黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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第214Q~Mix it up~

 

 

 

第4Q、残り2分23秒

 

 

花月 103

誠凛 100

 

 

度重なるターンオーバーからの連続失点を喫し、その結果、焦りのあまり火神に対してディフェンスファールをし、フリースローを与えてしまい、遂には1点差にまで詰め寄られてしまった花月。

 

たまらずタイムアウトを取り、その焦燥感から選手同士で諍いが起こるが、監督上杉がそれを諫め、選手達を落ち着かせる。

 

上杉から出された指示は、『走れ』。

 

ディフェンスは失点を3点のリスクを抑えるのみで、花月のお家芸であり、現花月のメンバーの原点である、機動力を生かしたオフェンス重視…オフェンス特化で残り時間、ひたすら点を取りに行くと言うもの。

 

大胆かつ豪胆とも言える上杉の指示だったが、選手達はこれを受け入れ、タイムアウト終了直後、時間をかけず、得点を奪い、直後の誠凛のオフェンスも、2点を献上させるも、オフェンスが切り替わるのと同時に全員がフロントコートに駆け上がり、誠凛がディフェンス隊形を整える前に得点を決め返した。

 

花月は誠凛に改めて宣戦布告をすると、誠凛も受けて立つ構えを見せ、両チームは、激しくぶつかり合うのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「行くぞ!!!」

 

『応!!!』

 

火神の掛け声に他の誠凛の選手達が応え、一斉にフロントコートに駆け上がる。

 

 

――ピッ!

 

 

誠凛は、ボールを回しながらフロントコートに侵入。

 

 

――ピッ!

 

 

ハイポストに立つ田仲にボールが渡ると、すかさず外に展開した池永にパスを出す。

 

「させへん!」

 

そこへ、パスコースに天野が割り込み、スティールを狙う。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

ボールが天野の手でカットされる直前、黒子によってボールの軌道が変えられる。

 

「ナイスパス!」

 

ボールは再び田仲の手元に戻ってきて、そのままゴール下までドリブル。

 

 

――バス!!!

 

 

そのまま得点を決める。

 

 

花月 103

誠凛 102

 

 

「よし!」

 

拳を握る田仲。

 

「行くぞ!!!」

 

素早くリスタートした花月。ボールを受け取った空がそのままドリブル、フロントコートまで駆け上がる。

 

『応!!!』

 

その声に応えた他の選手達も一斉にフロントコートに駆け上がった。

 

「1本、止めるぞ!!!」

 

『応!!!』

 

速攻で駆け上がる花月を察し、得点直後にすぐさま戻ってディフェンスを整え、花月を迎え撃つ誠凛。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ」

 

誠凛のゾーンディフェンスが待ち受けるフロントコート、空はお構いなしに駆け上がった勢いのまま前方に立つ新海を抜きさる。

 

 

――ピッ!

 

 

直後にノールックビハインドパスでボールを外へと出す。

 

「よし!」

 

ボールは左アウトサイドに展開した生嶋の手に収まる。

 

「…っ!? 絶対に打たせないで!」

 

正確無比のスリーを持つ生嶋の手にボールが渡り、焦るリコ。

 

「任せろ!!!」

 

すかさずチェックに向かう池永。

 

「…っ」

 

シュート体勢に入ろうと膝を曲げた生嶋だったが、池永のチェックが想像以上に速く、このままでは変則リリースでブロックをかわす前に池永に捕まる事を察した生嶋。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スリーを中断し、中に切り込んだ。

 

「がっ!?」

 

両目を見開く池永。勢いよく生嶋との距離を詰めた池永にこのドライブに対応する余裕はなく、抜かれてしまう。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…っ!?」

 

その直後、ボールを叩かれてしまう。

 

「(くっ!? また黒子さん…!?)」

 

池永をかわした瞬間を、忍び寄った黒子がボールを狙い打った。

 

「ナイス黒子!!!」

 

ボールを奪った黒子に声を掛ける火神。零れたボールを黒子が拾う。

 

「まだだ!!! おぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールを確保しようとした瞬間、生嶋が咆哮を上げながらボールに飛び付き、手で弾いた。ボールは黒子の手元から離れていく。

 

「…っ」

 

すぐさま立ち上がり、ボールを追いかける生嶋だったが、それよりも先のボールがラインを割ろうしている。

 

「どけ!!!」

 

その時、大声と同時に生嶋を高速で空が追い抜いた。

 

「らぁっ!!!」

 

ラインを越え、落下しようとしたボールを掴み、空中で身体を強引に捻りながら無理やりコート内へと投げ、戻した。

 

 

――ガシャァァァッ!!!

 

 

空はそのままベンチに突っ込み、なぎ倒してしまう。

 

「ナイス空!」

 

コートに戻ったボールを大地が確保する。

 

「…ちぃっ」

 

それを見た火神が大地に対してすかさずチェックに行く。

 

 

――キュッ!!!

 

 

ボールを持った大地は1歩前へと踏み出し、ドライブの姿勢を見せる。

 

「っ!?」

 

それを見て火神の足が止まる。このままチェックに行けば、池永の二の舞になり、抜かれてしまうからだ。

 

 

――スッ…。

 

 

火神が立ち止まるのと同時に大地は後ろへとステップバック。その足でさらに後ろへと飛びながらシュート体勢に入る。

 

「しまっ――」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

足を止めてしまった火神にこの片足フェイダウェイに対応出来ず、見送ったボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 105

誠凛 102

 

 

「ナイッシュー綾瀬!!!」

 

駆け寄った天野が大地の背中を叩きながら労う。

 

「…っ! くーは!?」

 

ここでベンチに突っ込んだ空の事を思い出し、視線をそっちへと移す。しかし、そこには既に空の姿はなく…。

 

「ディフェンスー!!! 早く戻れ!!!」

 

既に起き上がっていた空が自陣に戻り、指示を出していた。

 

 

『スゲーガッツ…』

 

『花月も負けてねえよ…!』

 

ここまで誠凛一色だった観客。

 

『頑張れ花月!!!』

 

『あと一息だぞ!!!』

 

空を始めとした、選手達のガッツ溢れるプレーに花月を応援する声を出始め、その声が少しずつ拡大していった。

 

 

「スゲー奴らだ。花月はどいつもこいつも…!」

 

気迫溢れる花月の選手達に思わず尊敬の言葉が出る火神。

 

「当然ですよ。だって彼らは、あのキセキの世代を倒したんですから」

 

そんな火神に黒子が横から口を出す。

 

「…何でだろうな、厳しい展開だってのに、試合が楽しくて仕方がねえ…!」

 

そう言って不敵に笑う火神。

 

「同感です。ボクも今、この瞬間が、今までの試合の中で1番楽しいと感じています」

 

黒子も同様に笑みを浮かべた。

 

「だからこそ、この試合に勝ちてー。決勝だから、最後だからってのもあるが、それ以上にこの最高に楽しい試合を勝って終わらせてー!」

 

「勝ちましょう、火神君」

 

「行くぞおめーら、絶対に走り負けるんじゃねえぞ!」

 

「もちろんです!」

 

「誰に言ってんだコラァ!」

 

「はい!!!」

 

火神の檄に、2年生の3人が応える。

 

「行くぞ!!!」

 

リスタートし、新海にボールが渡ると、誠凛の選手達は一斉にフロントコートへと駆け上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ピッ!

 

 

誠凛の選手達がボールを回しながら攻め上がって来る。

 

「打たせへんで!」

 

「ちっ!」

 

スリーポイントラインの外側、右ウィングの位置でパスを受けた池永。すぐさま天野のチェックが入った事でスリーが打てず、舌打ちをする。

 

「(だったら…!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

外がダメならばと池永がカットイン、中へと切り込む。

 

「そないなドライブで抜かせるかい!」

 

このドライブに天野は反応、抜かせずに並走する。

 

「…っ!」

 

これを見て松永も動き、池永の包囲にかかる。

 

「戻せ!」

 

「っ!?」

 

背後から聞こえた新海の声に池永が反応し、囲まれる前に新海へとボールを戻す。

 

「打たせねえよ」

 

ボールを持った新海に、すかさず空が高速でチェックに向かう。

 

 

――ピッ!

 

 

新海は空が目の前に辿り着く前にパスを出す。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

出されたパスが弾かれ、軌道を変える。

 

『っ!?』

 

これに花月の選手達が驚愕する。ボールは右サイドから左サイドへ、両チームの選手達が入り混じる中を針の穴を通すように通過した。

 

「おっしゃぁ!!!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

逆サイドでボールを受け取った池永がそこからジャンプショットを決めた。

 

 

花月 105

誠凛 104

 

 

「っしゃぁ! おらぁ!」

 

得点を決めた池永がガッツポーズをしながら咆哮を上げる。

 

 

『何だ今のパス!?』

 

『あんな密集地帯を横断させてサイドチェンジさせやがった! マジでスゲー!!!』

 

『まさに魔法のパス!』

 

通常はまず不可能な逆サイドへのロングパス。その不可能を可能にしてしまった黒子のパスに驚愕する観客。

 

 

「戻れ! すぐに攻めて来るぞ!」

 

そんな池永に火神が叫ぶように指示。

 

「もう行ってるぜ!」

 

素早くリスタートした花月。ボールを受け取った空はそのままドリブル。他の4人も続いて駆け上がる。

 

「…くそっ!」

 

「…っ」

 

ディフェンスに戻る新海と田仲。誠凛の得点と同時に駆け上がった花月の選手達、特に空と大地のスピードが速く、誠凛のディフェンスが整いきる前に攻め上がっていく。

 

「空!」

 

空の横を駆けていた大地がフリースローライン付近で急旋回。スリーポイントラインの外側へと移動し、ボールを要求。

 

 

――スッ…。

 

 

空は大地の移動した方へ身体を向け、パスを出す。

 

「させっかよ!」

 

2人のパスコースの間に、池永が現れ、スティールを狙う。

 

「あっ!?」

 

スティールを狙った池永が思わず声を上げる。空は大地にではなく、肩越しに背後へ、逆方向にボールを放ったからだ。

 

「おおきに!」

 

そこへ走り込んだ天野がボールを掴む。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そのままレイアップを決めた。

 

 

花月 107

誠凛 104

 

 

「よーし!」

 

ガッツポーズをする天野。

 

「ナイス天野! 次はディフェンスだ! ここらで1本止めて――」

 

 

――ビュッ!!!

 

 

ベンチから立ち上がった菅野が檄を飛ばそうとした瞬間、一陣の風と共にコートの端からボールが猛スピードで通過した。

 

『っ!?』

 

思わず目を見開き、ボールの先、自陣のリングの方面へと振り返る。

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

そこには、ボールをリングに叩きつける火神の姿があった。

 

 

花月 107

誠凛 106

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

同時に会場を覆い尽くす大歓声。

 

 

「全国で最速を誇る君達の機動力…」

 

『…っ』

 

再度、相手リング…、そのゴール下に立っている黒子へと振り返る花月の選手達。

 

「ボク達では追い付く事は出来ないかもしれません。…ですが、どれだけ速くても、ボールより速く動く事は出来ません」

 

花月の選手達に黒子が言う。

 

 

「…ハハッ、出たよ、黒子の回転長距離パス(サイクロンパス)…!」

 

「ここから見ると、改めてデタラメなパスだな…」

 

日向と伊月が苦笑する。

 

 

「…忘れてた、今まで使ってこなかったから忘れちまってたが、黒子にはこれがあるんだったよ」

 

菅野が頭を抱えながらベンチに座り込む。

 

事前のミーテイングで、黒子のパスについてはスカウティングしていた。したはずだった…。だが、加速するパス(イグナイト・パス)廻や、喚起のパス(ブーステッド・パス)のあまりの衝撃に、頭から抜け落ちていた。

 

「ハッハッハッ! スゲースゲー!!!」

 

ベンチの菅野が気落ちする中、空は目を輝かせながら笑う。

 

「俺達も負けてらんねえな。こっちも見せてやろうぜ。日本一走れる、日本一走って来た俺達のバスケを!」

 

「ええ、もちろんです!」

 

「せやな!」

 

「行こう!」

 

「よーし!」

 

空の檄に、他の4人も笑みを浮かべながら応える。

 

大地がボールを拾い、空にパスを出してリスタートをする。

 

「行くぞ!!!」

 

号令と共に空がフロントコートにドリブルを始め、他の4人も続くように駆け上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あれで黒子は百戦錬磨だ。ここまで出さなかった回転長距離パス(サイクロンパス)。出すタイミングは完璧だった。…だが、もはや花月はこの程度では揺らぐ事はないのだよ」

 

緑間が黒子を称える。

 

「花月のタフさは異常ッスからね。神城っちと綾瀬っち、2人がいる限り、花月が折れる事は絶対にないッスよ」

 

夏に戦った経験から、花月のメンタルの強さを良く知る黄瀬。

 

「誠凛の怒涛の追い上げ、ミスや焦りもあって、点差を1点にまで縮められたが、逆にそれが開き直るきっかけにもなれたのかもしれないな」

 

赤司が解説する。

 

一定のリードを保っていた時は何処か、無意識に点差を守りきろうとして面もあった。だが、花月は本来、とことん点を取るオフェンス型のチームである為、それは、花月のスタイルとは真逆とも言える戦法でもあった。そこへ、火神のゾーンや黒子の新技などで、追い上げられる事となったが、一気に追い詰められ、1度は動揺しかけたが、上杉の檄と指示もあり、結果、花月は開き直る事が出来、本来のスタイルに立ち返る事が出来た。花月の精神的支柱であり、司令塔でもある空は健在、その空を支える大地も健在の為、もはや花月は揺るぐ事はない。

 

 

「オラオラオラァ!!!」

 

咆哮を上げながらボールを運ぶ空。

 

 

「…うっさ」

 

その空にうんざり顔の紫原。

 

「誠凛と花月、同じラン&ガンスタイルの超攻撃型バスケのチームだが、詳細は違う」

 

今度は青峰が解説を始める。

 

「ボールが動く誠凛に対して、花月は人が動く」

 

その言葉通り、コート上では花月の選手達がせわしなく動き、機を窺っていた。

 

「…」

 

その場で留まりながらゲームメイクをする空。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

他の4人が動き回った結果、中に出来た僅かスペース目掛け、空は発進、突き進む。

 

「止める!」

 

「行かせっかよ!」

 

仕掛けた先には火神。ドリブルをする空の横を、池永が並走し、空の包囲にかかる。

 

 

――スッ…。

 

 

2人に包囲される前に、空はパスを出す。

 

「っ!?」

 

このパスに、池永は思わず絶句する。空は、横を走る池永の股下にボールを、踏み込んだタイミングに合わせて通したのだ。

 

「ナイスパス!」

 

そこへ走り込んだ大地がボールを掴み、そのままリングに向かって飛ぶ。

 

「させるか!」

 

次の瞬間、火神がブロックに現れる。

 

「大地、右!」

 

「…っ」

 

空の指示が耳に入り、ボールを右へと放る。

 

「ナイスパス、ダイ!」

 

そこには、生嶋が走り込んでいた。

 

「田仲、打たせるな!」

 

「はい!!!」

 

咄嗟に火神が指示を出し、田仲が生嶋のチェックに行く。

 

「こっちだ!」

 

田仲が迫る中、生嶋の耳に、空の声が聞こえる。

 

「お願い!」

 

その声に反応した生嶋がその方角へパスを出す。

 

「…ちっ!」

 

右ウィングの位置でボールを受けた空に、新海がチェックに行く。

 

「(中に切り込まれても構わない、スリーだけは阻止だ!)」

 

ここでスリーを決められるのは誠凛にとって最悪。その為、新海はスリー最優先で止めに入る。中には火神がいる為、止められる可能性も高い。

 

 

――ピッ!

 

 

空はパスを出す。

 

「っ!?」

 

ドッチボールをするように振りかぶって出されたパス。ボールは、空に迫る新海の顔の横スレスレを高速で通過する。

 

「よし!」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールは、隙間を縫うようにゴール下に走り込んだ松永の手に渡り、松永がそのまま決めた。

 

 

花月 109

誠凛 106

 

 

「マジかよ…」

 

今の一連のプレーを見て、観客席の高尾が驚きの表情をする。

 

「確かに、ドリブルしながら横を走ってる敵の股下を通すとはな…」

 

「それも凄いんですけど…」

 

同様の感想を持った宮地(兄)だが、高尾は違う視点を持っていた。

 

「今、花月はそれぞれが独立して動いています。それも全速で。そんな奴らに、神城は手元にドンピシャのタイミングでパスだしてんスよ」

 

「っ!? そう言えば…!」

 

ここで宮地(兄)は高尾の言っている事に気付いた。

 

現在、花月の選手達は、それぞれがその場のアドリブで全速で動いている。ナンバープレーのように事前に決めた動きではなく、アドリブでだ。空は、にも関わらず、絶妙のタイミングでパスを届けているのだ。

 

「正直、試合には負けても、司令塔として優秀なのは赤司だと思ってたけど、今のが偶然やマグレじゃないなら、神城はもしかしたら司令塔としても赤司と互角かも…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ワオ! 最後のパス、まるでナッシュみたいだったな!」

 

右ウィングの位置から一直線に通したパスをみて興奮するニック。

 

「…ふん、眼を使ったか」

 

鼻を鳴らしながらナッシュが言う。

 

「眼? …そうか!」

 

ここで今のプレーの合点がいった。

 

眼とは、空の持つ時空神の眼(クロノス・アイ)。周囲の者とは違う時間軸に立つ眼の事。ゾーンに入り、その最深部に到達している今の空なら使う事が出来る。

 

「なるほど、だからあんなパスが出来た訳か!」

 

同じく気付いたアレン。

 

「(ようやく、その眼を1ON1以外で生かせるようになったか。つっても、あのサルは無意識だろうけどな…)」

 

時空神の眼(クロノス・アイ)をゲームメイクでも使えるようになり、やれやれと言った表情をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『スゲー試合だ…!』

 

『どっちも譲らねえ…!』

 

『もはや殴り合い通り越して取っ組み合いじゃねえか…!』

 

目まぐるしく攻守が切り替わり、どちらも早々にフロントコートに駆け上がり、得点を決める超ハイペースな展開に、観客は驚きを隠せない。

 

『最高の決勝戦だ!』

 

『どっちも頑張れ!!!』

 

互いが全身全霊でぶつかり、鎬を削り合う試合に、会場はこの日最高のボルテージに達する。

 

 

『かーげーつ!!! かーげーつ!!!』

 

 

――ドドドドドドドドドッ!!!

 

 

『せーりん!!! せーりん!!!』

 

 

――ドドドドドドドドドッ!!!

 

 

会場の観客達が、花月か誠凛、いずれかのチームを、足を床に叩きつけて音を鳴らしながら大声でコールしている。誰が初めにやり始めたのか、その場のテンションに煽られ、1人がやり始めると、そこから徐々に周囲の観客にも伝染してやり始め、今では会場のほとんど観客が興に乗せられ、これをやっていた。この音は、会場の外にも響き程であった。

 

「いやー、凄いっスね!」

 

会場が一帯となって行われている地鳴りとコールに、黄瀬も圧倒されている。

 

「うっさ…」

 

紫原は相変わらず顔を顰めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「タイムアウトを取ってからラン&ガンでの点の取り合いだ。…思い出すぜ」

 

若松が、2年前のインターハイでの海常戦の事を思い出す。試合終盤、黄瀬が青峰のスタイルのコピーが完了してから始まった怒涛の点の取り合いを。

 

「けどまあ、ワシらの時よりキツイかもしれへんで。確かに、あの時と展開は似とる。やけど、あの時は実質、青峰と黄瀬君のやり合いが主で、ワシらは基本、邪魔をしたりさせへんようにするのがメインやったからのう」

 

今吉が分か夏に同調しつつ補足する。

 

「せやけど誠凛と花月、どっちも点を取るのはエースだけやのうてチームの全員や。いつボールが来るか分からへんし、もし取りこぼせばほぼ負けやからな。のしかかるプレッシャーは尋常やない。ほんの僅かでも集中切らしたら、終いや」

 

冷や汗を流しながら続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「観客からすれば面白い試合かもしれないが、選手からすれば息の詰まる試合だぜ」

 

試合を見ている笠松の頬に、つーっと冷や汗が流れる。

 

「試合ももう、終盤も終盤だ。疲労はピークだ。集中なんて、いつ切れるか分かったものじゃない」

 

同様に自分の立場に置き換えた小堀。

 

「…誠凛も花月も、タイムアウトを取る気配がないな。まだ両チーム共に、タイムアウトは残ってる。こんだけハイペースな試合をしているんだから、1回くらい、取っても良さそうなものだが…」

 

両チームのベンチにそれぞれ視線を向ける森山。上杉、リコ共に、ベンチにどっかり座っており、タイムアウトを取る気配が微塵も感じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「取れる訳がない」

 

他でもその指摘があり、それを、陽泉の監督である荒木が否定した。

 

「コート上で戦っている選手達の顔を良く見てみろ」

 

荒木に指摘され、かつての教え子である岡村や福井が注目する。

 

「「…っ!」」

 

そして2人の顔が驚愕に染まる。

 

 

――花月と誠凛、双方の選手共に、笑っていたのだ。

 

 

試合で激しくぶつかり合う選手達の表情は、疲労の色はあったり、肩で大きく息をしてはいるが、その表情は、ミスを恐れたり、繰り返される展開に苦しんでいたりではなく、双方、楽しんでいるのだ。

 

「ここでタイムアウトを取って間を空けるような事をしてしまえば、気力に穴が空いて集中力を逆に切らす結果にしかならない上、最高潮にまで達した選手達のテンションに水を差す行為にしかならない」

 

「「…」」

 

「そして何より、今、選手達は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「mix it up」

 

突如、試合を見ていた景虎がポツリと呟いた。

 

「主に、ボクシングで使われる言葉だが、互いに足を止めて激しく打ち合い、限界を超えながら互いに高め合うような試合に用いられると聞く」

 

ここでフッと笑い…。

 

「今、この瞬間がまさにそれだ。誠凛も花月も、互いに全力でぶつかり合って試合を通してさらに自身を高め合っている。…タイムアウトなんか取って選手達の成長を邪魔する事なんざ、出来るはずがねえよな」

 

そう言って、景虎は旧友である上杉と、愛娘であるリコに視線を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「凄い試合…、どっちも譲らない。試合はどうなるんだろう?」

 

試合を見ている桃井が思わず疑問を口に出す。

 

「…正直、結果は終わるまで分からない。だが、確実に言えるのは、辛いのは誠凛だ」

 

桃井の疑問に、赤司が答える。

 

「誠凛が勝つ為には、ファールを貰ってフリースロー獲得するか、花月のオフェンスを止めて連続得点する必要がある。だが、花月はノーファールを貫き、2点であれば取られるのを覚悟でその時間と力をオフェンスに向けている」

 

「スリーはダメなの?」

 

赤司の解説を聞き、新たに浮かんだ疑問を尋ねる。

 

「リスクが大き過ぎる。花月はスリーを絶対阻止でディフェンスをしている。味方に緑間のクラスのシューターがいるならともかく、純粋なシューターがいない誠凛では外す可能性の方が高い上、仮に決められたとしても同点止まりだ。逆転する為にはどの道、花月のオフェンスを止めて決める必要がある」

 

「っ! そっか! 延長戦になったら誠凛が圧倒的に不利だもんね」

 

誠凛にとって、同点、延長戦は負けに等しい行為。リスクに見合うものが得られないのだ。

 

「誠凛が勝つには、花月のオフェンスを止めるしかない。…だが、残り時間は僅か。次、止められなければ…」

 

「…っ」

 

赤司の指摘に、桃井はハッとして残り時間が表示されている掲示板を見たのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――ザシュッ!!!

 

 

ボールを回し続け、花月のゾーンディフェンスを崩した所で黒子がボールを中継、フリーだった新海が得点を決めた。

 

 

第4Q、残り29秒

 

 

花月 113

誠凛 112

 

 

『決めた! 誠凛が再び1点差に詰めた!』

 

 

「ディフェンス! 絶対に死守よ!!!」

 

『おう!!!』

 

ベンチのリコが立ち上がり、檄を飛ばし、選手達はディフェンスに戻りながらそれに応える。

 

 

「…」

 

オフェンスが花月に切り替わる。ボールを運ぶ空だが、これまで通り、フロントコートに駆け上がる事はせず、ゆっくりとボールを運ぶ。

 

 

「さすがの神城も、勢いに任せて攻め上がったりはしないか」

 

ゆっくりボールを運ぶ空を見て呟く小牧。

 

「そらそうやな、誠凛はここを止められんかったら負けや。当然、死に物狂いで止めに来るからのう」

 

今吉(誠)が続けて言う。

 

「誠凛はいつでも最後の土壇場でひっくり返して来た。…俺でもそうするぜ」

 

自分の立場に置き換えて想定した高尾。

 

「注目なのは神城がどういう選択を取るかだ。時間を使い切ってタイムアップを狙うか、それとも点取ってトドメ刺しに来るか…」

 

空の選択に注目する永野。

 

 

「…」

 

ボールをキープしながらゲームメイクをする空。

 

 

「(時間を使い切って逃げ切る? そんな卑怯な真似をするかよ! 正々堂々、トドメ刺して、胸の張れる勝利を掴み取るに決まってんだろ!)」

 

空の心を決まっていた。

 

 

「神城がどの選択を取るか。それは考えるまでもない」

 

赤司が呟いたその時…。

 

 

『なっ!?』

 

会場にいる全ての者が驚愕する。

 

 

――スッ…。

 

 

スリーポイントラインから1m以上離れた位置でボールをキープしていた空。突如その位置でボールを掴み、シュート体勢に入ろうとしていたからだ。

 

 

「ここでスリー!?」

 

「第4Q入って、神城はスリーを一切打たなかったのは…!」

 

「この瞬間の為の布石…!」

 

この行動に、三浦、永野、今吉(誠)も驚いていた。

 

 

「これがあるんだよ神城には!」

 

思わず立ち上がる小牧。かつて全中大会で、意表を突いたスリーを決められ、トドメを刺された記憶を思い出す。

 

 

無警戒で放たれる空のディープスリー。そのスリーに、試合の行く末が決まる。誰もがそう思っていた。

 

「っ!?」

 

空の目が大きく見開かれる。今まさに頭上にリフトさせようとしているボールに、1本の手が迫っていたからだ。

 

「(俺はあの日からずっとお前を見て来た。あの日のリベンジを果たす為に!)」

 

新海が空の持つボールに手を伸ばす。誰もが虚を突かれたと思っていた空の突然のディープスリー。だが、新海だけは読んでいた。全中決勝で負け、1度は全てを失ったあの日から、ずっと空打倒を目指し、幾度となく研究を続けて来た新海だけが…。

 

「…ちっ」

 

スリーも打てる空だが、大地のようにクイックリリースで、それもスリーポイントラインから1m以上離れた位置から決められる程、器用ではない。離れた距離に対応する為、より深く踏み込んでいた事もあり、スリーを打つより、新海の手がボールを捉える方が速い。

 

 

――ピッ!

 

 

瞬時に判断した空はボールを左方向に立つ生嶋へとパスを出す。

 

「池永!」

 

「任せろ!」

 

新海に促され、生嶋にスリーを打たれる前に池永がチェックに向かう。

 

「こっちだ!」

 

パスを出した空が中に走り込み、ボールを要求。

 

 

――ピッ!

 

 

すかさず生嶋が池永の足元でボールを弾ませながら空にリターンパス。

 

「…よし」

 

ハイポスト付近で空がボールを掴む。

 

「空!」

 

ここで、左隅に走り込んだ大地がボールを要求。

 

 

――ピッ!

 

 

同時に空はパスを出す。

 

「っ!?」

 

大地のチェックに走った火神の目が見開かれる。ボールは、左隅でボールを要求した大地…にではなく、ゴール下に走り込んだ松永の手に渡ったからだ。

 

 

『っ!?』

 

再び虚を突いた空の行動に、観客も驚愕する。

 

 

「これで終わりだ!」

 

ボールを右手で掴んだ松永がリングに向かって飛び、ボールをリングへと叩きつける。

 

「おぉっ!!!」

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

その時、田仲が松永のダンクより速くブロックに現れ、ダンクを阻む。

 

「なに!?」

 

驚く松永。

 

 

――ググググッ…!!!

 

 

リング手前でせめぎ合う両者。

 

「(力を振り絞れ! 絶対に、勝つんだ!)…おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

身体から力を振り絞った田仲が松永の手からボールを弾き出した。

 

「よーし!!! よくやった田仲!!!」

 

ベンチの朝日奈が歓喜する。

 

「ちぃっ! 仕切り直しや!」

 

弾かれたボールに飛び付く天野。

 

「うらぁっ!!!」

 

 

――ポン…。

 

 

「っ!?」

 

天野がボールを確保しようとしたその時、横から手をの伸ばしながらボールに飛びついた池永がチップアウトする。

 

『っ!?』

 

再び弾かれ、舞ったボール。そのボールを確保したのは…。

 

「速攻だ!」

 

ボールを確保したのは、新海だった。

 

「よーし、奪った!!!」

 

ボールを奪い、歓喜と共に涙を流す降旗。

 

「戻れ、ディフェンスだ!!!」

 

空が声を張り上げながら檄を飛ばす。

 

 

――ピッ!

 

 

新海はフロントコートに駆け上がると、パスを出す。パスを受けた池永が即座にパス。ボールを回しながらチャンスを窺う。

 

「チェックは素早く、シュートチャンスを与えるな!!!」

 

ベンチから上杉が指示を出す。

 

「(誰で来る!?)」

 

「(火神か!? それとも…!)」

 

ボールを回す誠凛。タイムアップが迫る中、誰で決めて来るか、必死に頭を巡らせる花月の選手達。

 

 

――ピッ!

 

 

新海がパスを出す。ボールは左45度付近のスリーポイントラインの外側。そこには黒子が移動していた。

 

「なっ!?」

 

その位置に一番近い大地の表情が驚きのものに変わる。黒子はボールを中継するのではなく、キャッチしたのだ。そして、次の瞬間!

 

「――っ!?」

 

 

 

 

 

――大地の視界から、黒子の姿が消え失せる。

 

 

 

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

背後から聞こえたバウンド音に振り返る大地。…そこに、黒子はいた。

 

『っ!?』

 

これに驚きの表情を浮かべる花月の選手達。あの大地が為すが儘、あっさり抜いてしまった黒子に。

 

 

消えるドライブ(バニシングドライブ)か!?」

 

大地を抜いた黒子。その技の名を口にする緑間。

 

「布石を打っていたのはテツも同じだった」

 

青峰が口を開く。

 

かつて、自分のスタイルに限界を感じ、チームの勝利の為に編み出した黒子の必殺技。過去に、自身の影の薄さに悪影響を及ぼす事になってしまってから封印していた黒子の必殺のドライブ。

 

 

中に切り込んだ黒子が胸の前でボールを構える。

 

『行っけぇぇぇっ!!!』

 

誠凛ベンチの選手達が立ち上がりながら叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「打たすかよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこへ、空がブロックに飛んで来た。

 

「頼む、止めてくれ!!!」

 

ベンチで祈るように懇願する帆足。

 

空が、シュートコースを塞ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ボクは、影だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒子の手から押し出されるように放たれるボール。

 

「っ!?」

 

ブロックの為に伸ばした空の手をかわすように放たれたボール。放たれた先はリングではない。空が振り返ったそこには…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――空高く、空を歩くように跳躍した火神が舞っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火神の右手にボールが収まる。

 

『いっけぇぇぇぇぇっ!!!』

 

誠凛選手達の全てが思いを込め、叫ぶ。

 

「うおぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

空中を舞う火神が咆哮を上げる。そして…。

 

 

――バキャァァァァ!!!

 

 

そのまま右手に収まったボールをリングへと振り下ろした。

 

 

花月 113

誠凛 114

 

 

『……来た』

 

『遂に逆転! 試合をひっくり返した!!!』

 

1度は20点差近くまで開いた点差をひっくり返した誠凛に対し、観客が大歓声を上げる。

 

『誠凛の逆転勝ち――』

 

 

「まだだ!!!」

 

既に戦勝ムードに浮かれる観客。その時、火神が叫ぶ。走る火神のその先…。

 

 

 

 

 

――大地がフロントコートへと走っていた。

 

 

 

 

 

 

ここで観客達が気付く。試合時間がまだ、5秒残っている事に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

素早くボールを拾ったスローワーとなった松永が先頭を走る大地に縦パスを出そうとする。

 

「おぉっ!!!」

 

「っ!?」

 

縦パスを阻止するべく、松永の目の前に立った田仲が両腕をブンブン振って妨害する。

 

「こっちだ!」

 

そこへ、松永の横で空がボールを要求。すかさず松永は空にパスを出す。

 

 

――4…。

 

 

「止める!」

 

「やらせっかよ!!!」

 

ボールを掴んだ空に、新海と池永がすぐさまチェックに向かう。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空は新海を一瞬の加速のドライブでかわし…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

続く池永をクロスオーバーで抜きさった。

 

「「っ!?」」

 

 

――3…。

 

 

2人を抜きさった所でボールを掴んだ空が、大地に縦パスを出すべく大きく振りかぶった。

 

 

――バチィッ!!

 

 

しかし空は、右手で持ったボールを投げる直前、左手で抑えて止めた。

 

「っ!?」

 

目の前には、空の縦パスをカットしようと進路を塞ぐように手を伸ばした黒子の姿があった。

 

 

「テツ君の動きを読んでた!?」

 

「…いや」

 

黒子のスティールを読んでいたのかと予想した桃井だったが、赤司は首を横に振った。

 

 

「もうあんたの姿は丸見えだ」

 

呟く空。

 

そう、空は、黒子の動きを読んで(・・・)いたのではなく、見えて(・・・)いたのだ。

 

元々、自身の最大の武器である影の薄さは、一昨年に消えるドライブ(バニシングドライブ)や、幻影のシュート(ファントムシュート)を覚え、試合で使った為に失いやすい状態となっていた。先程の消えるドライブ(バニシングドライブ)を使った事で、既に影の薄さは失われてしまっていた。

 

 

――2…。

 

 

再度振りかぶった空が前を走る大地に向けて、大きな縦パスを出した。

 

 

――1…。

 

 

先頭を走る大地に向かって投げられた大きな縦パス。大地がそのパスを取るべく、ジャンプして右手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決めさせるかぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこへ、大地の後方で縦パスをカットする為に大ジャンプをした火神が現れた。

 

「火神!!!」

 

「頼む!!!」

 

「止めてくれ!!!」

 

ベンチの降旗、河原、福田が叫ぶ。

 

「おぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

咆哮を上げながら火神がボールに右手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――無駄だぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボソリと呟く空。

 

空には見えていた。大地へ繋げる為のパスコースが…。先程は見えなかったパスコース。今では、そのパスコースが、光で照らすかの如く、道筋が見えていた。そのパスコースに寸分も違わずに出されたパス。

 

「そのパスは、あんたでも止められない」

 

「――っ!?」

 

ボールをカットする為に伸ばした火神の右手。その数㎝…いや、数㎜先を、ボールは通過していった。

 

 

 

 

 

 

――0.5秒…。

 

 

 

 

 

 

 

――バチィッ!!!

 

 

空が出した縦パスを右手で掴んだ大地。

 

「お願い!!!」

 

「決めてまえ!!!」

 

「行け!!!」

 

生嶋、天野、松永が叫ぶ。

 

『いけぇぇぇぇぇっ!!!』

 

花月ベンチにいる者達が立ち上がりながら叫ぶ。

 

 

「(さすが空。あなたは最高のポイントガードであり、最高の相棒です…)」

 

右手にボールが収まり、そのパスを出した空に対し、胸中で賛辞の言葉を贈る大地。

 

 

火神のアリウープの直後、ただひたすらにリングに向かって走り、飛んだ大地。大地はボールを一切見ていなかった。何故なら、空であれば、自分の求める所へ、最高のタイミングで最高のパスを出してくれると信じていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決めちまえ、大地(相棒)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おぉっ!!!」

 

 

――バス!!!

 

 

そのまま空中で放り、ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ピィィィィィィィィィィィッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時に鳴り響く審判の笛…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

審判は口元から笛を降ろし…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『タイムアップ! 花月高校! ウィンターカップ、優勝!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コールと同時に、高く上げられた右手の2本の指が、振り下ろされた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この瞬間、ウィンターカップ決勝戦の長い長い激闘が、終わりを告げたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





終わったー…\(^-^)/

過去最大の文字数…(;^ω^)

梅雨入りくらいから書き始めた決勝戦、終わってみれば夏が終わり、秋ももうすぐ終わりそうな季節。思えば、ウィンターカップ自体、書き始めたのが2年前の梅雨入り頃と言う、我ながら遅筆ですね…(;^ω^)

前書きは、話に集中してもらう為、敢えて書かず…と言う、悪足掻きをしてみました(無駄な抵抗)。

毎回毎回、試合が始まる前は短くなるかもとか思ってるんですが、数えてみたらこの試合、14話。過去最大話数でした…(>_<)

何と言うか、とりあえず、エタらずに書きあげる事が出来て、良かったです…(^-^)

ここまでこの二次にお時間を割いてくれた方々へ、本当にありがとうございました…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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