベンチから立ち上がる。

 

「俺達(陽泉)の勝利は見失っていない」

 

真剣な面持ちで紫原を直視する。

 

「……ん、それじゃー、これまでどおり、オフェンスは室ちんの力を借りるよ」

 

迷いのない氷室の表情を見て、再び、氷室にフォローを任せることを決める。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで、タイムアウト終了のブザーが鳴る。

 

「さあ、行こう! 残り時間、最後の1滴まで絞り出そう!」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り2分52秒

 

花月 50

陽泉 40

 

 

両ベンチから選手達がコートへとやってくる。

 

「…なるほど」

 

「どうかしました?」

 

陽泉側を見て、三杉は何か納得した表情をする。

 

「氷室辰也。大した選手だ。タイムアウトの間で完全に立ち直ったようだ。並の精神力ではこうはいかない」

 

「さすが、キセキの世代にもっとも近しい選手と称されるだけはありますね」

 

大地も、何処か吹っ切れた氷室を見て、感嘆の声を上げる。

 

「陽泉は誰1人、目が死んでいない。あの目をしている限り、何が起こるか分からない。…集中を切らないようにな」

 

「はい、分かっています」

 

三杉の忠告を得て、改めて集中し直す大地。

 

試合は、三杉のフリースローから開始される。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

三杉がフリースローをきっちり決め、3点プレーを成功させる。

 

劉が素早くリスタートをし、氷室がボールを受け取ると…。

 

「行くぞ!」

 

陽泉選手全員がフロントターンまで走り始めた。

 

「っ!? ここでランガンかよ!?」

 

これまで、陽泉は、オフェンスではハーフコートオフェンスが主流であった。ところが、試合終盤のこの局面で速い展開のバスケを仕掛けてくる。

 

フロントコートに進んでいく氷室に、三杉がディフェンスに向かうと、氷室はそれに捕まる前に永野にパスを捌く。

 

ボールを受け取った永野はそのままドリブルで進んでいく。

 

「やっべ! ボール運びが出来んのは氷室だけじゃねぇんだった…」

 

陽泉の本来のポイントガードは永野。この手の仕事はむしろ本職である。

 

慌てて空が永野のチェックに向かう。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

永野がカットインで空の横を抜けようとする。

 

「行かせねえ!」

 

空も抜かせまいと永野の動きに付いていく。

 

空が横に並走してくるのと同時にビハインドバックパスでスリーポイントの外側で待ち構える木下にパスを出した。

 

ボールを受け取った木下に、大地が間髪入れずにチェックに入る。すると、木下はシュート態勢に入る。

 

大地はスリーを阻止するするべく、跳躍してブロックに向かう。木下は、シュートを中断し、ボールを下げて大地のわきの下から中へパスを出した。そこには、氷室が走りこんでいた。

 

ボールを再び受け取ると、すぐさまインサイドに立っている紫原にボールを渡した。

 

紫原は、左右に揺さぶりをかけると、そのまま高速ターンで堀田をかわすと、そのままボールを持って跳躍する。

 

「やすやすさせると思うな!」

 

正面からブロックに向かう堀田。

 

『タイミングはバッチリだ!』

 

『パワーではまだ堀田の方が上だ! どうする!?』

 

堀田のブロックは速く、紫原の前に万全の態勢で迎撃に来ている。

 

「(だったら、これならどうだよ!)」

 

紫原は、頭の上に持ち上げたボールを頭の後ろへと動かす。

 

「(っ! これは!)」

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

紫原は、後ろへと持って行ったボールを堀田の上からリングへと叩きつけた。

 

「届かなきゃ、いくら力があっても意味ないし」

 

「…ちっ、厄介な技だ」

 

今、紫原が行ったダンクは、トマホークと呼ばれるダンクである。

 

高い身長に加え、ジャンプ力、ウィングスパンがある紫原が行えば、ブロック困難のダンクとなる。

 

「…」

 

紫原は自身の手を見つめている。

 

「(力がどんどん沸いてくる。今なら、誰にも負ける気がしない)」

 

拳をギュッと握り、自分の力の増大を自覚する。

 

「気にするな、1本、返すぞ」

 

リスタートし、三杉がゲームメイクを始める。

 

「……そう来たか」

 

フロントコートまでボールを進めると、三杉の前に氷室と木下がダブルチームでマークする。

 

「あなたを徹底的に抑える。今の敦なら、あなたと堀田以外では失点する心配はないからね」

 

「良い判断だ」

 

三杉は動じることなくボールを突いている。

 

「…」

 

「「…」」

 

ゆっくりと機会をうかがう三杉に対し、氷室と木下は全身全霊を持ってディフェンスをしている。

 

数秒、対峙していると、三杉が動く。

 

「っ!」

 

シュート態勢に入った三杉に対し、木下がブロックに飛ぶ。

 

だが、これはフェイク。すぐさまその横をドライブで抜けていく。

 

「行かせないよ!」

 

そのドライブに、氷室はピッタリと付いていく。

 

「なるほど、シュートは彼(木下)、ドリブルには君が備えるというわけか」

 

「ええ。俺1人では、あなたを止めれないし、シュートかドリブル、見分けがつかない。ならば、2人で分担して止めればいい」

 

迷いが出てしまえば、2人がかりでも三杉を止めることは出来ない。故に、一方がシュート、一方がドリブルをと、初めから担当を決め、迷いを消し、三杉に当たった。

 

「…ふむ、さすが、キセキに1番近いとされていると称されるだけのことはある。特にメンタル面では、彼らを凌駕しているかもしれない。ならば、無理するのはやめておこうか」

 

三杉はハイポストに展開していた天野にパスを出す。

 

パスを受けた天野は、空いている大地のパスを捌く。そこから大地が堀田へとパスを送った。

 

『来たぞ!』

 

ボールを受けた堀田。紫原が背中へと付く。

 

『いくら堀田から点を取れても、堀田を止められなければ点差は縮まらないぞ!』

 

 

――ジリ…ジリ…。

 

 

堀田が紫原を背中でジリジリと押し込んでいく。

 

「…ぐっ…!」

 

歯を食い縛って堀田の進行を阻止しようと試みるが、堀田の進行は止まらない。

 

『ダメか!?』

 

絶望の声がチラホラ響く。

 

「(くそっ! 止まらない! 力が足りな――)」

 

 

――違う、もっと腰を落とすんじゃ!

 

 

「っ!?」

 

その時、紫原の頭の中に、言葉が響き渡る。

 

 

――そして上体は上げる。これが、力を無駄なく発揮する態勢じゃ。

 

 

それは、陽泉の前主将、岡村の言葉だ。

 

彼らの代の選手達の卒業前、才能任せでろくに身体の使い方を知らなかった紫原に、最後の置き土産として指導していった。

 

それは、自分達が成しえなかった、全国制覇を成し遂げてもらうために……。

 

紫原は、その教えの通り、腰を落とし、上体を上げた。

 

「(むっ? 重くなったか?)」

 

突如、堀田の進行が止まった。更に背中で押し込もうとするも、紫原はピクリとも動かない。

 

シュートを打てるポジションではあるが、僅かにリングと距離があるため、狙ったところでブロックされるだけである。

 

「(…ならば!)」

 

堀田は反転してバックステップをし、紫原から距離を取り、そのままシュート態勢に入る。

 

が、それはフェイクであり、本命は、フロントターンからのダンク。

 

『行ったーーっ!!!』

 

「(負けない! 絶対に! 俺が勝たせるんだ!)」

 

紫原がブロックに飛ぶ。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

堀田の手から、ボールを弾き飛ばした。

 

『うおぉぉぉぉぉっ! 止めたぁぁぁぁぁっ!!!』

 

「堀田さんがブロックされた!?」

 

この光景に、空も驚愕を隠せなかった。

 

「速攻だ!」

 

ルーズボールを拾った氷室がそのままワンマン速攻を始める。

 

「くそっ!」

 

花月も、急いでディフェンスへと戻っていく。

 

スピードと運動量がある花月選手達、すぐさまディフェンスに戻る。

 

氷室の前に三杉が立ち塞がる。氷室は、三杉のチェックが厳しくなる前に、ボールをリング付近に放った。

 

そこに、走りこんでいた紫原がボールに向かって跳躍する。同じく、並走していた堀田がブロックに飛ぶ。

 

「絶対に決めてやる!」

 

「させんぞ!」

 

両者が激突する。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

紫原が堀田のブロックを弾き飛ばし、空中で掴んだボールをリングへと叩きつけた。

 

『うおぉぉぉぉぉーーーーーっ、ぶち込んだーーーっ!!!』

 

そして…。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が2本指を振り下ろし…。

 

「バスケットカウント、ワンスロー!」

 

『しかも、バスカンだぁぁぁぁぁっ!!!』

 

会場がこの日、最高に沸き上がる。

 

「っしゃぁっ!」

 

拳を握り、喜びを露わにする紫原。

 

「ナイス、紫原!」

 

選手達も紫原に駆け寄り、一緒に喜び合う。

 

「ちっ」

 

思わず舌打ちをする堀田。

 

「大丈夫か? まさか、健のブロックを弾き飛ばすとはね。…ゾーンが深くなったか?」

 

「それもあるだろう。だが、それ以外にも要因がある」

 

堀田の下に歩み寄った三杉が堀田の肩に手を置く。

 

「だろうね。恐らく、心理的なリミッターが外れたのだろう」

 

「心理的な?」

 

「あれだけ体格に恵まれていれば、力の差がありすぎて全力を振るうだけで相手をケガさせてしまうこともあるだろう。だが、全力をもってしても、対等以上に戦える相手に出会えた」

 

「…なるほど、そういうことか」

 

堀田自身も、過去、日本にいた時に経験があるためか、納得する。

 

「今の彼を止めるのは至難の業だ。…どう止める?」

 

「特に策を講じる必要はない。このまま行く」

 

「何か考えがあるのか?」

 

「お前も分かっているのだろう?」

 

「……分かった。なら、そうしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

バスカンにより、フリースローラインでボールを受け取る紫原。

 

「(決めろ…!)」

 

『決めてくれ!』

 

両手を顔の前に組んで祈る陽泉選手達。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

『よおぉぉぉしっ!!!』

 

紫原、決して得意ではないフリースローをきっちり決める。

 

 

花月 51

陽泉 43

 

 

花月リスタート、三杉がボールをキープする。

 

三杉の前に立ち塞がるのは、氷室と木下。

 

「…」

 

三杉はすぐに大地にパスをし、大地はインサイドの堀田にボールを渡す。

 

「…」

 

「…」

 

何度目となる2人の激突。

 

「ぬぅっ!」

 

「んのぉ!」

 

堀田が強引にシュートをする。紫原はブロックに向かう。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに弾かれる。

 

 

――ポン…。

 

 

そのルーズボールを、三杉がタップで押し込んだ。

 

『おしい!』

 

『けど、堀田からの失点は防いだぞ!』

 

此度の激突は、紫原に軍配が上がる形となった。

 

「…」

 

堀田は、特に反応することなく、ディフェンスへと戻っていく。

 

「行けるぞ! みんな、ここが正念場だ! 最後の1滴まで絞り出せ!」

 

『おう!!!』

 

陽泉のオフェンス……。

 

ゲームメイクをする氷室に対し、マークするのは三杉。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

氷室がドライブを仕掛ける。

 

その氷室を、三杉が猛追する。三杉の背中には、劉のスクリーンが待ち受けていたのだが、三杉はそれを反転しながらかわす。

 

「スクリーンにかからないのは分かっている!」

 

三杉がスクリーンをかわせば、ほんの僅かだが、氷室を追いかける際に遠く膨らなければならず、その瞬間、氷室がノーマークになる。その一瞬を狙って紫原にパスを出す。

 

ボールを受け取った紫原は…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

再び、トマホークで堀田の上からボールを叩きつける。

 

『すげぇ! もう、紫原は誰にも止められない!』

 

「…マジかよ」

 

堀田から連続で点を決めた紫原を、茫然と見送る空。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

続く、花月のオフェンスは、紫原にブロックされ、失敗する。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

ルーズボールを劉が拾い、それを氷室に託し、紫原がフィニッシャーとなり、再び得点を重ねる。

 

「くそ…」

 

じわじわと縮まる点差を目の当たりにし、焦りの色が見える花月選手達。

 

攻守が切り替わり、花月のオフェンス。

 

三杉が大地にボールを渡し、大地がインサイドへ切り込んでいく。

 

「っ!?」

 

そこへ、紫原のプレッシャーが大地を襲う。

 

「(くっ! 今の私では、紫原さんは突破出来ない…!)」

 

パスに切り替え、堀田にパスを出そうとする大地だが、劉がディナイに入った為、それを断念。

 

「大地!」

 

逆サイドで空がボールを要求し、そこへ大地がパスを出す。

 

「っ! 綾瀬、出すな!」

 

「えっ?」

 

三杉が声を張り上げるが、僅かに遅く、大地は空へパスを出してしまう。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ! しまった!?」

 

「若いな」

 

大地が出したパスは、パスコースを読んでいた氷室によってスティールされてしまう。

 

『ターンオーバーだ!』

 

「走れ!」

 

氷室の掛け声を合図に、陽泉選手達がフロントコートへと走り出す。

 

「くそっ!」

 

ターンオーバーとなり、全速力で自陣へと戻っていく花月側。

 

「…っ」

 

やはり、スピードと運動量が豊富な選手が揃う花月側。戻りが速く、すぐさまディフェンス態勢を整える。

 

『うわぁ、花月戻りはえー!』

 

ローポストに紫原が立ち、堀田がマーク。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

氷室がドライブで切り込む。対峙するは三杉。背中には劉のスクリーン。

 

背中のスクリーンをかわしながら氷室を追いかける三杉。それと同時に大地と天野が紫原に対してディナイをかける。

 

切り込んだと同時にパスを出す。

 

「あっ!?」

 

思わず大地が声を上げる。氷室がパスを出したのは、紫原ではなく、スリーポイントラインの外側にいる木下だった。

 

「くっ! 間に合え!」

 

大地がすぐさま木下のチェックに向かう。木下、スリーポイントラインから1メートル離れた場所に立っていたが、構わずシュートを放つ。

 

192㎝という長身から放たれる高い打点に加え、スリーポイントラインから1メートル離れたところからシュートを放った為、スピードと跳躍力がある大地でも届くことなかった。

 

「入れ!」

 

決死の思いを放ったボールに込める。ボールの行方は……。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

ボールは、リングの中央を潜った。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!」

 

起死回生のスリーを決めた木下は絶叫しながら喜びを露わにする。

 

「…私は、何てことを…!」

 

オフェンス時は氷室にパスカットされ、ディフェンスではアウトサイドシューターの木下のマークを外してしまうという失態。

 

悔しさを露わにする大地。

 

「…仕方がない。氷室の方が1枚上手だっただけだ。まだ、逆転されたわけではない。切り替えろ」

 

肩にポンっとそっと手を置き、激励する三杉。

 

流れは完全に陽泉に傾いた上に、内と外と、的が絞れなくなった最悪の状況。現状の悪さを理解してしまっているため、焦りは拭えない。

 

一時、11点もあった点差も、3点まで縮まっている。

 

『3点差だ!』

 

『スリーなら同点だ!』

 

会場のボルテージは最高潮。

 

『陽ー泉! 陽ー泉!』

 

流れは陽泉にある。

 

「…」

 

三杉がゆっくりとボールを進めていく。

 

変わらず、三杉の前には氷室と木下が。

 

「流れも勢いもこちらにある。そして、敦を止めることも、突破することもできない。残り時間は僅か。もう、打つ手はない」

 

氷室が、三杉を焦らせる目的も含めてトラッシュトークを仕掛ける。

 

「……まだ、時間は充分にある。結論を出すのは早いんじゃないかな?」

 

一切動じることなく、そう返す。

 

最大の集中力をもって三杉をマークする氷室と木下。

 

「…会場がうるさいね。少し、静かにしてもらおうか」

 

そう呟いて、三杉が動く。

 

シュートフェイクを入れて木下をかわし、そのままドライブ。

 

「行かせるか!」

 

ドライブに対応した氷室が三杉に追いかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

バックロールターンで氷室をかわした。

 

『氷室と木下を抜いた!』

 

そのまま紫原に突っ込み、三杉と堀田の2人、2対1のアウトナンバーで紫原に対抗するかと思われたが…。

 

「なに!?」

 

三杉は、堀田にパスをし、数的有利を消してしまった。

 

そして、堀田と紫原の対決。

 

「どういうつもり? もう、お前1人じゃ、俺には勝てないよ?」

 

堀田の背中から囁くように言い放つ。

 

「…もう、お前が俺を止めることはない」

 

そう返し、そのままリングに向かって跳躍する。

 

「無駄だって、言ってんだろ!」

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

堀田のダンクを、紫原がブロックする。

 

「よし! 紫原の勝ちだ!」

 

ブロックを確信し、拳を握る陽泉選手達。

 

「っ!?」

 

その瞬間、紫原の腕に強大な衝撃が襲い掛かる。紫原のブロックは、どんどん押されていき…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

「ぐぁっ!」

 

ブロックに向かった紫原は弾き飛ばされ、ボールはリングへと叩きつけられた。

 

『……』

 

静まり返る会場。ゆっくりと着地する堀田。

 

「(あいつ(堀田)の力が急に上がった…)」

 

座り込みながら茫然とする紫原。

 

『さっきまで互角だった紫原を吹っ飛ばした…』

 

「まさか、あいつもゾーンに入りやがったのか?」

 

今の光景を見ていた火神がそう結論する。

 

「…いや、そんな感じはしねぇ」

 

その考えを、青峰が否定する。

 

「…」

 

紫原を一瞥すると、堀田は自陣に戻っていった。

 

「くそ…待て…!」

 

それを見て紫原が立ち上がり、フロントコートまで走っていく。

 

会場が未だ、不気味な静けさをする中、氷室がゲームメイクをしている。

 

氷室がハイポストの劉にパスをし、そこからローポストの紫原にボールを渡す。

 

「もう1回、叩き込んでやる!」

 

紫原が堀田を押し込み、そのままボールを片手に持って跳躍する。

 

再び、トマホークで堀田の上から叩き込もうとする。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「なっ!?」

 

だが、堀田はあっけなく紫原の手に収まるボールを片手で叩き落とした。

 

その光景を、紫原は目を見開いて驚愕する。

 

「そんな…、敦のトマホークをこうもあっさり…」

 

氷室も茫然としていた。

 

ルーズボールを空が拾い、そのまま前方に投擲する。そこには、すでに三杉がフロントコートまで走っていた。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを受け取った三杉がワンマン速攻をし、そのままリングにボールを叩きつけた。

 

「…くっそ!」

 

立ち上がろうとする紫原だったが…。

 

「あっ…」

 

足に力が抜けてしまったかのようにその場に膝から落ちる。

 

「なん…で? 力が…入ら…ない…」

 

自身に起こっている身体の異変に戸惑いを隠せなかった。

 

「……時間切れだ」

 

「な…に…?」

 

座り込む紫原に、堀田が告げていく。

 

「ゾーンの限界時間が来たのだ」

 

「っ!? 何で…? さっきまで、力が溢れてきてたのに…」

 

「それは、集中力が高まり、ゾーンの深奥にさらに潜っていったからだ。だが、もう、お前の身体は限界…いや、とっくに限界を超えていた。もっとも、俺への対抗心か、それとも怒りか、それらが影響して、自覚がなかったようだがな」

 

「っ!?」

 

堀田の口から告げられた事実に、言葉を失う紫原。

 

「アメリカでは、ゾーンに入る素質がある者…、特に、センターのポジション担う者は、ゾーンに入る条件を満たしても、あえてトリガーを引かない。それは、今のお前のように体力を使い尽くしてしまうからだ」

 

バスケにおいて、もっとも消耗するポジションはセンターである。それは、センターの戦場がゴール下であるからだ。

 

常に敵と味方のゴール下で肉弾戦が求められるセンタープレイヤー。体力、筋力の消耗が激しく、状況や試合によっては、あっという間に限界がきてしまう。

 

「察するに、お前がゾーンに入ったのはこれで2回目だろう?」

 

「っ!」

 

「ゾーンに入った時の、他を圧倒し、全てが思い通りになるあの感覚は、麻薬に近い。故に、それに溺れて攻守に渡って動き続ければ、気が付かない内に体力は空になる。第2Q途中まで守備に専念していたとは言え、第4Qの頭からゾーンに入ったことを考えれば、ここが限界だ」

 

「…そん…な」

 

拳を握り、悔しさを露わにする紫原。

 

「お前は、ゾーンを使いこなすにはまだ鍛え方が足りない」

 

「くっ…そ…!」

 

「だが、ここまでお前はよくやった。お前は間違いなく、俺を…いや、俺達を追い詰めた。その事実に、敬意を表する」

 

それを告げ、堀田は自陣に戻っていった。

 

「くそ…くそ…くそぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

紫原は床を何度も叩きつけ、声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り13秒。

 

花月 55

陽泉 50

 

 

陽泉のオフェンス。

 

「ハァ…ハァ…」

 

インサイドで、紫原が呼吸を大きく乱しながら立っている。

 

「くっ!」

 

先ほどまで流れが一気に途絶え、紫原は限界を迎えてしまった事実が、氷室を焦らせる。

 

「(まだだ! まだ追いつける!)」

 

氷室は、胸中で自分に言い聞かす。

 

「(劉がスクリーンに入った。彼はそれを理解しているはず。なら、それを逆手に取る!)」

 

頭の中でオフェンスプランが出来上がる。

 

氷室は、ドライブで三杉の横を抜けていく。

 

だが、それはフェイク。本命は…。

 

「(この試合、俺はスリーを1度も打っていない。過去の試合でも印象に残るほど打っていない。ここで決められる自信もある。スリーを決めて、オールコートディフェンスを仕掛け、もう1本取る!)」

 

氷室がスリーの態勢に入る。

 

 

――バチィィィィン!!!

 

 

「なっ!?」

 

だが、氷室がスリー態勢に入ろうとしたその瞬間、その手に収まっているボールを三杉が叩き落とした。

 

「そう来ると思っていたよ。君は過去の試合でも、何本かスリーを打っていたからね」

 

「バカな!? 県予選の…それも、ノーマークで数本打った程度だぞ!?」

 

「主将であり、エースである君のデータを見落とすことなど、あり得ないよ」

 

氷室の手からこぼれたボールを三杉が拾い、そのままワンマン速攻。トドメを刺しに行く。

 

「(動け…動けよ! どうして動かないんだよ!)」

 

ワンマン速攻で、どんどん陽泉ゴールに迫る三杉。

 

自分の身体ではないかのように重い身体。動かない脚。

 

「(どうして! 去年も最後の最後で…! 動けよぉっ!)」

 

紫原は強引に足に力を込める。

 

「(火神だって、限界を超えてきた。…俺だって、出来るはず! …いや、やんなきゃダメなんだよ!)」

 

 

 

――ダッ!!!

 

 

 

渾身の力を足に込め、最後の力を振り絞る。

 

立ち上がると、全速力で自陣ゴール下まで戻っていった。

 

「…へぇ、これは予想外だ。さすが、健が認めただけのことはある」

 

紫原を確認する三杉。再びゾーン状態に戻ったことを理解する。

 

「こっちだ!」

 

反対側に現れた堀田がボールを要求する。

 

「分かった。最後の勝負をするといい」

 

要求どおり、堀田にボールを渡す。

 

「来いよ!」

 

両腕を広げ、ゴールを守護する紫原。

 

「…紫原敦…。俺はお前と戦えたことを誇りに思う。そして、改めて、お前という選手を尊敬する」

 

堀田がボールを掴み跳躍する。

 

「次、お前と戦う時、その時は、お前を、最大にして最高のライバルとして迎え撃とう」

 

紫原もブロックに飛ぶ。

 

「眠れ、最高の戦士よ。これで終いだ」

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

ブロックに飛んだ紫原。

 

だが、紫原に、堀田を止めるだけの力は、残っていなかった。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

そして、ここで試合終了のブザーが鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

両校の激闘は……。

 

 

 

 

 

 

今ここで、終結した……。

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





陽泉戦、これにて終了です。

本当は、去年までに終わらせたかったのですが、間に合いませんでしたorz

ペースが落ちてきたので、ここいらでペースを元に戻せれば……。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!


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