黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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第25Q~進むべく道~

 

 

 

「…」

 

日が沈み、外はすっかり夜となっている。薄暗い部屋の中、空は1人そこにいた。

 

 

 

――おぉぉぉぉーーーっ!!!

 

 

 

空が眺めるテレビから大きな歓声が上がる。

 

そこには、バスケの試合が流れている。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールがリングを潜り、得点が加算される。

 

攻守が入れ替わると、先程行われたプレーをそっくりそのまま再現し、得点を返す。

 

次はミドルレンジからシュートを仕掛ける。だが、ブロックをかわすために背中を極限まで後ろにのけ反らせた体勢でシュートを放ち、得点を決める。

 

対して、攻守が変わり、相手はそっくりそのままやり返す。

 

試合は激しく攻守が入れ替わり、エース同士が激しい1ON1を繰り広げている。

 

 

 

――桐皇学園対海常高校。

 

 

 

試合は第4Qに突入し、両チームのエース、青峰大輝と黄瀬涼太が互いに入れ替わりに得点を奪い合う激しい試合展開となっている。

 

「…やっぱ、この2人はすげーなぁ」

 

食い入るように映像を眺める空。

 

今年のインターハイで行われた桐皇学園対海常高校の試合。全中終了後、空はこの試合映像を何度も見ている。

 

キセキの世代同士の対決。両者のハイレベルすぎるプレーに、他の8人は割って入ることが出来ず、互いのフロントコートの往復ダッシュを繰り返している。

 

空はリモコンで一時停止ボタンを押し、目を瞑る。

 

頭の中でイメージを浮かべる。自身がこの両者と戦うイメージ。

 

「………ハァ」

 

結果は惨敗。あっさり抜かれ、敗北。

 

家で暇があったら何度か行っているイメージトレーニング。空はイメージの中ですら1度も勝てたことがない。

 

「…」

 

来年、高校に進学したら彼らと戦うことになる。空は、現時点の力の差を激しく痛感する。

 

今日、公園にやってきた三杉誠也に惨敗した。それも、2人がかりで。

 

「…けど、キセキの世代の連中なら、互角に戦えるんだろうなぁ」

 

三杉は確実にキセキの世代と同格の選手。

 

『君達はキセキの世代には遠く及ばない。来年、仮に戦うことになったとしても、君達は惨敗するよ』

 

三杉に告げられたこの言葉。

 

空はこれに反論したが、改めてキセキの世代の試合を目の当たりにすると、それが事実であると痛感させられる。

 

正直、空には、どうすればこのレベルにまで上り詰められるのか、見当が付かなかった。

 

唯一分かるのは…。

 

「がむしゃらに練習するだけじゃ、無理だろうなぁ…」

 

ここにきて、空は方向を見失う。

 

全中を制し、新たな…いや、本来の目標を目指す空。

 

だが、目標はとても高く、そして険しい。

 

「どうすっかなぁ…」

 

行き先を見失い、迷う空。

 

『花月高校に来てくれるのなら、俺が君達を、キセキの世代と互角に戦えるところまで連れていってやる』

 

三杉が空と大地に道を示してくれた。

 

「あの人の下に行ったら…」

 

空はベッドに寝転び、思案に暮れる。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

テレビから試合終了のブザーが鳴り響く。

 

試合は、青峰大輝がダンクを決め、桐皇学園の勝利で終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

外はすっかり日が暮れ、暗くなった室内…。

 

 

――シャカシャカ……。

 

 

大地が茶筅でお茶を点てている。

 

お茶を点てながら今日あった事を思い返す。

 

三杉誠也との出会い、そして敗北…。

 

「…」

 

驕ったことなど1度もない。

 

身近には空という、頼りになる相棒であり、尊敬している選手がいるし、1つ上にはキセキの世代という、10年に1人の天才がいる。

 

上には上がいると、自覚し、精進は欠かさなかった。

 

だが、今日、三杉誠也という、天才に出会い、自分の認識がまだまだ甘かったことを再認識した。

 

「…」

 

大地は手を止め、茶筅を置くと、茶碗を手に取る。

 

「…私が…いや、私達が目指すところは、あまりにも高い…」

 

大地がポツリと呟くように口にする。

 

掲げた目標に対して、どう挑めばいいのか、どのように歩みを進めればいいか、大地にはそれが見えない。ただ、1つ分かっているのは…。

 

「あの方、三杉さんの師事を受けることが出来れば、私は今より上の高みに登ることが出来るのでしょうね」

 

大地は点てたお茶を一口啜る。

 

「…やれやれ、今日のお茶は、一段とまた苦い…」

 

それはまるで、今の大地の胸中を示しているかのようだった。

 

大地が傍の襖をそっと開ける。そこには、大きな満月が輝いていた。

 

「…」

 

大地はそっと満天に輝く満月に手を伸ばす。手を伸ばせば届きそうにも感じられる程の大きな満月。だが、当然ながら、その手に満月が納まることはない。

 

「…フッ」

 

大地は皮肉気に笑みを浮かべる。

 

近くに満天輝いているのに届かない。それはまるで今の自分のようだと。

 

そんな大地を、満天の月がだけが、照らし、見つめていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日…。

 

放課後となり、昨日の公園に空はやってくる。公園にはまだ誰の姿もない。

 

「…」

 

空はバッグからボールを取り出すと、ドリブルを始める。

 

ゆっくりフリースローライン程の距離に進むと…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

シュートを放ち、ボールをリングに潜らせる。

 

ボールを拾っては放ち、拾っては放ちを繰り返していると…。

 

「お待たせしました」

 

そこへ遅れて大地がやってくる。

 

「よう」

 

空はボールを大地に放り、大地がそれを受け取る。

 

「1ON1やろうぜ」

 

空が誘いをかける。

 

「…ええ、やりましょう」

 

大地は了承し、上着を脱ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

「…」

 

1ON1を始める両者。どちらも一進一退、互角の勝負を繰り広げる。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

空のブロックショットが炸裂する。

 

「甘いな」

 

大地の攻撃を防ぎ、ドヤ顔を浮かべる空。

 

続き、空のオフェンス。空は左右に揺さぶりをかけ、緩急を付けながら攻撃を組み立てていく。

 

得意のパターンであるクロス・オーバーからのバックロールターンで仕掛け、シュート体勢に入る。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

だが、それを読んだ大地にブロックされる。

 

「読めていますよ」

 

大地はニコッと笑顔を浮かべる。

 

数本に亘ってオフェンス、ディフェンスを入れ替え、1ON1を行う2人。すでに3本程入れ替わって1ON1をするが、どちらも1本も決まらない。それは、両者の実力が拮抗しているという理由以上に…。

 

「…ったく、プレーに精彩が欠けるな」

 

「…お互いに、ですね」

 

2人は苦笑いをした。

 

「「…」」

 

両者共に無言になる。1分程黙っていると空が口を開いた。

 

「去年、キセキの世代の生で見て、そこで掲げた誓い。キセキの世代を倒すという目標。それは今でも変わらない。…けどさ、俺さあ、あいつらを倒すという目標と同等…いや、それ以上に……俺は、もっと…もっと強くなりたい…!」

 

空は拳をギュッと握り、歯を食い縛りながら告げる。

 

「情けねぇ話さ、今の俺達じゃ、あいつらには歯が立たない。2対1でも。…あいつらに追いつくためには、どうすりゃいいのか…、それすらも見えない」

 

「…」

 

「…けど、その答えは、あの人が…三杉さんが知っているような気がする。これは、誓いに背くことなのかもしれないけど。…それでも! …俺は…俺は…!」

 

空が顔を上げる。

 

「もっと強くなるために、三杉さんの下で学びたい。あの人から学べるものを全て学びたい! だから俺は、花月高校に行く。俺自身がもっと強くなるために」

 

空のその瞳には、堅い決意が感じられる。もっと強く、もっと高みに…それを思わせる強き決意。

 

「…」

 

大地はその決意を静かに受け止める。

 

「…私とあなたは違う。性格も、考え方も…」

 

「…」

 

「翌年、三杉さんの下でキセキの世代を倒したとしても、私は納得できない。虎の威を借る狐。もっとも醜く、嫌いなものです。私のプライドはきっとそれを許さない」

 

大地がそっと目を瞑る。

 

「ですが、つまらないプライドです。所詮は、矮小な自分には不相応なプライド。そんなもの、持つことに意味はありません」

 

大地は瞳を開け、空を見据える。

 

「ふふっ、私と空。様々違う点が見受けられるのに、こと、バスケとなると、どうしてこうも合ってしまうのか、もはやこれは絆なのか、はたまた、縁なのか…」

 

「なら、答えは…」

 

「抜け駆けは許しませんよ? 私も、あの方の下で師事を仰ぎたい。もっと、自身を高めたいです」

 

大地はニコリと笑みを浮かべた。

 

「決まりだ。なら、俺達の進むべく道は花月高校だ。そこで俺達は力を付けて――」

 

「ええ。あの時の誓いを果たしましょう」

 

空と大地は拳を突出し、コツンとぶつけた。

 

「お待たせ、昨日の返事を聞きに来たよ」

 

ふと、公園の入り口に、三杉誠也の姿があった。

 

空と大地は、姿勢を正し、三杉の方へ振り返り…。

 

「「よろしくお願いします、『先輩』」」

 

2人は頭を下げた。

 

三杉はニヤリと笑みを浮かべ…。

 

「よろしく、『後輩』達」

 

そんな言葉をかけた。

 

「話しは決まったようだな」

 

そこへ、長身の険しい顔つきの男がやってくる。

 

「「っ!?」」

 

その男を見て、空と大地は身震いする。

 

「(でけぇ…いや、それだけじゃねぇ、この人からも、三杉さんと同じ種類の匂いがする…!)」

 

「(気圧される…! この人が纏うものは、それほどに…!)」

 

圧倒される2人。

 

「ああ。やっと来たね。そこで威圧してないで、君も自己紹介しようか」

 

「堀田健だ。来年、お前達と僅かながら共にすることになる。よろしく頼む。…あと、俺は威圧などしていない」

 

ジト目で堀田は三杉を見る。

 

「悪い悪い。…とりあえず、理事長にはすでに話を通してある。明日にでも花月高校に来てほしい」

 

「…手回しが速いですね。…ていうか、俺らがこの話を断ることは考えてなかったんですか?」

 

素朴な疑問をぶつける空。

 

「受けてくれると思ったからね。…さて、来年が楽しみだ」

 

三杉がにこやかに囁く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

空と大地は、花月高校への入学を決意する。

 

その選択を、彼ら獲得を熱望していた全国の強豪校が疑問の声を上げた。

 

この年のウィンターカップは、他の予想を覆す結果となり、ファンを熱狂させた。

 

…そして月日が経ち、2人は高校生となった。

 

新たな物語が…今…始まる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 


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