黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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最終話~キセキの世代~

 

 

 

自由の国、アメリカ…。

 

世界最高峰のリーグ、NBAがある、バスケット大国、アメリカ…。

 

NBAでは、世界のトップクラスの選手達が集まり、観る者を圧倒し、魅了し、熱くさせる試合が行われる。

 

この世界のトップクラスが集まるNBAで、今、日本のバスケブームの火付け役となり、日本のバスケの発展に貢献した者達が活躍していた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『Woo hoo!!!』

 

沸き上がる歓声。

 

 

マサチューセッツ州ボストンにあるバスケ会場、通称TDガーデン。この会場にて、本拠地であるボストン・セルティックスと、フィラデルフィア・セブンティシクサーズの試合が行われようとしていた。

 

スターティングメンバーが発表され、両チーム選手達がコートへと足を踏み入れる。

 

「今日は負けないッスよ」

 

スタメン選ばれたシクサーズに所属の選手であり、チーム内唯一の日本人である黄瀬涼太がセルティックスの選手の1人に話しかける。

 

「こっちこそ、前回は後れを取ったらね。今日は勝たせてもらうよ」

 

そう返すのは、セルティックスに所属する、同じくチーム内唯一の日本人である、三杉誠也。

 

「俺達、同じオールラウンダーの選手って言われてるけど、そろそろどっちが上か決めるのも、悪くないと思わないッスか?」

 

不敵に笑い、若干挑発するように尋ねる黄瀬。

 

「個人的には、チームが勝てるのであれば、君と俺のどちらが上でも構わないよ」

 

黄瀬の提案に、三杉は含みのある笑みを浮かべながら返す。

 

「随分と弱気ッスね。もしかして、今日は調子が悪いッスか?」

 

「どうだろうね? ただ言える事は、試合が終わった時に分かる事さ。試合の結果も、…俺達の優劣も、ね」

 

その言葉を聞いて、黄瀬はニヤリと笑う。

 

「要するに、自信ありって事ッスね。上等ッス。今日も勝たせてもらうッスよ!」

 

「やれるものならやってみな」

 

宣戦布告に、三杉はニヤリと笑いながら返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって、日本某所…。

 

「始まったぞ!」

 

ボストン・セルティックス対フィラデルフィア・セブンティシクサーズの試合が始まり、テレビの前に、高校時代の黄瀬のかつてのチームメイトである海常の先輩達が集まっていた。

 

「がんば(れ)黄瀬ぇ!!!」

 

「うるせえよ、耳元で叫ぶんじゃねえ!」

 

「あいた!!!」

 

かつての後輩に声援を贈る早川の頭を叩く笠松。

 

「今や、日本が誇るオールラウンダー同士の対決。両チームのスタメンから見て、基本はオフェンスでもディフェンスでも黄瀬と三杉がマッチアップする事になるだろうが…」

 

「正直、あの黄瀬が負ける事が想像出来ないが、確か、前回は黄瀬が勝ったんだよな?」

 

テレビに注目する森山。前回の試合を思い出しながら小堀が尋ねる。

 

「はい。確か、7点差で」

 

中村が答える。

 

「前回の試合は俺も見てた。確かにシクサーズが勝ったが、黄瀬と三杉の個人で比べると…」

 

両者の優劣を考える笠松。

 

「…正直、まだ三杉の方が上か?」

 

考えた結果、三杉に軍配を上げた。

 

「黄瀬の方が確かに得点能力は上だ。試合単位で見た時、爆発力のある黄瀬の方が優れてるかもしれねえが、シーズン全体を見た時、安定感があって、文字通り、オフェンスとディフェンス、何でも高いレベルでこなせる三杉の方が上だろう」

 

「言われて見ると、黄瀬は、調子の良い時と悪い時でスタッツにかなり差が出るからな。対して三杉は、全ての試合で基本、スタッツは安定してるからな」

 

笠松の分析に、森山は納得する。

 

 

『Woo hoo!!!』

 

ボールは黄瀬に渡り、その目の前に三杉が立つ。

 

 

『…』

 

2人の勝負、5人は固唾を飲んで見守る。

 

 

黄瀬はボールを小刻みに動かし、ジャブステップを数度踏んだ後、司令塔にボールを戻した。そこからローポストに立った味方にパスを出し、そのままターンでゴール下に切り込み、決めた。

 

 

「勝負を避けたか…」

 

「あの黄瀬が避けたって事は、今回は無理だと判断したか…」

 

2人の勝負が終わり、一息吐く5人。その後も両チームは激しくぶつかり合う。

 

「…不思議なものだな」

 

試合が進む中、ポツリと小堀が呟く。

 

「俺達、かつては黄瀬(あいつ)と同じユニフォームを着て、バスケしてたんだよな」

 

高校時代、この5人は笠松と森山と小堀は1年、早川と中村は2年、チームメイトして過ごしている。

 

「あの時から既に差は凄かったが、同じ場所にいた。…すっかり、遠くに行っちまったな」

 

昔を思い返し、しみじみと語る小堀。

 

『…』

 

同じく昔を思い返し、当時の事を懐かしむ4人。

 

「俺はまだ諦めてねえぞ」

 

しかし、笠松は表情を改める。

 

「俺だって日々成長してんだ。必ずあの黄瀬(バカ)に追い付いてやる」

 

そう宣言した。

 

「その為にも、まずはリーグ優勝だ! 今年こそ優勝してやる!」

 

意気込む笠松。

 

笠松は現在、日本のプロリーグ、その中のトップリーグである、B1のチームに所属している。早川も別のB1チームに所属している。

 

「頑張れよ。…俺達もいつか、同じ土俵に上がらないとな」

 

「ああ。そうすれば、女の子のファンが増えるかもしれないからな」

 

笠松を応援しつつ、意気込む小堀と森山。

 

2人はB2のチームに所属しており、中村は社会人リーグに所属している。

 

「お(れ)も(リ)バウンドたくさんとって、いつかNBAにぃ…!!!」

 

「だからうるせえんだよ!!!」

 

笠松が早川の頭を小突いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって、アメリカ、フロリダ州…。

 

 

『オォォォォォーーー!!!』

 

沸き上がる歓声。現在、フロリダ州のとある会場にて、オーランド・マジックと、マイアミ・ヒートの試合が行われていた。

 

 

――ピッ!

 

 

マジックのオフェンス。1人の選手にパスが出される。

 

 

『ヘイ、ダイキ! 今日も魅せてくれよ!』

 

マジックブースターから声援が贈られる。

 

 

「ハッ! 言われなくてもよ…!」

 

ボールを受け取った青峰がニヤリと笑う。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

ボールを掴んだ青峰が得意のストリートのムーブで揺さぶりをかける。

 

 

――スッ…。

 

 

左に切り返した直後、青峰はボールを掴んで右方向へと飛び、ドッチボールのようにボールを構える。

 

 

『出た、ダイキのサーカスシュート!!!』

 

今やマジックの代名詞である青峰のサーカスシュートに沸き上がるマジックブースター。

 

 

ボールを構えた青峰がリングに向かってボールを投げる。

 

「――ハァ? させると思ってんの?」

 

「っ!?」

 

そこへ、相手チーム、ヒートの1人である紫原がブロックに現れる。

 

「…ちっ!」

 

咄嗟に青峰が身体を捻り、ボールをリングとは違う方向へと投げる。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バス!!!

 

 

パスを受けたマジックの選手がそのまま得点を決めた。

 

「…ちっ」

 

青峰が不満気に舌打ちをする。

 

「…なに、不満? 点入ったじゃん」

 

その舌打ちが気に障った紫原が思わず声を掛ける。

 

「不満に決まってんだろ。次は俺が直接決めてやるよ」

 

紫原を指差しながら宣言する青峰。

 

「させると思ってんの? 逆に捻り潰してやるよ」

 

「やれるもんならやってみろよ」

 

睨み付ける紫原に、青峰は不敵に笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「おーおー、激しくやりおうとるやないか」

 

日本にて、マジックとヒートの試合を見ている今吉。

 

「相手をかわしてフォームレスシュートを打つ青峰と、それに反応してブロックする紫原。どっちも相変わらず、化け物じゃのう」

 

2人の激突を見て感想を述べる岡村。

 

「今回は青峰の勝ちって所か。…青峰は不満そうだけどよ」

 

不満気な青峰の表情をテレビ越しで察する若松。

 

とある一室に、かつて、青峰、紫原とチームメイトであった、元桐皇の今吉翔一と若松。元陽泉の岡村と福井がいた。

 

「あいつらも今や、NBAプレーヤーか。…けどよ、あいつらでも、NBAじゃ、日本にいた時みたいに圧倒出来てる訳じゃねえんだよな」

 

昔を思い出しながら、現在の2人の活躍を思い返す。

 

「みたいじゃな。得点のスタッツを見ても、青峰より上は結構おるようじゃし、ブロックやリバウンドを見ても、紫原よりは上はおる」

 

岡村は現NBAの成績を思い返しながら説明する。

 

「青峰も紫原も、日本におった時はほぼ無敵やったが、NBAじゃ、青峰のスピードやアジリティ、果ては、あの型にハマらん動きにも対応してくるようやし、あの紫原もパワーと高さを以てしても、跳ね返してくる奴もおるらしいしのう。…つくづく、バケモン揃いや、アメリカは」

 

苦笑する今吉。

 

「2人も当初は、それなりに洗礼は受けたらしいな。…だけどよ、今では2人共、チームの主力の1人だ。…やっぱり、化け物だな」

 

改めて、2人の才能を再確認する福井。

 

「ちくしょう、俺だっていつかアメリカに行ってやる。青峰だけにデカい顔はさせねえからな!」

 

立ち上がりながら意気込む若松。

 

「相変わらずやかましい奴や。お前ははよ、B1に上がって来いや」

 

「行きますよ! 今年こそは!」

 

今吉に顔を向けながら宣言する若松。

 

「ハッハッハッ! 早く上がって来い。マッチアップするのを楽しみに待っとるぞ!」

 

そんな2人のやり取りを見て、岡村は豪快に笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

再びアメリカ。場所はオハイオ州…。

 

そこに本拠地を置くクリープランド・キャバリアーズと、オクラホマシティ・サンダーの試合が行われていた。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

「…」

 

サンダーの司令塔である、赤司がボールを運ぶ。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

数度の切り返しで赤司の目の前のディフェンスがバランスを崩す。その間に赤司が中に切り込み、レイアップを狙う。

 

「舐めるな!」

 

そこへ、キャブズのブロックが立ちはだかる。

 

 

――スッ…。

 

 

ブロックが現れた所で赤司はボールを下げ、ビハインドパスで真横をへとボールを落とす。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

そこへ走り込んだサンダーの選手がボールを受け取り、そのままダンクを決めた。

 

「ヘイ! ナイスパス、セイジューロー!」

 

ダンクを決めた選手と赤司がハイタッチを交わす。

 

 

キャブズのオフェンス…。

 

「…」

 

ゆっくりボールを運ぶキャブズの司令塔。

 

「っ!? チェックだ!」

 

何かに気付いた赤司が指を差して指示を出す。赤司が指差した先にいた選手にボールが渡る。

 

 

――ピッ!

 

 

ボールが渡ると、すかさずシュート体勢に入り、ボールをリリース。

 

 

『出たぜ、シンタローのクレイジーショット!!!』

 

観客が沸き上がる。

 

 

スリーポイントラインから2m以上離れた位置。そこから放たれたスリー。

 

『…っ』

 

サンダーの選手達がリバウンドに備える。

 

「無駄なのだよ。今日のおは朝占い、蟹座は1位だ。ラッキーアイテムも抜かりない。故に、俺のスリーは落ちん」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは、リングに触れる事無く潜り抜けた。

 

 

『Foo!!! さすがシンタローだぜ!!!』

 

危なげなく決めた緑間に、キャブズのブースターは盛大に沸き上がる。

 

 

「Sit!」

 

緑間のマークマンであるサンダーの選手が悔しがる。

 

「今日の…いや、今日も緑間()のスリーは落ちない」

 

「Sorry。もう打たせねえさ」

 

赤司が声を掛けると、その選手は表情を改め、気合いを入れ直す。

 

「さすがだな」

 

日本人であり、出場選手の中でもっとも若い赤司がチームを纏めている姿を見て思わず呟く緑間。

 

「パスを下さい。今日は調子が良さそうです」

 

「OK! 頼むぜシンタロー!」

 

「スクリーンをかける。合図見逃すなよ」

 

緑間の言葉に、キャブズの選手達が応える。

 

サンダーとキャブズの試合は、ここからさらに激化していく…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「スッゲーな…」

 

この試合をテレビで見ていた元秀徳、高尾が呟く。

 

「NBAの連中が真ちゃんの為に動いてやがる」

 

映像では、ハンドラーの合図と同時に緑間をフリーにする為にスクリーンをかけ、それに合わせてハンドラーがパスを出していた。

 

「それを言ったら征ちゃんもよ。すかさず指示を出して対応させてるわ」

 

その場にいた、元洛山の実渕。その言葉通り、緑間にボールが渡ったが、赤司の指示によってスリーを打たす隙を与えなかった。

 

「今では見慣れた光景だけどさ、改めて、スゲー光景だよな」

 

試合を見ながら高尾が呟く。ここ最近では、日本人の姿を、NBAの試合で当たり前のように拝見出来るからだ。

 

「征ちゃんは今や、サンダーの中心選手の1人。慎太郎ちゃんも、昨年のスリー成功率70%越えのNBA屈指のシューターの1人だものね」

 

実渕の言葉通り、赤司も緑間も、NBAでしっかり活躍し、信頼を勝ち取っていた。

 

「…正直、いつかまた真ちゃんと、とか思った事もあったけど…」

 

思わず弱気な言葉が出る高尾。

 

「あなただって立派よ。だってもうチームで2番目の司令塔としてしっかり結果出してるじゃない」

 

気落ちしている高尾を励ます実渕。

 

「もう少しキャリアを積めば、正ポイントガードの座も夢じゃないわ。だから、自信を持ちなさい」

 

「…うす。そうッスね」

 

実渕の言葉に、気持ちを入れ替える高尾。

 

「フフッ、その意気よ。じゃあ、元気が出るように美味しい物でも作ってあげるわ。何かリクエストはある?」

 

「いいッスよ! つうか、そういうのマジで止めて下さいよ。ただでさえ、チーム内でも疑惑出てるんスから」

 

「やーねぇ、ちょっとしたジョークじゃない」

 

ジト目の高尾に、実渕はケラケラと笑いながら返すのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

続けて、場所は、ニューヨーク州の会場…。

 

その会場で、ニューヨーク・ニックスと、シカゴ・ブルズの試合が行われていた。

 

 

――ピッ!

 

 

ニックスのオフェンス。ハンドラーからインサイドへとパスが出される。

 

「よし」

 

ボールを掴んだのはローポストに立った堀田。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そこからポストアップでゴール下へと押し込み始める。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!」

 

再度押し込み、バランスを崩した所でターンをし、ゴール下へと侵入し、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「させるか!」

 

そこへ、ブルズの選手、火神がブロックに現れる。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

堀田とリングの間に現れ、堀田の掴むボールに火神の伸ばした手がぶつかる。

 

「むん!」

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

「がっ!」

 

気合いと共に力を込め、火神を吹き飛ばしながらボールをリングに叩きつけた。

 

 

『ヒュー!!! 相変わらず、日本人とは思えないパワーだぜ!』

 

日本人離れしたパワーに歓声を贈るニックスブースター。

 

 

「無理はしない事だ。シーズンは長いぞ」

 

コートに尻餅を付いた火神に手を差し伸べる堀田。

 

「…ちっ」

 

舌打ちをしながら火神はその手を取り、立ち上がった。

 

ブルズのオフェンス…。

 

 

――ピッ!

 

 

フロントコートにボールを運ぶと、ボールを回しながらチャンスを窺う。

 

 

――ピッ!

 

 

外から中にボールが移動し、ローポストの選手ボールが渡る。

 

「…むっ」

 

これを見て堀田がすかさずチェックに入る。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、その選手は仕掛けず、後ろへ振り返ると、ボールを高くフワリと浮かせた。そこには…。

 

『っ!?』

 

目を見開くニックスの選手達。そこには、空高く跳躍する火神の姿があった。

 

「っしゃ!」

 

火神の右手にボールが収まる。

 

「…っ!」

 

すぐさま堀田がブロックに飛び、火神とリングの間に立ちはだかる。

 

「らぁっ!」

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

「っ!?」

 

火神は、堀田のブロックの上からボールをリングに叩きつけた。

 

「ハッ! そんな低いブロックじゃ、俺には届かないぜ」

 

先程のお返しとばかりに着地した火神がニヤリと笑みを浮かべながら堀田に告げる。

 

「面白い」

 

対して堀田は、不敵に笑みを浮かべたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「さっそく始まったな」

 

テレビにて、日本人同士がぶつかり合うのを目の当たりにした元誠凛、日向。

 

「相変わらず、火神のダンクは凄いな。…堀田もだが」

 

両チームの日本人による、ダンクの応酬に苦笑する同じく、元誠凛、伊月。

 

「にしてもいつ見ても空いた口が塞がらんで。アメリカ人相手でもお構いなしに弾き返すタケさんも、上からポンポンダンクかます火神も…」

 

同じく苦笑する元花月の天野。

 

通常、日本人は身体能力の面でアメリカ人に大きく水をあけられている。過去にもその差に大いに苦しめられていた。しかし、堀田はパワー面で、火神はジャンプ力の面で時に圧倒していた。

 

「俺達もリーグで外国人と対戦する機会は多いから良く分かる。あいつら、そこらの日本人とは比較にならない身体能力してるからな」

 

現在、B1リーグのチームに所属している日向。B1リーグには今や、多数の外国人が在籍している為、対戦する機会は多い。

 

「だけど、俺達がやり合ってるのは、既に全盛期を過ぎていたり、言い方は悪いが、通用しなかった選手達だ。俺達がやり合っている選手とはさらにレベルが上のはずだ」

 

冷静に分析する伊月。

 

「昔は大雑把に凄いとしか分からなかったが、曲がりなりにもプロでプレーしてる今の俺には良く分かるぜ。あいつらがどれだけ凄い環境でバスケをしてるかが」

 

NBAでプレーしてる事の偉大さを日向は痛感した。

 

「…盛り上がっとる所申し訳ないんやけど、チャンネル変えてもええでっか?」

 

それから試合を見続けていると、おもむろに天野がそう尋ねる。

 

「どうした? 何か見たい番組であんのか?」

 

怪訝そうに聞き返す日向。

 

「ちゃうちゃう。これから別のチャンネルで昔の後輩の試合が始まるねん。ちょい気になってな」

 

「後輩? …ああ、そう言う事か。ほらよ」

 

何かを察した日向が天野にリモコンを渡す。

 

「おおきに!」

 

礼を言った天野はチャンネルを変えたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

カリフォルニア州、ロサンゼルスの某会場…。

 

 

『オォォォォォーーー!!!』

 

 

沸き上がる観客。会場では、ロサンゼルス・レイカーズ対フェニックス・サンズの試合が行われていた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールがリングを潜り抜ける。

 

 

『Foo!!! 出たぜ、ダイチのシグネチャームーブ、バックステップ・ワンレッグ・フェイダウェイ!!!』

 

歓声を上げるサンズブースター。

 

サンズに所属する大地。大地のフルドライブからの急停止、バックステップからさらに後ろへバックステップをした足で飛んで打つフェイダウェイ。今ではサンズのお馴染みの光景となっていた。

 

 

「ハッハッハッ! やるじゃねえかよ!」

 

バシッっと、大地の背中を叩くのはチームメイトのジェイソン・シルバー。

 

「…っ、痛いですよ」

 

背中が曲がる程の力に、顔を顰める大地。

 

 

「…ちっ」

 

舌打ちをするのはレイカーズの司令塔であるナッシュ・ゴールド・Jr。

 

現在、試合は第2Qに入って7分が経過して、点差は15点にまで開いていた。

 

「(…ふん、あのジャパニーズ、どうやら今日は当たってるようだな)」

 

大地の調子の良さを見抜くナッシュ。今日大地はこれで16点であり、フィールドゴール率も高く、その目論見は当たっていた。

 

「(ムカつく話だが、流れは完全に持ってかれちまった。このままじゃ、シルバーまで乗せちまう。ここでどうにか流れ変えねえとこの試合、持ってかれる…)」

 

ここまでの経過を見て、ナッシュのこの試合の行き先の悪さを感じ取っていた。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

直後のボールデッドで、レイカーズのメンバーチェンジがコールされる。

 

 

『オォォォォォーーー!!!』

 

同時にレイカーズブースターが沸き上がる。レイカーズブースターの視線の先、そこには、レイカーズのユニフォームを着た1人の日本人が立っていた。

 

「Go! sky!」

 

「オーライ!」

 

交代を告げられた選手がコートを出る際にハイタッチと同時に声を掛ける。

 

 

『待ってたぜ!!!』

 

『今日も魅せてくれよ!』

 

レイカーズブースターがコート入りする選手に次々と歓声を飛ばしていく。

 

 

「ハッハッハッ! 最高のシチュエーションじゃねえか!」

 

自身が考える絶好のタイミングでの出場に、不敵に笑みを浮かべる。

 

「ショータイムと行こうぜ!!!」

 

同時に右拳を突き上げる。

 

 

『オォォォォォーーー!!!』

 

同時に声を張り上げるレイカーズブースター。

 

『GoGo sky!!! GoGo sky!!!』

 

会場が割れんばかりのコールで響き渡る。

 

レイカーズ所属、skyの愛称で今やお馴染みの、空がコートへと足を踏み入れた。

 

「いいねいいね。今日も良い感じ――がっ!」

 

沸き上がるコールに空が聞き惚れていると、横から現れた何者かに脇腹を蹴られた。

 

「浮かれてんじゃねえこのクソザル! てめえ、状況分かってんのか!?」

 

怒りを露にしたナッシュが空に詰め寄った。

 

「てめえに言われねえでも分かってるよ! 要は、ピンチだろ? ここからひっくり返すのが楽しいんじゃねえか」

 

蹴られた脇腹を擦りながらナッシュに詰め寄ると、その後にニヤリと笑った。

 

「…ちっ! 何でこんなノータリンのサルなんざ試合に出しやがんだ。ボスは何考えてやがる…」

 

嫌悪感丸出しのナッシュ。

 

「そもそも、司令塔のてめえがこんな状況になるまで手ぇこまねいてたからだろうが。尻拭いする俺の身にもなりやがれ」

 

「「――あっ?」」

 

空とナッシュが顔を摺り寄せて睨み合った。

 

「ガッハッハッ! あいつら、相変わらず仲悪ぃな!」

 

2人のやり取りを見てシルバーは大笑いしている。

 

「ホント、分かんねえよな。あいつら、顔合わせりゃ、聞くに堪えねえ、時々、笑えねえようなケンカばかりしてる癖に、バスケやらせると信じらねえ程に息が合っちまうんだからな」

 

不思議そうに睨み合う空とナッシュを見つめるレイカーズの選手達。

 

※ちなみに、レイカーズブースターにとっては今ではお馴染みの光景なので、皆笑いながら2人の様子を見守っている。

 

「…ちっ、てめえ殺すのは後だ、今は――」

 

「目の前の相手をぶっ潰す!」

 

意見が纏まり、2人はサンズの選手達を睨み付けた。

 

「(…空。1度は治ったと思った、その時のテンションやモチベーションによってパフォーマンス能力が左右される、ムラのある性格がアメリカに来て再び顔を出すようになってしまった。そのせいでスタメン起用される機会は減ってしまった)」

 

大地の言葉通り、空のムラッ気が再発し、調子が良い時と悪い時のパフォーマンス能力の差が大きくなってしまい、不安定過ぎてスタメン起用される事が減ってしまったのだ。

 

「(ですが、レイカーズのヘッドコーチはそんな空の特性を良く理解し、空のパフォーマンスがもっとも発揮出来るように器用しています。その為、空がコートへ入ると、試合の空気や流れがガラッと変わる…)」

 

空のキャラクター性も相まって、空がコート入りすると、会場は大いに盛り上がる。そこへ、最高潮の空のパフォーマンスが加わる為、空はこれまで幾度となく試合の行く末を変えて来たのだ。

 

「(15点差…、残り時間を考えても、あって無いようなもの。)ここからが正念場。…空、この試合、譲りませんよ」

 

大地はこちらを睨む空に、向き直るのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「くーが出て来た!」

 

レイカーズ対サンズの試合のテレビ中継を見ている元花月のチームメイトの生嶋。

 

「昔から派手だったが、またさらに派手になったな。…色んな意味でも」

 

同じく元花月のチームメイト、松永。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

テレビ中継にて、空とナッシュの連携で得点を奪う。

 

「今の連携も見事だね。まるで高校時代のくーとダイを見ているようだよ」

 

息ピッタリの空とナッシュを見て、かつて、同じチームでの空と大地を連想する生嶋。

 

「…もう7年も経つのか」

 

「…ん?」

 

「神城と綾瀬が日本を発ってから」

 

試合を見ながら、松永がポツリと呟く。

 

「そっか、もうそんなに経つんだね。思い出すな。くーとダイと、皆でキセキの世代達に挑んだ事。2年のウィンターカップで優勝した事…」

 

昔を思い出すように懐かしむ生嶋。

 

「あのウィンターカップを最後に、神城と綾瀬は花月の姉妹校であるアメリカの高校に本格的に留学したからな」

 

「突然だったからびっくりしたよね」

 

花月が奇跡の優勝を勝ち取ったウィンターカップ。その大会を最後にキセキの世代及び、火神の代は高校バスケから去った。空と大地もまた、あの大会を最後に、アメリカへの留学を決め、日本から飛び立ったのだ。

 

「仕方がない。キセキを冠する者がいない日本の高校バスケでは、あの2人では物足りないだろうからな」

 

「…おかげで、くーにダイ、天先輩の3人も主力が抜けちゃったから、最後の年は優勝出来なかったけどね」

 

「…情けない話だ」

 

2人は自嘲気味に笑った。

 

「…また、くーやダイとバスケしたいな」

 

しみじみと呟く生嶋。

 

「出来るさ。今年はあれ(・・)があるからな」

 

「あれ? …ああ!」

 

松永の言葉に何かを思い出す生嶋。

 

「競争率はかなり高い。枠の数を考えても、可能性は0に近いだろう。…だが、諦めん」

 

決意に満ちた表情をする松永。

 

「…そうだね。その為にも、僕達もリーグで結果を出さないとね」

 

「無論だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

花月高校が優勝を決めたウィンターカップから7年あまり…。

 

高校バスケを大いに賑わせ、熱くさせたキセキを冠する者達は今、海を越えた異国の地、アメリカで活躍をしていた。

 

彼らの活躍によって、今や日本は空前のバスケブームをもたらし、その人気は、サッカーや野球に並ぶ程にまでになっていた。

 

今やバスケファンのみならず、多くの者達が、彼らの活躍に一喜一憂していた。

 

そしてこの年、そんなバスケファン達を更なる熱狂の渦へと巻きこむ、一大イベントが開催される。

 

 

――FIBAワールドカップ…。

 

 

FIBAに加盟している国同士による、世界最強の国を決める大会。

 

国の威信をかけた戦いが今年、開催される事となった。

 

かつてであれば、そこまで期待はされなかったであろう大会。

 

だが、今年は違った。

 

過去最強の布陣で臨む事となり、その期待度は最高潮にはまで達していた。

 

誰もがこの大会に夢を期待をしていた。

 

日本が、世界の頂点に立つ夢を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

大歓声の試合会場。

 

 

「この1本、大事ッスよ!」

 

「絶対取りやがれ!」

 

ベンチにて、コート上の選手達に檄を飛ばす黄瀬と火神。

 

現在、FIBAワールドカップの準決勝にまで勝ち進んだ日本が、決勝進出をかけて、スペインと激闘を繰り広げていた。

 

 

第4Q、残り38秒

 

 

日本   83

スペイン 84

 

 

残り時間は僅か、日本は1点ビハインドでボールを保持していた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを持っていた青峰が一気に加速、中へと切り込む。

 

「おらぁ!!!」

 

そのまま突き進んだ青峰はボールを掴み、リングに向かって飛ぶ。

 

 

『頼む!!!』

 

日本ブースターから祈るような応援がかけられる。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

しかし、ボールがリングに叩きつけられる直前、突如として現れたスペインの選手によってブロックされてしまう。

 

 

優勝候補の一角、FIBAランキングにおいても2位に付けている強豪国、スペイン。スペインもまた、この大会に国の威信をかけており、NBAで活躍している選手を全て招集。全身全霊でこの大会に臨んでいた。

 

 

「ヘイ、こっちだ!」

 

ブロックに合わせて速攻に走っていたスペインの選手がボールを要求。パスを受けると、そのまま速攻に駆け上がった。

 

「行かせっかよ!」

 

そんな彼の前に立ちはだかるのは、今日、途中出場の空。早々に相手を捉えた。

 

「…ちっ」

 

舌打ちをして足を止めるスペインの選手。その間に日本の選手はディフェンスに戻る。

 

 

準決勝にまで辿り着いた日本。だが、その道のりは、決して平坦なものではなかった。

 

現時点で考えられる最強の布陣で大会に臨んだ日本代表。優勝すら狙えるとまで言われるメンバーを招集した日本代表。

 

その期待は、選手達の背中を押すと同時に、プレッシャーとなってのしかかる事にもなっていた。

 

さらに、日本代表に選出され、日本代表主将と共にバランサーの役割を担う三杉誠也が、負傷による代表離脱し、それが日本代表を暗雲を包む事となった。

 

しかし、三杉誠也の離脱が逆に、代表選出メンバー達の危機感を持つ事となり、結果、選手達1人1人の躍動に繋がる事となった。そして更に…。

 

 

「終わりだ!」

 

ボールを回してチャンスを窺っていたスペイン。スクリーンによってマークを引き剥がしたセンターにボールが渡り、その選手がそのままリングに向かって飛んだ。

 

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

思わず頭を抱えながら絶叫する日本ブースター。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「決めさすかコラァ!!!」

 

「っ!?」

 

横から現れた1本の手によってブロックされた。

 

「ハッハッハッ! 俺様がいる限り、点は決めさせねえぜ!!!」

 

ブロックした選手が豪快に笑う。

 

「よくやった、陸!!!」

 

ベンチの三枝が大声で労う。

 

日本の危機を救ったのは、三杉の離脱を受け、臨時に代表選出を受けた、空の弟、神城陸。

 

全中2連覇をし、鳴り物入りで花月高校に入学。兄に続いて花月を全国制覇に導き、その後渡米。アメリカで活躍し、既にドラフト指名を受けており、NBA入りを決めている。

 

チーム最年少。22歳の指名。三杉たっての希望でもあり、代表に緊急招集した。

 

当初は不安視する声もあったが、陸は大会で確実に結果を出した結果、今ではその声はなくなっていた。

 

 

「っしゃ!」

 

ルーズボールを拾った青峰。

 

「大輝さん!」

 

速攻に走った空がボールを要求。すかさず青峰がパスを出す。

 

 

「させん!」

 

「…っ」

 

ボールを掴んだ空。しかし、相手選手が立ち塞がる。

 

「…」

 

空は1度足を止める。その間に、両チームの選手がオフェンス・ディフェンスにやってくる。

 

 

『時間がないぞ!』

 

『早く仕掛けろ!!!』

 

刻一刻とタイムアップが迫る試合。日本ブースターが急かすような声を上げる。

 

 

「(俺じゃ、目の前の相手をかわすには時間がかかる。仮に抜けても捕まる…)」

 

冷静に攻め手を定める。

 

「(――見えた! 得点に…勝利に繋がるルートは…、ここだ!)」

 

 

――ピッ!

 

 

道筋が見えた空はノールックビハインドパスでボールを横へと放る。

 

「ハッ? いったい何処にパスをして――っ!?」

 

空の理解で出来ないパスに一瞬戸惑うも、すぐに状況を理解したスペイン選手。

 

「(しまった! あまりに存在感がなさ過ぎて忘れていた!)」

 

目を見開くスペイン選手。その視線の先には、15番のユニフォームを着た黒子テツヤの姿が。

 

 

――バチィィッ!!!

 

 

空が出したパスは、黒子によって軌道が変わり、リング付近に加速しながら向かって行った。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

空中でボールを掴んだのは大地。

 

「っ!? くそっ!」

 

慌ててブロックに飛ぶスペイン選手。

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

しかし間に合わず、大地はボールをリングにそのまま叩きつけた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に鳴り響く試合終了のブザー。審判は指を2本立て、振り下ろした。

 

 

試合終了

 

 

日本  85

スペイン 84

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

同時に沸き上がる大歓声。

 

 

「おぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

拳を突き上げながら喜びを露にする大地。そんな大地に向かって飛び込む日本代表の選手達。

 

日本代表は、遂に世界最強に王手をかけ、最強への挑戦権を手に入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

FIBAワールドカップ、決勝前夜…。

 

「…」

 

椅子に座りながらipadを操作している空。

 

「何をしているのですか?」

 

そこに現れた大地が空に声を掛ける。

 

「…いや、ここに来るまで、いろんな事があったなって」

 

昔を懐かしむような表情をする空。空のipadには、昔のフォト画像が写っていた。

 

「中学最後の年に全中を制覇して、三杉さんに誘われて花月に入学して…」

 

「高校最初のインターハイ。優勝はしましたが、キセキの世代の皆さんとの力の差を思い知らされましたね」

 

苦笑する大地。

 

「そんで、その年にウィンターカップに秀徳、翌年のインターハイに陽泉と海常…」

 

「次のウィンターカップで桐皇と洛山にリベンジを果たし、決勝で誠凛に勝ち、私達の最初の夢は果たされた」

 

そう言って、大地は空の横に座った。

 

「その後、アメリカに行ってからもいろいろあったよな。短期留学した時は気付かなかったけど、アメリカには、まだまだスゲー奴がいっぱいいた。それこそ、キセキの世代クラスや、それ以上の奴らも…」

 

「力の差を思い知りましたね」

 

空は操作していたipadを消し、横に置いた。

 

「夢だったNBAプレーヤーになれた。俺なんかは、チャンピオンリングも手にしたけど、やっぱり、1番の夢は…」

 

「アメリカ代表を倒し、日本を世界一に導く事、ですよね」

 

空の続くように大地がニコリとしながら続けた。

 

「…遂に、最強への挑戦権を手に入れた。世界一まで後1つ。絶対に勝とうぜ!」

 

空は大地に拳を突き出す。

 

「もちろんです!」

 

その拳に大地は拳を合わせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ※ ※ ※

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

大歓声に包まれる会場。

 

「遂にやってきました! FIBAワールドカップ決勝! 会場は、大熱狂に包まれています!」

 

決勝当日。この試合は、日本で生放送で中継される。

 

「実況は私、安藤がお送りします。解説には、元NBAプレーヤーでもあり、現在もB1リーグで活躍中の渡瀬選手に来ていただいております。よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします」

 

「渡瀬さん。遂にこの日が来ましたね! 日本代表が、世界一を懸けた決勝の試合が行われる日が!」

 

「ええ。私もこの日を待ち望んでいました。…何年も前から」

 

「日本代表は全て若手で構成されております。ですが、そのメンバーは豪華! 代表12人の内、9人がNBAプレーヤー。1人はリーガACBプレーヤー。三杉選手に変わりに選出された神城陸選手も、現状アマチュア選手ではありますが、既にNBA入りを決めています。残る1人、黒子テツヤ選手は社会人リーグの選手ではありますが、準決勝にて、起死回生のアシストを決めた選手です」

 

「良くぞ、これだけの選手達が一同に揃ったものです。この先、彼らに匹敵…あるいは上回る素質を持つプレーヤーは現れるかもしれません。ですが、これだけのメンバーが同じ時代にこれだけ揃う事はこの先、もしかしたらもうないかもしれません」

 

「まさに、『キセキの世代』、ですね! …どうやら、スタメンの発表がされるようです。いったい、日本はどういった起用をするか、大注目です!」

 

 

『これより、決勝戦に先立ちまして、スターティングメンバーの発表を致します』

 

『オォォォォォーーー!!!』

 

アナウンスと同時に割れんばかりの歓声に包まれる試合会場。

 

『日本代表。ポイントガード、神城空!』

 

「本日司令塔に選ばれたのは、レイカーズの神城空選手です! ここまでは試合途中での出場が主でしたが、今日はスタメン起用です。思い切った選出をしてきましたね!」

 

「恐らく、今日のマッチアップ相手を予想しての起用でしょう。赤司選手では、少々、相性が噛み合い過ぎますから。同チームで手を知り尽くしている彼を起用したのでしょう」

 

『シューティングガード、綾瀬大地!』

 

「2番に選出されたのは、サンズの綾瀬選手! この起用をどう見ますか?」

 

「悪くないんじゃないでしょうか。中からでも外からでも点が取れますし、何より、司令塔の神城選手との相性は抜群です」

 

『スモールフォワード、火神大我!』

 

「続いて選ばれたのは、ブルズの火神選手! 3番での起用です!」

 

「NBAでも屈指のジャンプ力を持つ選手です。この試合でも、制空権を取ってくれると思いますよ」

 

『パワーフォワード、堀田健!』

 

「おおっと、4番にニックスの堀田選手だ! これはサプライズ選出と言えるのはないでしょうか!?」

 

「インサイドの強化が目的でしょう。今日のインサイドはかなりタフな展開になる事が予想されますからね」

 

『センター、紫原敦!』

 

「最後、5番にはヒートの紫原選手! 堀田選手の4番器用を見て、予想はしてましたが、日本代表屈指のインサイドプレーヤーを2人、同時起用してきましたね!」

 

「リスクはもちろんあります。2人同時にファールトラブルになってしまえば、後は三枝選手しかいませんからね。ですが、一方を起用すれば、自ずと負担は1人にのしかかってしまいます。それを避けると同時にインサイドの強化を図る意味でも、この起用はありかと思います」

 

「さあ。日本代表のスタメンが発表されました。この起用をどう見ますか?」

 

「スピードあり、高さあり、パワーあり、連携あり、あらゆる状況に対応出来る、ある意味、バランスの良いメンバー選出です。相手の戦力と出方を図るには絶好の選出ではないでしょうか」

 

『続きまして、アメリカ代表のスターティングメンバーを発表致します』

 

「アメリカのスタメン発表です。アメリカもまた、日本と同じ、若手中心のメンバー選出ではありますが、決して侮れません!」

 

「はい。選ばれたメンバーは全員、NBAプレーヤーであるのは勿論、ほとんどがチームでの主力、中心選手が選出されています。将来的にはトップ選手になっている選手が多数、今大会に参加しています。その実力は、現NBAの最強メンバーにもひけを取らないでしょう」

 

『ポイントガード、ナッシュ・ゴールド・jr!』

 

「アメリカ代表のスターティングメンバー、司令塔はやはり、レイカーズのナッシュ選手です!」

 

「彼のゲームメイク能力はもちろん、テクニック、チームを纏める手腕もNBAでも屈指に優れた選手です。彼を如何に崩すかがこの試合の鍵になるでしょう」

 

『シューティングガード、ウィリアム・ガルシア!』

 

「2番に選ばれたのは、ピストンズのウィリアム選手! 若手でありながら、ピストンズのチームスコアラーでもあるウィリアム選手! かつて、WNBAで活躍したアレクサンドラ・ガルシア選手の弟でもあります!」

 

「彼の得点能力はNBAでも屈指です。ピストンズがプレーオフに進出出来たのは、彼の力によるものが大きいです」

 

『スモールフォワード、マイク・ジョーンズ!』

 

「来ました! アメリカに突如として現れ、神の再来とまで称された天才プレーヤー! 当初は、来シーズンを見据えて、スタメン起用は避けて来るのでは? との情報もありましたが、出てきましたね!」

 

「それだけアメリカも日本を警戒しているでしょう。結構な事です。どの道、世界一を獲るには、彼は避けては通れませんからね」

 

『パワーフォワード、アレン・ブラウン!』

 

「4番に選ばれたのは、ホーネッツのアレン選手!」

 

「彼はNBAでも優れたロールプレーヤーです。とにかく、味方を生かすプレーが上手い。それでいて、個人技にも長けた選手でもあります。アメリカの本気度が窺えますね」

 

『センター、ジェイソン・シルバー!』

 

「5番で選ばれたのは、アメリカで神に選ばれた躰とまで称された、NBAでも屈指の身体能力を持つ選手です!」

 

「身体能力だけなら、現NBAでもトップレベルの選手です。NBA入りした当初は、テクニックで翻弄されている場面も見受けられましたが、今ではNBAでもトッププレイヤーの1人です」

 

「さあ、アメリカ代表のスターティングメンバーの発表が終わりました。このメンバーを見て、何か一言、感想をお願いします」

 

「考えられる限りの最強のスタメン選出です。1つ言えるのは、アメリカは、全力で日本にぶつかってくる。と言う事です」

 

「ありがとうございました! さあ、日本、アメリカのスタメンの選手達がコートへとやって来ました。まもなく、ティップオフです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「よう。チームでも代表でも控えのお前がスタメンとは、既に試合を投げたか? それとも、最後の思い出作りか?」

 

コートに足を踏み入れた日本、アメリカの両スタメンの選手達。ナッシュが空に不敵に笑いながら話しかける。

 

「監督がよ、相手がてめえなら控えでも十分だとよ」

 

同じく空も、不敵に笑いながら返した。

 

「…ハッ! 何をどうしようと、てめえらジャパニーズが俺達に勝つなんざ、あり得ねえんだよ」

 

「ハッ! 面白れぇ。試合が終わった後に、てめえが何て言い訳するか、楽しみに待っててやるよ」

 

互いに挑発をし合った空とナッシュ。やがて、両チームの選手達はジャンパーを残して散らばっていく。

 

「…」

 

「…」

 

日本のジャンパーは紫原。対して、アメリカのジャンパーはシルバー。

 

『…』

 

審判が紫原、シルバーの両方を見渡し、2人の中心でボールを構え、やがて、高くボールが上げられた。

 

 

 

 

 

――ファイナル・ティップオフ!!!

 

 

 

 

 

「「…っ!」」

 

ジャンパーの2人が同時にボールに飛び付く。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

ジャンプボールを制したのは、紫原。

 

「っしゃぁっ!」

 

すかさず司令塔の空がボールを掴む。

 

「…来い、最強(アメリカ)のバスケを教えてやるよ」

 

空の前に立ち塞がるナッシュ。

 

「行くぞ、最高(日本)のバスケを見せてやるぜ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が仕掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――打倒、アメリカ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

日本のバスケの歴史に名を残す、世紀の一戦が始まった。

 

後に、FIBAワールドカップの歴史においても、屈指の決勝戦と称され、語り継がれる事となる。

 

そして彼らは、伝説となった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ 完 ~

 

 





終わったー!!!

と言う訳で、これにて、黒子バスケ~次世代のキセキ~は完結となります。

前話から最終話まで、とてつもなく時間が飛び、その間の説明は一切端折った事となりましたが、その辺りは、細かく書こうとすると、無知から出る矛盾が必ず出てしまうと思いますので、キセキ達がどのような経緯でNBAまで登り詰めたかは、皆さんの想像にお任せします…(;^ω^)

キセキ達が所属するチームに関しても、深く考えずに決めたので、チームカラーとかイメージに合わないとかもしかしたからあるかもしれませんが、そこもご了承ください…m(_ _)m

最後のアメリカ代表に、気になる選手が出て来たかと思いますが、これも最後なので、ぶっこみました。また以前のような炎上が怖いのですが、今回は覚悟で行きたいと思います…(>_<)

一応、ウィンターカップ後の話も考えていますので、落ち着いたら後に投稿したいと考えています。

最後に、この二次の連載を始めてから8年と半年。最後までお付き合いしていただき、ありがとうございました…m(_ _)m

おかげさまで、自身2作目の完結に漕ぎつける事が出来ました。

この二次を読んでくれた方、感想をくれた方、評価をしてくれた方。そして、この作品を世に生み出し、出会わせてくれた、藤巻先生。本当に、ありがとうございました!!!

では最後に……。




それではまた!!!


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