黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

日中は暑いですね…(>_<)

花粉症のせいで窓が開けられないので、扇風機を投入、しかし、朝は寒いので横にストーブが鎮座していると言う、奇妙な状況…(;^ω^)

それではどうぞ!



第195Q~見てきたもの~

 

 

 

「…っ!」

 

シュート体勢に入った灰崎に対し、火神がブロックに向かう。

 

 

――スッ…。

 

 

火神がシュートコースを塞ぐと、灰崎はボールを右手に持って下げ、下からリングに向かって放り投げた。

 

 

――バス!!!

 

 

投げられたボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

「ハッ!」

 

灰崎はニヤリを笑いながら右手の親指の腹を舐める。

 

 

「もらった!」

 

誠凛のオフェンス。新海がボールを運び、朝日奈にパス。朝日奈が意表を突き、スリーの体勢に入る。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!? 何処から!?」

 

僅かなフリーの瞬間を狙って打ったはずのスリー。

 

「んなもん、不意を突いた内に入らねえんだよ」

 

突如として現れた灰崎によってリリースと同時にボールを叩き落とされた。

 

「速攻!」

 

ルーズボールを拾った三浦が声を出し、そのままドリブルを始めた。

 

「くそっ、戻れ!」

 

慌ててディフェンスに戻りながら新海が声を出す。

 

「寄越せ!」

 

フロントコートまでボールを進めると、灰崎がボールを要求する。

 

「頼みます!」

 

迷う事無く三浦は灰崎にパスを出す。

 

「止める!」

 

「来いや!」

 

灰崎の前に、田仲と池永が立ち塞がる。

 

「雑魚が何人来ても同じなんだよ」

 

ゴール下まで切り込んだ灰崎がボールを掴んでリングに向かって飛ぶ。田仲と池永もブロックに飛ぶ。

 

「「っ!?」」

 

回転しながらジャンプする灰崎。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

「…がっ!」

 

2人のブロックを弾き飛ばしながら灰崎がボールをリングに叩きつけた。

 

「怪我したくなきゃ、ゴール下で俺がボール持ったら近寄らねえ事だ。どうせてめえら雑魚共じゃ何をしても無駄なんだからな」

 

「「…っ!」」

 

床に尻餅を付いた2人に対し、リングから手を放して着地した灰崎が見下ろしながら言い放った。

 

 

『おいおい、今のダンクとその前のブロック、まるで紫原だ!』

 

『その前のフォームレスシュートは青峰じゃねえか!?』

 

『最初のは緑間の超ロングスリーだったぜ!?』

 

『まさにキセキの世代! 黄瀬以外にキセキの世代の技を再現出来る奴がいるのかよ!?』

 

立て続けに披露されるキセキの世代の技を目の当たりにし、驚きを隠せない観客。

 

 

「(どうする…!)」

 

攻守が代わり、ボールを運ぶ新海。だが、その胸中は焦りで占めていた。

 

「(中に切り込んでもさっきのブロックが待ってる。なら、スリーを狙うか? だが、どうやってシュートチャンスを作る…!?)」

 

必死にゲームメイクに頭を働かせる新海。

 

「…」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「目の前の相手を無視して考え事か? 隙だらけだぜ」

 

新海がキープしていたボールに三浦が手を伸ばし、弾いた。

 

「速攻!」

 

零れたボールをすかさず確保した三浦が号令と共にドリブルを開始した。

 

「くそっ、何をやってるんだ俺は!?」

 

ボールを奪われる失態をし、自身を罵倒する新海。

 

「灰崎さん!」

 

フロントコートに駆け上がった所で三浦が灰崎にパスを出す。

 

「ハッ! もう一丁!」

 

ボールを受けた灰崎はそのままリングへと突き進む。

 

「こんの、舐めてんじゃねーぞ!」

 

そこへ、池永が後方から駆け寄り、距離を詰める。

 

「っ!? 池永、行くな!!!」

 

後ろから火神が池永に制止をかける。

 

「うおぉぉぉっ!!!」

 

だが、その制止も届く事はなく、灰崎がダンクに飛ぶのと同時に池永が背後からブロックに飛んだ。

 

 

「あーあ」

 

思わず嘆息する空。

 

 

――ドン!!!

 

 

池永の身体が灰崎に背中に接触する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹く。

 

「…ってぇな」

 

悪態を吐いた灰崎。同時にボールを背後へと回し、背中からスナップを利かせてボールをリングへと放る。

 

「っ!?」

 

リングへと向かって行くボールを目を見開いて茫然と見つめる池永。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そのボールは、無情にもリングを潜り抜けた。

 

『ディフェンス、プッシング、白11番(池永)! バスケットカウントワンスロー!』

 

 

『うわぁぁぁぁぁぁっ!!! 何だ今の!?』

 

頭を抱えながら歓声を上げる観客。

 

 

「…ワンスロー…」

 

みすみすボーナススローを与えてしまい、茫然とする池永。

 

「まるでキセキの世代そのものだ…!」

 

それ以外の形容詞が見つからず、思わず口にしてしまう朝日奈。

 

「…」

 

新海は、もはや言葉を発する事も出来なかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

灰崎は与えられたフリースローを決め、3点プレーを成功させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで第2Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第2Q終了

 

 

誠凛 45

鳳舞 44

 

 

怒涛の2分間が終わった。

 

『11点差あったのに、2分でワンゴール差まで詰めちまったよ』

 

『あの灰崎(6番)、まるで黄瀬涼太みたいにキセキの世代の技を真似してたよな?』

 

『誠凛が勝つと思ってたけど、これは万が一もあり得るぞ!?』

 

第2Q、終了2分前に灰崎が見せた衝撃に、観客もざわついていた。

 

試合の半分が終わり、これよりハーフタイム。誠凛、鳳舞の選手達は、ベンチから離れ、控室へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

鳳舞控室…。

 

「よしよし! 俺達やれてんぞ!」

 

1点差で折り返しを迎える事が出来た鳳舞。鳴海が開口一番喜びを露にする。

 

「この調子だ」

 

「ああ。頑張ろうぜ」

 

三浦と東雲が気合いを入れる。

 

「お疲れッス! あれ、いつの間に出来るようになったんですか?」

 

灰崎に駆け寄った外園が尋ねる。

 

「ああん? んなもん、やろうと思えば余裕なんだよ」

 

鼻を鳴らしながら灰崎が答える。

 

「ご苦労様、灰崎君。練習メニューをこなした成果が出てくれて僕も嬉しいよー」

 

ニコニコしながら織田が灰崎を労う。

 

「…関係ねえよ。ただの暇潰しだあんなん」

 

そっぽを向きながら灰崎が返す。

 

「とりあえず、あれは身体に負担がかかるから、後は試合終盤の勝負所まで取っておいてねー」

 

「…ふん」

 

「照れちゃってー。…じゃあ、後半戦の指示、出していくよー」

 

織田がそう言うと、選手達は織田に注目する。

 

「灰崎君が頑張ってくれたおかげで点差は1点。試合の流れは僕達に向いている」

 

『…』

 

「この流れはハーフタイムでは途切れないだろうから、僕達は、この流れに乗らせてもらうかな」

 

ニヤリと笑う織田。

 

「大城君、1度下がって休憩しようか。代わりに東雲君。行くよー」

 

「はい」

 

「分かりました!」

 

淡々と大城は頷き、大声で東雲は返事をする。

 

「ここからガンガン仕掛けていくよー。失点は気にしなくていいから、外園君は外から、鳴海君は中から、東雲君は積極的に外から中へ、三浦君は状況見てパスを支給してあげてね。たまに自分で仕掛ける事も忘れないように」

 

『はい!!!』

 

「灰崎君は臨機応変にお願いね。どう仕掛けるかは君に任せるから。…あー1つだけ、大城君いないから、リバウンド、手伝ってあげてね」

 

「…ちっ、面倒くせー。ま、そこの雑魚はあてにならねえからやってやるよ」

 

面倒くさそうに灰崎が答える。

 

「いちいち余計な嫌味言ってねえで黙って頷けよ!」

 

嫌味の交じった返事を聞き、鳴海がキレる。

 

「こんな所かな? 状況に合わせてテコ入れしていくから、第3Qからはこれで行くよー」

 

『はい!!!』

 

第3Q方針が決まり、選手達は大声で応えた。

 

「誠凛は、どう来ますかね?」

 

三浦が、尋ねる。

 

「灰崎さんの恐ろしさを目の当たりにしたんだから、ガンガン仕掛けてくるんじゃないか?」

 

隣に座っていた東雲が答える。

 

2分間で10点も詰めた灰崎。試合終盤に再度仕掛けてくる事は容易に予想は出来、それまでに逃げ切れるだけの点差を付けて来るのではと他の者も予想する。

 

「そうきてくれたらこっちは楽なんだけどねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

誠凛控室…。

 

『…』

 

鳳舞の控室とは対照的で、静まり返っていた。

 

「……ちっ」

 

飲料水を口にした池永が舌打ちをする。

 

「…まさか、灰崎さんがキセキの世代(先輩達)の技を使ってくるなんて…」

 

未だに動揺を隠しきれない新海。

 

「…だけど、黄瀬がキセキの世代のコピー出来る時間に限りはあった。だったら、灰崎だって限りはあるはずだ」

 

朝日奈が断言する。

 

「監督。灰崎さんがキセキの世代の技を後どれだけ使用出来るか分かりますか?」

 

田仲がリコに尋ねる。

 

「そうね。…ユニフォーム越しだから正確には測れなけど、第2Q終了直後の消耗具合から見て、後3分って所かしら?」

 

顎に手を当て、灰崎の様子を思い出しながらリコが割り出す。

 

「…っ、あれがこの先、後3分も襲ってくるわけか」

 

僅かに表情を引き攣らせる新海。

 

「だが、おいそれとは使ってこないはず。次に使って来るのは、第4Q終盤の勝負所だろう」

 

そう朝日奈は予測する。

 

「だったら、それまでに逆転不可能なまでに点差付けるしかねえだろ。2分で10点詰められたんだから、単純計算で15点以上。ここからはガンガン仕掛けて点取りに行って――」

 

「静まれ!」

 

『っ!?』

 

パン! と、力一杯手を叩く音共にリコの声が控室に響き渡る。

 

「全く、まだ逆転された訳でもないんだから、この程度の事でオタオタしないの。ついさっき火神君に言われたばかりでしょ」

 

動揺が抜け切れていない2年生達を一喝するリコ。

 

『…っ』

 

その言葉に、2年生達はバツが悪そうな表情をする。

 

「……ん? 悪い夜木、そこのドリンク取ってくれ」

 

「は、はい、どうぞ!」

 

持っていた水筒が空になり、夜木から新しいドリンクを手渡され、口にする。

 

「つーか、あんたは何でそんな平然としてられんだよ?」

 

ハーフタイム以前から今に至るまで、一切動揺が見られない火神に対し、怪訝そうに尋ねる池永。

 

「ゴクッ…ゴクッ…プハァ! …あん? 誠凛に来てからどれだけキセキの世代とやり合って来たと思ってんだ? 今更この程度の事で驚くかよ」

 

ゆっくり水分を摂ると、火神は淡々と返事をする。

 

「マジかよ。…何か対抗策でもあんのか?」

 

「さーな。ま、何とかなんだろ」

 

池永の懸念も、どこ吹く風とばかりに再び飲料水を口にする火神。

 

「なあ黒子。前の黄瀬みたいに、灰崎が何を使ってくるか予測したり、どうにか誘導したり出来ないか?」

 

2年前のウィンターカップ準決勝で黄瀬のパーフェクトコピーに対抗した事を思い出した降旗が黒子に尋ねる。

 

「…ちょっと難しいです。中学時代、黄瀬君とは、彼が1軍に上がってから卒業まで、それなりに一緒に過ごしていましたからある程度は彼の癖や傾向を掴めました。ですが、灰崎君とは、僕が1軍に昇格してから彼が2年の全中大会前に退部する僅か数ヶ月しか過ごしていない上に、彼は練習をサボりがちでしたし、出ても手を抜いていましたので、以前の黄瀬君のように予測や誘導するのは困難です」

 

黒子は申し訳なさそうに首を横に振った。

 

『…っ』

 

黒子の観察力に望みを賭けていた2年生達の表情が再び曇る。

 

「ハイハイ、下を向かないの。…それじゃ、第3Qからの指示を出していくわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「思わぬ展開になったものだな」

 

観客席で試合の再開を待つ、松永が思わず呟く。

 

「空坊が誠凛の立場やったら、ここからどうゲームを組み立てるつもりや?」

 

天野が空に尋ねる。

 

「あれだけ派手にやられたんだ。後半戦開始早々にすぐにでも反撃……って、行きたい所ですけど、あそこまでやられた後だと、何か上手く行かない気がするんで、とりあえず慎重にボールを運んで、しばらくは我慢ですかね」

 

胸の前で両腕を組みながら空が自分が誠凛の立場であった場合の想定を口にする。

 

「ほう? 空坊にしては意外な答えやな」

 

せっかちな性格で、速い展開を得意とし、好みとしている空からの意外な回答に感心する天野。

 

「俺を何だと思ってるんですか…。俺だっていい加減、勢いだけじゃどうにもならない事もあるって学びますよ。…おっ? 戻ってきた」

 

そうこうしているうちに、誠凛、鳳舞の両選手達がコートに戻ってきた。

 

「さて、どうテコ入れして来るか…」

 

両チームの動きに注目する空。

 

 

OUT 大城

 

IN  東雲

 

 

「鳳舞は大城さんを下げて、攻撃力の強化をしてきましたね」

 

鳳舞の選手交代を見て、その意図を察する大地。

 

「大城さんはインサイドに強く、リバウンドに強い、うちで言ったら天野先輩に近い選手。ですが、オフェンス力はゴール下なら別ですが、そこまでもありません」

 

「外から中へ仕掛けられる東雲を戻してオフェンスを強化。第2Q終盤で掴んだ流れに乗じてディフェンスを捨てて一気に攻勢に、って所か」

 

大地と空が交代した選手の特徴と、交代の意図を説明。

 

「注目なのは誠凛だ。ここでの出方次第じゃ、最悪の結果もあり得るからな」

 

誠凛の動くに注目する空。

 

『っ!?』

 

誠凛の選手達に注目していた花月の選手達が目を見開いて驚愕する。

 

 

OUT 新海 朝日奈 池永

 

IN  降旗 河原 福田

 

 

「これは…!」

 

「主力の2年生を下げて、3年生を投入してきた?」

 

大規模な選手交代に驚きを隠せない菅野と竜崎。

 

 

『おいおい、誠凛は何考えてんだよ!?』

 

『状況分かってんのか?』

 

『まさか、試合を諦めて3年生の思い出作りに出したのか?』

 

『いやいや、まだ逆転された訳でもないのにそれはありえねーだろ』

 

この選手交代は花月だけではなく、観客達にも物議を醸していた。

 

 

「(…ふむ。そう来ましたか)」

 

鳳舞ベンチにて、顎に手を当てながら織田がリコのいる誠凛ベンチに視線を向ける。

 

ペースダウンの意味を込めて、リスクヘッジに長けた降旗を投入してくる事は予想できた。しかし、主力の池永と朝日奈を下げ、河原と福田まで出してくる事は予想外であった。

 

「監督…」

 

「うん。どんな意図があるかは分からないけど、とりあえず、ハーフタイムで決めた通りに行って様子を見ようかなー」

 

大城の懸念を込めた言葉に、織田は作戦変更は無しで様子見を決めた。

 

「フフン♪」

 

誠凛ベンチのリコは、楽しそうに笑みを浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「これは…」

 

この交代劇に戸惑っているのはコート上の鳳舞の選手も同じであった。

 

「ま、こっちとしては、大城が下がってサイズダウンしてっから、むしろありがたい限りだろ」

 

インサイドを担う鳴海は、この交代をプラスに捉えていた。

 

「(鳴海さんの言う通りだ。これで高さの不利はなくなった。3年生とは言え、俺の相手は、新海に比べればそれほど脅威ではない)」

 

その鳴海の言葉に、三浦も戸惑いはなくなり、むしろ、マッチアップの負担が減った事に心理的に余裕が出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合再開、鳳舞ボールから始まる。

 

「…」

 

ボールを運ぶ三浦。

 

「…っ」

 

目の前に立つのは降旗。

 

誠凛のディフェンスはこれまで通りのマンツーマンディフェンス。降旗が三浦、河原が東雲、福田が外園、火神が灰崎、田仲が鳴海をマークしている。

 

「(…やっぱり、実際に対峙しても、そこまでの力は感じない。ここからはガンガン仕掛けて点を取りに行くのが俺達の方針。だったら!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「(俺も強気に仕掛ける!)」

 

「…あっ!?」

 

ドライブで切り込む三浦。降旗の横を抜ける。

 

「っ!?」

 

抜いたと同時にシュート体勢に入る三浦。これを見て田仲がヘルプに飛び出す。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

ヘルプに飛び出した田仲が両腕を上げると、三浦はボールを弾ませながら更に中へとパスを出す。

 

「ナイスパース!」

 

ボールはローポストの鳴海へ。田仲がヘルプに出てしまった事でフリーとなり、悠々とシュート体勢に入る。

 

「くっ!」

 

慌てて福田がブロックに向かうが…。

 

 

――バス!!!

 

 

間に合わず、鳴海の放ったシュートが決まる。

 

 

誠凛 45

鳳舞 46

 

 

「っしゃぁっ!!!」

 

拳を握って喜ぶ鳴海。第3Q開始早々、鳳舞が逆転する。

 

「ご、ごめん!」

 

失点の原因を作ってしまった降旗が謝る。

 

直後の誠凛のオフェンス。

 

 

――ガン!!!

 

 

「っ!?」

 

火神が灰崎をかわし、フェイダウェイで放ったシュートがリングに嫌われる。

 

「よっしゃ!」

 

外れたボールはゴール下でポジション取りをしていた田仲から離れた所に飛んでいき、そこを鳴海が抑えた。

 

 

「外した火神さんと言い、今のリバウンドと言い、やっぱり流れは鳳舞に来てるな」

 

一連のプレーを見て、試合の流れが鳳舞にある事を確信する空。

 

 

鳳舞のオフェンス。フロントコートまでボールを運んだ三浦が東雲にパスを出す。

 

「…っ」

 

立ち塞がるのは福田。

 

「…悪いけど」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「あんたじゃ俺は止められない!」

 

「っ!?」

 

一気に加速し、仕掛けた東雲。福田の横を高速で駆け抜ける。

 

「くそっ!」

 

グングンリングへと近付く東雲を見てたまらず河原がヘルプに向かう。

 

「河原、行くな!」

 

火神が制止を促す。

 

「あっ!?」

 

思わず声を上げる河原。河原が東雲のヘルプに来たのと同時に東雲はパス。ボールは…。

 

「よっしゃ!」

 

外の外園。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーの外園はスリーを放ち、決めた。

 

 

誠凛 45

鳳舞 49

 

 

「来た来た!!!」

 

この試合、始めての当たりが来て喜ぶ外園。

 

 

『連続得点! 流れは完全に鳳舞だ!』

 

『おいおい、これはマジで番狂わせもあり得るぜ!?』

 

『つうか、誠凛は大丈夫なのか? 新しく入ってきた奴、全然機能してねえじゃん!』

 

『さっさとスタメンに戻した方がいいんじゃねえか!?』

 

第3Q開始早々、連続得点を決めた鳳舞に沸き上がる観客。同時に、コートに入った3人への心無い言葉も放たれる。

 

「「「…っ」」」

 

この言葉に、3人の表情が曇る。

 

全国の舞台で試合をするのはこれで初めてではない。1年時にも出番はあったし、今年も夏と冬にも、スタメン選手達の後を継いで試合にも出た。しかし、1年時は一時的に役割を果たす為だけの起用であったし、今年も、点差が付いて主力を休ませる為の起用だったので、プレッシャーは少なかった。しかし、今回の起用は、劣勢の場面での起用でしかも、終盤の勝負所に向けて、重要な役割を担っての起用。プレッシャーは今までの比ではない。

 

 

――パチン!!!

 

 

「「「っ!?」」」

 

そんな様子を見かねてか、火神が3人の背中を叩く。

 

「ビビる必要なんかねえよ。お前らだって今日まで頑張ってきたんだ。それをぶつけてやれ」

 

「「「火神…」」」

 

「木吉先輩を思い出せ。木吉先輩ならこんな時、こういうはずだぜ。『楽しんで行こうぜ』ってな」

 

そう言って、ニカっと笑みを浮かべ、拳を突き出す火神。

 

「「「火神…!」」」

 

その言葉にプレッシャーが薄まり、身体が軽くなった3人は、出された拳に自身の拳を突き合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「監督さんよー。ホントに大丈夫なのか?」

 

ベンチで不貞腐れながら座る池永がリコに尋ねる。

 

「観客の言う事ももっともだぜ。これ以上、離される前に俺らが戻った方がいいんじゃねえの?」

 

「…」

 

「聞いてんのか監督さんよー!」

 

「…あーもう! ぶつくさうるさいわね!」

 

1度は聞き流したリコだったが、しつこい池永に怒鳴った。

 

「まだ試合再開したばかりでしょ。黙って見ていなさい!」

 

「……だけどよー」

 

「私は伊達や酔狂で彼らを出した訳じゃないわ。今の展開に彼らが打ってつけだったから試合に出したのよ」

 

『…』

 

この言葉に池永だけではなく、新海と朝日奈も耳を傾ける。

 

「あなた達…と言うか、特に池永君はあの3人を軽視してるようだけど、よーく見ておきなさい。あの3人は、入部してから今日までうちで頑張ってきた選手なんだから」

 

交代を志願する池永の言葉を退けるリコ。

 

「心配せずに見守ってあげて下さい。彼らの頑張りは、僕が保証しますから」

 

「黒子先輩…」

 

黒子のフォローに、池永は一応の納得をし、試合に注目したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

ゆっくりとボールを運ぶ降旗。

 

「(…よし、行くぞ!)」

 

降旗がボールをキープしながら各選手達にアイコンタクトを取る。

 

『(…コクッ!)』

 

そのアイコンタクトを受け取った選手達は頷き、動く。

 

「河原!」

 

右側45度付近に移動した河原にパスを出す。同時に降旗は右コーナーに向かって走る。

 

「(っ!? 何をする気だ!?)」

 

この行動に三浦は戸惑う。空いてるスペースや逆サイドに向かうならまだしも、わざわざボールのあるサイドのコーナーに向かう理由が分からなかったからだ。

 

「…よし!」

 

45度付近でボールを受けた河原。

 

「へい!」

 

「頼む!」

 

ローポストにポジションを取った福田がボールを要求し、そこへすかさずパスを出す。

 

「やらせないよ!」

 

その背中に、外園が張り付くようにディフェンスに入る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを受けた福田は背中に外園を背負いながらドリブルを始める。

 

「「…っ」」

 

その動きに呼応した降旗が逆サイドのコーナーへと走っていき、同様に河原もインサイドへ切れるように移動する。

 

「…えっ!?」

 

左右から移動していく2人に戸惑いを覚える外園。

 

「(今だ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

移動した2人に気を取られた事を背中越しに察した福田がターンで外園の背後に抜ける。

 

「あっ!?」

 

思わず声を上げた外園だったがその時に既に遅く…。

 

 

――バス!!!

 

 

福田はゴール下から得点を決めた。

 

 

誠凛 47

鳳舞 49

 

 

「やった!」

 

得点を福田は拳を握って喜びを露にする。

 

「くそっ…」

 

「ドンマイ、気にすんな! 取られたら取り返せば良いんだよ!」

 

悔しがる外園に発破をかける鳴海。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

オフェンスが代わり、三浦が仕掛ける。

 

「(…今度は抜けないか…!)」

 

しかし、降旗はしっかりとディフェンスをし、三浦を抜かせなかった。

 

「(確かに上手いけど、前に戦った海常の笠松さん、それこそ、赤司に比べれば…!)」

 

試合出場経験は少なくとも、実力の相手とのマッチアップ経験は豊富な降旗。火神の言葉と先程の得点で固さが取れ、プレッシャーもなくなった降旗が過去の経験を生かしてディフェンスに尽力する。

 

「スマン、頼む!」

 

仕方なく三浦は外に展開していた東雲にパスを出す。

 

「(こいつには外はない。距離を取って守るんだ!)」

 

スピードがあり、ドライブが得意な東雲に対し、距離を取って守る河原。

 

「…っ」

 

露骨に距離を取られ、得意のドライブを出せない東雲。打とうと思えばスリーを打てるが、確率が低い為、躊躇する。

 

「こっちこっち!」

 

攻めあぐねている東雲を見て、逆サイドの外園がボールを要求。

 

「外園!」

 

無理に打たず、東雲は外園にパスを出した。

 

「…うわ!」

 

ボールを受けた外園だったが…。

 

「(こいつは生粋のシューターだ。スリーを打たせないようにとにかくべったり張り付くんだ!)」

 

外園の懐に入り込むかのようにべったりフェイスガードでディフェンスをする福田。

 

「…っ!」

 

べったり張り付かれ、膝を曲げる事も困難な為、スリーを打つ事も出来ず、やり辛そうにする外園。

 

「(鳴海さん!)」

 

仕方なくローポストの鳴海へとパスを出す外園。

 

「(甘いぜ!)」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

しかし、そのパスは火神によってカットされる。

 

「ナイス火神!」

 

「おう! フリ、頼む!」

 

ボールを奪った火神は降旗にボールを託す。

 

「…」

 

ボールを受けた降旗は速攻に走らず、これまで通り、ゆっくりボールを運ぶ。

 

 

――ピッ!

 

 

先程同様、降旗は45度付近に移動した河原にパスを出し、コーナーへと走る。

 

「同じ手は喰わん!」

 

東雲は、ボールを受けた河原のチェックに敢えて向かわず、福田の前方に立ち、ディナイの動きでパスコースを塞ぐ。

 

「…」

 

福田へのパスコースを塞がれた河原は、ボールをコーナーへと移動した降旗にパスを出す。パスを出した河原は逆サイドのコーナーへと切れて行く。

 

 

「これは…」

 

この動きに、観客席の大地が何かに気付く。

 

 

「…っし」

 

コーナーでボールを受けた降旗。その降旗を追いかけた三浦がディフェンスに入る。

 

 

――スッ…。

 

 

その三浦に対し、福田がスクリーンをかける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

これを見て、降旗が膨らむような軌道で中へと切り込む。

 

「…っ」

 

三浦は福田のスクリーンに捕まる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーとなった降旗がジャンプショットを決めた。

 

 

誠凛 49

鳳舞 49

 

 

「やった…!」

 

「いいぞフリ!」

 

喜ぶ降旗の背中を叩き火神。

 

 

『おぉっ! 連続得点!』

 

『何かよく分からない動きで得点決めたぞ!』

 

福田、降旗の得点を見て、先程の言葉とは一転、称賛の言葉がチラホラ観客席から出だす。

 

「調子が出て来たなあの3人。…にしてもあの動き…」

 

3人の動きに注目する菅野。

 

「…なるほど、トライアングルオフェンスか」

 

その動きの正体に気付いた上杉がポツリと呟く。

 

「…っ、そうか! 何処かで見たと思ったけど、それか!」

 

誠凛の動きに引っ掛かりを覚えた空だったが、上杉の言葉で解消された。

 

「トライアングルオフェンスって、何ですか?」

 

「簡単に言えば、選手間でトライアングル、三角形になるようにポジション取りをし、そこから状況を見ながらパスを捌いて得点を決めるオフェンス戦術だ。チーム全体で点を取りに行くこのオフェンスは、守る側からすれば的を絞り辛く、火神と言う、絶対的なスコアラーがいる誠凛には効果的なオフェンス戦術だ」

 

帆足の質問に、上杉が簡潔に答える。

 

「なんか凄そうですね。…けど、動きは複雑そうですし、やるとなると難しそうですね」

 

「ある程度、動きはパターン化しているとはいえ、実戦で使うとなると、確かに難しい。だが、効果は絶大だ。何せ、この戦術が使われ出してから約20年間、NBAにおいて、チームは違えど、11回、このオフェンス戦術を取り入れたチームが優勝しているからな」

 

「まさか、こんな隠し玉があるとはな。…誠凛もやっぱおもしれ―な」

 

ワクワクしながら空が試合を眺め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(くそっ、的を絞れない!)」

 

誠凛が第3Qから使い始めたトライアングルオフェンス。これに対応しきれず、焦りを覚える三浦。

 

「(灰崎さん以外のマッチアップは俺達の方に分があるはずなのに、リードを伸ばせない!)」

 

個々の実力は現状、鳳舞に分がある。にもかかわらず、誠凛に食いつかれている今の現状に戸惑いを隠せない東雲。

 

「(ちっくしょう、何でだよ! 相手は補欠だぞ!? 少しでもリードを広げてー所なのによ!)」

 

苛立ちを隠せない鳴海。

 

「(確かに俺達は大した事はない。スタメンだって、2年生達に明け渡した)」

 

「(黒子のように、一芸に秀でている訳でもない。俺達は、他の奴等みたいに何も持っていない)」

 

「(だけど、死に物狂いで練習して、死に物狂いで試合に臨む先輩達や火神や黒子の姿をこの目で焼き付けてきた!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

――例え、才能で負けていても、見て来たものは大きさでは負けない!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

第3Q終了のブザーが鳴る。

 

 

第3Q終了

 

 

誠凛 62

鳳舞 64

 

 

『…っ』

 

2点リードで第3Qを終えた鳳舞だったが、その表情は暗い。

 

第2Q終了目前に流れを掴んだ鳳舞。その勢いを利用して、出来る限りリードを広げておきたかった。しかし、リード出来たのはたったの2点。セーフティには程遠い点差。

 

「やったな!」

 

「ああ!」

 

「上手く行って良かった!」

 

ハイタッチを交わし合う降旗、河原、福田の3人。

 

対照的に、誠凛の選手達の表情は明るい。流れを奪われた状況で2点差で第3Qを終えられたのは上出来と言えるからだ。

 

 

「どうなる事かと思いきや、蓋を開けてみれば、2点ビハインドか」

 

多少の懸念を覚えた空だったが、結果を見て胸を撫で下ろす空。

 

「さすがは誠凛で鍛えられた選手達や。控え言うてもどいつも曲者揃いやな」

 

天野も同様であった。

 

「試合の展開を見る限り、流れは誠凛がある程度、取り戻したと見て良いよな?」

 

「はい。そう見て差し支えないと思います」

 

菅野の問いに、竜崎が断言する。

 

「試合は後10分。残りの心配事は灰崎が使って来るキセキの世代の技だな」

 

残った誠凛にとっての懸念を口にする菅野。第2Q終了目前に灰崎が突如として使用したキセキの世代の技。これによって誠凛は一気に10点も点差を詰められた。この脅威は、後3分程続く事が予想出来る。

 

「大地」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――この試合、勝負あったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





メチャメチャ長くなった…(>_<)

本来ならこの試合、2話くらいで済ますつもりだったのですが、思い付いた事をひたすらぶち込んだ結果、まさかの4話目に突入orz

途中、灰崎が大人し過ぎ、と思った方もおられるかと思いますが、描写がないだけでそれなりに活躍してるのと、マークしているのは火神なので…(;^ω^)

戦術に関しては、素人が動画と解説を聞いて描写したので、分かりにくかったら申し訳ありません…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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