黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

205 / 218

投稿します!

すっかり季節は夏ですね。皆さん、熱中症にはご注意を…(;^ω^)

それではどうぞ!



第204Q~幻の6人目(シックスマン)

 

 

 

第1Q、残り4分42秒

 

 

花月 17

誠凛 11

 

 

空の連続スティールによって流れを手繰り寄せた花月。花月が尚も攻勢をかけようとしたその時、誠凛がメンバーチェンジ。黒子テツヤがコートへと足を踏み入れた。

 

「遂に黒子の出番だ! 頑張れ黒子ぉっ!!!」

 

コートに入る黒子を見て、観客席の荻原が立ち上がり、大声で声援を贈る。

 

「…っ」

 

大歓声の会場だが、それでも微かに黒子の耳に届いた親友の声援。しかし、この広い会場の観客席では、その姿をすぐに見つけるのは困難。

 

「(荻原君…。君の声は確かに届きました。見ていて下さい)」

 

かつて譲り受けた荻原のリストバンドを付けた黒子は、胸の中に闘志を秘め、コートの中へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「遂にお出ましか!」

 

コート入りをする黒子を見て、空がニヤリと笑う。

 

「夏合宿の時に一時、共に過ごしましたが、ほとんど手の内を隠されましたから、本当の意味であの方の本領を見るのは、これが初めてと言う事になりますね」

 

大地が真剣な表情で黒子を見つめる。

 

「マークはどないする?」

 

歩み寄った天野が尋ねる。

 

「…とりあえず、生嶋に任せるわ」

 

「分かった。やってみるよ」

 

黒子のマークを生嶋に任せ、集まった花月の選手達は散らばり、各々のマーク選手の下へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

選手交代が終わり、誠凛ボールで試合が再開される。

 

『…』

 

マンツーマンでディフェンスをする花月。注目するのはやはり黒子。

 

「(黒子テツヤさん…。噂は嫌と言う程耳にした。パス回しに特化した、帝光中の幻の6人目(シックスマン)…)」

 

黒子をマークしている生嶋。目の前の黒子に注視している。

 

「(夏の合宿を見た限り、身体能力はそこまで高くない。むしろ低いくらいだ。姿を見失わないようにしっかりマークさえ出来れば――っ!?)」

 

その時、生嶋は黒子の姿を見失う。

 

「(なっ!? 目の前から消え…何処に!?)」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

黒子の姿を探そうとする生嶋。その時、生嶋の背後で黒子がボールをタップした。

 

『っ!?』

 

ボールを運ぶ新海が無造作に中へと出したパスが突然軌道が変わり、驚く花月の選手達。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはゴール下に走り込んでいた田仲へと渡り、そのまま得点を決めた。

 

 

花月 17

誠凛 13

 

 

『出た! 誠凛の魔法のパス!』

 

『ボールが曲がった!? 何が起きたんだ!?』

 

通の観客からはお馴染みのパスに歓喜し、始めて目の当たりにする観客からは驚愕の声が上がった。

 

 

「ホンマに、いつの間にか最深部までボールが移動しよったで。…イク」

 

知覚出来なかった天野。

 

「目を離さないでマークしてたはずなのに、気が付いたら姿が消えてて…これが黒子さん…」

 

過去の噂はもちろん、試合での姿も何度も見ていた。生嶋なりに対策も立てていたが、それでも黒子の姿を見失ってしまった。

 

「ま、しゃーないわ。ちょっと研究したくらいで対応出来るようならとうに止められとるはずやからな」

 

「切り替えてオフェンスです。しっかり決めれば点差が縮まる事はありません。行きましょう」

 

大地が励まし、話を終わらし、花月の選手達は散らばっていく。

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス。得点チャンスを窺う為、ボールを回していく。

 

「おぉっ!」

 

「…っ」

 

ローポストでボールを受けた松永がポストアップで田仲を押し込もうとするが、田仲は歯を食い縛って侵入を阻む。

 

「(…ちぃっ! こいつ、意外とパワーがある。何より、身体の使い方も上手い…!)」

 

事前のスカウティングでは、タイプ的には技巧派で、身体能力はそこまで高くないと言う印象だった。実際、それは的外れと言う程でもなく、基本に忠実、教科書通りのディフェンスで身体能力の差をカバーしていた。

 

「マツ! 囲まれんで!」

 

「…っ」

 

天野が声をかける。ボールを持つ松永に池永と火神が包囲をかけようとしていた。

 

「…くっ」

 

仕方なく、松永は外でフリーになっていた生嶋にパスを出した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

目を見開く生嶋。ボールが生嶋の手に収まる直前、突然伸びて来た手にカットされたのだ。

 

「(何処から!? マークは外したはずなのに!)」

 

フリーだと思っていた生嶋は軽くパニックに陥る。

 

 

「お見事」

 

「ああ。松永に人数をかけようとした際、わざと生嶋へのパスコースだけを空けていた」

 

一連のプレーを見た三杉は賛辞の言葉を贈り、堀田は解説をする。

 

「黒子君も、生嶋は認識出来ていなかったが、死角からしっかりマークをしていた。彼の特性を生かした素晴らしい…花月にとっては嫌らしいディフェンスだ」

 

続けて補足するように三杉が解説を入れた。

 

 

「黒子さん!」

 

速攻に走る新海がボールを要求。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

前方へと反転しながら黒子はボールを弾き、新海にパスを出す。

 

「あかん、戻れ!」

 

天野が声を出し、花月の選手達がディフェンスへと戻る。

 

「…ちっ」

 

フロントコートに到達した所で足を止め、舌打ちをする新海。

 

「行かせませんよ」

 

いち早くディフェンスに戻った大地が新海の前に立ち塞がる。

 

「…」

 

誠凛の選手達が攻め上がるのと同時に、花月の選手達もディフェンスに戻り、各々のマークに付く。

 

「(相変わらず戻りが速い、だが、もはや関係ない)」

 

先程まで、火神を止められ、八方塞になりかけていたが…。

 

「(今、このコートには、この人がいる!)」

 

新海が中にボールを放る。すると…。

 

『っ!?』

 

目を見開いて驚く花月の選手達。ボールが出された場所に、黒子の姿があった。

 

「…」

 

黒子が右手を掌打を打つように引き構えた。同時に、池永がリングに向かって走りながらボールを要求する。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

池永に向けて黒子がボールを加速させながら中継させた。

 

「っと!」

 

加速しながら迫るボールを池永が右手で掴む。

 

「っりゃ!」

 

同時にリングに向かって飛んだ。

 

「ちぃっ!」

 

松永が舌打ちをしながらすぐさまヘルプに向かい、ブロックに飛んで池永とリングの間に割り込む。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、池永は松永がブロックに現れると、ボールを下げ、松永のブロックを掻い潜りながら通り抜ける。

 

「っ!?」

 

 

――バス!!!

 

 

目を見開く松永。池永はブロックをかわすのと同時に再度ボールを上げ、リングに背を向けた大勢でボールを放り、バックボードに当てながら決めた。

 

 

花月 17

誠凛 15

 

 

「ちょろいな」

 

「…っ」

 

したり顔の池永。その言葉が聞こえた松永は表情を僅かに歪ませる。

 

「ナイスパス、黒子さん!」

 

ディフェンスに戻りながら新海が黒子に駆け寄り、ハイタッチを交わす。

 

 

――ドクン!!!

 

 

「っ!?」

 

その時、黒子の背中に悪寒のようなものが走った。何かに見られているような、覗かれているような視線を感じた。

 

「…っ」

 

黒子は周囲をキョロキョロ見渡す。

 

「? 黒子さん?」

 

その様子を見て怪訝そうに声を掛ける新海。

 

「…いえ、何でもありません」

 

周囲を見渡しても、その奇妙な視線の正体は見つからず、何事もなかったかのように新海に返事をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…くっ!」

 

フロントコートまでボールを運んだ空。急加速のドライブで新海を抜きさり、カットイン。

 

 

――スッ…。

 

 

その直後、空のキープするボールに、1本の手が迫る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っとぉ!」

 

その手がボールに触れる寸前にボールを切り返してかわす。

 

「…っ」

 

「油断も隙もないですね、…黒子さん…!」

 

切り返すのと同時にボールを掴み、ジャンプシュートの体勢に入る。

 

「おぉっ!」

 

ヘルプに飛び出した田仲がブロックに飛び、シュートコースを塞ぐ。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、空はシュートを打たず。ボールを右方向の斜め下に放る。そこへ、大地が走り込み、ボールを受け取る。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを受けた大地がそのままレイアップで得点を決めた。

 

 

花月 19

誠凛 15

 

 

「よーし!」

 

「ナイスパス、空」

 

パチンとハイタッチを交わす。

 

「ドンマイ、気にすんな! 取り返すぞ!」

 

火神が声を出し、鼓舞する。

 

「…」

 

その鼓舞に選手達が気持ちを切り替える中、ベンチのリコだけは、顎に手を当てながら何かを思案していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

新海がフロントコートまでボールを運び…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地がディフェンスにやってくると、早々に仕掛ける。

 

「…」

 

中へ切り込む新海。大地はすかさず反応し、ピタリと後を追う。

 

 

――スッ…。

 

 

すると、新海はノールックで背中からボールを後方へと放る。するとそこには…。

 

『っ!?』

 

右手を引いて構えた黒子の姿があった。

 

「黒子!」

 

その動きに合わせて、火神が中へと走り込み、ボールを要求。黒子は火神目掛けて、ボールを加速させながら中継――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ビンゴ、ここだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

させようとしたその時、黒子と火神のパスコースの間に、空が割り込んできた。

 

「っ!?」

 

ミスディレクションで虚を突いはずの黒子。ボールを中継するより速くパスコースを塞がれ、眼を見開く。

 

「…っ」

 

黒子は加速する(イグナイト)パスを止め、ボールをキャッチした。

 

 

「テツ君の姿を捉えた!?」

 

桃井が声を上げて驚く。

 

 

「…さっきまでの視線はやはり、君でしたか」

 

黒子が空に対して言う。先程までの視線の正体が空であると黒子は断言した。黒子はボールを新海へと戻した。

 

「…やっぱり、こうなってしまったわね」

 

リコが苦々しい表情で呟く。黒子を投入してから、リコは空に注目していた。他の花月のメンバーが黒子の姿を見失っている中、空だけは黒子の姿をその目で追い続けていたのだ。

 

「どうして!? ミスディレクション破りの対策はしてきたはずなのに…!?」

 

河原が信じられないとばかりに声を上げる。

 

過去にも、黒子のミスディレクションに対応された事はある。パスコースから逆算したり、黒子の姿ではなく、黒子に対してパスを出す者の視線でその姿を見つけたり、鷲の目(イーグルアイ)や、鷹の目(ホークアイ)のような、俯瞰で黒子の姿を追ったりなど。その全てに対して対応策は講じてきた。

 

「ミーティングの時に黒子君が言ってたでしょ?」

 

「…あっ」

 

リコの言葉に、河原は昨日のミーティングでの事を思い出した。

 

『様々な人間を観察してきた事で分かった事があるんですが、極稀に、ミスディレクションの影響を受けにくい人がいます。夏合宿を見た限り、神城君などがそれに該当します。恐らく、彼には早々に姿を捉えられる可能性があります』

 

「…どうしますか。黒子を引っ込めますか?」

 

福田が指示を仰ぐ。リコは暫し考え…。

 

「いえ、現状、黒子君の姿を捉えているのは神城君だけだし、彼は火神君をマークしているからおいそれとはヘルプに出れないはずだから、このまま出すわよ」

 

リコは黒子を下げず、このままで行く決断をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(こいつ…、俺だけじゃなくて、黒子まで…)」

 

目の前で自分をマークする空に視線を向ける火神。

 

「(伊達に赤司に勝った訳じゃねえって事か。赤司が切れ者なら、こいつは曲者って所か…)」

 

読みと頭脳で相手を追い詰める赤司に対し、その場の閃きと嗅覚で追い詰める空。

 

「(だが、俺と黒子の両方同時に相手は出来ねえだろ。なら俺は…!)」

 

火神は外一杯に広がり、コーナーへと移動する。

 

「(黒子さんから距離を取ったか…)」

 

黒子から離れた位置に移動した火神の意図に気付いた空。自分を黒子から引き離す事で少しでも黒子に対応出来る時間を遅らせるのが狙い。

 

「…」

 

ボールをキープする新海。シュートクロックも残り僅か。オーバータイムとなる前に攻め手を定めたい。

 

「…」

 

ここで黒子が動く。自身をマークする生嶋をミスディレクションで視線を逸らし、その瞬間を狙ってフリーの位置に移動する。

 

「(来た!)」

 

黒子が動いたのをいち早く察知した空が黒子の下へ急行する。

 

「(神城も動いた! なら、火神さんがフリーになる!)」

 

空が黒子の動きに対応する。それはつまり、火神がフリーになると言う事。

 

「…っ!」

 

火神にパスを出そうとしたその時…。

 

「(させませんよ。黒子さんの動きは追えませんが、空の動きなら分かりますからね)」

 

空の動きに呼応し、大地が新海と火神のパスコースを塞いだ。その為、新海は火神へのパスを中断する。

 

「(構いません。僕に下さい)」

 

アイコンタクトでボールを要求する黒子。

 

「(頼みます!)」

 

それを受け、新海は黒子のパスを出した。

 

「…っ」

 

マークを引き剥がし、フリーとなった黒子が右手を引き、構える。

 

「(火神さんが動いた。…よし、間に合う!)」

 

黒子の動きに連動して動いた火神を視認した空は、ゴール下へ向かう火神と黒子の間へと右腕を伸ばす。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

掌打に構えた右手をボールに撃ち込み、加速させながらボールを中継させる。

 

「甘いぜ! パスは通さ――」

 

 

――バチィン!!!

 

 

「っ!!!」

 

パスコースに右手を割り込ませ、ボールのカットを狙った空。しかし、その右手は弾き飛ばされてしまう。

 

 

加速する(イグナイト)パス・廻!」

 

腕を弾き飛ばされた空を見た桃井が声を上げる。

 

「そのパスは、腕だけじゃ止めらねえぜ」

 

かつて、このパスに空同様、弾き飛ばされた経験を持つ青峰が呟く。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

空の腕を弾き飛ばしたボールはそのまま突き進み、ゴール下に走り込んだ火神の右手に収まる。

 

「らぁっ!」

 

そこからリングに向かって飛ぶ。

 

「させん!」

 

1番近い位置にいた松永がすぐさまブロックに飛んだ。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐあっ!」

 

しかし、火神はブロックなどお構いなしにそのままリングにボールを松永を吹き飛ばしながら叩きつけた。

 

 

花月 19

誠凛 17

 

 

『出た! 誠凛の魔法のパスからの火神のダンク!!!』

 

『パスもダンクも半端ねえ!?』

 

派手なプレーの複合に観客は沸き上がる。

 

 

「マツ、平気か?」

 

「…っ、大丈夫です」

 

松永の調子を確かめながら手を差し出す天野。松永は僅かに顔を顰めながらその手を取り、立ち上がった。

 

「いっつ…!」

 

同じく、空が顔を顰めながら弾き飛ばされた右手をヒラヒラさせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンス、空がボールを運ぶ。

 

「?」

 

花月ベンチの姫川、何か違和感を抱く。

 

「…」

 

ゆっくりボールを運びながらゲームメイクをしている。

 

「…っ」

 

何処か集中が欠けている…いや、何かを気にかけている(・・・・・・・・・・)様子の空。

 

「(まさか…!)…監督!」

 

ここで、姫川はそれを確信し、上杉に伝えるべく声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…っ!」

 

空に対し、距離を詰めて激しくプレッシャーをかける新海。

 

「(黒子さんおかげで流れはうちにある。ならば強気に仕掛ける!)」

 

好機と見た新海は積極的に空のボールを奪いにいく。

 

「…ちっ!」

 

前に出て来る新海に、空は露骨に表情を不機嫌なものに変える。

 

「(…ん? あいつ…)」

 

ボールを奪いに前にプレッシャーをかける新海をかわしながらボールをキープする空に何か気付いた火神。

 

「(さっきから、右手を全く使ってねえ(・・・・・・・・・・)…)」

 

そう、空はさっきから、ボールを前後に行き来させているが、不自然に左手のみでドリブルをしていて、右手を全く使っていないのだ。

 

「(そう言う事か!)…池永、お前も神城に当たれ!」

 

「あん?」

 

火神が指示を飛ばすと、池永が怪訝そうに声を上げる。

 

「良いから当たれ!」

 

再度火神が指示を飛ばす。

 

「(気付け、神城の違和感を!)」

 

尚も視線で訴える火神。

 

「(…っ、そう言う事か!)」

 

ここで火神の意図に気付いた池永が動き、空にダブルチームをかけた。

 

「おらおらおらおらぁ!!!」

 

「…ちっ!」

 

新海に加え、池永も激しくプレッシャーをかけ、ボールを奪いに来る。空は思わず舌打ちをする。

 

「どうしたどうした!? いつもみたいに抜いてみろよ! 出来るもんならな!」

 

不敵な笑みを浮かべながら挑発をする池永。

 

「調子に、乗ってんじゃねえ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

苛立った空はクロスオーバーで切り返しながらダブルチームを抜きさった。

 

「なっ!?」

 

「(野郎、右手は使えねえんじゃねえのかよ!?)」

 

まさかの左から右への切り返しに、2人は眼を見開きながら驚いた。

 

「残念だったな――っ!?」

 

してやったりの空の表情が次の瞬間、驚愕に染まる。

 

「…っ」

 

切り返した直後のボールに、黒子の右手が迫っていた。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

黒子の右手がボールを捉え、空の手から零れ落ちた。

 

「さっすが黒子先輩!」

 

ルーズボールを拾った池永。

 

「よっしゃ! これで同点――」

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

速攻をかけようとしたその時、池永と接触する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ディフェンス、プッシング、赤大地(6番)!』

 

接触した大地にファールが宣告される。

 

「てめえ…!」

 

「…っ、すいません」

 

速攻を阻まれ、思わず大地を睨む池永と謝る大地。

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『メンバーチェンジ!』

 

同時に、ブザーが鳴り、交代が告げられる。オフィシャルテーブルには竜崎が立っており、交代の対象は空。

 

「俺!?」

 

思わず自身を指差す空。

 

「今は下がって下さい。理由は、分かっているでしょう?」

 

不服そうな空の傍に歩み寄った大地がボソリと宥め、交代に従うように促す。その為に大地は時間を止めたのだ。

 

「…しゃーねーな」

 

渋々ながら空は了承し、交代に従った。

 

「…ん?」

 

コートの外へと移動しようとしたその時、竜崎の横に、降旗と朝日奈が立っており、誠凛も選手交代していた事に気付いた。

 

「(交代は、新海と…火神さん?)」

 

オフィシャルテーブルにて竜崎の横に立っているのは降旗と朝日奈。交代を告げられたのは新海と火神であった。

 

「…」

 

竜崎とハイタッチを交わしながらコートを出た空。その表情は怪訝そうなものであった。

 

「(新海の交代はまあ分かるが、何で火神さんまで…)」

 

チームの主将であり、精神的支柱であり、エースでもある火神を下げた意図が分からず、思わず誠凛ベンチに視線を向けた空。

 

「…フフン」

 

そこには、何やら意味深に笑みを浮かべるリコの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「右手、痛めたか?」

 

ベンチに戻った空に声をかける上杉。

 

「いえ、ボールに触れた瞬間にヤバいと思って咄嗟に手を引いたんで…、と言うか、わざわざ引っ込める程のものでも――」

 

右手をヒラヒラさせて健在ぶりをアピールする空。

 

「やせ我慢しないの。痛めてはいなくとも、まだ手の痺れは引いてないでしょ? だから、黒子さんのスティールをかわせなかったんじゃない」

 

「…っ」

 

姫川の指摘に、空は言葉を詰まらせる。姫川の指摘は的を射ており、ダブルチームを抜いた直後に狙われたとは言え、空は黒子のスティールに反応は出来ていた。だが、右手の痺れていたせいで、かわす事が出来なかったのだ。

 

「第2Qまでこのまま下げる。いいな?」

 

「…うす」

 

上杉の言葉に返事をする空。

 

「マッサージするから早く座って。…相川さん」

 

「はい♪」

 

「おぉっ?」

 

空をベンチに座らせて姫川は右手のマッサージを始める。呼ばれた相川が空のアイマスクのようなものを付け、空は思わず声を上げた。

 

「なんだこれ、温いな。…ていうかよ、これじゃ試合が見れねえよ」

 

仄かに暖かいアイマスクを装着されて抗議をする空。

 

「あの眼を使ったんでしょう?」

 

マッサージをしながら尋ねる姫川。

 

時空神の眼(クロノスアイ)は眼の負担が大きい。それは昨日の試合のあなたを見れば一目瞭然よ。少しでも回復させる為に、今は我慢しなさい」

 

「…バレてたか。ナッシュのおかげで一時的にだが使えるようになったが、結構ヤバいわ。迂闊に乱発出来ねえ」

 

時間にして2秒。眼を使った回数は2回。瞬間的に集中力を最大に高めた事で目と頭に負担がかかった事を自覚していた空。

 

「しばらくは使うのは控えるわ。…それより気になるのは誠凛交代だ。新海の交代はともかく、火神さんまで引っ込めるなんてな」

 

新海を下げた理由は偏に、スタミナ温存の為だろう。ここまで空に対し、全力で仕掛けて来た新海。このままハイペースで試合に出続ければ間違いなく最後までもたない。空が下がった今、休ませる為にベンチに下げた。火神も同様の理由だろうが、火神が下がれば大地に対抗出来る者がおらず、インサイドの弱体化にも繋がる。

 

「恐らく、自信があるのだろう。お前がいない今、例え、火神を下げても、少なくとも、今の点差を維持できる自信がな」

 

両腕を胸の前で組みながら口を挟む上杉。

 

「黒子さんか…」

 

その自信の源である黒子の名を口にする空。バスケ選手としてはかなり異色なプレーヤー。しかし、その実績は充分。

 

「改めて、見させてもらうぜ、幻の6人目(シックスマン)とやら実力をな」

 

胸のまで両腕を組んだ空。

 

「…いや、見えねえじゃん」

 

アイマスクのせいで何も見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「2人共お疲れ。2人に疲労が回復出来るものを」

 

「はい!」

 

リコがベンチに戻ってきた火神と新海に労いの言葉をかけると、テキパキと指示を飛ばす。

 

「…けど、新海はともかく、火神まで下げちゃって良かったんですか? いくら黒子を投入したからって、これだと、綾瀬をマーク出来る奴がいなくなるんじゃ…」

 

河原が火神を下げた事で起きる懸念を口にする。

 

「ある程度は覚悟の内よ。その穴はオフェンスで埋めるわ」

 

「オフェンスで…、つまり点の取り合いでって事ですか?」

 

「もちろんよ」

 

リコがニコリと笑みを浮かべながら返事をする。

 

「…大丈夫なんですか?」

 

不安そうな表情で福田が尋ねる。

 

誠凛はオフェンス重視のチームではあるが、それは花月も同様。しかも、同じくオフェンス重視の桐皇相手に攻め勝ち、鉄壁のディフェンスを誇る陽泉の絶対防御(イージスの盾)を貫く程のオフェンス力だ。その花月相手に、いくら空がいないとは言っても、こちらもキセキの世代と同格の資質を持つ火神がいない状態で戦うのはかなり不安が残る。

 

「お前ら、今日まで何を見てきたんだ?」

 

そんな不安を抱える2人に対し、火神が口を挟む。

 

「俺達が誠凛に来てから、黒子の凄さは嫌って程見てきただろ。あいつがいなかったら、一昨年のウィンターカップも、今年の夏も優勝出来なかった」

 

「「火神…」」

 

「見てろって。あいつは俺達の期待は裏切らない。俺達は、今コートで戦っている黒子とフリと、後輩達を信じて応援してやろうぜ」

 

そう言って、火神はニコッと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

花月が流れを掴み始めると、誠凛は黒子テツヤを投入し、たちまちスコアをシュート1本差にまで詰め寄った。

 

自身の影の薄さとミスディレクションを駆使して暗躍する黒子に対し、空が対応するも、黒子の加速する(イグナイト)パス・廻を止めようとスティールを試み、右手を弾き飛ばされた事で一時的に右手が使えなくなり、ベンチへと下がった。

 

同時に誠凛も火神と新海を下げ、スタミナの温存策を計る。

 

第1Qも残り僅か、期待を託された黒子テツヤ。

 

帝光中3連覇に貢献し、高校では誠凛を1年時にはウィンターカップ、3年時にはインターハイ制覇に導き、10年に1人の逸材、キセキの世代にも認められ、一目置かれた幻の6人目(シックスマン)が、花月に牙を向く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





この二次にしては珍しく、第1Qを長々と描写している気がする。普段はあっさり1話くらいで済ましているんですが…(;^ω^)

苦戦は主人公及び主人公チームの宿命ですが、その宿命から外れた原作主人公。屈指の実力者と屈指の搦め手を擁する誠凛。…ハードル爆上がりだぁ…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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