黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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再投稿です。

一部、修正、追加しました。

それではどうぞ!


第32Q~インターハイに向けて~

 

 

 

大型連休に行われた遠征試合…。

 

花月高校は東京都の強豪、正邦高校、泉真館を相手に勝利を収めた。

 

静岡県に戻ってきたバスケ部の面々は、先に控えるインターハイ予選に向け、練習に励んでいる。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

体育館中にスキール音が響き渡る。

 

「…」

 

現在、3ON3が行われており、ボールをキープするのは空。その空をマークするのは3年生の真崎。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

左右に揺さぶりをかけ、真崎の横を抜ける。

 

「させへんで!」

 

すぐさま、天野がヘルプにやってくる。

 

 

――スッ…。

 

 

その直後にノールック・ビハインドパスを出す。

 

「とと…」

 

パスの受け手である生嶋は軽くボールでお手玉をするが、何とかパスを受け取る。

 

「止める!」

 

パスを受けるのに時間がかかった隙に馬場がディフェンスに付く。

 

「ふっ…!」

 

ターンアラウンドで馬場をかわしながらシュート体勢に入る。

 

「ぐっ! まだまだー!」

 

馬場は何とか食らいつき、シュートブロックのために飛ぶ。

 

生嶋はそのままシュートに行かず、馬場の脇の下からパスを出す。

 

「よし!」

 

ボールは空に戻り、そのままレイアップに行く。

 

「空坊! 決めさせへんでぇ!」

 

空の前に天野がブロックに現れ、空の前を塞ぐ。

 

空は、持っていたボールを真上にふわりと上げる。

 

「なんやて!?」

 

天野が驚愕の声を上げる。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

空の後ろから、遅れて飛び込んできた松永がボールを掴み、そのままリングに叩きこんだ。

 

「オッケー、ナイス!」

 

空が生嶋と松永とハイタッチを交わす。

 

「神城! まだパスが荒いぞ!」

 

「う、うす!」

 

上杉の怒鳴り声に、背中をピンと伸ばしながら返事をする。

 

「馬場! 真崎! あっさりやられ過ぎだ! そんなことでは試合に出れんぞ!」

 

「「は、はい!」」

 

同じく、怒鳴り声を上げられた3年生、馬場と真崎がビクつきながら返事をする。

 

「とはいえ、だいぶズレが修正されてきた。この分なら、インハイ予選までには充分間に合うだろう」

 

一連のプレーを外から見ていた堀田がこう評価する。

 

「ああ。先日、あれだけあったズレがほとんど修正出来ている。たいしたセンスだ」

 

三杉も、高評価を出した。

 

「次の組、出ろ!」

 

「おっと、出番だ」

 

「ふぅ…、行きましょう」

 

三杉の組と、大地の組がコートに向かう。

 

「大地ー! ぶち抜いてやれ!」

 

外から空がエールを送る。

 

「簡単に言わないで下さい…」

 

引き攣った笑顔をする大地。

 

勝負は、ボールを受け取った大地が三杉に仕掛けるが、上手くいかず、最終的にパスを繋いで堀田にボールを渡し、堀田がボールを決めて終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

練習も、それぞれの自主練を終わり、下校となった。

 

「お疲れー、…ちくしょう、結局1度も三杉さん抜けなかった」

 

制服に着替えた空が悔しそうに点を仰ぐ。

 

「私も同様です。やはり、三杉先輩はまだ遠いですね」

 

同じく、制服に着替えた大地が横に並ぶ。

 

「君達は勝負になってるだけまだマシだよ。僕では勝負にすらならないよ」

 

「俺も、堀田さんに指導してもらってるが、毎度吹き飛ばされているな」

 

生嶋も松永も、高すぎるレベルにげんなりしている。

 

4人は世間話やバスケの話しをしながら歩いている。

 

「そういえば、もうすぐ中間テストだね」

 

「そうだな。部活に集中していたせいで、万全とは言えん。そろそろ準備しないとな」

 

「赤点があると大会への参加が出来ませんからね、早めに準備をしたいところです」

 

「…」

 

ただ1人、空だけがその場で石のように固まり始めた。

 

「くー? おーい」

 

そんな空に気付いた生嶋が空の下に寄り、空の目元で手をヒラヒラさせた。

 

「……あっ」

 

その時、大地があることを思いだした。

 

「…空、今日返却された、数学の小テストを見せてくれませんか?」

 

そう聞かれると、空は震えながら鞄をあさり、手を震わせながら恐る恐る小テストの答案用紙を開いた。

 

「「「…」」」

 

その答案用紙を見た3人が今度は石のように固まってしまった。

 

「…薄々予想はしていましたが、ここまでとは…」

 

「これはひどいな…」

 

「僕、点数にしか丸がない答案用紙って、初めて見たよ…」

 

3人は引き攣った笑顔で感想を述べていく。

 

「…空、花月高校は、赤点を取ると大会への不参加になるということはご存じですよね?」

 

「……マジで?」

 

驚愕の事実を聞き、この世の終わりのような表情をする空。

 

「この調子では、厳しいな」

 

「…まだ中間テストまで幸い、僅かながら期間があります。空は推薦入学者ですから、赤点のボーダーラインも下がっていたはずです。今から缶詰にして叩きこめば…」

 

「えー、勉強漬けとか勘弁だわー」

 

テスト勉強ということを受け、空は苦い表情をする。

 

「…大会に出られなくてよろしいのですか?」

 

「うっ…それは絶対嫌だ」

 

「ならば我慢なさい。これから私の家の座敷ろ……離れで勉強です。さあ、付いてきてください」

 

「今、座敷牢って言おうとしたよね!?」

 

「さあ、逝きますよ」

 

「嫌だー! やりたくねぇー!」

 

駄々をこねる空を引きずりながら大地宅へ連行していく。

 

「……勉強するか」

 

「…そうだね」

 

残された生嶋と松永も、テストに向けて勉強を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

空は大地宅へと連れてこられ、庭の一角にひっそりとある屋敷から母屋の前までやってきた。

 

「さあ、試験まで時間はありません。今日から学校以外ではここで過ごしてもらいます。ご実家とご両親には連絡済みですから、悪しからず」

 

「…人が絶対に通れなそうな小窓が一つ。入り口にはドラ○エの鍵が付けられた扉…」

 

空は遠い目をしながら母屋を見つめる。

 

「掃除は行き届いてますので、すぐに始めますよ」

 

「…インハイには出たいし、やるか…」

 

空は覚悟を決め、母屋へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――カキカキカキ…。

 

 

室内にシャーペンを走らせる音だけが響く。

 

現在、大地が用意した中間対策のテストをしている。

 

「……よし、終わった!」

 

開始して40分。答案用紙を埋め尽くした。

 

「では、採点をしてみましょう」

 

大地がテスト用紙を受け取り、採点をしていく。

 

「………ふむ」

 

「どうだ?」

 

テストに手応えがあったのか、目をキラキラさせながら結果を待つ空。

 

「…空」

 

採点が終わると、大地が満面な笑顔を浮かべながら空を見つめる。

 

「……中間テストまであと4日。あなたの睡眠時間はないものと思ってください」

 

「うぇっ!?( Д)゜゜」

 

目玉を飛び出させながら驚愕する空。

 

答案用紙を空に向けると、そこには、点数にのみ丸が存在する答案用紙が。

 

「幸い、あなたは体力に自信がありますから、死ぬことはないでしょう。時間がありません。基礎からガンガン叩き込みます。さあ、教科書を開いてください」

 

「\(^o^)/」

 

空の、インターハイ前の厳しい戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…ぶつぶつ」

 

「…くー、すごいことになってるね」

 

単語帳片手に必死に頭に詰め込もうとしている空。

 

「目が充血通り越して真っ赤だな。デビル化でもしたのか?」

 

「一睡もさせずに勉強させてますからね」

 

引き気味に空を眺める生嶋と松永。ニッコリと笑みを浮かべる大地。

 

「それで、間に合いそうなのか?」

 

「……ギリギリ…と、言ったところでしょうか」

 

深く目を瞑りながら苦々しい表情で質問に答える。

 

「やれやれ、くーはインターハイの主軸になるんだから、是非ともテストをクリアーしてもらわないと」

 

心配そうな表情で空を労う生嶋。

 

「あぁ…ぶつぶつ…」

 

かろうじて返事をし、そこから再び単語帳の暗記に戻る空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

放課後、部活動の時間やってくる。

 

基本的に、テスト前には活動を自粛する部活がほとんどだが、バスケ部は大会が近いので、特別に活動が許されている。

 

「ひゃはははははははははははっ!!!」

 

空がけたたましい程の笑い声をあげながらコート中を駆け回っている。

 

「空の奴はついに壊れたのか?」

 

その様子を遠巻きに怪訝そうな表情で見つめる堀田。

 

「申し訳ありません。空は昨日からテスト勉強で一睡もしていませんので…」

 

空に変わって頭を下げる大地。バスケ部員全員がその光景を異様な目で見つめている。

 

「ナチュラルハイっていうやつか。それにしてもあれは異常だな」

 

「それもありますが、勉強から解放されて、バスケの練習がいい気晴らしになっているのでしょう」

 

「気晴らしって…」

 

花月高校の練習量は全国一。並みの者なら1日もたない厳しさである。

 

現在、バスケ部に残っているメンバーですらついていくだけでも一苦労だ。

 

「…完徹明けであんだけ動き。改めてあいつの凄さがわかるな」

 

バスケ部の者達は、空の無尽蔵の体力に驚愕するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

そして、ついに中間テストの日がやってきた。

 

「絶対クリアしてやる…絶対クリアしてやる…」

 

並々ならぬ気迫でテストに臨む空。必死にシャーペンを走らせていく。

 

そして、テスト期間は終わり、ついに、結果が返ってくる。

 

「ふー。まぁ、こんなものかな」

 

生嶋奏、5教科合計、423点。学年29位。

 

「やれやれ、やっと終わったか…」

 

松永透、5教科合計、361点。学年172位。

 

「あっかーん。点数落ちてもうた」

 

天野幸次、5教科合計、338点。学年189位。

 

「こうも海外生活が長いと、国語がどうしても落としてしまうね」

 

三杉誠也、5教科合計、496点。学年1位。

 

「部活動は言い訳にはならん。文武共に、もっと気を引き締めんとな」

 

堀田健、5教科合計、453点。学年18位。

 

「いけませんね。部活動に集中してしまうと、つい学業が疎かになってしまいますね」

 

綾瀬大地、5教科合計、475点。学年3位。

 

「空、あなたの方はどうでした?」

 

「ふっ、楽勝」

 

ドヤ顔で答える空。

 

神城空。5教科合計、257点。学年392位←ギリギリ。

 

バスケ部全員が赤点を取ることなく、補習を逃れ、無事、インターハイ予選に臨むことができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

全国高等学校総合体育大会。通称、インターハイ。

 

その静岡県予選が開催された。

 

花月高校の1回戦の相手は掛下高校。

 

ベンチ前に集まる選手たち。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

4番SG:三杉誠也 190㎝

 

5番 C:堀田健  204㎝

 

8番PF:天野幸次 192㎝

 

10番PG:神城空  179㎝

 

11番SF:綾瀬大地 182㎝

 

 

「監督、指示はありますか?」

 

三杉が上杉へと尋ねる。

 

「第1Qでけりをつけろ」

 

『はい!!!』

 

花月高校のスターティングメンバーがコートへと向かっていった。

 

「…でけぇのが3人もいる」

 

「あの2人、全中優勝校の2人じゃ…」

 

対戦相手の掛下高校のスタメン達はすでに萎縮している。

 

整列が終わり、各選手が散らばっていく。中央センターサークル内にジャンパーだけが残る。

 

そして、審判によってボールが高く上げられ、ティップオフ!

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

「た、高い!」

 

堀田がジャンプボールを悠々と制し、花月ボールからスタートする。

 

ボールを拾った天野が空にボールを渡す。

 

「っしゃあ! 行くぜぇ!」

 

空がボールを持つと、ドリブルを開始、ディフェンスに来た相手PGとSFをスピードでかわす。そのままグングン加速して相手ゴールに突き進み…。

 

 

――バス!!!

 

 

開始早々数秒で先制ゴールをあげた。

 

「うし!」

 

ガッツポーズをする空。

 

「は、はえー…」

 

その、あまりのスピードに唖然とする相手選手達。

 

これを皮切りに、花月の壮絶な波状攻撃が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

相手チームはフロントコートにほとんど侵入することも叶わず、攻撃が切り替わってもすぐさまボールを奪われてしまう。

 

試合のほとんどをディフェンスに追われ、攻めることは全くできず、ただただ失点を重ねていく。

 

花月選手達は、攻める手を緩めることなくオフェンスに興じ…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

怒涛の第1Qが終了する。

 

 

花月 61

掛下  0

 

 

『ハァ…ハァ…』

 

掛下選手達はもうすでに涙目であり、心も折れかかっている。

 

「いいだろう。三杉、堀田、下がれ。生嶋、松永、行ってこい」

 

「「はい!」」

 

 

OUT→三杉 堀田

 

IN →生嶋、松永

 

 

8番PF:天野幸次 192㎝

 

9番 C:松永透  194㎝

 

10番PG:神城空  179㎝

 

11番SF:綾瀬大地 182㎝

 

12番SG:生嶋奏  181㎝

 

 

1年生4人と、天野が第2Qから試合に出場する。

 

第2Qに入ると、花月側がスピードアップし、速い展開へと変わっていく。

 

花月側の二大エースの三杉と堀田が下がったことと、オフェンスがラン&ガンに切り替わったことで掛下側も点を奪えるようにはなったが、それでも花月側の優位は覆ることはなかった。

 

試合は、1年生達と、その4人を天野がフォローし、さらに、経験値が高い3年生達が支えながら試合を進めていき…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

ここで試合終了のブザーが鳴った。

 

 

試合終了

 

花月 184

掛下  24

 

トリプルスコア以上の大差を付け、花月高校が初戦を制した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

続く2回戦からは、花月は三杉と堀田を温存。

 

空達、1年生を中心に、他の上級生達が上手くフォローしながら戦っていった。

 

花月の速い展開についていけず、危なげなく勝ち進んでいく。

 

しかし、勝ち進むにつれて、花月の速い展開に対応できる高校も現れ、容易にリードを保つことはできなくなっていく。

 

場合によっては、序盤にリードを許す場面もちらほら現れる。

 

だが、後半に進むにつれて、花月の運動量、特に空と大地の驚異的なスタミナからくる運動量についてこれなくなり、この2人のマッチアップ相手は後半入って早々にスタミナ切れを起こし、ベンチへと下がることとなる。

 

そこから相手が崩れ、花月が波に乗って相手を切り崩し、最後には逆転、勝利をものにしていった。

 

決勝リーグ…。

 

 

Aブロック代表、浜田商業高校

 

Bブロック代表、花月高校

 

Cブロック代表、松葉高校

 

Dブロック代表、鬼羽西高校

 

 

各ブロックトーナメントを勝ち抜いた代表校4校出揃い、その4校同士の総当たり戦を行い、その上位2校がインターハイ出場の切符を手にできる。

 

強豪、松葉高校を筆頭に、各校、インターハイ出場を果たすため、闘志を燃やす。

 

 

『…』

 

2、3年生達が、決勝リーグの対戦校を見て神妙な表情をする。

 

「馬場さん、どうかしたんですか?」

 

それに気付いた空がその訳を尋ねる。

 

「…決勝リーグに福田総合がいない」

 

「えっ?」

 

「絶対出てくると思ったんだが…」

 

福田総合…、昨年のウィンターカップの静岡県の代表校である。

 

「福田総合というと、去年のウィンターカップでベスト8まで、あの海常をギリギリのところまで追いつめた高校ですね」

 

大地が思い出したかのように説明する。

 

「あっ! そうだ、確か、1人やばい奴がいたところだよな?」

 

「灰崎祥吾、黄瀬涼太と入れ替わる形で帝光中から姿を消した元キセキの世代のことだ」

 

真崎が会話に加わり、説明をする。

 

灰崎祥吾…黄瀬涼太の加入前、キセキにも数えられていた実力者である。

 

「去年のインターハイ予選にはいなかったが、突然ウィンターカップの県予選に現れたんだ。昨年、俺達は松葉に敗れたんだが、灰崎が加わった福田総合は松葉を大差で打ち負かした」

 

「どうなってんだ?」

 

思いがけない事態に軽くざわつき始める。

 

「福田総合はCブロックトーナメントの決勝で松葉高校に敗れました」

 

そこに、自前のスカウティングノートを胸に抱えた姫川が現れた。

 

「負けたって、あの福田総合が負けたっていうのか?」

 

「はい」

 

「マジかよ…、それじゃあ、今年の松葉はあの灰崎がいても勝てない程の強さなのか?」

 

その疑問に、姫川は首を横に振った。

 

「いえ、灰崎祥吾は試合に出ていません」

 

「? …どういうことだ?」

 

「私も、県予選の1番の障害となる相手が福田総合と踏んでいたので、試合を見に行ったのですが、試合に灰崎祥吾は出場していませんでした。それどころか、ベンチにも姿はありませんでした」

 

姫川が自身の目で確認したことを話していく。

 

「ベンチにもいなかったって、怪我でもしたのか?」

 

「そこまでは…、ただ、コートにもベンチにも姿がなかったのは確かです」

 

「…もしかしたら」

 

馬場が顎に手を当てながら何かを考え付く。

 

「福田総合のバスケ部の1人が、俺の中学の時のチームメイトなんだが、そいつによると、灰崎の素行の悪さは常軌を逸しているらしい。それでも、実力は本物だから、渋々スタメンで使っていたらしいが、もしかしたら、何か問題でも起こしたのかもな」

 

「…まあ、ここでいくら考えても答えなんて出ない。いない相手のことを考えるより、今はこれから戦う相手に集中しよう」

 

馬場が話を切り上げさせる。

 

「そうだな。まずは初戦、取りに行くぞ」

 

こうして、試合の準備を進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

初戦、花月高校の対戦相手は浜田商業高校。

 

高さのある高校ではないが、機動力に自信があり、速い展開を得意とする高校。

 

花月高校と同じ、ラン&ガンスタイルのチーム。

 

だが…。

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

 

空がぺネトレイトで相手インサイドに切り込む。そこからパスを捌くか、自らが決め、起点となる。

 

大地も、ボールを受け取ると、ガンガン1ON1を仕掛け、得点を量産していく。

 

天野がポストプレー、スクリーンを駆使してチーム全体をフォローし、生嶋、松永も負けじと得点を重ねる。

 

浜田商業高校のスピードを上回るスピードで競い合う花月高校。その走り合いを制し…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

花月 96

浜田 79

 

 

花月高校が初戦を制した。

 

 

続く2戦目、対戦相手は鬼羽西高校…。

 

ディフェンス力に定評があるチーム。初戦を落としているため、ここを落とせばインターハイ出場は絶望的。

 

崖っぷちである彼らの、この試合に対して並々ならぬ熱意を燃やしている。

 

先に行われた松葉高校と浜田商業高校の試合。松葉高校が勝利しているため、この試合を勝利すればインターハイ出場が確定するため、花月高校の者達も気合充分である。

 

 

「へっ! 正邦の方がよっぽど硬かったつうの」

 

 

予選トーナメントをすべての試合を失点、40点以内に抑えて勝利を重ねてきた、鉄壁が売りの鬼羽西高校。

 

その鉄壁のディフェンスも、花月高校のスピードとオフェンス力によって崩される。

 

「3…2…1…!」

 

マネージャー、相川がカウントダウンを口ずさむ。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

試合終了のブザーが鳴り響く

 

 

試合終了

 

花月  74

鬼羽西 65

 

 

「よっしゃぁぁぁぁっ!!!」

 

空が大きく両拳を突き上げた。

 

大地、生嶋、松永、天野も抱き合いながら喜びを露にする。

 

決勝リーグ2勝目。インターハイ出場が確定した。

 

初戦以降、三杉と堀田はほぼ温存状態。自分達の手で掴み取ったインターハイ出場の切符。

 

そのことが、花月高校の者にとって、大きな自信となった。そして、何よりも…。

 

「(よし! これで、全国でキセキの世代と戦える!)」

 

このことが、空や大地、キセキの世代を打倒するため、自らを鍛えなおすために花月高校に来た者達の心を熱くした。

 

花月高校バスケ部、創部されてから初めての全国大会出場を果たすことができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

そして、残る最終戦。

 

相手は、昨年までは福田総合と並ぶほどの実力を誇る強豪、松葉高校。ここ2年程、福田総合に静岡王者の座を譲ったが、その無念を今年は見事晴らし、勢いに乗っている。

 

両校とも、すでにインターハイ出場が確定しており、半ば、消化試合なのだが、優勝がかかった一戦。

 

松葉高校はインターハイ出場だけでは満足せず、静岡ナンバーワンの称号を得るため、ベストメンバーで試合に臨む。

 

対する花月高校は…。

 

「よし、今日は2、3年、お前らで行く」

 

『っ!』

 

上杉の言葉を聞き、上級生達は拳を握った。

 

昨年、花月高校は松葉高校に敗れ、全国への道が断たれた。この1戦は、昨年の雪辱戦でもある。

 

「えー、松葉と試合したかったなー」

 

空は軽く不貞腐れる。

 

静岡の強豪、松葉高校。その実力を体感してみたかったのだ。

 

「まあ、そう言うな。俺と健は、初戦以降はお預け状態だったんだ。いい加減、身体を動かさないと鈍っちまう」

 

ヘアバンドを頭に巻きながら空を窘める。

 

「久しぶりの試合だ。存分に暴れさせてもらおう」

 

気合充分に入った堀田が、ニコリと微笑みながら身体を解していく。

 

「空、綾瀬。俺達の試合をよく見ておけ。お前達の道を照らしてやる」

 

「「はい!」」

 

スタメンに選ばれた者達がコートに向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

4番PG:三杉誠也 190㎝

 

5番 C:堀田健  204㎝

 

6番SF:馬場高志 187㎝

 

7番SG:真崎順二 176㎝

 

8番PF:天野幸次 192㎝

 

 

「あれ? 今日は三杉さんがPGなんですね」

 

真崎のメインポジションはPG(司令塔)。今日はSGのポジションに入っている。

 

「よく勉強させてもらえ」

 

空の疑問に、上杉がそっと答える。

 

松葉高校のスタメンは、前の試合とスタメンが様変わりしていることに少々戸惑っている。

 

「さあ、行こうか」

 

試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

三杉がゆっくりボールを突きながらゲームメイクをする。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

チェンジ・オブ・ペースから一気に加速し、松葉インサイドに切り込む。

 

「囲め!」

 

すぐさま、三杉の包囲にかかる。

 

 

――スッ…。

 

 

『っ!?』

 

三杉、敵を深く引き付け、完全に囲まれる前にパスを捌く。

 

走りこんでいた馬場の手元にドンピシャでボールが収まる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

馬場はノーマークで悠々とミドルシュートを決める。

 

「…」

 

空は、三杉のプレーを目を離さず眺めている。

 

自ら敵陣に切り込み、敵を引き付けてパス、あるいはそこから自ら決める。

 

自分の目指す、PG(司令塔)としての道を、空は目を逸らさず、見つめている。

 

試合は、終始、花月高校のペースだった。

 

堀田と天野の鉄壁のディフェンス力、三杉のオフェンス力。松葉高校に付け入る隙を与えなかった。

 

後半から三杉と真崎がポジションを入れ替え、三杉がよりオフェンスに専念すると、点差はさらに広がっていく。

 

「…」

 

大地も、三杉の1プレー、その一挙手一投足に目を配り、少しでもその技術を吸収すべく、三杉から目を離さない。

 

実力者揃いの松葉高校も、三杉と堀田には手も足も出ず…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

試合終了

 

花月 113

松葉  41

 

 

ダブルスコア以上の点差を付け、静岡県の勢力図を塗り替えた。

 

「よっしゃぁぁぁぁっ!!! 優勝だーっ!!!」

 

いの一番に空がベンチから飛び出し、喜びを露にした。

 

 

優勝  花月高校

 

準優勝 松葉高校

 

 

花月高校は、晴れて、この夏、インターハイへ殴り込みをかける。

 

 

そして、他県でも、全国への参加校が決まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

京都府…。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

試合終了のブザーが鳴る。

 

優勝校は下馬評通り、洛山高校。

 

開闢の帝王の名の通り、圧倒的な実力で相手をねじ伏せた。

 

最終戦、第2Q半ばにはすでに主将、赤司の姿はコートになく、第3Q終盤には、スタメン全てがベンチに下がっていた。

 

にもかかわらず、点差は縮まるどころか広がり、選手層の厚さも知らしめた試合結果だった。

 

「俺達は挑戦者だ。昨年、失った王の座は、今年のインターハイを制することで取り戻す」

 

敗北を知り、王座から降ろされた王は、その玉座に再び凱旋を果たすため、その牙を尖らせた。

 

万全の態勢で、全国へと殴り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

秋田県…。

 

優勝を決めたのは、陽泉高校。

 

最終戦、相手はここまで勝ち上がってきた強豪にも関わらず、失点を0点に抑えた。

 

「最高の結果だ。今年こそ、優勝しよう」

 

「そうだねー。もういい加減負けるの嫌だし、全部倒さないと…」

 

陽泉のダブルエース、紫原、氷室共に気合充分。

 

絶対防御(イージスの盾)を持った選手達が、全国へと殴り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

神奈川県…。

 

優勝を決めたのは海常高校。

 

コート上で1番の存在感を示す黄瀬。どれだけ厳重に警戒されても、それでも黄瀬を止めることは出来なかった。

 

「青峰っちに火神っちと黒子っち、去年の借りはキッチリ返すッスよ。それに、緑間っちと赤司っちと紫原っちとも、去年戦えなかったッスから、戦ってみたいッスね」

 

密かに闘志を燃やす黄瀬。

 

借りも技もキッチリ返す黄瀬涼太、そして海常高校が、全国へと殴り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

東京都…。

 

全国一の激戦区。

 

決勝リーグに勝ち上がってきたのが…。

 

 

――誠凛高校

 

――秀徳高校

 

――桐皇学園

 

――霧崎第一高校

 

 

初戦、誠凛高校対秀徳高校…。

 

木吉鉄平不在で誠凛不利が試合前の予想だったが、誠凛は抜けた木吉の穴を、ゾーンを組むことで補う。

 

火神が緑間をボックスワンでマークする。

 

緑間を火神で抑え、高尾との連携プレー、空中装填式3Pシュート(スカイ・ダイレクト・スリーポイントシュート)を最警戒しながら試合を進める。

 

試合は、火神と緑間の相性もあり、誠凛不利を覆し、92-91で誠凛が初戦を制した。

 

桐皇対霧崎第一の試合は、霧崎第一がラフプレーを臭わせながら試合を進めたが、青峰大輝を止められる者が霧崎第一にはおらず、試合は105-69で桐皇が制した。

 

2戦目…。

 

誠凛の相手は桐皇学園。

 

1戦目の疲労と、桃井のデータもあり、それと何より、黒子テツヤの影の薄さが桐皇にはほとんど通じず。試合は常時桐皇ペース。

 

終盤、火神がゾーンに突入し、一時的に点差を詰めるも、試合は、97-80で桐皇学園が制した。

 

秀徳と霧崎第一の試合は、緑間がアウトサイドから終始攻め立て、89-60で制した。

 

そして3日目…。

 

誠凛対霧崎第一の試合は、悪童、花宮の蜘蛛の巣に途中、苦しめられる。

 

黒子の昨年のチームプレーを無視した中継パスで切り崩しにかかるも、昨年と同じ手を2度も食うほど、花宮は甘くなく、すぐさま手詰まりになる。

 

そこで、火神が単独プレーでガンガン攻め立てることで盛り返していく。

 

火神が得点を量産し、マークが集まればパスを捌き、黒子の中継でパスを繋ぎ、インサイドを固められれば主将の日向が外から決める。

 

いい流れを誠凛を作り出し、結果、73-70で誠凛が制した。

 

秀徳対桐皇…。

 

同じ東京都にいながら、これまで1度も対戦したことがない両校。

 

試合は当初、桐皇ペースで進んでいったが、後半に入り、緑間が青峰に対応し始め、決定力を失い始める。

 

緑間が青峰を抑え、青峰も、ゾーンに入るきっかけが掴めず、試合は結局、88-86で秀徳が制した。

 

結果…。

 

誠凛 2勝1敗

秀徳 2勝1敗

桐皇 2勝1敗

霧崎 0勝3敗

 

2勝1敗で3校が並び、順位は得失点差で…。

 

 

1位 桐皇学園

 

2位 秀徳高校

 

3位 誠凛高校

 

4位 霧崎第一高校

 

 

インターハイ出場の切符は、上位3校。誠凛、秀徳、桐皇が手にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

番狂わせや神の悪戯は起こることなく、各都道府県代表校が決まる。

 

 

 

――役者は揃った。

 

 

 

こうして、新たな激闘の物語が、始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 





1度削除、再投稿する形になってしまい、申し訳ありませんでしたm(_ _)m

福田総合が静岡県代表であることを完全に失念していました。というか、指摘されて初めて気付きました(^-^;)

ご指摘、ありがとうございます!

灰崎祥吾は『謎の』欠場。これはどちらにしろ決まっていたことなので、少々内容を軌道修正する程度で済みました。理由は……内緒ですが、大方予想通りです。

今一度、原作を読み返す必要がありそうですね…。

感想、アドバイス、お待ちしています。

それではまた!

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