黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

朝は寒くて日中は暑い。早朝にストーブ、日中に扇風機と、おかしな事になってます…(;^ω^)

それではどうぞ!



第196Q~fake~

 

 

 

第3Q終了

 

 

誠凛 62

鳳舞 64

 

 

試合の4分の3を終え、鳳舞が2点リードで最終Qを迎えた。

 

 

誠凛ベンチ…。

 

「降旗君、河原君、福田君、良くやった!」

 

ベンチに戻ってきた選手達。第3Qの功労者とも言える3人をリコが労う。

 

「「「はい!」」」

 

褒められた3人は照れながら返事をする。

 

「おめーらやるじゃねえかよ!」

 

続けて池永も3人の傍に駆け寄り、労った。

 

「先輩だバカ野郎!」

 

「あいた!」

 

後輩らしからぬ物言いに火神が池永の頭を小突く。

 

「第3Q、文句の付けようがないわ。後は、残りの10分、全力に勝ちに行くのみ! 降旗君、河原君、福田君、改めて、良くやってくれたわ」

 

再度、3人に労いの言葉をかけた後、視線を2年生達に向ける。

 

「行くわよあなた達。先輩達がここまで頑張ったのよ。ちゃんとそれに応えなさい」

 

「はい!」

 

「もちろんです」

 

「応よ!」

 

落ち着くを取り戻し、3年生の奮闘で火が付いた3人が返事をする。

 

「…これで残りの心配事は、灰崎のキセキの世代の技だけですね」

 

残りの懸念を口にする降旗。

 

第2Q終了目前に11点あった点差を1点にまで縮められ、更に流れを鳳舞に明け渡すきっかけとなった灰崎のキセキの世代の技。まだ使用出来る時間が3分程、想定されている。

 

「その事はもう考えなくてもいいわ」

 

しかしリコは、強気の表情で首を横に振ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバル終了のブザーが鳴り、両チームの選手達が戻って来る。

 

 

OUT 降旗 河原 福田

 

IN  新海 朝日奈 池永

 

 

OUT 外園

 

IN  大城

 

 

誠凛、鳳舞共に選手交代を行い、双方、スターティングメンバーに戻した。

 

 

「1本、行くぞ!」

 

『おう!!!』

 

新海がボールを運び、人差し指を立てながら声を上げ、他の選手達が応える。誠凛ボールから第4Qが始まる。

 

「…」

 

ボールを運ぶ新海の前に三浦が立ち塞がる。鳳舞のディフェンスはこれまで通り、それぞれがマンツーマンでマークしている。

 

「(…行け!)」

 

「(…コクッ)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

朝日奈が三浦にスクリーンをかけ、それに呼応するように新海が仕掛ける。

 

「(ガードがスクリーン!?)…スイッチ!」

 

スクリーンに捕まった三浦がすぐさま指示を出す。

 

「任せろ!」

 

その指示を受け、東雲が新海を追う。スリーポイントラインを沿うようにコーナーへと切り込む新海。

 

「っ!?」

 

コーナーでボールを掴み、スリーの体勢に入る新海。これを見て、東雲がすかさずブロックに向かう。

 

「まずい、ミスマッチだ!」

 

ベンチから外園が叫ぶ。

 

マークが切り替わっても、新海と東雲の間には10㎝以上の身長差があり、既にシュート体勢に入った新海には届かない。

 

「…させん」

 

この状況を想定していた大城が既にヘルプに来ており、ブロックに飛ぶ。

 

 

――スッ…。

 

 

大城がブロックに現れると、新海はスリーを中断。ボールを下げ、腕を回しながらボールを中に入れる。

 

「ナイスパース!」

 

ハイポストでボールを受けた池永。

 

「いただき!」

 

すぐさまリングに振り返り、ボールを頭上にリフトさせる。

 

「野郎、打たせるかよ!」

 

打たせまいと鳴海が池永のヘルプに飛び出す。

 

「なんてな」

 

しかし、池永は頭上にボールをリフトさせただけで飛ばず、ボールを外へと放る。そこへ、朝日奈が駆けて来る。

 

 

――バチン!!!

 

 

朝日奈は来たボールを両手で弾くように再度、中へと入れる。

 

「あっ!?」

 

横を通り過ぎるボールを視線で追いながら思わず声を上げる鳴海。振り返ると、ゴール下まで移動していた田仲の手にボールが収まる。

 

 

――バス!!!

 

 

フリーでボールを受けた田仲が落ち着いてバンクショットを決めた。

 

 

誠凛 64

鳳舞 64

 

 

『おぉっ! 誠凛が早速連携を駆使して決めた!』

 

 

「よし!」

 

小さく拳を握って喜ぶ田仲。

 

「ドンマイ、取り返しましょう!」

 

スローワーになった鳴海からボールを受け取った三浦が声を上げ、ボールを運ぶ。

 

「っ!?」

 

フロントコートまでボールを運ぶの当時に立ちはだかった新海。

 

「(ここに来て凄いプレッシャーだ。動揺していたさっきまでとは大違いだ!)」

 

積極的にボールを奪うようにディフェンスをする新海。その気迫に圧倒される三浦。

 

「…くっ、大城さん!」

 

何とか隙間を縫ってハイポストに立つ大城のパスを出す。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大城がボールを掴むと、その背中に立つ池永。大城はポストアップで押し込み始める。

 

「…っ! だっらぁ! 入れさせねえぞ!」

 

歯を食い縛りながら侵入を阻む池永。

 

「…っ!?」

 

背中をぶつける大城だったが、一向に押し込む事が出来ない。

 

「ちっ」

 

仕方なくボールを三浦に戻す。

 

その後もボールを回してチャンスを窺うも、ことごとく誠凛のディフェンスに阻まれる。

 

「…っ」

 

ボールをキープしている東雲の表情が曇る。

 

「…」

 

朝日奈は東雲から距離を取り、それにプラスして東雲より体勢を低くして守っている。

 

「ヤバい時間! 24秒!」

 

シュートクロックが残り数秒となり、ベンチの外園が知らせる。

 

「…くっ」

 

仕方なく東雲はスリーを放つ。

 

 

――ガン!!!

 

 

しかし、放たれたボールはリングに弾かれた。

 

「おぉっ!」

 

「くっ、てめえ…!」

 

リバウンドボールを、鳴海を抑え込んだ田仲が抑える。

 

「速攻だ!」

 

「頼む!」

 

田仲がリバウンドを制した同時に前へと走る新海。すかさず田仲が新海へ縦パスを出す。

 

「行かせるかよ!」

 

ワンマン速攻を駆ける新海の横を並走しながら追いかける三浦。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

新海はスリーポイントライン目前でビハインドパスでボールを横に流す。

 

「ナイスパース、っしゃぁっ!!!」

 

次いで駆け上がった池永がボールを受け取り、そのままドリブルを開始する。

 

「行かせん」

 

その横を大城が並走する。

 

「関係ねえ、行くぞ!」

 

フリースローラインを越えた所で池永がボールを右手で掴んでリングに向かって飛ぶ。

 

「舐めるな!」

 

これに合わせて大城もブロックに飛ぶ。

 

「どけぇぇぇぇぇ―――――っ!!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ブロックもお構いなしに池永は大城にぶつかりながらも右手のボールをリングへと振り下ろした。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に審判が笛を吹く。

 

『ディフェンス、プッシング、大城(黒4番)、バスケットカウントワンスロー!』

 

「っ!?」

 

審判がディフェンスファールをコールすると、目を見開きながら審判に振り返る大城。

 

 

『うおぉぉぉっ!!! 捻じ込んだ!!!』

 

『しかもバスカン! 3点プレーだ!!!』

 

派手なダンクに盛大に沸き上がる観客。

 

 

「っしゃぁっ!!!」

 

歓声に応えるように右拳を突き上げる池永。

 

「やった!」

 

「よーし!」

 

「良いぞ、池永!」

 

ベンチの降旗、河原、福田も立ち上がりながら喜んだ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリースローも無事決め、3点プレーを成功させた。

 

 

『誠凛! 誠凛!』

 

派手なダンクからのバスカンに、観客も誠凛ムードに沸き上がる。

 

「…っ」

 

ボールを運ぶ三浦。流れが誠凛に傾いてる事を受け、表情が曇る。

 

「(こうなったら…!)…頼みます!」

 

意を決して三浦がパスを出す。

 

 

「おっ? 来たな」

 

ボールの先を見て、空が呟く。

 

 

「…」

 

ボールを受けた灰崎。

 

「…来いよ」

 

立ち塞がるのは火神。

 

 

「この状況でのエース争いは、勝敗に直結するかもしれませんね」

 

2人の勝負の重要性を解く大地。

 

 

ステップを踏みながら牽制する灰崎。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

仕掛ける灰崎。レッグスルーを2度繰り返した後、スピンムーブ、瞬間、自身の股下からボールを放り、さらに火神の股下を通し、そのまま背後へと駆け抜けていった。

 

「止める!」

 

直後、田仲がヘルプに飛び出し、灰崎の前に立ち塞がる。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

灰崎は田仲の目の前で立ち止まり…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ロッカーモーションで抜きさった。

 

 

『おぉっ!』

 

火神と田仲を抜きさり、観客が沸き上がる。

 

 

同時にボールを右手で掴んでリングに向かって飛び、そのままリングに振り下ろした。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールがリングに叩きつけられる瞬間、右手で掴んだボールが叩き出される。

 

「火神さん!」

 

ブロックしたのは火神。

 

「野郎、一瞬立ち止まった隙に…!」

 

鳴海が思わず叫ぶ。田仲を抜く際に僅かに立ち止まった隙に火神が追い付いたのだ。

 

「速攻だ!」

 

ルーズボールを拾った新海が声を出し、そのまま速攻に走った。

 

「戻れ! 止めるんだ!」

 

大城がディフェンスに戻りながら叫ぶ。

 

第4Q開始早々に2度のオフェンス失敗。ここを止めなければ流れを完全に誠凛に持って行かれてしまう。

 

「行かせるか!」

 

先頭を走る新海の横を並走する三浦。

 

「突破させてもらう!」

 

並走する三浦をものともせず、強引に突破する新海。

 

「おぉっ!」

 

フリースローラインを越えた所で新海がリングに向かって飛ぶ。

 

「させるかぁぁぁっ!!!」

 

そこへ、追い付いた鳴海がブロックに飛んだ。

 

 

――ガン!!!

 

 

強引にレイアップを放った新海。しかし、鳴海のブロックが功を奏し、ボールはリングに嫌われる。

 

「やった!」

 

レイアップが外れ、喜ぶ外園。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

リバウンドを抑えたのは田仲。

 

『っ!?』

 

これに、鳳舞の選手達の表情が曇る。

 

 

――スッ…。

 

 

リバウンドボールを抑えた田仲がそのままシュート体勢に入る。

 

「っ!? おぉっ!?」

 

着地した鳴海がすかさずブロックに飛ぶ。

 

「っ!?」

 

しかし、田仲はボールを頭上にリフトさせた所でボールを止める。フェイクである事に気付いた鳴海の表情が驚愕に染まる。

 

 

――バス!!!

 

 

鳴海のブロックをずらした田仲は落ち着いてゴール下からバンクショットを決めた。

 

「やった!」

 

拳を握って喜ぶ田仲。

 

「よく決めた!」

 

火神が駆け寄り、田仲の頭に手を乗せながら労った。

 

『…』

 

開き始めた点差を受けて、鳳舞の選手達の表情が曇る。

 

 

「再び開き始めたな」

 

試合を見届けていた上杉が口を開く。

 

「もともと、チームの総合力は誠凛の方が上だった。灰崎によって点差は引き戻されたが、それでも1度は11点まで広げていた」

 

『…』

 

「織田さんの采配と流れの勢いを利用してここまで何とか食らいついて来たが、ごまかし(・・・・)が通用しなくなれば、文字通り力の差がそのまま点差に直結する」

 

『…』

 

「浮足立っていた誠凛の2年生達も落ち着きを取り戻した。このまま誠凛が押し切るかもしれないな」

 

上杉が断言したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

上杉の言葉通り、誠凛が押し始めた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

朝日奈がジャンプショットを決め…。

 

 

――バス!!!

 

 

続くように田仲もゴール下から決める。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

鳳舞の攻撃は、ブロックされてしまう。

 

完全に誠凛が試合の流れをものにしていた。

 

 

第4Q、残り4分20秒

 

 

誠凛 79

鳳舞 68

 

 

『点差が開き始めた!』

 

『これはもう決まったか!?』

 

開いていく点差を見て、観客も試合の行方を予想し始めていた。

 

 

『…っ』

 

タイムアウトを取ろうと、策を講じようと、開いていく点差を縮められず…。

 

「…っ」

 

果ては、エースの灰崎さえも抑えられ、鳳舞の選手達の表情は少しずつ曇っていた。

 

 

――ガン!!!

 

 

「…あっ」

 

再び試合に出場した外園が放ったスリー。しかし、そのスリーもリングに嫌われ、その表情に焦りが見え始めた。

 

「踏ん張れ!」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

始まるのはゴール下でのリバウンド勝負。リバウンド争いを制したのは、大城だった。

 

「(こいつ…!)」

 

「っ!?」

 

身長では勝っている池永と田仲。リバウンド争いを制した大城に驚く2人。

 

「おぉっ!」

 

着地と同時に再び飛び、シュートを放つ大城。

 

 

――バス!!!

 

 

ブロックに飛んだ池永だったが、大城は強引に得点を決めた。

 

「耐えろ! 今は耐えるんだ! ここを耐えれば、後は灰崎が決めてくれる!」

 

気落ちしている選手達を励ますように大城が鼓舞する。

 

「っ!?」

 

その言葉に、灰崎が目を見開いた。

 

大城は鳴海のように灰崎に食って掛かったりしないが、内心では自分を快く思っていない事は灰崎も理解していたからだ。

 

「出来るよな灰崎?」

 

灰崎に振り返った大城が尋ねる。

 

「出来ないならコートを出ろ」

 

「…ハッ! 誰にモノ言ってんだよこの下手くそがよ」

 

そんな大城に対し、不敵な笑みを浮かべながら返す灰崎。

 

この2人のやり取りを受けて、他の選手達も落ち着きを取り戻したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

誠凛ペースで始まった第4Q。劣勢の中、鳳舞も土俵際さながらの粘りを見せる。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

試合終盤で拾うも色濃く出る中、鳳舞の奮闘により、両チームのスコアは凍り付いたように動かない。そして…。

 

 

第4Q、残り3分2秒

 

 

誠凛 79

鳳舞 70

 

 

『(来た!!!)』

 

大望の時間がやってきて、表情が明るくなる鳳舞の選手達。

 

残り時間3分となり、9点リードで試合を迎えていた。

 

「灰崎さん!」

 

ボールをキープしていた三浦が灰崎にパスを出す。

 

「ここまで随分と調子に乗ってくれたじゃねえか。今度はこっちがその余裕な面を変えてやるよ」

 

不敵な笑みを浮かべながら目の前に火神に灰崎は告げたのだった。

 

 

「残り時間3分。ここから灰崎がキセキの世代(みんな)の技を使って来る。さっきは2分で10点も点差縮めたから、もしかしたら――」

 

「…寝言言ってんじゃねえぞさつき」

 

横で考えられる可能性を口にする桃井。その横で青峰が気怠そうに口を挟んだ。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

独特のリズムでハンドリングを刻む灰崎。

 

 

『出た!!!』

 

『このムーブは青峰のストリートのバスケだ!!!』

 

披露した青峰の技術に、観客が歓声を上げる。

 

 

――スッ…。

 

 

左右に高速で切り返したの同時にボールを掴んでシュート体勢に入る灰崎。上半身を後方に倒しながらボールをリリースした。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

しかし、そのフォームレスシュートは、火神によってブロックされた。

 

 

「俺の技が、あんなとれーはずがねえだろ」

 

青峰がそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「止めた!?」

 

火神のブロックを見て、松永が驚く。

 

「そう言えばさっきくーは、勝負あったって言ったよね。あれってどういう意味なの?」

 

第3Q終了と同時に呟いた空の言葉を覚えていた生嶋が尋ねた。

 

「どういう意味も何も、…なあ大地、第2Q終了目前にキセキの世代の技を使った灰崎。お前、止められるか?」

 

質問を受けた空が、隣の大地に尋ねた。

 

「…直接やり合った訳ではないので、想像の域を出ませんが、ここから見せていただいた感想を言わせていただくなら、止められないイメージ(・・・・・・・・・・)は抱きませんでした」

 

『っ!?』

 

その回答に、周囲の花月の選手達は驚愕した。

 

「だよな」

 

その回答に頷く空。

 

「ホンマかいな…」

 

「だってあいつの技は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「さっきも思ったが、確かに今の動き、青峰にそっくりだぜ。初めてやり合った時の青峰(・・・・・・・・・・・・)の動きに、な」

 

「…っ」

 

着地と同時に灰崎に告げる火神。

 

「…っ」

 

ルーズボールを抑えた三浦。そこからボールを回しながら機を窺う鳳舞。

 

「灰崎さん!」

 

東雲がパスを出す。スリーポイントラインから2m程離れた位置に移動した灰崎に。

 

 

――スッ…。

 

 

ボールを受け取ったのと同時に沈み込み、シュート体勢に入った灰崎。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「今度は緑間か。だがな、そんなタメが長すぎる上に打点も低いシュートなんざ、打たせる訳ねえだろ」

 

これも火神にブロックされてしまう。

 

 

『うぉぉぉぉぉーーーーっ!!! 火神が連続で止めたぁぁぁっ!!!』

 

火神の連続ブロックに驚きを隠せない観客。

 

 

――バス!!!

 

 

ルーズボールを拾った新海。鳳舞最後方の灰崎がブロックされた為、誰も追いつけず、新海はそのまま速攻を駆け、レイアップを決めた。

 

 

誠凛 81

鳳舞 70

 

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

キセキの世代の技を使った灰崎を連続ブロック。からの得点に観客が沸き上がった。

 

直後の鳳舞のオフェンス。

 

「寄越せ!」

 

インサイドにポジションを取った灰崎がボールを要求する。

 

「…クソが!」

 

ボールを受けた灰崎。そこから回転しながらリングに向かって飛んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

回転のエネルギーを利用した紫原の破壊の鉄槌(トールハンマー)。両手で振り下ろされたダンクを、火神が両手でブロックした。

 

「話にならねえよ!」

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかしこのダンクも、火神にブロックされてしまう。

 

「パワーが全然足りてねえよ」

 

着地した火神が告げる。

 

「青峰は辛うじて見所があったがよ、緑間と紫原のは話ならねえ。赤司のは、使ってこねえ所を見ると、盗む事も出来ねえようだな」

 

「っ!?」

 

この指摘に、目を見開く灰崎。

 

「お前の技は、本物(オリジナル)には遠く及ばねえ。黄瀬の模倣(コピー)にもだ。お前のそれは、ただの紛い物だ。何を使って来るか予測出来ない俺でさえ止められる程度のな」

 

そう告げ、火神はオフェンスへと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…っ』

 

鳳舞の士気は完全に低下していた。灰崎のキセキの世代の技が連続で止められ、最後の望みの綱が断たれた。もはやこの劣勢を覆しようがない。

 

「…」

 

ボールを受けた灰崎。しかし、その表情には余裕がない。

 

「(…結局は俺は、紛い物でしかなかったって事かよ…!)」

 

怒り込み上げる灰崎。思い出すのは、帝光中時代に赤司に告げられた言葉。

 

『お前は黄瀬には勝てない』

 

その言葉通り、2年前に黄瀬と戦い、そして負けた。

 

「…っ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

仕掛ける灰崎。火神もこれに追走する。

 

「(もうどうなろうが…!)」

 

灰崎の目の色が変わった。

 

 

「(まさかあの野郎!)」

 

この変化に、青峰がいち早く気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「っ!?」

 

ベンチの東雲が目を見開く。

 

鳳舞のメンバーの中でも、比較的、灰崎と接する機会が多かった東雲。主に遣いパシリばかりで良い事ばかりではなかったが、それでも、灰崎が何をしようとしているかを何となく察する程度には理解していた。

 

「(まさか…!?)」

 

東雲は隣に座る織田に振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

仕掛けた灰崎に対し、遅れる事無くディフェンスをする火神。それでも灰崎は強引に1歩踏み出す。

 

「(っ!? こいつ…!)」

 

ここで火神が気付く。灰崎の踏み出した足が、自身の左足に向かっている事に。

 

「…くっ!」

 

かつて、2年前に黄瀬と戦った灰崎は追い詰められ、苦し紛れに黄瀬の足を狙い、負傷した足をさらに悪化させていた。これを思い出した火神が慌てて左足を引く。

 

「(もう遅えよ。このままぶっ潰して――)」

 

 

――キュッ!!!

 

 

踏み込んだ灰崎。その足は火神の左足の上……ではなく、その奥に踏み込まれた。

 

「…なっ!?」

 

自分の足を狙ってくると思っていた火神は驚く。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そのままリングへと突き進む灰崎。

 

「しまった!」

 

狙われていると思って足を引いていた火神は体勢が悪く、追いかける事が出来ず…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのまま灰崎はボールをリングに叩きつけた。

 

 

『おぉぉぉぉー--っ! 灰崎がやり返した!』

 

今のプレーで何が起こっていたか分からない観客はただただ火神をかわして決めた灰崎に驚く。

 

 

「(フェイクだったのか?)」

 

てっきり足を狙って来ると火神は予想したが、その予想が裏切られ、拍子抜けする。

 

「…っ」

 

表情を歪めた灰崎は、脇目をふらず、ディフェンスへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…ふぅ」

 

想像していた最悪の行動を取らなかった灰崎を見て、ホッと胸を撫で下ろす東雲。

 

「大丈夫だよ」

 

そんな東雲に対し、隣の織田が東雲の肩に手を置いた。

 

「灰崎君は、君の考えているような事はしない。絶対にね」

 

ニコリと笑いながら告げる織田。

 

「さっき言ったけど、灰崎君は、インターハイで負けてから、僕の課した練習メニューを全てこなした。それだけじゃない。彼は練習後に自主的にトレーニングもしていたんだよ」

 

「えっ!? あの灰崎さんがですか?」

 

この言葉に、東雲は驚いた。

 

「驚くのは無理がないよねー。影の努力が1番似合わないだろうからね」

 

その反応にケラケラ笑う織田。

 

「それだけインターハイの敗北が悔しかったんだろうね。それまではサボりも目立った灰崎君だったけど、怪我が治ってから僕のメニューにプラスして自主トレもするようになった。今の灰崎君は他のみんなと同じ、バスケットボーラーの血が流れてる。真のバスケットボーラーは卑劣な事も卑怯な事もしない。だから、安心していいよ」

 

そう優しく東雲に告げた。

 

「…」

 

とてもではないが信じられる言葉ではなかったが、織田の言葉には信じられるだけの重みがあった。

 

全国各地から集まった鳳舞のメンバー。粒揃いではあったが、結成当初は纏まりがなく、灰崎と鳴海は顔を合わせれば衝突し、大城も、そんな2人に怒りを露にする場面も多々あった。全国出場どころか試合すらままならないこのチームを纏め上げ、全国でも勝てるまでのチームにしたのが鳳舞の監督になったこの織田だった。そんな織田が言った言葉である為、東雲の中の不安は拭い取られたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(どうして踏まなかった…!)」

 

自問自答する灰崎。

 

最後の切り札であったキセキの世代の技は通じず、鳳舞がここから逆転するには、火神を潰すしかない。先程も、気付くのに遅れた火神の足を狙うのは容易であったし、審判の目も出し抜ける自信もあった。

 

「(なのに何故!?)」

 

ここで、灰崎の脳裏に、息を切らす自分の姿が浮かんだ。

 

織田の出されたメニューを文句を言いながらこなす自分。そして、暗くなった夜道で走り込みをしている自分の姿が…。

 

「まだ追い付けるぞ! 三浦、灰崎にガンガンボール回して行け!」

 

「は、はい!」

 

「鳴海、灰崎のフォローしろ!」

 

「…ちっ! 分かったよ!」

 

その指示に、嫌々ながらも了承する鳴海。

 

「外園、もっと積極的にスリー打ってけ! 外しても俺が絶対拾う。ディフェンスを外に広げろ!」

 

「はい!」

 

必死に指示を飛ばしながらチームを鼓舞する大城。

 

「…っ」

 

その光景を見て、これまで抱いた事のない感情に支配される灰崎。

 

帝光中時代は、1年目に全国制覇をしたが、後にキセキの世代と呼ばれる実力者が4人もいた為、自分1人が頼りにされる事はなかった。福田総合では、その実力を信用はされていたが、信頼はされていなかった。

 

「…」

 

決して自分が快く思われていない事は灰崎自身がよく理解している。鳴海とは喧嘩が絶えなかったし、大城は内心では嫌っている事も、三浦や東雲、外園は自分を敬遠している事も。だが今は、自分が頼りにされている。

 

「…クソが、気持ち悪いんだよ」

 

そんな悪態を吐き、灰崎は最後の力を振り絞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

残り時間3分、誠凛と鳳舞は激しくぶつかり合った。

 

切り札を破られて尚も食らいつく鳳舞。チームが一丸となって誠凛にぶつかる。

 

誠凛有利、鳳舞はダークホース程度の予想でしかなかったが、それでも最後まで抗い、奮闘した。

 

 

『ビ―――――――――――!!!』

 

 

試合終了のブザーが鳴り響く。

 

 

試合終了

 

 

誠凛 87

鳳舞 74

 

 

両校の激闘が終わり、誠凛高校が、準決勝へと、駒を進めたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





まさかの4話…(;^ω^)

当初は2話くらいでさっさと終わらせるつもりだったのが、思い付く事を盛り込んだ結果、前の試合の海常対陽泉と同じ話数になってしまった。ま、でもいっか…(^_^)v

未だネタの貯蔵が充分ではない事と、来週から忙しくなる事で次の投稿がいつになるかは分かりませんが、出来る限り早く投稿出来るよう努めます…m(_ _)m

後、久しぶりに日間ランキング入り出来て嬉しかった…(´▽`*)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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