黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

梅雨明けして完全に夏ですねぇ…(;^ω^)

それではどうぞ!



第206Q~成長~

 

 

 

第1Q、終了

 

 

花月 25

誠凛 23

 

 

花月ベンチ…。

 

「よしよし、悪くねえ立ち上がりだったぜ」

 

ベンチに戻ってきた選手達を空が立ち上がり、手を叩きながら出迎えた。

 

「って、何やねえそのアイマスクは…」

 

依然としてアイマスクを付けている空に、天野が指を差しながら尋ねる。

 

「ぬくぬく」

 

「そないな事聞いてへんわ!」

 

ツッコむ天野。

 

「バカな事をやってないで座れ。時間は限られているんだぞ」

 

そんな2人のやり取りを、上杉が割って入って終わらせる。選手達がタオルと飲み物を受け取ってベンチに座ると上杉が選手達の前に立つ。

 

「さて、実際に味わったお前達が1番理解しているだろうが、やはり黒子テツヤは一筋縄ではいかないな」

 

攻守において、ミスディレクションを駆使して花月を追い詰めた黒子。

 

「綾瀬と天野先輩がああも容易く抜かれるとはな」

 

第1Q終盤に大地と天野が池永と朝日奈に抜かれた事を思い出した松永。

 

「気ーついたら俺の横抜け取ったわ。そない速い選手な訳やなかったはずやし、どないなっとんねん」

 

その時の事を口にする天野。

 

「そのカラクリの種は既に掴んでいます」

 

ここで姫川が口を挟む。

 

「黒子さんです」

 

「? どういう事?」

 

簡潔に答えを口にした姫川に対し、理解出来なかった生嶋が尋ねる。

 

「綾瀬君と天野先輩が抜かれた時、黒子さんはいずれの時も2人の視界に入る場所にいました」

 

姫川がボードを出しながら説明を始める。

 

「ミスディレクションとは、言うなれば、視線誘導の事。仕掛ける瞬間に視線を自分に向ける事で一瞬、目の前の相手から意識を逸らされてしまう。そのせいで綾瀬君も天野先輩も反応が出来なかったのです」

 

ボードのマグネットを動かしながら姫川が説明をした。

 

「そうか、綾瀬と天野が棒立ちで不自然に抜かれてたのはそのせいだったのか…」

 

為すが儘に抜かれていた2人に違和感を覚えていた菅野が納得するように頷いた。

 

「恐らく、黒子はここらで1度ベンチに下がるだろう。今、考えるのは第2Qからの事だ」

 

上杉が黒子の話題を打ち切り、話を変える。

 

「俺がやります」

 

ここで空が手を上げ、アイマスクを外す。

 

「俺がやるって、手はもう大丈夫なんか?」

 

「痺れは無くなったし、痛みもゼロ。問題なし!」

 

パチン! っと、右拳を左掌に当てて意気込む空。

 

「神城」

 

上杉が空を呼び、右手を開いて前に出す。

 

「打ってみろ」

 

空の右手の具合を確かめる為、右拳を自身の掌に向けて振るうよう促す上杉。

 

「おら!」

 

 

――パチン!!!

 

 

上杉の掌目掛けて空が思いっきり右拳をぶつけた。拳を受けた上杉は自身の掌の感触を確かめ…。

 

「良いだろう。第2Q、頭から出す。…生嶋、交代だ」

 

出場を了承した。

 

「僕ですか?」

 

そこで交代を告げられたのは、空に代わって試合に出場した竜崎ではなく、生嶋だった。

 

「大丈夫だとは思うが、万が一にも右手に異変が起きないとも限らんからな。その事態に備えてボール運びが出来る竜崎を残しておく。後、試合がハイペースだからな。勝負時に備えてここで生嶋を温存させる」

 

「分かりました」

 

交代の意図を聞き、生嶋は頷いた。

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

ここで、インターバル終了のブザーが鳴る。

 

「っと、終わってもうた。ここからどないするんや?」

 

ブザーを聞いて天野が慌てて尋ねる。

 

「んなもん、決まってるでしょ」

 

ニヤリと空は笑みを浮かべ…。

 

点の取り合い(殴り合い)ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

OUT 生嶋

 

IN  空

 

 

OUT 黒子 降旗

 

IN  火神 新海

 

 

花月、誠凛の選手達がコートへと戻って来る。

 

「やっぱり黒子さんは引っ込んだか」

 

上杉の予想通り、ベンチに下がった黒子にチラリと視線を向けた空。

 

「…出て来たな」

 

コートへと戻ってきた空を一瞥する新海。

 

「ハッ! 返り討ちにしてやらあ」

 

鼻を鳴らしながら意気込む池永。

 

審判からボールを受け取った竜崎が空にパスを出し、第2Qが始まった。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!!』

 

同時に試合再開を待ち望んでいた観客から大歓声が上がった。

 

「っしゃ、まずは1本、行くか!」

 

ボールを受け取った空は右手を上げ、手を広げてヒラヒラさせる動作をする。すると…。

 

『…えっ?』

 

そこからの花月の選手達の動きに、観客達が戸惑いの声を上げた。

 

「何考えてんだよ!?」

 

池永も戸惑いと怒りを半々にしたような声を上げた。

 

花月の選手達は、空の合図を出すのと同時に、全員が外へと展開したのだ。つまり、今、ツーポイントエリア内に花月の選手は1人もいない。

 

「スペースは充分。中に入れば邪魔も入らねえ」

 

「それは俺を抜く事が大前提だ。させると思うのか?」

 

空の言葉にこの行動の意図を汲み取った新海が眉を顰める。

 

「簡単じゃねえけど、難しくもねえ」

 

「…っ!」

 

その言葉に、新海の表情が歪む。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりボールを突きながら仕掛ける機会を窺う空。

 

「(俺相手ならいつでも抜けると思っているのか、舐めやがって…!)」

 

対して、目の前の新海は腰を落とし、空の仕掛けに備える。

 

「…」

 

空は数度、その場でボールを突き…。

 

「…っ!?」

 

突如、ボールを掴むと、その場でシュートを放った。

 

「(スリー!?)」

 

ドライブを警戒し過ぎた新海は為す術もなくそのスリーを見送り、リングへと振り返った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 28

誠凛 23

 

 

『いきなりスリーキター!!!』

 

 

「せっかく中空けてもらったのに、あまりにスリーが無警戒だったからつい打っちまった」

 

額に手を当て、遠くを見るかのような動作をする空。

 

「…別にいいさ、スリーで逃げられる(・・・・・・・・・)分にはな」

 

「…あっ?」

 

新海の言葉に引っ掛かりを覚えた空。しかし新海は、そう告げてすぐにその場を離れていった。

 

「…」

 

そんな新海を、空は無表情でその背中を追ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

誠凛のオフェンス…。

 

「…」

 

ボール運びをするのは新海。

 

 

「あれ? かがみんのマークが綾瀬君に戻ってる」

 

桃井が花月のマークが試合当初と同じになっている事に気付く。

 

「だろうね。飛ばれたら終わりの火神を完全に止めるには、時空神の眼(クロノスアイ)を使う他ないが、あれは目に大きな負担をかける。神城を第2Q開始まで引っ込めたのも、目を休ませる意味もあったのだろう。となれば、神城に付かせ続けるより、綾瀬に戻した方が賢明だ」

 

英断だと断ずる赤司。

 

 

「来いよ」

 

待ち受けるのは空。先程のトラッシュトークの影響か、表情は若干険しい。

 

「…」

 

新海は空が目の前に来ると、右アウトサイドに展開した朝日奈にパスをした。

 

「てめえはパスで逃げんのかよ」

 

お返しとばかりに空も挑発。

 

アウトサイドでボールを受けた朝日奈はすぐさま中へとボールを入れる。

 

「させん!」

 

ボールは、ローポストに展開した田仲に。その田仲の背中に、松永がすぐさま張り付くようにディフェンスに入る。

 

「頼む!」

 

ローポストの田仲は仕掛けず、ボールを掴んですぐさま外へとパスアウト。

 

「ナイスパース!」

 

そこには、右コーナーに走り込んでいた池永がおり、ボールを掴むと同時にスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そのスリーはリングの中心を射抜いた。

 

 

花月 28

誠凛 26

 

 

『スリーで返した!』

 

 

「おっしゃ! 今日俺マジ絶好調じゃん!」

 

スリーを決めた池永がガッツポーズで喜びを露にする。

 

「…ちぃ、火神に気を取られてもうた…!」

 

池永のマークを外してしまった天野が頭を抱える。

 

「2本目のスリー、ですか…」

 

大地がボソリと呟く。ここまで、池永はスリー2本を確実に決めている。

 

「気にしなくていいですよ。生粋のシューターじゃねえんだから、いつまでも続かないですよ。そんな事より、取り返しますよ」

 

天野をフォローする空。

 

スローワーの松永からボールを受け取り、空がボールを運ぶ。

 

「(…距離を取って来たな)」

 

空をマークする新海が、距離を取ってディフェンスに入った。

 

「(スリーは悠々に打てるな。決める自信もある)」

 

チームメイトの生嶋や大地程ではなくとも、スリーは打てる空。ここまで警戒が薄いなら高確率で決める事も可能。

 

「…」

 

にもかかわらず、空がスリーを打つ事を躊躇っているのは、先程の新海の言葉。

 

 

――スリーで逃げられる分にはな…。

 

 

挑発である事は空も百も承知。新海の狙いは空にドライブで仕掛けさせる事。多少、頭には来てはいるが、ムキになって仕掛ける程、冷静さは失っていない。

 

「(……いいぜ)」

 

少々考え、そして、決める。

 

「その挑発、乗ってやるよ」

 

悠然と空は前へと進み始めた。

 

「(来た!)」

 

乗り気になった空の気配を感じ取った新海。

 

「(予想通りだ。挑発すれば、去年までの神城なら熱くなって仕掛けてきた。今の神城なら、余程劣勢な状況ではない限り、挑発と分かってても乗って来る)」

 

空のプレースタイルから性格まで調べ上げた新海。元々の実力に差がある今の状況で、パスにスリーまで選択肢に組み込まれると、今の新海ではどうしようもない。だが、選択肢を1つに絞る事が出来れば…。

 

「(このシチュエーションなら、神城がもっとも得意なプレーで来る。スピードの乗った――)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「(クロスオーバー、ここだ!)」

 

タイミングと進行ルートを計り、仕掛けた空の進路を先回りして塞ぐ。

 

「(読み通り! だが本命はここからだ。次にこいつは、再度クロスオーバーで切り返して来る)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

読み通り、空は右から左へのクロスオーバー直後、今度は左から右へとクロスオーバーで切り返した。

 

「(よし、止め――っ!?)」

 

逆へと切り返した空のボールをカットしようと右手を伸ばした新海だったが、ボールは遠ざかっていく。2つ目のクロスオーバーと同時に加速した空に、新海の追撃は追いつけなかった。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままリングに向かって突っ込んだ空は右手で掴んだボールをリングに叩きつけた。

 

 

花月 30

誠凛 26

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

豪快な空のダンクに会場が沸き上がる。

 

「新海も悪いプレーヤーではない。むしろ、全国で見てもかなりの実力者だ」

 

新海をそう評価した緑間。

 

「だが、赤司や青峰でさえも神城相手にやられている。トラッシュトークを用いて選択肢をドリブルに絞らせたようだが、それでも今の神城相手に、1ON1で新海が止める事は難しいだろう」

 

その上で、空と新海の力の差に大きな開きがあると断ずる。

 

 

「俺の動き、良く研究してきたみたいだが、読まれた程度で止められる程、甘くはねえぜ」

 

「…っ!?」

 

すれ違い様に呟いた空の方に思わず振り返る新海。空はそのままディフェンスへと戻っていった。

 

「…っ」

 

悔しさのあまり、思わず拳をきつく握りしめる新海。

 

かつて戦った時は眼中にもなかった空と大地。試合中に才能の片鱗を覚醒した空と大地を止める事が出来ず、全中制覇を逃した。その後、紆余曲折あって誠凛高校に進学しても、その敗北を忘れず、弛まぬ努力で自身を磨き上げ、来たる対戦に備え、2人に対し、研究に研究を重ねた。しかし、それでも届かず…それどころか、差は開いていた。

 

「(才能の差か…)」

 

胸中で自嘲気味に呟く新海。努力の先でぶつかる才能という壁。持たざる者にとって、超える事が出来ない最大の壁。

 

「下がるか?」

 

その時、火神が新海に対し、頭に手を乗せながら声を掛ける。

 

「心が折れちまったなら、フリと交代しても構わねえぞ」

 

「……冗談でしょう」

 

火神の言葉に、新海は自嘲気味に返事をする。

 

「これでも俺は帝光中出身です。大きな才能なんてものは、キセキの世代(先輩達)を見ていますから良く知っています。この程度で折れるくらいなら、そもそも中学でバスケを辞めてます」

 

声を掛けた火神の方へ振り返り、確かな口調で喋りながら断固たる決意に満ちた視線を向ける。

 

「…正直な話、お前と神城とでは、大きな力の差がある」

 

「…」

 

「だが、俺は全てにおいてお前が神城に劣っているとは思ってねえ」

 

そう言って、視線を前へと向ける火神。

 

「例え神城に敵わなくても、お前には誠凛を勝たせる力を持ってる。だから監督はお前をスタメンにしたんだろうし、フリもお前にスタメンを譲った」

 

「火神さん…」

 

「今、この時が、バスケ人生で培ったものを見せる時だ。ぶつけてやれ、お前の全てをな」

 

「はい!」

 

かけられた火神の発破の言葉に、新海は力強く答えたのだった。

 

「新海」

 

後方から田仲が声を掛け、パスを出す。

 

「ボール運び、頼むよ」

 

田仲がそう声を掛けた。

 

「…よし!」

 

ボールを受け取った新海は、気合いを入れ直し、フロントコートへとボールを運んだ。

 

「朝日奈!」

 

右45度付近の展開した朝日奈にパスを出し、同時に右コーナーへと走って移動をする。

 

「…」

 

朝日奈にボールが渡ると、ローポストで松永を背負う形で田仲が陣取る。その田仲にパスを出す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ローポストで田仲がボールを掴むと、ポストアップで押し込み始める。

 

「フン…!」

 

腰を落とし、歯を食い縛ってポストアップに耐える松永。

 

「田仲!」

 

コーナーへと走った新海が田仲目掛けて走り、直接ボールを受け取りに行く。田仲がボールを掴み、差し出すと、すれ違い様に新海がボールを受け取る…。

 

「…っ」

 

と、見せて、田仲は新海とすれ違う瞬間に差し出したボールを引っ込め、ゴール下へとターンし、シュート体勢に入る。

 

「ちぃっ!」

 

新海の動きに釣られ、僅かに反応が遅れた松永だったが、即座に対応、ブロックに飛ぶ。

 

「マツ、フェイクや!」

 

天野が咄嗟に指示を飛ばすが既に遅く…。

 

「っ!?」

 

ブロックに飛んだ松永。田仲はボールを頭上に掲げただけで飛んではいなかった。

 

 

――バス!!!

 

 

松永が飛んだのを確認した後、改めて飛び、ゴール下から得点を決めた。

 

 

花月 30

誠凛 28

 

 

「ナイッシュー、田仲」

 

「新海も、助かったよ」

 

ハイタッチを交わす2人。

 

 

「ほう…」

 

一連のプレーを観客席で見ていた元陽泉の岡村が感心するような声を上げた。

 

「どうかしたか?」

 

横の席に座る同じく元陽泉の福井が反応をした岡村に尋ねる。

 

「あの誠凛の12番、なかなか良い選手じゃのう」

 

「そうなのか? お前や劉、それこそ紫原を見て来た俺からすると、地味な選手にしか見えねえけどな」

 

「確かに派手さはない。じゃが、ここまで基本に忠実で教科書通りのプレーが良く見られる。インサイドのプレーのお手本のようなプレーじゃ」

 

「へぇ…」

 

インサイドプレーヤーとしては指折りの選手である岡村にそこまでの評価をさせた田仲に興味を示した福井。

 

 

「だがよ、身体能力は大した事ねえ。ゴール下で戦って行くには少々物足りねえ気もするけどな」

 

辛口な評価をする元桐皇の若松。

 

「確かに一理あるのう。インサイドプレーヤーとしては若松とは対照的やな」

 

頷く元桐皇の現桐皇の今吉誠二の従兄の今吉翔一。

 

「けどな、一概に馬鹿にも出来ひんで。NBAには、派手なテクニックやムーブやのうて、基本に忠実なプレーを貫いて最強の一角に数えられる程の選手にまでなった選手がおるからのう」

 

「ビッグファンダメンタルか」

 

例を挙げた今吉の言葉に反応する元桐皇の諏佐。

 

「状況にもよるが、司令塔やっとる身から言わせてもらうと、ああいうインサイドプレーヤーの方が安定感があるからゲームの組み立てがしやすいからありがたいで。スペック頼りの奴は、それが通じんようになると途端に置物になる奴も多いからのう」

 

「…後半の、遠回しに俺の事言ってます?」

 

思い当たる節があった若松が苦い表情しながら尋ねた。

 

 

「スゲー、田仲の奴、高校の全国の決勝で活躍してるよ…!」

 

中学時代のチームメイトである森崎。かつての仲間が高校の頂点をかけた試合で活躍している姿を見て、目に涙を浮かべながら感動する。

 

「思い返せば、俺達が全中優勝出来たのは、神城と綾瀬の力が大きいけど、その2人を説得してチームに復帰させて、チームを纏めてたのもあいつなんだよな」

 

星南中時代の事を思い出す駒込。

 

「龍川監督も、田仲がいなかったら全中優勝は出来なかったって言ってたし、俺もそう思うよ」

 

「…正直、複雑だな。花月と誠凛、どっちにも負けてほしくないけど」

 

かつて、共に戦い、頂点を掴んだチームメイトが今では頂点をかけてぶつかり合っている。

 

「応援しようぜ。どっちも」

 

一方だけを応援する事に躊躇いを感じる森崎に、駒込がそう提案する。

 

「どっちも勝つように応援する。そうしようぜ」

 

「…そうだな!」

 

この言葉に、森崎は花月と誠凛の両チームを応援をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

空がボールを運び、新海が目の前にやってきた所で足を止める。

 

「(…チラッ)」

 

ここで空が外に展開した竜崎に視線を向ける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

同時に空が中へとカットイン。

 

「…くそっ!」

 

空が入れた視線のフェイクに僅かに釣られてしまった新海は反応が遅れ、抜かれてしまう。そのままゴール下まで切り込み、リングに向かって飛ぶ。

 

「させるか!」

 

ここで田仲がヘルプに現れ、ブロックに現れた。

 

「さっすが、かつてのチームメイトだけに対応はえーな」

 

田仲が現れたのと同時にボールを下げる。

 

「(分かってる。神城なら俺のヘルプにも反応するって事は…!)」

 

空を良く知る田仲。自分のヘルプに反応されても驚かない。

 

「(この体勢ならパスに切り替えてくる。パスの先は……竜崎だ!)」

 

左アウトサイドのコーナー付近に展開していた竜崎へのパスと読んだ田仲が右手を伸ばしてパスコースを塞ぎにいく。読み通り、空はビハインドパスで竜崎のいる左アウトサイドへとパスを出した。

 

「(やった、読み通り――なっ!?)」

 

 

――バチィン!!!

 

 

竜崎のいる左アウトサイドへと飛んでいくと思われたボールが右へと飛んでいった。

 

「よし!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを掴んだ松永がボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

 

花月 32

誠凛 28

 

 

『ダンクキタァァァァァ!!!』

 

『つうかその前のパススゲー!!!』

 

沸き上がる会場。

 

 

「ナイスパス」

 

「当然」

 

ハイタッチを交わす空と松永。

 

「エルボーパスか…!」

 

左方向へと出されたパスが逆方向に飛んでいったからくりを理解した田仲。空はビハインドパスを出すと同時に左肘を後方に突き出してボールを当て、パスの方向を変えたのだ。

 

「…ふぅ」

 

一息吐いて気持ちを落ち着かせる田仲。

 

悔しさはあるが、驚きはない。田仲もまた、空の事を良く知る1人であるからだ。

 

「取り返そう!」

 

ボールを拾った田仲がスローワーとなり、チームを鼓舞しながらパスを出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを運ぶ新海。

 

「池永!」

 

「っしゃ!」

 

右ウィング付近に立った池永にパスを出し、自らは右コーナーへと向かって走る。

 

「こっち!」

 

ローポストに陣取った田仲がボールを要求。

 

「おらよ!」

 

池永はパスを出す。

 

「…あっ!?」

 

思わず声を上げたのは竜崎。池永は田仲にではなく、外へと朝日奈にパスを出したのだ。竜崎は火神のスクリーンに捕まり、後を追えなかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

オープンの位置でフリーでボールを受け取った朝日奈がスリーを放ち、沈めた。

 

 

花月 32

誠凛 31

 

 

「お前にしては良いパスだな」

 

「うるせーよ」

 

軽口を叩きながらディフェンスに戻る朝日奈と池永。

 

「すいません!」

 

マークを外してしまった竜崎が謝る。

 

「いや、あれは声掛けしなかった俺達の責任だ」

 

そんな竜崎を空が窘める。

 

「今のオフェンスの動きで確信しました」

 

「ああ、トライアングルオフェンスだ」

 

大地が何かに気付き、空が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あの自己中だった池永がパス出してるぜ」

 

「さっきはスクリーンかけて汚れ役もこなしてたし、あいつも成長したみたいだな」

 

池永の変化に驚く日向と伊月。

 

「良いチームじゃないか。日向達が心配してから俺も気になってたけど、杞憂だったんじゃないか?」

 

かつての主力だった代が抜け、残った誠凛を誰よりも心配していた日向とそれを聞いていた木吉。2年前に自分達がウィンターカップを制した時と同じかそれ以上に立派に戦う後輩達を見て、胸を撫で下ろしていた。

 

「新海は伊月より基本スペックは優れているが、伊月のような目は持ってない。このトライアングルオフェンスは合っているかもな」

 

現在の誠凛のオフェンスを、日向は称賛したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おーおー、池永(あのバカ)も変わったもんだな」

 

観客席の元帝光中の新海・池永と同じ世代である沼津が池永を見て感心しながら頷く。

 

「あいつ、昔のあいつの姿に戻ったみたいだな」

 

「あれ、河野って、池永と付き合い長いっけ?」

 

河野の感想に、水内が尋ねる。

 

「俺が所属していたミニバスのチームと、池永(あいつ)が所属していたミニバスのチームは結構近くてな。試合する機会は多かったんだ。当時のあいつは、今日みたいにパスもフォローもやっていた。…どうしてあんな自己中の塊のような奴になったのやら…」

 

「確実にキセキの世代(先輩達)の影響だろうな。…ま、俺達が言えた義理じゃねえけど」

 

河野の疑問に、沼津がケラケラ笑いながら答える。

 

「新海も、帝光中時代は、あんな感情を表に出す奴じゃなかったし、変わったよな」

 

水内は、帝光中時代の新海を思い出す。

 

「俺達5人の中じゃ、あの2人は1歩抜きん出てたからな」

 

「だな。…もっとも、当時の俺だったら認められなかっただろうけどな」

 

「これが、続けた(・・・)者と、辞めた《・・・》者の差、なのかもしれないな」

 

中学最後の全中の後、帝光中内でのいざこざによってバスケに愛想が尽き、辞めてしまった沼津、水内、河野の3人。今の2人の姿を見て、込み上げるものがあった。

 

「また始めっかな」

 

「それも悪くなさそうだ」

 

「ま、今は、あいつらの応援でもしてやるか」

 

3人はかつてのチームメイトの応援を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

続く花月のオフェンス。空のパスから大地がきっちり決める。代わって誠凛のオフェンス…。

 

「頼む!」

 

トライアングルオフェンスで攻め立てる誠凛。

 

「しっかりマークしろ! 声掛け忘れんな!」

 

空が檄を飛ばしながらディフェンスをする。

 

『…』

 

誠凛の選手達が連動して動き、得点のチャンスを窺う。

 

 

――ピッ!!!

 

 

田仲からパスが出される。

 

『っ!?』

 

次の瞬間、花月の選手達の目が見開かれる。ボール、外から中へと走り込んだ火神の手に渡ったのだ。

 

「ここでかいな!」

 

1番近くにいた天野が火神に向かってヘルプディフェンスに行く。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

ジャンプシュートをした火神と、それをブロックした天野が空中で交錯する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に笛が鳴る。

 

「…らぁっ!」

 

一瞬、崩れた体勢を空中で瞬時に立て直した火神はリングに向かってボールを放つ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放ったボールはリングを潜り抜けた。

 

『ディフェンス、プッシング、天野(赤7番)、バスケットカウントワンスロー!』

 

「っ!?」

 

天野のファールがコールされた。

 

「っとと、何とか決まったか」

 

バランスを取りながら着地した火神。

 

「フリースロー、決めりゃ同点だぜ」

 

ニカッと笑う火神。

 

「面白れぇ…!」

 

「一筋縄では行きませんね…!」

 

そんな火神を見て、空と大地も笑うのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





一応、この二次は空と大地のダブル主人公なんですが、最近は空ばかり目立って大地の影が薄くなった気がする…(>_<)

試合描写を少しでも厚くする為に片っ端からバスケの試合や動画を見まくっていますが、今度はバスケを知れば知るほど難しくなると言うジレンマorz

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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