黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

今年も遂に夏が終わったか…

それではどうぞ!



第211Q~土俵際~

 

 

 

第4Q、残り7分55秒

 

 

花月 86

誠凛 79

 

 

一時は点差が18点差にまで開いた試合。第3Qに火神がゾーンの扉を開き、火神の圧倒的な支配力によって瞬く間に点差を5点差にまで縮めた。

 

誠凛が花月の背中を捉えようとしたその時、空と大地がゾーンの扉を開いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

「っ!?」

 

誠凛のオフェンス。早々に火神にボールを託した誠凛。

 

「おぉっ!!!」

 

「ッ!!!」

 

その火神に対し、空と大地がダブルチームでぶつかる。

 

「…くっ!」

 

激しくプレッシャーをかける空と大地。火神は苦悶の表情を浮かべながらボールをキープしている。

 

 

『すげえプレッシャーだ!!!』

 

『こりゃいつ取られてもおかしくねえ!!!』

 

 

「あの2人のダブルチームはマジできついッスよ…」

 

過去に2人のダブルチームを経験している黄瀬は思わず苦笑する。

 

「神城と綾瀬、総合的に見れば、キセキの世代(俺達)に劣るかもしれない。だが、ダブルチームの破壊力は、俺達がダブルチームでぶつかるより上だ」

 

赤司がそう断言する。

 

 

「火神さん!」

 

見かねた新海がボールを貰いに動く。

 

「…っ」

 

新海の声に火神が僅かに視線をそっちへ向ける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、火神はパスを出さず、視線のフェイクを入れて仕掛ける。

 

「…」

 

切り込んだ火神だったが、すぐさまバックステップで下がった大地が阻む。

 

「…っ」

 

この程度で出し抜けるとは思っていなかったが、あっさりと対応され、思わず目を見開く。そこへ。

 

「…っ」

 

背後から空がバックチップでボールを狙う。

 

「…ちっ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

咄嗟に空のバックチップを切り返してかわす。だが、追撃はそれで終わらない。切り返したボールを今度は大地が狙う。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

火神は即座に反応し、ボールを保持して大地の手をかわす。

 

 

――スッ…。

 

 

ここでターンをし、そのまま後傾姿勢でジャンプショットの体勢に入る。

 

「(よっしゃ! シュート体勢に入っちまえば、火神の勝ちだ!)」

 

ほくそ笑む池永。規格外の高さを誇る火神。シュート体勢に入ってしまえば、花月にブロック出来る者はいないからだ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

しかし、ボールを頭上にリフトさせようとしたボールが叩かれた。

 

「させねえ!」

 

 

『神城!!!』

 

 

バックチップをした空がすぐさま体勢を立て直し、火神の保持するボールを叩いた。

 

「くそっ…!」

 

自身の下へ跳ねるルーズボールを確保に行く新海。

 

「っ!?」

 

それよりも速く大地が確保した。

 

 

『速過ぎる!!!』

 

『神城がボールを叩くのを予測してたのか!?』

 

あまりのルーズボールに対応する速さに、観客も驚く。

 

 

――ピッ!

 

 

ボールの確保と同時に大地はボールを前線へと大きな縦パスを出した。そこには…。

 

「っしゃ!」

 

既に速攻に走っていた空がいた。

 

 

『こっちもはえー!!!』

 

 

火神の持つボールを叩き、その後、すぐさま速攻に走っていた空。

 

「くそが!」

 

悪態を吐きながら慌ててディフェンスに戻る池永。そして誠凛の選手達。しかし、先頭を走る空に追い付ける者はおらず…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままワンマン速攻を決めた空がワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

 

花月 88

誠凛 79

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

同時に上がる大歓声。

 

 

「ディフェンス、切り替えろ! 絶対止めるぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

空が檄を飛ばし、他の選手達が応えた。

 

 

誠凛のオフェンスとなり、新海がボールを運ぶ。

 

「…っ」

 

これまで自分をマークしていた空は大地と共に火神に付いている。代わりに生嶋が付いている。空に比べれば遙かに与しやすい相手ではあるが…。

 

「(どうする…)」

 

新海は攻め手に悩んでいた。火神にパスを出そうにも、空と大地がダブルチームでマークしている。ボールを持たすだけなら、火神にだけ届く高さにパスを調整すれば可能だが、その場合、火神は不利な体勢であのダブルチームを突破を余儀なくされる。

 

「…っ」

 

頭を悩ます新海。オフェンスに失敗して、ターンオーバーになった場合、空か大地、一方に速攻に走られれば失点はほぼ免れない。

 

 

――花月を相手に、速攻に走られたら終わり…。

 

 

昨夜のミーティングで告げられた言葉が今、身に染みて体感していた。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

ボールを運ぶ新海に対し、生嶋が積極的に距離を詰めてフェイスガードで激しくプレッシャーをかけている。

 

「(…ちっ! これだけ激しく当たられちゃ、スリーは打てない。あくまで外だけをケアして、最悪中に切り込まれても構わないって事か…!)」

 

中に切り込めば、待っているのは空と大地による高速ヘルプ。スリーさえ打たせなければ2人が何とかしてくれると言う信頼がある為、生嶋は迷いなくプレッシャーをかけられる。

 

「(ならば!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して新海が生嶋をかわし、中に切り込む。

 

「…」

 

当然、空がダブルチームを解き、新海のヘルプに走る。

 

「(来たな!)」

 

新海の予測通りの動きを見せた花月。新海はここでほんの一瞬、火神に向け、視線を向けた。

 

「…っ」

 

これに空が反応する。ダブルチームならいざ知らず、大地と火神のマンツーマンなら、互いにゾーンに入っている今、条件はこれまでと変わらない。確実に止めるなら、大地1人で形勢が悪い。

 

 

――ピッ!

 

 

新海はここでパスを出す。

 

『っ!?』

 

このパスに、花月の選手達は虚を突かれる。パスは、火神にではなく、リング付近に放られていた。

 

「っしゃきたー!!!」

 

そこへ、池永が走り込んでいた。

 

 

「視線のフェイクで神城の意識は火神に制限された。あれじゃ、神城と言えど、ブロックに間に合わねえ」

 

呟く青峰。

 

 

池永が空中でボールを掴む。

 

「らぁっ!」

 

空中で掴んだボールを、そのままリングに叩きこむ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

 

「発想は悪くなかった。綾瀬(・・)さえいなければ、得点に繋がっていただろう」

 

緑間の言葉通り、新海から池永のアリウープは、大地によって叩き落された。

 

「ナイスブロック綾瀬!」

 

ルーズボールを拾った松永。

 

「来い、松永!」

 

同時に速攻に走った空がボールを要求する。この声に反応した松永は空に向けて大きな縦パスを出した。

 

「(止める! ファールをしてでも!)」

 

後方で全体を見ていた朝日奈は、いち早く大地のブロックを予見出来た為、空の速攻より速くディフェンスに戻る事が出来ていた。朝日奈は、ファール覚悟で空を止めに行く。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「くっそ…!」

 

ファール覚悟の朝日奈のディフェンス。しかし、空のスピードと反応速度によって、容易くかわされてしまう。

 

「っ!?」

 

朝日奈を抜きさり、リングへと向かおうとしたその時、空の目の前に、朝日奈をかわしている合間に戻った火神が現れた。

 

「…」

 

火神を抜きされば、今度こそ空を阻む者はいない。強気に空が仕掛ける為に1歩踏み出す。

 

「…」

 

「…っ」

 

1歩踏み出した所で足を止めた空。

 

「……ふぅ」

 

空は結局仕掛けず、攻め上がってきた大地にボールを戻した。

 

 

『せっかくの速攻のチャンスだったのに…』

 

『んだよつまんねえなー』

 

この選択に、観客席からは不満がチラホラ。

 

 

「あのイケイケの神城君が退いた…」

 

恐れ知らずの空の性格を理解している桃井は驚く。

 

「それだけ、火神の放つプレッシャーが強烈だったのだろう」

 

緑間が空の心情を察する。

 

「…ゾーンが深くなってんな。恐らく、もう火神は底に到達してる。仮に仕掛けてたとして、ブロックされて終わっただろうよ」

 

青峰が断言。

 

 

「…」

 

スリーポイントラインの外に出て改めてボールを受け取った空。

 

誠凛のディフェンスは変わらず、火神を中心に据えた2-1-2ゾーンディフェンス。前の新海と朝日奈は積極的に前に出てスリーを要警戒。後ろの池永と田仲も、火神を信頼してか前よりにポジション取りをしている。

 

「(火神さん以外はとにかくスリーのケアに集中してんな。それだけ今の火神さんを信頼してるって訳か…)」

 

激しくプレッシャーをかけてくる新海をいなしながらゲームメイクをしている空。点差は9点。残り時間を考えても、決してセーフティな点差ではなく、きっかけ1つで覆りかねない。

 

「…」

 

チラリと空が誠凛ベンチに視線を向ける。そこには、ビデオカメラで何かを確認している黒子の姿があった。

 

誠凛にはまだ、黒子と言う、切り札が残っている。黒子の姿を捉えられる空だが、その黒子が点差を覆すきっかけとなりかねないと考えており、黒子が再びコートに現れる前に勝負を付けておきたい。そう考えているのだが…。

 

「(…ハハッ! スゲープレッシャーだ。結構距離取ってんのにここからでもビンビン伝わらー)」

 

火神から発せられるプレッシャーのようなものが空の肌に伝わり、思わず苦笑する空。

 

「(中から点を取るのは無謀? だからこそ――)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「行く価値があるってもんだろ!」

 

嬉々として空が仕掛け、カットインした。

 

「…来いよ」

 

当然、そこには火神が待ち構えている。

 

 

「今度は退かない!」

 

桃井が注目する。

 

「生半可な攻めでは、今の火神は崩せない。どうする?」

 

仕掛けた今、決めるか止められるかの2択しかない。結果次第で試合にも影響する可能性もある為、緑間も注目する。

 

 

「(全く隙がねえ、改めて、とんでもねえ人だよ…!)」

 

キラークロスオーバー、バランス感覚を生かした変則ドリブル。どれもかわせるイメージが持てなかった。もはや待ったなし。やるかやられるしかない。

 

「(…仕方ねえ。こうなったらダメ元だ。練習でもほとんど成功出来てねえが、やるしかねえ!)」

 

意を決した空はボールを掴んで跳躍した。

 

 

『フリースローラインから飛んだぞ!?』

 

『まさか、レーンアップするつもりじゃねえだろうな!?』

 

『あの身長でか? あり得ねえだろ!?』

 

まさかの行動に観客からも驚きと戸惑いの声が上がる。

 

 

「(何のつもりかは知らねえが…)…叩き落してやるよ!」

 

火神もブロックに飛ぶ。空の目の前に、空の目の前に、空を遙かに超える高さのブロックが立ち塞がった。

 

 

『うわーたけー!!!』

 

『やっぱり無謀だ!!!』

 

悲鳴を上げながら頭を抱える観客。

 

 

「おぉっ!」

 

圧倒的な高さ、威圧感を放ちながらブロックに飛ぶ火神。

 

「…っ」

 

ここで空は右手で持ったボールを掌を下にし、ボールを天井に掲げるように持ち替える。

 

 

――スッ…。

 

 

その体勢から手首のスナップを利かせ、ボールを指先でなぞるように上へと放る。

 

「っ!?」

 

目を見開く火神。ボールは火神が伸ばした指先の上を弧を描くように超え、そのままリングに向かって落下する。

 

 

――ガガン!!!

 

 

ボールはリングの上を跳ね、そこからリングの輪の上を回り始める。

 

『…っ!』

 

選手達、観客、会場の全ての者がボールの行き先に注目する。やがて、ボールはゆっくりと回転スピードが落ち、そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングの中へと転げ落ち、ゆっくり潜り抜けた。

 

 

花月 90

誠凛 79

 

 

『――なっ』

 

『何だ今のはぁぁぁっ!?』

 

僅かな沈黙の後、割れんばかりの大歓声が上がった。

 

 

「ミドルレンジから、フィンガーロール…!」

 

この大技に、緑間も驚いていた。

 

「…驚いたッスね、神城っちにまだあんな隠し玉があったんスか…」

 

同様に黄瀬も苦笑していた。

 

「(今日まで出してこなかった所を見ると、恐らくまだ未完成なのだろう。ゾーンに入っていたとは言え、この土壇場で…)…なるほど、これは素直に称賛の言葉を贈りたくなる」

 

半ば、賭けを成功させた空を、赤司は称賛したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…おいおい今の!」

 

コート上の空を指差すニック。

 

「ミドルレンジからのフィンガーロール、ナッシュの技じゃねえか!」

 

同様にアレンも驚愕している。

 

「…ナッシュ、あれも教えたのか?」

 

「んな訳ねえだろ」

 

ザックの質問に、ナッシュは鼻を鳴らしながら返す。

 

「あの技って、リストがかなり強くねえと出来ねえ技だよな?」

 

ニックの言葉通り、ミドルレンジと言う、リングそれなり離れた場所から手首のスナップのみでリングにボールを届かせなければならないので、よほど手首が強くなければ決まる決まらない依然にリングに届く事すら出来ない。

 

「(あのサルはリストが強くねえ代わりにかなり柔らかい。つまり、それだけ長くボールに指を触れていられる。それで飛距離を確保したか…)」

 

ナッシュの想像通り、空の手首は、指先を反ると手首に付きそうな程に柔らかい。フィンガーロールでボールを放った時、柔らかい指の分だけボールに触れて置ける時間が長くなる為、それだけボールに力を伝わせる事が出来るのだ。

 

「(だが、あんな様じゃ、通用すんのは意表を突いた今回限り。次やってもブロックされるか外すのがオチだ。ゾーンに入った状態でその程度じゃ、まだまだだな)」

 

自身の必殺技とも言える技を真似られた事に若干苛立ち気味になるも、辛口の評価をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

そこから試合は花月のペース…になるかと思われたが、両チーム、得点は伸び悩んでいた。

 

 

第4Q、残り5分38秒

 

 

花月 90

誠凛 79

 

 

「(絶対に負けない! 高校最後の大会、絶対に勝つんだ!)」

 

「(先輩達を2度も負けて引退させる訳にいかない!)」

 

「(クソが! 俺の身勝手で散々迷惑かけたんだ。この試合に勝って優勝させなきゃ、返せねえだろうが!)」

 

「(勝つ! 最後の大会、最後の試合。先輩達は俺にスタメンを譲ってくれたんだ。勝たなければ、申し訳が立たない!)」

 

コート上の2年生達は歯を食い縛って花月の猛攻を凌いでいた。

 

「(黒子に頼まれたんだ。黒子が来るまで試合は終わらせねえ!)」

 

ツーポイントエリア内にて、火神が立ち塞がり、思わず攻めあぐねる程のプレッシャーを放っていた。

 

「…」

 

現在、ボールを持っているのは大地。目の前には朝日奈がフェイスガードで激しく当たりながらディフェンスをしている。

 

「(凄い執念ですね。ここまで来るまでに何度も味わった勝利への執念…)」

 

勝ちたいと言う強い想いが、自身を、そしてチームを振るい立たせ、力を引き出している。これは、ここまで戦って来た全てのチームの選手達が持っていたもの。

 

「(…ですが、それは私達も同じ。その想い、その執念、ここで断たせていただきます!)」

 

 

――スッ…。

 

 

ここで大地は強引にシュート体勢に入った。

 

「っ!?」

 

これに朝日奈は驚くもすぐさまブロックに飛ぶ。しかし、紙一重の差でボールに触れる事は出来なかった。

 

『っ!?』

 

リングへと向かうボールに目を見開きながら見送る誠凛の選手達。

 

大地が立っていた場所は、スリーポイントラインから1m以上は離れていた。しかも、朝日奈はスリーだけは打たせない為に、激しく身体がぶつかる程にプレッシャーをかけていた。これだけ厳しい条件が備わったディープスリー。いくらゾーンに入っているとは言え、決められる訳がない。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

しかし、そんな淡い期待も空しく、大地の放ったスリーはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 93

誠凛 79

 

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

同時に上がる大歓声。

 

 

『…っ』

 

もっとも決められたくない状況でスリーを決められ、誠凛の選手達の表情に絶望の影が差し掛かる。

 

 

「決めちまうんだよ、あいつは…」

 

「…ああ」

 

小牧と末広が、かつて味わった大地の起死回生のスリーを思い出しながら呟いた。

 

 

「寄越せ!」

 

その時、コート上に1つの声が響き渡る。それは、1人速攻に走っている火神の声だった。

 

『っ!?』

 

これに、今度は花月の選手達の表情が変わった。決められたスリーに気落ちしている中、火神だけがすぐさま切り替えていたのだ。

 

「火神さん!」

 

すぐさま切り替えて田仲がボールを拾い、速攻に走る火神に大きな縦パスを出した。

 

「っし!」

 

ボールを掴んだ火神がそのままワンマン速攻を仕掛ける。

 

「らぁっ!」

 

そのままドリブルで突き進み、フリースローライン付近でボールを掴み、そのまま踏切、リングに向かって跳躍した。

 

「させません!」

 

そこへ、大地がブロックに現れた。意表を突かれた花月の選手達。しかし、大地は速攻に走る火神にいち早く反応しており、対応する事が出来た。

 

「(ここは何としてでも止めなければ。最悪、ファールでも…!)」

 

ファール覚悟で止めに行く大地。ここを決められれば誠凛は失い始めた気力を吹き返す。最悪、流れを持って行かれるかもしれない。ファールしてでも阻止出来れば、フリースローで2点取られるにしても、その意味合いが変わる。幸い、火神は高さ重視ではなく、飛距離重視で踏み切った為、メテオジャムは出来ない。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、火神は動じる事無く、ボールを下げ、大地のブロックをかわす。

 

 

『火神かわした!!!』

 

『空中戦では1枚上か!?』

 

 

ボールを左手に持ち替え、改めてボールを上げる。

 

「あめーよ!!!」

 

そこへ、今度は空がブロックに飛んで来る。

 

 

『神城だぁっ!!!』

 

『こっちもはえー!!!』

 

 

「っ!?」

 

これには火神も動揺の色を出す。

 

計算通りであった。大地と空、2人がその気になれば火神が飛ぶ前に追い付く事も出来た。しかし、それをすれば火神は必ずメテオジャムで決めて来る、そうなれば、2人では止める事は出来ない。だから2人は火神が飛ぶギリギリまでブロックに行かなかった。

 

「(高さはない。これなら俺でも!)」

 

大地をかわした事で高度が落ちている火神。これなら高さで劣る空でも届く。

 

「…っ」

 

空がボールに手を伸ばす。

 

「(高校最後の試合。先輩達の無念と、スタメンを譲ったフリ達の想いを背負って俺はコートに立ってるんだ。ここは絶対に――)まだだぁっ!!!」

 

火神は再度ボールを下げ、空のブロックをかわす。

 

「っ!?」

 

ブロックの為に伸ばした手が空を切り、目を見開く空。

 

 

――バス!!!

 

 

今度はボールを右手に持ち替え直してリリース。ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

 

花月 93

誠凛 81

 

 

「「…」」

 

目を見開きながら茫然とする空と大地。

 

「…」

 

直後に着地する火神。

 

 

『…』

 

静まり返る会場。

 

『…今のって』

 

『1度ボールを持ち換えて、そこからもう1回持ち替えて…』

 

観客が、今、火神が行ったプレーを口にする。

 

『…と、トリプルクラッチ…?』

 

観客の1人があるテクニックの名を口にする。

 

『――お』

 

『おぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

その言葉をきっかけに、会場は堰を切ったような大歓声で包み込んだ。

 

 

「マジかいな…」

 

呆然と呟く天野。

 

 

「まさか、トリプルクラッチとはな…」

 

青峰が苦笑する。

 

 

「タイガ…、あいつ、遂にあの神様の領域に片足突っ込み始めたな」

 

同じくアレックスも苦笑。

 

 

「なあシルバー、あれ、お前出来るか?」

 

「あぁ!? 出来るに決まってんだろ!」

 

アレンに尋ねられ、怒り気味に返すシルバー。

 

「(シルバーでも出来るだろうが、それは狙って(・・・)やった場合だ。あいつは、咄嗟のリカバリーでやりやがった…)」

 

最初の大地のブロックは予見しただろうが、続く空のブロックは予想外のものであった事は火神の表情から観客席からでも理解出来た。

 

「(トリプルクラッチ…、神が魅せた最高のシグネチャームーブ。それを、よりにもよってジャパニーズが…)…ちっ」

 

NBAにおいて、件の神様は特別な存在。それはナッシュにとっても例外ではない。それを日本人の火神にその神の技を目の前で見せられ、ナッシュは複雑そうに舌打ちをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス。

 

「…」

 

ボールを運ぶ空。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空がカットイン。目の前の新海を抜きさって中に切り込む。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

直後にボールを掴んで両足を揃え、リングに視線を向ける。

 

「…っ」

 

同時に火神が空との距離を詰める。

 

 

――ピッ!

 

 

これを見て、空はその体勢からボールをリング付近へと放った。するとそこには、大地が飛び込んでいた。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

大地の伸ばした右手にボールが収まる。

 

「(これで…!)」

 

ボールをリングへと叩き込む。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

叩き込もうとした瞬間、火神によってブロックされた。

 

 

「目の前で大技を決められて焦ったか…」

 

ボソリと緑間。

 

「無理もないが、ここはもう少し落ち着いて攻めても良かったかもしれないな」

 

単調に攻め過ぎた空に赤司が苦言。

 

「(…っ、アウトか)」

 

転がるルーズボールを追いかける生嶋。ボールはラインを割ろうとしている。花月ボールで再度仕切り直し…と、考えていたその時…。

 

「おぉっ!!!」

 

ラインを越えたボールに朝日奈が飛び付き、伸ばした両手で掴む。

 

 

――バチッ!!!

 

 

掴んだボールを空中で振り返って生嶋の足に当てた。

 

「――あっ!?」

 

生嶋に当たったボールは再度ラインを割ったのだった。

 

『アウトオブバウンズ、(誠凛)!』

 

審判は誠凛ボールをコールした。

 

「ナイスガッツ朝日奈ぁっ!!!」

 

福田がベンチから朝日奈のプレーを称賛した。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に、オフィシャルテーブルのブザーが鳴った。

 

『メンバーチェンジ、(誠凛)!』

 

誠凛の選手交代がコールされた。交代を告げられたのは朝日奈。代わりにコート入りするのは…。

 

「…来たか」

 

オフィシャルテーブルに立つ選手を見て空が呟く。そこに立っていたのは、背番号8番、黒子テツヤ。

 

『…っ』

 

試合時間残り5分。誠凛の切り札、幻の6人目(シックスマン)、黒子テツヤが再び現れ、花月の選手達の表情が引き締まる。

 

「後は頼みます」

 

「ナイスガッツ。後は任せて下さい」

 

先程のプレーの際に床に打ち付けた左肩を抑えながら朝日奈が黒子と一言かわし、ハイタッチをする。

 

「…悪い黒子。お前に託されたのに、この様だ」

 

12点もの点差を付けられ、バツの悪い表情で黒子に謝る火神。

 

「いえ、充分です。こんなボクを信じてここまで繋いでくれて、感謝の言葉しかありません」

 

そんな火神を窘め、礼の言葉を返す黒子。

 

「それで、試合に出たって事は、例の技ってのは完成したんだな?」

 

「はい。お陰様で何とか形に出来ました」

 

「俺達はどう動けばいい?」

 

完成させた技がどんなものか詳細を知らない為、軽い打ち合わせをする火神。

 

「いえ、皆さんはこれまで通りプレーして下さい。…動くのは、ボクです」

 

そう言って、リストバンドを手首に身に着けたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

第4Qが始まると、花月のペースで試合は進んだ。

 

着実と点差を広げていく花月。誠凛も土俵際で何とか粘りを見せる。

 

試合時間が残り5分となった所で、遂に黒子テツヤが再度コートへと足を踏み入れる。

 

依然として花月がリードしている決勝戦。

 

試合は、クライマックスへと進む……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





ちょっと冷房が効いた部屋から5分出ただけで身体から汗が噴き出た夏。今では早朝はシャツ1枚だと肌寒いくらい。もう秋なんだなぁってしみじみ思う今日この頃。

今年も気が付けば後2ヶ月と半分。時の流れが速過ぎて、来年も再来年もこんな感じに過ぎて行くのかぁ…(ノД`)・゜・。

…と、ちょっとセンチな気分になってしまいました…(;^ω^)

試合も遂に残り僅か。ここまで…長かった…(>_<)

ここまで来たら後は…やるしかない!

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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