黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

遂にゴールデンウイーク! …まあ、自分には関係ないんですけどね…(T_T)

それではどうぞ!



第198Q~期待(プレッシャー)

 

 

 

準々決勝、翌日…。

 

「ふわぁ…」

 

時刻は早朝、ジャージに着替えた空が欠伸をしながらホテルの外へとやってくる。

 

「随分と眠そうですね」

 

そこへ、続いて大地もやってくる。

 

「何か、スゲー目がシュパシュパする…」

 

細目にしながら返事をする空。

 

「昨日は終盤、あれだけ眼を行使しましたからね」

 

「ま、走ってりゃ、その内に治るだろ。…っし、準備運動を終えたらひとっ走り行こうぜ!」

 

「ええ、そうですね」

 

2人は屈伸運動や柔軟運動を一通り済まし、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ウィンターカップ、試合会場…。

 

 

――ざわ…ざわ…。

 

 

ウィンターカップ5日目。これより、決勝の椅子を賭けた準決勝が始まる。

 

 

第1試合 花月高校 × 田加良高校

 

第2試合 海常高校 × 誠凛高校

 

 

『今日の試合も目が離せないぜ!』

 

『何処が決勝に上がって来るかな?』

 

『1つは花月で決まりだろ。何せ、あの桐皇と洛山に勝ってるんだからな』

 

『注目なのは2試合目の誠凛対海常の試合か…』

 

『勝つのは海常だろ。キセキの世代の黄瀬に加え、あの紫原と対等にやり合った三枝がいるんだぜ。それ以外の選手だってレベルが高いし』

 

『誠凛だって、チーム全体のレベルなら引けを取ってない。控えも充実してるし、俺は誠凛を推すぜ』

 

今日も会場は観客席を埋め尽くす程の観客がやってきており、各々が試合結果を予想しながら今か今かと試合を待ち望んでいる。

 

 

『来たぞ!!!』

 

通用口から花月高校、田加良高校の両選手達がコート入りをする。

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

観客の1人が声を上げると、それに続くように他の観客達が歓声を上げる。

 

「おーおー、満員御礼やな」

 

割れんばかりの歓声に天野が笑みを浮かべる。

 

「…っしゃ、さっさとアップを始めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

空の号令と共に選手達が応え、コートに入り、試合前の始める。

 

 

『花月ー! 今日もスゲー試合を見せてくれよ!』

 

観客の1人が花月にエールを贈る。

 

「うわぁ…、凄い歓声…」

 

自分達に贈られる歓声を受け、相川が感嘆の声を上げる。

 

これから始まる第1試合。やはり、観客の目当ては花月高校。立て続けにキセキ撃破を果たしているだけに、注目度は高い。

 

「スゲー声援…」

 

「…っ」

 

自分達に向けられている観客の声援を受け、菅野は驚き、帆足は息を飲むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

観客席の通路の一角に、今日も会場に足を運んでいた青峰の姿があった。

 

「お前も来ていたか」

 

「…緑間か」

 

そこへ、同じくやってきた緑間が青峰に声を掛けた。

 

「桃井は一緒ではないのか?」

 

「さつきは何か学校の用事があるんだと。…つうか、何で俺に聞くんだよ」

 

緑間の質問に、ぶっきらぼうに答える青峰。

 

「…」

 

「…」

 

青峰の横に並び、コートへ視線を向ける緑間。

 

「…やはり、花月の注目度は高いな」

 

しばらく無言でコートを見つめていると、緑間が口を開いた。

 

「この歓声が、花月にとっての敵になり得なければ良いのだがな」

 

「…」

 

「第1試合、花月が負けると予想している者は恐らく1人もいないだろう。勝って当たり前が前提の声援は、場合によっては枷になる事もある」

 

緑間自身も、帝光中時代の2年目の全中大会で経験した事がある。前年度に全中制覇を果たし、その高い期待度からの声援が重圧となり、ある程度プレーに影響を及ぼした。

 

「花月にとって、ここまで期待を背負って試合をした事は恐らくない。舞台はウィンターカップの準決勝。花月は2年生主体の戦力。対して、田加良は3年生が主体の戦力な上、これほど期待が薄ければ開き直って試合に臨める。…一見、花月が安泰に見えても、不安要素はあるのだよ」

 

「…今更あいつらがその程度の事で躓くか?」

 

緑間が口にする懸念に苦言を呈す青峰。

 

「神城や綾瀬、本来のスタメンは問題ないだろうが、それ以外の者(・・・・・・)はどうかな?」

 

「…」

 

「杞憂であればいいのだがな」

 

眼鏡のブリッジを押し上げる緑間。青峰は返事をする事無く、コートに視線を向け続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合開始時間となり、花月、田加良両校のスタメンの選手達がコート中央へとやってくる。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:神城空  180㎝

 

6番SF:綾瀬大地 185㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

10番SG:竜崎大成 183㎝

 

12番 C:室井総司 188㎝

 

 

田加良高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:胡桃沢博 175㎝

 

5番SF:定岡正明 191㎝

 

6番PF:宮本琢朗 193㎝

 

7番CF:小野誠人 195㎝

 

8番 C:神原亮真 196㎝

 

 

花月は普段のスタメンを変更し、生嶋の代わりに竜崎。松永の代わりに室井をスタメンに抜擢された。

 

『遂に試合だ!』

 

『今日もスゲーの見せてくれ!』

 

これから始まる試合を前に、観客達は、主に花月への声援を贈っている。

 

「「…っ」」

 

その声援を受け、竜崎と室井の背中に、ズシリと重い何かが乗っかったような感覚が襲う。

 

「(凄いプレッシャーだ。帝光中時代とはまた違った…!)」

 

「(何だ…、声援を受けているはずなのに…)」

 

いつもなら力を与えてくれる声援が今日の2人にはある種の枷のようになっていた。

 

 

「これより、花月高校対田加良高校の試合を始めます!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

「よろしく」

 

「こちらこそ」

 

両校の主将である、空と胡桃沢が試合前の挨拶共に握手を交わす。

 

「人気者だな」

 

「おかげさまで」

 

「下馬評通りの試合にするつもりはないぜ」

 

「望む所です」

 

互いに不敵な笑みを浮かべながら挨拶を交わし、握手を交わした手を放した。

 

 

「…」

 

「…」

 

ジャンパーを残してセンターサークルの周囲に広がる選手達。花月のジャンパーは天野。田加良のジャンパーは神原。

 

「…」

 

2人の間に入った審判が両者を視線を向けた後、ボールを構え、高く放った。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「…っ!」」

 

同時に2人がボールに飛び付く。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

高く上げられたボールは2人が同時に叩く。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

2人に挟まれたボールが弾かれる。

 

「っと!」

 

零れたボールを竜崎が抑える。

 

「(よし、このまま行ける!)」

 

チャンスと見た竜崎はそのままドリブルを開始する。

 

「行かせるかよ」

 

「…っ」

 

スリーポイントラインを越えようとした所で胡桃沢が竜崎を捉え、立ち塞がる。

 

「(キャプテンや赤司先輩がいる事あって目立たないが、この人も全国でも指折りのポイントガード…)」

 

佐賀県代表、田加良高校の主将であり、佐賀ではナンバーワンシューターとも称される実力者。

 

「(いったんキャプテンに…いや、この人は高さも無いし身体能力もそこまででもない。ここは強気で…!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して竜崎は胡桃沢に対して仕掛ける。

 

「…っ」

 

体格差を生かして強引に切り込む竜崎。

 

「おぉっ!」

 

強引にゴール下まで切り込んだ竜崎がリングに向かって飛び、レイアップを放つ。

 

「…って、おい、行くな!」

 

何かに気付いた空が制止をかけたが一足遅く…。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

放ったのと同時にボールが後方から叩かれる。

 

「ゴール下からそう易々と決めさすかよ」

 

ニヤリと笑うブロックをした小野。

 

「速攻!」

 

ルーズボールを拾った胡桃沢がそのままドリブルを始める。

 

 

「普段なら、あいつはあんな考えなしに仕掛ける奴ではないんだがな…」

 

「うん。ちょっと冷静さを欠いてるかも」

 

竜崎の様子がおかしい事に、ベンチに座っている松永と生嶋が気付く。

 

この試合、昨日の疲労の為という理由もあるが、今日の相手がビッグマン揃いのチームである事から、生嶋の代わりに身長と身体能力で勝る竜崎を、身長こそ劣るが、身体能力で勝る室井をスタメンに抜擢した。

 

 

「…っと」

 

「通さねえぜ」

 

速攻を駆ける胡桃沢を、空が捕まえ、回り込んで立ち塞がる。

 

「…」

 

 

――ピッ!

 

 

ボールを止め、味方が攻め上がるのを待った後、胡桃沢はパスを出す。

 

「…っ、止める!」

 

ボールは竜崎の目の前の選手、定岡の手に渡る。

 

「(…ニヤリ)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

アウトサイドでボールを受けた定岡は、ニヤリと笑った後、ドライブを仕掛けた。

 

「(ビッグマンが小細工無しでドライブ!?)…舐めるな!」

 

前情報では、定岡はポストプレーを中心に点を取る選手であると頭に入れている竜崎。にもかかわらず、外からドライブを仕掛けられた事から自身が侮られている考え、激昂しながらコースに入る。

 

 

――ドッ!!!

 

 

「っ!?」

 

肩から身体をぶつけるような定岡の強引なドリブルを受け、竜崎は吹っ飛ばされてしまう。

 

「っ!? …くっ!」

 

そのままゴール下へ迫る定岡。それを見て室井がヘルプに飛び出す。

 

「アカン、出るなムロ!」

 

天野が制止をしたが遅く…。

 

 

――ピッ!

 

 

室井が迫っているのを確認した定岡はその裏側にパスを出す。

 

「ナイスパス!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

フリーでボールを受けた神原がボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

 

花月  0

田加良 2

 

 

『豪快なダンク!?』

 

『田加良の先取点だ!!!』

 

まさかの田加良の先取点にざわつく観客達。

 

「今の、ファールでは?」

 

直前の竜崎の転倒を見た室井が審判に詰め寄る。

 

「いや、ファールじゃないよ」

 

審判はただ首を横に振った。

 

「ですが…!」

 

「止めやムロ」

 

納得が行かず、再度詰め寄ろうとした室井の首に天野が自身の腕を回し、無理やり引き剥がした。

 

「ぶつかったのは肩や。あの程度の当たりやったら基本的に笛は吹かれへんねん」

 

「…っ、そうなんですか」

 

説明を受けた室井は平静さを取り戻す。

 

「言い方は悪いが、あの程度で吹っ飛んでまうタイセイが悪いねん。今後は俺がフォローしたるから。お前は自分の相手に集中せえ」

 

「…分かりました」

 

天野に言い聞かされ、室井はその場を離れていった。

 

「(…けどまあ、タイセイの身長とガタイやと、長身でゴリゴリに来る相手はキツイかもしれへんな…)」

 

苦い表情をしながらオフェンスへ向かう竜崎を見て、天野は胸中で呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

花月のオフェンス。空がゆっくりとボールを運ぶ。

 

 

『神城ー! 今日も魅せてくれよ!』

 

ボールを持つ空に対し、期待の声がかかる。

 

 

「1本、止めるぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

主将の胡桃沢が檄を飛ばし、他の選手達が大声で応えた。

 

田加良のディフェンスは、前を胡桃沢と定岡。後ろに宮本、神原、小野の2-3ゾーンディフェンス。190㎝オーバーの選手を4人も擁する田加良のディフェンス。

 

「さて…」

 

何処から攻めるか狙いを定める空。

 

「(…チラッ)」

 

ふと、空がリングへと視線を向ける。

 

「(っ!? 打つのか!?)」

 

すかさず距離を詰める胡桃沢。

 

 

――ピッ!

 

 

「っ!?」

 

胡桃沢が動いたの同時にその顔面横スレスレを高速で通過するボール。耳元をボールのカザキリ音が鳴り、目を見開く胡桃沢。

 

ボールは、ローポストに立つ室井に渡る。

 

「(…よし!)」

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

神原を背中で背負う形でボールを受けた室井。ポンプフェイクやステップを踏みながら崩しにかかる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

機を見て室井が仕掛ける。

 

「…甘い」

 

「っ!?」

 

しかし、小野は崩れる事無く、手を伸ばして室井の進路を塞ぐ。

 

「(…っ、だったら…!)」

 

ここでボールを掴んでフロントターンでゴール下まで躍り出る。

 

「(練習通りに…!)」

 

そこで室井はシュート体勢に入る。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールを頭上にリフトさせたその時、室井の持つボールが叩かれた。

 

「ゴール下で時間を掛け過ぎだぜ」

 

ニヤリと笑うのは、室井のボールを叩いた宮本。

 

「速攻!」

 

ルーズボールを拾った胡桃沢がそのまま速攻に走る。

 

 

『またオフェンス失敗だ!』

 

『おいおい、何やってんだよ!?』

 

『スタメンに戻した方がいいんじゃねえのか!?』

 

2回連続の花月のターンオーバーに、観客からある種の指示のような言葉が飛び交う。

 

 

「「…っ」」

 

その声は当然、対象である竜崎と室井の耳にも入り、表情が曇る。

 

「…っ」

 

フロントコートに侵入と同時に空が胡桃沢の前に立ち塞がり、足を止める。

 

「(もう追いつかれた。スリーで突き放して一気に流れを持っていきたかったんだが…)」

 

想定より遠い位置で足を止められ、空の足の速さに驚く胡桃沢。

 

「亮!」

 

すぐに切り替えた胡桃沢は、ローポストに立った神原にパスを出した。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ローポストでボールを受けた神原。その背後に室井。神原は室井に背中をぶつけ、ポストアップで押し込みにかかる。

 

「…ふん!」

 

室井はその場で踏ん張り、神原のゴール下への侵入を阻止する。

 

「(紫原さんや三枝に比べればパワーは大した事ない…!)」

 

その場で大地に根を下ろした大木の如く、神原を押し返す室井。

 

「(…なるほど、パワーは大したもんだ。その一点なら俺より遙かに上。…だが!)」

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

押し込む事を止めた神原はボールを掴み、フロントターンで反転しながら室井の背後へと躍り出る。

 

「させるか!」

 

これに反応した室井が同時に反転し、進路を塞ぎにかかる。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、室井が現れるのと同時に神原は再度反転。逆に反転して室井をかわし、ゴール下に侵入した。

 

「もらった!」

 

室井をかわした神原はそこで右手でボールを掴み、リングに向かって飛ぶ。

 

「(これで一気に流れを!)」

 

神原は右手のボールをリングに振り下ろした。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

ボールが振り下ろされる直前、そのボールが叩かれた。

 

『アウトオブバウンズ、(田加良)!』

 

そのままボールはラインを割った。

 

 

『うぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『神城スゲー!!!』

 

ダンクを阻止したのは空。身長差、16㎝を覆した空のブロックに会場が沸き上がる。

 

 

「(高さもそうだが、あの距離を一気に詰めて最高到達点に達するスピードと瞬発力も常軌を逸している…!)」

 

空の身体能力を目の当たりにし、驚愕する胡桃沢。

 

「すいません、助かりました」

 

失態の尻拭いをしてくれた空に頭を下げる。

 

「俺も、先輩の代わりを果たせなくて…」

 

同時に竜崎も頭を下げる。

 

 

――ドス!!!

 

 

すると、空は室井の脇腹に拳を突き入れ…。

 

 

――ドス!!!

 

 

同じのを竜崎の脇腹にも入れた。

 

「「っ!?」」

 

拳を突き入れられ、驚く2人。

 

「お前ら、何を相手にしてんだ?」

 

呆れ顔で2人を説く空。

 

「俺達の相手はこのコートの中にしかいない。外野の声なんかにいちいち気にしてんじゃねえよ」

 

「「…すいません」」

 

もっともな言葉に小さくなって謝る2人。

 

「室井は県予選の時の事を思い出せ。普段だって、松永を相手に練習してんだ。それを生かせ」

 

「はい!」

 

「竜崎。体格的にキツイだろうが、気合いでどうにかしてみせろ。少しでも時間を稼いでくれりゃ、俺か大地がどうにかする」

 

「は、はい!」

 

2人に指示を出す空。

 

「とりあえず、1本止めるぞ」

 

そう言い、空はディフェンスへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

田加良のリスタート。胡桃沢がボールをキープする。

 

「(…あの1年生コンビ、落ち着きを取り戻したか。…だが、俺達が勝つには、あの2人を崩して仕掛けなければ勝機はない。もう1回、崩れてもらうぜ)」

 

胡桃沢は定岡にパスを出す。

 

「(来た!)」

 

右ウィングの位置で定岡にボールが渡り、集中力を高める竜崎。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

再び、定岡がドライブを仕掛ける。

 

「…んが!」

 

歯を食い縛り、転倒しないよう踏ん張る竜崎。

 

「(…ちっ、簡単には抜かせてくれないか…!)」

 

「(ボールを奪うのは度外視だ。とにかく時間を稼いで、後は任せます!)」

 

強引に突破しようとする定岡、身体を張って耐える竜崎。

 

「正明、来てるぞ!」

 

胡桃沢が声を出す。

 

「っ!?」

 

その声で、空が自分に接近している事に気付く定岡。

 

「…ちっ!」

 

空に近付かれる前に定岡はボールを掴み、強引にジャンプショットを放つ。

 

「(リズムもシュートセレクションもバラバラ。外れる!)…リバウンド!」

 

外れると確信した竜崎が声を出す。

 

「(構わん! 外れてもリバウンドなら、こっちが有利!)」

 

インサイドと高さに自信がある田加良。多少強引であっても敢えて打ち、リバウンド勝負に持ち込む。それが田加良の戦術の1つであった。

 

 

――ガン!!!

 

 

目論みどおり、リングに弾かれるボール。

 

「ふん!!!」

 

気合いと共にスクリーンアウトでポジションを確保する室井。

 

「(こいつ! ボールを持ったプレーは拙いが、スクリーンアウトは上手い。しかも、パワーがある!)」

 

強引に…、あるいはテクニックを駆使してポジションを確保しようとした小野だったが、室井はそれをさせなかった。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「よし!」

 

室井がリバウンドを制した。

 

「ええぞムロ!」

 

「はい!」

 

称賛を贈る天野。ボールを確保した室井は空にパスを出した。

 

「さて…」

 

ボールを受け取った空はゆっくりとボールを運ぶ。

 

「(中は固い。そして、今は生嶋はいない…)」

 

ゾーンディフェンスは外から打って崩すのが定石の1つであるが、花月屈指のシューターである生嶋はベンチに座っている。

 

「まずは、風通しをよくするとしますか」

 

そう呟く空。

 

「(…来る!)」

 

空の纏う空気が変わった事に気付いた胡桃沢。空の仕掛けに十全の注意を払う。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速し、切り込んだ空。

 

「っ!?」

 

集中していたはずの胡桃沢。にも関わらず、あっさりと抜かれてしまう。

 

「囲め!」

 

中に切り込んだ空に対し、田加良ディフェンスはゾーンの収縮させ、包囲にかかる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

完全に包囲される前にスピンムーブで包囲網の隙間から抜け出す。

 

「っしゃ!」

 

包囲網を抜けた空がボールを掴んで飛んだ。

 

「ちっ!」

 

これを見た小野がブロックに飛ぶ。

 

 

――スッ…。

 

 

小野がブロックに現れると、空は手首のスナップを利かせ、ボールをふわりと浮かせる。

 

「っ!?」

 

ボールはブロックに飛んだ小野の手の上を超えながらリングへと向かい…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングを潜り抜けた。

 

 

花月  2

田加良 2

 

 

『あの包囲網を突破しやがった!?』

 

『神城必殺のフィンガーロールだ!!!』

 

ゾーンディフェンスを切り裂き、かわして決めた空に観客が歓声を上げる。

 

「すっげー…」

 

あっさりとビッグマン揃いのゾーンディフェンスを破り、驚く竜崎。

 

ここから、花月の勢いに火が付き始める…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空が再び田加良ゾーンディフェンスに対して仕掛ける。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ディフェンスをかわし、空が得点を決める。

 

 

「おぉっ!」

 

ハイポストでボールを受けた小野がポストアップで強引に押し込み、シュートを放つ。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「残念やったな。その程度じゃ点はやれんのう!」

 

したり顔で天野がブロックした。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

花月のターンオーバー。空が再度仕掛ける。

 

「来たぞ! 素早く包囲するんだ!」

 

胡桃沢の指示と同時に田加良ディフェンスがすかさず空の包囲にかかる。

 

「いいね。そうこなくちゃ!」

 

 

――ピッ!

 

 

ニヤリと笑い、囲まれる前に空がパスを出す。

 

「ナイスパスキャプテン!」

 

ボールは、スリーポイントラインのやや内側の竜崎に渡る。

 

『っ!?』

 

目を見開く田加良の選手達。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーでボールを受け取った竜崎は悠々とジャンプショットを決めた。

 

 

『うおぉぉぉっ!!! 花月のエンジンがかかってきた!!!』

 

花月の連続得点に沸き上がる観客。

 

 

『…くっ!』

 

苦悶の声を上げる田加良の選手達。

 

空を止められない。止めようと人数をかければパスを捌かれる。試合は、完全に花月のパターンにハマっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合はスタートの田加良のペースから一転、花月がペースを掴み取った。

 

 

第1Q、残り44秒

 

 

花月  25

田加良 10

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを運ぶ空が仕掛ける。

 

『…っ!』

 

突破を防ごうとディフェンスを収縮させる田加良ディフェンス。

 

「なんてな♪」

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

仕掛けるのと同時に足を止め、ステップバックでスリーポイントラインの外側まで下がり、スリーを放った。

 

『っ!?』

 

無警戒のスリー。ここでスリーを決められれば致命的な為、表情が曇る。

 

「…あっ」

 

 

――ガン!!!

 

 

声を上げた空。同時にボールはリングに弾かれた。

 

「おぉっ!」

 

リバウンドボールを定岡が抑え、田加良が窮地を凌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

ここで第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第1Q終了

 

 

花月  25

田加良 10

 

 

その後は双方得点が決まる事無く終わる。

 

「…ふぅ」

 

順調な花月に対し…。

 

『…っ』

 

早くも点差を付けられた田加良の選手達の表情は暗い。

 

「良い感じだな」

 

そう言って空にドリンクを渡す松永。

 

「おう」

 

返事と共にドリンクを空が受け取った。

 

「…空」

 

「…あん?」

 

水分補給をしている空に対し、大地が話しかける。

 

「第2Q、私にボールを回してくれませんか?」

 

「随分とやる気出してんな。どういう風の吹き回しだ?」

 

珍しく自己主張する大地に対し、ニヤリと笑いながら尋ねる空。

 

「あなたばかり仕掛け過ぎなんですよ。少しは私にも出番を下さい」

 

苦笑しながら答える大地。

 

「ハッハッハッ! エースはそうでなくちゃな。…良いぜ、ここからマークがきつくなりそうだし、任せるぜ」

 

空は了承したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第2Qが始まると…。

 

「…っと、そう来るよな」

 

空の目の前には胡桃沢と定岡が。田加良はチームの起点である空を潰しにかかった。

 

「そんじゃ、任せるぜ相棒」

 

そう言って、空は大地にパスを出した。

 

 

『来た!』

 

『次は綾瀬が来るか!?』

 

左ウィングの位置で大地にボールが渡り、盛り上がる観客。

 

 

「(第1Q、最後のスリー。あれだけ無警戒なら、普段のあなたなら決めていた。やはり、今日の空は本調子ではないようですね)」

 

薄々確信していた大地だったが、最後のスリーで疑念が確信へと変わった。

 

「(昨日はあなたにだいぶ負担をかけてしまいました。対して、私はエースとは名ばかりの活躍しか出来ませんでした。その汚名、ここで晴らさなければなりません)」

 

昨日の洛山戦、大地は自身の結果に満足しておらず、空に負担をかけ過ぎた事を気にしていた。

 

「(明日の為にも、空を休ませる為にも、この第2Qで決めてしまいましょう)」

 

ジャブステップを踏んで牽制していた大地がおもむろにスリーを放った。

 

「っ!?」

 

慌ててブロックに飛んだ小野だったが、大地のリリースが早く、ボールに触れず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

「しっかしスゲーな。よくあんなの決められたな」

 

いきなりのスリー…しかも、クイックリリースで決め、驚く空。

 

「どんどんボールを回して下さい。今日は、調子が良さそうなので」

 

空に対し、さらのボールの要求をする大地。その言葉通り、ここから大地が爆発が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

再びコート内にネットを潜る音が広がる。

 

ステップバックをする為に退いた足で後ろに飛びながらクイックリリースでボールを放つ大地。事前にドライブを仕掛け、直後にバックステップをして距離を取っているので、田加良のブロックは間に合わない。

 

 

――ガン!!!

 

 

「っ!? くそっ!」

 

胡桃沢もスリーをやり返すが、リングに嫌われる。

 

 

「綾瀬のスリーを意識し過ぎて肩に力が入り過ぎだ。あれでは入らないのだよ」

 

緑間が眼鏡のブリッジを押し上げながら呟く

 

 

第2Qは、大地が中心に得点を重ねていった。その姿はもはや蹂躙と言っても差し支えない姿だった。スリーを警戒すればそのまま中に切り込まれ、ドライブを警戒すればスリーを打たれる。空もいるので迂闊に人数をかける事も出来ず、田加良には為す術がなかった。そして…。

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

第2Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第2Q終了

 

 

花月  52

田加良 22

 

 

点差は試合の半分が終わった時点で既に30点差。更に伸ばしていた。

 

 

『スゲー、花月が強いのは知ってたけど、ここまで強かったのか…』

 

『田加良だって決して弱くはないはずだぜ?』

 

『とにかく神城と綾瀬が凄すぎるよ…!』

 

第2Q終了時点でのこの結果に観客もどよめいていた。

 

第1Q、空が起点となって流れを引き寄せ…、第2Qでは大地が爆発、このQだけで19点も決めていた。

 

 

「杞憂だったな」

 

「そのようだな」

 

試合を見ていた青峰と緑間。試合前の緑間の懸念は杞憂に終わった。

 

「決まりだな。後は…」

 

青峰と緑間は、ハーフタイムの練習の為にコートに来ていた誠凛と海常の選手達に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「順調そうッスね」

 

「ども」

 

控室に向かう花月の選手達。その途中、次の試合の練習にやってきた海常高校の選手達。その中の黄瀬が空に声を掛けた。

 

「決勝の相手は君らで決まりそうッスね」

 

「まだ分からないですよ」

 

確信を以て発現する黄瀬に対し、空は肩を竦める。

 

「神城っちとしては、うちらと誠凛、どっちに勝ち上がってほしいッスか?」

 

「そりゃ強い方に、ですよ」

 

ニヤリとそう答えると、空はそのままその場を後にし、他の選手達も後に続いた。

 

「期待通りの言葉っスね」

 

予想通りの空の回答に苦笑する黄瀬。ハーフタイム中のコートに、次の試合を戦う誠凛と海常の選手達が、練習を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

その後も花月の勢いは止まらなかった。

 

「1本、行きましょう!」

 

第2Q終了と同時に空がベンチに下がり、代わりにゲームを組み立てるのは竜崎。試合開始当初は浮足立っていたが、落ち着きを取り戻した竜崎は冷静にゲームメイクに努めた。第3Qが終了すると大地もベンチに下がり、その2人を除いたメンバーの総力戦で試合に臨む。

 

田加良も意地を見せ、得意のインサイドに加え、胡桃沢のスリーで追い上げを図るが、前半戦に付けられた点差は大きかった。そして…。

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

試合終了

 

 

花月  86

田加良 64

 

 

「っしゃぁっ!!! 決勝進出だぁぁぁっ!!!」

 

コート上の菅野が拳を突き上げる。

 

「やった!」

 

「おう」

 

生嶋と松永がハイタッチを交わす。

 

「よーやったで、タイセイ、ムロ!」

 

「はい!」

 

「うす!」

 

2人の肩に腕を回す天野。

 

「遂に決勝だ…」

 

ベンチに座る帆足は勝利を噛みしめていた。

 

『…っ』

 

対して田加良の選手達は、涙を流す者、悔しがる者、深く目を瞑る者と敗北の対して反応を見せていた。

 

 

「よし勝った! 後は…」

 

「どちらが相手になるか、ですね」

 

手を叩き合う空と大地。その視線を、決勝のもう1つの椅子をかけてこれから戦う、誠凛と海常の選手達にそれぞれ視線を移したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

控室で今日の試合の反省会をしている花月。

 

「…反省会はここまでとする」

 

「今日は随分と短いですね?」

 

早々に終わった反省会に空が思わず尋ねる。

 

「続きはホテルに帰ってからだ。…試合が気になるだろう?」

 

今、コート上では誠凛と海常が戦っている。勝った方が明日の相手になる為、気になるのは必然。その為、上杉は気を利かせたのだ。

 

「よっしゃー! そんじゃ、そうと決まれば!」

 

鞄を掴んだ空は我先にと部屋を後にしていった。

 

「元気だねぇ」

 

その空の姿に、呆れ顔で生嶋が囁いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

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・・・・

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

コートが一望出来る観客席へと走る空の耳に、ブザーの音が聞こえて来た。

 

「何だよ、走って損した」

 

観客席に辿り着くと、ちょうど第1Qが終わったばかりであった。

 

「……っ!? マジかよ…!」

 

視線をスコアボードに移すと、そこには空が驚く数字が表示されていた。

 

 

第1Q終了

 

 

誠凛  8

海常 24

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





花月の準決勝は一気に終わらせました!

準々決勝の海常対陽泉、特に誠凛対鳳舞の試合が想像以上に長くなってしまったので、かなり巻き増した。おかげでかなり文字数がかさみましたが…(;^ω^)

投稿ペースが再び安定してきましたが、何処まで続くか。…ネタさえ、あれば…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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