黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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第28Q~新しい風~

 

 

 

入部届の提出をしてから1週間が経過した…。

 

放課後になり、部活動が始まる。

 

「集合!」

 

主将である馬場(※ 三杉はコート上での主将であり、部活動としての主将は馬場)が集合をかける。

 

号令が聞こえると、すぐさま部員達が駆け足で集まる。そこには、以前と同じく甚平を着た監督、上杉が立っていた。

 

「集まったな」

 

上杉は集まった部員達を端から端まで視線を向ける。そして、フッと笑みを浮かべる。

 

「残ったのは5人。…いいだろう。それだけ残りゃ上等だ」

 

コホン! と、咳払いをし、表情を整える。

 

「花月高校のバスケ部によく来てくれた。改めて歓迎する。うちのバスケ部の練習は厳しい。毎年問題に上がるほどになあ。実績もねぇから批判は絶えん」

 

『…』

 

「けどなぁ。俺はこのやり方を変えるつもりねぇ。俺は、難行苦行を乗り越えた先に得られるものがあると信じている。だから、先に言っておく。俺に付いていけないと判断したらいつでも辞めていい。付いてこれる奴だけ付いてこい」

 

『はい!!!』

 

部員全員が確固たる決意を持って返事をする。

 

「今年は粋のいい新人に、俺のしごきに耐え抜いた2・3年に、空の向こう(アメリカ)から2人もここに来てるんだ。インハイ出場どころか、優勝も射程圏内だ。おめえら、獲るぞ」

 

『はい!!!』

 

先程と同じく、返事をする。

 

「ここからは俺が本格的に指導する。今までみたいに温くはねぇからな。…それじゃあ、練習を始める!」

 

上杉が練習開始の宣言をする。

 

「監督、あの件、忘れていませんか?」

 

馬場が突如、手を上げる。

 

「ん? …ああ、そうだったな」

 

上杉は何かを思い出した。

 

「遅くなってすまない、入ってきてくれ!」

 

馬場が促すと、入り口からロングヘアーとショートカットの2人の女生徒がやってくる。

 

「今日からこの2人がマネージャーとしてバスケ部を入部してくれることになった。自己紹介を」

 

女生徒の1人、ロングヘアーの女性が一歩前に出て自己紹介を始める。

 

「初めまして! 今日からマネージャーとして入部しました、1年C組、相川茜です! 元気の良さが私の取り柄です! よろしくお願いします!」

 

元気良く挨拶するマネージャー志望の相川。ペコッと挨拶の後頭を下げると、ニコッと笑顔を浮かべる。

 

『おぉ…』

 

清々しいほどの元気の良さに加え、チャーミングな笑顔。思わず部員達の間に感嘆が漏れる。

 

相川茜の自己紹介が終わると、もう1人の女生徒が一歩前に出る。

 

「(…あれ? あの娘、確か前に三杉さんと一緒にいた…)」

 

空にはもう1人の女生徒に見覚えがあった。ショートカットの女生徒の自己紹介が始まる。

 

「1年E組、姫川梢です。よろしくお願いします」

 

特に表情を変えることなく、淡々と自己紹介を終える。

 

「表情硬いな…けど、あの娘も可愛い…(ボソリ)」

 

相川茜と違い、ほぼ無表情で簡潔に自己紹介を終える姫川梢。だが、彼女もまた、相川とは違った種類の魅力があり、先程と同じく部員達の心を掴む。

 

「…」

 

彼女、姫川梢を、大地が何やら神妙な表情で見つめる。

 

「どうした大地? お前って、ああいう女がタイプだったっけ?」

 

その様子に気付いた空が茶化すように聞く。

 

「魅力的な女性だと思いますよ。…ただ、姫川さんという女性、何処かで拝見したことがあるような気がしまして…」

 

大地は空の茶化しに反応することなく質問に答えていく。

 

「何処かで…ねぇ…そう言われると、俺も何処かでも会ったような…地元で会ったのかな?」

 

「いえ…もっと何処か違う形で…ダメですね、考えても思い出せません。…おそらく、偶発的に何処かで拝見したのでしょうね」

 

大地は結局、その場で思い出すことは出来なかった。

 

「ふーん…」

 

空がそのまま、姫川梢に視線を送る。すると、空の視線に気付いたのか、姫川と空の視線がかち合う。

 

「……(プィッ)」

 

姫川は、その視線から素っ気なく逸らす。

 

「あーらら」

 

当の空はその対応に苦笑を浮かべた。

 

「話しは終わったな。よし! それじゃあ、これから練習を始めるぞ! 準備運動、念入りにやっとけよ! 散れ!」

 

『はい!!!』

 

こうして、本格的に花月高校バスケ部の練習が始まる。それは、今まで比ではなく、上級生ですら根を上げそうになってしまう程の練習であった。

 

花月高校バスケ部は、インターハイに向けての練習が始まった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全国の高校で新体制がスタートする中、花月高校と同様に強風が吹き荒れたのが誠凛高校。

 

新たに誠凛高校バスケ部の門を叩いた新入生が良くも悪くも、新しい風を送り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

新学年、新学期を迎えた誠凛高校。新入生を迎え入れた初日…。

 

体育館には、最上級生となった主将の日向と3年生達。火神を除いた2年生メンバー。そして、新1年生が集まっていた。

 

創部2年でのウィンターカップ制覇という実績の為か、昨年よりも、数でも質でも勝る新入生がやってきた。

 

その中でも、上級生及び、新入生の注目の的なのが、帝光中出身、新海輝靖と池永良雄。昨年、全中大会を制した中学校の主将、田仲潤。

 

スカウトなどを一切行わない誠凛にとっては願ってもない期待の新人。

 

監督である相田リコが1年生達の前に出る。ここに集まっていた1年生は噂では聞いていたが、監督が女性、それも、同じ高校生であることに最初は驚いていた。

 

「それじゃ手始めに…全員、シャツ脱げ!」

 

『えっ!?』

 

リコが、1年生達を1列に並べ、唐突にそう指示する。

 

「…」

 

シャツを脱ぎ、上半身裸になった1年生を1人ずつ観察していく。

 

彼女はスポーツジムを経営する父親の下で育ち、幼い頃から父の横で仕事を見てきた関係で、身体を見ればすぐさまそれを数値化することができ、さらにはその欠点や限界値まで見ることができる。

 

「(…今年の1年はいいわね。単純な筋力なら火神君を除いた1年生を上回っているわ。何より…)」

 

その中でも、今年の期待のホープである、3人に視線を向ける。

 

「(この3人は特にいいわ! 新海君と池永君。さすが、帝光中の1軍でスタメンを張っていただけあって、数値はかなりのものだわ。単純な筋力値なら、今の3年生をも上回っているわ。田仲君も、現段階の数値は2人に劣るけど、伸び代がかなりあるわ。鍛え方次第では化けるわね)」

 

未来有望な新入生を見てニヤリと笑みを浮かべる。

 

「えー、まずはキミからね――」

 

リコが、筋力を分析した結果から弾きだした欠点と改善点を1人1人に説明していく。

 

「えっ…嘘!?」

 

「当たってる…」

 

ピンポイントに言い当てられた1年生は驚きを隠せないでいた。リコは、その場にいた1年生全員に説明し終えると、コホンっと咳払いをし、話しはじめる。

 

「知ってると思うけど、私達は去年、ウィンターカップを制することができたわ。次の目標はズバリ、インターハイ制覇よ! 生半可な道じゃないわよ! ビシバシ鍛えていくつもりだから、皆そのつもりでいなさい!」

 

『はい!』

 

1年生達の声が響く。

 

だが…。

 

「ふわぁぁぁっ…」

 

そのうちの1人、池永だけが欠伸をしながら話を聞いていた。

 

「…」

 

それを主将である日向が見つけ、眉を顰める。

 

「それじゃ、練習を開始するわ! 皆、しっかり準備運動をして――」

 

「――あー、いいスか」

 

池永が割り込むように言葉を挟む。

 

「俺は自己流で練習するんで、後は勝手にやりまーす」

 

この一言で、その場が凍りつく。

 

発言をした当の本人は、それだけ告げて、1人勝手に行動を開始しようとする。

 

「待ちなさい!」

 

当然、リコはそれを止める。

 

「何だよ?」

 

引き留められたことに軽く苛立ちを覚えながら振り返る。

 

「勝手な行動を許すつもりないわ。私の指示どおりの練習をしなさい」

 

リコは努めて冷静に言葉を交わしていく。

 

当の本人は鬱陶しいとも言わんばかりに溜め息を吐く。

 

「はぁぁーーーっ…まず、監督が女とかありえねぇし、何で女の指図に従わなきゃいけねーんだよ」

 

「あん!♯」

 

先程まで冷静にしていたリコも、この発言に怒りを覚える。これに日向も怒りを覚え、口を出す。

 

「おい、お前! 監督に対してなんて口のきき方してやがる。そもそもお前は先輩に対してそんな口のきき方に――」

 

「あーあー、俺、年功序列って嫌いなんだよね。1年2年早く生まれたことがそんなに偉いの? バスケで偉いのは上手い奴だろ? 実力ねぇ奴の指図聞くとか、ねぇわ」

 

そう言いのけ、日向の傍まで歩み寄り、ガンを飛ばすように日向を見下ろす。

 

「俺、お前より上手いよ? お前が敬語使えよ」

 

「あぁん!?」

 

この言葉に日向は思わず激昂し、掴みかかろうとする。

 

「おい、日向! やめろって!」

 

それを伊月が止める。それを見てフンっと、鼻を鳴らす。

 

「池永君。そんな言い方はないと思います」

 

黒子がそっと池永の傍まで近寄り、池永を諌める。

 

「あっ、黒子先輩のことは尊敬してますよ? だって、誠凛が優勝できたのって、黒子先輩がいたからっしょ? そうでなきゃ、先輩達(キセキの世代)がこんな奴等に負けるわけねぇし」

 

だが、それでも池永の暴言は止まらない。

 

「マグレで優勝したぐらいで粋がんなよ。そんじゃ、俺、自主練行くんで、試合とかは後で連絡先渡すんで、メールよろしく~」

 

池永は先輩の言葉などどこ吹く風の如く、体育館を去ろうとする。

 

「おい! 待てよ!」

 

日向が大声で呼び止める。

 

「♪~♪…痛てっ!」

 

鼻歌交じりに体育館を出ようとすると、何かにぶつかる。

 

「ちっ! …っ!」

 

ぶつかった何かに池永が睨みつけると、そこには…。

 

「よう、話は途中からだけど聞いてたぜ。お前の理屈なら、お前より上手ければ言う事聞くんだよな?」

 

遅れてやってきた火神がやってきた。

 

「すんません。先生に呼ばれてて遅れました」

 

火神が皆に頭を下げる。

 

現れた火神を、池永がジロジロ見る。

 

「火神…こいつが……、お前が誠凛エースだよな?」

 

「…だったら何だよ?」

 

それを確認すると、火神に背を向け…。

 

「なら、こいつに勝ったら俺がエースだよな?」

 

後ろ手で親指を指しながらそう言ってのける。

 

「エースさんよ、俺と勝負しろよ。勝ったら俺がスタメンな」

 

唐突に、池永が勝負を提案する。

 

「おい、お前いい加減に――」

 

日向が諌めようとするが…。

 

「いいぜ。勝負してやるよ」

 

火神は迷うことなく勝負を受ける。

 

「おい、火神!? お前勝手に…」

 

「大丈夫ッスよ。悪いスけど、ちょっと時間貰います。5本勝負だ。お前が勝ったらお前がスタメン。自己流がどうとか言ってが、好きにしろよ。そのかわり、俺が勝ったら、今後、勝手な真似はさせねぇ。先輩達にも敬語使えよ」

 

「ハッ! 上等だよ!」

 

池永はニヤリと笑い、勝負が始まる。

 

 

 

 

「…止めなくていいの?」

 

「止まるのなら始めから止めている」

 

田仲の質問に、新海は溜め息を吐く。

 

「あいつ、全中で会った時と何も変わってないな」

 

「あいつのバカは変わらないよ。…バカに付ける薬はない」

 

新海はかつてチームメイトに酷評を告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

双方の準備が完了し、勝負…1ON1が始まろうとしている。

 

「去年のウィンターカップの立役者の火神先輩と、全中ベスト5の池永の1ON1…」

 

「大丈夫なのかな…。火神先輩が負けると思わないけど、万が一…」

 

1年生達は口々に外から眺めながら勝負を見守っている。

 

2、3年生は、怒り心頭の日向とリコを除き、特に心配する素振りを見せず、余裕の表情で勝負を見守っている。

 

「お前からオフェンスやっていいぞ」

 

火神は池永にボールを渡す。

 

「いいぜ。瞬殺してやるよ」

 

ボールを受け取り、余裕の笑みを浮かべる。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

池永がドリブルを始める。

 

勝負が始まると、体育館中が静まりかえり、ゴクリと息を飲む音が聞こえる。

 

「(よし、行くぜ!)」

 

右、左、さらに自身の股下にボールを通して揺さぶりをかけていく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

クロス・オーバーで火神の左を抜ける。

 

「うおっ!」

 

「はえー!」

 

火神をかわし、ペイントエリアまで侵入する。

 

「(ハッ! 楽勝じゃねぇか)」

 

そこでボールを掴み、ワンハンドダンクの体勢に入る。

 

「(くらいやがれ!)」

 

池永がボールをリングに叩き付ける。

 

 

 

――バシィィッ!!!

 

 

 

「なっ!?」

 

「その程度で俺をかわせると思わねぇことだな」

 

いきなり目の前に火神が現れ、ダンクはブロックされた。

 

「ちっ!」

 

舌打ちをする池永。

 

「次は俺のオフェンスだ」

 

攻守が入れ替わる。

 

「…」

 

「…」

 

火神がボールを持ち、機会を窺う。

 

「(ちくしょう! ここで1本止め返してやる!)」

 

先程のダンクを防がれ、プライドを傷つけられた池永。やられたことをやり返すとばかりと気合が入る。

 

「行くぜ」

 

火神がゆっくりボールを動かし、そして…。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

一気にドライブで池永の横を抜ける。

 

「なっ!?」

 

池永が振り返った時には…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

火神のダンクが炸裂していた。

 

「…」

 

茫然とする池永。

 

「次、お前のオフェンスだ。来いよ」

 

「っ! ぶっ潰してやる」

 

余裕の態度を取る火神にカチンとする池永。再度攻守を入れ替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「監督、この勝負、どう見る?」

 

日向が横に立つリコに問いかける。

 

「どうもこうもないわ。火神君はあのキセキの世代と対等に渡り合ったのよ? 番狂わせはおろか、苦戦もありえないわ」

 

ハァッと溜め息を吐きながらそう答える。

 

「にしても、とんでもない新人が来たもんだ」

 

「ホント、去年の火神君が可愛く見えるわ」

 

今度は2人で盛大に溜め息を吐いた。

 

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

 

火神が池永を単純なドライブでぶち抜き、ダンクを決める。

 

「くそっ! くそっ!」

 

悔しさを露わにする池永。

 

キセキの世代と対等に戦ってきた火神。ただのドライブであっても今の池永では止められるものではなかった。

 

 

「新海は去年、どうやってあいつの手綱を握ってたんだ?」

 

日向が元帝光中の主将であり、池永とはチームメイトであった新海に尋ねる。

 

「握れるわけありませんよ。帝光中は、自分が主将になる前の年から単純な実力主義だったので、試合で結果さえ残せれば他の大抵のことは不問でした」

 

特に表情を変えることなく、質問に答えていく。

 

「…」

 

黒子が、その回答を聞いて複雑そうな表情をする。

 

続いて、伊月が質問をする。

 

「そもそも、2人はどうしてここ(誠凛)に来たんだ?」

 

誠凛は昨年、ウィンターカップを制したといっても、まだまだ新設校。他の強豪校に比べても歴史は浅く、設備も充実しているとは言い難い。

 

「…すいません、今はそれは…」

 

新海は表情を歪ませ、回答を控える。周囲も、空気を察したのか、深く追求することはなかった。

 

一方、勝負の方は…。

 

「ハァ…ハァ…」

 

「次、最後のオフェンスだ」

 

火神の最後のオフェンス。

 

5本勝負の1ON1。池永は1度も点を決めることが出来ず、火神はこれまで全て決めていた。

 

グッと腰を落とし、ドライブに備える池永。

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、火神を止めることはできない。

 

火神がそのままダンクの体勢に入る。

 

「何度もやらせるかーーーーっ!!!」

 

火神の後ろから池永がダンクを止めるべく、ブロックに入る。

 

「うおっ! 抜かれてから追いついた!」

 

池永の手がボールに触れたが…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

「がぁっ!」

 

ブロックに来た池永を吹っ飛ばしながらダンクを決めた。

 

「そこまでよ!」

 

リコが間に入る。

 

「火神君が5本。池永君が0本。火神君の勝ちよ」

 

そして、結果を言い渡す。

 

「…」

 

座り込みながら茫然とする。火神が傍まで歩み寄り…。

 

「約束だ。今後は口のきき方気を付けろ。後、勝手な行動はするなよ」

 

キッと睨み付けながら告げる。

 

「…っ!」

 

池永は立ち上がると、体育館を駆け足で出ていった。

 

「お、おい! …なんなんだよ、まったく…」

 

火神は頭を掻きながら苦い表情をする。

 

「ほっといても構わないですよ。今後来ないならこれまででしょうし、…まあ、明日には忘れているでしょうけど」

 

新海はめんどくさそうに追いかけるか否か迷ってる面々に告げていく。

 

「なあ、あいつ、どうするんだ?」

 

「…」

 

リコが顎に手を当て、考える。

 

「俺は正直、彼の入部は反対だ。去年の試合を見た感想を言わせてもらうと、自分勝手で暴走しがちな選手だ。コートに入られると俺は困る」

 

誠凛の正ポイントガードであり、広い視野とパスを重視する伊月は池永入部に難色を示す。

 

「俺もちょっとなー。仲良く出来そうにないし」

 

小金井も同じく反対する。

 

『…』

 

他の面々も、先程までの池永の言動行動に思うところがあり、入部には反対気味である。

 

「いいんじゃないスか? 別に入部させても」

 

ただ、火神だけは賛成する。

 

「結果は俺の完勝だけど、最後の1本は止められないまでも俺のダンクに追いついてみせた。性格に問題ありそうですが、実力は確かです。戦力は多い方がいいんじゃないスか?」

 

勝負をした火神は、池永の実力を買い、加入に意欲的である。

 

『…』

 

全員がリコの方に視線を向ける。ジャッジをリコに委ねた。

 

「……そうね。私も賛成だわ。彼ほどの実力者をこのまま埋もれさせるのは惜しいわ」

 

監督であるリコの判断は入部の賛成であった。

 

「…良いんだな?」

 

日向が再度確認する。

 

「もちろん! だって、実力を伸ばすより、性格を矯正する方が遥かに楽だもんね。…それに、監督であり、先輩でもある私に吐いた暴言の分もヤキ入れときたいしね」

 

「確かに…、そうだな…」

 

日向とリコ。両者共に額に青筋を浮かび上がらせながら不気味な笑顔で手の指を鳴らしていった。

 

「新海君は明日は引きずってでも彼を連れてきなさいよ。…それじゃ、練習開始するわよ! インターハイは簡単に獲れる程甘くはないから、ビシビシ行くからね!」

 

こうして、誠凛高校の、波乱に満ちた新年度初日が始まったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――花月高校…。

 

新入生の入部届が正式に受理され、さらに1週間ほどが過ぎた。

 

『ハァ…ハァ…』

 

部員達は息を切らしながら懸命に練習に取り組んでいく。

 

「おらそこぉっ! チンタラすんなっ! 全員10本追加だ!」

 

「は、はい!」

 

僅かながら遅れた部員に檄が飛び、連帯責任で部員全員にペナルティーが科せられる。

 

監督の上杉自ら指導に乗り出したことにより、練習がさらに激化した。今までさえ辛かった練習がさらにきつくなる。

 

「おぇっ…」

 

その練習によって吐き出す者も少なくない。生嶋はほぼ毎日吐いていた。

 

「生嶋君、頑張って下さい!」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

マネージャーの茜が介抱しながら元気づける。生嶋は礼を言って再び練習へと戻っていく。

 

『ぜぇ…ぜぇ…』

 

辛そうにしているのは1年生ばかりではなく、2、3年生も同様であった。全国制覇を狙うと宣言した上杉に妥協も手抜きもない。

 

「よーし! 5分休憩!」

 

練習が始まり、ようやくの休憩。ほとんどの者がその場で座り込んだ。

 

「お疲れ様です。どうぞ」

 

もう1人のマネージャーである梢が労いの言葉をかけながらタオルとスポーツドリンクを渡していく。

 

「…はい」

 

何故か空だけには素っ気ない表情と言葉でタオルとスポーツドリンクを渡す。

 

「…?」

 

嫌われる身に覚えがない空は不思議そうに首を傾げるだけだった。

 

「お前ら、そのままでいいから話を聞け」

 

上杉が全員の注目を集め、話を始める。

 

「来月の大型連休、他校と練習試合をするぞ」

 

 

――練習試合…。

 

 

その言葉に部員達が目の色を変える。

 

「相手は2校。おそらく、インハイ予選前の最後の試合になるだろう。各自、試合までにしっかり調整しておけ」

 

『はい!』

 

「よっしゃぁっ! やっと試合だ!」

 

空は決まった練習試合を前に興奮を隠せないでいた。他の部員も、言葉にこそ出さないが、待ち遠しい気持ちでいっぱいだった。

 

「監督、練習試合の相手は?」

 

馬場が試合相手を尋ねた。すると、上杉はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「昔の知り合いの都合で急遽決まった相手だが、インハイ前の調整相手には申し分ない相手だ。初日の相手は、正邦高校。2日目は泉真館だ」

 

 

――ざわっ…。

 

 

発表された試合相手に、部員達はざわつく。

 

「大地? 知ってる? 俺、どっかで聞いたことある気がするんだけど…」

 

質問する空に、大地が溜め息を吐く。

 

「ハァ…、正邦、泉真館。これに秀徳を加えた3校は、東京都の三大王者で、一昨年までは、東京都のインハイ出場枠である3つの枠は、常にこの3校の独占状態だったんですよ?」

 

「へぇー、そうなんだ」

 

「…というか、あなた、その中の泉真館からスカウトが来ていたでしょう?」

 

「あー、そういえば…、来ていたような…」

 

空の記憶の中からはスッポリ消え失せていた。

 

「でも、東京だと、ここからだと遠いですね」

 

「それは心配いらん。理事長から部員人数分の足代は預かっている。その辺りは心配無用だ」

 

馬場の懸念に、上杉は答えていく。

 

「練習試合とはいえ、無様な姿を晒すな。試合までみっちりしごいていくからな! 5分だ! 練習を再開するぞ!」

 

『はい!』

 

再び、練習を再開した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

 

 

そして、時はあっという間に過ぎ、ついに、花月高校初陣とも言える練習試合の日が、やってきたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





次回、久しぶりにバスケの描写を入れます(^_^;)

5月の大型連休とはいえ、静岡から東京の高校相手に試合しに行くのは無理があるとは思うのですが、花月高校はお金持ちが集まる学校で、その関係で部費が潤っている。という感じの設定みたいな感じでお願いしますm(_ _)m

誠凛に加入した新戦力、その中で池永は、限りなく問題児になるつもりです。ちなみに、現在、オリキャラの選手紹介を(オフィシャルブック、くろフェスを参考にしながら)作成中なのですが、その中の池永の能力値の中の精神力は限りなく低い設定であったりします(笑)

そちらも完成次第投稿します。

感想、アドバイスお待ちしています。

それではまた!

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