黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

歩き方か、靴が悪かったのか、足痛めた…(ノД`)・゜・。

それではどうぞ!



第209Q~正念場~

 

 

 

第3Q、残り6分53秒

 

 

花月 64

誠凛 57

 

 

後半戦が始まると、空が眠りから覚めたように躍動を始め、第2Q終了時には2点ビハインドであった点差を、瞬く間に7点リードにまで広げていた。

 

たまらずタイムアウトを取った誠凛。花月に流れをもたらした空を止めるべく、火神が空のマッチアップに志願したのだった。

 

 

「嬉しいぜ、あんたが直々に俺の相手をしてくれるなんてな」

 

思わず笑みが零れる空。

 

「…楽しそうだな神城。精々楽しんでけよ。楽しめる保証は出来ねえけどな」

 

目付きを鋭くした火神。腰を落とし、僅かに距離を取ってディフェンスに付く。

 

 

「…距離を取ったか」

 

「ま、火神なら、仮にスリー打たれても届くだろうから無難な判断だな」

 

ドライブを要警戒した火神のディフェンスに注目する緑間と青峰。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりその場でドリブルをしながら機を窺う空。

 

「(やっぱ距離取って来たか。なら、スリー狙うのが定石だけど…)」

 

視線をリングに向ける。

 

「(…多分打ってもブロックされんのがオチだ。かと言って、大地みたいにバックステップしながら決められる程、器用じゃねえし、スリーはねえな)」

 

早々にスリーを選択肢から消す。

 

「(ま、考えるまでもねえ。俺が選ぶのは――)」

 

「(――来る!!!)」

 

目の前の火神。空の仕掛ける気配を感じ取り、備える。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

上半身を前に倒した空。その体勢から一気に加速する。

 

「(速い! しかも何だよこの低さは!?)」

 

低空姿勢から急加速で発進した空。床スレスレを高速で突き進む空に戸惑いを隠せない火神。

 

「ニヒッ♪」

 

急発進した空。火神との距離を一瞬で詰めると、低い態勢から上半身を上げ、足元から覗き込むように火神の顔に自分の顔を近づけた。

 

「っ!?」

 

突然の空の行動に火神は動揺する。

 

 

――スッ…。

 

 

次の瞬間、空はロールをしながら火神の背後へと駆け抜けた。

 

「…っ、待ちやがれ!」

 

すぐさま正気を取り戻した火神は反転。

 

「行かせ――っ!?」

 

空を追いかける火神だったが、ここである事に気付く。

 

「(こいつ、ボール持ってねえ!?)」

 

空の手元にボールがない事に気付いた。

 

「(何処に――)」

 

「火神、後ろ! 上だ!」

 

ボールの所在を探す火神。その時、池永の声が響き渡る。

 

「っ!?」

 

その声に反応し、火神が振り返り、視線を上に上げると、ボールは先程自分が立っていた位置の頭上高く跳ねていた。

 

空は火神に顔を近づける直前、頭上高くにボールを弾ませていたのだ。火神は下から覗き込んだ空によって視線を下げられた上、目の前に寄せた空の顔がブラインドになった為、ボールが高く跳ね上げられた事に気付けなかったのだ。

 

「もらい!」

 

再度反転し、ボールに駆け寄った空は空中に舞ったボールを掴み、そのままシュート体勢に入った。

 

「打た…せるか!」

 

ブロックに飛んだ火神が、空のシュートコースを塞ぐ。

 

「…っと」

 

シュートを中断し、ビハインドパスでボールを右へと放る。

 

「ナイスパス空坊!」

 

ハイポスト付近でボールを掴んだ天野がシュート体勢に入る。

 

「おぉっ!」

 

ゴール下にいた田仲がヘルプに飛び出し、ブロックに飛ぶ。

 

「何てな」

 

天野はボールを頭上にリフトさせただけで飛んではおらず、飛んだ田仲の足元から弾ませながらローポストの松永にパスを入れる。

 

 

――バス!!!

 

 

フリーの松永が落ち着いてゴール下から得点を決めた。

 

 

花月 66

誠凛 57

 

 

「くそっ!」

 

得点を防げず、悔しがる火神。

 

「ええでマツ」

 

「天野先輩も、ナイスパス」

 

ハイタッチを交わす天野と松永。

 

「空坊も、ええパスや」

 

「どうも」

 

肩に手を置く天野。空は軽く返事をする。

 

「(虚を突いてスペース作ったのに、あっという間にシュートコースを塞ぎやがった。火神さん、とんでもねえジャンプ力だ…)」

 

パスで繋いで得点をしたが、元々は空があそこで決めるはずだった。しかし、火神にシュートコースを塞がれてしまった為、咄嗟にパスに切り替えたのだ。

 

「(青峰さんのようなスピードやアジリティはないが、ジャンプ力がマジでえげつないぜ。正直、シルバー並…いや、身長差を考えれば、火神さんはシルバー以上に飛んでるって事だ。同じと考えない方がいいな)」

 

火神のディフェンスの指標をシルバーに設定していたが、空は認識を改めた。

 

「大地、天さん。聞いてくれ」

 

2人を呼んだ空は、何やら話始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

誠凛のオフェンス…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スリーポイントラインのやや内側でボールを受けた火神は、大地をポストアップで押し込み始めた。

 

「…っ!」

 

必死に踏ん張る大地だったが、やはり体格差があり、みるみる押し込まれていく。

 

「…っ!?」

 

さらに押し込もうとした火神だったが、突如、押し込めなくなる。

 

「手伝うで…!」

 

ヘルプに来た天野が火神の背中に張り付き、ポストアップを阻む。さすがに2人を相手では押し込めず、その場で留められてしまう。

 

「…っ、だったら!」

 

 

――スッ…。

 

 

ボールを掴んだ火神が重心を後方に取り、ボールを頭上へとリフトさせる。

 

「(フェイダウェイ!)」

 

フェイダウェイシュートと見た大地は飛ばれる前に頭上にリフトさせようとしているボールに手を伸ばし、狙い打つ。

 

 

――スッ…。

 

 

火神はシュート体勢には入らず、カットを狙った大地の手をかわし、そのまま前にステップをし、大地の横を抜けた。

 

「(アップ&アンダー!?)」

 

大地をかわした火神は改めてシュートを打つ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なに!?」

 

シュートを打とうとしたその時、頭上にリフトさせようとしたボールを叩かれる。

 

「いただき」

 

ボールを叩いたのは空。

 

「なっ!? 3人がかりかよ!?」

 

思わず声を上げる池永。

 

「ハハッ! 狙い通り!」

 

ニヤリとした空は、ルーズボールを拾う。

 

「おっしゃ、速攻――」

 

 

――ドン!!!

 

 

「った!」

 

空が速攻をかけようとドリブルを始めた瞬間、何かに阻まれる。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ディフェンス、プッシング、新海(白9番)!』

 

「悪い」

 

新海が空の持つボールを奪おうと接触してしまう。

 

「…ちっ」

 

謝罪をする新海。空の口から思わず舌打ちが出る。

 

 

「ほー、なかなか思い切りがええのう」

 

今のファールを、今吉翔一が称賛する。

 

「今のはファールしなければ2点確実だったからな。ましてや、火神でのオフェンス失敗。ああしなければ流れを完全に持って行かれていた」

 

諏佐も同意見であった為、賛同していた。

 

 

「あの野郎…」

 

「まあまあ、ここは新海さんが1枚上手だったと褒めましょう」

 

速攻の邪魔をした新海を睨み付ける空を大地が窘める。

 

「所で、さっきの話、やるのですか?」

 

大地が尋ねる。

 

「当然。揺さぶりをかける。そんで、可能ならここで一気に勝負を決めに行く」

 

ニヤリと頷いた空。

 

「…ハァ。分かりました。あなたも無茶(・・)を言うものです」

 

溜息を吐く大地。

 

「お前じゃなきゃ頼まねえよ。それに、無理(・・)とは言わない辺り、出来んだろ? ま、言ってもやってもらうけどな」

 

「…でしょうね」

 

「そんじゃ、始めっか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合が再開される。

 

「…ハッ?」

 

疑問の声を上げたのは池永。

 

 

『なにぃぃぃぃーーーーーーー!!!』

 

それに続くように観客達が声を上げた。

 

 

「…」

 

ボール運びを空ではなく、大地が行っていた。

 

「…何の真似だ?」

 

怪訝そうな表情で火神が空に尋ねる。

 

「…へっ!」

 

尋ねられた空はただニヤニヤしていた。

 

「どういうつもりか分からないが、思い付きの奇策が通じると思うなよ」

 

やや憤りながら新海が大地の前に立ち塞がる。

 

「…」

 

ゆっくり周囲を見渡す大地。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

その後、仕掛ける。

 

「行かせ――っ!?」

 

カットインした大地を追いかけようとした新海。

 

「残念やったな…!」

 

天野のスクリーンに阻まれてしまう。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

中に切り込んだ直後、大地が急停止し、視線をリングに向ける。

 

「(まずい!)」

 

打たす訳に行かないと田仲がヘルプに飛び出し、チェックに向かう。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、大地はボールを保持しておらず、再発進。バックロールターンでチェックに来た田仲をかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

田仲を抜きさった大地はそのままレイアップを決めた。

 

 

花月 68

誠凛 57

 

 

『遂に点差が二桁にまで開いた!』

 

『花月が止まらない!!!』

 

 

「ドンマイ、切り替えよう!」

 

ボールを拾った田仲がエンドラインに立ち、新海にパスを出す。

 

「あっ! 新海!?」

 

パスを出した直後、田仲が声を張り上げる。

 

「――っ!?」

 

ボールを受けた新海。同時にその目が見開かれる。空と生嶋が新海にダブルチームを仕掛けていた。

 

『…っ』

 

2人の動きに呼応するように他の3人も動く。

 

 

『おいおいマジかよ!?』

 

『ここでオールコートゾーンプレスか!?』

 

花月の動きに観客達も思わず声を上げた。

 

負けている誠凛が仕掛けたならまだしも、現状、11点ものリードを有している花月が仕掛けたからだ。

 

 

「…ぐっ!」

 

2人にダブルチームを仕掛けられ、かつ徐々にコートの隅へと追いやられていき、必死にボールを死守する新海。

 

 

「うわ…、まさか花月が仕掛けるなんて…」

 

花月の選択に桃井が思わず口元に手を当てる。

 

「勝負をかけにきたな」

 

青峰が呟く。

 

「だが、英断だ。流れを手繰り寄せた今だからこそ、仕掛けるタイミングとしては抜群」

 

赤司もここでの仕掛けに頷いていた。

 

 

「おお! ソラ達が仕掛けたぞ!」

 

「仕掛けて来たか!」

 

ニックとアレンは、空を見てニヤリとしていた。

 

「(…ふん。見た所、あのサルの指示か…)」

 

観客席から、ベンチの上杉が特に指示を出した様子を確認出来なかったナッシュは、このオールコートマンツーマンの指示が空から出されたものだと悟る。

 

「(サルだけに、仕掛け時を嗅ぎ分ける嗅覚だけはまあ、認めてやってもいい。だが、いかんせん調子にムラがあり過ぎる。まずあれをどうにかしねえと――ちっ、何でこの俺があんなサルなんかに…)」

 

胸中で苛立ったナッシュは思わず舌打ちをしたのだった。

 

 

「新海、早くパスを出せ! もうすぐ8秒だ!」

 

ベンチの降旗が声を出す。

 

「っ!?」

 

その声が耳に入り、焦る新海。だが、目の前の2人のディフェンスがきつく、パスターゲットを探す余裕がない。

 

「こっちだ! 前にぶん投げろ!」

 

その時、前から池永の声が耳に入る。池永がフロントコートへと走っていた。

 

「おぉっ!!!」

 

その声に反応し、新海は前線へと大きな縦パスを出した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

しかし、そのパスは新海の手に渡る前に大地によってカットされてしまう。

 

「っ!? 朝日奈!」

 

「はい!」

 

火神の指示を受け、すぐさま朝日奈が大地のチェックに入る。

 

「…」

 

ボールをカットした大地はすぐには仕掛けず、ゆっくり周囲を見渡しながらドリブルを始める。

 

「(変わらず綾瀬がボール運び…何を考えているかは分からないが、ここで俺がやるべき事は…!)」

 

朝日奈が大地にフェイスガードでディフェンスを仕掛ける。

 

「(俺では綾瀬からまんべんなく守るのは不可能。だったら、最悪中に切り込まれてもいい、スリーだけは打たせない!)」

 

身体がぶつかり合う程、大地にべったり張り付く朝日奈。とにかくスリー阻止最優先でディフェンスをする。

 

「…っ」

 

激しくプレッシャーをかける朝日奈に若干、やり辛さを感じる大地。

 

 

――スッ…。

 

 

大地は隙を突いてボールを中に入れた。しかし、そこには味方の姿はなかった。

 

「(パスミス!?)」

 

まさかのパスミスに驚きながらも田仲がボールを拾いに行く。田仲がボールを掴もうとしたその時…。

 

 

――バシィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

田仲より速く、横から現れた手にボールが叩かれ、軌道が変えられる。

 

「っ!?」

 

ベンチに座る黒子が思わず目を見開きながら立ち上がる。

 

「ナイスパス!」

 

ボールは右コーナーに移動した生嶋の手に渡る。

 

「くそっ!」

 

シュート体勢に入った生嶋を見て、すぐさま朝日奈がチェックに向かう。

 

「(間に合う!)」

 

意表を突かれた空による、黒子のお株を奪うパスの中継。しかし、黒子と違い、姿を消している訳ではない為、普段、黒子で慣れている事もあり、すぐに反応が出来た。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

しかし、生嶋はスリーを打たず、シュートを中断し、中へとボールを入れる。

 

「っしゃ!」

 

ハイポスト付近で再度空がボールを掴み、そのままリングに向かってドリブル…レイアップの体勢に入る。

 

「おぉっ!」

 

レイアップの体勢に入った空に対し、田仲がブロックに飛ぶ。

 

 

――スッ…。

 

 

同時に空はビハインドパスでボールを左へと放る。

 

「任せぇ!」

 

 

――バス!!!

 

 

天野がボールを掴み、きっちりゴール下から得点を決めた。

 

 

花月 70

誠凛 57

 

 

『また決めた! 連続得点!!!』

 

『点差が開いて来たぞ!?』

 

 

「(…ちっ! こんなオフェンスパターンが…!)」

 

空が起点ではなく、中継をする事でボールを捌く、誠凛の黒子テツヤのようなパスワーク。ミスディレクションではなく、スピードで再現をすると言う違いはあるが、自分達の頼りになる武器が自分達に襲い掛かってきた。

 

「(っ!? 考えるのは後だ、今考えなければならないのは――)」

 

これから自分達のオフェンス。新海は思い出す。花月が今、オールコートゾーンプレスを仕掛けて来ている事に…。

 

「朝日奈、田仲!」

 

新海が2人を呼び、合図を送る。

 

「「(…コクリ)」」

 

合図を受け取った2人。朝日奈がスローワーとなり、新海にパスを出す。

 

 

『来た!!!』

 

 

観客の声をと共に、ボールを掴んだ新海に対し、空と生嶋がダブルチームをかけるべく、動く。

 

「舐めるな!」

 

一喝と共に新海が後ろの朝日奈にボールを戻す。

 

「こっち!」

 

同時に、フロントコートから戻ってきた田仲にパスを出す。そして、ボールを持った田仲と新海が交差する直前、手渡しで新海にボールを渡した。

 

 

『おぉっ! ゾーンプレスを突破した!』

 

連携を駆使し、花月のオールコートゾーンプレスを突破した。

 

 

「よし!」

 

ゾーンプレスを突破した新海はそのまま無人のリングへドリブルをしていく。

 

「行かせませんよ」

 

そこへ、唯一大地だけがディフェンスに戻っており、立ち塞がる。

 

「…」

 

しかし、新海は構わず大地へと突っ込んで行く。

 

 

『このまま行くつもりか!?』

 

『いくらなんでも無謀だ!』

 

大地に対して仕掛けようとする新海に対し、観客から悲鳴のような声が。

 

 

「(分かっている。俺では綾瀬をかわせない)」

 

 

――スッ…。

 

 

大地が距離を詰めて来ると、自分に大地を引き付けてからボールを横へと捌いた。

 

「ハハッ、ナイスパース!」

 

そこへ走り込んでいた池永がボールを掴む。

 

「おらぁ!」

 

そのままボールを右手で掴んでリングへと飛ぶ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「がっ!」

 

しかし、ボールがリングに叩きつけられる直前、大地が右手のボールを叩き出した。

 

「なっ!?」

 

このブロックに、新海は驚きを隠せなかった。ギリギリまで大地を引き付けてから池永へとパスをしたからだ。

 

「あめーな、その程度で大地をかわせるかよ。…ほらよ大地!」

 

したり顔で空がルーズボールを拾い、大地へと渡し、ボールを運び始める。

 

『…っ』

 

またもや攻撃失敗で焦りの色が見え始める誠凛の選手達。

 

「…」

 

誠凛が注視しているのは空の動き。先程同様、パスの中継をしてくる可能性があるからだ。

 

「(くそっ、黒子のように影が薄い訳でも…ましてや、ミスディレクションをしてくる訳でもねえから姿そのものを見失う事はねえが…!)」

 

思わず頭を抱えたくなる火神。黒子のように姿を消す訳ではないが、逆にそれが問題なのである。姿が見えている為、嫌でも空の動きを警戒してしまう。その結果、自身のマークの警戒が薄くなってしまう。そして、何より厄介なのは、姿さえ捉えられれば対応出来る黒子と違い、スピードと瞬発力で動く空は、どうしても瞬間的にマークを引き剥がされてしまうと言う点である。

 

「(ここらで花月の連続得点を止めないと、マジで取り返しのつかない事になる…!)」

 

開いていく点差に、火神は危機感を募らせる。

 

「…」

 

ゆっくりとボールを運ぶ大地。

 

 

――スッ…。

 

 

空が動く。火神のマークを引き剥がし、フリーとなる。

 

『(来た!!!)』

 

これに応じて、誠凛の選手達が、空の動きに注視する。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ここで大地がパスを出す。

 

『っ!?』

 

次の瞬間、誠凛の選手達の目が大きく見開かれる。パスは、空にではなく…。

 

「…よし」

 

右コーナー付近のスリーポイントラインの外側まで移動していた松永の手に渡ったからだ。

 

「田仲! 何やって――っ!?」

 

思わず非難の声を上げる池永。その視線に映ったのは、天野のスクリーンに捕まってしまっている田仲の姿だった。空が動き、一瞬、空に気を取られた隙に松永と天野が動いていたのだ。

 

フリーでボールを掴んだ松永がスリーを放った。

 

『っ!?』

 

ここでスリーを決められればさらに点差が広がる。誠凛の選手達の表情が凍り付く。

 

「頼む、外れてくれ!」

 

祈りを捧げるボーズを取りながら願うベンチの降旗。

 

 

――ガン!!!

 

 

願いが通じたのか、ボールはリングに弾かれた。

 

「やった、リバウンド!!!」

 

安堵の表情に変わった福田。同時に指示を飛ばす。

 

「…ちっ、だが構わん。例え外れてもうちには――」

 

「俺の出番やな!」

 

天野がリバウンドに備え、スクリーンアウトを開始する。

 

「…っ! くそっ…!」

 

何とか良いポジションを確保しようとする火神だったが、天野ががっちり抑え、それを許さない。

 

「(こいつ、スクリーンアウト上手ぇ…、だったら!)」

 

弾かれたボールに対し、両チームの選手達が飛び付く。

 

「おぉっ!」

 

ポジション争いを諦めた火神は、ジャンプ力を生かして外からボールを狙いに行った。

 

「ホンマ規格外やのう! やけど、こっちは過去に経験しとんねん!」

 

 

――ポン!!!

 

 

「っ!?」

 

火神の手に収まるはずだったボール。天野はボールに右手を伸ばし、先にボールを叩いた。

 

 

「チップアウト! 上手い!」

 

思わず木吉が声を上げる。

 

 

「ナイスリバウンド、天野先輩!」

 

零れたボールを大地が確保。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そのままジャンプシュートを決めた。

 

 

花月 72

誠凛 57

 

 

「っしゃぁっ!」

 

空と大地がハイタッチを交わす。

 

『…っ』

 

連続失点に、誠凛の選手達の表情がさらに暗くなる。

 

「顔を上げろ!」

 

『っ!?』

 

そんな誠凛の選手達に火神が活を入れる。

 

「今は流れが花月に向いてるだけだ。ここを凌げば必ずもう1度ウチに流れが来る。今は全力で耐えろ!」

 

手を叩きながら選手達を鼓舞する。

 

「(とは言え、これ以上、離されんのはまずいな。花月は俺達と同じ、2年生主体のオフェンス型チームだが、勢いに乗った時の勢いは桐皇以上だ。何か手を打たねえと…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「15点、開いたねー」

 

電光掲示板を見つめながら紫原が呟く。

 

「誠凛が弱い訳ではない。火神を始め、優れた資質と才能を有した全国屈指のチーム。だが…」

 

赤司が続いて口を開く。

 

「強力なストッパーにして、リバウンダーの天野。正確無比なスリーを有する生嶋。3番から5番をこなせる技巧派センター、松永。控えの選手達も、一芸に秀でた粒揃いの選手達。そして何より、俺達と同等の資質を有した神城と綾瀬。…これを擁した、花月は強い」

 

さらに続くように緑間が断言する。

 

「…」

 

青峰も同意なのか、特に異論は挟まない。

 

「誠凛は、今は耐え凌ぐ事だ。ここを凌げば、必ず後に流れが来る」

 

「とは言っても、このままじゃ、例え流れが来ても逆転出来なくなるんじゃ…」

 

赤司の言葉に、桃井が口を挟む。

 

「ああ。誠凛は、ここでタイムアウトを取って流れを断つか、黒子を投入するか…」

 

視線を誠凛ベンチに向ける赤司。

 

「…リコさん、特に動く気配はないね」

 

釣られて視線を誠凛ベンチに向ける桃井。

 

「とにかく誠凛は、何か手を打つ事だ。でなければ、この試合、第3Qで決まってしまう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「監督、タイムアウトを取るべきでは?」

 

誠凛ベンチで、福田がリコに提案する。

 

「…」

 

当のリコは、表情を変える事無く、試合を見つめている。

 

「それがダメなら黒子を出すべきです。これ以上、離されたら、流れも何もないですよ!」

 

「…落ち着きなさい!」

 

「…っ」

 

焦る福田を、リコが一喝し、黙らせる。

 

「ハーフタイムの時に言ったでしょ? 第3Qは花月に大きく水をあけられる事になるって」

 

「…ですが」

 

尚も食い下がる福田。

 

「動揺している姿を見せないの。自分達が追い詰められているって教えてるようなものよ。今、コートでは皆が必死に歯を食い縛って戦っているのよ。声出して背中を押してあげなさい」

 

「…っ、はい! …せーりん!!! せーりん!!!」

 

「「せーりん!!! せーりん!!!」」

 

リコに促され、福田が応援を始め、それに続いて降旗、河原が声を出し始める。

 

「(…この展開は確かに予想していたけど、予想以上に点差が開いていくのが早い。何か手を打つべきなのは確かだけど…)」

 

一見、平静を保っているように見えるリコだが、内心では福田同様、かなり焦っていた。

 

黒子は投入出来ない。試合終盤の切り札だからだ。ここで切ってしまえば、終盤に押し切られて終わる。タイムアウトに関しては、先程取ったばかりである事と、申請出来る数に限りがある為、終盤に取っておきたいのもあるが、例え、タイムアウトを取っても、今の花月の流れが断てないのが分かっているからだ。

 

「(とは言え、このまま点差が開き続けるようなら、決断しなければならないわね。タイムアウトを取るか、黒子君を投入するかを…)」

 

リコは、いつでも決断出来るよう、注意深く試合を見つめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「誠凛ベンチ、リコさん、動きませんね」

 

花月ベンチ、誠凛ベンチに視線を向けた姫川。淡々とベンチに座り、試合を見つめるリコに意味深なものを感じ取っていた。

 

「(確かにな。…だが、内心ではどうであろうな)」

 

チラリと視線を向ける上杉。その心境を何となく察していた。

 

「(選手を信じたが故か、あるいは決断を迷っているが故か…いずれにせよ、このまま何も手を打たないか、何も起きなければ(・・・・・・・・)、この試合、終了のブザーが鳴る前に終わってしまうぞ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は、各々の予想するように、花月の勢いが止まる事は無かった。

 

 

――バス!!!

 

 

着実に得点を重ねる花月。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「…よし!」

 

スリーを決める火神。ディフェンスをかわしながらの、やや強引なリリースであったが、決める事が出来、凍り付いたように動かなかった誠凛のスコアを動かした。

 

だが、それでも花月の勢いを止める事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第3Q、残り2分21秒

 

 

花月 78

誠凛 60

 

 

点差は18点にまで広がっており、20点差に王手をかけていた。

 

「…」

 

依然として、花月は大地がボールを運び、空がボールを中継、あるいは大地がそのまま決めるか、意表を突いてパスを出すかの作戦を継続している。

 

「(ここは何としてでも死守だ!)」

 

集中を高める新海達。

 

ここを決められ、20点差。心理的なダメージは計り知れない。直前、誠凛のオフェンスは失敗したものの、花月のオフェンスも何とか止め、土俵際で粘りを見せていた。

 

 

――ピッ!!!

 

 

大地がパスを出す。同時に空がそのボールに向かって走っていく。

 

『(誰に出す!?)』

 

注目するのは、空が誰にパスを中継するか。その中継相手に注視する誠凛の選手達。

 

「…甘いな」

 

しかし、空はボールを中継せず、ボールを掴んだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そのままドリブルを始め、リングへと突っ込む。

 

「(しまった!)」

 

「(こいつはパスだけじゃない、得点能力も一流だ!)」

 

ここで誠凛の選手達は思い出す。空は、黒子のようなパス特化の選手ではなく、ドリブル、スコアリング能力に関しても全国トップレベルの選手である事に…。

 

「(今までシュートを打たなかったのは、警戒が無くなるのを待っていたからか!)」

 

窮地の手前の誠凛。空が打っていた布石に今気付き、表情が強張る。

 

「おらぁ!」

 

リングに向かって飛ぶ空。

 

「させるか!」

 

その時、空の後ろから、火神がやってきて、ボールに手を伸ばす。

 

「頼む、火神!!!」

 

必死に願う誠凛ベンチの河原。

 

「…悪いが、分かってるぜ」

 

しかし、空はこれを予見しており、火神の手がボールを捉える直前にボールを下げてかわし、そこからリング付近にボールをふわりと浮かせた。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

そこへ、大地が飛び込み、空中のボールを右手で掴み取る。

 

『…っ!?』

 

誠凛の選手達の表情が凍り付く。これを決められれば20点差。敗北の影がその心を覆いかぶさる。

 

「…っ!」

 

右手で掴んだボールを、リングへと振り下ろす。

 

「火神君!!!」

 

その時、ベンチから1つの声が響き渡る。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

ブロックされた大地の目が思わず見開かれる。

 

「嘘だろ!? 俺のブロックに飛んでたのに、そこから――っ!?」

 

ルーズボールを掴んだ新海。

 

「こっちだ!」

 

ブロックした後、すぐさま速攻に走った火神がボールを要求。

 

「頼みます!」

 

新海はそこから前走る火神に縦パスを出した。

 

「あかん、戻れ!!!」

 

天野が声を張り上げ、ディフェンスへと戻る。

 

「ここから先は…」

 

「行かせません!」

 

先頭を走る火神だったが、規格外の空と大地のスピードによって、スリーポイントラインの遙か手前で追いつき、立ちはだかった。

 

「くそが! 速過ぎるだろ!」

 

戻りが速過ぎる2人のスピードに、思わず悪態が口から洩れる池永。

 

「(あれだけスピードが乗った状態…)」

 

「(ジャンプショットはない…!)」

 

自身の最速ドリブルをする火神。それを見て、ジャンプショットはないと判断する2人。

 

 

――ドッ!!!

 

 

フリースローラインから踏み切る火神。

 

「(レーンアップか! だが…!)」

 

「(私達2人ならば、止められる!)」

 

如何に、火神のジャンプ力が規格外であっても、リングの高さが決まっている以上、ダンクならば、タイミングを合わせれば、空と大地の2人がかりならば止められると踏む2人。

 

「「…っ!」」

 

タイミングを合わせ、2人同時にブロックに飛ぶ。タイミングはバッチリ。

 

 

――ガシャン!!!

 

 

「「っ!?」」

 

2人の表情が驚愕に染まる。

 

火神は、ボールをリングに叩きつけるのではなく、リングに投げ込んだ(・・・・・)のだ。

 

「ようやく、表情が変わったな」

 

「「…っ」」

 

振り返る空と大地。

 

「ここからが本番だ。存分に楽しませてやるよ」

 

着地した火神が2人に告げる。

 

「…ま、このまま行けたら苦労はねえよな」

 

「…ええ、ここからが、正念場…ですね」

 

空と大地が共に苦笑する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――火神大我が、ゾーンの扉を開いた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

第3Qが始まり、ペースを掴む花月。

 

開きゆく点差に、徐々に敗北の二文字がチラつく誠凛。

 

誠凛の選手達の心に絶望の影が覆い尽くそうとしたその時、待ったをかける火神。

 

試合は、ここからさらに激化していく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





投稿ペースが落ちてきたかなー。決勝戦、今年中に終わらせる予定だったけど、終わんのかな…(;^ω^)

9月に入って、相変わらずのクソ熱い日が続きますが、ここ数日は、落ち着いて来た気がする。

夏ももうすぐ終わり……かな?

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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