黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

かなりの難産でした(^-^;)

それではどうぞ!


第36Q~絶対防御~

 

 

 

 

――おぉぉぉぉーーーっ!!!

 

 

 

観客の歓声が会場中に響き渡る。

 

現在、コートでは桐皇学園の試合が行われている。

 

 

――バス!!!

 

 

桐皇学園のエースである、青峰大輝が、ダブルチームをかわし、確立されたフォームに捉われない、無造作に放り投げるようにシュートを放ち、得点を決める。

 

試合は第2Q半ばに突入しているが、この時点は点差はダブルスコア近くまでついており、もはや勝敗は決まったも同然だ。

 

桐皇学園、そして、青峰、本日がインターハイ初めての試合であるが、番狂わせなどあり得ず、確実に点差を広げていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「盛り上がってるなー」

 

現在、試合のための準備をしている空が、控室にまで届く歓声に耳を傾ける。

 

「桐皇の試合でしょうね。あそこは超攻撃的なチーム。派手さもあります。今日の相手を考えても、桐皇勝利は揺るがないでしょうね」

 

空のポツリと呟いた言葉に大地が続く。

 

これから始まる2回戦に向け、花月の選手達は準備をしている。

 

今日の相手は陽泉高校。最硬のディフェンス力を誇るチームであり、キセキの世代のセンター、紫原を擁するチームである。

 

手強い相手のため、選手達は普段より緊張しているためか、口数も少ない。

 

中でも、1番様子が違うのは…。

 

「フー…フー…」

 

控室のベンチに座り込み、アップが済んだのか、頭からタオルを被り、試合を今か今かと待ち構える堀田。

 

「…三杉、試合はまだか」

 

「慌てるな、健。試合までまだ時間がある」

 

タオルの下から、鋭い眼光を覗かせながら尋ねる堀田。そんな堀田を鎮めるように言い聞かす三杉。

 

「…堀田さん、気合入ってますね」

 

その鋭い眼光に気圧される空。

 

「当然さ。今日の試合は健にとっては特別な試合だからね。紫原敦は、日本で唯一、健と互角に戦えるかもしれない選手だ。健は、言わば彼と戦うために日本に来たと言っても過言ではない」

 

センターとして、圧倒的な能力を備える堀田。そんな堀田と同ポジションであり、10年に1人の逸材と称されるキセキの世代のセンターである紫原敦。

 

「他と潰し合う前に対戦できることを望んだが、それが叶ってくれたことを神に感謝しなければならないな。今日は久しぶりに、本気が出せそうだ」

 

堀田がタオルの下から不敵な笑みを浮かべ、指の骨を鳴らす。

 

『…(ゴクリ)』

 

普段は冷静で、自他ともに厳しく、一部の者からは武士でまで呼ばれる堀田の今の様子を見て、他の者達は息を飲む。

 

気合、集中力共に普段とは段違いである。

 

天才と称される紫原と、今の堀田が激突すればどうなるか。試合が始まる前から緊張は隠せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

一方、陽泉側控室。

 

こちらも、言葉を発する者は少なく、黙々と試合に向けて準備を進めている。

 

「…っ! …っ!」

 

入念に身体を解していく氷室。普段の試合前より念入りに行っている。

 

「ほどほどにしとくアル。氷室」

 

そんな氷室を諫めるチームメイトであり、中国からの留学生、劉。

 

「…俺はエンジンのかかりが遅いからね。今日は、スタートから全開で行くためにも、普段より、入念にやっておかないと…」

 

「…」

 

鬼気迫る表情で柔軟をこなす氷室。劉は、そんな氷室を目の当たりにして思わず冷や汗が流れる。

 

「その言葉は、俺よりも敦に言った方がいいんじゃないか?」

 

目線で紫原を指す氷室。

 

「っ!? おいおい、紫原、すげー汗だな!?」

 

噴き出すような汗を流す紫原に気付いたチームメイト。

 

「…」

 

頭からタオルをかけ、両膝の上で拳を作り、ベンチに座っている。

 

「おい、紫原。やりすぎだぞ。それじゃあ、試合でバテて――」

 

「今、話しかけないで。…集中してるから」

 

「っ!?」

 

タオルの下から一瞬覗いた、紫原の鋭い眼光。

 

普段であれば、試合前のこの時間であっても、呑気に持参した駄菓子を頬張っている様子が見られる紫原だけあり、他の陽泉選手達も戸惑っている。

 

インターハイ開催前は、初戦はノーマークであった。だが、前日の試合で、初戦の相手が最大の鬼門であったことを目の当たりにした。

 

大慌てでその夜に対策を立てるも、三杉と堀田が出場したのは、県予選1回戦の第1Qと、決勝リーグの最終戦。それと、前日のインターハイ初戦のみ。

 

普段であれば、しっかり対策を立てて試合に臨むのだが、情報不足のため、不安は否めない。

 

紫原も、今日の相手が強敵であることを理解し、激闘を覚悟してか、今までにない程に集中している。

 

陽泉選手一同。試合に向け、黙々と準備を進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

桐皇学園の試合は、桐皇の完勝で終わり、会場を大いに盛り上げた。

 

その後、試合はスケジュール通り、滞りなく進んでいった。

 

 

――ざわ…ざわ…。

 

 

試合が進行するにつれ、観客の興味は、花月高校と陽泉高校の試合へと向けられていた。

 

絶対防御(イージスの盾)と称される程の守備力を誇る陽泉高校。

 

前日、圧倒的な強さで相手校を圧倒し、観客の注目を集めた花月高校。

 

その両校の試合を今か今かと待つ観客達と、インターハイに参加する選手達。

 

 

 

――来たぞ!!!

 

 

 

コートへの入場口から、選手が現れる。最初に現れたのは花月高校の選手達。

 

ジャージを肩にかけた三杉を先頭に、悠々と入場する。

 

続いて、陽泉高校の選手達が入場する。

 

高身長選手が多く揃った陽泉高校。他を圧倒しながら堂々と入場していく。

 

それぞれの選手達がそれぞれのベンチへと向かっていく。

 

双方が、目前に控える試合の準備をしていく。

 

 

「今日はよろしく頼む、荒木」

 

「こちらこそ、あなたのチームと試合できて光栄です、上杉さん」

 

両校の監督、上杉と荒木が握手しながら挨拶をする。

 

「そうかしこまるな。実績はお前の方が上だ。今日は、胸を借りるつもりで挑ませてもらおう」

 

「ご謙遜を。…あなたの教え子より、私達が上回っていることをここで証明させてもらいます」

 

2人はにこやかに握手を交わすと、各々のベンチに向かっていった。

 

 

 

「荒木監督、花月高校の監督と知り合いなんですか?」

 

部員の1人が、先ほどのやり取りを見て尋ねる。

 

「…私達の世代でバスケをしていて、知らない者はいない。元日本代表、サムライと呼ばれていたあの人のことをな」

 

陽泉の監督、荒木は、フッと笑みを浮かべながら答える。荒木は、すぐさま表情を改めると、選手達に振り返る。

 

「今日の相手は強い。皆、今日がインターハイの決勝のつもりで挑め」

 

『はい!』

 

「それと、紫原」

 

「なにー?」

 

「今日はつまらんミス1つが命取りになりかねない。間違ってもジャンプミスなどするなよ?」

 

「うん。気を付ける」

 

荒木の忠告に、紫原は返事をした。

 

「まずは最初の1本。奇襲を仕掛けて先手を取る。うちが今までほとんど見せていないパターンだ。まずはそれで相手のリズムを崩す。後は前日のミーティングと変更はない。各自、気を引き締めて行け」

 

『はい!』

 

「初戦だ、気合入れて行こう!」

 

『おう!!!』

 

氷室の掛け声に選手達が応え、スタメン達がコートに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月側ベンチ、ベンチに座りながら準備を進めるスタメン達の前に上杉が立つ

 

「陽泉のディフェンスは硬い。崩すとなると、簡単にはいかないだろう」

 

スタメンの5人は上杉の言葉に耳を傾ける。

 

「ボールは止めるな。ガンガン打ってけ。あの鉄壁のディフェンスをこじ開けるには、打ち続けて穴を突く他はない。うちには強力なリバウンダーが2人もいる。ガンガン行け」

 

『はい!』

 

「紫原の相手は堀田に一任する。存分にやれ」

 

「はい。そのつもりです」

 

指名を受けた堀田はニヤリと笑みを浮かべながら返事をする。

 

「お前たちは強い。行ってこい!」

 

「さあ、行こうか」

 

「はい(おう)!!!」

 

三杉の号令で、スタメン達はコートへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『来たぞ!』

 

『待ってました!』

 

両校のスタメンがコートに入っていくと、観客達が沸きあがった。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

4番SG:三杉誠也 190㎝

 

5番 C:堀田健  204㎝

 

8番PF:天野幸次 192㎝

 

10番PG:神城空  179㎝

 

11番SF:綾瀬大地 182㎝

 

 

陽泉高校スターティングメンバー

 

4番SG:氷室辰也 184㎝

 

5番PG:永野健司 180㎝

 

7番SF:木下秀治 192㎝

 

8番 C:紫原敦  209㎝

 

9番PF:劉 偉  203㎝

 

 

『うおー! やっぱり陽泉でけー!』

 

『イージスの盾は健在だ!』

 

ビックマンが多い、陽泉に絶叫する観客達。

 

『花月高校だ…』

 

『昨日の試合はやばかったから、番狂わすもあり得るぜ!』

 

対して、花月側。圧倒的威圧感を放つ堀田。薄く微笑んでいる三杉。ニコニコしている空に、首を鳴らしている天野、表情を引き締めている大地。

 

各選手が対照的な花月側のスタメン達。昨日の試合のインパクトは充分であったため、歓声もひと際大きい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「相変わらず、陽泉のスタメンには圧倒されるな…」

 

観客席、誠凛の選手達が並んでいる。

 

選手達、及び監督であるリコの目は赤く、それは、先ほどまで悲しみに暮れていたことを意味していた。

 

「皆、次の戦いはもう始まってるのよ。選手の分析、いいプレーは学ぶのよ」

 

リコが観客席に集まっている誠凛選手達に言い聞かす。

 

「2メートル越えの選手が1人減ったとはいえ、それでもインサイドは驚異だな」

 

「それでも、今年スタメンに抜擢された7番は190㎝越えの選手だ。相変わらず、陽泉にはでかい選手が集まるな」

 

伊月と日向が陽泉を見た感想を言い合う。

 

「今年の陽泉は去年と同等…いえ、去年を凌ぐディフェンス力を誇るわ。…けど、もちろん、それだけじゃないわ」

 

リコは表情を引き締める。そんなリコに誠凛選手達は注目する。

 

「今年スタメンに抜擢された選手から、まず、PG、永野健司。クィックネスに長けたスラッシャータイプの選手。テクニックと身体能力だけなら、去年のPGの福井健介を上回っているわ」

 

「去年、ベンチだったのは、やはり、3人もいたビックマンの関係か?」

 

日向が自身の疑問を問う。

 

「そうね。去年は2メートル超えのビックマンが3人もいたから個人スキルの高い永野君より、プレイメーカーである福井さんの方が適任だったのよ。けれど、今年はビックマンが1人減ったから、彼のドライブテクニックが生かしやすい環境になった」

 

「で、でも、今年スタメンになった木下って人もビックマンと言っても差支えないと思うんですけど…」

 

2年生の降旗が頭に浮かんだことを口にする。

 

今日の陽泉のスタメンである木下も、2メートルはないものの、それでも190㎝を超えている。

 

「降旗君の言いたいことも分かるわ。けれど、木下秀治は、中でプレーする選手ではないのよ」

 

「というと?」

 

「木下秀治。192㎝の身長誇るアウトサイドシューター。シューターとしては、緑間君に次いで高身長よ」

 

「…あいつ、シューターなのか」

 

驚いた表情で木下に視線を向ける日向。

 

「高い打点からスリーを放つ、秋田県でも1・2位を争うシューター。ノーマークなら高確率で沈めてくるピュアシューターよ。つまり、彼は外に展開することが多いから、インサイドの選手は去年より1人少ないのよ」

 

「…陽泉には、まだあんな奴がいたのか…」

 

伊月が冷や汗を流す。

 

「今年の陽泉は、異名どおりのイージスの盾に加え、飛び道具が加わった。ディフェンスだけじゃない、オフェンスも驚異よ」

 

『…(ゴクリ)』

 

誠凛選手達が息を飲んだ。

 

「次は、花月ね」

 

今度は陽泉の相手である花月側に注目する。

 

「花月側の目玉はやはり、4番と5番。三杉と堀田よ。昨日の2人を見て…火神君はどう感じた?」

 

リコは、火神に問いかけた。

 

「そうッスね。…昨日の試合は正直、ほとんど底を見せてなかったッスけど、少なくとも、あの2人は、キセキの世代と同等の実力を持っていると思います」

 

「…俺も同感だな」

 

火神の意見に伊月も賛同する。

 

「神城も綾瀬も、スピードとスタミナだけならキセキの世代を凌駕している。帝光中を破って全中を制した実力は本物だ」

 

「…」

 

「…ちっ!」

 

日向の分析に、新海は眉を顰め、池永は舌打ちをした。

 

「三杉、堀田、神城、綾瀬。とんでもない奴が集まったもんだな…」

 

「…(フルフル)」

 

土田の言葉に、水戸部が首を横に振った。

 

「―――」

 

「何だって?」

 

「んと、8番の天野も侮れないって。目立たないけど、きっちりポストプレーはこなすし、リバウンドは強い。特にディフェンス能力は、キセキの世代にも匹敵するって」

 

何かを伝えようとしている水戸部の言葉を小金井が変わって代弁する。

 

「そのとおりよ。天野君が影となって支えてるからこそ、他の4人がより輝くことができる。良い選手よ」

 

「…正直、情報が足りないな。とりあえず、どっちが勝ってもおかしくないってことだな」

 

「ああ。どっちが勝つか。その答えは、この後分かる…」

 

花月高校、陽泉高校の選手達が、センターサークル内に整列したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

両校の選手達がセンターサークル内に並ぶ。

 

「(っ! でっけー…)」

 

空が、目の前に立つ紫原を下から覗くように観察する。

 

「(堀田さんより高い209㎝。今大会、最高身長だもんな。改めて見ると、すげーデカいな…)」

 

空とは30㎝もの身長差がある。見上げることでようやく紫原の顔を覗くことができる。

 

「んー、なにー?」

 

空の視線に気付いた紫原が、見下ろすように空に声をかける。

 

「いや、何食ったらそんなデカくなれんですか?」

 

空が自分の頭から紫原の頭の高さまで手を上げながら質問する。

 

「んー……お菓子?」

 

「…うそー」

 

選手が並び終え、整列が始まる。

 

「これより、花月高校対陽泉高校の試合を始めます」

 

『よろしくお願いします!』

 

両校の選手達が頭を下げる。

 

「いい試合をしよう」

 

各校の主将が前に出て、氷室が手を差し出す。

 

「ああ。楽しませてもらうよ」

 

その手を三杉が握り、双方、にこやかに握手を交わした。

 

「…(氷室辰也。キセキの世代に最も近しい実力者。…相手してみてぇなぁ!)」

 

「…(キセキの世代に匹敵する実力者の氷室辰也さん。今の私が、どれだけ通用するか…)」

 

空、大地は、氷室を見て胸中でそう考える。

 

ジャンプボールとなり、花月側は堀田。陽泉側は紫原がセンターサークル内に立つ。

 

「…紫原敦。俺はお前との勝負を何より待ち望んでいた。今日は楽しませてくれよ?」

 

不敵な笑みを浮かべながら紫原に告げる。

 

「…ふーん。楽しんでいけばー? ……そんな余裕、すぐに無くなるだろうけど」

 

目付きを鋭くした紫原は、堀田の言葉にこう返した。

 

センターサークル内の中央に立つ堀田と紫原。

 

2人の間にボールを持ちながら立つ審判。

 

「(…この選手は、充分な高さに放ったつもりでも届いてしまう。ティップオフの時は注意しないと…)」

 

審判は、紫原を見ながら自身に注意を促した。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

審判がボールを充分な高さにボールを放った。

 

「「っ!」」

 

それと同時にジャンパーの2人が同時に飛ぶ。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

互いが同じ高さで同時にボールを叩いた。

 

「なっ…!?」

 

『なにぃーーーーっ!!!』

 

それを目の当たりにした観客が驚愕した。

 

「敦と互角!?」

 

これには、陽泉側も驚きを隠せなかった。

 

最高到達点だけなら誠凛の火神すらも上回る高さを誇る紫原。その紫原と互角の勝負するなど、考えもしなかった。

 

「おいおい、マジかよ…」

 

観客席のアレックスも驚く。

 

 

――バチィン!!!

 

 

同時叩かれたボールは弾かれるようにこぼれていく。

 

「ほう」

 

「ちっ!」

 

ジャンプボールで負けるなどと露ほども考えなかった堀田と紫原。堀田は感心し、紫原は舌打ちをする。

 

こぼれたボールは陽泉の木下のところへ。木下がボールを確保しようとしたところ…。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

そのボールに素早く大地が飛び込み、ボールを確保した。

 

「くっ!」

 

先に奇襲を仕掛けたかった陽泉側。それが失敗したことに監督の荒木は眉を顰めた。

 

ボールを掴んだ大地は相手ゴールへとそのままドリブルしていく。

 

「行かせるか!」

 

その前に立ちはだかったのはPGの永野。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

大地が左からの右のクロスオーバーで永野を抜きにかかる。

 

「この程度…!」

 

永野もそれに何とか食らいつき、その動きに付いていく。だが…。

 

「ぐっ!」

 

大地はその直後にバックロールターンで反転し、永野をかわした。

 

「抜いたー!」

 

永野をかわした大地。そこから先には、相手ディフェンスはおらず、そのまま相手リングへとドリブルしていく。

 

そのままペイントエリアまで侵入していく。。

 

『先制は、花月高校だ!』

 

大地はレイアップの態勢に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ハァ? そんなわけないじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

そのレイアップはブロックされた。

 

『きたー! 紫原のスーパーブロック!』

 

ブロックしたのは紫原。

 

「(そんな…、ジャンプボールに参加していた紫原さんに追いつかれた!?)」

 

その事実に目を見開きながら驚愕する大地。

 

全速ではなかったにしろ、大地はレイアップに入るまで決してスピードを緩めなかった。木下をかわすためにスピードを緩んだ隙に紫原は自陣ゴールまで戻っていた。

 

「(ボールを持っていたとはいえ、大地のスピードに追い付くとか、どんなスピードしてんだよ!)…まだだ!」

 

ルーズボールを拾ったのは、同じく走りこんでいた空。ボールを拾った空はすぐさまシュート態勢に入った。

 

「させると思ってんの?」

 

「っ!?」

 

だが、その眼前には、ブロックに来ていた紫原の姿があった。

 

「(何て反射神経だ!)…ちっ!」

 

空はシュートを止め、パスに切り替える。ボールを受け取ったのは三杉。

 

「来い!」

 

その前に立ち塞がるのは、氷室。

 

三杉は、すぐさまシュート態勢に入った。

 

「(打たせ……違う、これは!?)」

 

シュートブロックをしようとする氷室だが、すぐに気付く。三杉が飛んでいないことに。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、瞬間的に三杉のフェイクに釣られ、両手を上げようとした隙に三杉が氷室の左側から抜ける。

 

そして、すぐさまシュート態勢に入る。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

だが、そのシュートは紫原によってブロックされてしまう。

 

「嘘だろ…、三杉さんがブロックされた…」

 

その事実を目の当たりにした空は驚愕する。

 

「よし、速攻!」

 

「ちっ、やべ!」

 

ブロックされたボールは永野が拾い。そのままフロントコートまでドリブルをしていく。

 

花月選手達は、速攻を阻止すべく、すぐさま自陣まで下がっていく。永野よりも早く自陣ゴールまで戻り、振り返ると…。

 

「えっ!?」

 

「これは!?」

 

振り返った先に見えた光景に目を見開いた。

 

 

 

 

――紫原、自陣ゴール下から動かず。

 

 

 

 

すでに、ボールは陽泉側に渡り、ボールはフロントコートまで進んでいるというのに自陣ゴール下から動かない紫原。

 

「去年の試合映像にもあったけど、これは…」

 

全くオフェンス参加をしない紫原に戸惑いを隠せない空と大地。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おいおい、紫原の奴。また去年みたいにものぐさ出したんじゃないだろうな?」

 

「…いえ、今回は違うと思います」

 

観客席の火神が怪訝そうな表情で呟くと、黒子がその言葉を否定する。

 

「何か様子が変です。あの表情、明らかに去年とは違う…」

 

「私も同意見よ。恐らく、2つの理由があるわ。まず1つは、失点を最小限に抑えること。もう1つは、体力の温存よ」

 

「体力の温存?」

 

「紫原君は、オフェンス、ディフェンス共にかなりの能力を有しているわ。けれど、それを試合を通じて発揮できるほどまだ身体も体力もできていない。花月高校相手に第1Qから攻守の両方をこなしていては、最後までもたない」

 

『…』

 

「だから、序盤は昨年と同じように守備だけに専念させ、失点を抑えると共に体力を温存させるのが陽泉側の狙いよ。後半の勝負所で力を発揮できるように」

 

「なるほど…」

 

リコの分析結果に、誠凛の選手達は納得する。

 

「ディフェンスに専念した紫原から点を取るのは至難の業だ。花月はどうやってあの絶対防御(イージスの盾)を突破するか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「やれやれ、あれを突破するには、一筋縄では行かないな」

 

「そのようだな」

 

三杉と堀田がディフェンスをしながら話し合っている。

 

「…それにしても、監督の目論見どおりになってしまったね」

 

試合前、2人は上杉に告げられていた。

 

『陽泉の監督、荒木の性格を考えて、序盤…おそらく、第3Qまで紫原はゴール下で守備に専念させるだろう』

 

「どうする? これでは、健の望む勝負は出来ないぞ?」

 

「…そう来るなら、こっちにも考えがある」

 

堀田が不敵な笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

ボールは、スリーポイントライン外側で永野がキープしている。マークしているのは空。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

永野は得意のドライブで花月のインサイドへカットイン。

 

「遅い!」

 

空は、すかさず反応し、進路を塞ぐ。

 

「ちっ!」

 

永野は止まると、左アウトサイドに展開していた木下にパスをする。

 

「打たせませんよ」

 

大地がすぐさまチェックに入り、木下の懐に入る。

 

「ぐっ…!」

 

木下のスリーを警戒した大地は、フェイスガード気味のタイトなディフェンスをする。

 

身長差はあるものの、懐に入られているため、シュート態勢に入れない。かといって、木下はドライブをあまり得意とはしていないため、切り込むこともできない。

 

「こっちアル!」

 

ローポストで劉がボールを要求。木下、頭の上で構えていたボールをそのまま劉へと投げる。

 

「あかん!」

 

スティールしようとした天野だが、紙一重でボールに届かなかった。

 

「行くアル!」

 

ボールを貰った劉がそのまま反転してシュートを放った。

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

だが、そのシュートは堀田にブロックされる。

 

「うおー! すげーブロック!」

 

「(とんでもないパワーアル!)」

 

ブロックをされた劉本人もそのパワーと圧力に圧倒される。

 

ルーズボールは、氷室が確保した。

 

「いかせっかよ!」

 

すぐさま空がヘルプにやってきた。

 

「(身長差はそんなにねえ、絶対止める!)」

 

集中力を最大にしてディフェンスに臨む。

 

 

――スッ…。

 

 

氷室はシュート態勢に入った。

 

「舐めんなぁっ!」

 

空はブロックモーションに入る。だが…。

 

「えっ?」

 

氷室は、シュート態勢には入っておらず、足は地に付いたまま。

 

「(フェイク!? マジかよ、シュートにいくようにしか見えなかった…)」

 

飛んでしまった空の横を悠々と抜け、今度こそシュート態勢に入った。

 

「こんの! まだだ!」

 

着地した空は今度こそブロックするべく氷室を追いかける。だが、空のスピードと瞬発力をもってしても、ドリブルからシュートへの繋ぎがスムーズな氷室には間に合わない。

 

ボールが、氷室の指から離れる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

「甘いわ!」

 

そのシュートは、堀田によってブロックされた。

 

「(この高さと威圧感、敦並みだ!)」

 

ブロックされた氷室も圧倒されてしまう。

 

「っしゃ、速攻!」

 

「くそっ、戻れ!」

 

今度は花月側のカウンター。堅守を誇る陽泉。すぐさま自陣まで戻り、守備を固める。

 

「なっ…」

 

『なにーーーーっ!!!』

 

自陣コートまで戻った陽泉選手が振り返ると、今度は陽泉側が驚愕をした。

 

 

 

 

 

――堀田、自陣ゴール下から動かず。

 

 

 

 

「まさか、紫原と同じことをやるつもりか!?」

 

これには観客達も驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

 

紫原のブロックショットが炸裂。

 

攻守が入れ替わり、今度は陽泉側のオフェンス。

 

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

 

今度は堀田のブロックショットが炸裂した。

 

攻守が絶え間なく入れ替わる。そのたびに、両チームのセンターのブロックに阻まれる。

 

 

――ざわ…ざわ…。

 

 

当初は歓声を上げて盛り上がっていた観客も、目の前で起こっている異様な光景に、歓声からどよめき、ざわめきに変わっている。

 

両チーム、手を尽くしてオフェンスに臨むが、両チームとも、その強固な壁を突破できない。

 

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

そして、第1Q終了のブザーが鳴り響く。

 

『…』

 

静まり返る会場。

 

「おっ…」

 

 

 

 

――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!!!

 

 

 

 

忘れていたかのように観客の大歓声が会場中に響き渡った。

 

「マジかよ…」

 

「こんなことが…」

 

「おいおい、俺、夢でも見とるんか?」

 

花月側の選手達は驚きを隠せなかった。

 

「なんだよこれ…」

 

「ありえない…」

 

「信じられないアル…」

 

それは、陽泉側も一緒であった。

 

バスケの試合には、双方のオフェンスが激しく入れ替わり、互いに得点を取りまくるハイスコアゲームと、双方がディレイドオフェンスをするか、または、双方共にシュートが決まらない等の理由で得点が入らない、ロースコアゲームがある。

 

この試合は後者だ。

 

だが、双方共に、激しいオフェンスを繰り広げている。

 

 

第1Q終了

 

花月 0

陽泉 0

 

 

双方、試合開始からスコアが凍り付いたかのように動かず。

 

試合は、驚愕の第1Qが終わり、第2Qへと進んでいくのだった……。

 

 

 

続く

 

 

 





ど、どうでしょう…。

裏設定として、陽泉のスタメンの木下は、昨年、氷室が加入するまでスタメンだったという設定と、この試合の審判は、昨年の誠凛対陽泉の審判と同じという設定があります。

なら、書けや! って話ですね(^-^;)

途中であった、プレイメーカーとは、チームの起点となり、戦術的に試合を組み立てる司令塔タイプのプレイヤーのことで、伊月のようなプレイヤーのことを言います。

感想、アドバイス、お待ちしています。

それではまた!

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