黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

入れたい事盛り込んだらめっちゃ長くなった…(;^ω^)

それではどうぞ!



第201Q~ウィンターカップファイナル~

 

 

 

「(…ズズズ)」

 

既に日は沈み、暗くなった夜道を空は歩いている。

 

花月の選手達は、誠凛対海常の試合を見届け、取材を終えてホテルに戻るとすぐにホテルの一室に集まり、決勝の相手である誠凛のスカウティングをした。スカウティングを終えると、空は散歩をする為にホテルを出ていた。

 

「(本調子ではなかったとは言え、あの海常を倒した誠凛…)」

 

道中で購入したホットミルクを飲みながら明日の相手である誠凛の事を考える空。

 

「(1番の問題は火神さんだ。マジであのジャンプ力は反則級だ。ひとたび飛ばれたらどうしようもねえ…)」

 

火神の代名詞であるジャンプ力と滞空力。スピード、パワー、テクニックであるなら、対策はいくらでも立てようがある。だが、高さだけは取れる対策が限られる。

 

「(後は、…黒子さんか…)」

 

空が火神と同等に警戒しているのが黒子テツヤ。幻の6人目(シックスマン)と称される元帝光中、現誠凛のシックスマン。

 

「(第4Qの勝負所で出てきて、事実上、海常にトドメを刺した準決勝の功労者だ)」

 

試合開始からパーフェクトコピーをも駆使して一気に点差を付け、そこで付けたリードを守り切る作戦に出た海常。限界を超えても尚、気力を振り絞り、第4Qまでは海常がリードしていた。だが、そこで黒子が出場し、試合をひっくり返した。

 

「(…ズズズ)」

 

ここで一口飲み物を口にする。

 

「……で、何で付いて来てんだ?」

 

空は後ろを歩く人物に話しかける。

 

「お目付けよ。目を離すと練習しかねないから」

 

問い掛けられた空の後ろを歩く姫川が答える。

 

「しねえよ。つうか、サンダルでする訳ねえだろ」

 

空は自身の足元を指す。空は現在、運動靴ではなく、サンダルを履いている。

 

「このクソ寒い時期にサンダルで外歩かせやがって。どんだけ信用ねえんだよ」

 

「ある訳ないでしょ。去年のインターハイの決勝前夜も止められるまで練習してたんだから」

 

文句を言う空に対してピシャリと一蹴する姫川。去年のインターハイ決勝戦の前も試合後に空は激しい練習していた。その前科があった為、姫川は外に出ようとする空に敢えてサンダルを履かせて、自身も後を追うように続いていたのだ。

 

「…それで、何を考えていたの? やっぱり決勝の事?」

 

「まあな」

 

尋ねると同時に姫川は空の横に並ぶ。

 

「誠凛でもっとも警戒すべきなのは火神さんと黒子さん。その中でもひと際不気味なのが黒子さんだ」

 

「…確かにね。黒子さんは今大会、スタメン出場はないし、試合出場時間もかなり短いわ。今日の試合でも終盤に出て試合の流れを完全に変えて見せた。海常も、既に疲労が限界を超えていた事もあって、完全に足が止まっていて対応が出来ていなかったわね」

 

今日の試合を思い出しながら語る姫川。

 

「(…姫川の言う通り、確かに海常は黒子さんに対応出来ていなかった。だが、それは疲労だけが原因なのか?)」

 

改めてミーティングで誠凛対海常の試合映像を見た空は、何か引っ掛かりを覚えていた。

 

「(誠凛の試合で黒子さんを見てから胸騒ぎ収まらねえ。何かとんでもない何かがある。俺の勘が告げて――)」

 

「あっ? てめえは!?」

 

「…ん?」

 

考え事しながら歩いていると、突如、声が聞こえ、空が声の方へ顔を向ける。

 

「…誰かと思えば、誠凛の池永と新海か」

 

空が振り返ったそこには、見知った顔がいた。

 

「おーおー、決勝前夜にデートかい? 良い御身分じゃねえの」

 

空の横に立っている姫川を見て茶化す池永。

 

「そんなんじゃねえよ。ただ散歩してるだけだ。姫川は勝手に付いて来ただけだ。つうか、お前らこそ夜遊びしてんじゃねえかよ」

 

茶化す口調の池永に鬱陶し気に返す空。

 

「そんな訳がないだろう。さっきまでミーティングをしていたんだよ。お前達に勝つ為にな」

 

「へー」

 

説明する新海に対し、返事をしながら飲み物を口にする。

 

「ようやくてめえらに借りが返せる時が来たからな。全中の屈辱、明日てめえらをズタボロにして晴らしてやる」

 

睨み付けながら告げる池永。

 

「あっそ、俺は終わった全中の事なんざ興味はないんでね。ま、頑張って」

 

手をヒラヒラさせながら他人事のように返すと、空はそのまま歩き始めた。

 

「あっ!? 待てよこのやろう!」

 

その態度に怒りを覚えた池永が空に詰め寄る。

 

「やめろ」

 

歩み出た池永を右腕を伸ばして止めながら制止する新海。

 

キセキの世代(先輩達)に勝った今、俺達なんて眼中にないって事か。それならそれでもいい。その油断と驕りが命取りになるって事を明日思い知らせるだけだ」

 

池永を抑えながら鋭い目付きで新海が告げる。

 

「さすが、その油断(・・)驕り(・・)で全中負けた奴が言うと重みが違うねー」

 

空が新海に自身に向けられた皮肉を返すように皮肉った。

 

「っ!?」

 

その言葉に、新海の顔が歪む。空が足を止めると…。

 

「言っとくが、俺は別にお前らを舐めてはねえよ。決勝で戦う相手のマッチアップ相手を知らなかったどっかの司令塔や、対戦校の名前すら知らなかったどっかの誰かさんと違ってな」

 

「「っ!?」」

 

その言葉に表情が引き攣る2人。

 

全中大会決勝の折、空は試合前に通路ですれ違った際に空を全く認知していなかった新海と、相手の学校名すら覚えていなかった池永を皮肉った。

 

「リベンジに燃えんのは結構だが、それに囚われてせっかくの決勝白けさせんなよ」

 

そう2人に告げ、空は踵を返し…。

 

「…あっ、後田仲によろしくー」

 

手をヒラヒラさせながらそう言い残してその場を後にしていった。

 

「…ちっ、腹立つ野郎だ」

 

空の物言いに頭に血が昇る池永。

 

「…同意見ではあるが、俺達とて、以前は同じだった」

 

「…っ」

 

顔を顰める池永。

 

「俺達がするべきは、誠凛に来て学んだ事を決勝であいつらに見せつける事だけだ」

 

「…ああ。目にモノ見せてやるよ」

 

池永は空が消えていった方角を睨み付けながら呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

「……なんだよ」

 

無言で歩く空と姫川。姫川のジトっとした視線を感じ取った空が声を掛ける。

 

「…別に、随分と性格悪くなったなって」

 

「先にかましてきたのはあいつらだからな。1度言い返してやりてえって思ってたんだよ」

 

依然としてジト目の姫川に弁解する空。

 

「さっきは終わった事とか言ってたのに、随分と根に持ってるのね」

 

「当たり前だろ。対等の相手に舐められたらムカつくに決まったんだろうが」

 

持っていた飲み物を一気に飲み干した空は数メートル離れたゴミ箱にシュート放つフォームで放り、入れた。

 

「一応言っとくけど、あいつらの事、舐めてたりはしてねえからな。全中でも手こずった相手だし、何より、火神さんと黒子さんだけで勝ち上がれる程、ウィンターカップは甘くねえってのは俺もよく分かってるからな」

 

「それが分かってるならいいわ」

 

聞きたかった言葉を聞けたので、姫川はこれ以上、この件への追及を止めた。

 

「…ねえ」

 

「…ん?」

 

暫く無言で歩いていると、姫川が口を開いた。

 

「1つ、聞きたい事があるんだけど」

 

「何だ?」

 

「あなたの夢って、何?」

 

「どうした? 藪から棒に」

 

「…別に、ただ気になっただけ」

 

空から疑問に、目線を逸らすように返す姫川。

 

「んなもん、決まってんだろ」

 

空は夜空を指差し…。

 

「NBA選手だ。NBAで俺の名が残るプレーヤーになる事だよ」

 

そう宣言し、ニカッと笑った。

 

「NBA…そう…」

 

「何だよ。無理だとか言うんじゃねえだろうな」

 

ジト目で聞き返す空。

 

「…いえ、ただ、羨ましいなぁって」

 

「羨ましい? ……っ」

 

そこまで口にして空は以前に姫川が話してくれた足の話を思い出す。

 

「…」

 

何処か悲し気に俯く姫川。

 

「選手だけがバスケじゃねえだろ」

 

「えっ?」

 

空の言葉に姫川は顔を上げて空の方を振り向く。

 

「監督とか指導者とか、バスケにいろんな関わり方があるんだ。案外、姫川は監督とか向いてんじゃねえの? 欠点とか見つけるの上手いし、練習メニューとか、試合の作戦とか、今では姫川もかなり関わってんだろ? 誠凛の監督だって女なんだし、目指してみたらどうだ?」

 

「監督…か」

 

空の提案に考える素振りを見せる姫川。

 

「…うん、考えてみる」

 

軽く頷きながら姫川は薄く微笑んだ。

 

それから2人共無言で歩いて行く。

 

「…とうとう、辿り着いたね、決勝」

 

「ああ」

 

口を開いた姫川。

 

「後1つ。明日も頑張って――いえ」

 

言いかけた姫川だったが、途中で止める。

 

「存分に暴れなさい、神城君」

 

ありきたりな言葉ではなく、空が好みそうな言葉に言い換えた姫川。空はニヤリと笑い…。

 

「おう!」

 

親指を立ててそう答えたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌朝…。

 

「っしゃ遂に来たぜ!」

 

夜が明け、ジャージに着替えた空が叫ぶ。

 

「まだ早朝なんですよ。声を抑えて下さい」

 

未だ時刻は早朝。同様にジャージ姿の大地が空を諫める。

 

「朝っぱら相変わらず喧しい奴やなあ」

 

「おはよう、くー、ダイ」

 

「フッ、気合い充分だな」

 

ホテルのフロント前、既に集まっていた天野、生嶋、松永が挨拶を交わす。

 

「3人共、はえーな」

 

「早くに目ぇ覚めてもうてな」

 

「居ても立ってもいられなくて」

 

「そういう事だ」

 

考える事が同じであった為か、自ずと表情が綻ぶ。

 

「軽く準備運動して、近くの公園に行こうぜ」

 

空を先頭に、ホテルの外へと出る5人。

 

「あっ、先輩達!」

 

「おはようございます」

 

「おはよう!」

 

「何だお前らもかよ」

 

外に出ると、竜崎、室井、帆足、菅野の4人が待ち受けていた。

 

「ハハッ、皆、考える事は同じって訳か」

 

選手達が勢ぞろいした事にニヤリと笑う空。

 

「やっと決勝まで来たんだぜ! 気合い入らねえ訳がねえよ!」

 

「声デカいねん。空坊がお前は」

 

気合いが入り過ぎてボリュームが大きくなった菅野を天野が諫める。

 

各々が準備運動を済ませると…。

 

「それじゃ、公園まで軽く走るとしますか」

 

「空、程々にですよ」

 

「分かってるよ」

 

大地が釘を刺し、空を先頭に選手達は公園までジョギングを始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「朝から元気いっぱいだね!」

 

選手達の出発の光景を見ていた相川がにこやかに感想を口にした。

 

「…ハァ。これから決勝戦だと言うのに」

 

呆れた表情で溜息を吐く姫川。

 

「お前達は準備を進めておいてくれ。俺は…、やれやれ、お目付け役をせんとな」

 

フッと苦笑した上杉は空達の後を追って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ※ ※ ※

 

 

――ざわざわ…。

 

 

場所は変わって、試合会場入り口前の広場。ウィンターカップ決勝戦の観戦の為、大勢の観客が期待に胸を高鳴らせながら会場に向けて歩いていた。

 

「スゲー賑わってんな」

 

「さすが、決勝、それも、キセキの世代にとって、高校最後のウィンターカップなだけあるな」

 

「懐かしいな。こうやってここに来ると、俺達(・・)代の決勝戦を思い出すよ」

 

同じく会場に向かっているのは、かつて、誠凛高校バスケ部に所属し、創部2年で全国制覇を成し遂げた、OB達であった。

 

「俺らの代が抜けて、正直、不安もあったけど、杞憂だったな」

 

日向が会場を見据えながら発言する。

 

「俺達の代で届かなかったインターハイを制して、今日勝てば、夏・冬の連覇だからな」

 

後輩達が達成した結果を頼もしそうに口にする伊月。

 

「…あれ? あれって、元桐皇の今吉と諏佐に若松じゃね?」

 

少し離れた場所を歩いている元桐皇の3人に気付いた小金井。

 

「さっき、海常の笠松とか、陽泉の岡村や秀徳の大坪も見かけたよ。もしかしたら、キセキの世代に関わった奴全員、今日の試合に見に来てるのかもな」

 

小金井の言葉を聞いて思い出した土田が会話に参加する。

 

土田の指摘は正しく、この会場にはかつて、自分達がしのぎを削り合った、キセキの世代が所属していた高校の選手達、OB、現役問わず、会場に集結していた。中には誠凛が戦った東京都の高校の選手達の姿もあった。

 

「しかしまあ、お前まで決勝を見に来るとは思わなかったけどな」

 

日向が、自身の横を歩く者へ話しかける。

 

「去年は結局、試合どころか日本に帰国する事も出来なかったからな。今日はその分も応援するつもりだ」

 

そこには、一昨年、誠凛のゴール下を支え、ウィンターカップ優勝に大きく貢献した木吉鉄平がいた。

 

「けど、決勝の相手がキセキの世代じゃないって事に1番驚いてるよ」

 

伊月が今日の対戦校を思い出す。キセキの世代を擁するチームは準決勝までに全て敗退している。

 

「普通ならラッキー! って、言いたいけど…」

 

「ああ。相手は、そのキセキの世代全てを倒した花月高校だ」

 

小金井の感想に、続いて補足しながら日向頷いた。

 

「最初の秀徳戦はまあ、作戦がハマったのと、多少の油断もあったのも大きいと思うけど、他は間違いなく、実力によるものだからな」

 

キセキの世代を擁するチームを撃破する事が如何に困難であるかは試合をした自分達が良く理解している。それだけに花月が成し遂げた偉業に驚いている。

 

「神城空、綾瀬大地。去年の夏は資質はあったが、実力はキセキの世代には届かなかった。今や、キセキの世代と同格の評価を得てるからな」

 

「俺達も無冠の五将を3人も擁した洛山や、キセキの世代とほぼ同格の氷室を擁した陽泉と試合したけど、キセキの世代クラスを2人も擁したチームとは試合した事なかったよな」

 

1人いるだけでもチームを優勝候補に押し上げるキセキの称号を持つ者。今回、その者達が2人もいるのだ。

 

『…』

 

決して容易ではない相手に表情が暗くなる元誠凛の選手達。

 

「…ん?」

 

その時、小金井の肩に手が置かれる。

 

「(…フルフル)」

 

振り返ると、水戸部がフッと笑みを浮かべながら首を横に振った。

 

「えっ、なになに? 心配はいらないって?」

 

言葉を発さないが、何を言いたいかを理解した小金井。

 

「水戸部の言う通りだ。後輩達ならきっとやってくれるさ。だから、俺達は精一杯応援してやろうぜ」

 

にこやかに木吉が言う。

 

「…だな。あいつらは俺達が成し遂げられなかった夏を制したんだ。今年の誠凛は、俺達がいた頃の誠凛を超えてるはずだからな」

 

表情を戻した日向。

 

「試合前に激励にでも行く?」

 

「いや、やめとこうぜ。きっと、試合に集中したいだろうからな」

 

小金井の提案を断る日向。

 

「けどまあ、何かメッセージだけでも送っとくか。さて、何と送るか…」

 

携帯を取り出した日向が操作を始める。

 

「長文で送るのもあれだから、シンプルにあれでいいんじゃないか?」

 

伊月が木吉を見ながらニコリと笑う。日向は伊月の意図に気付くとフッと笑い…。

 

「…だな」

 

携帯を操作し、メッセージを打って送信した。

 

「おいおい、何て送ったんだよ?」

 

送った内容に唯一分からない木吉が尋ねる。

 

「自分の胸に聞け」

 

敢えて答えず、日向はそのまま会場へと向かった。

 

 

――楽しんで行こうぜ。

 

 

ただこれだけを沿え、メッセージを送ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

沸き上がる試合会場。現在、コート上では海常高校と田加良高校による、3位決定戦が行われている。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

『っ!?』

 

黄瀬の豪快なワンハンドダンクが炸裂。その迫力に田加良の選手達も目を見開く。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

田加良、神原のゴール下からのシュートを三枝が叩き落す。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

氏原が得意のツーハンドリリースによるスリーを決め…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

司令塔である小牧が得意のドライブで中に切り込み、マークが集まるとそこからパス。

 

 

――バス!!!

 

 

小牧にディフェンスが集まった事でフリーとなった末広がゴール下から得点を決めた。

 

 

第2Q、残り3分45秒

 

 

海常  43

田加良 20

 

 

試合は完全に海常優勢で進んでいた。連戦による疲労の色も見られる海常だが、それでも試合は圧倒的であった。

 

『決勝、どっちが勝つかな?』

 

『誠凛だろ。あの火神は止められないって』

 

『花月だろ。何と言っても、あの洛山に勝ったんだからな』

 

ハーフタイムが近付くにつれ、観客の興味が決勝へと移っていく。キセキの世代不在の決勝戦。だが、それで熱は冷める事はなく、むしろ、共にキセキの世代全てを撃破したチームである為、関心が尽きる事はない。

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

ここで第2Qが終了し、海常、田加良の両選手、監督達が控室へと向かって行く。

 

『後半開始まで、10分間のインターバルに入ります。花月高校、誠凛高校は、アップを開始して下さい』

 

会場にアナウンスがされる。

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

同時に歓声が上がる。

 

『しゃす!!!』

 

花月、誠凛の両選手達がそれぞれのエンドラインに並び、同時に挨拶をし、コートに足を踏み入れた。

 

 

――バス…バス…!!!

 

 

両チーム、パスを出してから走り、中でボールを受け、レイアップを決める練習をしている。

 

『…』

 

黙々と練習を続ける花月、誠凛の選手達。

 

『(…ゴクリ)』

 

選手達の緊張感が観客にも伝わったのか、一部の者が思わず息を飲む。

 

「(さて…)」

 

淡々と練習を続ける選手達だったが、空が時間を確認する。

 

「っしゃ!」

 

空がパスを出して走り、リターンパスを受け、そのままリングに向かって飛ぶ。

 

「らぁっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままワンハンドダンクをリングに叩き下ろした。

 

 

『うぉーっ!!! 出た!!!』

 

空のダンクに沸き上がる観客。

 

 

「(続けよ)」

 

空がニヤニヤしながら次の大地に何やらジェスチャーする。

 

「(…ハァ、分かりましたよ)」

 

その意図に気付いた大地は胸中で溜息を吐きつつ頷き、パスを出す。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

空と同様、ワンハンドダンクを炸裂させる。

 

 

『今度は綾瀬だ!』

 

 

「しゃーないのう」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

その後、天野が続き…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

次いで、松永も続き、ボースハンドダンクを叩き込む。

 

「ムロもいったれ」

 

「分かりました、やってみます」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

天野に促された室井がボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

 

『スゲー!!! 5連続ダンク!!!』

 

立て続けに炸裂されるダンクに一気に会場が沸き上がった。

 

 

――ガン!!!

 

 

「やっべ!」

 

力が入り過ぎたのか、菅野がレイアップを外してしまう。

 

「オッケー任せろ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

零れ落ちるボールを空がそのまま叩き込んだ。

 

「試合前のデモンストレーションとしては充分だろ」

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

空がそう呟くのと同時に観客が沸き上がる。

 

 

「…ん?」

 

しかしここで、空は、歓声が自分達だけに向けられている訳ではないと言う事に気付いた。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

出されたパスを黒子が叩きながらリング付近へと浮かせる。

 

「よっしゃ!」

 

そこへ走り込み、空中でボールを掴んだ火神。

 

 

――スッ…。

 

 

同時にボールを股下から潜らせ…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そこからリングへとボールを叩き込んだ。

 

「こんなものか」

 

着地をした火神がニヤリとする。

 

 

『スゲー!!! 何だよ今の!?』

 

火神が魅せた大技に会場中が溢れんばかりの歓声に包まれた。

 

 

「空中でレッグスルーからのアリウープ。…なるほど、化け物か」

 

「そのようですね」

 

ニヤリと笑う空と大地だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

アップの時間が終わり、引き上げる花月と誠凛の選手達。

 

「同じコートに立つのは夏の合宿以来だな」

 

「そうですね」

 

そんな中、火神が空に声を掛けた。

 

「まさかとは言わないぜ。夏にお前らが陽泉に勝ったあの日から、この日が来ると思ってた」

 

「俺は、夏に誠凛が優勝した時、冬の決勝は誠凛だったら面白いなって思ってました」

 

火神の言葉に応える空。

 

「最高の決勝戦にしようぜ。そんで、勝つのは俺達だ」

 

火神と、その背後で誠凛の選手達が空達を見据える。

 

「もちろん。…だけど、1つ違うのは、勝つのは俺達だって事だ」

 

空と、背後の花月の選手達が誠凛の選手達を見据えた。

 

「それじゃ」

 

「後でな」

 

そう言葉を交わし、両チームは戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

その後もコートで行われている海常と田加良の3位決定戦。試合は既に第4Q中盤。海常が大量リードで進めている。

 

「(これで最後ッスか…)」

 

ベンチに座る黄瀬が胸中で呟く。黄瀬は第3Q開始してすぐにベンチに下がっている。三枝と氏原も同様にベンチに下がっており、コート上では2年生以外は控えの選手達が試合をしている。

 

「…」

 

黄瀬は海常に来てからの事を思い出す。先輩達と過ごした日々と、自身が主将を任されてからの事…。

 

「(…もう、終わりなんスね)」

 

海常の選手として役目も間もなく終わってしまう事に、黄瀬は胸に詰まるものを感じていた。

 

「…」

 

そんな黄瀬に視線を向ける監督の武内。

 

「…黄瀬、準備をしろ」

 

すると武内が、黄瀬に声を掛ける。

 

「…えっ?」

 

武内の言葉に思わず声を上げる黄瀬。

 

「三枝と氏原もだ。第4Q、残り2分になったら投入する。すぐに出られる準備をしろ」

 

続けて、三枝と氏原にも声を掛けた。

 

「「…?」」

 

武内に言葉の意図が分からず、首を傾げる三枝と氏原。試合は完全に海常優勢。もはや覆りようがない。自分達が出る必要性がないからだ。

 

「高校最後の試合終了のブザーは、ベンチより、コートの上で聞きたいだろ?」

 

そう言って、フッと笑みを浮かべた。

 

「「「…っ!」」」

 

その言葉に、この起用が、武内の粋な計らいである事に気付いた3人。

 

「ハッハッハッ! ありがたい限りじゃ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「…ハハッ、ご指名みたいッスから、行くとしますか」

 

3人はジャージを脱ぎ、準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! (海常)!!!」

 

試合時間、残り2分を切った所で、海常の選手交代。黄瀬、三枝、氏原がコート入りをする。

 

「おいおい、トドメ刺しにでも来たのか? 容赦ねえな」

 

苦笑する田加良の胡桃沢。その表情は絶望ではなく、何処か嬉しそうであった。

 

「高校最後の試合、存分に魅せるッスよ!」

 

コート入りをした黄瀬がチームを鼓舞したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

残り時間2分。黄瀬は最高のパフォーマンスを見せつけた。大量リードからの主力の再投入だが、それに付いて声を上げる者はいなかった。

 

『凄かったぞ黄瀬!』

 

『これからもキセキの世代(お前達)の試合、見に行くからな!』

 

コート上で試合をする黄瀬に観客から声援が贈られる。

 

「(ホントに、3年間、ありがとうッス!)」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

感謝の言葉と同時に繰り出される黄瀬のダンク。

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

同時に、試合終了のブザーが鳴った。

 

 

試合終了

 

 

海常  98

田加良 54

 

 

3位決定戦は、順当通り、海常の勝利で終わった。

 

『…』

 

センターサークル内で握手を交わし、健闘を称え合うと、両チームは、コートを去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

3位決定戦が終わると、始まるのは決勝戦。ウィンターカップの王者を決める試合が間もなく始まる。

 

それぞれのベンチに集まる選手達。試合が始まるその時を、今か今かと待ちわびている。

 

 

「…時間か、っしゃ行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

空の大声による檄に、選手達が同様に大声で応えた。

 

『誠凛ー、ファイ!!!』

 

『おう!!!』

 

続けて、誠凛のベンチからも火神の掛け声からの選手達の声が轟いた。

 

 

『試合に先立ちまして、両チームの紹介を行います』

 

会場にアナウンスが響き渡る。

 

『始めに、赤のユニフォーム。花月高校、コーチ、上杉剛三』

 

アナウンスがされると、上杉が立ち上がり、一礼をした。

 

『マネージャー、姫川梢』

 

同様に立ち上がり、姫川は一礼をした。

 

『続きまして、スターティングメンバーの紹介です。8番、松永透』

 

「…よし!」

 

紹介された松永は自身の顔を2回叩き、コートへと足を踏み入れた。

 

 

「3番から5番をこなせるユーティリティプレイヤー。今日のマッチアップ的に、出番は多いかもな」

 

観客席の元秀徳、支倉が口ずさむ。

 

 

『7番、天野幸次』

 

「今日もガンガンリバウンド取るでー!」

 

肩を鳴らしながら天野がコートに足を踏み入れた。

 

 

「リバウンドを取りまくる花月の心臓。誠凛は、如何にこいつを相手にリバウンドを抑えるか、だな」

 

元桐皇、若松がかつて戦った経験を思い出し、呟く。

 

 

『6番、綾瀬大地』

 

「さあ、行きましょう」

 

ゆっくりとコートに足を踏み入れる大地。

 

 

「外からでも中からでも点が取れるスコアラー。…ほんと、俺とやった時とは別人に強くなってんじゃん」

 

かつて、夏の決勝でマッチアップをした葉山が大地を見据える。

 

 

『5番、生嶋奏』

 

「今日も良い音鳴らすよ」

 

にこやかにコート入りをする生嶋。

 

 

「リズムが狂おうがバランスを崩そうが絶対に外さない、精度だけなら全国屈指。こいつのマークは絶対外せない」

 

対戦した経験を思い出しながら木下が呟く。

 

 

『4番、キャプテン、神城空』

 

「おっしゃ暴れるぜ!!!」

 

ぴょんぴょんと跳ねながら空がコートに足を踏み入れた。

 

 

「花月の起点。こいつを如何に抑えるかが花月を攻略するカギだぜ」

 

ニヤリとする秀徳の高尾。

 

 

『続いて、白のユニフォーム。誠凛高校、引率教諭、武田健司』

 

紹介を受けた初老の男性が立ち上がり、そっと一礼をした。

 

『コーチ、相田リコ』

 

紹介を受けたリコが立ち上がり、ペコリと一礼をした。

 

 

「一昨年のウィンターカップを制し、今年はインターハイを制した。もはや、名監督と呼んでも差し支えないな」

 

リコを見て、陽泉の監督、荒木がそう評した。

 

 

『続きまして、スターティングメンバーの紹介です。12番、田仲潤』

 

「(ここまでの練習の成果と経験を全部出すんだ!)」

 

緊張しながらも自らを奮い立たせ、コート入りをする。

 

 

「頑張れよ田仲ー!」

 

「星南魂、見せてやれ!」

 

会場に駆け付けた、かつてのチームメイト、森崎と駒込が田仲にエールを贈った。

 

 

『11番、池永良雄』

 

「おっしゃ、ぶっ潰すぞ!」

 

気合い一閃、池永がコートに足を踏み入れる。

 

 

「大ポカすんじゃねえぞ!」

 

「帝光の恥晒すんじゃねえぞ!」

 

「一応、応援してやっからな!」

 

同様に応援に駆け付けた、かつてのチームメイト、沼津、水内、河野が、野次のような声援を贈った。

 

 

『10番、朝日奈大悟』

 

「スー…フー…、行くぞ」

 

深呼吸をした後、コートに足を踏み入れた。

 

 

「高校バスケではあまり見かけない、フィジカルに長けたシューティングガード。パワーのミスマッチを突く場面は多そうだ」

 

洛山の二宮がマッチアップを見てそう断言する。

 

 

『9番、新海輝靖』

 

「(この日が来た。俺の全てを今日、出し切る!)」

 

静かに気合いを入れ、コートに足を踏み入れる。

 

 

「ある意味、今日のキーマンだ。何せ、相手はあの神城だからな。何も出来なきゃ、誠凛は負ける」

 

鳳舞の三浦が新海を見ながら呟く。

 

 

『4番、キャプテン、火神大我』

 

「…よし!」

 

火神が気合いを入れながらコート入りをする。

 

 

『キセキの世代と対等に戦った実力者!』

 

『飛ばれたらもう終わりだぜ!』

 

紹介を受けた火神に観客達が盛り上がるのであった。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:神城空  180㎝

 

5番SG:生嶋奏  182㎝

 

6番SF:綾瀬大地 185㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

8番 C:松永透  196㎝

 

 

誠凛高校スターティングメンバー

 

 

4番PF:火神大我  194㎝

 

9番PG:新海輝靖  183㎝

 

10番SG:朝日奈大悟 185㎝

 

11番SF:池永良雄  193㎝

 

12番 C:田仲潤   192㎝

 

 

紹介が終わり、両チームのスターティングメンバーが、センターサークル内に並んだ。

 

『これより、ウィンターカップファイナル、花月高校対誠凛高校の試合を始めます』

 

『礼!』

 

『よろしくお願います!!!』

 

アナウンスに合わせて審判が号令をすると、選手達が挨拶を交わした。

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

同時に、会場を観客達の歓声が響き渡った。

 

 

整列を終え、選手達が各チームのジャンパーを残して散らばっていく。

 

『っ!?』

 

ここで花月の選手達が目を見開いて驚く。

 

「…まさか、あなたが来るとは予想外でした」

 

「よろしくな」

 

苦笑する松永。誠凛のジャンパーはいつもの田仲ではなく、火神だった。

 

『…』

 

ジャンパーの間に立った審判がそれぞれ、交互に視線を向ける。

 

「「…」」

 

ジャンプボールに備える松永と火神。

 

審判がボールを構え、頭上に高くボールが上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ファイナルティップオフ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィンターカップの王者を決める戦いの火蓋が今、切って落とされた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





これでも一部削ったり、次話に持ち越したりしたんですが、それでも1万字を優に越してしまったorz

自身のボキャブラリーのなさに少し自己嫌悪しております…(T_T)

遂に試合開始、大まかな内容は決まってるも、細かい部分は未だ未定、次の投稿は未定となります。もしかしたら来週かもしれませんし、下手したら1ケ月後と言う可能性もあるので気長にお待ちいただければと思います…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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