黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

再修正版です。

大筋のストーリーは変わってませんが、やり過ぎた所を修正致しました…(;^ω^)

それではどうぞ!



第212Q~最強にして最高~

 

 

 

第4Q、残り5分1秒

 

 

花月 93

誠凛 81

 

 

第3Q開始早々、花月が誠凛を突き放し、一時は点差を18点にまで広げた。

 

絶体絶命の状況の中、火神がゾーンの扉を開き、点差を一気に5点差にまで縮めた。

 

しかし、空と大地がゾーンの扉を開き、点差を再度14点にまで広げ、再び誠凛を追い詰める。

 

そんな暗雲を振り払うように火神が起死回生のトリプルクラッチを決め、誠凛がギリギリの所で粘りを見せた。

 

そして、試合時間、残り5分を残す所で、誠凛の幻の6人目(シックスマン)、黒子テツヤが再びコートへと足を踏み入れた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「遂に出てきましたね」

 

コート入りをする黒子を見て大地が呟く。

 

「ここまででも出してもいい状況は何度もあったからのう。にもかかわらず、ここまで出ーへんかったって事は…」

 

「…まぁ、手土産無しって事はあり得ないでしょうね」

 

天野の言葉に、空が自嘲気味に返す。

 

「どうする?」

 

歩み寄って来た松永が空に尋ねる。

 

「…とりあえず、最初の1本は様子を見る。黒子さんの動きが気になる。動くのは、それからだ」

 

「分かったよ」

 

空の言葉に、新たに寄って来た生嶋が答え、花月の選手達は散らばっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

誠凛ボールで試合が再開。新海がボールを運ぶ。

 

「(さて…)」

 

これまで通りの2-3ゾーンディフェンスで待ち受ける花月。空が新海の動きを気にかけつつ目当ての黒子の動きを注視する。

 

「…」

 

黒子は現在、ハイポスト付近でポジションを取っている。

 

『…』

 

他の花月の選手達も、黒子の動きを注視している。

 

「…」

 

 

――ピッ!

 

 

ボールを運んでいた新海が動く。右方向にパスを出す。しかし、そこには誠凛の選手は誰もいない。

 

「(パスミス…、いや、そないな訳――っ!?)」

 

瞬間、パスミスと考えた天野だったが、すぐに考えを切り替える。同時に、黒子の姿を見失った事に気付く。

 

 

――バシィッ!!!

 

 

次の瞬間、ボールが軌道を変える。

 

「っ!?」

 

ボールは、右隅に移動していた池永の手に渡る。池永はボールを掴んだ瞬間、何処か驚いた表情をする。

 

「あかん!」

 

すぐさま天野が池永のチェックに向かう。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!?」

 

池永はボールを掴むのと同時に発進。天野を抜きさる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

直後にボールを掴み、そこからジャンプショットを決めた。

 

 

花月 93

誠凛 83

 

 

『おぉっ! 連続得点!』

 

 

「ナイスシュート、池永君」

 

「う、うす!」

 

黒子が池永の肩に手を置いて労う。

 

「…」

 

池永は自分の手を見つめながらディフェンスに戻っていった。

 

「スマン、黒子に気ぃ取られて対応遅れてもうた」

 

失点の責任を感じ、謝る天野。

 

「けどまあ、その黒子やけど、何かしてくる思たけど、さっきと変わらんやんけ」

 

これまで通り、パスを中継しただけの黒子を見て、拍子抜けをする天野。

 

「気にし過ぎたのかな? やっぱり、ここまで出てこなかったのは、ミスディレクションの稼働時間の問題?」

 

生嶋も何処か拍子抜けした表情をしている。

 

「……空?」

 

誰もが毒気を抜かれた表情をしている中、大地が空の異変に気付く。

 

「…」

 

真剣な表情で黒子に視線を向けていたのだ。

 

「…大地、火神さんを任せてもいいか?」

 

表情そのまま、空が大地に頼む。

 

「どうかしましたか?」

 

「説明は後だ。黒子さんを止めないとヤバい…かもしれない。大地、キツイかもしれないが、頼む」

 

「……分かりました」

 

相変わらず真剣な表情で頼む空に、大地は頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

花月のオフェンス。空がボールを運ぶ。

 

「(…俺の考えが正しければ、黒子さんを抑えられなけりゃこの試合――)」

 

「(…空が集中を欠いている? …っ!?)…空!」

 

「っ!?」

 

大地の声で正気に戻る空。そこには、空のボールを狙い打つ新海の姿があった。

 

「…ちっ!」

 

 

――スッ…。

 

 

すぐさま反応した空はバックロールターンで新海を紙一重でかわし、そのまま中に切り込んだ。

 

「っ!?」

 

切り込むのと同時に、空のボールに人知れず黒子の伸ばした手が迫っていた。

 

「(二段構えか!?)…だが!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

これにも反応し、クロスオーバーで切り返し、一気にローポスト付近まで侵入する。そこでボールを掴んだ空はそこから跳躍。

 

「おぉっ!」

 

そこへ、田仲がブロックに現れる。

 

「…っ!?」

 

 

――ピッ!

 

 

フィンガーロールで田仲のブロックを越えようとしたその時、空はこれを中断。パスへと切り替えた。

 

「…ちっ!」

 

すると、空の後方から舌打ちが響く。

 

空はフィンガーロールを放つ寸前、火神の気配を感じ取っていたのだ。

 

 

――バス!!!

 

 

パスを受けた松永が落ち着いてゴール下から得点を決めた。

 

 

花月 95

誠凛 83

 

 

「…ふぅ」

 

得点に繋がり、一息吐く空。

 

『…っ』

 

逆に止めて点差を縮めたかった誠凛の選手達は表情を曇らせていた。

 

「ドンマイ、まだ時間はあります。落ち着いて行きましょう」

 

そんな中、黒子が声を掛け、チームを落ち着かせる。

 

 

――バシィッ!!!

 

 

誠凛のオフェンス。フロントコートまでボールを運んだ新海がパスを出すと、ボールの軌道が変わる。

 

『っ!?』

 

ボールはトップの位置からゴール下の田仲へ、斬り裂くように通過した。

 

「っ!?」

 

パスを受けた田仲は驚いたように目を見開くも、すぐさまシュート体勢に入る。

 

「ちぃっ!」

 

それを見て松永が慌ててブロックに向かう。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、田仲はすぐには打たず、1つフェイクを入れ、ブロックに飛んだ松永にぶつかりながらシュートを放つ。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に鳴り響く審判の笛。

 

 

――バス!!!

 

 

田仲の放ったシュートはバッグボードに当たりながらリングを潜り抜ける。

 

『ディフェンス、プッシング、松永(赤8番)、バスケットカウント、ワンスロー!』

 

「っ!?」

 

目を見開く松永。松永のファールがコールされ、フリースローが与えられた。

 

「この調子でどんどんお願いします、田仲君」

 

「は、はい!」

 

得点を決め、フリースローをもぎ取った田仲を労う黒子。田仲は何処か戸惑いながら返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

田仲は落ち着いてフリースローを決め、3点プレーを成功させた。

 

 

花月 95

誠凛 86

 

 

「落ち着きぃ! まだ慌てる状況やあらへんぞ!」

 

天野がチームを落ち着かせるべく、声を張り上げる。

 

「(おかしい…、どうなってんだ!?)」

 

花月の選手が各々、気を落ち着かせる中、空は、ある変化に戸惑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バス!!!

 

 

続く花月のオフェンス、空がカットインし、ディフェンスを集め、釘付けにしてからパス。そのパスを受け取った大地が得点を決めた。

 

 

――ピッ!

 

 

続く誠凛のオフェンス。ボールを運んだ新海がパスを出す。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

黒子がこれをリターンパスで新海に戻す。

 

「…っ」

 

パスを受けた新海の表情が変わる。が、すぐさま切り替え、リングに向かって飛ぶ。

 

「…くっ!」

 

1番近くにいた生嶋がすぐさま距離を詰め、ブロックに飛ぶ。

 

 

――スッ…。

 

 

新海はティアドロップに切り替え、生嶋のブロックの上を越えるようにボールをふわりと浮かせる。

 

「っ!?」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 97

誠凛 88

 

 

「さすがです、新海君」

 

「…黒子さん」

 

声を掛ける黒子。新海は、戸惑いの表情で黒子に視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「うっわ…」

 

一連の得点を見て、黄瀬の口から思わず感嘆の声が溢れでする。

 

「まさか…!」

 

目を見開きながら驚く緑間。

 

「…今日程、黒ちんの事、凄いと思った事、ないかも」

 

思わず口が半開きになる紫原。

 

「さすがテツだ。やっぱりお前はスゲー奴だ」

 

ニヤリと笑う青峰。

 

「黒子…、始めてお前を目の当たりにした時、お前は何もない選手だった。バスケに恵まれたキセキの世代(俺達)と違い、お前は限りなく恵まれなかったと言っても過言ではない」

 

赤司が言葉を続ける。

 

「だが、そんなお前に、俺は尊敬の念を抱かずにはいられない。見事だ、黒子」

 

賛辞の言葉を黒子に贈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(凄い、こんな身体が思うように動くのは、初めてだ…!)」

 

「(ハハッ! 超気持ちいい!)」

 

「(自分でも調子が上がっていくのが分かる。これなら!)」

 

新海、池永、田仲の3人は、自身の変化に自身を高揚させていく。

 

 

「っ!? これは…!」

 

「まさか…!」

 

生嶋と松永が目を見開いて驚く。

 

「ホンマかいな…」

 

天野は思わず苦笑する。

 

「…これが、空が恐れていた事ですか…!」

 

大地は表情を曇らせる。

 

フロントコート、そこで、ゾーンに入った4人の選手達(・・・・・・・・・・・・・)が、待ち受けていた。

 

「おいおい、どういう事だよ! 火神はともかく、何で2年の3人までゾーンに入ってんだよ!?」

 

ベンチの菅野が立ち上がりながら声を上げる。

 

無理もない。ゾーンは限られた者にしか入る事が出来ないからだ。キセキの世代と同格以上の素質を持つ者にしか…。

 

「そういう事ですか…!」

 

そのからくりに気付いた姫川が思わずとある選手に視線を向ける。

 

「…」

 

上杉は胸の前で腕を組みながら神妙な表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――黒子テツヤは、恵まれなかった。

 

 

身長も、力、速さ、高さ、テクニック、バスケをするのに必要な全てを持ち合わせていなかった。

 

死に物狂いの努力も報われる事はなく。1度はバスケを諦めかけた。

 

しかし、赤司の助言によって、パスに特化したスペシャリストとしてのスタイルを確立させ、一流が集まる帝光中学にて、幻の6人目(シックスマン)とまで称されるまでに至った。

 

だが、そのバスケも、高校に進学した最初の大会で、壁にぶつかる事となった。仲間に頼った、自分1人では何も出来ないバスケが…。

 

例え独力でもチームの勝利に貢献させる為、消えるドライブ(バニシングドライブ)と、幻影のシュート(ファントムシュート)を身に着けた。

 

新たに身に着けた2つの武器は、誠凛の勝利に大きく貢献させた。…しかしその結果、自身の最大の武器である、影の薄さを手放す事になってしまった。

 

それでも高校最初のウィンターカップにて、誠凛を優勝に導く事は出来た。

 

だが、その代償として、再び自身のスタイルを取り戻す為に、翌年の1年を費やす事となり、その結果、先輩達の最後の1年を、満足のいく結果にする事が出来なかった。

 

自身、最後の3年の年。有終の美を飾り、先輩達の無念を晴らしたい。

 

幸い、失った影の薄さは、完全にではないが、ある程度、取り戻す事が出来た。自身に生まれてしまった淡い光を、武器にする術も身に着けた。だが、誠凛を再び日本一に導く為には、また新たな武器が必要だと考えた。

 

シュートとドリブルはもう不用意に使えない。使えば今度こそ、影の薄さが失われてしまうからだ。

 

 

『ドリブルとシュートがダメなら、また新しいパスを考えりゃいいんじゃねえか?』

 

 

きっかけは、何気なく火神が言ったこの言葉だった。

 

黒子には、パスの向きや変えたり、コートの端から端まで横断する回転長距離パス(サイクロン・パス)や、ボールを加速させる、加速させるパス(イグナイト・パス)や、それをさらに改良した廻があり、これだけあれば充分だと思い込んでおり、廻を開発して以降はパスのバリエーションを増やす事はしなかった。

 

火神の言葉をきっかけに、黒子は原点に戻り、新たなパスの開発を始めた。

 

苦心の末に、黒子はある可能性に辿り着いた。

 

だが、それは紙よりも薄い可能性であった。

 

どれだけ研鑽を積んでも、完成は遙か先であった。

 

諦めかけていたが、それでも誠凛を優勝に導く為に、遂に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

パスの中継をしつつ、その際にボールの位置やタイミング、ボールの縫い目さえもコントロールして目的の選手に中継する。ボールを受けた選手は、自身の1番気持ちよくプレーが出来るようになり、次のプレーに100%神経を注げる様になる。ボールを受けた選手は完璧なリズムを作れるようになり、自身が1番得意な形で動けるようになり、結果、潜在能力を限界まで引き出す事が出来るようになり、ゾーンの1歩手前の状態にまで入れるようになる。

 

つまり、赤司が出来る、ポイントガードとしての究極にして理想のパスを、黒子は、ボールを中継しながら実行した。

 

「これが、皆と共に優勝する為に身に着けた、ボクの新しいパス――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――喚起のパス(ブーステッド・パス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…っ』

 

思わず表情が引き攣る花月の選手達。かつて、数度に渡り、自分達を苦しめて来た赤司の究極のパスが、違った形で自分達に襲って来るからだ。

 

「狼狽えるんじゃねえ!!!」

 

『っ!?』

 

そんな花月の選手達を、空が一喝する。

 

「ここは決勝だぞ。今更この程度でオタオタしてどうすんだよ。形は違っても、何度も味わって来ただろうが」

 

「…うん、そうだね」

 

「相手は誠凛。ホントに今更だよね」

 

「…せやな」

 

「ですね」

 

空の言葉に、花月の選手達は落ち着きを取り戻す。

 

「相手が何をしてこようと、やる事は変わらない。…行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

空の檄に、選手達は気合いを入れ直しながら応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が急発進。

 

「っ!?」

 

ゾーンの1歩手前の状態の新海相手でもお構いなしに抜きさり、カットイン。

 

「…来い」

 

中で待ち受けるのは当然火神。

 

「言われなくとも…!」

 

相手が火神でもお構いなしに突っ込んで行く。

 

 

『神城対火神!!!』

 

『さあどうなる!?』

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空は火神の目前でクロスオーバー。下手な小細工はするだけ無駄と判断し、真っ向勝負、自身の1番の得意技で仕掛ける。

 

得意技…すなわち、キラークロスオーバー…。

 

「…っ」

 

空がクロスオーバーで切り返すと、火神は後ろへと下がり、距離を取った。目の前で高速で切り返されれば、如何に火神でも対応が難しくなる。しかし、距離を取れば、視野が広がる分、空の動きが見やすくなる。火神のジャンプ力であれば、例えシュートに切り替えられてもブロックに間に合う。

 

「あめーよ!」

 

 

――スッ…。

 

 

空は火神が下がるのと同時にボールを掴み、ステップバックでさらに距離を空け、シュート体勢に入った。

 

「っ!? ちぃっ!」

 

自身の迎撃範囲外にまで距離を空けられ慌てて距離を詰める火神。

 

「っ!?」

 

目を見開く空。充分に距離を空けられたと思っていたが、火神のジャンプ力は、それすらも容易く埋めてしまった。

 

「(…ちっ、これでもダメか…!)」

 

 

――スッ…。

 

 

空はシュートを中断し、ノールックビハインドパスに切り替え、ボールを横へと放った。

 

「行け!」

 

パスを受け取った天野がすかさずゴール下へ走り込んだ松永へパスを出す。

 

「貰った!」

 

右手でボールを掴んだ松永はそのまま飛び、リングへとボールを叩き込んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「おらぁ!」

 

「っ!?」

 

しかし、ボールがリングに叩きつけられる直前、池永によってボールは右手から叩き出された。

 

「いいぞ池永。…速攻だ!」

 

ルーズボールを拾った新海が池永を労い、そのまま速攻。攻守が切り替わる。

 

「あかん、戻れ!」

 

天野が声を張り上げ、慌ててディフェンスに戻る花月の選手達。

 

「…」

 

「…」

 

「…っ」

 

いち早くディフェンスに戻っていた空と大地を見て、足を止める新海。その合間に花月の選手達がディフェンス隊形を整え、誠凛の選手達が攻め上がる。

 

「(神城と綾瀬。試合終盤でこれだけのスピードと運動量、もはや尊敬の言葉しかない。俺ではどう足掻いても敵わない。…だが、今なら…!)」

 

 

――ピッ!

 

 

新海がノールックパスを出す。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

次の瞬間、黒子がパスを中継、ボールの軌道を変える。

 

「ナイスパース!」

 

ボールは、中に走り込んだ池永の手に渡る。

 

「任せぇ!」

 

その池永の前に、天野が立ち塞がる。

 

「(落ち着きぃ…、いくらゾーンの手前言うても、洛山の連中みたいに全員が中外お構いなしに点取ってくる訳やあらへん…!)」

 

洛山と同じ状況。だが、選手の全員が中・外両方から得点が奪える選手が揃っていた洛山。だが、誠凛は違う。

 

「(ディフェンスは俺の十八番や。ここを止めて、もういっぺん流れを――)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

待ち受ける天野。次の瞬間、天野は池永に容易く抜きさられる。

 

「(っ!? しもた、忘れとった、黒子がおる言う事は、あれ(・・)があるんやった!)」

 

まるで反応が出来てないかのように為すが儘で抜きさられた天野。天野はここで思い出した。黒子の光の(・・)ミスディレクションの存在を。

 

「もーらい!」

 

天野を抜きさり、そのまま切り込んだ池永はボールを掴んでリングに向かって飛ぶ。

 

「させるか!」

 

ヘルプに来た松永がブロックに現れる。

 

「残念無念ってなぁ!!!」

 

 

――スッ…。

 

 

松永が現れるのと同時にボールを下げ、ブロックをかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

ブロックを掻い潜ったの同時に再度ボールを上げ、ダブルクラッチで得点を決めた。

 

 

花月 97

誠凛 90

 

 

『再び連続得点!』

 

『点差は7点、これは分かんねえぞ!!!』

 

 

「「…っ」」

 

失点を防ぐ事が出来ず、気落ちする天野と松永。

 

「ボール。早く」

 

「あ、あぁ」

 

空に促され、慌ててリスタートをする松永。

 

「天さん、松永、後悔なんていつでも出来んだ。今は、前を見ようぜ」

 

ニコリと笑いながら2人に声を掛ける空。

 

「……スマン、そうだな」

 

「その通りやな。よりにもよって、空坊に言われてまうなんてな」

 

集中し直す松永と、釣られてニヤリと笑う天野。

 

「さて…」

 

ゆっくりとボールを運ぶ空。

 

「(黒子さんのパスには、驚きはしたが、これは再投入後の最初のパスで予想は出来た。これは想定内…)」

 

前を見渡しながら状況把握をする空。

 

「(だが、想定外だったのは、黒子さんの姿を追えなくなった事だ。第1Qの時は、はっきり追う事が出来たのに…)」

 

空の戸惑いの理由、それは、黒子の姿を周囲の選手同様、見失うようになってしまった事だ。

 

「(ただでさえ、火神さん1人に手を焼いてんのに、…さて、マジでどうするか…)」

 

表情には出さないが、空は胸中で溜息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「テツ君凄い! 赤司君のパスを再現しちゃうなんて!」

 

自身が入れ込んでる黒子の活躍に目を輝かせる桃井。

 

「…けど、花月は何でテツ君をマークしないんだろう? 神城君なら出来るはずなのに…」

 

そこの疑問に行き着いた桃井。

 

「さっきからしようとはしてるみたいッスよ。…けど、上手く行ってないみたいッス。あの感じ、神城っちは黒子っちを見失ってるッスね」

 

「どうして? 第1Qの時は出来たのに。ゾーンに入ってる今なら尚の事――」

 

「――いや、ゾーンに入っているからこそ、神城は黒子の姿を追えなくなったのだろう」

 

黄瀬の解答に疑問を投げかける桃井。その疑問に赤司が口を挟む。

 

「どういう事なのだよ?」

 

緑間も答えに辿り着いてはおらず、赤司に尋ねる。

 

「ゾーンに入ると、どうなる?」

 

「えっと、普段は出せない、100%の力を出せるようになるんだよね?」

 

赤司の問いに、桃井が答えて行く。

 

「…っ、そういう事か…!」

 

ここで緑間が答えに辿り着き、ハッとした表情をする。

 

「ゾーンの扉を開くと、今桃井が言ったように、100%の力を出せるようになる、それともう1つ、視野が広がり、必要な情報処理能力が向上するのと同時に不必要な情報は全てカットされるようになる」

 

「…」

 

「だがもし、黒子の存在が不必要な情報(・・・・・・)と判断されたなら…」

 

「っ!? で、でも、そんな事あり得るの?」

 

赤司の解説で、答えに辿り着いた桃井だったが、それでも釈然とせず、尋ねる。

 

「通常は無理だ。だが、今のこの状況…相手が花月であれば、可能だ」

 

桃井の疑問の断言する赤司。

 

「ここにいる、キセキの世代を擁するチームと花月の違いは分かるか?」

 

「?」

 

投げかけられた質問に、桃井は頭に『?』を浮かべる。

 

「それは、花月には、ゾーンに入る事が出来る選手が2人もいる事だ」

 

空と大地。赤司の言う通り、花月にはゾーンに入る事が出来る選手が2人いる。

 

「ゾーンに入った選手。それはコート上で輝くとても眩い光だ。今、コート上には神城と綾瀬、更にはチームメイトの火神がいる。その光に挟まれた淡い光や影は、蒸発したかのように消え失せる」

 

これが、空が黒子の姿を見失うだと赤司は解説する。

 

「無論、これは黒子だからこそ出来る事だ。持ち前の影の薄さと、これまで培った観察能力を持った黒子だからこそ、だ」

 

「そう言う事なんだ。やっぱりテツ君、素敵♪」

 

再度目を輝かせる桃井であった。

 

「神城がテツの姿を追えねえとなると、花月は今度こそヤバいだろうな」

 

おもむろに、青峰が口を開く。

 

「ただでさえ、火神1人に手を焼いてたんだ。テツとの連携が機能するようになれば…」

 

「確かに、火神っちは黒子っちと組む事でさらに力を引き出せるようになる。…正直、2人が組んだらここにいる俺達でもヤバいスからね」

 

「俺も入れんなだし」

 

黄瀬の言葉に、紫原は不服そうに反論したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

花月 99

誠凛 90

 

 

「…ふぅ」

 

「…ちっ」

 

ホッと一息吐く空と、舌打ちをする火神。

 

ボールを運んだ空がカットイン。火神が出てくると、空は再びミドルレンジからのフィンガーロールで火神のブロックをかわし、決めた。

 

 

「…ここまで辿り着いただけの事はある。大した奴なのだよ」

 

緑間が空を称賛する。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

変わって誠凛のオフェンス。ボールを運ぶ新海。

 

 

――ピッ!

 

 

新海がハイポストの池永にパスを出す。

 

 

――ピッ!

 

 

池永が即座にパスを出す。そこから中→外と縦横無尽にボールを動かし、花月を牽制する。

 

 

――ピッ!

 

 

新海の手元にボールが戻ると、すかさず中にボールを入れる。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

そこに黒子が現れ、ボールを叩きながら中継する。

 

『…っ!?』

 

花月の選手達が皆、頭上に顔を向け、目を見開く。黒子は、ボールを高くに上げたのだ。そこには…。

 

「…しゃぁ!!!」

 

火神が既に高く踏み切っており、その火神の左手にボールが収まった。

 

「させへん!」

 

「おぉっ!」

 

これに反応した天野と松永が火神を阻むようにブロックに飛ぶ。

 

「…」

 

火神は空中で体勢を整え…。

 

 

――ガシャァァッ!!!

 

 

ボールを2人の上からリング目掛けて叩き下ろした。

 

「「っ!?」」

 

 

花月 99

誠凛 92

 

 

『メ、メテオジャムだ!!!』

 

『しかもアリウープで!? 信じらねえ!!!』

 

もはや大絶叫の観客。

 

 

「…」

 

大技を大技で返され、空はその表情を僅かに歪めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

続く花月のオフェンス。ボールを運んだ空が中に切り込み、火神をギリギリまで引き付けた上でリングの目前にパス。そこへ大地が飛び込み、アリウープ。しかし、ボールをリングに叩きつける直前に火神によって叩き落されてしまう。

 

「(っ!? この圧力はもはや紫原さんと遜色ない!?)」

 

大地は、火神から、今年の夏に戦った絶対防御の選手と同等の圧力を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビビーーーーーーー!!!』

 

 

『24秒、オーバータイム!!!』

 

『…っ』

 

花月のオフェンスは結局、誠凛ディフェンスの牙城は崩せず、オーバータイムとなってしまう。

 

そしてやって来る、誠凛のオフェンス。

 

『…っ』

 

花月にとって、オフェンス以上に苦しいのはディフェンス。圧倒的な力の火神が脅威ななのは勿論だが、他の選手も無視できない。1歩手前とは言え、ゾーンに入ってる上、黒子が光のミスディレクションでのフォローもあり、止めるのは難しい。

 

 

――ピッ! …ピッ!

 

 

パスを回して機を窺う誠凛。

 

『…っ』

 

花月の選手達は得点を決めさせまいと集中をし、シュートチャンスを与えない。

 

「「…っ」」

 

空と大地が驚異的なスピードと運動量で動き、隙を埋めていく。

 

 

『花月はこの試合、1番の集中だ』

 

『これじゃ、なかなかシュートは打てないぞ!?』

 

 

「(集中だ!)」

 

「(ここを凌げば、流れを変えられる!)」

 

「(これ以上、調子付かせたらアカン、ここは死守や!)」

 

決死の表情でディフェンスに臨む花月の選手達。

 

 

――ピッ!

 

 

誠凛のオフェンスが始まって20秒弱。ここで新海からパスが出される。そこには…。

 

『っ!?』

 

そこには、黒子の姿があった。

 

「(…ちっ! だが、シュートチャンスを作らせなければいい!)」

 

「(例え、意表を突いて黒子さんが点を取りに来ても、私か空なら充分に対応出来る!)」

 

空と大地は、黒子の次の動きに注視する。

 

黒子の下へ迫るボール。

 

「こっちだ黒子!!!」

 

火神は叫ぶのと同時に動いた。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

この声が耳に入った黒子は火神の動きに合わせてボールを中継する。

 

「っし!」

 

ボールは、スリーポイントラインから2m程離れた位置まで移動した火神の手元に収まる。火神はその場からシュート体勢に入る。

 

「…くそっ!」

 

これを見て慌てて空がチェックに向かう。

 

 

――ピッ!

 

 

しかし、距離があり過ぎた為間に合わず、火神に打たせてしまう。

 

『…っ!?』

 

ボールの軌道に注目する花月の選手達。

 

これを決められてしまえば、もはや後がない。外れてくれて願う花月の選手達。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

しかし、そんな思いとは裏腹に、ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 99

誠凛 95

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

『ここでディープスリーだぁっ!!!』

 

会場が割れんばかりの大歓声に包まれる。

 

 

『…』

 

もはや、言葉を失う花月の選手達。

 

 

「…ああ、ヤバいな」

 

ポツリと呟く空。

 

「…ええ、そうですね」

 

ポツリと返す大地。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――だが、言葉とは裏腹に、2人は、楽しそうに笑みを浮かべていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

徐々に、そして確実に追い詰められていく花月。

 

ウィンターカップ決勝、最後の第4Q…。

 

最強にして最高の相手が、花月の前に立ち塞がるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ラスボスは強くしなければらならない。この強迫観念に駆られ、無茶苦茶やり過ぎました。お叱りの感想を頂き、1日考えて、まさにその通りだったと痛感致しました…(>_<)

批判の感想を受け、削除して再投稿と言うには、ある種、邪道ではあるのですが、やはり、原作と、そのファンあっての二次創作なので、わざわざこの二次に時間を割いて頂いた方を不愉快にさせてはならないので、恥ずかしながら今回の決断を致しました。

ただ、黒子の新しいパスだけは押し通す形とさせて頂きました。他のキセキの世代や火神は成長しているのに、原作主人公だけ変わらないと言うのはあまりにも不憫ですし、黒子にも、ラスボスたる威厳を持ってほしいので…。

一応、補足させて頂きますと、黒子のこのパスは、2年間と言う長い期間、チームメイトを観察してきた観察眼と、パスだけに特化し、パスを極める為に死に物狂いで自身を磨いて来た黒子だからこそ出来た技である事と、赤司のように眼を持っていないし、コートビジョンも持ち合わせていない為、ヴォーパルソードの時のように突発的に編成されたチームメイト等では当然出来ず、対象になるのは今現在のチームメイトのみであるので、いつでも出来る事ではない事はお伝えします。

正直、今回はかなり猛省致しました。正直、投稿する前はウケると思って投稿してました。ですが、結果はお叱りのご感想や評価を頂く結果となりました。話は変わりますが、ツイッター等で炎上動画を投稿する輩の心理を全く理解出来なかったのですが、多分、今回の自分みたいに、ウケると思ってやったんだろうな、と、その輩の心理を理解出来ました。まあ、彼らに対し、同情も擁護もする気もありませんが、つま先だけでもその領域に踏み込みかけたので、今後は今回のような事にならないよう、投稿する前にしっかり熟慮してから投稿するよう、心掛けます…m(__)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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